特許第5727561号(P5727561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727561
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】変圧装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 5/293 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
   H02M5/293 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-178522(P2013-178522)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-50777(P2015-50777A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2014年12月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中幡 英章
(72)【発明者】
【氏名】志賀 信夫
(72)【発明者】
【氏名】弘津 研一
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭平
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−278951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 5/293
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数fの交流電源と、抵抗値Rの負荷との間に設けられる、分布定数型の変圧装置であって、周波数fにおける波長をλとして、
分布定数回路を2段に接続して成り、
前記交流電源に接続され、第1段の分布定数回路を成すものであって、特性インピーダンスがZC1であり、芯線を一方の電路とし、その周りにあるシースを他方の電路とする長さλ/4の第1の単心ケーブルで構成される第1変換器と、
前記第1変換器の終端と前記負荷との間に設けられ、第2段の分布定数回路を成すものであって、特性インピーダンスがZC2であり、芯線を一方の電路とし、その周りにあるシースを他方の電路とする長さλ/4の第2の単心ケーブルで構成される第2変換器と、
を備え、
前記第1変換器の各電路と前記第2変換器の各電路とをそれぞれ互いに繋ぎ、芯線側の電路とシース側の電路との相互絶縁を確保した接続部分が存在し、
記第1変換器の入力端から見た入力インピーダンスZinが、Zin=(ZC1/ZC2)・Rである変圧装置。
【請求項2】
スイッチングを行う回路と、当該回路内に介挿された請求項1に記載の変圧装置とを含む変圧装置。
【請求項3】
前記交流電源の周波数は、少なくとも1MHzである請求項1又は請求項2に記載の変圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用交流の送配電系統には、変圧器が用いられる。需要家の直近では、例えば6600V(50Hz又は60Hz)を、200Vに変圧する柱上トランスが用いられる(非特許文献1参照。)。このような柱上トランスは、導線となる太いコイルが鉄心に巻回されており、相応の重量がある。また、さらに絶縁油やケースを含めると、例えば直径40cm、高さ80cmのタイプでは200kg程度の重量がある。
【0003】
一方、次世代の電力システムであるスマートグリッドの実現に向け、SST(Solid-State Transformer)の研究が行われている。SSTには、高周波トランスが用いられる(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】中部電力ホームページ、「柱上変圧器」、[online]、[平成25年7月19日検索]、インターネット<URL:http://www.chuden.co.jp/e-museum/guide/3floor/exhibit_c23.html>
【非特許文献2】Falcones, S.: et al., Power and Energy Society General Meeting, 2010 IEEE, pp. 1-8, Minneapolis, July 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の柱上トランスは重く、従って、取り扱いが容易ではない。また、その外形寸法を収めるに足る大きな取付スペースが、柱上に必要である。
一方、高周波トランスは、寄生容量の影響が回避できず、設計上の困難性がある。
【0006】
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、小型軽量で、従来のトランスのような磁気結合や電磁誘導、相互インダクタンス用のコイルや鉄心等を必要としない画期的な次世代の変圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、周波数fの交流電源と、抵抗値Rの負荷との間に設けられる、分布定数型の変圧装置であって、周波数fにおける波長をλとして、分布定数回路を2段に接続して成り、前記交流電源に接続され、第1段の分布定数回路を成すものであって、特性インピーダンスがZC1であり、芯線を一方の電路とし、その周りにあるシースを他方の電路とする長さλ/4の第1の単心ケーブルで構成される第1変換器と、前記第1変換器の終端と前記負荷との間に設けられ、第2段の分布定数回路を成すものであって、特性インピーダンスがZC2であり、芯線を一方の電路とし、その周りにあるシースを他方の電路とする長さλ/4の第2の単心ケーブルで構成される第2変換器と、を備え、前記第1変換器の各電路と前記第2変換器の各電路とをそれぞれ互いに繋ぎ、芯線側の電路とシース側の電路との相互絶縁を確保した接続部分が存在し、前記第1変換器の入力端から見た入力インピーダンスZinが、Zin=(ZC1/ZC2)・Rである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の変圧装置を電力用の変圧器として用いることにより、コイルや鉄心等を含む従来のトランスは不要となる。従って、変圧器の飛躍的な小型軽量化及び、それに伴う低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】分布定数回路による変圧装置を示す接続図である。
図2】他の構成による変圧装置を示す回路図である。
図3】(a)は、図2における4つのスイッチのうち、上側にある2つのスイッチがオンで、下側にある2つのスイッチがオフであるときの、実体接続の状態を示す回路図である。(b)は、(a)と同じ回路図を、階段状に書き換えた回路図である。
図4】(a)は、図2における4つのスイッチのうち、下側にある2つのスイッチがオンで、上側にある2つのスイッチがオフであるときの、実体接続の状態を示す回路図である。また、(b)は、(a)と同じ回路図を、階段状に書き換えた回路図である。
図5図2の変圧装置に対する入力電圧及び入力電流をそれぞれ表す波形図である。
図6図2の変圧装置における、変圧の中間段階での電圧及び電流をそれぞれ表す波形図である。
図7図2の変圧装置からの出力電圧及び出力電流をそれぞれ表す波形図である。
図8図1に示した変圧装置と、図2の変圧装置とを、組み合わせた回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の要旨]
本発明の実施形態の要旨としては、少なくとも以下のものが含まれる。
【0011】
(1)これは、周波数fの交流電源と、抵抗値Rの負荷との間に設けられる、分布定数型の変圧装置であって、周波数fにおける波長をλとして、前記交流電源に接続される、長さλ/4の第1変換器と、前記第1変換器の終端と前記負荷との間に設けられる、長さλ/4の第2変換器と、を備えているものである。
【0012】
上記のような変圧装置では、第1変換器のインピーダンスをZc1、第2変換器のインピーダンスをZc2とすると、入力インピーダンスZinは、
in=(Zc1/Zc2)・R=k・R
となる。ここで、kは定数となる。入力インピーダンスZinは、負荷の抵抗値Rに比例し、これにより、負荷の抵抗値に関わらず、入力電圧に比例した出力電圧が得られる。すなわち、一定の変圧比(1/k)1/2で入力電圧を出力電圧に変換する変圧装置が得られる。この変圧装置は、分布定数回路を2段階に接続したものである。従って、従来の変圧器のような巻線や鉄心等を必要としない画期的な形態となり、変圧器の軽量化及び、それに伴う低コスト化を実現することができる。さらに、高周波トランスで課題となる寄生容量、漏れ磁界発生の問題も解消され、低損失な変圧器を実現できる。
【0013】
(2)また、変圧装置は、スイッチングを行う回路と、当該回路内に介挿された(1)の変圧装置とを含むものであってもよい。
この場合、高周波でスイッチングを行っている環境を利用して分布定数型の変圧装置を活用することができる。
【0014】
(3)また、(1)の変圧装置において、前記第1変換器及び前記第2変換器は、ケーブルによって構成することが可能である。
この場合、ケーブルの特性インピーダンスを、第1変換器及び第2変換器のそれぞれのインピーダンスとすることができる。
【0015】
(4)また、(3)の変圧装置において、前記ケーブルは、配電線の電力ケーブルと一体化するようにしてもよい。
この場合、電力ケーブルを変圧装置として利用することができる。
【0016】
(5)また、(3)又は(4)の変圧装置において、前記交流電源の周波数は、少なくとも1MHzであることが望ましい。
この場合、例えば周波数が10MHzであればλ/4が数mとなり、ケーブルでの実現が現実的に容易になる。また、1MHzであればλ/4が数十mとなるが、配電線の電力ケーブルと一体化すれば実現が可能である。
【0017】
[実施形態の詳細]
<分布定数回路による変圧装置>
次に、本発明の一実施形態に係る分布定数回路による変圧装置について説明する。
【0018】
《基本構成》
図1は、分布定数回路による変圧装置100を示す接続図である。図において、変圧装置100を構成するのは、第1変換器101と,その終端に接続された第2変換器102である。第1変換器101及び第2変換器102としては、例えばシース付きの単心ケーブル(CV)を用いることができる。前段の第1変換器101は、入力される電源の周波数fに対してλ/4の長さを有する(λは波長)。また、第1変換器101の終端に接続される後段の第2変換器102も、入力される電源の周波数fに対してλ/4の長さを有する。
【0019】
ここで、第1変換器101及び第2変換器102のそれぞれの特性インピーダンスをZc1及びZc2、第1変換器101の入力端から見た入力インピーダンスをZin、第2変換器102の入力端から見た入力インピーダンスをZin’とすると、
in=Zc1/Zin’、Zin’=Zc2/Rであるから、
in=Zc1/(Zc2/R)
=(Zc1/Zc2)R
となる。(Zc1/Zc2)は定数であるから、これを定数kと置くと、
in=k・R
となる。
【0020】
また、変圧装置100全体としての、入力電圧をVin、入力電力をPin、出力電力をPout、出力電圧をVoutとすると、Pin=Vin/Zin、Pout=Vout/Rである。ここで、Pin=Poutであるから、以下の関係が得られる。
in/Zin=Vout/R
となる。これを変形すると、
(Vout/Vin)=R/Zin=k
となる。従って、
(Vout/Vin)=k1/2
となり、一定の変圧比k1/2が得られる。
【0021】
このように、入力インピーダンスZinは負荷の抵抗値Rに比例し、負荷変動に対して変圧比が一定となる。言い換えれば、負荷の抵抗値に関わらず、入力電圧に比例した出力電圧が得られる。すなわち、一定の変圧比(1/k)1/2=Zc2/Zc1で、入力電圧を出力電圧に変換する変圧装置100が得られる。また、変圧比は、Zc2/Zc1の値の選択により自由に設計可能である。
この変圧装置は、分布定数回路を2段階に接続したものである。従って、従来の変圧器のような巻線や鉄心等を必要としない画期的な形態となり、変圧器の軽量化及び、それに伴う低コスト化を実現することができる。さらに、高周波トランスで課題となる寄生容量、漏れ磁界発生の問題も解消され、低損失な変圧器を実現できる。
【0022】
上記の変圧装置100は、商用周波レベルの低周波でも理論的には可能であるが、現実的には、λ/4が非常に長くなるので、不向きである。しかし、1MHzではλ/4が数十mとなり、配電線の電力ケーブルと一体化すれば実現が可能である。さらに10MHzでは、λ/4が数mとなるので、ケーブルでの実現が現実的に容易になる。
【0023】
上述の、分布定数回路による変圧装置100は、他の構成による変圧装置と組み合わせて使用することも可能である。例えば、他の構成による変圧装置としては、以下のものがある。
【0024】
<リアクタンス素子を用いたスイッチングによる変圧装置>
図2は、かかる変圧装置1の一例を示す回路図である。図において、変圧装置1は、交流電源2と、負荷Rとの間に設けられている。変圧装置1は、一対のキャパシタC1,C2と、一対のインダクタL1,L2と、4つのスイッチSr1,Sr2,Sb1,Sb2と、これらのスイッチSr1,Sr2,Sb1,Sb2のオン/オフを制御するスイッチング制御部3とを備えている。スイッチング制御部3のスイッチング周波数は、例えば1MHz程度である。なお、スイッチング周波数は1MHz以上が好ましいが、1MHz未満でも可能である。
【0025】
スイッチSr1,Sr2,Sb1,Sb2及びスイッチング制御部3により、変圧装置1の回路接続の状態を切り替えるスイッチ装置4が構成されている。スイッチSr1,Sr2は互いに同期して動作し、また、スイッチSb1,Sb2は互いに同期して動作する。そして、スイッチSr1,Sr2のペアと、スイッチSb1,Sb2のペアとは、排他的に交互にオンとなるよう動作する。スイッチSr1,Sr2,Sb1,Sb2は、例えば、SiC素子又はGaN素子からなる半導体スイッチング素子である。SiC素子又はGaN素子は、例えばSi素子に比べて、より高速なスイッチングが可能である。また、素子を多段に接続しなくても、充分な耐圧(例えば6kV/1個も可能)が得られる。
【0026】
図2において、一対のキャパシタC1,C2は、接続点P1において互いに直列に接続されている。そして、その直列体の両端に、交流電源2が接続されている。一対のキャパシタC1,C2の直列体には入力電圧Vinが印加され、入力電流Iinが流れる。
また、一対のインダクタL1,L2は、接続点P2において互いに直列に接続されている。そして、その直列体の両端に、キャパシタC1,C2を介した入力電圧Vが印加され、入力電流Iが流れる。負荷Rには、スイッチSr2,Sb2のいずれかがオンのとき電流が流れる。ここで、負荷Rに印加される電圧をVout、変圧装置1から負荷Rに流れる出力電流をIoutとする。
【0027】
図3の(a)は、図2における4つのスイッチSr1,Sr2,Sb1,Sb2のうち、上側にある2つのスイッチSr1,Sr2がオンで、下側にある2つのスイッチSb1,Sb2がオフであるときの、実体接続の状態を示す回路図である。なお、図2におけるスイッチ装置4の図示は省略している。また、図3の(b)は、(a)と同じ回路図を、階段状に書き換えた回路図である。
一方、図4の(a)は、図2における4つのスイッチSr1,Sr2,Sb1,Sb2のうち、下側にある2つのスイッチSb1,Sb2がオンで、上側にある2つのスイッチSr1,Sr2がオフであるときの、実体接続の状態を示す回路図である。また、図4の(b)は、(a)と同じ回路図を、階段状に書き換えた回路図である。
【0028】
図3図4の状態を交互に繰り返すことにより、キャパシタC1,C2の直列体の接続点P1を介して取り出される電圧は、さらに、インダクタL1,L2の直列体の接続点P2を介して取り出される電圧となる。すなわち、キャパシタ側を前段とし、インダクタ側を後段とする変圧が行われる。ここで、入力電圧は1/4となって出力されるのではないかと推定される。そして、このことは、発明者らの実験によって確認されている。
【0029】
図5は、上が、変圧装置1に対する入力電圧、下が、入力電流をそれぞれ表す波形図である。
図6は、変圧の中間段階での電圧V、電流Iをそれぞれ表す波形図である。これは実際には、スイッチングによるパルス列によって構成され、全体として図示のような波形となる。
また、図7は、上が、変圧装置1からの出力電圧、下が、出力電流をそれぞれ表す波形図である。図5図7の対比により明らかなように、電圧は1/4に変圧され、それに伴って、電流は4倍となる。
【0030】
<組み合わせの例示>
図8は、分布定数回路による変圧装置100と、図2に示した変圧装置1とを、組み合わせた回路図である。図において、図2に示した変圧装置1におけるキャパシタ段と、インダクタ段との間に、変圧装置100が介挿されている。このようにして、2種類の変圧装置1,100の変圧機能を組み合わせることにより、変圧比の広範囲な設計が可能となる。
【0031】
この場合、変圧装置1は、前述のように例えば1MHzでスイッチングを行う回路である。このような回路内に変圧装置100を介挿することで、例えば1MHzの高周波でスイッチングを行っている環境を利用して分布定数型の変圧装置100を活用することができる。
また、交流電源2が仮に直流電源に置き換わったとしても、変圧装置100には、変圧装置1の前段のスイッチングによるスイッチング波形が入力されるので、使用可能である。
【0032】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0033】
1 変圧装置
2 交流電源
3 スイッチング制御部
4 スイッチ装置
100 変圧装置
C1,C2 キャパシタ
L1,L2 インダクタ
b1,Sb2 スイッチ
r1,Sr2 スイッチ
P1,P2 接続点
R 負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8