【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者等は、先ずオリフィスを用いた圧力式流量制御装置をベースにし、これの流量モニタをリアルタイムで行うために
図6及び
図7の点線枠内のような二種の構成のオリフィスを用いた流量モニタ付圧力式流量制御装置を構想した。
図6及び
図7に於いて、1は流量モニタ付圧力式流量制御装置、2は熱式流量センサ、3はコントロール弁、4は温度センサ、5は圧力センサ、6はオリフィス、7は制御部、8は入口側流路、9は出口側流路、10は装置本体内の流体通路であり、
図6に於ける熱式流量センサ2とコントロール弁3の取付位置を入れ替えしたものが
図7の流量モニタ付圧力式流量制御装置である。
【0016】
尚、流量制御方式としてオリフィスを用いた圧力式流量制御装置を採用したのは、流量制御特性が良好なこと及びこれ迄の使用実績が多いこと等がその理由である。
また、熱式流量センサ2を流量モニタ用センサとしたのは、主として流量センサとしての使用実績と流量センサとしての優れた特性のためであり、また、リアルタイム測定の容易性、ガス種の変化に対する対応性、流量測定精度、使用実績等が他の流量測定センサよりも高い点を勘案した結果である。更に、オリフィスを用いた圧力式流量制御装置の装置本体内の流体通路10に熱式流量センサ2を一体的に組み付けしたのは、流量モニタが行い易く且つ流量モニタ付き圧力式流量制御装置の小型化が図り易いからである。
【0017】
即ち、上記
図6及び
図7に示した構成のオリフィスを用いた流量モニタ付圧力式流量制御装置1は、圧力制御式流量制御を基本とするものであり、供給圧力変動の影響を受けないこと、オリフィス上流側の圧力降下特性を利用してオリフィスの異常検知が可能なこと、装置本体に内蔵の圧力センサで供給圧力のモニタが可能なこと及び熱式流量センサで流量の連続監視が可能なこと、等の特徴を具備するものである。
【0018】
一方、問題点としては、先ず第1に、供給圧力の変化による熱式流量センサの出力の変動が考えられる。即ち、供給圧力の変化によって熱式流量センサの出力が変動するため、供給圧力変化時は制御流量との誤差が発生する可能性ある。そのため、熱式流量センサの応答性を遅延させて供給圧変化による出力変動を緩和する、等の対応が必要になる。
【0019】
第2の問題はゼロ点調整時の条件の点である。一般にゼロ点調整は、圧力センサでは真空引き下で実施され、また、流量センサでは封止状態下で実施される。従って、間違った条件下でゼロ調整が実施されないようにプロテクトする必要がある。
【0020】
第3の問題は、熱式流量センサのサーマルサイフォンの現象である。即ち、熱式流量センサの搭載により、設置方向を予め決めておくことが必要となり、その結果、ガスボックスの設計と並行して、圧力式流量制御装置の設置方向を検討する必要がある。
【0021】
第4の問題は、実ガス流量の校正の点である。一般に流量の測定に於いては、同一流量であってもガス種により、熱式流量センサや圧力式流量制御装置の流量出力値が異なって来る。その結果、当該圧力式流量制御装置の使用現場において熱式流量センサのコンバージョン・ファクタ(C.F値)や圧力式流量制御装置のフローファクタ(F.F値)を自動演算するシステムを付加する必要がある。
【0022】
第5の問題は、制御流量が異常時の対応である。現在の圧力式流量制御装置では、アラーム及び制御流量の誤差等がディスプレイ上に表示されるが、圧力式流量制御装置と熱式流量センサによるモニタ流量との出力差が所定のしきい値を越えると、異常と判断するシステムが必要になる。
【0023】
そこで、本願発明者等は、先ず
図6及び
図7の各流量モニタ付圧力式流量制御装置1について、新たに組み込みした熱式流量センサ2についてのその各種特性の評価試験を実施した。
【0024】
即ち、
図6及び
図7の如く、N
2容器から成る流体供給源11、圧力調整器12、パージ用バルブ13、入力側圧力センサ14を入口側流路8へ接続すると共に、データロガ(NR500)15を制御部7に接続し、更に、出口側流路9を真空ポンプ16により真空引きするようにした特性評価系を構成し、当該特性評価系を用いて、熱式流量センサ2のステップ応答特性、モニタ流量精度、供給圧変動特性、繰り返し再現性を評価した。
【0025】
上記ステップ応答特性は、所定の流量設定のステップ入力に対する熱式流量センサ出力の応答性を評価するものであり、設定流量を100%(フルスケール)F.S.=1000sccm)から20%、50%、100%にステップ変化させた場合の出力応答を評価した。
図8、
図9及び
図10は設定流量20%、50%、100%の場合のデータロガ15における圧力式流量制御装置1の流量設定入力A
1及びその時の流量出力A
2と、熱式流量センサ出力B
1(
図6の場合)、熱式流量センサ出力B
2(
図7の場合)の測定結果を示すものである。
【0026】
図8〜
図10からも明らかなように、熱式流量センサ2の出力は設定開始から約4sec以内で、設定出力の±2%以内に収束することが確認された。
【0027】
前記モニタ流量精度は、各流量設定から設定値をS.P.単位でずらしたときの、熱式流量センサ出力の変化量を測定評価したものであり、誤差設定条件は−0.5%S.P.、−1.0%S.P.、−2.0%S.P.及び−3.0%S.P.としている。
【0028】
図11及び
図12からも明らかなように、熱式流量センサ2のモニタ流量精度は流量設定に応じて、セットポイント(S.P.)単位で変化して行くことが判明した。
【0029】
前記供給圧変動特性は、一定流量制御時に供給圧を変動させた場合の熱式流量センサ出力の変動状態を示すものであり、流量設定を50%とし且つ供給圧の変動条件を50kPaGとして測定した。
【0030】
図13はその測定結果を示すものであり、熱式流量センサ2をコントロール弁3の上流側(一次側)に設置した場合(
図6の場合)には、供給圧変動による熱式流量センサ2の流量出力の変化は±0.5%F.S./divの範囲をはるかに越えるが、コントロール弁3の下流側(二次側)に設置した場合(
図7の場合)には、流量出力の変化が±0.5%F.S./divの範囲内に納まること、即ちガス供給圧の変動の影響を受け難いことが判明した。
【0031】
前記繰返し再現性は、流量設定を20%及び100%として0%から設定流量までを繰返し入力し、熱式流量センサ出力B
1、B
2の再現性を測定したものである。
【0032】
図14及び
図15からも明らかなように、熱式流量センサ出力の繰り返し再現性は±1%F.S.及び0.2%F.S.の範囲内にあり、規則正しい正確な再現性を示すことが判明した。
【0033】
尚、前記
図6及び
図7に於いて使用した熱式流量センサ2は株式会社フジキン製のFCS-T1000シリーズに搭載されるセンサであり、所謂熱式質量流量制御装置(マスフローコントローラ)の熱式流量センサとして汎用されているものである。
【0034】
前記熱式流量センサ2に対する
図6及び
図7に基づく各評価試験(即ちステップ応答特性、モニタ流量精度特性、供給圧変動特性及び繰り返し再現性特性)の結果から、本願発明者等は、熱式流量センサ2の取付位置は、ステップ応答特性、モニタ流量精度特性及び繰返し再現性特性の点では、コントロール弁3の上流側(一次側)であっても下流側(二次側)であってもその間に優劣は無いが、供給圧変動特性の点から、熱式流量センサ2は圧力式流量制御装置のコントロール弁3の下流側(2次側)に設けるのが望ましい、即ち
図7の構成とする方が望ましいことを見出した。
【0035】
また、本願発明者等は、熱式流量センサ2をコントロール弁3の下流側(2次側)に設けた場合には、コントロール弁3とオリフィス6間の内容積が大きくなることにより、ガスの置換性が低下することになり、小流量型の圧力式流量制御装置の場合には圧力降下特性が遅くなり(即ち、ガス抜け特性が悪化する)、これ等の点が問題となることを見出した。
【0036】
而して、上記
図6乃至
図10に示した各評価試験は、何れも最大制御流量が1000SCCMの流量モニタ付圧力式流量制御装置を用い且つ流体供給圧を350kPaGとした場合の結果であり、流量モニタ付圧力式流量制御装置の最大制御流量(フルスケール流量)が1000SCCM以外の場合については、どのような応答特性が得られるかが不明である。
そこで、本願発明者等は、
図7に示した評価試験装置を用いて、最大制御流量が2000SCCM(以下F.S.2SLMと呼ぶ)及び最大制御流量が100SCCM(以下F.S.100SCCMと呼ぶ)の流量モニタ付圧力式流量制御装置を用いて、供給圧力300kPaGにおける応答特性試験を行った。
【0037】
図19は、制御流量設定を0−50−0%とした場合の応答試験結果を示すものであり、F.S.2SLMのモニタ付圧力式流量制御装置を用い、流体供給圧を300kPaG(N
2)とした場合の結果である。
図19からも明らかなように、
図1に於ける熱式流量制御部1bの出力B
2(即ち、熱式流量センサ2により検出したリアルタイムモニタ流量)は、検出開始から1秒間以内に安定検出値に達し、F.S.2SLMの場合には所謂オーバーシュート現象が見られない。
【0038】
一方、
図20は、制御流量設定を0−50−0%とした場合のF.S.100SCCMの試験結果を示すものであり、熱式流量制御部1bの出力B
2(リアルタイムモニタ流量)は1秒間以内で安定検出値に達するが、過渡的に相当に大きなオーバーシュート(流れ込み)が発生する。
このように、流量容量の小さな圧力式流量制御部1aの場合には、熱式流量モニタ制御部1bの検出値にオーバーシュートが発生し、モニタ流量値の測定精度が低下すると云う問題があることが判明した。
【0039】
そこで、本願発明者等は、上記熱式流量制御部1bの検出値に過渡的なオーバーシュートが生ずる原因とその防止策を検討し、流量モニタ付圧力式流量制御装置本体の構造を、内部の流体通路容積(即ち
図7に於けるコントロールバルブ3とオリフィス6間の通路容積)が可能な限り小さくなるようにした構造にすると共に、コントロールバルブ3とオリフィス6間の流体通路の制御圧力の傾きを用いて熱式流量制御部1bの検出値を補正することにより、熱式流量制御部1bと圧力式流量制御部1a間の検出流量差を減少させることを着想した。
【0040】
更に、流量モニタ付圧力式流量制御装置をガス供給装置等へ取付けした場合には、モニタ流量自己診断の基準となるガス種に応じた熱式流量制御部1bの所謂実ガス出力初期値(以下、実ガスMFM出力初期値と呼ぶ)をメモリさせる必要がある。
そのため、本願発明者等は、流量モニタ付圧力式流量制御装置を置き換えした場合をも含めて、流量モニタ付圧力式流量制御装置を実機取付けした場合の実ガスMFM出力初期値のメモリ手順を検討し、併せて実ガスMFM出力の確認方法等についても検討をし、実ガスMFM出力の初期値メモリ及び実ガスMFM出力の確認の自動化を図ることを着想した。
【0041】
本願請求項1乃至
請求項5の発明は、本願発明者等の上記各評価試験の結果を基にして創作されたものであり、請求項1の発明は、
下記の(1)又は(2)に記載の流量モニタ付圧力式流量制御装置を配管路へ取付けしたあと、先ずN2ガスを導入して圧力式流量制御部1aの制御流量出力A2と熱式流量モニタ部1bのモニタ流量出力B2´との対比を行い、両者の差異が許容範囲内の場合には、次に実ガスを導入して各設定流量値に於ける熱式流量モニタ部1bのモニタ流量出力の初期値を検出並びにメモリした後、実ガス流量自己診断結果から圧力式流量演算部1aの制御流量出力A2に対する熱式流量モニタ部1bのモニタ流量出力B2´の対比を行い、両者の差異が許容範囲内にあれば、実ガスモニタ流量出力B2´を出力すると共に、前記初期値メモリを有効なメモリとすることを発明の基本構成とするものである。
(1)流体の入口側通路8と,入口側通路8の下流側に接続した圧力式流量制御部1aを構成するコントロール弁3と,コントロール弁3の下流側に接続した熱式流量センサ2と,熱式流量センサ2の下流側に連通する流体通路10に介設したオリフィス6と,前記コントロール弁3とオリフィス6の間の流体通路10の近傍に設けた温度センサ4と,前記コントロール弁3とオリフィス6の間の流体通路10に設けた圧力センサ5と,前記オリフィス6に連通する出口側通路9と,前記圧力センサ5からの圧力信号及び温度センサ4からの温度信号が入力され、オリフィス6を流通する流体の流量値Qを演算すると共に演算した流量値と設定流量値との差が減少する方向に前記コントロール弁3を開閉作動させる制御信号Pdを弁駆動部3aへ出力する圧力式流量演算制御部7a及び前記熱式流量センサ2からの流量信号2cが入力され、当該流量信号2cからオリフィス6を流通する流体流量を演算表示する流量センサ制御部7bとから成る制御部7と,から構成した流量モニタ付圧力式流量制御装置。
(2)流体の入口側通路8と,入口側通路8の下流側に接続した圧力式流量制御部1aを構成するコントロール弁3と,コントロール弁3の下流側に接続した熱式流量センサ2と,熱式流量センサ2の下流側に連通する流体通路10に介設したオリフィス6と,前記コントロール弁3とオリフィス6の間の流体通路10の近傍に設けた温度センサ4と,前記コントロール弁3とオリフィス6の間の流体通路10に設けた圧力センサ5と,前記オリフィス6に連通する出口側通路9と,前記オリフィス6の下流側の出口側通路9に設けた圧力センサ17と,前記圧力センサ5及び圧力センサ17からの圧力信号及び温度センサ4からの温度信号が入力され、オリフィス6を流通する流体の臨界膨張条件の監視やオリフィス6を流通する流体の流量値Qを演算すると共に、演算した流量値と設定流量値との差が減少する方向に前記コントロール弁3を開閉作動させる制御信号Pdを弁駆動部3aへ出力する圧力式流量演算制御部7a及び前記熱式流量センサ2からの流量信号2cが入力され、当該流量信号2cからオリフィス6を流通する流体流量を演算表示する流量センサ制御部7bとから成る制御部7と,から構成した流量モニタ付圧力式流量制御装置。
【0042】
請求項2の発明は、請求項1の発明に於いて、N
2ガスを導入後、N
2ガスを用いて流量自己診断を行い、装置に異常が無いことを確認するようにしたものである。
【0043】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明に於いて、実ガスを導入後、実ガスを用いて流量自己診断を行い、装置及び実ガスに異常が無いことを確認するようにしたものである。
【0044】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3の何れかの発明に於いて、N
2ガス導入前及び/又は実ガス導入前において、真空引きを行い流量モニタ付圧力式流量制御装置の圧力センサ5及び熱式流量センサ2の自動零点調整をするようにしたものである。
【0045】
請求項5の発明は、請求項1の発明に於いて、予め定めた複数の圧力式流量制御部の設定流量毎に、熱式流量センサの流量出力を出力開始から予め定めた待ち時間t後に計測し、自動補正された前記計測値をメモリ又は確認するようにしたものである。
【発明の効果】
【0046】
本願発明に於いては、流量モニタ付圧力式流量制御装置を圧力式流量制御部1aと熱式流量モニタ部1bとから形成し、熱式流量モニタ部1bの熱式流量センサ2を圧力式流量制御部1aのコントロール弁3の下流側に位置せしめて有機的に一体化させると共に、制御部7の方は、圧力式流量制御部1aのコントロール弁3の開閉駆動を制御する圧力式流量演算制御部7aと、熱式流量モニタ部1bの前記熱式流量センサ2からの流量信号によりオリフィス6を流通する実流体流量を演算表示する流量センサ制御部7bとを、相互に独立した状態で一体化することにより構成している。
【0047】
また、本願発明に於いては、前記流量センサ制御部7bに、熱式流量センサからの流量信号に基づいて演算したモニタ流量信号B
2を補正するモニタ流量出力補正回路Hを設け、当該モニタ流量出力補正回路Hにより前記モニタ流量B
2を流体制御圧の傾きΔP/Δtを用いてB
2´=B
2−C・ΔP/Δt(ただし、Cは変換係数)に補正し、補正後のモニタ流量B
2´をモニタ流量信号として出力する構成のとしている。
【0048】
その結果、単純な構成の制御部7でもって、簡単且つ正確に、しかも安定した圧力式流量制御を行うことができると共に、熱式流量センサ2による流量モニタを連続的に正確に且つリアルタイムで行うことができる。
【0049】
また、熱式流量センサ2をコントロール弁3の下流側に位置させると共に、コントロール弁3や熱式流量センサ2等の各機器本体を一つのボディに一体的に組み付けする構成としているため、装置本体の内部空間容積が大幅に減少し、ガスの置換性や真空引きの特性が悪化することもない。
【0050】
更に、流体供給源側の流体圧力に変動があっても、熱式流量センサ2の出力特性に大きな変動が発生せず、結果として流体供給側の圧力変動に対して安定した流量モニタと流量制御が行える。
【0051】
本発明の流量モニタ付圧力式流量制御装置では、装置本体30を4個の本体ブロックを組合せすることにより形成すると共に、各ブロック体に必要な流体通路等を形成し、更に第1ブロック体30aにコントロール弁3を、第2ブロック体30bと第1ブロック体30aの間にプレフィルタ29を、第3ブロック本体3cに層流素子2dとオリフィス6を収納し、各ブロック本体30a〜30d相互間を気密に連結する構成としているため、ボディ体30の小型化及びコントロール弁3の出口側とオリフィス6上流側の流体通路10の内容積(長さ及び断面積)の大幅な削減が可能となり、熱式流量センサ2のオーバーシュートが低減すること等により流量制御の応答性が向上すると共に、制御精度の大幅な向上が可能となる。
【0052】
また、熱式流量センサ2のモニタ流量出力補正回路Hを設け、これにより、モニタ流量検出値B
2を、ボディ体30内の流体通路10に於ける制御圧力の傾きΔP/Δtを用いて補正し、この補正後のモニタ流量検出値B
2´をもってモニタ流量の適否を判断するようにしているため、より精度の高い且つ高応答性の流量モニタ及び流量制御を行うことができる。
【0053】
更に、熱式流量センサ2のモニタ流量出力補正回路Hにより補正したモニタ流量出力B
2´を初期メモリ値としているため、より精度の高い実ガスモニタ流量自己診断が可能となる。