(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の要旨]
本発明の実施形態の要旨としては、少なくとも以下のものが含まれる。
【0011】
(1)これは、周波数fの交流電源と、抵抗値Rの負荷との間に設けられる、分布定数型の変圧装置であって、周波数fにおける波長をλとして、前記交流電源に接続される、長さλ/4の第1変換器と、前記第1変換器の終端と前記負荷との間に設けられる、長さλ/4の第2変換器と、を備えているものである。
【0012】
上記のような変圧装置では、第1変換器のインピーダンスをZ
c1、第2変換器のインピーダンスをZ
c2とすると、入力インピーダンスZ
inは、
Z
in=(Z
c12/Z
c22)・R=k・R
となる。ここで、kは定数となる。入力インピーダンスZ
inは、負荷の抵抗値Rに比例し、これにより、負荷の抵抗値に関わらず、入力電圧に比例した出力電圧が得られる。すなわち、一定の変圧比(1/k)
1/2で入力電圧を出力電圧に変換する変圧装置が得られる。この変圧装置は、分布定数回路を2段階に接続したものである。従って、従来の変圧器のような巻線や鉄心等を必要としない画期的な形態となり、変圧器の軽量化及び、それに伴う低コスト化を実現することができる。さらに、高周波トランスで課題となる寄生容量、漏れ磁界発生の問題も解消され、低損失な変圧器を実現できる。
【0013】
(2)また、変圧装置は、スイッチングを行う回路と、当該回路内に介挿された(1)の変圧装置とを含むものであってもよい。
この場合、高周波でスイッチングを行っている環境を利用して分布定数型の変圧装置を活用することができる。
【0014】
(3)また、(1)の変圧装置において、前記第1変換器及び前記第2変換器は、ケーブルによって構成することが可能である。
この場合、ケーブルの特性インピーダンスを、第1変換器及び第2変換器のそれぞれのインピーダンスとすることができる。
【0015】
(4)また、(3)の変圧装置において、前記ケーブルは、配電線の電力ケーブルと一体化するようにしてもよい。
この場合、電力ケーブルを変圧装置として利用することができる。
【0016】
(5)また、(3)又は(4)の変圧装置において、前記交流電源の周波数は、少なくとも1MHzであることが望ましい。
この場合、例えば周波数が10MHzであればλ/4が数mとなり、ケーブルでの実現が現実的に容易になる。また、1MHzであればλ/4が数十mとなるが、配電線の電力ケーブルと一体化すれば実現が可能である。
【0017】
[実施形態の詳細]
<分布定数回路による変圧装置>
次に、本発明の一実施形態に係る分布定数回路による変圧装置について説明する。
【0018】
《基本構成》
図1は、分布定数回路による変圧装置100を示す接続図である。図において、変圧装置100を構成するのは、第1変換器101と,その終端に接続された第2変換器102である。第1変換器101及び第2変換器102としては、例えばシース付きの単心ケーブル(CV)を用いることができる。前段の第1変換器101は、入力される電源の周波数fに対してλ/4の長さを有する(λは波長)。また、第1変換器101の終端に接続される後段の第2変換器102も、入力される電源の周波数fに対してλ/4の長さを有する。
【0019】
ここで、第1変換器101及び第2変換器102のそれぞれの特性インピーダンスをZ
c1及びZ
c2、第1変換器101の入力端から見た入力インピーダンスをZ
in、第2変換器102の入力端から見た入力インピーダンスをZ
in’とすると、
Z
in=Z
c12/Z
in’、Z
in’=Z
c22/Rであるから、
Z
in=Z
c12/(Z
c22/R)
=(Z
c12/Z
c22)R
となる。(Z
c12/Z
c22)は定数であるから、これを定数kと置くと、
Z
in=k・R
となる。
【0020】
また、変圧装置100全体としての、入力電圧をV
in、入力電力をP
in、出力電力をP
out、出力電圧をV
outとすると、P
in=V
in2/Z
in、P
out=V
out2/Rである。ここで、P
in=P
outであるから、以下の関係が得られる。
V
in2/Z
in=V
out2/R
となる。これを変形すると、
(V
out2/V
in2)=R/Z
in=k
となる。従って、
(V
out/V
in)=k
1/2
となり、一定の変圧比k
1/2が得られる。
【0021】
このように、入力インピーダンスZ
inは負荷の抵抗値Rに比例し、負荷変動に対して変圧比が一定となる。言い換えれば、負荷の抵抗値に関わらず、入力電圧に比例した出力電圧が得られる。すなわち、一定の変圧比(1/k)
1/2=Z
c2/Z
c1で、入力電圧を出力電圧に変換する変圧装置100が得られる。また、変圧比は、Z
c2/Z
c1の値の選択により自由に設計可能である。
この変圧装置は、分布定数回路を2段階に接続したものである。従って、従来の変圧器のような巻線や鉄心等を必要としない画期的な形態となり、変圧器の軽量化及び、それに伴う低コスト化を実現することができる。さらに、高周波トランスで課題となる寄生容量、漏れ磁界発生の問題も解消され、低損失な変圧器を実現できる。
【0022】
上記の変圧装置100は、商用周波レベルの低周波でも理論的には可能であるが、現実的には、λ/4が非常に長くなるので、不向きである。しかし、1MHzではλ/4が数十mとなり、配電線の電力ケーブルと一体化すれば実現が可能である。さらに10MHzでは、λ/4が数mとなるので、ケーブルでの実現が現実的に容易になる。
【0023】
上述の、分布定数回路による変圧装置100は、他の構成による変圧装置と組み合わせて使用することも可能である。例えば、他の構成による変圧装置としては、以下のものがある。
【0024】
<リアクタンス素子を用いたスイッチングによる変圧装置>
図2は、かかる変圧装置1の一例を示す回路図である。図において、変圧装置1は、交流電源2と、負荷Rとの間に設けられている。変圧装置1は、一対のキャパシタC1,C2と、一対のインダクタL1,L2と、4つのスイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2と、これらのスイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2のオン/オフを制御するスイッチング制御部3とを備えている。スイッチング制御部3のスイッチング周波数は、例えば1MHz程度である。なお、スイッチング周波数は1MHz以上が好ましいが、1MHz未満でも可能である。
【0025】
スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2及びスイッチング制御部3により、変圧装置1の回路接続の状態を切り替えるスイッチ装置4が構成されている。スイッチS
r1,S
r2は互いに同期して動作し、また、スイッチS
b1,S
b2は互いに同期して動作する。そして、スイッチS
r1,S
r2のペアと、スイッチS
b1,S
b2のペアとは、排他的に交互にオンとなるよう動作する。スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2は、例えば、SiC素子又はGaN素子からなる半導体スイッチング素子である。SiC素子又はGaN素子は、例えばSi素子に比べて、より高速なスイッチングが可能である。また、素子を多段に接続しなくても、充分な耐圧(例えば6kV/1個も可能)が得られる。
【0026】
図2において、一対のキャパシタC1,C2は、接続点P1において互いに直列に接続されている。そして、その直列体の両端に、交流電源2が接続されている。一対のキャパシタC1,C2の直列体には入力電圧V
inが印加され、入力電流I
inが流れる。
また、一対のインダクタL1,L2は、接続点P2において互いに直列に接続されている。そして、その直列体の両端に、キャパシタC1,C2を介した入力電圧V
mが印加され、入力電流I
mが流れる。負荷Rには、スイッチS
r2,S
b2のいずれかがオンのとき電流が流れる。ここで、負荷Rに印加される電圧をV
out、変圧装置1から負荷Rに流れる出力電流をI
outとする。
【0027】
図3の(a)は、
図2における4つのスイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2のうち、上側にある2つのスイッチS
r1,S
r2がオンで、下側にある2つのスイッチS
b1,S
b2がオフであるときの、実体接続の状態を示す回路図である。なお、
図2におけるスイッチ装置4の図示は省略している。また、
図3の(b)は、(a)と同じ回路図を、階段状に書き換えた回路図である。
一方、
図4の(a)は、
図2における4つのスイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2のうち、下側にある2つのスイッチS
b1,S
b2がオンで、上側にある2つのスイッチS
r1,S
r2がオフであるときの、実体接続の状態を示す回路図である。また、
図4の(b)は、(a)と同じ回路図を、階段状に書き換えた回路図である。
【0028】
図3,
図4の状態を交互に繰り返すことにより、キャパシタC1,C2の直列体の接続点P1を介して取り出される電圧は、さらに、インダクタL1,L2の直列体の接続点P2を介して取り出される電圧となる。すなわち、キャパシタ側を前段とし、インダクタ側を後段とする変圧が行われる。ここで、入力電圧は1/4となって出力されるのではないかと推定される。そして、このことは、発明者らの実験によって確認されている。
【0029】
図5は、上が、変圧装置1に対する入力電圧、下が、入力電流をそれぞれ表す波形図である。
図6は、変圧の中間段階での電圧V
m、電流I
mをそれぞれ表す波形図である。これは実際には、スイッチングによるパルス列によって構成され、全体として図示のような波形となる。
また、
図7は、上が、変圧装置1からの出力電圧、下が、出力電流をそれぞれ表す波形図である。
図5,
図7の対比により明らかなように、電圧は1/4に変圧され、それに伴って、電流は4倍となる。
【0030】
<組み合わせの例示>
図8は、分布定数回路による変圧装置100と、
図2に示した変圧装置1とを、組み合わせた回路図である。図において、
図2に示した変圧装置1におけるキャパシタ段と、インダクタ段との間に、変圧装置100が介挿されている。このようにして、2種類の変圧装置1,100の変圧機能を組み合わせることにより、変圧比の広範囲な設計が可能となる。
【0031】
この場合、変圧装置1は、前述のように例えば1MHzでスイッチングを行う回路である。このような回路内に変圧装置100を介挿することで、例えば1MHzの高周波でスイッチングを行っている環境を利用して分布定数型の変圧装置100を活用することができる。
また、交流電源2が仮に直流電源に置き換わったとしても、変圧装置100には、変圧装置1の前段のスイッチングによるスイッチング波形が入力されるので、使用可能である。
【0032】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。