【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上述の最新の組成物および製造プロセスの欠点を克服するために為されたもので、光学的な欠陥が無く、既に市販されている或る種の高屈折材料の好ましい特性をすべて備え、特に最適な光学的性質、最適な加工性、及びADCポリマーの様な染色性を有し、しかも靱性と耐衝撃性が改善された新規な有機ガラスを製造することを目的とする。
本発明はまた、新規な材料から最終製品としての有機ガラスを得る、簡易で、安価で、産業規模での実施が可能な製造方法を見出すことを目的とする。
【0016】
本発明はこれら双方の目的を達成するものである。本発明は実際、優れた物理・機械的性質を有するポリチオウレタン型の熱硬化性プラスチックからなる高屈折率で透明な最終製品を、重合性液状組成物を出発物質として製造するための、簡易な注型プロセスに関する。
【0017】
本発明者らは、錫系の有機金属触媒を含有せず、より簡易で、製造プロセスを単純化かつ容易化することができ、優れた離型性と、高い反応性を実現するとともに、得られる製品の屈折率を高め、光学的性質、靱性及び耐衝撃性を改良することが可能な、驚くべき新規な触媒系を見出した。
【0018】
本発明の第1の目的は、ポリチオウレタン有機ガラス用重合触媒を提供することにある。この触媒は、有機金属化合物を含まず、下記の混合物からなる。
下記一般式(1)で表される脂肪族3級アミン:
【0019】
【化2】
【0020】
式中、R1,R2及びR3は、互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状の脂肪族基又は炭素数3〜20の脂環族基を表し、これらの基はN,O,P,S,ハロゲン等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
下記一般式(2)で表される二置換リン酸:
【0021】
【化3】
【0022】
式中、R2及びR4は、互いに同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖又は分枝状の脂肪族基又は炭素数3〜20の脂環族基を表し、R3,R5は同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜3の
アルキレン基を表し、mとpは0,1又は2である。
上記脂肪族3級アミンと二置換リン酸のモル比は1/1.3〜1/20、好ましくは1/1.5〜1/15である。
【0023】
本発明の更なる目的は、実質的に下記の3成分(A),(B)及び(C)からなるポリチオウレタン型の重合性液状組成物を提供することにあり、上記成分(A)は少なくとも1種類の脂環族ジイソシアネートモノマーを含み、該成分(A)中の遊離イソシアネート基の含有量は該成分(A)の総重量に対して約20%〜約50重量%、好ましくは約25%〜約40重量%であり、上記成分(B)は少なくとも1種類のポリチオールを含み、該ポリチオールの分子量は50〜1,200g/モル、好ましくは100〜1,000g/モルであり、官能性は2〜5、好ましくは2〜4であり、上記成分(A)と(B)との重量比は0.5:1〜2:1、好ましく1:1〜2:1であり、上記成分(C)は本発明の触媒である。
【0024】
上記2成分(A),(B)のいずれか一方又は両方に、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、ラジカル捕捉剤、色補正用色素等の添加剤が含まれていてもよい。本発明の重合性組成物には、ノニオン系フッ素化界面活性剤、ノニオン系シリコン界面活性剤、アルキル4級アンモニウム塩又はリン酸モノエステル等の内部離型剤を別個に添加する必要はない。
【0025】
本発明の更なる目的は、ポリチオウレタン型の重合性液状組成物の注型と重合プロセスを想定した有機ガラスの製造方法を提供することにあり、該製造方法は下記の各工程を含む。
混合工程a):成分(A)と(C)とを混合する。ここで、成分(A)は1種類の脂環族ジイソシアネートモノマーか、又は複数種類の脂環族ジイソシアネートモノマーの混合物であり、成分(C)は本発明に係る有機金属化合物を含まない重合触媒である。
混合工程b):a)で得られた溶液と、成分(B)とを混合する。成分(B)は少なくとも1種類のポリチオールを含むが、他の添加剤を含んでいてもよい。
濾過工程c):上記混合物中に含まれるあらゆる汚染物質を除去する。この濾過は、混合工程b)に先立ち、成分(A)と(B)について個別に、又は一括して行ってもよい。
充填工程d):工程c)で得られた混合物をモールド内に充填する。
重合工程e):モールド内に充填された液状組成物を熱処理により重合させる。
【0026】
上記重合は通常、液状組成物を充填したモールドを徐々に加熱することにより行われ、後述するように、低温から高温への昇温を数時間から数十時間かけて行う。
【0027】
均一な光学部品を得、かつ同一製品内における脈理(flow lines)等の光学的欠陥を回避する上で、触媒の存在は必要であり、この触媒により昇温時の熱の制御性が良くなるとともに重合効率が高まり、重合反応が最後まで進行し、耐熱性や耐衝撃性等の物理・機械的性質が最適化されたポリマーを製造することができる。
【0028】
また、重合性組成物がモールドに注入されるまでの間のポットライフを十分に長く確保するため、上記触媒は低温域における重合反応性が低く抑えられている必要がある。
【0029】
本発明の更なる目的は、これらの組成物の注型及び重合プロセスにより得られる有機ガラスに関する。
【0030】
最後に、本発明の更なる目的は、眼鏡レンズ、光学フィルタ、板、ディスプレイ、サングラス等、上記重合性組成物の注型及び重合プロセスにより得られる有機ガラスを含む製品又光学部品を提供することにある。
【0031】
ポリチオウレタン型の重合性液状組成物を出発物質として有機ガラスを得るために行われる、モールドに注型する方法は、手動で行っても、或いは混合・注入機を用いて行ってもよい。
本発明により重合性組成物を出発物質として光学部品を製造するこれら2通りの方法について、簡単に述べる。
【0032】
手動による注型
手動による注型によって本発明の有機ガラスを製造する方法は、下記の各工程を含む。
a)混合工程;2成分(A)と(C)とを、適切な重量比で混合する。この混合工程a)は通常、例えば20℃〜30℃の室温付近、不活性ガス雰囲気中又は絶対圧力10〜20mbarの真空中、混合時間約1時間の条件で行われる。
b)混合工程:混合工程a)の終了後、該混合工程a)で得られた溶液と、成分(B)とを、温度20〜30℃、絶対圧力10〜20mbarの真空中、混合時間0.5〜1時間の条件で行う。
c)濾過工程:最終製品の光学特性を損なう虞のあるあらゆる汚染物質を除去する。
この目的に照らし、ポリプロピレン製又はナイロン製のカートリッジ式で、絶対濾過精度0.5〜1ミクロンのフィルタを用いることが好ましい。
上記濾過は、混合工程b)に先立ち、成分(A)と(B)について個別に、又は一括して行ってもよい。
真空下での混合中は溶液の脱気を徹底的に行い、重合後の光学部品中に気泡を残さないようにする。
【0033】
d)充填工程;モールドの充填は重力注型法により行うか、或いはメカニカル・ポンプやガス圧の助けを借りて行う。
e)重合工程:上記液状組成物を、モールド温度を20〜140℃、好ましくは30〜130℃、重合時間を通常1〜40時間、好ましくは3〜30時間として、熱処理により重合させる。
【0034】
上記注型は、ガラスやメタル等、様々な材料からなるモールドを用いて行うことができる。
但し、眼鏡レンズの製造には従来、ガラスや金属からなるモールドが使用されており、これらは例えば重合反応に伴う発熱をより効果的に分散させる観点から有利である。
金属製のモールドとしては、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、銅、クロム、銀、又は金からなるモールドが好適である。
【0035】
本発明に適用可能な手動注型の手法は、ADCモノマーを用いた場合の注型手法と全く同じであるが、本発明に係る注型工程と重合工程には、上記重合性組成物の調製を室温付近で行えるという利点がある。
【0036】
混合・注入機を用いた注型法
上述したように、もう一つの方法として、本発明に係る重合性組成物の注型方法を混合・注入機を用いて行うこともできる。
本機の概要を
図1に示す。
【0037】
本機は、実質的に下記の構成要素よりなる。
各々成分(A)+(C)及び成分(B)を混合するための2基の混合タンクR(A+C),R(B)。これら2個のタンクは、真空下で液体を脱気する機構を備える。タンクR(A+C)には、予め必要量の成分(A),(C)を満たしておく。
脱気した2種類の液体を適当なポリプロピレン製フィルタを通して別々の流路で送るための、図示しない2台のメンブレン・ポンプ。
濾過と脱気を経た2種類の液体成分を貯蔵する2基の貯液タンクS(A+C),S(B)。
貯液タンクS(A+C),S(B)から重力にしたがって供給される液体成分を送出する、図示しない2台の流量比可変式ギヤ・ポンプ。
図示しない1台のツインミキサー・ガン。
2種類の成分液体を上記ガンの出口で混合し、得られた混合物をモールド充填部Sに直送する、1台の静的・動的ミキサーM。
【0038】
上記2台の混合タンクR(A+C),R(B)を除く構成要素の全ては、1台の小型の機械としてコンパクトにまとめられ、2種類の成分(A)+(C),(B)を指定の様々な分量比及び温度で混合することができ、また、得られた重合性混合物を様々な注入速度で注入することができ、本発明のプロセスで想定される条件に対応することができる。
【0039】
上記の混合・注入機を用いた注型プロセスは、下記の工程を含む。
成分(A),(C)の混合物を、ライン(1)を通じて、また成分(B)をライン(1')を通じて各混合タンクR(A+C),R(B)に投入する。UV安定剤、色素等の添加剤がどの成分にも予め含まれていない場合には、この工程でいずれかのタンク、又は双方のタンクに添加剤を投入してもよい。
各液体を、約20〜30℃で約1時間、真空下で撹拌しながら脱気する。
脱気した各液体を、メンブレン・ポンプを用い、ライン(2),(2')を通じて2基の貯液タンクS(A+C),S(B)へ移送する。流路途中には、濾過精度1ミクロンのポリピプロピレン製フィルタを設置する。
2台のギヤ・ポンプを用い、これら2種類の成分(A)+(C),(B)を所望の重量比で別々の配管(3),(3')を経てツインミキサー・ガンへ供給し、更にそこから静的・動的ミキサーMへ送出し、得られた均一な重合性混合物をモールド充填部Sへ向けて注入する。
【0040】
上記成分(A)+(C),(B)の移送工程及び供給工程の温度、及び注入速度は、使用する組成物の物理化学的性質、製造される光学部品の種類及びその複雑さに応じて選択される。
前述の手動による注型と同じ考え方及び条件が、本注型法及び液状組成物の重合にも適用可能である。
本発明に係る上記重合性液状組成物によれば、高屈折率で優れた光学的、物理・機械的性質を有する製品を、簡便で安価な注型プロセスにより産業規模で生産することができる。
【0041】
手動による注型においては、「ポットライフ」と呼ばれる重合性液状組成物の経時安定性,即ち、混合物が実用に供されるに十分な低粘度を維持できる調製後の経過時間が重要なパラメータとなる。
実際、このポットライフが十分に長くないと、3成分(A),(B),(C)を接触させた途端に重合反応が非常に早く進行してしまい、粘度の急速な増加がおき、溶液の均一化や、その後のモールド充填が非常に難しくなってしまう。このような場合、ごく少数のモールドしか充填することができず、結果的に無欠陥の光学レンズの製造数が足りず、プロセスが工業生産上の要求とは相容れないものになってしまう。
【0042】
一方、混合・注入機を用いて注型を行う場合は、触媒を添加した溶液が直ちにモールド内へ注入されるので、ポットライフは重要なパラメータとはならない。
本発明の重合性液状組成物を製造するための触媒によれば、重合反応の触媒作用に高い融通性が付与され、採用する注型プロセスに応じてポットライフを延長したり短縮することも自在で、しかも工業製品として望ましい性質である優れた離型性を達成することができる。