特許第5727616号(P5727616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5727616-荷重表示ワッシャ 図000002
  • 特許5727616-荷重表示ワッシャ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727616
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】荷重表示ワッシャ
(51)【国際特許分類】
   F16B 31/02 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
   F16B31/02 P
【請求項の数】8
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-535321(P2013-535321)
(86)(22)【出願日】2011年8月24日
(65)【公表番号】特表2013-545044(P2013-545044A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】EP2011064506
(87)【国際公開番号】WO2012055600
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年7月15日
(31)【優先権主張番号】102010043170.2
(32)【優先日】2010年10月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】アプル, イェルク
(72)【発明者】
【氏名】ディクフイ, アルイェン デトマー
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー, マルク
(72)【発明者】
【氏名】ゴルト, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】エクステイン, アンドレアス
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−181019(JP,A)
【文献】 特開平10−274224(JP,A)
【文献】 特開2004−317510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材(11)と、
前記ベース部材(11)の上に配設されたカバー部材(13)と、
前記ベース部材(11)と前記カバー部材(13)との間に配設されて、前記ベース部材(11)と前記カバー部材(13)との間で作用する軸線方向の力を表示する少なくとも1つの表示部材(4)とを備え、
前記表示部材(4)は、ダイラタント物質からなる
ことを特徴とする荷重表示ワッシャ。
【請求項2】
前記ベース部材(11)及び前記カバー部材(13)は、それぞれ貫通開口(12,14)を有し、
2つの前記貫通開口(12,14)は、ボルト(41)を挿通することができるように同一直線上に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の荷重表示ワッシャ。
【請求項3】
前記表示部材(4)は、リング状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の荷重表示ワッシャ。
【請求項4】
前記ベース部材(11)及び前記カバー部材(13)の少なくとも一方は、環状のディスクを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の荷重表示ワッシャ。
【請求項5】
前記ベース部材(11)へ向けての前記カバー部材(13)の軸線方向の移動を規制すると共に、前記表示部材(4)に対する軸線方向の荷重を規制するストッパを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の荷重表示ワッシャ。
【請求項6】
前記ストッパは、前記ベース部材(11)または前記カバー部材(13)から軸線方向に突出する規制リング(18)によって形成されることを特徴とする請求項5に記載の荷重表示ワッシャ。
【請求項7】
前記表示部材(4)の少なくとも一部が前記ストッパを取り囲むことを特徴とする請求項5または6に記載の荷重表示ワッシャ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の荷重表示ワッシャを有することを特徴とするコンクリート用アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷重表示ワッシャに関し、より具体的には請求項1の総括的な部分に示すとおり、ベース部材と、前記ベース部材の上に配設されたカバー部材と、前記ベース部材と前記カバー部材との間に配設されて、前記ベース部材と前記カバー部材との間で作用する軸線方向の力を表示する少なくとも1つの表示部材とを備えた荷重表示ワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトを所定位置に取り付ける場合、規定された荷重が加わるように調整しなければならない場合がよくある。このような調整は、例えばトルクレンチを用いて行うことが可能である。通常は、締め付けトルクと荷重との間に関連性があるので、そのときの締め付けトルクに基づき、そのときの荷重を確認することが可能である。
【0003】
但し、荷重を直接的に測定することも可能であって、その場合には、荷重直接表示機構(DTI)とも称されるいわゆる荷重表示ワッシャを用いることが可能である。このような荷重表示ワッシャは、例えば特許文献1に開示されている。当該特許文献1に開示された荷重表示ワッシャは、ボルトに設定された荷重をチェックするための表示機構を備えており、この表示機構は染料で満たされたカプセルを有している。軸線方向の荷重が所定の大きさに達すると、表示機構からの染料の出現、及び表示機構の縁部における染料の可視化の少なくとも一方が生じる。締め付けトルクに基づく直接的な判定と比較すると、締め付けトルクと荷重との関係が変動しやすいことから、荷重表示ワッシャを用いた荷重の直接的な測定の方がより正確である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許発明第10316632号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリート用アンカーに用いた場合には、荷重表示ワッシャが確実には機能しない場合があることが判明した。
【0006】
本発明の目的は、信頼性の高い荷重表示ワッシャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、請求項1に記載の特徴を有した本発明に係る荷重表示ワッシャによって達成される。また、好ましい態様は従属請求項に示される。
【0008】
本発明に係る荷重表示ワッシャは、表示部材がダイラタント物質からなることを特徴とする。即ち、表示部材はダイラタント物質で形成することが可能である。
【0009】
本発明は、荷重表示ワッシャをコンクリート用アンカーと共に用いる場合に直面することがある信頼性の問題が、コンクリート用アンカーに対して一般的に必要となる打撃作業に起因する可能性があるとの考察に基づいている。打撃作業の際、アンカーには強い衝撃力が加わるため、荷重表示ワッシャにも強い衝撃力が加わることになる。このような衝撃力により、従来の技術水準では、染料が充填されてセンサとして機能するカプセルが破損し、或いは少なくとも壊れやすくなる可能性がある。このため、染料が早めに排出されてしまう可能性があり、アンカーが締め付けられる際の荷重を正確に確認することがもはや不可能となる。
【0010】
そこで、本発明では、ダイラタント物質からなる表示部材を備えることに注目した。このダイラタント物質は、例えば0.1秒未満といった短かい期間だけ力が加えられる場合には変形しにくい一方で、例えば3秒を超えるような比較的長い期間にわたって力が加えられる場合には変形しやすいという特性を有している。このため、ダイラタント物質からなる表示部材は、ハンマーの打撃により発生して変形による伝達損失を生じることなくカバー部材からベース部材へと伝達されるような短期間に加わる力に耐えることができる。一方、例えばボルトを締め付ける場合などのように長い期間にわたって力が作用する場合には、ダイラタント物質が力に屈して変形する。このような目に見える変形を、設定されている荷重に達したことの表示に用いることができる。
【0011】
本発明によれば、表示機構のカプセルとは異なり、一方ではハンマーによる打撃によって不都合な影響を受けることなく表示の信頼性が極めて高くなり、他方ではハンマーによる打撃によって加えられた力を減損することなく十分に伝達することにより、コンクリート用アンカーを打ち込む際に高い信頼性が得られる。
【0012】
本発明によれば、カバー部材及びベース部材はそれぞれ貫通開口を有し、これら2つの貫通開口は、ボルトを挿通することができるように同一直線上に配置されているのが好ましい。より具体的には、カバー部材及びベース部材の少なくとも一方がリング状に形成されていてもよい。
【0013】
表示部材も同様に、リング状に形成されて2つの貫通開口と同軸状に配置されるのが好ましい。このようにすることで、極めて容易且つ確実に表示部材を装着することが可能となると共に、高い信頼性の表示が確保される。
【0014】
本発明のもう1つの現実的な態様として、カバー部材及びベース部材の少なくとも一方が環状のディスクを有する。これにより、極めてコンパクトな構造が得られる。
【0015】
更に、本発明によれば、ベース部材へ向けてのカバー部材の軸線方向への移動を規制すると共に、表示部材に対する軸線方向の荷重を規制するストッパを設けてもよい。このようなストッパにより、軸線方向の過大な荷重が加わった場合の表示部材の破損を防止することができる。
【0016】
ベース部材またはカバー部材から軸線方向に突出する規制リングによってストッパを形成すると特に効果的である。このような規制リングは、ストッパとして機能するだけではなく、表示部材の位置決めとしても機能する。具体的には、表示部材の少なくとも一部がストッパ、具体的には規制リングを取り囲むようにしてもよい。従って、表示部材の少なくとも一部は、ストッパより径方向外方に位置している。例えば、規制リングを取り囲むようにリング状の表示部材を設けてもよい。これにより、極めてコンパクトな構成とすることができると共に、表示部材を見えやすくして機能上の信頼性を高めることができる。
【0017】
また本発明は、本発明に係る荷重表示ワッシャを有したコンクリート用アンカーに関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る荷重表示ワッシャを有したコンクリート用アンカーを、荷重のかからない状態で示す軸線方向断面図である。
図2】本発明に係る荷重表示ワッシャを有した図1のコンクリート用アンカーを、荷重のかかった状態で示す軸線方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面に概略を示した好ましい実施形態に基づき、本発明について更に詳細に説明する。
【0020】
図1及び図2は、本発明に係るコンクリート用アンカー1の実施形態を示しており、本発明に係る荷重表示ワッシャ2が設けられている。コンクリート用アンカー1は、穿孔40内に挿入されるボルト41を有する。穿孔40内に位置するボルト41の下部には、拡張スリーブ45及び当該拡張スリーブ45用の拡張コア46が備えられている。ボルト41の上端部には締め付けナット49が設けられる。
【0021】
本発明に係る荷重表示ワッシャ2は、締め付けナット49と、固定対象部材8との間に配置され、締め付けナット49に接している。荷重表示ワッシャ2は、リング状のベース部材11と、同じくリング状のカバー部材13とを有し、カバー部材13と締め付けナット49とが対向すると共に、ベース部材11と固定対象部材8とが対向している。円盤状のベース部材11は貫通開口12を、また円盤状のカバー部材13は貫通開口14をそれぞれ有しており、これら貫通開口12及び14には、それぞれボルト41が挿通される。
【0022】
カバー部材13には、貫通開口12及び貫通開口14に対して軸線方向に位置する、換言すればボルト41の長手方向で、カバー部材13からベース部材11に向けて軸線方向に突出する規制リング18が設けられる。この規制リング18は、ベース部材11に向けてのカバー部材13の軸線方向の移動を規制する。
【0023】
ベース部材11とカバー部材13との間には、ダイラタント物質からなるリング状の表示部材4が規制リング18を取り囲むように設けられ、この表示部材4は、図1に示すように荷重がかからない状態において、規制リング18よりも軸線方向に突出している。このような荷重のかからない状態において、表示部材4は、例えば図1に示すような円形断面を有している。
【0024】
次に、図2に示すようにコンクリート用アンカー1を引っ張るべく締め付けナット49が締め付けられると、締め付けナット49と固定対象部材8との間で、ベース部材11とカバー部材13とが互いに軸線方向に押し付けられる。このような過程において、ベース部材11とカバー部材13との間にある表示部材4は軸線方向に圧迫される。比較的長い時間にわたって圧力が加わるので、ダイラタント物質からなる表示部材4は変形し、円形の断面形状を保持できずに、軸線方向の圧縮状態に応じて径方向に拡張する(図2)。本発明によれば、このような変形をボルト41に作用する荷重の大きさとして利用することが可能である。表示部材4の変形を良好に視認可能とするため、ベース部材11及びカバー部材13の少なくとも一方に、少なくとも1つの確認窓を設けることが可能である。図示した実施形態では、リング状の確認窓19がカバー部材13の径方向外縁部に配設されている。
【0025】
荷重が増大するにつれ、カバー部材13の規制リング18がベース部材11に当接するまで、表示部材4は更に変形していく。従って、規制リング18により、表示部材4が過剰な荷重から保護される。
【0026】
ボルト41が穿孔40内に打ち込まれる際に、軸線方向の力が短期間に荷重表示ワッシャ2に作用すると、表示部材4のダイラタント物質の特性により、表示部材4は目に見えるほど変形せず、表示部材4の表示機能は、このときの打撃によって不都合な影響を受けない。
図1
図2