(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
この種の免震装置を介して構築した免震構造物は複数の技術が公知になっている。その公知に係る第1の従来技術としては、基礎上に積層ゴムを介して上部構造物を支持してなる免震構造物の基礎構造であって、前記上部構造物の底部に基礎梁を設けると共に、前記基礎を独立の杭もしくは独立の直接基礎のみから形成してそれら杭もしくは直接基礎の間における基礎梁を省略してなるものであり、前記基礎として用いる独立の杭頭の地盤に対する回転を拘束することなく許容する構造とした免震構造物の基礎構造である(特許文献1)。
【0003】
この免震構造物の基礎構造によれば、免震構造物における基礎を独立の杭もしくは独立の直接基礎のみで構成してそれらをつなぐ基礎梁を省略したものであるから、基礎工事を大幅に簡略化し得て工費削減、工期短縮に大きく寄与し得る。特に杭を採用した場合において杭頭部の地盤に対する回転を許容する構造とすることにより、杭頭モーメントがなくなり、かつ杭に生ずる最大モーメントが低減する利点があるというものである。
【0004】
また、公知に係る第2の従来技術としては、杭頭部に設置した免震装置により上部構造体を免震支持する杭頭免震構造であって、免震装置を設置するための台座としての扁平な杭頭キャピタルを杭頭部に一体に設けるとともに、杭頭回転の発生に伴う杭頭曲げモーメントを杭頭から杭頭キャピタルに伝達可能とし、かつ隣接設置した杭頭キャピタルの間には、それら杭頭キャピタルどうしを相互に連結することによって、各杭頭部から各杭頭キャピタルに伝達された杭頭曲げモーメントを曲げ戻すことによって各杭の杭頭回転を制御するための扁平つなぎ梁を設けてなる杭頭免震構造である(特許文献2)。
【0005】
この杭頭免震構造によれば、杭頭部に扁平な杭頭キャピタルを設け、杭頭キャピタル間に扁平つなぎ梁を設け、その扁平つなぎ梁によって杭頭回転を制御する構造としたことにより、大断面かつ剛強な基礎によって杭頭回転を無条件に拘束している従前の免震構造に比べ下部構造としての基礎を大幅に簡略化でき、免震ピットも充分に浅くすることができ、根切り量の削減を含めて施工コストを大きく削減することがきるというものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記第1の従来技術においては、基礎杭上に底盤が設けられ、該底盤上で杭頭部に対応する位置に上部構造体を支持する免震装置を取り付けたものであるが、地盤に対する杭頭部の回転を拘束しない構成になっているため、巨大地震により杭頭部に掛かる過大な回転と変形量とを制御することができず、それに伴って免震装置も過大な変形が生じて免震機能が実質的に低下してしまい、杭頭部とともに免震装置が損傷する危険性が高いという問題点を有している。
【0008】
また、前記第2の従来技術においては、杭頭部に杭頭キャピタルを設けると共に、隣接する杭頭キャピタル間に、扁平つなぎ梁を設置して杭頭キャピタル同士を連結することによって、各杭頭部から杭頭キャピタルに伝達された杭頭曲げモーメントを、扁平つなぎ梁により曲げ戻して杭頭回転を抑制するように構成しているのであり、全部の杭頭キャピタルを扁平つなぎ梁で連結させることが不可欠であるため、施工手間が掛かるばかりでなくコスト高になるという問題点を有している。
また、巨大地震時に杭頭部に生じる曲げモーメントによる過大な回転と変形とに対して、扁平つなぎ梁の曲げ剛性が小さいため、地震後その回転と変形が残留したままで有害な変形となり、免震装置の機能を損傷させる危険性がある。
【0009】
つまり、前記したいずれの従来技術の杭頭免震構造においては、以下の問題点が存するのである。
1.杭頭部の回転拘束をしないとする場合は、杭頭部の回転や変形が過大になる。
2.杭頭部の回転拘束を扁平つなぎ梁で拘束する場合は、曲げ剛性が小さいため、巨大地震時に繰り返しの地震力による杭頭部の回転と変形が残留する。
【0010】
本発明は、地震に対する杭頭部の過大な回転と変形を押さえ、杭頭に生ずる曲げモーメントにより杭頭部と免震装置に損傷を与えないようにすると共に、地震後に残留変形を生じないようにし、合理的かつ経済的な杭頭免震構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための具体的手段として、本発明は、基礎杭の杭頭部に免震装置を介して上部構造体が支持される免震構造物であって、前記基礎杭の杭頭部から所要深さまで
自由長部とアンカー定着長部とで構成された緊張材が配置され、
該緊張材の自由長部は杭頭部の曲げ変形反曲点から上部に配置され、アンカー定着長部は杭頭部の曲げ変形反曲点から下部に配置されて定着され、該緊張材に所要の緊張導入力を与えて緊張定着することにより杭頭部にプレストレスが付与されることを特徴とする杭頭免震構造を提供するものである。
【0012】
上記発明において、前記所要の緊張導入力は、該緊張材の降伏荷重の40〜70%とすること、を付加的な要件として含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る杭頭免震構造によれば、以下の優れた効果を奏するものである。
1.
緊張材の自由長部は杭頭部の曲げ変形反曲点から上部に配置され、アンカー定着長部は杭頭部の曲げ変形反曲点から下部に配置されて定着され、該緊張材にプレストレスが導入されることによって、杭頭部の曲げ耐力が大幅に向上され、杭頭部曲げモーメントによる杭頭部の回転および変形を小さく押さえることができ、杭頭部および免震装置の損傷を防止することができる。
2.緊張導入力は、緊張材の降伏荷重の40〜70%とすることによって、大地震時においても緊張材が降伏することなく弾性線形復元力の範囲内に保持され、地震後に杭頭がプレストレスの復元力によって元の状態に戻るので、残留変形がなく免震構造としても免震機能をフルに発揮することができる。
3.緊張材を杭頭部に所要深さまで配置するだけで、従来技術のような偏平つなぎ梁や基礎梁を設けなくても、杭頭部に発生する曲げモーメントに対する抵抗処理ができるから、工事の手間とコストを大幅に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る杭頭免震構造における第1実施例において、(a)は杭頭部を形成する状況を示し、(b)(c)は緊張材の取り付け状況をそれぞれ略示的に示した側断面図である。
【
図2】同実施の形態に係る第1実施例において、(a)は杭頭部にコンクリートを打設するための型枠形成と連結プレートの配置を示し、(b)はコンクリート打設後の状況をそれぞれ略示的に示した側断面図である。
【
図3】同実施の形態に係る第1実施例において、(a)はコンクリート打設後に緊張材を緊張した状態を略示的に示した側断面図であり、(b)は取り付けられた連結プレートの平面図である。
【
図4】同実施の形態に係る第1実施例において、(a)は緊張材を緊張した後にシース内にグラウトを充填した状況を略示的に示した側断面図であり、(b)はグラウト充填状況の一部を拡大して示した側断面図である。
【
図5】同実施の形態に係る第1実施例において、形成された杭頭部に免震装置を取り付けた状態を示す側断面図である。
【
図6】同実施の形態に係る第1実施例において、杭頭部に取り付けられた免震装置に上部建物を建造した状態を示す側断面図である。
【
図7】同実施の形態に係る第2実施例において、(a)は形成された杭頭部に免震装置を取り付けた状態を示す側断面図であり、(b)は取り付けられた連結プレートの平面図であり、(c)は緊張材を緊張定着するための定着部材を拡大して示した側断面図である。
【
図8】同実施の形態に係る第3実施例において、(a)は形成された杭頭部に免震装置を取り付けた状態を示す側断面図であり、(b)は取り付けられた連結プレートの平面図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態に係る杭頭免震構造において、(a)は杭頭部を形成する状況を示し、(b)は杭頭部にコンクリートを打設するための型枠形成と連結プレートの配置を略示的にそれぞれ示した側断面図である。
【
図10】同実施の形態に係る杭頭免震構造において、(a)はコンクリート打設後の状況を示し、(b)はシース内に緊張材を挿通した状態を示した側断面図である。
【
図11】同実施の形態に係る杭頭免震構造において、(a)はシース内のアンカー定着部にグラウトを注入する状況を示し、(b)は注入したグラウトが固化した後に緊張材の余剰部分を除去し定着部にグラウト等を充填して防錆処理した状態を示した側断面図である。
【
図12】同実施の形態に係る杭頭免震構造において、(a)は形成された杭頭部に免震装置を取り付けた状態を示し、(b)は緊張材のアンカー定着部における定着状況を拡大して示した側断面図である。
【
図13】本発明の第3の実施の形態に係る杭頭免震構造において、(a)は杭頭部を形成する状況でアンカー定着部となる緊張材の配設状況を示し、(b)はアンカー定着部の緊張材と杭頭部に全体に渡る緊張材とを接続配設する状況を示した側断面図である。
【
図14】同実施の形態に係る杭頭免震構造において、(a)は杭頭部にコンクリートを打設するための型枠形成と連結プレートの配置を示し、(b)ははコンクリート打設後の状況を示した側断面図である。
【
図15】同実施の形態に係る杭頭免震構造において、(a)は緊張材を緊張してシース内のアンカー定着部にグラウトを注入する状況を示し、(b)は注入したグラウトが固化した後に緊張材の余剰部分を除去し定着部にグラウト等を充填して防錆処理した状態を示した側断面図である。
【
図16】同実施の形態に係る杭頭免震構造において、(a)は形成された杭頭部に免震装置を取り付けた状態を示し、(b)はコンクリート内における緊張材の定着状況を拡大して示した側断面図である。
【
図17】本発明に係る杭頭部に導入されたプレストレスによる復元力を示した概念図である。
【
図18】同概念図において、杭頭部に導入されたプレストレスが、地震力によって杭頭部に生ずる曲げモーメントと、軸ずれ分に対抗して、復元力を発揮するかを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。
図1〜
図6に示した第1の実施の形態に係る杭頭免震構造における第1実施例において、基礎杭を場所打ちコンクリート杭とし、緊張材をPC鋼より線とする実施の手順について説明する。まず、
図1(a)で示したように、基礎杭1は場所打ちコンクリート杭であって、その杭頭部1aの中央部には予め所要深さまでシース2を埋め込んでコンクリートを打設したものであり、該基礎杭1の杭頭部1aには補強鋼管3を配置する。
図1(b)に示したように、複数本のPC鋼より線からなる緊張材4が所要長さ(補強鋼管3の上部に突出するまでの長さ)で構成され、該緊張材4の下端部をシース2内に挿入すると共にグラウト材5を注入して固化させることにより、長さa(範囲)がアンカー定着長部となる。続いて、
図1(c)に示したように、前記シース2に対してジョイントシース2aを介して、緊張材4の外部に前記シース2と同径の所要長さのシース2bを一連に連結させる。
【0016】
次に、
図2(a)で示したように、前記杭頭部1aに設置された補強鋼管3の上部及び周囲にラップル基礎とマットスラブとを形成するために、仮想線bで示した範囲で型枠や鉄筋を組むと共に、該型枠に対して前記シース2bの上端に緊張材4を定着するための箱抜き定着部6を設け、該箱抜き定着部6の上部と同一レベルに連結プレート7を配設して取り付けられる。そして、連結プレート7の中央部にはコンクリート打設孔8が設けられると共に、下面には、前記杭頭部1a内に設置する複数本のアンカー材9が長ナットを介して前記コンクリート打設孔8に近い位置に溶接手段等により一体的に取り付けられ、さらに、後述する免震装置が取り付けられる複数のボルト受部材(袋ナット等)10が連結プレート7の外周縁に近い位置に溶接手段等により一体的に設けられている。そして、
図2(b)で示したように、コンクリート打設孔8および型枠上面から補強鋼管3内および型枠の内側にコンクリートを流し込んで打設することによって、基礎杭1の杭頭部1aにラップル基礎11とマットスラブ12とが一体的に形成され、要するに、下部基礎13となるのである。
【0017】
さらに、箱抜き定着部材6から上部に突出する緊張材4は、箱抜き定着部6内において定着具14によって個々に緊張定着され、
図3(a)に示されたように、余剰の突出部分は切断除去される。この場合に導入される緊張力は、緊張材4の降伏荷重の40〜70%とすることが好ましい。また、連結プレート7はアンカー材9によって基礎杭13に強固に連結された状態で取り付けられるのであり、その連結プレート7を上面から見た状態は、
図3(b)に示した通りである。
【0018】
続いて、
図4(a)(b)に示したように、緊張材4を緊張定着した後に、シース2b内に前記と同様のグラウト5を注入して緊張材4とシース2bとを一体化すると共に、箱抜き定着部6内にもグラウト5を詰めて、緊張材4の端部と定着具14とを全面的に包み込んで防錆処理するのである。そして、基礎杭1とその杭頭部1aに形成されたラップル基礎11とマットスラブ12とからなる下部基礎13において、その杭頭部1aに、緊張材4に所要の緊張力を与えることによってプレストレスが導入されるのである。
【0019】
このように基礎杭1の杭頭部1aにPC鋼より線による緊張材4を緊張定着してプレストレスを導入した後に、
図5に示したように、免震装置15が取り付けられる。この場合に、連結プレート7上に下部ベースプレート16を載置して免震装置15をセットし、複数箇所のボルト受部材10にそれぞれ取付ボルト17を螺着固定して取り付けられる。なお、連結プレート7上に下部ベースプレート16を載置する際に、必要に応じて連結プレート7の上面にエポキシ樹脂を塗布して水平度を確保してから下部ベースプレート16を載置する。
以上のように緊張材4を配設することにより、方向性なくあらゆる方向からの地震に対して緊張材が有効に働き、納まりも簡単で施工性が良いというメリットがある。
【0020】
さらに、
図6に示したように、免震装置15の上に建造物18が構築されるのである。この場合には、例えば、免震装置15の上に上部ベースプレート19を介在させて上部連結プレート20を配設し、該上部連結プレート20には、複数のアンカー材21とボルト受部材22とが設けられており、該ボルト受部材22に取付ボルト23を螺着固定して予め免震装置15に取り付けられる。そして、上部連結プレート20を取り込んだフーチング用の型枠と建造物18の基礎梁25用の型枠や鉄筋とを組み、場所打ちコンクリートによりフーチング24と基礎梁25とを一体的に形成し、アンカー材21によって上部連結プレート20がフーチング24と強固に連結され、結果的に免震装置15と建造物18とが強固に連結されたことになる。なお、各フーチング24上には、建造物18の柱26が適宜手段で配設される。
【0021】
次に、第1の実施の形態における第2実施例は、
図7(a)(b)(c)に示したように、複数の緊張材4を配設したこと、及び箱抜き定着部6を鋼管スリーブで形成した点で相違するのみで、他の構成については同一であるので、同一符号を付してその説明は省略する。
即ち、
図7(a)(b)に示したように、コンクリート打設孔8を連結プレート7の中心部に設け、該コンクリート打設孔8の周囲に近接して、断面図心に対して対称に4本の緊張材4を配設したものであって、緊張材4の周囲にはアンカー材9が配設されている。そして、各緊張材を配設するに当たって、
図7(a)(c)に示したように、連結プレート7の下面側に定着部として鋼管スリーブで形成した定着部材27を溶接手段などにより一体的に取り付けたものであり、該定着部材27に挿通した緊張部材4を緊張し、定着部材27内において緊張材4の上端部を定着具14で緊張定着されて、基礎杭1の杭頭部1aにプレストレスが付与されるのである。その後に、定着部材27内にグラウト材またはモルタルなどを注入して適宜の防錆処理をして、免震装置15を取り付ける点では、前記第1実施例と同じである。
基礎杭1の断面において、複数の緊張材4を杭頭曲げモーメントで生じた引張力側に配設することにより、緊張材による曲げ抵抗力を有効かつ最大限に発揮することができる。また、断面図心に対称に配置するので、繰り返しの地震力にも有効に対応できる。
【0022】
また、第1の実施の形態における第3実施例は、
図8(a)(b)に示したように、前記第2実施例と緊張材4の配設位置が少し相違するのみで、他の構成については略同一であるので、同一符号を付してその説明は省略する。
即ち、緊張材4の配設位置が、アンカー材9の配設位置と同じ位置に設けられてアンカー機能を兼務するので、その位置に配設されるべき4本のアンカー材9が不要になるのであり、定着部材27内において緊張材4の上端部を定着具14で緊張定着されることによって、前記同様に基礎杭1の杭頭部1aにプレストレスが付与されるのである。それによって、材料費が軽減されるのであり、その後に、定着部材27内にグラウト材またはモルタルなどを注入して適宜の防錆処理をして、免震装置15を取り付ける点では、前記第1及び第2実施例と同じである。
【0023】
次に、
図9〜
図12に示した第2の実施の形態に係る杭頭免震構造ついて説明する。この実施の形態に係る杭頭免震構造は、使用される緊張材4がアンボンドPC鋼より線とし、従来と同じように、PC鋼より線に予めポリエチレン樹脂をシースとして被覆し(PE被覆という)、PC鋼より線とPE被覆との間に充填材(グリースまたはワックス)を塗布したものである。PC鋼より線については、防錆性能に優れたもの、例えば、商品名:SCストランド=各素線毎に個別に樹脂皮膜を形成したPC鋼より線を用いることが好ましい。そこで、アンボンドPC鋼より線の緊張材4を使用する場合には、該緊張材4を挿通するシースについて、前記第1の実施の形態に係る第1実施例と、ジョイントシース2aの有無が異なるのみで、他の構成部分については、実質的に同一であるので、同一部分については同一符号を付して、その詳細な説明については省略する。
【0024】
まず、
図9(a)(b)について、場所打ちコンクリート杭とする基礎杭1の杭頭部1aの中央部には予め所要深さまでシース2を埋め込んでコンクリートを打設すると共に、該基礎杭1の杭頭部1aには補強鋼管3を配置し、シース2は補強鋼管3よりも少し上部に突出する長さに形成されている。そして、
図9(b)に示したように、前記杭頭部1aに配置された補強鋼管3の上部及び周囲にラップル基礎とマットスラブとを形成するために、仮想線bで示した範囲で型枠や鉄筋を組むと共に、該型枠に対して前記シース2の上端に緊張材4を定着するための箱抜き定着部6を設け、該箱抜き定着部6の上部と同一レベルに連結プレート7を配設して取り付けられる。そして、連結プレート7の中央部にはコンクリート打設孔8が設けられると共に、下面には、前記杭頭部1a内に設置する複数本のアンカー材9が前記コンクリート打設孔8に近い位置に一体的に取り付けられ、さらに、後述する免震装置が取り付けられる複数のボルト受部材10が連結プレート7の外周縁に近い位置に一体的に設けられている。この連結プレート7は、前記第1の実施の形態に係る第1実施例と同一である。
【0025】
続いて、
図10(a)(b)に示したように、コンクリート打設孔8および型枠上面から補強鋼管3内及び型枠内にコンクリートを打設し、基礎杭1と連続させてラップル基礎11とマットスラブ12とを一体的に形成して、要するに下部基礎13になるのである。そして、
図10(b)に示したように、緊張材4の下端部側のPE被覆を所要長さに渡って除去したものを箱抜き定着部6から挿入し、PE被覆を除去した長さ部分を基礎杭1の内部にまで挿入して位置させる。
【0026】
次に、
図11(a)(b)に示したように、シース2の内部に緊張材4との間に隙間が生じないように全面的にグラウト5を注入して固化させることにより、長さa(範囲)がアンカー定着長部となり、その上部が自由長部となる。該グラウト5を充分固化させてから、緊張材4を前記箱抜き定着部6において、緊張材4の上端部を定着具14で緊張定着させ、その後、緊張材4の上部の余剰部分を切除し、箱抜き定着部6内にグラウト材またはモルタルなどを注入して適宜の防錆処理をする。このように緊張定着させることによって、緊張材4のPE被覆を除去した下端部側が基礎杭1の杭頭部1aに強固に固定されると共に、上部のPE被覆で覆われている自由長部も含めて全体で、基礎杭1の杭頭部1aにプレストレスを付与している。
【0027】
そして、
図12(a)(b)に示したように、基礎杭1の杭頭部1aにアンボンドPC鋼より線による緊張材4を緊張定着してプレストレスを導入した後に、免震装置15が取り付けられる。この場合に、前記第1の実施の形態における第1実施例と同様に、連結プレート7上に下部ベースプレート16を載置して免震装置15をセットし、複数箇所のボルト受部材10にそれぞれ取付ボルト17を螺着固定して取り付けられる。なお、この第2の実施の形態におけるアンボンドPC鋼より線による緊張材4を使用する例については、実施例として説明していないが、当然のこととして、前記第1の実施の形態に係る第2及び第3実施例と同様に、複数箇所に配設することも含まれるのである。
【0028】
また、
図13〜
図16に示した第3の実施の形態に係る杭頭免震構造ついて説明する。この実施の形態に係る杭頭免震構造は、使用される緊張材4として、PC鋼棒を使用した場合である。
そこで、PC鋼棒の緊張材4を使用する場合には、基礎杭1にしっかりと固定しなければならないので、その固定する構成が前記第1及び第2の実施の形態とは異なるが、他の構成部分については、前記第1の実施の形態に係る第2または第3実施例と実質的に略同一であるので、同一部分については同一符号を付して、その詳細な説明については省略する。
【0029】
まず、
図13(a)(b)に示したように、場所打ちコンクリート杭とする基礎杭1の杭頭部1aに補強鋼管3を配置すると共に、予め所要深さで所要間隔をもって複数のアンカー材28を埋め込んで取り付ける。このアンカー材28は、先端にアンカープレートとナットとからなる定着具29を取り付けたPC鋼棒30であり、該PC鋼棒30部分にシース2を取り付けて埋め込み、PC鋼棒30の上端がコンクリート打継面から僅かに突出させてある。そして、
図13(b)に示したように、補強鋼管3内において、上記PC鋼棒30に対して同一のPC鋼棒31をカップラー32により連結させて一連に取り付け、該カプラー32の外周にジョイントシース33を介してPC鋼棒31の外周に前記と同様のシース2を連結して取り付ける。なお、前記アンカー材28のPC鋼棒30とカップラー32で接続したPC鋼棒31とを一緒にして、以下緊張材4と称する。
【0030】
続いて、
図14(a)(b)に示したように、前記杭頭部1aに配置された補強鋼管3の上部及び周囲にラップル基礎とマットスラブとを形成するために、仮想線bで示した範囲で型枠や鉄筋を組むと共に、該型枠に対して連結プレート7を取り付ける。該連結プレート7は、その中心部にコンクリート打設孔8を設けると共に、該コンクリート打設孔8の周囲に近接して複数の緊張材4(31)を配設したものであって、緊張材4の周囲には複数のアンカー材9が配設されている。各緊張材4を配設するに当たって、連結プレート7の下面側に定着部として鋼管スリーブで形成した定着部材27を溶接手段などにより一体的に取り付けたものである。この連結プレート7は、前記第1の実施の形態に係る第2実施例と実質的に同じである。そして、
図14(b)に示すように、コンクリート打設孔8および型枠上面から、型枠内と補強鋼管3内にコンクリートを打設して、基礎杭1の杭頭部1aに一連に繋いだ下部礎杭13を形成する。
【0031】
また、
図15(a)(b)に示したように、打設したコンクリートが固化した後に、定着部材27内において緊張材4を緊張して、その上端部を定着具14で緊張定着し、その後に、シース2内にグラウト5を注入して固化させることにより、基礎杭1の杭頭部1aに予定したプレストレスが付与されるのである。そして、定着部材27内にもグラウト5またはモルタルなどを注入して適宜の防錆処理をして、免震装置15を取り付ける点では、前記第1の実施の形態に係る第1実施例と同じである。
【0032】
さらに、
図16(a)(b)に示したように、基礎杭1の杭頭部1aにPC鋼棒30,31で形成した緊張材4を緊張定着してプレストレスを導入した後に、免震装置15が取り付けられる。この場合に、前記第1の実施の形態における第1実施例と同様に、連結プレート7上に下部ベースプレート16を載置して免震装置15をセットし、複数箇所のボルト受部材10にそれぞれ取付ボルト17を螺着固定して取り付けられる。なお、この第3の実施の形態におけるPC鋼棒30,31による緊張材4を使用する例については、当然のこととして、前記第1の実施の形態に係る第2及び第3実施例と同様に、複数箇所に配設することも含まれるのである。なお、取り付けられた免震装置15の上部には、前記第1の実施の形態に係る第1実施例と同様に、適宜の建造物が構築されるのである。
【0033】
次に、
図17と
図18との復元力概念図を用いて、本発明に係る杭頭部に導入されたプレストレス(以下、PSと略称する)による復元力について説明する。
杭頭PS復元力概念図に示すように、通常、上部建物の荷重は柱26からフーチング24を介して軸力Pとして免震装置15から杭頭部に伝達されている。地震時に地盤が揺れる地震力によって免震装置15が水平方向に変形し、柱26と杭1との軸のずれが生じてP−δによって、杭頭部に曲げモーメントMが生じる。軸ずれ分δが増えるほど、P−δによる曲げモーメントが追従して増えてしまう。一方、杭頭部に導入されたプレストレス力(PS)は常に断面図心に沿って作用しているから、水平方向の変形に抵抗する要素であり、変形を阻止するバネのように働き、杭頭部を元の位置に戻す力になるのである。これはプレストレス力(PS)による復元力である。地震後に、この復元力によって杭頭を元の位置に戻すので残留変形が発生しないという優れた効果を奏する。
以上により、杭頭部の曲げ変形反曲点から緊張材4のアンカー定着長部aを設けることが望ましい。
【0034】
本発明では、PSによる復元力を活用し、杭頭免震構造に存在している問題点を改善し、より合理的かつ経済的な杭頭免震構造を提供することができる。
本発明において、基礎杭は現場打ちコンクリート杭を実施例として示したが、これに限定されるものではなく、鋼管コンクリート杭、既製杭等であってもよい。
また、実施例では杭頭と免震装置との間にラップル基礎を設けることを示したが、地盤状況と上部構造の形式や荷重等の設計条件によって、ラップル基礎を設けずに免震装置を直接に杭頭に設置することができる。
免震装置の取付方法と取付金物部品等については、実施例で示したものに限ることなく、使用する杭の種類は基礎の形状等によって種々の変更を可能とする。例えば、杭径が大きい場合では、アンカー材9の位置を免震装置取付用のボルト受部材10(袋ナット等)の位置に移動させ、アンカー材9とボルト受部材10とを1本ものとすることができる。
免震装置上の基礎と上部構造について、RC、PC、PRC、SRC、Sのいずれも本発明は適用することができる。また施工工法について、現場打ちとプレキャストのいずれとしてもよい。
【課題】地震に対する杭頭部の過大な回転と変形を押さえ、杭頭に生ずる曲げモーメントにより杭頭部と免震装置に損傷を与えないようにすると共に、地震後に残留変形を生じない基礎を提供する。
【解決手段】基礎杭の杭頭部に免震装置を介して上部構造体が支持される免震構造物であって、前記基礎杭の杭頭部から所要深さまで緊張材が配置され、該緊張材に所要の緊張導入力を与えて緊張定着することにより杭頭部にプレストレスが付与されることを特徴とする杭頭免震構造としたことにより、杭頭部の曲げ耐力が大幅に向上され、杭頭部曲げモーメントによる杭頭部の回転および変形を小さく押さえることができ、杭頭部および免震装置の損傷を防止することができる。