【実施例1】
【0026】
図1〜
図12を用いて第1実施例を説明する。
図1は、本実施形態に係る織布から製造される衣服1の正面図である。衣服1は、本実施形態に係る織布10(
図2等参照)の一つの応用例であり、例えば、ワンピース、スカート、ジャケット、パンツ、シャツ、エプロン、手袋、靴下などである。本実施形態に係る織布10は、例えばバッグ、風呂敷、テーブルクロス、ハンカチ、各種カバー、ネクタイ、リボン、財布、カード入れ、座布団、傘など衣服1以外にも適用できる。
【0027】
衣服1は、例えば、前身頃2と、後身頃3と、袖4を結合することで製造される。前身頃2、後身頃3、袖4をそれぞれ別々に形成し、後から縫い合わせてもよい。または、無縫製製法として知られているように、前身頃2、後身頃3、袖4を接続した状態で同時に織り上げ、最後に接続部分のうち人体を通す部分を切断してもよい。
【0028】
衣服1には、複数の装飾部5A〜5Fが施されている。これら装飾部5A〜5Fは、刺繍やペイントなどのように後から衣服1に設けるものではなく、衣服1の材料である織布10に最初から設けられている物理的な装飾である。本実施形態では、織布10に最初から仕込まれる物理的装飾として、線状の模様やプリーツを例に挙げる。各装飾部5A〜5Fを区別しない場合は、装飾部5と呼ぶ。装飾部5は、線状の模様、またはプリーツなどである。ここでの線状の模様とは、地模様のような平面的な模様ではなく、織組織の一部が立体的に凹または凸に変形することにより得られる立体的な線状模様である。なお、衣服1に示す装飾部5の形状や配置は、単なる例示であり、本発明の範囲は
図1に示す構成に限定されない。
【0029】
衣服1の肩部には、横方向に延びる装飾部5Aが形成されている。衣服1の胸部から腰部にかけては、波形状の装飾部5Bが形成されている。衣服1の腰から下の部分には、格子状の装飾部5Cが形成されている。また、衣服1の裾には円弧状の装飾部5Dが形成されている。衣服1の両袖には、円状の装飾部5Eと、直線状の装飾部5Fとが形成されている。
【0030】
図2は、衣服1の材料となる織布10の織組織の例である。
図2では、織布10の縦方向のみにストレッチ組織を内蔵する例を示す。織布10の横方向にもストレッチ組織を内蔵させる例は
図8および
図9で後述する。
【0031】
先に
図3を参照して、織布10で使用する糸について説明する。「第1構造」の例としての地の織組織は、通常の経糸11と通常の緯糸12を所定規則で交錯させることにより形成される。地の織組織としては、例えば、平織り、綾織りなど種々のものがある。通常の経糸11および通常の緯糸12は、例えば、ポリエステルなどから製造される。通常の経糸11は「他の経糸」または「経糸」の例であり、通常の緯糸12は「他の緯糸」または「緯糸」の例である。なお、通常の糸の材質はポリエステルに限定されない。他の材質の糸でもよい。
【0032】
地の織組織には「第2構造」としてのストレッチ組織が重ねられる。ストレッチ組織とは、特定処理で収縮する糸から形成される織組織である。従って、ストレッチ組織は、収縮型経糸21または収縮型緯糸22のいずれか一方または両方から形成される。ストレッチ組織の伸縮の向きと形成方法は
図6で後述する。
【0033】
収縮型の経糸21は、例えば、芯211と、芯211の外周側に巻回される被覆用糸212とから構成される。同様にして、収縮型の緯糸22は、例えば、芯221と、芯221の外周側に巻回される被覆用糸222とから構成される。芯211,221には、例えば、ポリウレタンのような、所定温度で加熱されると長さ方向に大きく収縮する素材を使用する。被覆用糸212,222には、通常の糸と同様の素材、例えばポリエステルなどが使用される。被覆用糸212,222の素材と、地の織組織で使用する糸11,12の素材とを一致させることで、異なる素材を用いた場合の違和感を無くして、自然な地模様を得ることができる。
【0034】
但し、本実施形態は、通常の糸11,12と収縮型の糸21,22の素材を一致させる場合に限らず、両者の素材が異なってもよい。さらに、通常の経糸11と通常の緯糸12の素材を変えてもよいし、収縮型経糸21の芯211と収縮型緯糸22の芯221の素材を変えてもよいし、収縮型経糸21の被覆用糸212と収縮型緯糸22の被覆用糸222の素材を変えてもよい。さらに、各糸11,12,21,22で、それぞれ糸の太さや色も変えることができる。
【0035】
また、収縮型の糸21,22は、上述のように異なる複数の素材から構成してもよいし、単一の素材から構成してもよい。収縮型の糸21,22は、例えば加熱処理などの「特定処理」が適用されると、地の織組織を構成する糸よりも大きく収縮する性質を有していればよい。逆に言えば、収縮型の糸21,22は、特定処理が適用される前の状態では、収縮しない。この性質により、通常の糸11,12と収縮型の糸21,22の両方を用いて織布10を安定して正確に織ることができる。なお、糸の材質や太さ、地の織組織の構成などは適宜決定することができる。
【0036】
図2に戻る。
図2に示す織布10の地の織組織は、通常の経糸11と通常の緯糸12とで平織りした組織になっている。平織りを構成する複数の経糸の一部は、収縮型経糸21となっている。
図2に示す例では、6本目ごとに通常の経糸11に代えて収縮型経糸21を用いる。これにより、収縮型経糸21から形成されるストレッチ組織は、地の組織に織り込まれて重ねられている。
【0037】
収縮型経糸21は、衣服1のデザインから定まる第1パターンに従って、所定の位置で所定本数の緯糸12を飛び越している。交差する他の糸を飛び越えることを、糸を滑走させるとも言う。
図2において、収縮型経糸21が緯糸12を飛び越している部分は、「第1飛び越し部」としての飛び越し部21Jである。
【0038】
収縮型経糸21が緯糸12を飛び越す本数(第1所定数)は、地の織組織において経糸11が緯糸12を連続して飛び越す本数よりも大きい値に設定される。装飾の大きさや強さなどに応じて、飛び越す本数は適宜設定することができる。ここで、地の織組織において経糸11が緯糸12を連続して飛び越す本数を第1基準数と呼ぶならば、第1所定数は第1基準数の数倍の値として設定することができる。
【0039】
飛び越し部21Jには、織布10の表側を通る表側飛び越し部21J(1)と、織布10の裏側を通る裏側飛び越し部21J(2)とがある。一本の収縮型経糸21は、少なくとも一つの飛び越し部21Jを有する。通常の場合、一本の収縮型経糸21は、表側飛び越し部21J(1)と、裏側飛び越し部21J(2)とを少なくとも一つずつ(実際にはそれぞれ複数ずつ)有する。
【0040】
加熱すると、矢示F1に示すように、収縮型経糸21が長さ方向に大きく縮む。表側飛び越し部21J(1)が縮むと、表側飛び越し部21J(1)の裏側は突出する。近接する複数の表側飛び越し部21J(1)が縮むことで、横方向に走る溝のような折れ線が形成される。
【0041】
同様に、加熱により裏側飛び越し部21J(2)が縮むと、裏側飛び越し部21J(2)の表側は突出する。近接する複数の裏側飛び越し部21J(2)が縮むことで、横方向に走る稜線のような折れ線が形成される。そして、横方向に走る稜線のような折れ線と溝のような折れ線とが近接して織布10に形成されることで、織布10が立体的に変形し、立体感が得られる。
【0042】
より具体的に説明するために、織組織の糸を特定するための番号を付す。行にはアルファベットを使用し、列にはアラビア数字を使用する。列aと列gに、収縮型経糸21が使用されている。a2〜a6とg2〜g6は、表側飛び越し部21J(1)である。近接する複数の表側飛び越し部21J(1)が収縮すると、例えば、4番目の列の緯糸12を谷の底とする折れ線(a4、b4、c4、d4、e4、f4、g4、h4を繋ぐ線)が形成される。
【0043】
a13〜a17とg12〜g17は、裏側飛び越し部21J(2)である。近接する複数の裏側飛び越し部21J(2)が収縮すると、例えば、15番目の列の緯糸12を頂上とする折れ線(a15、b15、c15、d15、e15、f15、g15、h15を繋ぐ線)が形成される。
【0044】
図4は、収縮型の糸を収縮させた場合の変化を模式的に示す。
図4(a)は、収縮型経糸21Jの飛び越し部21Jが形成された部分を拡大して示す断面図であり、加熱処理を行う前の状態を示す。便宜上、
図4では、経糸の方向を図面の横方向にしている。
図4では、表側飛び越し部と裏側飛び越し部とを区別していない。
【0045】
図4(b)は、加熱処理の後の状態を示す。飛び越し部21Jが収縮すると、飛び越し部21Jの中央付近の緯糸12は図中の下側に突出し、収縮部23が形成される。
【0046】
図5は、表側飛び越し部21J(1)と裏側飛び越し部21J(2)がそれぞれ収縮した様子を示す。谷となる飛び越し部21J(1)と山となる飛び越し部21J(2)とが比較的近接して配置されていることにより、
図5に示すように、飛び越し部21J(1)、21J(2)が配置された領域は、大きく立体的に変化する。これにより、単なる模様を越えた立体感を得ることができる。
【0047】
図6を参照して、方向の異なる装飾部5を織布10に形成する方法を説明する。
図6の上側には、装飾部5の形成パターンA,B,Cを示す。形成パターンAは斜め方向の装飾部5を形成する場合、形成パターンBは縦方向(Y方向)の装飾部5を形成する場合、形成パターンCは横方向(X方向)の装飾部5を形成する場合を示す。
【0048】
図6の下側には、方向別の形成パターンA〜Cごとに、飛び越し部の配置と、飛び越し部が収縮することで得られる装飾部5の形状とを対応付けた表が示されている。斜め方向の形成パターンAは、その角度によって飛び越し部の形成位置が異なるが、回転対称の関係にあるため、一つの形成パターンAとしてまとめて示している。
【0049】
斜め方向の装飾部5を形成する場合は、形成パターンAに示すように、縦方向(経糸の方向)および横方向(緯糸の方向)にそれぞれ複数の飛び越し部を配置する。縦方向の飛び越し部の数と横方向の飛び越し部の数とを調整することで、装飾部5の角度(例えば経糸11または緯糸12に対する角度)を変えることができる。
【0050】
縦方向の装飾部5を形成する場合は、形成パターンBに示すように、緯糸に沿った飛び越し部22Jだけを複数配置する。横方向に滑走する飛び越し部22Jを縦方向に並べて配置することで、縦方向に延びる装飾部5を得ることができる。
【0051】
横方向の装飾部5を形成する場合は、形成パターンCに示すように、経糸方向に沿った飛び越し部21Jだけを複数配置する。縦方向に滑走する飛び越し部21Jを横方向に並べて配置することで、横公報に延びる装飾部5を得ることができる。
図6では、45度ずつ8つの領域にくぎって形成パターンを対応付ける場合を述べたが、各領域の角度は必ずしも等しく必要はない。また、後述する他の実施例のように、斜め方向の装飾の形成に対応するための形成パターンAのみで種々の装飾を形成することできるし、あるいは、形成パターンをより細かく用意して種々の装飾を形成することもできる。
【0052】
図7は、異なる形成パターンの装飾部5を複数組み合わせることで、多種の形状の装飾を形成する方法を示す。
図7(a)に示すように、矩形状の装飾を生成する場合は、横方向に延びる上辺および下辺に、横方向の形成パターンCで装飾部5を複数形成する。これにより、上辺および下辺を形作る装飾部を得ることができる。さらに、縦方向に延びる右辺および左辺には、縦方向の形成パターンBで装飾部5を複数形成する。これにより、右辺および左辺を形作る装飾部を得ることができる。
【0053】
図7(b)に示すように、三角形状の装飾を生成する場合は、横方向に延びる底辺には横方向の形成パターンCで装飾部5を複数形成する。頂点に向けて傾斜する右辺および左辺は、斜め方向の形成パターンAで装飾部5を複数形成する。右辺と左辺とで角度が異なるため、飛び越し部の形成位置は異なるがここでは説明を割愛する。
【0054】
図7(c)に示すように、円状の装飾を生成する場合は、形成パターンA〜Cを適宜配置することで円の形状を模倣する。例えば、上下には横方向の形成パターンCの装飾部を、左右には縦方向の形成パターンBを、斜めには斜め方向の形成パターンAの装飾部を配置することで、略円形状の装飾部を得ることができる。
【0055】
図8は、斜め方向の形成パターンAの織組織を示す。
図8(a)は、山となる側の織組織10A1を示し、
図8(b)は谷となる側の織組織10A2を示す。なお、
図8(a)と
図8(b)とはおおよそ対応しているが、正確に対応しているわけではない。
図9および
図10についても同様である。
【0056】
ここで、山とは周辺の織組織から突出する形状を示す。
図8(a)の場合、観察者の方に向かって織組織10A1が突出する凸形状を意味する。谷とは、周辺の織組織から凹んだ形状を示す。
図8(b)の場合、紙面の向こう側(観察者の居る方向と反対側)に向けて落ち込む凹形状を意味する。
【0057】
形成パターンAは、斜め方向の装飾部を形成するものであるため、織組織10A2には、縦方向の飛び越し部21Jと横方向の飛び越し部22Jとが装飾部の角度(向き)に応じて配置される。縦方向の飛び越し部21Jと横方向の飛び越し部22Jとの組合せにより、斜め方向の装飾部を得る。
【0058】
図8(a)に示すように、山側の織組織10A1でも所々で収縮型の糸21,22が部分的に露出しているが、それらは飛び越し部21J,22Jではない。飛び越し部21J,22Jは、加熱処理時に収縮すべく、所定本数の別方向の糸を飛び越して生成されたものである。
【0059】
部分的に露出する収縮型の糸21,22(a1、a4、g1、g4、h1)は、所定本数の別方向の糸を飛び越しておらず、通常の糸11,12により押さえ込まれている。例えば、列aを通る収縮型経糸21に着目すると、この糸21は、通常の緯糸12と交錯しているため(a2、a3、a5、a6)、加熱された場合の変形が抑えられている。従って、列aを通る収縮型経糸21は、
図8(a)に示す限りでは、飛び越し部21Jを有していない。
【0060】
図9は、縦方向の形成パターンBの織組織を示す。
図9(a)は、山となる側の織組織10B1を示し、
図9(b)は谷となる側の織組織10B2を示す。
図9(a)は、山の側の織組織10B1を示すため、
図8(a)で述べたように、飛び越し部22Jは備えていない。飛び越し部は、谷となる組織の側に形成される。部分的に露出した収縮型の糸21,22は、通常の糸11,12と交錯することで、加熱された場合の変形が抑制されている。例えば、列aでは、a1およびa2と、a4およびa5とで収縮型経糸21が緯糸2本分連続して露出しているが、3番目の行を通る緯糸12および6番目の行を通る緯糸12と交錯しているため、加熱時の変形が抑制される。
【0061】
図9(b)に示すように、谷となる側の織組織10B2には、横方向の飛び越し部22Jが縦方向に複数配置されている。すなわち、
図9(b)には、a1、b1、c1を含む飛び越し部22Jと、e1、f1、g1、h1を含む飛び越し部22Jと、b4、c4、d4、e4、f4からなる飛び越し部22Jとが示されている。各飛び越し部22Jは、それぞれ5本ずつの経糸を飛び越して形成されている。第1行目に示す複数の飛び越し部22Jは、図示の都合上、部分的に示されている。
【0062】
図10は、横方向の形成パターンCの織組織を示す。
図10(a)は山となる側の織組織10C1を示し、
図10(b)は谷となる側の織組織10C2を示す。
図10(b)に示すように、列fには、緯糸12および収縮型の緯糸22を少なくとも6本飛び越す飛び越し部21Jが形成されている。
【0063】
図8〜
図10で述べたように、所定のパターンで飛び越し部を配置した織組織を構成することで、斜め方向、縦方向、横方向の装飾部を得ることができる。そして、それら方向の異なる装飾部を複数組み合わせることで、矩形状、三角形状、円形状等の種々の形状を表現することができる。
【0064】
さらに、
図5で述べたように、表側飛び越し部と裏側飛び越し部とを近接して配置することで、織布10を大きく変形させることができる。これにより、プリーツのような装飾も実現することができる。
【0065】
図11および
図12を参照して、織布10の製造方法の概略を説明する。織布10を生成する織布生成システムは、例えば、デザインデータ生成装置110と、デザインデータ生成装置110に通信ネットワークCNを介して接続される自動織機120と、加熱装置130を含んで構成することができる。
【0066】
デザインデータ生成装置110は、衣服1のデザインに基づいて織布10の構成(織組織)を決定し、デザインデータとして出力するコンピュータである。デザインデータ生成装置110は、通信ネットワークCNを介さずに自動織機120に接続されてもよい。例えば、自動織機120にデザインデータを生成する機能を設けてもよい。
【0067】
自動織機120は、例えば、経糸供給部121、緯糸供給部122、収縮型経糸供給部123、収縮型緯糸供給部124、および織機制御装置125を含んで構成される。経糸供給部121は、経糸11を供給する。緯糸供給部122は、緯糸12を供給する。収縮型経糸供給部123は、収縮型経糸21を供給する。収縮型緯糸供給部124は、収縮型緯糸22を供給する。
【0068】
織機制御装置125は、各供給部121〜124を制御する。織機制御装置125は、通信ネットワークCNを介して受信したデータに基づいて、各供給部121〜124を制御する。なお、デザインデータ生成装置110で生成したデータは、通信ネットワークCNを介さずに織機制御装置125に入力することもできる。例えば、フラッシュメモリデバイスのような記憶媒体にデータを格納し、その記憶媒体を織機制御装置125に接続することで、データを織機制御装置125に入力することもできる。
【0069】
加熱装置130は、「特定処理」の例としての加熱処理を織布10に加えるための装置である。加熱装置130は、自動織機120に近接して設置してもよいし、自動織機120から離れた場所に設置してもよい。装飾構造を物理的に内蔵した織布を加熱装置130に通して加熱することで、装飾部5が出現する。装飾部5が出現する前の織布(加熱処理前の織布)をそのままで流通に置くことができる場合、加熱装置130は織布生成システムに含まれないと考えることができる。
【0070】
なお、特定処理は加熱処理に限定しない。例えば、冷却処理、加圧処理、減圧処理、特定波長の光や電波を照射する処理、超音波を当てる処理、振動を加える処理、特定成分の気体や液体にさらす処理などのように、収縮型の糸21,22を通常の糸よりも収縮させることができる処理であればよい。また、特定処理として加熱処理を用いる場合、加熱の方法も特に問わない。例えば、高温蒸気、赤外線、温風などで加熱してもよい。
【0071】
図12の流れ図を参照して、織布生成システムの概略動作を説明する。デザイナーは、衣服1のデザインを決定する(S1)。このとき、プリーツや線状模様などの装飾も決定することができる。
【0072】
装飾が決定された場合は、
図6で述べたように、決定された装飾を実現するための形成パターンA〜Cの配置を算出し、形成パターンの配置と地模様などの他の考慮事項とを考慮して、織組織を決定する(S2)。織組織の構成は、デザインデータ生成装置110を用いて自動的に決定することができる。決定した織組織の構成を示すデータは、デザインデータ生成装置110から通信ネットワークCNを介して、織機120の織機制御装置125へ送られる。
【0073】
織機制御装置125は、受信したデータに基づいて各供給部121〜124を制御することで、織布10を生成する(S3)。織布10は、通常の経糸11および通常の緯糸12と、所定の第1パターンで第1飛び越し部21Jが形成され、通常の経糸11の間に所定の第3パターンで配置される複数の収縮型経糸21と、所定の第2パターンで第2飛び越し部22Jが形成され、通常の緯糸12の間に所定の第4パターンで配置される複数の収縮型緯糸22とを織ることで製造される。
【0074】
所定の第1パターンは、縦方向の飛び越し部21Jが飛び越す緯糸の数、飛び越し部21Jの出現位置などを規定する。所定の第2パターンは、横方向の飛び越し部22Jが飛び越す経糸の数、飛び越し部22Jの出現位置などを規定する。所定の第3パターンは、収縮型経糸21を通す位置を規定する。所定の第4パターンは、収縮型緯糸22を通す位置を規定する。これらのパターンは、デザインデータに基づいて自動的に生成することができる。
【0075】
織布10は加熱装置130に通されて加熱される(S4)。これにより、各飛び越し部21J,22Jが収縮してプリーツなどの装飾部5が生成される(S5)。なお、ステップS5は、織布が織られた状態を示しており、正確には製造工程ではない。そこで、ステップS5を二点鎖線で示す。加熱処理により装飾部5が生成されるだけでなく、プリーツなどの装飾部5同士が関連することで、織布10に立体感が生まれる。
【0076】
このように構成される本実施例では、加熱されると出現する装飾部を織布10内に設ける。このため、収縮性の高い糸を用い、後からアイロン等で機械的、熱的にプリーツ加工する従来技術に比べて、着用や洗濯などに強い安定した装飾を得ることができる。
【0077】
本実施例では、
図5に示したように、山となる織組織と谷となる織組織とを近接して配置することで、より大きな変形を織布10に生じさせることができる。山と谷の構成を調整することで、所望の立体形状の装飾効果を得ることができる。
【実施例3】
【0085】
図14を参照して第3実施例を説明する。第1実施例では、3種類の形成パターンA〜Cを用いて、任意形状の装飾を得る場合を説明した。第2実施例では、形成パターンAのみを用いて、任意形状の装飾を得る場合を説明した。第3実施例(本実施例)では、より多くの形成パターンを用いることで、任意形状の装飾を得るようになっている。
【0086】
本実施例では、
図14に示すように、縦方向(Y方向)の装飾を形成する場合は、形成パターンBに対応する織組織を縦方向に並べて配置する。形成パターンBに対応する織組織をここでは織組織(B)と呼ぶ。織組織(B)は、
図9で述べたように、収縮型緯糸22が所定本数の経糸11,21を滑走する第2飛び越し部22Jのみを有する。織組織(B)が収縮型経糸21の飛び越し部21Jのみを有し、収縮型緯糸22の飛び越し部22Jを有していないことを(経0,緯100)と表現する。これはスクラッチ組織である織組織の飛び越し部の組成を示す。数値の単位は、例えば百分率である。複数の織組織(B)を縦方向に連続的に並べることで、縦方向に延びる装飾を得ることができる。
【0087】
横方向(X方向)の装飾を形成する場合は、形成パターンCに対応する織組織を横方向に並べて配置する。形成パターンCに対応する織組織をここでは織組織(C)と呼ぶ。織組織(C)は、
図10で述べたように、収縮型経糸21が所定本数の緯糸12,22を飛び越す第1飛び越し部21Jを有する。織組織(C)が収縮型緯糸22の飛び越し部22Jのみを有し、収縮型経糸21の飛び越し部21Jを有していない状態を、(経100,緯0)と表現する。複数の織組織(C)を横方向に連続的に並べることで、横方向に延びる装飾を得ることができる。
【0088】
縦方向と横方向の間の中間の領域では、縦方向の飛び越し部21Jと横方向の飛び越し部22Jとが装飾の形成方向に応じて分散配置された織組織(A)を使用する。ここで、説明のために、
図14の真上方向を基準の0度とし、右横方向を90度、真下方向を180度、左横方向を270度とする。
【0089】
0度よりも大きい角度(>0)から90度未満の角度(<90)までの範囲では、縦方向の飛び越し部21Jと横方向の飛び越し部22Jの両方を備える織組織(A)を使用する。装飾を形成する方向の角度が45度の場合、織組織(A)の有する飛び越し部の組成は、(経50,緯50)となる。本実施例では、形成方向の角度に応じて、織組織(A)の飛び越し部の組成は、(経0,緯100)から(経100,緯0)までの間で徐々に変化する。
【0090】
織組織(A)の飛び越し部の組成は、例えば1度単位、5度単位、10度単位のように所定角度ごとに変化させてもよい。あるいは、地の織組織11,12の基本パターンごとに、織組織(A)の飛び越し部の組成を変化させてもよい。例えば、織組織(A)の飛び越し部の組成は、(経1,緯99)、(経2,緯98)、(経3,緯97)、(経4,緯96)...(経97,緯3)、(経98,緯2)、(経99,緯1)のように変化させることができる。組成変化をもっと粗くし、例えば(経10,緯90)、(経20,緯80)、(経30,緯70)のように変化させてもよい。
【0091】
90度よりも大きい角度(>90)から180度未満の角度(<180)までの範囲、180度よりも大きい角度(>180)から270度未満の角度(<270)までの範囲、270度よりも大きい角度(>270)から0度未満の角度(<0=360)までの範囲も前記同様に、織組織(A)の飛び越し部の組成を徐々に変化させる。
【0092】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、スクラッチ機能を有する織組織の有する飛び越し部の組成を、装飾の形成方向に応じて段階的に、徐々に変化させるため、よりきめ細やかな装飾を生成できる。織布10は、第1実施例でも述べた通り、特定処理が適用されると発現する装飾を、織布それ自体の構成として内蔵している。従って、本実施例のように飛び越し部の組成を装飾の形成方向に応じて細かく制御したとしても、織布を機械的に圧迫したり織布にアイロンを当てたり等して装飾を後から形成する場合に比べて、恒常的な装飾を速やかに生成することができる。
【0093】
なお、本発明は、前述した実施例に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。例えば、収縮する糸の種類、収縮する糸を収縮させる方法、飛び越し部の形成方法などは、適宜決定することができる。また、本実施形態では、地の織組織の中に収縮型の糸を混在させる構成を説明したが、これに代えて、地の織組織に重ねて、収縮型の糸からなるストレッチ組織を設ける構成でもよい。さらに、特許請求の範囲に記載の種々の特徴は、明示された組合せ以外に、必要に応じて適宜組み合わせることができる。