【実施例1】
【0037】
図1に紙幣識別装置1の概要を示す。
図1(A)に示したように、紙幣識別装置1は、紙幣100を識別するために紙幣100に向けて光を照射する光源2と、光源2から照射されて紙幣100によって反射された反射光を受光部から受光して出射部から出射するライトガイド10と、ライトガイド10を介して紙幣100からの反射光を受光する光学処理部3と、光学処理部3で処理された光から得られた情報を処理することによって紙幣100を識別する識別処理部4とを有している。
【0038】
図1(B)は、同図(A)とは異なるライトガイド11を利用する場合の例で、ライトガイド11を除く基本構成は同図(A)と同じである。紙幣識別装置1は、光学処理部3に対してライトガイド10又は11が固定して設けられて
図1(A)又は(B)の構成を有する他、ライトガイド10又は11が光学処理部3に対して着脱可能に設けられ、ライトガイド10又は11を差し換えることにより、同図(A)又は(B)の構成を実現するものであっても構わない。
【0039】
また、紙幣識別装置1は、
図1に示した機能部の他に、紙幣100を搬送するための搬送部、紙幣100の到来を検知して処理開始のタイミングを決定するためのタイミングセンサ及び他の装置との間でデータの送受信を行う通信インターフェイス等を含むものであるが、これらについては従来技術と同様であるため説明を省略する。また、紙幣識別装置1は、紙幣100で反射された反射光を利用する態様に限らず、紙幣100を透過した透過光、又は反射光及び透過光の両方を利用することも可能であるが、後述する光学処理が共通するものであるため、本実施例では反射光のみを利用する場合について説明する。
【0040】
光源2は、例えば、LEDやランプ等によって形成され、識別対象となる紙幣100に向けて光を照射する機能を有する。例えば、
図1(A)に示すように、ライトガイド10の複数の受光部10A〜10Eに対応して、複数の白色LEDを配置して光源2として利用する。ただし、光学処理部3が、ライトガイド10及び11を介して十分な光量を受光することができれば、光源2を形成するLED等の個数や種類は特に限定されない。光源2の光量調整や、光源2の点灯及び消灯のタイミングは、光源制御部として機能する識別処理部4によって制御される。
【0041】
ライトガイド10及び11は、例えば無色透明の樹脂材料又はガラス材料から成形された導光板(導光体)であって、一又は複数の受光部から受光した光を所定の出射部から出射させる機能を有する。
図1(A)に示したライトガイド10は、紙幣100の上方(Z軸正方向)で5つの受光部10A〜10Eから光を受光するのに対し、同図(B)に示すライトガイド11は、紙幣100の上方で紙幣100に対向する面全体を受光部11Aとする。
図1はライトガイド10及び11の構造を模式的に示したものであるが、具体的には、例えば、
図2に示すような形状を有している。
【0042】
図2(A)に示すライトガイド10は、紙幣識別装置1において紙幣100に対向して配置された5つの受光部10A〜10Eから受光した光を集光し、1つの出射部10Fから光学処理部3へ向けて出射する。ライトガイド10の形状は、各受光部10A〜10Eから受光した光が内部で反射されて出射部10Fから出射されるように光学的な設計がなされている。また、X軸方向に並んで配置された各受光部10A〜10Eから受光した光が、X軸方向の略中央にある出射部10Fに、大きく異なる強度で到達することがないように光学設計されている。
【0043】
具体的には、例えば、X軸方向の略中央に配置された受光部10Cから、両端外側へ向かうにつれて、受光面の面積が大きくなっている。すなわち、受光部10Cの面積より受光部10B及び10Dの面積の方が大きく、受光部10B及び10Dの面積より受光部10A及び10Eの面積の方が大きくなっている。
【0044】
なお、受光する光量の調整は、受光部等のライトガイドの形状、ライトガイドの材質等を考慮した光学設計により実現する他、例えば、光源2を制御することによって行ってもよい。具体的には、
図2(A)に示すライトガイド10の受光部10A〜10Eの受光面の面積を全て同じ大きさとし、各受光部10A〜10Eに対応して設けられた各光源2から照射する光の光量を制御すればよい。このように、ライトガイド10の形状や、受光部10A〜10Eから出射部10Fまでの光路長等に基づいて、各光源2の光量を制御すれば、各受光部10A〜10Eから出射部10Fに至る光量を制御することができる。また、通常、光量の調整は、各受光部10A〜10Eから受光した光が出射部10Fに略同一の強度で到達するように行われるが、意図的に異なる強度とすることもできる。具体的には、各受光部10A〜10Eに対応して設けられた各光源2から照射する光量や照射タイミング等を制御すれば、例えば、紙幣100上のある領域では強い光を照射して、別の領域では弱い光を照射することもできる。ライトガイド10の形状や各光源2の制御は、紙幣100を識別するために後述するスペクトル分析等を行う際に紙幣100の特徴が表れやすいように、適宜決定されるものである。
【0045】
図2(B)に示すライトガイド11は、紙幣識別装置1において紙幣100に対向する面である受光部11Aから受光した光を出射部11Bから光学処理部3へ向けて出射する。ライトガイド11の形状は、受光部11Aから受光した光が出射部11Bから出射されるように光学設計されている。また、集光機能を有するように、受光部11Aにはフレネルレンズが形成されている。
図2(B)に示すライトガイド11においても、紙幣100上の広い範囲で受光した光を集光し、1つの出射部11Bから出射するようになっている。
【0046】
このように、本実施例に係る紙幣識別装置1は、ライトガイド10又は11を利用することにより、紙幣100上の複数領域又は広い領域からの光を受光した後、受光した光を1つに集光して、後の紙幣100の識別処理に利用することを1つの特徴としている。光学処理部3及び識別処理部4は、集光された光を利用して処理を行うので、従来のように複数のセンサを必要としない。このため、従来装置に比べて簡単な装置構成となり製造コストも抑制することができる。また、複数領域の光学特性を計測しながら、各領域の光学特性を個別に利用するのではなく、集光された光を利用するので処理を高速に行うことができる。
【0047】
ライトガイド10及び11によって計測される紙幣100上の領域の例を
図3に示す。
図2(A)に示すライトガイド10を利用すれば、
図3(A)に示すように、ライトガイド10の下方(Z軸負方向)をY軸方向に通過する紙幣100上の独立した5つの領域101A〜101Eからの光を、各々対応する各受光部10A〜10Eによって受光することができる。
【0048】
また、
図2(B)に示すライトガイド11を利用すれば、
図3(B)に示すように、ライトガイド
11の下方を通過する紙幣100上の広い領域102からの光を受光部11Aによって受光することができる。また、光源2からの光の照射タイミングを制御すれば、
図3(C)に示すように、ライトガイド11の下方を通過する紙幣100の移動する方向(Y軸方向)に一部の領域103A及び103Bのみを対象として、光を受光することもできる。また、
図2(A)に示すライトガイド10についても、同様に、Y軸方向に一部の領域のみを計測することが可能である。
【0049】
ライトガイド10又は11を利用して、複数領域からの光を集光して利用する態様の他、複数領域からの光を個別に計測することも可能である。具体的には、例えば、
図2(B)に示すライトガイド11は、受光部11Aが1つの面から形成されているが、
図1(B)に示したように、複数の光源2が離れた位置に配置されているので、各光源2から光を照射するタイミングを制御することにより、
図3(D)に示すように、紙幣100上の、一部の領域104A〜104Eを計測対象領域として、各領域からの光を個別に受光することができる。
【0050】
また、
図2(A)に示すライトガイド10を利用する場合も、各受光部10A〜10Eに対応する各光源2からの光の照射タイミングを制御して、
図3(D)に示すように、紙幣100上で各受光部10A〜10Eに対応する一部領域104A〜104Eのみを対象として各領域からの光を個別に受光することができる。
図2(A)のライトガイド10によれば、計測対象領域が受光部10A〜10Eに対応して限定されるので、同図(B)のライトガイド11に比べて、より正確に計測対象領域を一部領域104A〜104Eに限定することができる。
【0051】
なお、
図3(D)に示す各領域104A〜104EのY軸方向の位置を合わせれば、選択した任意の2つ,3つ又は4つの領域を同時に計測することも可能である。
【0052】
このように、ライトガイド10及び11の形状や光源2の発光タイミング又は光量を制御することによって、紙幣100上で光を受光する位置及び領域を変更することができる。よって、識別対象となる紙幣100について、一部の領域の光学特性のみを検出すればよい場合には、これに対応してライトガイド10及び11による計測領域を調整することができる。光学的な特徴が得られやすい部分領域のみを対象として計測を行えば、計測結果の後処理に係る負荷を軽減して高速な識別処理が可能になる。また、計測領域を限定することにより、計測結果に対する他の領域の影響を抑制すれば紙幣100の識別精度を向上させることができる。
【0053】
図2(A)及び(B)に示すライトガイド10及び11は、同図に示した正面形状に対して、側方(X軸方向)から見た厚さが薄い平板形状を有している。例えば、正面形状の縦横(X軸方向及びZ軸方向)のサイズが数十mm〜100mm程度であるのに対して、厚みは5mm程度となっている。ただし、本実施例がこれに限定されるものではない。例えば、ライトガイド10及び11が、紙幣100よりも広い幅(X軸方向の寸法)を有していてもよい。
【0054】
また、
図2に示したライトガイド10又は11は一例であって、ライトガイド10及び11の形状は、識別対象となる紙幣100の計測対象領域と、紙幣100と光学処理部3との位置関係に応じて、適宜決定されるものである。具体的には、例えば、受光部から出射部に向けて略L字型や略U字型を形成するものであってもよいし、受光部の数も特に限定されない。
【0055】
このようなライトガイド10及び11を利用することによって、紙幣100からの反射光を受光する位置に対して、光学処理部3を配置する位置の自由度が高くなる。このため、紙幣識別装置1を小型化することができる。また、ライトガイド10及び11によって、紙幣100から受光した光を集光して利用するので、1つのセンサに十分な光量を得て識別処理を行うことができる。
【0056】
また、ライトガイド10及び11の形状を変更したり、光源2の配置位置及び点灯タイミング等を制御することにより、紙幣100上の計測位置及び計測領域を変更して、ライトガイド10及び11で集光する光から得られる光学特性を変更することができる。処理対象となる紙幣100の光学特性に応じて、ライトガイド10及び11の形状や、光源2の位置及び点灯タイミング等を制御すれば、紙幣100を正確に識別することができる。
【0057】
具体的には、例えば、ある紙幣100では、
図3(A)に示すように、金種識別に利用可能な光学特性が得られる領域101A〜101Cと、真偽識別に利用可能な光学特性が得られる領域101D及び101Eとを計測するというように、識別処理に利用する目的に応じて適切な計測領域を設定することができる。この場合には、1回の計測で、金種識別に必要な光学特性と、真偽識別に必要な光学特性の両方を得ることが可能となる。必要な領域のみを計測するので高速に処理を行うことができる。また、識別処理に有効な光学特性を得て紙幣100の識別処理を行うので、金種及び真偽を正確に識別することができる。
【0058】
ライトガイド10及び11は、紙幣100上の複数領域で計測した光を集光して識別に利用することを1つの特徴としている。
【0059】
図9に示す紙幣識別装置を利用して識別処理を行う例を示す。この紙幣識別装置201は、光源207から紙幣100に向けて光を照射して、紙幣100によって反射された光を集光レンズ202によって集光して、コリメートレンズ203によって平行光とした後、スリット部材204に設けられたスリットを通過した光をプリズム205によって分光し、各波長の光の反射強度をCCDセンサ206によって計測するものである。このような従来の紙幣識別装置201の構成、機能及び動作については、例えば国際公開第2009/157049号に開示されている。
【0060】
ここでは、集光レンズ202、コリメートレンズ203及びスリット部材204に代えて、
図2(A)に示すライトガイド10を利用する。そして、光源207から照射され、紙幣100によって反射された反射光をライトガイド10の受光部10A〜10Eによって受光する。ライトガイド10は、出射部10Fから出射する光が、スリット部材204のスリットからCCDセンサ206に入射する場合と同様に、CCDセンサ206に入射するように配置する。そして、プリズム205で分光されCCDセンサ206で計測されたスペクトル分布によって、紙幣100を識別する。
【0061】
この結果、例えば、2種類の異なる金種を有する紙幣100について、
図3(A)に示すように領域101A〜101Eを計測した場合に、
図4(A)に示すスペクトル分布が得られる。
図4(A)では、2種類の各紙幣100のスペクトル分布20及び21を明確に区別することができる。すなわち、ライトガイド10を利用して、スペクトル分布20及び21に基づいて紙幣100の金種を識別することが可能である。
【0062】
紙幣100の金種によっては、例えば、
図4(B)に示すように、2つのスペクトル分布30及び31が広い波長領域でほぼ一致する場合もある。しかし、この場合でも、ある波長領域32において、各紙幣100のスペクトル分布30及び31を明確に区別することができるので、紙幣100の金種を識別することが可能である。すなわち、従来装置の光学系を、本実施例に係るライトガイド10及び11に置き換えることによって、紙幣識別を行うことも可能である。
【0063】
なお、
図4(A)及び(B)は一例であって、
図2に示すライトガイド10及び11を利用して、紙幣100上の計測領域を
図3(B)〜(D)に示すように選択して計測した場合にも、同様に、紙幣100の金種を識別可能である。また、ライトガイド10及び11を利用して紙幣100の真偽識別を行うことも可能である。紙幣100の金種及び真偽の識別は、識別処理の対象となる紙幣100から得られた
図4(A)及び(B)に示したような各スペクトル(20,21,30及び31)を、例えば、予め記憶装置等に保存されている各金種の基準データと比較して判定するが、判定処理については従来技術と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0064】
本実施例は、ライトガイド10又は11により、広い波長域の光を有効に利用して紙幣100を識別できることを1つの特徴とする。しかし、識別に利用する検査光は特に限定されず、従来同様に、紫外光や赤外光等の所定波長域の検査光を利用してもよい。具体的には、紫外光や赤外光等の所定波長域の検査光を紙幣100に向けて照射して、
図3(A)〜(C)に示したように、紙幣100上の各領域からの反射光をライトガイド10又は11によって集光してスペクトル分析を行ってもよい。この場合も、
図4(A)及び(B)の場合と同様に、スペクトル分析の結果から各紙幣100の特徴を得て、金種及び真偽を識別することができる。
【0065】
具体的には、例えば、紙幣100上の
図3(D)に示す部分領域104Dに、所定のセキュリティマークが紫外光に反応する蛍光インクを利用して印刷されている場合には、この領域104Dに紫外光を照射して反射光のスペクトル分析を行って、この分析結果に基づいてセキュリティマークの有無を判定し、真偽識別等に利用することができる。また、部分領域毎にスペクトル分析を行う他、所定領域のスペクトル分析を連続的に行って、スペクトルの変化に基づいて紙幣を識別してもよい。例えば、
図3(A)に示す部分領域101C内に、複数のセキュリティマークが蛍光インクによって印刷されているような場合には、この部分領域101Cに連続的に紫外光を照射して、得られた反射光のスペクトルの変化に基づいて、紙幣を識別することができる。いずれの場合でも、予め判定基準となる基準データを準備して、この基準データと計測データを比較することにより、得られた結果を紙幣100の識別に利用することが可能である。
【0066】
また、本実施例によれば、1つのスペクトル分布によって、金種又は真偽のいずれか一方のみを識別する態様に限らず、両方を同時に識別することも可能である。
図3(A)〜(D)に示したように、本実施例によれば、紙幣100上に複数の計測領域を設定することができる。このため、例えば、金種識別に有効な光学特性を計測可能な領域と、真偽識別に有効な光学特性を計測可能な領域とを設定し、これらの領域から得られた光をライトガイド10又は11を利用して集光してスペクトル分布を生成すれば、金種識別及び真偽識別を同時に行うことができる。
【0067】
図4(A)及び(B)は、横軸が光の波長を示し、縦軸が各波長の光の反射強度を示している。紙幣100の正損識別については、
図4(A)及び(B)に示したようなスペクトル分布の、ある波長域におけるスペクトル波形の特徴から正損識別可能であることが知られている。
【0068】
そこで、本実施例に係るライトガイド10及び11を利用して計測した結果から紙幣の正損識別が可能であることを示す。未使用の新札のスペクトル分布を基準として各紙幣の計測結果を規格化し、縦軸を基準紙幣との強度比、横軸を光の波長としてプロットしたものが
図4(C)である。また、複数の正券及び損券について、このような規格化を行って得られた結果から、同図(C)に示す波長域λ1〜λ2における接線y=ax+bを求め、傾きaを横軸に、切片bを縦軸にプロットしたものが
図4(D)である。なお、ここでは正券として未使用の紙幣である新札及び流通券を利用している。
【0069】
図4(D)では、正券と識別されるべき紙幣100から得られた値を丸印で、損券と識別されるべき紙幣100から得られた値を三角印で示している。このように、しきい値42となる直線を設定すれば、この直線を境界として、正券と識別される紙幣100の分布40と、損券と識別される紙幣100の分布41とを区別することができる。すなわち、ライトガイド10及び11を利用して得られたスペクトル分布から所定の特徴量を算出してしきい値と比較することにより紙幣100の正損識別を行うことも可能である。
【0070】
なお、正損識別に利用する特徴量は、スペクトル分布の傾きに限定されるものではなく、例えば、スペクトル分布を形成する光反射強度を利用することもできる。具体的には、正券と損券との間で光反射強度に差違が生ずるので、正券及び損券を区別可能にしきい値を設定することにより、光反射強度としきい値との比較により正損識別を行うことができる。このとき、センサの数は特に限定されない。また、計測光の波長についても、正損に応じて反射強度の差違を計測可能であれば一の波長のみで計測を行ってもよいし、複数の波長で計測を行ってもよい。例えば、1つのセンサによって計測された複数波長の光反射強度の総和又は所定波長で計測された複数センサの反射強度の総和を利用して、しきい値と比較することにより紙幣の正損を識別することも可能である。
【0071】
本実施例は、紙幣100の金種、真偽及び正損を識別可能な光学性能を有するライトガイド10及び11を利用して、従来装置201とは異なる方法で紙幣100の識別を行う。具体的には、紙幣100表面で反射された光から、光学処理部3によって干渉縞を形成させて、この干渉縞をCCDセンサ55で計測する。そして、干渉縞を識別処理部4によって周波数分布に変換して、この周波数分布に基づいて紙幣100の識別を行うものである。以下では、紙幣識別装置1によるこれらの処理について詳細を説明する。
【0072】
まず、
図1に示すように、光源2から紙幣100に向けて照射された光は紙幣100によって反射されてライトガイド10又は11に入射する。ライトガイド10又は11に入射した光はライトガイド10又は11から光学処理部3へ入射される。光学処理部3内では、入射された光による干渉縞が形成される。
【0073】
図5は、光学処理部3の構成概略を示す模式図である。
図5に示すように、光学処理部3は、同図左側(X軸負方向側)のライトガイド10又は11から入射された光を一様な光に散乱して出射するための散乱板50と、散乱板50から入射された無偏光波を45度の直線偏光波とするための第1の45度偏光板51と、45度偏光板から入射された直線偏光波を複屈折を利用して光路差(位相差)を有する異常光(垂直偏光波)及び常光(水平偏光波)の直交する2つの偏光成分に分離するウォラストンプリズム52と、光路差の生じた異常光及び常光の2つの偏光成分の振動する面を揃えるための第2の45度偏光板53と、2つの光成分をCCDセンサ55に結像させるためのレンズ54と、2つの光成分による干渉光の分布を干渉縞成分として計測するためのCCDセンサ55とを有している。
【0074】
ここでは、光学処理部3の動作について詳細を説明する。
図6は、光学処理部3の内部の光の様子を説明する模式図である。
【0075】
まず、
図6の左側(X軸負方向側)のライトガイド10又は11から光学処理部3に入射された光300は、散乱板50によって散乱されてから、第1の45度偏光板51に入射される。散乱板50によって、ライトガイド10又は11から入射された光300から、ライトガイド10又は11の形状による影響等が取り除かれ、一様な光301となって45度偏光板51に入射される。すなわち、X軸負方向側から散乱板50の一部領域に光が入射された場合でも、これを散乱板50のX軸正方向側の全面から45度偏光板51に向けて一様な光として出射する。
【0076】
次に、45度偏光板51に入射された光301は、
図6に示すように、X軸回りにZ軸に対して45度傾いた方向の直線偏光波302に偏光される。すなわち、無偏光状態で入射された光301が、45度直線偏光波302となる。
【0077】
光学処理部3で利用するウォラストンプリズム52は、
図5に示すように、結晶方向が直交する関係にある第1複屈折材料52a及び第2複屈折材料52bから形成されている。方解石や水晶等から成形された各複屈折材料52a及び52bは、光が進む方向(X軸方向)に対して垂直な方向(Y軸方向)から見た形状が各々くさび形となっている。2つの複屈折材料52a及び52bは、Y軸方向から見て、矩形形状になるようにかつ接合面がこの矩形形状の対角線を形成するように接合されている。
【0078】
ウォラストンプリズム52が、このような形状を有することにより、Z軸方向の位置に応じて、光が、複屈折材料52a及び52bの各々の内部をX軸方向に透過する距離d1及びd2が変化する。
【0079】
すなわち、ウォラストンプリズム52のZ軸方向最下端に入射された光は第1複屈折材料52aのみを透過する。そして、Z軸正方向側に移動するにつれて、第1複屈折材料52aを透過する距離d1が短くなるとともに、第2複屈折材料52bを透過する距離d2が長くなる。こうして、Z軸方向最上端に入射された光は第2複屈折材料52bのみを透過することになる。
【0080】
図6に示すように、ウォラストンプリズム52のZ軸方向のある位置で、光がX軸正方向に進行して第1複屈折材料52aを透過する距離をd1、第2複屈折材料52bを透過する距離をd2、結晶軸方向がY軸方向である第1複屈折材料52a中の異常光303の屈折率をno、常光304の屈折率をneとする。このとき、偏光方向の違いによって生ずる異常光303及び常光304の光路差L1はL1=(no−ne)d1となる。
【0081】
これに対して結晶方向がZ軸方向である第2複屈折材料52b中では、異常光303の屈折率がne、常光304の屈折率がnoとなる。そして、このときの光路差L2はL2=(ne−no)d2となる。
【0082】
なお、スネルの法則に従い、直交する2つの常光304及び異常光303の進行方向が、2つの複屈折材料52a及び52bの境界面において数度傾くことになるため、第2複屈折材料52b中での光路長は、厳密には、d2から変化する。具体的には、例えば、異常光303は、Y軸回りにX軸から0.5度だけZ軸正方向に傾いた方向に進行する。例えば、第2複屈折材料52bとして水晶を利用した場合、d2=5mmとすると、実際の光路長は5.0000192mmとなる。このように、d2は、複屈折材料52a及び52bの屈折率等に応じて変化するが、d2の変化量は非常に微小なものであるため、特に考慮せずとも問題は無い。
【0083】
よって、2つの複屈折材料52a及び52bを透過した後の、異常光303及び常光304の光路差Lは、L=L1+L2=(no−ne)(d1−d2)となる。
図5に示したように、(d1−d2)の値は、ウォラストンプリズム52のZ軸方向の位置によって変化するので、光路差Lも同様に、ウォラストンプリズム52のZ軸方向の位置によって変化する。
【0084】
このように、異常光303及び常光304の光路差Lが、Z軸方向の位置によって変化するので、この2つの光303及び304を干渉させると、Z軸方向に濃淡を有する干渉縞が生ずることになる。
【0085】
そこで、2つの複屈折材料52a及び52bを透過して光路差が生じた異常光303及び常光304の2つの偏光成分の振動する面を、第2の45度偏光板53によって揃えて干渉させる。これにより45度偏光板53を透過した光306は、Z軸方向に干渉縞を形成することになる。
【0086】
光学処理部3は、
図5に示すように、こうして得られた2つの光成分をレンズ54によって、CCDセンサ55上で結像させる。この結果、CCDセンサ55によって、例えば、
図7に示すような干渉縞が計測される。
【0087】
このように、光学処理部3によって、紙幣100の光学特性を示す光から干渉縞を形成することができる。ライトガイド10又は11を介して光学処理部3に入射される光は、紙幣100の光学特性によって異なる光となるため、CCDセンサ55によって計測される干渉縞も、紙幣100によって異なるものになる。このため、干渉縞に表れる特徴に基づいて紙幣100を識別することが可能となる。
【0088】
図1に示す識別処理部4は、CCDセンサ55によって計測された干渉縞をフーリエ変換する。すなわち、
図7に示すような干渉縞を、フーリエ変換することによって、
図8に示すような周波数分布に変換する。この周波数分布は、紙幣100から得られた光を光学処理部3によって干渉縞に変換し、さらにこの干渉縞を識別処理部4によってフーリエ変換して得られたものであるから、紙幣100の光学特性に応じて異なる周波数分布を示すこととなる。このため、周波数分布に表れるピークの位置や大きさ(振幅)等の特徴に基づいて紙幣100を識別することができる。
【0089】
具体的には、例えば、
図8に示したように、金種の異なる2種類の紙幣100を紙幣識別装置1によって計測して得られた周波数分布60及び61では、ピークの立つ周波数やピークの高さが異なるものになる。識別処理部4は、こうして得られた周波数分布60及び61を比較することにより、例えばピーク位置及びピーク高さ等の特徴に基づいて紙幣100の識別を行う。
図4を参照しながら説明したのと同様に、金種、正損及び真偽等の間に表れる周波数分布の差違を利用して紙幣100の識別を行うことができる。ただし、
図8は一例であって、スペクトルが明確なピークを有さず、例えば
図4(A)又は(B)に示したような波形を示す場合もあるが、この場合でも、スペクトルの違いから紙幣100を識別することが可能である。
【0090】
なお、処理対象となる紙幣100の光学特性を、予め紙幣識別装置1を利用して計測し、これを基準データとしてメモリ等の記憶装置に記憶しておけば、この基準データと計測データとを比較することにより複数種類の紙幣100を識別することができる。また、金種、正損及び真偽等の種類の違いを区別できるようにしきい値を設定して紙幣100の識別を行うこともできる。このような紙幣100の識別処理は従来技術と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0091】
また、
図1では、光源2から照射して紙幣100によって反射された反射光をライトガイド10又は11の受光部で受光する例を示したが、本実施例がこれに限定されるものではなく、紙幣100に対してライトガイド10又は11と対向する側(Z軸負方向側)から紙幣100に向けて光を照射して、紙幣100を透過した透過光を利用する態様であっても構わない。反射光又は透過光のいずれか、又は反射光及び透過光の両方のいずれを利用するかは、紙幣100を容易かつ正確に識別可能な光学特性を得られるように、紙幣100の特徴に応じて適宜決定される。同様に、ライトガイド10及び11の形状、紙幣100上の光の計測位置及び計測領域も、処理対象となる紙幣100を容易かつ正確に識別できるように適宜決定されるものである。
【0092】
また、導光板として樹脂製のライトガイド10又は11を利用する態様を示したが、本実施例がこれに限定されるものではなく、例えば、導光体として、光ファイバ等を利用してもよい。
【0093】
上述してきたように、本実施例によれば、紙幣100の表面の光学特性をライトガイド10又は11によって計測することとしたので、紙幣100に対して光学処理部3を配置する位置の選択の自由度が高く、紙幣識別装置1を小型化することができる。また、紙幣識別装置1を小型化することにより製造に係るコストを低減することもできる。
【0094】
また、ライトガイド10又は11を利用することによって、紙幣100の光学特性を広範囲に計測したり部分領域のみを計測したり、各紙幣100の光学的な特徴に合わせて光学特性を検出しやすいように計測位置や計測領域を設定することができる。このため、各紙幣100の光学特性を正確に計測して、紙幣100を正確に識別することができる。このとき、紙幣上で金種識別に利用可能な光学特性を計測可能な領域や真偽識別に利用可能な光学特性を計測可能な領域等、設定された領域に応じて、一回の識別処理で、金種識別及び真偽識別のいずれか一方のみを行うこともできるし、金種識別及び真偽識別の両方を行うこともできる。
【0095】
ライトガイド10又は11は、透明な樹脂材料等によって安価にかつ容易に製造することができる。このため、紙幣100の種類に応じて様々なライトガイドを製造して、処理対象となる紙幣100に応じて適したライトガイドを選択して利用することにより、各紙幣100の光学特性を正確に計測して、紙幣100を正確に識別することもできる。
【0096】
また、紙幣100上の複数領域又は広い領域から得られた光をライトガイド10又は11によって集光して識別処理に利用するので、集光しない場合に比べて利用する光の強度が高くなり、紙幣100の光学特性の計測精度や紙幣100の識別精度が向上する。さらに、得られた光の一部の波長領域のみを利用するのではなく、全波長域の光を利用すれば、光を有効に利用した紙幣識別を行うことができる。計測する光の強度が高く、弱い光を計測する場合に比べて計測時間を短縮することができるので、識別に係る全体の処理時間を短縮することができる。
【0097】
また、紙幣100から得られた光を光学処理部3によって干渉させて利用するので、干渉効果によって、一部の領域では紙幣100から得られる光の強度よりも高い強度を有する光を得ることができる。このため、光学特性が強調されることになり、紙幣100の光学特性の計測精度や紙幣100の識別精度が向上する。
【0098】
また、CCDセンサ55による計測の前段階、すなわち干渉縞を形成する所までは光を利用した処理となるため、画像を撮像したり撮像した画像の画像処理を行う場合に比べて高速に処理を行うことができる。
【実施例2】
【0099】
実施例1では、1枚の平板状の導光板(導光体)をライトガイド10、11として利用する例を示したが、本実施例では、複数枚の導光板を組み合わせたものをライトガイドとして利用する例について説明する。なお、実施例1を含め、本実施形態では、受光部で受けた光を出射部へ導く導光体である導光板を利用する。1枚の導光板を利用する場合にはこの導光板がライトガイド10、11であり、複数の導光板を利用する場合にはこれらの導光板によって1つのライトガイドが形成される。
【0100】
図10に、本実施例に係るライトガイド400を利用する紙幣識別装置1の概要を示す。
図10(A)に示したように、紙幣識別装置1は、紙幣100に向けて光を照射する光源2と、光源2から照射されて紙幣100によって反射された反射光を受光部501〜516から受光して出射部521〜524から光学処理部3へ向けて出射するライトガイド400と、ライトガイド400を介して紙幣100からの反射光を受光する光学処理部3と、光学処理部3で処理された光から得られた情報を処理することによって紙幣100を識別する識別処理部4とを有している。本実施例に係るライトガイド400は、16個の受光部501〜516を有し、
図10(B)に示すように、各受光部501〜516は、光源2から照射され紙幣100で反射された光を受光する。
【0101】
光源2、光学処理部3及び識別処理部4の機能及び動作については、実施例1で説明したものと同様であるため詳細な説明は省略することとし、以下では、本実施例の特徴であるライトガイド400について詳細を説明する。
【0102】
図10(A)に示すように、ライトガイド400は、4枚の導光板401〜404によって形成されている。各導光板401〜404は、アクリル樹脂等の透明樹脂材を利用して成形された板状体である。導光板401では、紙幣100に対向するように設けられた4つの受光部501〜504が、紙幣100からの高さが同一となるようにX軸方向に1列に配置されている。4つの受光部501〜504で受けた光は、内部で全反射されながらX軸方向へ導かれて、出射部521から光学処理部3へ向けて出射される。同様に、他の導光板402〜404でも内部で光を全反射させることにより、導光板402では受光部505〜508で受けた光を出射部522へ、導光板403では受光部509〜512で受けた光を出射部523へ、導光板404では受光部513〜516で受けた光を出射部524へ導くようになっている。
【0103】
4枚の導光板401〜404は、
図10(A)に示すように、光学処理部3側の各出射部521〜524の位置をY軸方向に揃えた状態で、導光板401、402、403、404の順で、X軸方向の長さが短くなっている。各導光板401〜404の長さは、各受光部501〜516がX軸方向に等間隔に配置されるように設定されている。
【0104】
具体的には、導光板401及び導光板402のX軸方向の長さの違いは、光学処理部3側の出射部521及び522がX軸方向で同一の位置となるように揃えた状態で、導光板401の受光部504と導光板402の受光部505とのX軸方向の間隔が、各導光板401及び402で隣り合う受光部(501〜504及び505〜508)のX軸方向の間隔と同一となるように設定されている。導光板402と導光板403、導光板403と導光板404のX軸方向の長さも同様に設定されている。この結果、ライトガイド400では、16の受光部501〜516が、X軸方向に等間隔に配置された状態となる。また、各導光板401〜404の形状詳細については後述するが、これら16の受光部501〜516は、X軸方向にライン状に1列に並ぶように配置されている。
【0105】
図11は、受光部501〜516の具体的な配置の例を説明する図である。
図11(A)は、1つの受光部501〜516をY軸方向から見た場合に紙幣100の光学特性を有効に測定できる領域(図中斜線領域)を示しており、同図(B)はZ軸方向から見た場合の16の受光部501〜516の配置位置(図中実線)と、この配置位置で測定可能な紙幣100上での領域(図中破線)を示している。
【0106】
図11(A)に示すように、1つの受光部501〜516では、開口角22.6度の領域内(図中斜線部)の光を有効に受光することができる。矩形断面を有する受光部501〜516のX軸方向の幅を4.5mm、紙幣100から受光面までの高さを9mmに設定すると、X軸方向に12mmの幅で、紙幣100からの光を有効に測定できることになる。よって、隣り合う2つの受光部501〜516のX軸方向中心位置がX軸方向に12mm以内となるように配置することで、紙幣100上で連続した帯状領域の光学特性を測定することができる。
【0107】
また、受光部501〜516のY軸方向の幅を3.5mmに設定すると、同様に、高さ9mm、開口角22.6度で光を有効に受光できる領域は、Y軸方向に11mmの幅となるが、Y軸方向に測定可能な領域は、ライトガイド400が収められるケースによる制限を受ける。具体的には、ケース内に収められたライトガイド400は、ケースに設けられた測定窓の範囲でしか光を受光できないので、例えばライトガイド400が収められるケースがY軸方向に9mm幅の測定窓を有する場合にはY軸方向の測定領域は幅9mmとなる。
【0108】
すなわち、3.5mm×4.5mmの矩形形状の受光面(図中実線)を有する受光部501〜516を紙幣100から9mmの高さで紙幣100に対向するように配置すれば、
図11(B)に示すように、1つの受光面(図中実線)によって紙幣100上で9mm×12mmの矩形領域(図中破線)を有効測定領域とすることができる。各受光部501〜516を、各々のX軸方向中心位置がX軸方向に12mmの幅となるように等間隔に1列に配置すれば、受光部1つを1チャンネルとして、16チャンネル分、幅192mmの連続した帯状領域で光学特性を有効に測定することができる。これにより、X軸方向の幅が192mm以下の紙幣100であれば、ライトガイド400の下方でこの紙幣100をY軸方向に搬送して走査することにより、紙幣全面の光学特性を測定することができる。
【0109】
なお、
図11(B)では、隣り合う受光部501〜516で開口角22.6度の測定領域がX軸方向に接するように各受光部501〜516の配置位置を設定しているが、紙幣100の全面を測定することができれば、測定領域の一部が重複するように配置位置を設定してもよい。また、
図11(B)は、光源2によって、複数チャンネルの領域に同時に光を照射する場合の例を示しているが、例えば、1チャンネル毎や2チャンネル毎というように、所定チャンネル毎に、対応する紙幣100上の所定領域に光を照射して、測定を行う場合もある。このような場合には、対象となる所定領域での測定を正確に行うために仕切板を利用する。
【0110】
具体的には、例えば、
図11(C)に示すように、2つの受光部502及び503の間に仕切板530を配置すれば、受光部502に対応する光源2からの光が、紙幣100上で受光部502に対応する領域に照射されるようにしてかつ紙幣100から反射された光が隣の受光部503で受光されないようにすることができる。例えば、16チャンネルの受光部501〜516を、2個1組として8チャンネル分として利用する場合には、
図11(D)に示すように、受光部501〜516が2個毎に、仕切板530で区切られる。なお、仕切板530を利用する場合には、
図20(B)に示すように、仕切板530で区切られた領域毎に光源2が配置される。
図11(C)に示すように各受光部501〜516の各測定領域を、X軸方向に例えば0.3mm重複するように配置すると、8チャンネル分で幅187.5mmの領域で光学特性を測定できることになる。
【0111】
次に、ライトガイド400を形成する4枚の導光板401〜404の形状について説明する。
図12は、4枚の導光板401〜404によって形成されるライトガイド400の斜視図である。各導光板401〜404は、ケース410(図中破線)内に位置を固定して収められる。
【0112】
4枚の導光板401〜404はY軸方向に並べて配置されるが、各受光部501〜516がX軸方向に等間隔に配置されるように、各導光板401〜404のX軸方向の長さが異なっている。また、各受光部501〜516がX軸方向に1列に並ぶように、各導光板401〜404では、光学処理部3側から先端部(X軸負方向)に向けて4つに枝分かれした後の領域で、各受光部501〜516に至る途中部分が折れ曲がった形状となっている。
【0113】
図13は、X軸負方向側から見た各導光板401〜404の屈曲部の形状を説明する図である。ケース410を形成するベース412及びカバー411については断面形状を示している。ベース412には、各受光部501〜516に対応する位置に、各受光部501〜516より僅かに大きい開口部が設けられており、各受光部501〜516のみがケース410下面に露出するようになっている。導光板401〜404は、ケース410内で、位置を固定されているが固定方法については後述する。
【0114】
X軸負方向側から見た導光板401の屈曲形状と、導光板402の屈曲形状とは、Z軸に対して対称な関係となっている。同様に、両外側にある導光板403の屈曲形状と、導光板404の屈曲形状もZ軸に対して対称な関係となっている。より具体的には、4枚の導光板401〜404は、
図14に示すように配置して利用されている。
【0115】
受光部501〜516で受けた光に対する出射部521〜524から出射する光の割合を示す出射効率は、受光部501〜516から出射部521〜524までの距離が離れるほど低下する。また、受光部501〜516を1列に配置するための曲げの角度が大きいほど、全反射率が小さくなるため、出射効率が低下する。このため、受光部501〜508から出射部521〜524までの距離が離れている2枚の導光板401及び402の曲げ角度が、他の2枚の導光板403及び404の曲げ角度より小さくなるように、これらの導光板401及び402が内側に配置される。すなわち、受光してから出射するまでの距離による減衰が大きいほど、曲げ角度による減衰が小さくなるように、各導光板401〜404の配置位置が設定されている。
【0116】
図15は、導光板401〜404の形状を説明する図である。各導光板401〜404の形状は、各受光部501〜516から受光した光が、導光板401〜404の外部へ漏れ出すことなく、内部で全反射されながら各出射部521〜524へ導かれるように、光学的に設計されている。Y軸方向から見て、4つに分岐してから受光部501〜516に至る部分の側面形状は、各導光板401〜404で共通の形状となっている。このため、
図15では、導光板401を例に、側面形状を示している。受光部501〜504で受光した光を、Z軸に垂直な受光面を有する受光部501〜504から、X軸に垂直な面を有する出射部521へ導くため、4つに分岐した領域の側面形状は円弧状になっている。
図15(A)では、破線矢印で示した範囲が円弧形状となっている。
【0117】
図15(A)に示した円弧状の側面形状における曲率半径R1〜R5は、大きさがR1>R2>R3>R4>R5の関係を有している。各受光部501〜503へ至る円弧状領域は、X軸方向に移動したときに、隣り合う受光部502〜504と重なり合う関係となることが望ましい。具体的には、例えば、受光部504の円弧形状外側の曲率半径(外径)R4’の円弧部分と、受光部503の円弧形状内側の曲率半径(内径)R4の円弧部分とが、X軸方向に平行移動した場合に重なり合うことが望ましい。また、受光部503の外側円弧と受光部502の内側円弧、受光部502の外側円弧と受光部501の内側円弧についても同様に、X軸方向に平行移動した場合に重なり合う関係にあることが望ましい。
【0118】
例えば、
図15(A)で、R2’=R2、R3’=R3、R4’=R4として導光板401を成形することにより、X軸方向に平行移動した場合に対応する円弧同士が重なり合う関係となる。このときの形状は、
図15(B)に示すように、対応する円弧同士が重なり合う関係にある4つの部材を、各受光部501〜504がX軸方向に離れた位置でかつ等間隔に配置されるように、図中白矢印で示したように異なる量だけX軸方向に移動させた場合の側面形状と一致する。
【0119】
ただし、円弧部分の形状については、例えば、直径Htの工具を利用して研磨する場合や、導光板401を直径Htのエンドミル等の工具を利用して切削加工によって成形する場合に、直径Htの分だけ、対応する円弧の曲率半径に差が生ずることが許容される。具体的には、Ht=0.5mm程度であれば、R4=R4’+Ht、R3=R3’+Ht、R2=R2’+Htの関係であってもよい。なお、受光部501〜504のX軸方向の幅をW1として、各曲率半径の関係は、R1=R2+W1、R2’=R3+W1、R3’=R4+W1、R4’=R5+W1となる。
【0120】
また、導光板401内部で、光を全反射させながら出射部521へ光を導くために、各受光部501〜504のX軸方向の幅寸法に基づいて曲率半径が設定される。具体的には、受光部501〜504のX軸方向の幅W1に対して、側面円弧形状の外側円弧の曲率半径がW1の3倍より小さくなると出射効率が大きく低下するため、外側円弧の曲率半径をW1の3倍以上とすることが望ましい。すなわち、最も小さい側面円弧形状の外側円弧の曲率半径R4’の値がR4’>3×W1となることが望ましい。ただし、ライトガイド400のサイズを小さくするために、出射効率を考慮してR4’がW1の2.5倍以上であれば許容される。
【0121】
以上より、具体的には、
図15(A)で、W1=4.5mm、導光板401の加工に用いる工具直径がHt=0.5mmである場合に、R4’=12mm(>4.5×2.5)として、R5=7.5mm(=R4’−W1)とする。これにより、R4=12.5mm(R4’+Ht)、R3’=17mm(=R4+W1)となる。同様の計算により、R3=17.5mm、R2’=22mm、R2=22.5mm、R1=27mmとなる。よって、高さ30mm以下の小型のライトガイド400を実現することができる。
【0122】
図15(A)右側に示した各導光板401〜404の屈曲形状を示す図では、例えば、D1=3.5mm、D2=3.35mmとして、外側に配置される導光板403及び404はD3=8.75mmとなるように折れ曲がった形状を有し、内側に配置される導光板401及び402はD4=5.15mmとなるように折れ曲がった形状を有している。また、導光板401〜404は、高さH1=30mmに対して、上端からH2=19.5mm、下端からH3=3mmの領域をZ軸に平行な領域として、これらを接続するように折れ曲がった形状を有している。なお、各導光板401〜404の屈曲部の形状は、
図15に示したように断面が直線的に屈曲する場合に限定されず、R形状となるように屈曲する態様であっても構わない。
【0123】
次に、以上のような形状を有する導光板401〜404のケース410内での固定方法について説明する。
図16は、導光板401〜404をケース410内で固定する方法を説明する図である。
図16(A)左上の図には、ケース410を形成するベース412及びカバー411をY軸正方向側から見た場合の断面模式図を示し、その右側にはX軸正方向側から見た図を、その下側にはZ軸負方向側から見た図を示している。また、
図16(B)及び(C)には、導光板401及び402の上側の固定状態を、各々
図16(A)に示す位置A及びBでX軸正方向側から見た場合の断面模式図を示している。
【0124】
図16(A)下側の図には、ベース412に設けられた貫通穴である各開口部601〜616から、各受光部501〜516の受光面が露出している様子を示している。このように、ケース410内部で各導光板401〜404を位置決めして固定することにより、ベース412に設けられた16の開口部601〜616から各受光部501〜516が露出するようになっている。
【0125】
また、ベース412及びカバー411から成るケース410は、ベース412にカバー411を被せて固定した状態で、隙間にシール材やパッキン等を利用した防塵構造を実現しており、ケース410内部での湿度の上昇や結露の発生を防止したり、ケース410内部への埃等の侵入を防止するようになっている。具体的には、
図16(A)左上の図に示したように、先端側のベース412とカバー411の隙間がシール材421によって塞がれる。また、後端側では、ベース412と導光板401〜404外周の隙間と、各導光板401〜404の間の隙間とが、同様にシール材422によって塞がれる。
【0126】
導光板401〜404では、受光部501〜516で受光した光が外部に漏れ出すことなく内部で全反射されて、出射部521〜524から光学処理部3に向けて効率よく出射されるように、導光板401〜404に空気以外の材質が触れないことが望ましい。シール材422として、ゴムや樹脂から成るパッキン等を利用する場合は予め成形された形状のものを利用するため問題はないが、例えば液体ガスケットのような粘性のある材質を利用する場合には、導光板401〜404に塗布されるシール材422を最低限のものとする必要がある。このため、導光板401〜404には、シール材422が塗布される部分に、シール材422の塗布領域の拡大を防ぐための突起が形成されている。具体的には、
図16(A)及び
図17に示すように、隣り合う導光板401〜404との間と、各導光板401〜404とベース412との間に、突起450が設けられており、この突起450によって、後端側から注入されたシール材422が必要以上に内部に侵入して広がらないようになっている。
【0127】
なお、透明な材質から成る導光板401〜404からシール材422へ向けて光が漏れ出さないように、シール材422として、光が吸収されることなく反射される材質を利用することが望ましい。例えば、ベース412が黒色の樹脂製である場合にはシール材422として白色の材質を利用することで、導光板401〜404からベース412へ光が漏れ出すことを防ぐことができる。ベース412の材質が白色樹脂やアルミ材である場合には、光が反射されるため、シール材422として白色の他に透明や半透明の材質を利用してもよい。
【0128】
次に、各導光板401〜404のケース410内での固定方法について説明する。各導光板401〜404の形状は、各受光部501〜516で受けた光を内部で全反射させながら出射部521〜524へ導くように光学的に設計されている。出射効率を維持するためには、受光した光を出射部521〜524へ導く間に、光が導光板401〜404の外へ漏れ出さないように、導光板401〜404がケース410を形成するアルミ製のカバー411や樹脂製のベース412に触れないことが望ましい。また、同様に、各導光板401〜404の間で光が漏れ出すことがないように、各導光板401〜404も互いに触れないことが望ましい。このため、各導光板401〜404は、
図16(A)に示すように、下側保持部440〜443と、上側保持部430〜432とを利用して、最低限の接触面積で位置決めして固定されるようになっている。
【0129】
導光板401は、下側保持部440及び上側保持部430によってY軸方向の位置を位置決めして固定されている。ベース412上に設けられた下側保持部440には、導光板401の位置を位置決めするための溝が形成されており、この溝に合わせて導光板401を配置することにより、導光板401下側の位置が固定される。また、カバー411に設けられた上側保持部430は、
図16(B)に示すように、本体部に板バネ433を留め具434で固定した形状を有している。途中部分で折り曲げられた板バネ433によって、本体部に形成されたXZ平面に平行な面に、導光板401の上側側面を押し当てるようにして固定される。
【0130】
図18には、上側保持部430及び下側保持部440による保持状態が分かるように拡大図を示している。
図18(A)に示したように、上側保持部430の本体部は、導光板401のY軸方向の位置決めをしながらも導光板401との接触面積が小さくなるように、板バネ433を固定する位置でのZ軸方向の厚みに比べて、導光板401に接触する位置の厚みが薄い断面テーパ形状となっている。また、板バネ433についても、Z軸方向に折り曲げられた領域の一部のみが導光板401の上側角部と接触するようになっている。また、下側保持部440についても、
図18(B)に示すように、導光板401のY軸方向及びZ軸方向の位置決めをしながらも導光板401との接触面積が小さくなるように、導光板401下側角部のみを支持する形状となっている。なお、下側保持部440のX軸方向の厚みは、例えば、1mm程度となっている。
【0131】
上側保持部431、432及び下側保持部441〜443によって、導光板401〜404のうち複数枚を保持する場合も、同様に、導光板401〜404との接触面積が小さくなるように保持される。例えば、
図16(C)に示すように、カバー411の上側保持部431では、留め具436で固定された板バネ435によって、本体部に形成されたXZ平面に平行な面に、導光板401の上側側面を押し当てるようにして、2枚の導光板401及び402を固定する。また、ベース412上の下側保持部441に形成された溝では、
図18(B)と同様に、2枚の導光板401及び402を下方から支持しながら位置を固定する。
【0132】
なお、各導光板401〜404は、互いに側面が広範囲で接触しないように固定されている。具体的には、例えば、
図19に示すように、導光板402の側面に、微小な突起451を設けて、この突起451によって、導光板401及び402の側面同士が接触することなく全面に渡って隙間を保つようになっている。円錐形状の突起451によって、各導光板401〜404の間に、例えば0.1mm程度の隙間が形成される。このような突起451は、受光部501〜516で受光した光が導光板401〜404の内部で全反射されながら出射部521〜524へ導かれる際の光路を考慮して、出射効率への影響が最小限となる位置に設けられている。
【0133】
このように、各導光板401〜404を固定する際にも、各導光板401〜404への接触面積を最低限のものとすることにより、受光部501〜516から出射部521〜524へ導かれる光が途中で外部へ漏れ出すことを防ぐことができる。同様に、各導光板401〜404は、互いの側面が広範囲に接することがないように所定の隙間を設けて固定されるので、各導光板401〜404の間で光が漏れ出すことも防ぐことができる。また、各導光板401〜404の位置が位置決めされることにより、
図16(A)の下側の図面に示したように、各受光部501〜516を、ベース412に設けられた対応する各開口部601〜616から露出するように、X軸方向に1列かつ等間隔に配置することができる。また、ベース412とカバー411によって、導光板401〜404の周囲を覆って、シール材421及び422によって隙間を塞ぐことにより、埃等が侵入して導光板401〜404に付着することを防ぐことができる。
【0134】
導光板401〜404が収められたケース410の下側には、
図10に示した光源2が収められたユニットが装着される。
図20(A)は、ベース412の下側に、光源ユニットとして、光源2が収められたケース413が装着された際の断面模式図である。ケース413は、側面が不透明なアルミ材や樹脂材で、紙幣100に対向する測定窓414が透明なアクリル樹脂等で形成されている。受光部501〜516の間が、
図11(C)及び(D)で示すように仕切板530で仕切られている場合には、
図20(B)に示すように、仕切板530が取り付けられる。例えば、2つの受光部を1組(1チャンネル)として利用する場合には、受光部501及び502と受光部503及び504との間等、各組の間に仕切板530が設けられる。この結果、仕切板530で区切られた1つの領域内に、1組として利用する受光部と、この受光部での測定に利用する光源2とが配置された状態となる。これにより、受光部501及び502に対応する光源2からの光を、受光部501及び502に対応する紙幣100上の領域に照射して、この領域から反射された光を受光部501及び502で受光して、隣の領域に配置された受光部503及び504で受光されないようにすることができる。
【0135】
導光板401〜404の出射部521〜524から出射された光は、
図10に示した光学処理部3や識別処理部4によってフィルタリングされて、必要な波長域の光のみが利用される。フィルタリングする波長域を変更することによって、紙幣100の種類に応じて、必要な波長域の光のみを利用することができる。
【0136】
また、紙幣100の種類によらず、所定波長域の光を常にカットする場合には、出射部521〜524から出射した光をフィルタリングする態様に限らず、導光板401〜404によってフィルタリングを行うことも可能である。具体的には、導光板401〜404の材質を選択することによって、所定波長域の光をカットすることができる。例えば、
図21に示すような分光透過率特性を有する3種類の透明樹脂材料A〜Cがある場合に、材質B又は材質Cの材料を選択して各導光板401〜404を成形すれば、波長が350nm以下の光を各導光板401〜404によってカットすることができる。また、例えば、材質Cの材料を選択して各導光板401〜404を成形すれば、波長が400nm以下の光を各導光板401〜404によってカットすることができる。
【0137】
上述してきたように、本実施例によれば、複数枚の導光板401〜404を組み合わせてライトガイド400として利用することによって、紙幣100全面の光学特性を効率よく測定することができる。
【0138】
また、各導光板401〜404は、受光部501〜516で受光した光を内部で全反射しながら出射部521〜524に導くように光学設計されているので、高い出射効率を実現して紙幣100の光学特性を効率よく測定することができる。
【0139】
また、出射部521〜524から4つに分岐して各受光部501〜516へ至る円弧形状の途中部分を導光板401〜404の厚み方向に折れ曲がった形状とすることによって、各受光部501〜516を1列かつ等間隔に配置して、紙幣100の光学特性を測定することができる。このとき、出射部521及び522からの距離が遠い受光部501〜508を有する導光板401及び402の曲げ角度が、出射部523及び524からの距離が近い受光部509〜516を有する導光板403及び404の曲げ角度より小さくなるように、各導光板401〜404が配置されているので、各導光板401〜404での光の減衰量を略同一とすることができる。
【0140】
また、各導光板401〜404を固定する上側保持部430〜432及び下側保持部440〜442と、各導光板401〜404との接触面積を小さくすることにより、各導光板401〜404から接触部を経て外部へ漏れ出す光を最低限に抑えることができる。また、各導光板401〜404が収められるケース410は、シール材421及び422によって隙間が塞がれた防塵構造を有しているので、埃や水分が侵入して導光板401〜404の表面に付着し、出射効率が低下することを防ぐことができる。
【0141】
また、測定対象となる光の波長域に合わせて各導光板401〜404の材質を選択することにより、各導光板401〜404によって、所定波長域の光をカットすることができる。例えば、光源2から紫外光を照射しながら可視光を検出したい場合に、各導光板401〜404をフィルタとしても利用して、CCDセンサ55に至るまでの間に不要な波長域をカットすればS/N比(信号雑音比)を改善することができる。