特許第5727594号(P5727594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5727594ポリチオウレタン用重合触媒、重合性液状組成物及び高屈折率である有機ポリチオウレタン・ガラスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727594
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】ポリチオウレタン用重合触媒、重合性液状組成物及び高屈折率である有機ポリチオウレタン・ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/18 20060101AFI20150514BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20150514BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   C08G18/18
   G02C7/00
   G02B1/04
【請求項の数】16
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-510692(P2013-510692)
(86)(22)【出願日】2011年5月20日
(65)【公表番号】特表2013-528681(P2013-528681A)
(43)【公表日】2013年7月11日
(86)【国際出願番号】IB2011001087
(87)【国際公開番号】WO2011144995
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2013年1月11日
(31)【優先権主張番号】MI2010A000912
(32)【優先日】2010年5月20日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】レンツィ, フィオレンツォ
(72)【発明者】
【氏名】フォレスティエリ, ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴェッキオーネ, アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ボス, ヴィレム
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−203398(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/043392(WO,A1)
【文献】 特開2008−074958(JP,A)
【文献】 特開昭60−055017(JP,A)
【文献】 特開2003−064146(JP,A)
【文献】 特開平10−121031(JP,A)
【文献】 特開2008−074957(JP,A)
【文献】 特表2001−505232(JP,A)
【文献】 特表2011−509315(JP,A)
【文献】 特開2004−182686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00−18/87
C08G 71/00−71/04
G02B 1/00− 1/08
G02B 3/00− 3/14
G02C 1/00−13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、R1,R2及びR3は、互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状脂肪族基、又は炭素数3〜20の脂環族基であり、これらの基はN,O,P,S,ハロゲンから選択されるヘテロ原子を含んでいてもよく、R1,R2及びR3は互いに連結してもよい。)で表される脂肪族3級アミンと、
一般式(2)
【化2】
(式中、R2及びR4は互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状脂肪族基、又は炭素数3〜20の脂環族基を表し、R3及びR5は同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルキレン基を表し、m及びpは0,1又は2である。)で表される二置換リン酸との混合物からなり、有機金属化合物を含まず、
上記脂肪族3級アミンと上記二置換リン酸とのモル比が、1/1.3〜1/20である、有機ポリチオウレタン・ガラス製造用重合触媒。
【請求項2】
上記脂肪族3級アミンは、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン及びメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケートから選択される、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケートとビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケートとの混合物と、
一般式(2)
【化3】
(式中、R2及びR4は互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状脂肪族基、又は炭素数3〜20の脂環族基を表し、R3及びR5は同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルキレン基を表し、m及びpは0,1又は2である。)で表される二置換リン酸との混合物からなり、有機金属化合物を含まず、
上記メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケートとビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケートとの混合物と上記二置換リン酸とのモル比が、1/1.3〜1/20である、有機ポリチオウレタン・ガラス製造用重合触媒。
【請求項4】
前記二置換リン酸は、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、炭素数8のリン酸ジエステル、炭素数10のリン酸ジエステル、及び/又はこれらの混合物から選択される、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
トリエチルアミンとリン酸ビス(2−エチルヘキシル)との混合物からなる、請求項1、請求項2または請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケート25重量%とビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート75重量%との混合物およびリン酸ビス(2−エチルヘキシル)との混合物からなる、請求項3または請求項4に記載の触媒。
【請求項7】
3成分(A),(B),及び(C)を含み、
成分(A)は少なくとも1種類の脂環族ジイソシアネート・モノマーからなり、該成分中における遊離イソシアネート基の含有量は該成分(A)の総重量の20%〜50重量%であり、
成分(B)は少なくとも1種類のポリチオール類からなり、その分子量は50〜1,200g/モルであり、その官能性は2〜5官能であり、上記成分(A)と(B)との重量比は0.5:1〜2:1であり、
成分(C)は請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の有機金属化合物を含まない重合触媒である、ポリチオウレタン型の重合性液状組成物。
【請求項8】
上記成分(A)は、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及びビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンから選択される、請求項に記載の重合性組成物。
【請求項9】
上記成分(B)は、一般式(3)〜(5)で表されるポリチオール類から選択される、請求項又はに記載の重合性組成物:
一般式(3):
【化4】
(式中、Rは互いに同一又は異なる炭素数1〜6のアルキレン基を表し、R1は互いに同一又は異なる炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは1〜6であり、mは1〜6であり、pは1〜4であり、qは0又は1であり、p+qは4である。)
一般式(4):
【化5】
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を表し、nは1〜6であり、mは1〜6である。)
一般式(5):
【化6】
(式中、R1 = −(CH−SH、R2 = −S−(CH−SH、R3 = −R−S−(CH−SH、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を表し、nは1〜3である。)。
【請求項10】
上記成分(B)は、2,3−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−1−プロパンチオール、及び2,3−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−1−プロパンチオールとエチレングリコール−ジ(3−メルカプトプロピオネート)との混合物から選択される、請求項乃至請求項のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項11】
上記成分(A)は4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)であり、成分(B)はエチレングリコール−ジ(3−メルカプトプロピオネート)と2,3−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−1−プロパンチオールとの混合物である、請求項乃至請求項10のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項12】
上記成分(C)の含有量が上記重合性組成物の総重量に対して0.1〜2重量%である、請求項乃至請求項11のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項13】
成分(A)と(C)とを混合する工程a)と、
工程a)で得られた溶液と、成分(B)とを、混合する工程b)と、
工程b)に先立ち、成分(A)と(B)について個別に、又は一括して行ってもよく、絶対濾過精度0.5〜1ミクロンのフィルタを用いて濾過を行う濾過工程c)と、
工程c)で得られた混合物をモールド内に充填する工程d)と、
モールド内に充填された液状組成物を熱処理により重合させる工程e)と、を含む、
請求項乃至請求項12のいずれか1項に記載の、ポリチオウレタン型の重合性液状組成物の注型重合方法である、有機ガラスの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法で得られる有機ガラス。
【請求項15】
請求項14に記載の有機ガラスを加工して得られる製造品又は光学部品。
【請求項16】
眼鏡レンズ並びにサングラス、フレネルレンズ、保護具並びに安全具、ディスプレイ、光ディスク基板、ディスプレイパネル並びにビデオディスプレイユニット、光導波路、携帯電話部品、透明チューブのいずれかである、請求項15に記載の製造品又は光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオウレタン用重合触媒、これを含む重合性液状組成物、及び高屈折率、良好な光学的及び物理・機械的性質を有し、該重合性液状組成物を出発物質とする有機ポリチオウレタン・ガラスの製造方法に関する。本発明はまた、前記組成物を注型重合することにより得られる有機ガラスに関する。
【0002】
具体的には、本発明に係る高屈折率、良好な光学的及び物理・機械的性質を有するポリチオウレタン型有機ガラスの製造方法は、実質的に下記の3成分(A),(B)及び(C)からなる重合性液状組成物にも適用される。
第1の成分(A)は少なくとも1種類の脂環族ジイソシアネートモノマーを含み、第2の成分(B)は1種類又は2種類以上の、分子量100〜1,000g/モルの2〜5官能ポリチオール類を含み、第3の成分(C)は有機金属化合物を含まない重合触媒である。
【背景技術】
【0003】
ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、別名アリルジグリコールカーボネート(ADC)の重合で得られる熱硬化性有機ガラスは、眼科的用途、特に眼鏡レンズの用途において市場の注目を集めている。この有機ガラスが特に注目される理由は、経時劣化耐性や易加工性といった特有の機械的性質にあり、例えばF.ストレイン(F.Strain)が「エンサイクロペディア・オブ・ケミカル・プロセシング・アンド・デザイン」、第1版、デッカー社刊(ニューヨーク)、第11巻、452頁("Encyclopedia of Chemical Processing and Design", First Edition, Dekker Inc., New York, Vol. 11, page 452)、及び「エンサイクロペディア・オブ・ポリマー・サイエンス・アンド・テクノロジー」(1964)、第1巻、799頁〜、インターサイエンス社刊(ニューヨーク)("Encyclopedia of Polymer Science and Technology" (1964), Vol. 1, page 799 onwards, Interscience Publishers, New York)に記載している通りである。
【0004】
ADCが商業的に成功を収めた理由は、重合生成物の特性が優れているのみならず、これを用いた製品が「注型(casting)」又は「手動での注型(manual casting)」により比較的容易に製造できるからである。
この方法によれば,重合開始剤を含む上記液状組成物を、通常、適当な材料からなるガスケットで隔てられた、ガラスから構成された二分割型のモールドの間に注入する。
しかしながら、ADCモノマーを重合して得られた眼鏡レンズは、その屈折率が比較的小さいため、かなり厚くなってしまう。
【0005】
一方、ポリチオウレタン類は屈折率が大きい樹脂としてよく知られており、例えば初期の文献のひとつである欧州特許EP271839号には、イソシアネート類と硫黄含有化合物とを反応させてポリチオウレタン類を得ることが記載されている。欧州特許EP271839号の主な目的は、好適な内添型の内部離型剤を見出すことである。それは、外添型の外部離型剤が表面欠陥の原因となるからである。欧州特許EP271839号には、ノニオン系フッ素化界面活性剤、ノニオン系シリコン界面活性剤、アルキル4級アンモニウム塩、高級脂肪酸金属塩、及びリン酸エステルから選ばれる内添型界面活性剤を、混合物全体に対して10〜10,000ppm用いることが述べられている。これより後の文献である欧州特許EP0912632号には、欧州特許EP271832号で例示された離型剤のうち、さらに限定された範囲の離型剤について記載されており、実際にはモールドからの離型性が低く又は重合性組成物との相溶性が低いため、多くの離型剤がその機能を果たしていないことが示されている。さらに、近年の国際特許WO2009/107946号のように、離型剤と、錫を含有する有機金属触媒とを併用することを示した特許もある。
【0006】
錫を含有する有機金属触媒は今日、産業界で広く用いられているが、その毒性と生物蓄積は人体と環境の双方に悪影響を及ぼすことが懸念されるため、近年では錫を含まない触媒を用いた様々な代替品が提案されている。
国際特許WO2010/001550号には、亜鉛化合物と下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物との混合物が記載されている。
【0007】
【化1】
【0008】
欧州特許EP19888109号には、Al,Fe,Cu,Zn,Zr及びBiのいずれかと、ジチオカルバメート類、スルホン酸エステル類、アルキルリン酸エステル類及び置換無水酢酸のいずれかとの錯体が記載されている。
欧州特許EP19888110号には、リン酸エステル化合物と、Zn,Cu,Fe,Ga,Bi,Al及びZrから選ばれる金属との混合物が記載されている。
特開2006-199885号公報には、Si,Ge,Sn,Zr又はTiのチオール錯体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許EP271839号
【特許文献2】欧州特許EP0912632号
【特許文献3】国際特許WO2009/107946
【特許文献4】国際特許WO2010/001550号
【特許文献5】欧州特許EP19888109号
【特許文献6】欧州特許EP19888110号
【特許文献7】特開2006−199885号公報
【特許文献8】欧州特許EP2065414号
【特許文献9】特開2008−074957号公報
【特許文献10】特開2008−074958号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】F.Strain, "Encyclopedia of Chemical Processing and Design", First Edition, Dekker Inc., New York, First Edition, Dekker Inc., New York, Vol. 11, page 452
【非特許文献2】F.Strain, "Encyclopedia of Polymer Science and Technology" (1964), Vol. 1, page 799 onwards, Interscience Publishers, New York
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの文献では錫を代替品に置き換えてはいるものの、多くの場合、置き換えられた元素が重金属であることに変わりなく、この置き換えが実際に環境リスク低減させているか否かは疑わしい。
【0012】
そこで、錫を含む有機金属触媒を非金属系の触媒に置き換えることが望ましい。欧州特許EP2065414号には、アミンクロロハイドレートの塩の触媒としての利用について、トリフェニルホスフィン及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデカンと比較しながら記載されている。後二者を用いた場合は生成するポリマーの不透明化ないし白濁化が生ずるのに対し、アミンクロロハイドレートの塩を用いた場合にはこれが生じない。このアミンクロロハイドレートの塩を含む触媒は、内部離型剤であるリン酸エステルの1.5倍量ないし2倍量、過剰に添加されていると考えられる。この組合せにより、重合反応の均一性が高まり、また離型剤に起因する酸性度の変動による影響を低減することができる。
【0013】
非金属系の触媒は特開2008−074957号公報にも記載されており、アミン類と置換スルホン酸塩類との混合物が例示されている。しかしながら、これらの混合物は当該特許に記載されている作用を示さない。実際、これら様々な成分を混合しても重合性液状組成物は得られず、粘度の高いゲルが生成してしまう。これでは、光学部品を産業規模で生産するには不向きである。一方、特開2008−074958号公報には、これらアミン類をリン酸エステル類と組み合わせることが記載されている。具体的には、3官能アミンの塩と、リン酸のアルキル・エステルとの組合せである。塩が存在するということは、即ち、アミンとリン酸とがそれぞれ化学量論的なモル数で存在するということである。上記3官能アミンの置換基としては、ヒドロキシ基、アルコキシル基、フェニル基又はフェニル置換された基が例示されているが、トリアルキルアミン類は基として例示されていない。これはおそらく、比較例3に示されるように、これらのアミン類を用いた場合、モールドからの離型性が芳しくないためと思われる。
【0014】
上述のいずれの最新文献も、触媒、又は触媒と離型剤との組合せについて、不透明性ないし白濁を低く抑えるとともに、優れた離型性および反応性を達成できると主張しているが、いずれもそこから一歩進んだ問題点、即ち、単純で簡易な製造プロセスについては言及していない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上述の最新の組成物および製造プロセスの欠点を克服するために為されたもので、光学的な欠陥が無く、既に市販されている或る種の高屈折材料の好ましい特性をすべて備え、特に最適な光学的性質、最適な加工性、及びADCポリマーの様な染色性を有し、しかも靱性と耐衝撃性が改善された新規な有機ガラスを製造することを目的とする。
本発明はまた、新規な材料から最終製品としての有機ガラスを得る、簡易で、安価で、産業規模での実施が可能な製造方法を見出すことを目的とする。
【0016】
本発明はこれら双方の目的を達成するものである。本発明は実際、優れた物理・機械的性質を有するポリチオウレタン型の熱硬化性プラスチックからなる高屈折率で透明な最終製品を、重合性液状組成物を出発物質として製造するための、簡易な注型プロセスに関する。
【0017】
本発明者らは、錫系の有機金属触媒を含有せず、より簡易で、製造プロセスを単純化かつ容易化することができ、優れた離型性と、高い反応性を実現するとともに、得られる製品の屈折率を高め、光学的性質、靱性及び耐衝撃性を改良することが可能な、驚くべき新規な触媒系を見出した。
【0018】
本発明の第1の目的は、ポリチオウレタン有機ガラス用重合触媒を提供することにある。この触媒は、有機金属化合物を含まず、下記の混合物からなる。
下記一般式(1)で表される脂肪族3級アミン:
【0019】
【化2】
【0020】
式中、R1,R2及びR3は、互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状の脂肪族基又は炭素数3〜20の脂環族基を表し、これらの基はN,O,P,S,ハロゲン等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
下記一般式(2)で表される二置換リン酸:
【0021】
【化3】
【0022】
式中、R2及びR4は、互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状の脂肪族基又は炭素数3〜20の脂環族基を表し、R3,R5は同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルキレン基を表し、mとpは0,1又は2である。
上記脂肪族3級アミンと二置換リン酸のモル比は1/1.3〜1/20、好ましくは1/1.5〜1/15である。
【0023】
本発明の更なる目的は、実質的に下記の3成分(A),(B)及び(C)からなるポリチオウレタン型の重合性液状組成物を提供することにあり、上記成分(A)は少なくとも1種類の脂環族ジイソシアネートモノマーを含み、該成分(A)中の遊離イソシアネート基の含有量は該成分(A)の総重量に対して約20%〜約50重量%、好ましくは約25%〜約40重量%であり、上記成分(B)は少なくとも1種類のポリチオールを含み、該ポリチオールの分子量は50〜1,200g/モル、好ましくは100〜1,000g/モルであり、官能性は2〜5、好ましくは2〜4であり、上記成分(A)と(B)との重量比は0.5:1〜2:1、好ましく1:1〜2:1であり、上記成分(C)は本発明の触媒である。
【0024】
上記2成分(A),(B)のいずれか一方又は両方に、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、ラジカル捕捉剤、色補正用色素等の添加剤が含まれていてもよい。本発明の重合性組成物には、ノニオン系フッ素化界面活性剤、ノニオン系シリコン界面活性剤、アルキル4級アンモニウム塩又はリン酸モノエステル等の内部離型剤を別個に添加する必要はない。
【0025】
本発明の更なる目的は、ポリチオウレタン型の重合性液状組成物の注型と重合プロセスを想定した有機ガラスの製造方法を提供することにあり、該製造方法は下記の各工程を含む。
混合工程a):成分(A)と(C)とを混合する。ここで、成分(A)は1種類の脂環族ジイソシアネートモノマーか、又は複数種類の脂環族ジイソシアネートモノマーの混合物であり、成分(C)は本発明に係る有機金属化合物を含まない重合触媒である。
混合工程b):a)で得られた溶液と、成分(B)とを混合する。成分(B)は少なくとも1種類のポリチオールを含むが、他の添加剤を含んでいてもよい。
濾過工程c):上記混合物中に含まれるあらゆる汚染物質を除去する。この濾過は、混合工程b)に先立ち、成分(A)と(B)について個別に、又は一括して行ってもよい。
充填工程d):工程c)で得られた混合物をモールド内に充填する。
重合工程e):モールド内に充填された液状組成物を熱処理により重合させる。
【0026】
上記重合は通常、液状組成物を充填したモールドを徐々に加熱することにより行われ、後述するように、低温から高温への昇温を数時間から数十時間かけて行う。
【0027】
均一な光学部品を得、かつ同一製品内における脈理(flow lines)等の光学的欠陥を回避する上で、触媒の存在は必要であり、この触媒により昇温時の熱の制御性が良くなるとともに重合効率が高まり、重合反応が最後まで進行し、耐熱性や耐衝撃性等の物理・機械的性質が最適化されたポリマーを製造することができる。
【0028】
また、重合性組成物がモールドに注入されるまでの間のポットライフを十分に長く確保するため、上記触媒は低温域における重合反応性が低く抑えられている必要がある。
【0029】
本発明の更なる目的は、これらの組成物の注型及び重合プロセスにより得られる有機ガラスに関する。
【0030】
最後に、本発明の更なる目的は、眼鏡レンズ、光学フィルタ、板、ディスプレイ、サングラス等、上記重合性組成物の注型及び重合プロセスにより得られる有機ガラスを含む製品又光学部品を提供することにある。
【0031】
ポリチオウレタン型の重合性液状組成物を出発物質として有機ガラスを得るために行われる、モールドに注型する方法は、手動で行っても、或いは混合・注入機を用いて行ってもよい。
本発明により重合性組成物を出発物質として光学部品を製造するこれら2通りの方法について、簡単に述べる。
【0032】
手動による注型
手動による注型によって本発明の有機ガラスを製造する方法は、下記の各工程を含む。
a)混合工程;2成分(A)と(C)とを、適切な重量比で混合する。この混合工程a)は通常、例えば20℃〜30℃の室温付近、不活性ガス雰囲気中又は絶対圧力10〜20mbarの真空中、混合時間約1時間の条件で行われる。
b)混合工程:混合工程a)の終了後、該混合工程a)で得られた溶液と、成分(B)とを、温度20〜30℃、絶対圧力10〜20mbarの真空中、混合時間0.5〜1時間の条件で行う。
c)濾過工程:最終製品の光学特性を損なう虞のあるあらゆる汚染物質を除去する。
この目的に照らし、ポリプロピレン製又はナイロン製のカートリッジ式で、絶対濾過精度0.5〜1ミクロンのフィルタを用いることが好ましい。
上記濾過は、混合工程b)に先立ち、成分(A)と(B)について個別に、又は一括して行ってもよい。
真空下での混合中は溶液の脱気を徹底的に行い、重合後の光学部品中に気泡を残さないようにする。
【0033】
d)充填工程;モールドの充填は重力注型法により行うか、或いはメカニカル・ポンプやガス圧の助けを借りて行う。
e)重合工程:上記液状組成物を、モールド温度を20〜140℃、好ましくは30〜130℃、重合時間を通常1〜40時間、好ましくは3〜30時間として、熱処理により重合させる。
【0034】
上記注型は、ガラスやメタル等、様々な材料からなるモールドを用いて行うことができる。
但し、眼鏡レンズの製造には従来、ガラスや金属からなるモールドが使用されており、これらは例えば重合反応に伴う発熱をより効果的に分散させる観点から有利である。
金属製のモールドとしては、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、銅、クロム、銀、又は金からなるモールドが好適である。
【0035】
本発明に適用可能な手動注型の手法は、ADCモノマーを用いた場合の注型手法と全く同じであるが、本発明に係る注型工程と重合工程には、上記重合性組成物の調製を室温付近で行えるという利点がある。
【0036】
混合・注入機を用いた注型法
上述したように、もう一つの方法として、本発明に係る重合性組成物の注型方法を混合・注入機を用いて行うこともできる。
本機の概要を図1に示す。
【0037】
本機は、実質的に下記の構成要素よりなる。
各々成分(A)+(C)及び成分(B)を混合するための2基の混合タンクR(A+C),R(B)。これら2個のタンクは、真空下で液体を脱気する機構を備える。タンクR(A+C)には、予め必要量の成分(A),(C)を満たしておく。
脱気した2種類の液体を適当なポリプロピレン製フィルタを通して別々の流路で送るための、図示しない2台のメンブレン・ポンプ。
濾過と脱気を経た2種類の液体成分を貯蔵する2基の貯液タンクS(A+C),S(B)。
貯液タンクS(A+C),S(B)から重力にしたがって供給される液体成分を送出する、図示しない2台の流量比可変式ギヤ・ポンプ。
図示しない1台のツインミキサー・ガン。
2種類の成分液体を上記ガンの出口で混合し、得られた混合物をモールド充填部Sに直送する、1台の静的・動的ミキサーM。
【0038】
上記2台の混合タンクR(A+C),R(B)を除く構成要素の全ては、1台の小型の機械としてコンパクトにまとめられ、2種類の成分(A)+(C),(B)を指定の様々な分量比及び温度で混合することができ、また、得られた重合性混合物を様々な注入速度で注入することができ、本発明のプロセスで想定される条件に対応することができる。
【0039】
上記の混合・注入機を用いた注型プロセスは、下記の工程を含む。
成分(A),(C)の混合物を、ライン(1)を通じて、また成分(B)をライン(1')を通じて各混合タンクR(A+C),R(B)に投入する。UV安定剤、色素等の添加剤がどの成分にも予め含まれていない場合には、この工程でいずれかのタンク、又は双方のタンクに添加剤を投入してもよい。
各液体を、約20〜30℃で約1時間、真空下で撹拌しながら脱気する。
脱気した各液体を、メンブレン・ポンプを用い、ライン(2),(2')を通じて2基の貯液タンクS(A+C),S(B)へ移送する。流路途中には、濾過精度1ミクロンのポリピプロピレン製フィルタを設置する。
2台のギヤ・ポンプを用い、これら2種類の成分(A)+(C),(B)を所望の重量比で別々の配管(3),(3')を経てツインミキサー・ガンへ供給し、更にそこから静的・動的ミキサーMへ送出し、得られた均一な重合性混合物をモールド充填部Sへ向けて注入する。
【0040】
上記成分(A)+(C),(B)の移送工程及び供給工程の温度、及び注入速度は、使用する組成物の物理化学的性質、製造される光学部品の種類及びその複雑さに応じて選択される。
前述の手動による注型と同じ考え方及び条件が、本注型法及び液状組成物の重合にも適用可能である。
本発明に係る上記重合性液状組成物によれば、高屈折率で優れた光学的、物理・機械的性質を有する製品を、簡便で安価な注型プロセスにより産業規模で生産することができる。
【0041】
手動による注型においては、「ポットライフ」と呼ばれる重合性液状組成物の経時安定性,即ち、混合物が実用に供されるに十分な低粘度を維持できる調製後の経過時間が重要なパラメータとなる。
実際、このポットライフが十分に長くないと、3成分(A),(B),(C)を接触させた途端に重合反応が非常に早く進行してしまい、粘度の急速な増加がおき、溶液の均一化や、その後のモールド充填が非常に難しくなってしまう。このような場合、ごく少数のモールドしか充填することができず、結果的に無欠陥の光学レンズの製造数が足りず、プロセスが工業生産上の要求とは相容れないものになってしまう。
【0042】
一方、混合・注入機を用いて注型を行う場合は、触媒を添加した溶液が直ちにモールド内へ注入されるので、ポットライフは重要なパラメータとはならない。
本発明の重合性液状組成物を製造するための触媒によれば、重合反応の触媒作用に高い融通性が付与され、採用する注型プロセスに応じてポットライフを延長したり短縮することも自在で、しかも工業製品として望ましい性質である優れた離型性を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
上述したように、本発明は、高屈折率と優れた光学的、物理・機械的性質を有する有機ガラスを製造するためのポリチオウレタン型の重合性液状組成物の注型及び重合プロセスに関する。
本発明の上記重合性液状組成物は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含む。
【0044】
成分(A)
本発明に係る上記重合性組成物の成分(A)は、少なくとも1種類の脂環族ジイソシアネートモノマー又は複数種類の脂環族ジイソシアネートモノマーの混合物を含み、該成分(A)中の遊離イソシアネート基の含有量は該成分(A)の総重量の約20%〜約50重量%、好ましくは約25%〜約40重量%である。
【0045】
本発明に係る上記組成物中の成分(A)に対応する脂環族ジイソシアネートモノマーとしては、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4'−イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)−2,2−プロパン、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)−1,2−エタン、イソホロンジイソシアネートの通称で知られる3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、2,5(6)ジイソシアネート−メチルビシクロ(2,2,1)ヘプタン、及びオクタヒドロ−4,7−メタン−1H−インデニルメチルジイソシアネートが例示される。
本発明に係る上記組成物中の成分(A)に対応する脂環族ジイソシアネートモノマーは、好ましくは4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及びビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンから選択される。
【0046】
成分(B)
本発明に係る上記重合性組成物の成分(B)は、1種類又は複数種類のポリチオール類を含み、該ポリチオール類の分子量は50〜1,200g/モル、好ましくは100〜1,000g/モルであり、官能性は2〜5官能、好ましく2〜4官能であり、下記一般式(3)〜(5)で表されるポリチオール類から選択される。
【0047】
【化4】
【0048】
式中、Rは同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、R1は同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは1〜6であり、mは1〜6であり、pは1〜4であり、qは0又は1であり、p+qは4である。
【0049】
【化5】
【0050】
式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を表し、nは1〜6であり、mは1〜6である。
【0051】
【化6】
【0052】
式中、R1=−(CH−SH、R2=−S−(CH−SH、R3=−R−S−(CH−SH、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を表し、nは1〜3である。
【0053】
本発明に係る重合性組成物の成分(B)である一般式(3)で表されるチオール類としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)が例示される。
【0054】
本発明に係る重合性組成物の成分(B)である一般式(4)で表されるチオール類としては、エチレングリコールジ(3−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールジ(2−メルカプトアセテート)、ポリエチレングリコールジ(2−メルカプトアセテート)、ポリエチレングリコールジ(3−メルカプトプロピオネート)、ポリプロピレングリコールジ(2−メルカプトアセテート)、及びポリプロピレングリコールジ(3−メルカプトプロピオネート)が例示される。
【0055】
本発明に係る重合性組成物の成分(B)である一般式(5)で表されるチオール類としては、2,3−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−1−メルカプトプロパン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、及び1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタンが例示される。
【0056】
上記チオール類の好ましい例として、2,3−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−1−プロパンチオール、及び2,3−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−1−プロパンチオールとエチレングリコール−ジ(3−メルカプトプロピオネート)との混合物が挙げられる。
好ましく用いられる上記成分(A)の例として4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)が、また上記成分(B)の例としてエチレングリコールジ(3−メルカプトプロピオネート)、及び2,3−ビス(2−メルカプトエチル)チオ)−1−プロパンチオールが挙げられる。
【0057】
本発明に係る上記有機ガラス又は光学部品は、上記成分(A)と(B)とを適切な重量比、通常は0.5:1〜2:1の重量比で混合し、上記成分(C)を構成する適当な触媒、および必要に応じて添加される後述の添加剤の存在下で重合反応を行わせることにより製造される。
【0058】
成分(C)
本発明に係る重合性液状組成物の成分(C)は、有機金属化合物を含まない重合触媒であり、下記の一般式(1)で表される脂肪族3級アミンと、一般式(2)で表される二置換リン酸との混合物よりなる。
一般式(1)で表される脂肪族3級アミン:
【0059】
【化7】
【0060】
式中、R1,R2,R3は互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状脂肪族基、又は炭素数3〜20の脂環族基を表し、これらの基はN,O,P,S,ハロゲン等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
一般式(2)で表される二置換リン酸:
【0061】
【化8】
【0062】
式中、R2,R4は互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状の脂肪族基、又は炭素数3〜20の脂環族基を表し、R3,R5は互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルキレン基を表し、mとpは0,1又は2を表し、上記脂肪族3級アミンと上記二置換リン酸とは1/1.3〜1/20、好ましくは1/1.5〜1/15のモル比で含まれる。
【0063】
本発明に用いられる一般式(1)で表されるアミン化合物は脂肪族3級アミンであり、具体的にはトリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ヒドロキシエチル−4−ピペリジノール、ジメチルジプロピレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、N−メチルモルホリン、トリエチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等が例示される。
【0064】
HALSの名で知られる立体障害のあるヒンダードアミン、特に液状3級アミンも用いることができ、その具体例としては、
メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケート,
メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケートとビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケートとの混合物、
ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、及び
ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)セバケートを例示することができる。
【0065】
本発明で用いられるアミンの好ましい例としては、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、及びメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケート(好ましくは25重量%)とビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート(好ましくは75重量%)との混合物が挙げられる。
【0066】
本発明の目的に用いられる一般式(2)で表される二置換リン酸の例としては、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジイソプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸ジイソデシル、リン酸メトキシエチル−エトキシエチル、リン酸メトキシエチル−プロポキシエチル、リン酸エトキシエチル−プロポキシエチル、リン酸エトキシエチル−ブトキシエチル、リン酸ジ(メトキシエチル)、リン酸ジ(エトキシエチル)、リン酸ジ(プロポキシエチル)、リン酸ジ(ブトキシエチル)、リン酸(ヘキシルオキシエチル)、リン酸ジ(デシロキシエチル)、リン酸ジ(メトキシプロピル)、リン酸ジ(エトキシプロピル)、リン酸ジ(プロポキシプロピル)、及び/又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0067】
上記触媒において用いられ、結果として重合性液状組成物やプロセスにも含まれる本発明の触媒は、好ましくは炭素数8のリン酸ジエステル、炭素数10のリン酸ジエステル、及び/又はこれらの混合物から選択される。
上記触媒の好ましい例としては、トリエチルアミンとリン酸ビス(2−エチルヘキシル)との混合物、又は、メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケート(25重量%)とビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート(75重量%)との混合物にリン酸ビス(2−エチルヘキシル)を加えた混合物が挙げられる。
【0068】
本発明において、上記成分(C)の含有量は上記重合性組成物の総重量に対して0.1〜2重量%であり、好ましくは0.2%〜1.5重量%である。
【0069】
添加剤
上記成分(A)又は成分(B)、或いはこれら両者には、上記混合工程に先立ち、或いはこれらの混合時に、更なる添加剤が混合されてもよい。
これらの添加剤としては、フォトクロミック色素やブルーイング剤等の色素、ベンゾトリアゾール系のUV吸収剤、IR吸収剤、酸化防止剤、防曇剤、及びラジカル捕捉剤が例示されるが、添加剤はこれらに限定されない。
塩類を組成とする無機ナノ粒子、好ましくは酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン又は酸化ジルコニウムを添加することにより、硬度、耐衝撃性、耐摩耗性等の機械的性質を更に改良することができる。
【0070】
本発明の重合性組成物は、それ自身に離型作用があるため、ノニオン系フッ素化界面活性剤、ノニオン系シリコン界面活性剤、4級アルキルアンモニウム塩又はリン酸モノエステル等の内部離型剤を新たに添加する必要がない。
【0071】
本発明の重合性液状組成物を用いることにより、高屈折率で優れた光学的及び物理・機械的性質を有する製品を、簡便で安価な注型方法により産業規模で製造することができる。
【0072】
本発明はまた、上記組成物の注型及び重合プロセスで得られる有機ガラスに関する。
本発明はさらに、本発明の組成物を用いて上述のような注型及び重合プロセスで得られる上記有機ガラスからなる最終製品又は光学部品に関し、具体的には眼鏡レンズ並びにサングラス、フレネルレンズ、保護具並びに安全具、ディスプレイ、光ディスク基板、ディスプレイパネル並びにビデオディスプレイユニット、光導波路、携帯電話部品、透明チューブ等が例示される。
これらの最終製品又は光学部品は、半製品を加工機械を用いて加工することにより製造することもできる。
上記最終製品又は光学部品には、耐擦傷性コーティングによる表面硬化処理を施したり、或いは通常のADC最終製品に適用される反射防止技術又は材料を適用してもよい。
【0073】
前述したように、本発明に係る上記重合性組成物は、自身の良好なポットライフの長さと相まって、粘度が非常に低いので、様々な成分組成の混合物が極めて均一に調製され、したがって産業規模で製造される最終的な光学製品も無欠陥の状態で得ることができる。
この性質は、本発明の目的でもある手動注型による有機ガラスの製造プロセスにおいて特に重要である。なぜなら、この性質のおかげで、短時間内に多数のモールドを充填することができ、したがって産業規模による製造に必須の要件が満たされるからである。
【0074】
上記ポリチオウレタン熱硬化性プラスチック材料、即ち本発明のプロセスで得られる有機ガラスは、ADCポリマーと同様に優れた光学的性質と優れた加工性を有するが、後者に関しては遙かに高い耐衝撃性と靱性とを達成している。この性質のおかげで、上記ポリチオウレタン熱硬化性プラスチック材料は、ADCポリマーでは製造し得なかった複雑な最終製品を製造するに好適な材料となる。
【0075】
既に述べたように、上記触媒の使用量および上記3級アミンと上記二置換リン酸の2成分間モル比は、上記重合性組成物のポットライフを短時間から十分な長時間に亘る範囲で変化させたり、同時に、重合時間を短縮して経済効果を高めたり、本発明の触媒やプロセスを工業生産に適合させる目的で、本発明のプロセスにおいて決定し、且つ最適化することができる。これらについては、以下に述べる実験例で明かとなろう。
【0076】
以下の実験例では、本発明に係る上記重合性組成物の25℃におけるポットライフを、調製した時点から連続的にその粘度を測定することで評価した。
まず、上記粘度が300センチストークスを超えると混合物の取り扱い(特に、濾過とモールドへの充填)が困難になると仮定し、粘度がこの値に達するまでの所要時間を本発明の範囲におけるポットライフと定義する。したがって、従前の定義によれば、25℃における適切なポットライフは少なくとも2時間に相当する。
【0077】
下記の実験例の重合性液状組成物を前述のように組み立てたモールドを用い、場合により可塑剤を添加したポリ塩化ビニル、低密度ポリエチレン(LDPE)、又は他の適当な材料からなるガスケットをプロセス条件に応じて併用することにより、平板と眼鏡レンズを製造した。
【0078】
特に驚くべき知見として、重合触媒として3級アミン(好ましくはトリアルキルアミン)と二置換リン酸(好ましくはアルキルリン酸)との特定の混合物を、化学量論的ではなく正確に1/1.3〜1/20のモル比の範囲で用いることにより、反応性に対するポットライフの制御性が向上し、且つ、反応の触媒作用や離型性の変化度が大きくなった。
【0079】
次に、強制通風型のオーブン内で熱処理を施すことにより、上記重合性液状組成物を重合させた。この際の緩やかな昇温条件は、後述の実験例で示す。
重合生成物、即ちこうして得られる有機ガラスの物理・機械的性質を調べた。特に、下記の諸特性について調べた。
【0080】
(a) 光学特性
屈折率(n20):アッベ屈折計を用いて測定(ASTM D−542)。
黄色度(YI)(ASTM D−1925):マクベス分光光度計Color−i5を用いて測定し、次式により算出した。
YI = 100/Y・(1.277X−1.06Z)
光透過率(ASTM D−1003):マクベス分光光度計Color−i5を用いて測定し、三刺激値Yで表す。
ヘイズ% (ASTM D−1003):マクベス分光光度計Color−i5を用いて測定。
【0081】
(b) 物理・機械特性
密度:静水圧計(hydrostatic scale)を用いて20℃で測定(ASTM D−792)。
ロックウェル硬度(M):ロックウェル・デュロメーターを用いて測定(ASTM D−785)。
ノッチ無しアイゾット衝撃強度(ASTM D−256 modified)
曲げ加重1.82MPa下の変形温度(HDT)(ASTM D−648)。
【0082】
(c) 耐薬品性
平板 サンプルを下記の各溶媒に5分間浸漬した後の欠陥の発生状況を評価した。溶媒は、アセトン、エタノール、HSO(40%水溶液)、及びNaOH(10%水溶液)。
本発明の重合性組成物を注型及び重合プロセスに供することの利点を、従来のプロセス及び組成物を比較として適宜挙げながら、下記の実施例で明らかにする。
【0083】
実施例1
表1に示す分量の各成分(A),(B)及び(C)からなる本発明の組成物No.1を調製した。
成分(A)
成分(A)は4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)よりなる。
成分(B)
成分(B)は、エチレングリコール−ジ(3−メルカプトプロピオネート)と2,3−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−1−プロパンチオールとを25℃、10mbarの条件下で混合して得た。
成分(C)
成分(C)はトリエチルアミンとリン酸ビス(2−エチルヘキシル)とを25℃で混合して得た。
【0084】
【表1】
【0085】
凡例:
H12MDI = 4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)
GDMP = エチレングリコール−ジ(3−メルカプトプロピオネート)
DMPT = 2,3−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−1−プロパンチオール
TEA = トリエチルアミン
ビス(2−EHP) = リン酸ビス(2−エチルヘキシル)
【0086】
注型(手動注型)
成分(A)1,500gと、予めTEA0.82gとビス(2−EHP)8.18g(TEA/ビス(2−EHP)のモル比=1/3.1)とを混合して調製した成分(C)9gとを、温度計と磁気撹拌子を備えたジャケット付き二口フラスコに投入した。
溶液全体を25℃で約1時間、不活性窒素雰囲気下で混合した。こうして得られた脱気された透明な液体に、予め調製しておいた成分(B)1,000gを加えた。
溶液全体を25℃で約30分間、絶対圧力10mbar下で混合し、本発明に係る重合性組成物を得た。25℃におけるポットライフの経時変化を、同温度における粘度を測定することにより評価した(表2)。
【0087】
【表2】
【0088】
上記のデータより、本組成物のポットライフは4時間より長く、したがって手動注型による光学部品の工業生産に適していることがわかる。
【0089】
この様にして得た重合性組成物をガラス製のモールドに充填し、強制通風式オーブン内で24時間かけて40℃から130℃まで徐々に温度を上げながら重合させた。
重合終了後、モールドを開くと、剥離(pre-release)やモールドの損傷を生ずることなく、厚さ2mmのニュートラルレンズと、厚さ3mmの平板とを取り出すことができた。これらの製品について諸特性を測定し、表3に示した。
また、比較のため、前述の方法で重合させて得たADCポリマーの諸特性も表3に併せて示す。
【0090】
【表3】
【0091】
本発明に係る上記ポリチオウレタンは、高屈折率でアッベ数が大きく、またADCポリマーと同等もしくはそれ以上に光学的、物理・機械的性質に優れ、特に密度は約7%低く、衝撃強度は4倍以上大きく、HDTは40℃以上高い。
【0092】
実施例2
実施例1の手順に従い、表4に示す各成分(A),(B)及び(C)の分量と条件に従って本発明に係る組成物No.2〜5を調製した。
【0093】
【表4】
【0094】
上述の様にして得られた、脱気した透明溶液の初期粘度を測定し、続いて同じ温度で経時的に粘度を測定した。結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
上記のデータより、各組成物のポットライフは2時間より長く、したがって手動注型による光学部品の工業生産に適していることがわかる。
また、表5のデータより、触媒濃度と、該触媒を構成する2成分のモル比を変化させることで本発明に係る混合物の安定性がどの様に変化するかが明かである。
【0097】
この様にして得た各重合性組成物No.2〜4をガラス製のモールドに充填し、強制通風式オーブン内で24時間かけて40℃から130℃まで徐々に温度を上げながら重合させた。
重合終了後、モールドを開くと剥離(pre-release)やモールドの損傷を生ずることなく、厚さ3mmの平板を取り出すことができた。これらの製品について諸特性を測定し、表6に示した。この結果、本実施例に係る透明ポリチオウレタン類は、本発明の実施例1の重合性組成物と全く同様に、優れた光学的、物理・機械的性質を有していることがわかる。
【0098】
【表6】
【0099】
実施例3
表7に示す分量の各成分(A),(B)及び(C)を含む本発明の組成物No.6を調製した。
成分(C)は、下記の化合物を25℃で混合して得た。
メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルセバケート(25重量%)及びビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート(75重量%);
リン酸ビス(2−エチルヘキシル)(ビス(2−EHP))。
【0100】
【表7】
【0101】
上述の様にして得られた、脱気した透明溶液の初期粘度を測定し、続いて同じ温度で経時的に粘度を測定した。結果を表8に示す。
【0102】
【表8】
【0103】
上記のデータより、上記組成物のポットライフは2時間より長く、したがって手動注型による光学部品の工業生産に適していることがわかる。
【0104】
この様にして得た重合性組成物No.6をガラス製のモールドに充填し、強制循環式オーブン内で24時間かけて40℃から130℃まで徐々に温度を上げながら重合させた。
重合終了後、モールドを開くと剥離(pre-release)やモールドの損傷を生ずることなく、厚さ3mmの平板を取り出すことができた。この製品について、表9に示す諸特性を測定した。この結果、本実施例に係る透明ポリチオウレタン類は、本発明の実施例1の重合性組成物と全く同様に、優れた光学的、物理・機械的性質を有していることがわかる。
【0105】
【表9】
【0106】
比較例1
表10に示す各成分(A),(B)及び(C)の分量と条件に従って比較組成物No.1C及び2Cを調製した。
【0107】
【表10】
【0108】
上述の様にして得られた、脱気した透明溶液の粘度を測定した。調製1時間後の25℃における粘度を測定したところ、500センチストークスよりも高く、またポットライフも2時間より短いため、いずれも手動注型による光学部品の工業生産には不向きであることがわかった。
【0109】
上記の様にして得られた重合性組成物をガラス製のモールドに充填し、強制循環式オーブン内で24時間かけて40℃から130℃まで徐々に温度を上げながら重合させた。
しかし、モールドのガラス壁への付着力が強過ぎ、重合終了後にモールドを開くことも樹脂平板を取り出すこともできなかった。
【0110】
比較例2
表11に示す比較組成物No.3及びNo.4は、特開2008−074957号公報に記載の作用を再現するものである。
【0111】
【表11】
【0112】
上記公報の記載に反して、両溶液共、トリエチルアミンを添加した途端に高粘度のゲルを形成し、光学部品の工業生産には不向きであることがわかった。
アミンとスルホン酸との添加の順番を入れ替えても、結果は同じであった。