特許第5727572号(P5727572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5727572モータ温度に応じて動作を変更する工作機械の制御装置及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727572
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】モータ温度に応じて動作を変更する工作機械の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/404 20060101AFI20150514BHJP
   H02P 5/00 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   G05B19/404 K
   H02P7/67 F
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-212833(P2013-212833)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2015-75994(P2015-75994A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2014年10月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】置田 肇
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−76057(JP,A)
【文献】 特開2000−271836(JP,A)
【文献】 特開平9−85582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
H02P 5/00− 5/753
B23Q 15/00−15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸を駆動する主軸モータと、送り軸を駆動する送り軸モータとを有する工作機械の制御装置であって、
前記主軸モータ及び前記送り軸モータに動作指令を送る数値制御部と、
前記主軸モータが加減速状態にあるか否かを判定する加減速判定部と、
前記主軸モータに流れる電流値を検出する電流検出部と、
前記主軸モータが加減速状態にあった期間において、前記主軸モータに流れた電流によって変化する前記主軸モータの第1温度変化量を推定する第1温度推定部と、
前記主軸モータが加減速状態以外の状態にあった期間において、前記主軸モータに流れた電流によって変化する前記主軸モータの第2温度変化量を推定する第2温度推定部と、
前記第1温度変化量と、前記第2温度変化量との比較を行う比較部と、
前記主軸モータの総合温度変化量を取得するモータ温度取得部と、を備え、
前記数値制御部は、前記総合温度変化量が所定の閾値を超えたときに、前記比較部の比較結果に応じて、前記主軸モータ及び前記送り軸モータの少なくとも一方への動作指令を変更する、制御装置。
【請求項2】
前記モータ温度取得部は、前記第1温度推定部の推定値と、前記第2温度推定部の推定値との合算値に基づいて前記主軸モータの温度を取得する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記モータ温度取得部は、前記主軸モータに内蔵されたサーミスタの出力値に基づいて前記主軸モータの温度変化量を取得する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記加減速判定部は、前記主軸モータへの速度指令又は前記主軸モータの実速度の傾きを計算し、該傾きが所定の閾値を超えている場合に、前記主軸モータが加減速状態にあると判定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記加減速判定部は、前記主軸モータへの速度指令と前記主軸モータの実速度との差である速度偏差を計算し、該速度偏差が所定の閾値を超えている場合に、前記主軸モータが加減速状態にあると判定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記第1温度推定部の推定値が、前記第2温度推定部の推定値に1以上の係数を掛けた値より大きい場合、前記主軸モータの出力を下げる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記主軸モータの加減速時の出力を下げるために、前記主軸モータへのトルク指令の低減及び加減速時定数の増加の少なくとも一方を行う、請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記第2温度推定部の推定値が、前記第1温度推定部の推定値に1以上の係数を掛けた値より大きい場合、前記送り軸モータの速度を下げる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
前記第1温度推定部の推定値が前記第2温度推定部の推定値に1以上の係数を掛けた値以下であり、かつ、前記第2温度推定部の推定値が前記第1温度推定部の推定値に1以上の係数を掛けた値以下である場合、前記主軸モータの出力を下げるとともに、前記送り軸モータの速度を下げる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項10】
主軸を駆動する主軸モータと、送り軸を駆動する送り軸モータとを有する工作機械の制御方法であって、
前記主軸モータが加減速状態にあるか否かを判定するステップと、
前記主軸モータに流れる電流値を検出するステップと、
前記主軸モータが加減速状態にあった期間において、前記主軸モータに流れた電流によって変化する前記主軸モータの第1温度変化量を推定するステップと、
前記主軸モータが加減速状態以外の状態にあった期間において、前記主軸モータに流れた電流によって変化する前記主軸モータの第2温度変化量を推定するステップと、
前記第1温度変化量と、前記第2温度変化量との比較を行うステップと、
前記主軸モータの総合温度変化量を取得するステップと、
前記総合温度変化量が所定の閾値を超えたときに、前記第1温度変化量と前記第2温度変化量との比較結果に応じて、前記主軸モータ及び前記送り軸モータの少なくとも一方への動作指令を変更するステップと、を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸を駆動するモータの温度に応じて、該工作機械の動作を変更する機能を備えた制御装置、及び該工作機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータにより駆動される主軸や送り軸を有する工作機械では、その主軸において、重切削加工や加減速頻度の高い加工を行うと、モータ温度が上昇し、主軸駆動用モータがオーバヒートになることがある。このような不具合を回避するため、例えば特許文献1には、可動体を駆動するサーボモータの温度を検出し、検出された温度に応じて可動体の加減速時定数を変更するようにサーボモータを制御する技術が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、送り軸モータの温度を予測演算して温度データを作成し、該温度データと予め記憶した所定の温度データとを比較し、その比較結果に応じて送り軸の加減速時定数を変更する技術が記載されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、横編機のキャリッジ駆動用モータの平均負荷トルクに基づいて仮想的なモータ温度を算出し、仮想温度が許容値を超えているときに、モータへの印加電力を低減させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−009563号公報
【特許文献2】特開平09−179623号公報
【特許文献3】特開2009−041130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2の技術は、検出又は推定されたモータ温度に基づいて、加減速の時定数を変更するものである。一般に、モータの加減速に一定のトルクが必要でかつ、加減速の頻度が高い場合、モータの発熱量が大きくなるため、該発熱量を抑制するために時定数を変更する(延ばす)ことは有効ではある。しかしながら、モータがオーバヒート状態になる要因としては、加減速によるものだけでなく、負荷の大きい加工を一定速で続ける場合もある。このようなオーバヒートに対しては、時定数を延ばすことは有効ではない。
【0007】
一方、特許文献3に記載の技術は、該特許文献が対象としている横編機のように、速度が変化してもモータの回転トルクがほぼ一定の場合には有効であるが、工作機械のように、モータの速度を下げると切削負荷が急激に上昇するような場合には適用できない。
【0008】
このように、工作機械の主軸におけるオーバヒートの原因は、加減速による大電流(及びその頻度)と、大きな切削負荷による大電流(及びそれが継続的にかかる時間)とが考えられるが、従来は、これらの原因を区別して、原因に応じた措置を適切に採ることができなかった。
【0009】
そこで本発明は、オーバヒートの要因を識別し、それぞれの要因に応じた適切な措置を自動的に採ることのできる工作機械の制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本願第1の発明は、主軸を駆動する主軸モータと、送り軸を駆動する送り軸モータとを有する工作機械の制御装置であって、前記主軸モータ及び前記送り軸モータに動作指令を送る数値制御部と、前記主軸モータが加減速状態にあるか否かを判定する加減速判定部と、前記主軸モータに流れる電流値を検出する電流検出部と、前記主軸モータが加減速状態にあった期間において、前記主軸モータに流れた電流によって変化する前記主軸モータの第1温度変化量を推定する第1温度推定部と、前記主軸モータが加減速状態以外の状態にあった期間において、前記主軸モータに流れた電流によって変化する前記主軸モータの第2温度変化量を推定する第2温度推定部と、前記第1温度変化量と、前記第2温度変化量との比較を行う比較部と、前記主軸モータの総合温度変化量を取得するモータ温度取得部と、を備え、前記数値制御部は、前記総合温度変化量が所定の閾値を超えたときに、前記比較部の比較結果に応じて、前記主軸モータ及び前記送り軸モータの少なくとも一方への動作指令を変更する、制御装置を提供する。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記モータ温度取得部は、前記第1温度推定部の推定値と、前記第2温度推定部の推定値との合算値に基づいて前記主軸モータの温度を取得する、制御装置を提供する。
【0012】
第3の発明は、第1の発明において、前記モータ温度取得部は、前記主軸モータに内蔵されたサーミスタの出力値に基づいて前記主軸モータの温度変化量を取得する、制御装置を提供する。
【0013】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記加減速判定部は、前記主軸モータへの速度指令又は前記主軸モータの実速度の傾きを計算し、該傾きが所定の閾値を超えている場合に、前記主軸モータが加減速状態にあると判定する、制御装置を提供する。
【0014】
第5の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記加減速判定部は、前記主軸モータへの速度指令と前記主軸モータの実速度との差である速度偏差を計算し、該速度偏差が所定の閾値を超えている場合に、前記主軸モータが加減速状態にあると判定する、制御装置を提供する。
【0015】
第6の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記第1温度推定部の推定値が、前記第2温度推定部の推定値に1以上の係数を掛けた値より大きい場合、前記主軸モータの出力を下げる、制御装置を提供する。
【0016】
第7の発明は、第6の発明において、前記主軸モータの加減速時の出力を下げるために、前記主軸モータへのトルク指令の低減及び加減速時定数の増加の少なくとも一方を行う、制御装置を提供する。
【0017】
第8の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記第2温度推定部の推定値が、前記第1温度推定部の推定値に1以上の係数を掛けた値より大きい場合、前記送り軸モータの速度を下げる、制御装置を提供する。
【0018】
第9の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記第1温度推定部の推定値が前記第2温度推定部の推定値に1以上の係数を掛けた値以下であり、かつ、前記第2温度推定部の推定値が前記第1温度推定部の推定値に1以上の係数を掛けた値以下である場合、前記主軸モータの出力を下げるとともに、前記送り軸モータの速度を下げる、制御装置を提供する。
【0019】
第10の発明は、主軸を駆動する主軸モータと、送り軸を駆動する送り軸モータとを有する工作機械の制御方法であって、前記主軸モータが加減速状態にあるか否かを判定するステップと、前記主軸モータに流れる電流値を検出するステップと、前記主軸モータが加減速状態にあった期間において、前記主軸モータに流れた電流によって変化する前記主軸モータの第1温度変化量を推定するステップと、前記主軸モータが加減速状態以外の状態にあった期間において、前記主軸モータに流れた電流によって変化する前記主軸モータの第2温度変化量を推定するステップと、前記第1温度変化量と、前記第2温度変化量との比較を行うステップと、前記主軸モータの総合温度変化量を取得するステップと、前記総合温度変化量が所定の閾値を超えたときに、前記第1温度変化量と前記第2温度変化量との比較結果に応じて、前記主軸モータ及び前記送り軸モータの少なくとも一方への動作指令を変更するステップと、を含む制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加減速状態及びそれ以外の状態のそれぞれについて主軸モータの温度変化量を推定し、主軸モータがオーバヒート(又はそれに近い状態)となったときはその主因が加減速電流及び定常電流のいずれであるか(或いは双方か)を判定できるので、その判定結果に応じて適切な措置を採り、オーバヒートの要因の効率的な排除を自動で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る工作機械の制御装置の基本構成を示す機能ブロック図である。
図2図1の制御装置における処理の一例を示すフローチャートである。
図3】本発明に係る制御装置の第1の実施形態を示す機能ブロック図である。
図4】本発明に係る制御装置の第2の実施形態を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明に係る工作機械の制御装置の基本構成を示す機能ブロック図である。制御装置10は、工作機械の主軸及び送り軸(図示省略)をそれぞれ駆動する主軸モータ(例えばスピンドルモータ)12及び送り軸モータ(例えばサーボモータ)14を制御する数値制御部(NC)16を有し、数値制御部16からの動作指令等の指令は、主軸モータ12及び送り軸モータ14にそれぞれ接続された主軸モータ駆動用アンプ(第1アンプ)18及び送り軸モータ駆動用アンプ(第2アンプ)20に送られ、第1アンプ18及び第2アンプ20はそれぞれ、数値制御装置16からの指令に基づく電流を主軸モータ12及び送り軸モータ14に供給する。図1の例では、第1アンプ18及び第2アンプ20はそれぞれ、第1アンプ通信バス22及び第2アンプ通信バス24を介して数値制御部16に接続され、数値制御部16からの指令はこれらのバスを介して第1アンプ18又は第2アンプ20に送られる。
【0023】
第1アンプ18は、主軸モータ12が加減速を行っているか否かを判定する加減速判定部26と、主軸モータ12に流れる電流値を検出する電流検出部28と、主軸モータ12が加減速を行っていた期間において、主軸モータ12に流れた電流による主軸モータ12の温度変化量を推定する第1温度推定部30と、主軸モータ12が加減速以外の動作(例えば停止や定速回転)を行っていた期間において、主軸モータ12に流れた電流による主軸モータ12の温度変化量を推定する第2温度推定部32と、第1温度推定部30の推定値と、第2温度推定部32の推定値との比較を行う比較部34と、主軸モータ12の温度を取得するモータ温度取得部36と、を備え、数値制御部16は、温度取得部36により得られた主軸モータ12の温度が所定の閾値を超えたときに、比較部34の比較結果に応じて、主軸モータ12及び送り軸モータ14の少なくとも一方の動作を変更する動作指令を送る。
【0024】
次に、上述した各部の作用について、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
本発明は、主軸モータ12のオーバヒートの原因を明確にするために、主軸モータ12の温度変化(上昇)量を、主軸モータの加減速による要因と、主軸モータに対する定常的な負荷による要因とに分けることを要旨とする。そこで先ず、所定のサンプリング周期で、電流検出部28を用いて主軸モータ12の電流フィードバックデータCfb(n)を取得し(ステップS1)、数値制御部16からの速度指令Vcmd(n)を取得する(ステップS2)。
【0025】
次に、ステップS2で取得したVcmd(n)と、前回のサンプリング周期で取得した速度指令Vcmd(n-1)との差(すなわち速度指令の傾き)の絶対値S(n)を求め(ステップS3)、S(n)と予め定めた閾値S0とを比較する(ステップS4)。S(n)が閾値S0より大きい場合は、主軸モータ12は加減速状態にあると判断し、加減速状態に関する電流値Cacc(n)に電流フィードバック値Cfb(n)を代入し、一方、加減速状態以外の状態(定常状態)に関する電流値Ccst(n)にはゼロを代入する(ステップS5)。
【0026】
逆に、S(n)が閾値S0以下の場合は、主軸モータ12は定常状態にあると判断し、加減速状態に関する電流値Cacc(n)にはゼロを代入し、一方、定常状態に関する電流値Ccst(n)には電流フィードバック値Cfb(n)を代入する(ステップS6)。換言すれば、上述の閾値S0は、主軸モータ12が定常状態にあるとみなし得るときの速度指令の傾きの最大値に設定される。なおステップS3〜S6は、加減速判定部26により行うことができる。
【0027】
次に、第1温度推定部30において、加減速電流Cacc(n)による主軸モータ12の第1温度変化量θacc(n)を推定し(ステップS7)、同様に、第2温度推定部32において、定常電流Ccst(n)による主軸モータ12の第2温度変化量θcst(n)を推定する。具体的には、推定値θacc(n)及びθcst(n)はそれぞれ、以下の式(1)及び(2)により求めることができる。なおλ=exp(ΔT/τ)であり、ΔTはサンプリング周期であり、τは熱時定数であり、Kは電力入力値からモータ温度を求める際に使用する係数である。
θacc(n) = λ・θacc(n-1)+(1-λ)・K・(Cacc(n))2 (1)
θcst(n) = λ・θcst(n-1)+(1-λ)・K・(Ccst(n))2 (2)
【0028】
次のステップS9では、モータ温度取得部36において、主軸モータ12の総合温度変化量θ(n)を取得する。図2の例では、推定値θacc(n)及びθcst(n)から、温度変化量θ(n)の推定値を取得する。鉄損が無視できる速度領域では、推定値θ(n)は以下の式(3)から求めることができる。
θ(n) = θacc(n)+θcst(n) (3)
【0029】
次のステップS10では、ステップS9で得られた主軸モータ12の温度変化量θ(n)から、主軸モータ12がオーバヒート又はそれに近い状態にあるか否かを判定する。この処理は、数値制御部16が行ってもよいし、他の手段によって行ってもよい。具体的には、主軸モータ12がオーバヒートにあるとみなし得るモータ温度の変化量(温度上昇)に1以下の係数(例えば0.8、0.85、0.9、又は0.95等の1未満の係数)を乗じた値θohと、θ(n)とを比較し、θ(n)がθohを超えている場合は、ステップS11に向かう。逆にθ(n)がθoh以下の場合は、主軸モータ12はオーバヒート又はそれに近い状態にないと判断できるので、ステップS1に戻って次のサンプリング周期での処理を行う。
【0030】
ステップS11では、ステップS7で推定した加減速電流によるモータ温度の変化量θaccが、ステップS8で推定した定常電流によるモータ温度の変化量θcstより十分に大きいかを判定する。具体的には、以下の式(4)に示すように、θaccと、θcstに1以上の係数aを乗じた値とを比較し、θaccの方が大きい場合は、主軸モータ12のオーバヒートの主因は加減速電流による加熱と考えられる。従って式(4)を満たす場合は、ステップS12に進み、主軸モータ12の動作変更、具体的にはモータ加減速時の出力を下げるために、主軸モータ12へのトルク指令を減少させるか、加減速時定数を大きくする措置を採る。或いは、トルク指令の低減と加減速時定数の増加の双方を行ってもよい。
θacc(n) > θcst(n)・a (a≧1) (4)
【0031】
一方、ステップS11において、θaccが、θcstに1以上の係数aを乗じた値以下である(式(4)を満たさない)場合は、ステップS13に進み、ステップS8で推定した定常電流によるモータ温度の変化量θcstが、ステップS7で推定した加減速電流によるモータ温度の変化量θaccより十分に大きいかを判定する。具体的には、以下の式(5)に示すように、θcstと、θaccに1以上の係数aを乗じた値とを比較し、θcstの方が大きい場合は、主軸モータ12のオーバヒートの主因は定常電流による加熱と考えられる。従って式(5)を満たす場合は、主軸(主軸モータ)の動作を変更してもオーバヒートの主因は排除できないので、ステップS14に進み、送り軸モータ14の動作変更、具体的には切削負荷等の定常負荷を下げるために、送り軸モータ14への速度指令を減少させる措置を採る。なおステップS11及びS13で使用する1以上の係数aは、工作機械の用途や加工形態等によって適宜設定可能であるが、例えば2以上、3以上、5以上、又は10以上の値が使用可能である。
θcst(n) > θacc(n)・a (a≧1) (5)
【0032】
一方、ステップS13において、θcstが、θaccに1以上の係数aを乗じた値以下である(式(5)を満たさない)場合は、両温度変化量間の差が所定の範囲内ある(すなわち両者間に大きな差がない)ことを意味する。故に主軸モータ12のオーバヒートの主因は、加減速電流又は定常電流の一方に特定することができず、換言すれば双方の電流が主因ということになる。そこでこの場合は、ステップS15に進んでステップS12と同等の処理(主軸モータ12のトルク指令の低減又は加減速時定数の増加)を行い、さらに、ステップS16に進んでステップS14と同等の処理(送り軸モータ14の速度指令の低減)を行う。もちろん、ステップS15とS16の実行順序は逆でもよいし、両ステップを同時に行ってもよい。なおステップS11〜S16のうち、ステップS11及びS13での比較は比較部34が行い、他の処理は数値制御部16が行うことができる。
【0033】
上述のステップS1〜S16の処理を、所定のサンプリング周期で反復・実行する。このような一連の処理により、加減速電流及び定常電流のそれぞれについてモータ温度の変化量を推定し、主軸モータ温度がオーバヒート(又はそれに近い状態)となったときはその主因が加減速電流及び定常電流のいずれであるか(或いは双方か)を判定できるので、その判定結果に応じて適切な措置を採り、オーバヒートの要因の効率的な排除を自動で行うことができる。
【0034】
図3は、図2に示したフローチャートの処理に適した、第1の実施形態に係る制御装置10aの機能ブロック図である。なお上述のステップS3〜S4の説明では、主軸モータ12が加減速状態にあるか否かの判定に数値制御部16からの速度指令Vcmdを使用したが、図3の破線38で示すように、数値制御部16からの速度指令の代わりに、主軸モータ12の実速度を所定のサンプリング周期で取り込んで、ステップS3〜S4と同様の処理によって加減速状態の判定をしてもよい。なお図3において、図1の構成要素と同等の機能を有する構成要素については、図1と同じ参照符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0035】
図4は、第2の実施形態に係る制御装置10bの機能ブロック図である。制御装置10bでは、図3の制御装置10aのようにモータ温度取得部36が、第1温度推定部30及び第2温度推定部32で得られた温度変化量の推定値θacc及びθcstの合算(和)によりモータ温度を取得するのではなく、主軸モータ12に取付けた(内蔵された)サーミスタ40等の、主軸モータ12の温度を検出する温度検出器の出力を所定のサンプリング周期で取得し、モータ温度の変化量を取得する。
【0036】
また制御装置10bでは、加減速判定部26での加減速判定において、制御装置10aのように速度指令又はモータ実速度の変化割合(傾き)を使用するのではなく、主軸モータ12への速度指令と主軸モータ12の実速度の偏差(速度偏差)を求め、該速度偏差が所定の閾値を超えているときを加減速状態と判定する。つまり、一般に加減速時では、実速度が速度指令に一致(追従)するまでに一定の時間遅れ(タイムラグ)があるので、速度偏差が比較的大きいときは加減速状態にあると判断することができる。なお図4において、図1の構成要素と同等の機能を有する構成要素については、図1と同じ参照符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0037】
なお本発明に係る制御装置は、図3及び図4に記載したものに限定されない。例えば、モータ温度取得部36が第1温度推定部30及び第2温度推定部32で得られた推定値を使用するとともに、加減速判定部が速度指令と実速度との速度偏差を使用する形態も可能である。また、モータ温度取得部36がサーミスタ40の出力を使用するとともに、加減速判定部が速度指令又は実速度の変化割合を使用する形態も可能である。
【符号の説明】
【0038】
10、10a、10b 制御装置
12 主軸モータ
14 送り軸モータ
16 数値制御部
18 主軸モータ駆動用アンプ
20 送り軸モータ駆動用アンプ
22、24 通信バス
26 加減速判定部
28 電流検出部
30 第1温度推定部
32 第2温度推定部
34 比較部
36 モータ温度取得部
40 サーミスタ
図1
図2
図3
図4