(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記バリア層が、アルミナ、シリカ、およびジルコニアの少なくとも1種、またはポリビニリデンクロライド、ポリフッ化ビニル樹脂、およびエチレン・酢酸ビニル共重合体の部分加水分解物の少なくとも1種を含んでいる請求項1記載の光学体。
上記波長選択反射膜が、赤外領域において反射率の高い金属層と、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する光学透明層、または透明導電膜とを交互に積層してなる積層膜である請求項1記載の光学体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.第1の実施形態(構造体を1次元配列した例)
2.第2の実施形態(構造体を2次元配列した例)
3.第3の実施形態(構造体としてビーズを用いた例)
4.第4の実施形態(ルーバ型の波長選択反射膜の例)
5.第5の実施形態(指向反射体の表面に自己洗浄効果層を備えた例)
6.第6の実施形態(指向反射体に光散乱体を備えた例)
7.第7の実施形態(窓材の表面に波長選択反射膜を直接形成した例)
8.第8の実施形態(指向反射体の光学層を2層構造とした例)
9.第9の実施形態(指向反射体の表面または内部にバリア層を備えた例)
10.第10の実施形態(指向反射体の表面にハードコート層を備えた例)
11.第11の実施形態(指向反射体のハードコート層上に防汚層を備えた例)
12.第12の実施形態(反射膜として半透過膜を備えた例)
13.第13の実施形態(反射膜として高反射膜を備えた例)
14.第14の実施形態(光学層と反射層との密着性を向上させた第1の例)
15.第15の実施形態(光学層と反射層との密着性を向上させた第2の例)
16.第16の実施形態(ブラインド装置に指向反射体を適用した例)
17.第17の実施形態(ロールスクリーン装置に指向反射体を適用した例)
18.第18の実施形態(建具に指向反射体を適用した例)
【0020】
<1.第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。
図1に示すように、指向反射体1は、光学層2と、この光学層2の内部に形成された波長選択反射膜3とを備える。光学層2は、波長選択反射膜3の第1の主面上に形成された第1の光学層4と、波長選択反射膜3の第2の主面上に形成された第2の光学層5とを備える。指向反射体1は、太陽光などの光が入射する入射面S1と、この入射面S1より入射した光のうち、光学層2を透過した光が出射される出射面S2とを有する。光学層2の入射面S1は平滑であることが好ましい。後述する透過像鮮明度をより向上することができるからである。
【0021】
指向反射体1は、透明性を有している。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5との屈折率差が、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。0.008を超え0.010以下の範囲であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。0.005を超え0.008以下の範囲であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。0.005以下であれば、回折パターンは殆ど気にならない。第1の光学層4および第2の光学層5のうち、窓材10などと貼り合わせ側となる光学層は、粘着剤を主成分としてもよい。このような構成とすることで、粘着材を主成分とする光学層により指向反射体1を窓材10などに貼り合わせることができる。
図1では、第2の光学層5が、粘着剤を主成分とし、第2の光学層5により指向反射体1を窓材10などに貼り合わせる例が示されている。なお、このような構成にする場合、粘着剤の屈折率差が上記範囲内であることが好ましい。
【0022】
第1の光学層4と第2の光学層5とは、屈折率などの光学特性が同じであることが好ましい。より具体的には、第1の光学層4と第2の光学層5とが、可視領域において透明性を有する同一材料、例えば同一樹脂材料からなることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5とを同一材料により構成することで、両者の屈折率が等しくなるので、可視光の透明性を向上することができる。ただし、同一材料を出発源としても、製膜工程における硬化条件などにより最終的に生成する膜の屈折率が異なることがあるので、注意が必要である。これに対して、第1の光学層4と第2の光学層5とを異なる材料により構成すると、両者の屈折率が異なるので、波長選択反射膜3を境界として光が屈折し、透過像がぼやける傾向がある。特に、遠くの電灯など点光源に近い物を観察すると回折パターンが顕著に観察されるという問題がある。
【0023】
第1の光学層4と第2の光学層5は、可視領域において透明性を有することが好ましい。ここで、透明性の定義には2種類の意味があり、光の吸収がないことと、光の散乱がないことである。一般的に透明と言った場合に前者だけを指すことがあるが、本発明では両者を備えることが必要である。現在利用されている再帰反射体は、道路標識や夜間作業者の衣服など、その表示反射光を視認することが目的としているため、例えば散乱性を有していても、下地反射体と密着していれば、その反射光を視認することができた。例えば、画像表示装置の前面に、防眩性の付与を目的として散乱性を有するアンチグレア処理をしても、画像は視認できるのと同一の原理である。しかしながら、本発明に係る指向反射体1は、指向反射する特定の波長以外の光を透過する点に特徴を有しており、この透過波長を主に透過する透過体に接着し、その透過光を観察するため、光の散乱がないといった要件が必要である。ただし、その用途によっては、第2の光学層5に限っては意図的に散乱性を持たせることが可能である。
【0024】
指向反射体1は、好ましくは、透過した特定波長以外の光に対して主に透過性を有する剛体、例えば、窓材10に粘着剤などを介して貼り合わせて使用される。窓材10としては、高層ビルや住宅などの建築用窓材、車両用の窓材などが挙げられる。建築用窓材に指向反射体1を適用する場合、特に東〜南〜西向きの間のいずれかの向き(例えば南東〜南西向き)に配置された窓材10に指向反射体1を適用することが好ましい。このような位置の窓材10に適用することで、より効果的に熱線を反射することができるからである。指向反射体1は、単層の窓ガラスのみならず、複層ガラスなどの特殊なガラスにも用いることができる。また、窓材10は、ガラスからなるものに限定されるものではなく、透明性を有する高分子材料からなるものを用いてもよい。光学層2が、可視領域において透明性を有することが好ましい。このように透明性を有することで、光学体を窓ガラスなどの窓材10に貼り合せた場合、可視光を透過し、太陽光による採光を確保することができるからである。また、貼り合わせる面としてはガラスの外面のみならず、内面にも使用することができる。このように内面に使用する場合、指向反射方向が目的とする方向となるように、構造体11の凹凸の表・裏及び面内方向を合わせて貼り合わせる必要がある。
【0025】
指向反射体1は、指向反射体1を窓材10に容易に貼り合わせ可能にする観点からすると、フレキシブル性を有することが好ましい。指向反射体1の形状としては、例えば、フィルム状、シート状、プレート状、ブロック状を挙げることができるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。
【0026】
また、指向反射体1は他の熱線カットフィルムと併用して用いることができ、例えば空気と光学層2との界面に光吸収塗膜を設けることもできる。また、指向反射体1は、ハードコート層、紫外線カット層、表面反射防止層などとも併用して用いることができる。これらの機能層を併用する場合、これらの機能層を指向反射体1と空気との間の界面に設けることが好ましい。ただし、紫外線カット層については、指向反射体1よりも太陽側に配置する必要があるため、特に室内外の窓ガラス面に内貼り用として用いる場合には、該窓ガラス面と指向反射体1の間に紫外線カット層を設けることが望ましい。この場合、窓ガラス面と指向反射体1の間の粘着層中に、紫外線吸収剤を練りこんでおいてもよい。
【0027】
また、指向反射体1の用途に応じて、指向反射体1に対して着色を施し、意匠性を付与するようにしてもよい。このように意匠性を付与する場合、透明性を損なわない範囲で第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、可視領域における特定の波長帯の光を主として吸収する構成とすることが好ましい。
【0028】
また、指向反射体1の入射面S1または出射面S2に、防汚性などを付与する観点から、撥水性または親水性を有する層をさらに備えてもよい。このような機能を有する層は、例えば、第1の光学層4または第2の光学層5上に直接形成される、またはそれらの光学層上に形成されたハードコート層などの各種機能層上に形成される。
【0029】
図2は、指向反射体1に対して入射する入射光と、指向反射体1により反射された反射光との関係を示す斜視図である。指向反射体1は、光Lが入射する入射面S1を有する。指向反射体1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L
1を選択的に正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L
2を透過する。また、指向反射体1は、上記特定波長帯以外の光に対して透明性を有する。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。但し、θ:入射面S1に対する垂線l
1と、入射光Lまたは反射光L
1とのなす角である。φ:入射面S1内の特定の直線l
2と、入射光Lまたは反射光L
1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。ここで、入射面内の特定の直線l
2とは、入射角(θ、φ)を固定し、指向反射体1の入射面S1に対する垂線l
1を軸として指向反射体1を回転したときに、φ方向への反射強度が最大になる軸である(
図3および
図4参照)。但し、反射強度が最大となる軸(方向)が複数ある場合、そのうちの1つを直線l
2として選択するものとする。なお、垂線l
1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l
2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。
【0030】
選択的に指向反射する特定の波長帯の光、および透過させる特定の光は、指向反射体1の用途により異なる。例えば、窓材10に対して指向反射体1を適用する場合、選択的に指向反射する特定の波長帯の光は近赤外光であり、透過させる特定の波長帯の光は可視光であることが好ましい。具体的には、選択的に指向反射する特定の波長帯の光が、主に波長帯域780nm〜2100nmの近赤外線であることが好ましい。近赤外線を反射することで、光学体をガラス窓などの窓材に貼り合わせた場合に、建物内の温度上昇を抑制することができる。したがって、冷房付加を軽減し、省エネルギー化を図ることができる。ここで、指向反射とは、正反射以外のある特定の方向への反射を有し、かつ、指向性を持たない拡散反射強度よりも十分に強いことを意味する。ここで、反射するとは、特定の波長帯域、例えば近赤外域における反射率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上であることを示す。透過するとは、特定の波長帯域、例えば可視光域における透過率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上であることを示す。
【0031】
指向反射する方向φoが−90°以上、90°以下であることが好ましい。指向反射体1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空方向に戻すことができるからである。周辺に高い建物がない場合にはこの範囲の指向反射体1が有用である。また、指向反射する方向が(θ、−φ)近傍であることが好ましい。近傍とは、好ましく(θ、−φ)から5度以内、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内の範囲内のずれのことをいう。この範囲にすることで、指向反射体1を窓材10に貼った場合、同程度の高さが立ち並ぶ建物の上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を他の建物の上空に効率良く戻すことができるからである。このような指向反射を実現するためには、例えば球面や双曲面の一部や三角錐、四角錘、円錐などの3次元構造体を用いることが好ましい。(θ、φ)方向(−90°<φ<90°)から入射した光は、その形状に基づいて(θo、φo)方向(0°<θo<90°、−90°<φo<90°)に反射させることができる。または、一方向に伸びた柱状体にすることが好ましい。(θ、φ)方向(−90°<φ<90°)から入射した光は、柱状体の傾斜角に基づいて(θo、−φ)方向(0°<θo<90°)に反射させることができる。
【0032】
特定波長体の光の指向反射が、再帰反射近傍方向、すなわち、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光に対する、特定波長体の光の反射方向が、(θ、φ)近傍であることが好ましい。指向反射体1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に戻すことができるからである。ここで近傍とは5度以内が好ましく、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内である。この範囲にすることで、指向反射体1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に効率良く戻すことができるからである。また、赤外線センサーや赤外線撮像のように、赤外光照射部と受光部が隣接している場合は、再帰反射方向は入射方向と等しくないとならないが、本発明のように特定の方向からセンシングする必要がない場合は、厳密に同一方向とする必要はない。
【0033】
透過性を持つ波長帯に対する透過像鮮明度に関し、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、さらに好ましくは75以上である。透過像鮮明度の値が50未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。50以上60未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。60以上75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が、好ましくは230以上、より好ましくは270以上、さらに好ましくは350以上である。透過像鮮明度の合計値が230未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。230以上270未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。270以上350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。ここで、透過像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。
【0034】
透過性を持つ波長帯に対するヘイズが、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。ヘイズが6%を超えると、透過光が散乱され、曇って見えるためである。ここで、ヘイズは、村上色彩製HM−150を用いて、JIS K7136で規定される測定方法により測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。指向反射体1の入射面S1、好ましくは入射面S1および出射面S2は、透過像鮮明度を低下させない程度の平滑性を有する。具体的には、入射面S1および出射面S2の算術平均粗さRaは、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。なお、上記算術平均粗さRaは、入射面の表面粗さを測定し、2次元断面曲線から粗さ曲線を取得し、粗さパラメータとして算出したものである。なお、測定条件はJIS B0601:2001に準拠している。以下に測定装置および測定条件を示す。
測定装置:全自動微細形状測定機 サーフコーダーET4000A(株式会社小坂研究所)
λc=0.8mm、評価長さ4mm、カットオフ×5倍
データサンプリング間隔0.5μm
【0035】
指向反射体1の透過色はなるべくニュートラルに近く、色付きがあるとしても涼しい印象を与える青、青緑、緑色などの薄い色調が好ましい。このような色調を得る観点からすると、入射面S1から入射し、光学層2および反射層3を透過し、出射面S2から出射される透過光および反射光の色度座標x、yは、例えばD65光源の照射に対しては、好ましくは0.20<x<0.35かつ0.20<y<0.40、より好ましくは、0.25<x<0.32かつ0.25<y<0.37、更に好ましくは0.30<x<0.32かつ0.30<y<0.35の範囲を満たすのが望ましい。更に、色調が赤みを帯びないためには、好ましくはy>x−0.02、より好ましくはy>xの関係を満たすのが望ましい。また、反射色調が入射角度によって変化すると、例えばビルの窓に適用された場合に、場所によって色調が異なったり、歩くと色が変化して見えるため好ましくない。このような色調の変化を抑制する観点からすると、5°以上60°以下の入射角度θで入射面S1または出射面S2から入射し、指向反射体1により反射された正反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、指向反射体1の両主面のいずれにおいても、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.01以下である。このような反射光に対する色座標x、yに関する数値範囲の限定は、入射面S1、および出射面S2の両方の面において満たされることが望ましい。
【0036】
正反射近傍での色変化を抑制するためには、好ましくは5°以下、更に好ましくは10°以下の傾斜角を有する平面が含まれない事が望ましい。また、波長選択反射膜3が樹脂で覆われている場合、入射光が空気から樹脂に入射する際に屈折するため、より広い入射角の範囲で正反射光近傍での色調変化を抑制する事が出来る。その他、正反射以外への反射色が問題になる場合は、問題となる方向に指向反射がいかないよう、指向反射体1を配置する事が好ましい。
【0037】
(第1の光学層)
第1の光学層4は、例えば、波長選択反射膜3を支持するための支持体である。また、第1の光学層4は、透過像鮮明度や全光線透過率を向上するとともに、波長選択反射膜3を保護するためのものでもある。第1の光学層4は、例えば、フィルム状、シート状、プレート状、ブロック状を有する。指向反射体1を窓材10に容易に貼り合わせ可能にする観点からすると、第1の光学層4は、フィルム状、シート状であることが好ましい。第1の光学層4の材料としては、例えば、ポリカーカーボネートなどの熱可塑性樹脂、アクリルなどの電離線硬化樹脂などを用いることができる。
【0038】
また、指向反射体1や窓材10などに意匠性を付与する観点からすると、第1の光学層4が、可視領域における特定の波長帯の光を吸収する特性を有することが好ましい。樹脂中に分散させる顔料は、有機系顔料および無機系顔料のいずれであってもよいが、特に顔料自体の耐候性が高い無機系顔料とすることが好ましい。具体的には、ジルコングレー(Co、NiドープZrSiO
4)、プラセオジムイエロー(PrドープZrSiO
4)、クロムチタンイエロー(Cr、SbドープTiO
2またはCr、WドープTiO
2)、クロムグリーン(Cr
2O
3など)、ピーコックブルー((CoZn)O(AlCr)
2O
3)、ビクトリアグリーン((Al、Cr)
2O
3)、紺青(CoO・Al
2O
3・SiO
2)、バナジウムジルコニウム青(VドープZrSiO
4)、クロム錫ピンク(CrドープCaO・SnO
2・SiO
2)、陶試紅(MnドープAl
2O
3)、サーモンピンク(FeドープZrSiO
4)などの無機顔料、アゾ系顔料やフタロシアニン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0039】
第1の光学層4は、例えば、波長選択反射膜3が形成される側の面に1次元配列された複数の構造体11を有する。構造体11のピッチPが、好ましくは5μm以上5mm以下、より好ましくは5μm以上250μm未満、さらに好ましくは20μm以上200μm以下である。構造体11のピッチが5μm未満であると、構造体11の形状を所望のものとすることが難しい上、波長選択反射膜3の波長選択特性は一般的には急峻にすることが困難であるため、透過波長の一部を反射することがある。このような反射が起こると回折が生じて高次の反射まで視認されるため、透明性が悪く感じられる傾向がある。一方、構造体11のピッチが5mmを超えると、指向反射に必要な構造体11の形状を考慮した場合、必要な膜厚が厚くなりフレキシブル性が失われ、窓材10などの剛体に貼りあわせることが困難になる。したがって、フレキシブル性を確保する観点から、構造体11のピッチを5mm以下にするのが好ましい。また、構造体11のピッチを250μm未満にすることにより、さらにフレキシブル性が増し、ロール・ツー・ロールでの製造が容易となり、バッチ生産が不要となる。窓などの建材に指向反射体1を適用するためには、指向反射体1が数m程度の長さを有していることが好ましく、このような長さの指向反射体1を製造するためには、バッチ生産よりもロール・ツー・ロールでの生産が適している。さらに、ピッチを20μm以上200μm以下とした場合には、より生産性が向上する。
【0040】
また、第1の光学層4の表面に形成される構造体11の形状は1種類に限定されるものではなく、複数種類の形状の構造体11を第1の光学層4の表面に形成するようにしてもよい。複数種類の形状の構造体11を表面に設ける場合、複数種類の形状の構造体11からなる所定のパターンが周期的に繰り返されるようにしてもよい。また、所望とする特性によっては、複数種類の構造体11がランダム(非周期的)に形成されるようにしてもよい。
【0041】
図3A〜3Cは、第1の光学層に形成された構造体の形状例を示す斜視図である。構造体11は、一方向に延在された柱状の凸部であり、この柱状の構造体11が一方向に向かって一次元配列されている。波長選択反射膜3はこの構造体11上に成膜させるため、波長選択反射膜3の形状は、構造体11の表面形状と同様の形状を有することになる。
【0042】
構造体11の形状としては、例えば、
図3Aに示すプリズム形状、
図3Bに示す、プリズム形状の頂部に丸みを付与した形状、
図3Cに示すシリンドリカル形状などのレンチキュラー形状、またはこれらの反転形状を挙げることができる。ここで、レンチキュラー形状とは、凸部の稜線に垂直な断面形状が円弧状もしくはほぼ円弧状、楕円弧状もしくはほぼ楕円弧状、または放物線状もしくはほぼ放物線状の一部となっているものをいう。したがって、シリンドリカル形状もレンチキュラー形状に含まれる。なお、
図3Bに示すように、稜線部分にはRがあっても良く、曲率半径Rと構造体11のピッチPの比R/Pは、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下の範囲内である。また、構造体11の形状は、
図3A〜
図3Cに示した形状、またはこれらの反転形状に限定されるものではなく、トロイダル形状、双曲柱状、楕円柱状、多角柱状、自由曲面状としてもよい。また、プリズム形状、およびレンチキュラー形状の頂部を多角形状(例えば五角形状)の形状としてもよい。構造体11をプリズム形状とする場合、プリズム形状の構造体11の傾斜角度θは、例えば45°である。構造体11は、窓材10に適用した場合に、上空から入射した光を反射して上空に多く戻す観点からは、傾斜角がなるべく45°以上傾斜した平面または曲面を有することが好ましい。このような形状にすることで、入射光はほぼ1回の反射で上空へ戻るため、波長選択反射膜3の反射率がそれ程高く無くとも効率的に上空方向へ入射光を反射できると共に、波長選択反射膜3における光の吸収を低減できるからである。
【0043】
また、
図4Aに示すように、構造体11の形状を、指向反射体1の入射面S1に垂直な垂線l
1に対して非対称な形状としてもよい。この場合、構造体11の主軸l
mが、垂線l
1を基準にして構造体11の配列方向aに傾くことになる。ここで、構造体11の主軸l
mとは、構造体断面の底辺の中点と構造体の頂点とを通る直線を意味する。地面に対して垂直に配置された窓材10に指向反射体1を貼る場合には、
図4Bに示すように、構造体11の主軸l
mが、垂線l
1を基準にして窓材10の下方(地面側)に傾いていることが好ましい。一般に窓を介した熱の流入が多いのは昼過ぎ頃の時間帯であり、太陽の高度が45°より高いことが多いため、上記形状を採用することで、これら高角度から入射する光を効率的に上方に反射できるからである。
図4Aおよび
図4Bでは、プリズム形状の構造体11を垂線l
1に対して非対称な形状とした例が示されている。なお、プリズム形状以外の構造体11を垂線l
1に対して非対称な形状としてもよい。例えば、コーナーキューブ体を垂線l
1に対して非対称な形状としてもよい。
【0044】
(第2の光学層)
第2の光学層5は、透過像鮮明度や全光線透過率を向上するとともに、波長選択反射膜3を保護するためのものである。第2の光学層5の材料としては、例えば、ポリカーカーボネートなどの熱可塑性樹脂、アクリルなどの電離線硬化樹脂などを用いることができる。また、第2の光学層5を接着層とし、この接着層を介して窓材10に指向反射体1を貼り合わせる構成としてもよい。接着層の材料は、例えば、感圧性粘着剤(Pressure Sensitive Adhesive:PSA)、紫外線硬化樹脂などを用いることができる。
【0045】
また、指向反射体1に意匠性を持たせるために、第2の光学層5が特定の波長の光を吸収する機能を有していてもよい。このような機能を有する第2の光学層5としては、例えば第2の光学層5の主成分である樹脂に顔料をしたものを用いることができる。この樹脂中に分散させる顔料は、有機系顔料および無機系顔料のいずれであってもよいが、とくに顔料自体の耐候性が高い無機系顔料とすることが好ましい。具体的には、ジルコングレー(Co,NiドープZrSiO
4)、プラセオジムイエロー(PrドープZrSiO
4)、クロムチタンイエロー(Cr、SbドープTiO
2またはCr、WドープTiO
2)、クロムグリーン(Cr
2O
3など)、ピーコックブルー((CoZn)O(AlCr)
2O
3)、ビクトリアグリーン((Al、Cr)
2O
3)、紺青(CoO・Al
2O
3・SiO
2)、バナジウムジルコニウム青(VドープZrSiO
4)、クロム錫ピンク(CrドープCaO・SnO
2・SiO
2)、陶試紅(MnドープAl
2O
3)、サーモンピンク(FeドープZrSiO
4)などの無機顔料、アゾ系顔料やフタロシアニン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0046】
(波長選択反射膜)
波長選択反射膜3は、例えば、積層膜、透明導電膜、または機能膜である。また、積層膜、透明導電膜、および機能膜を2以上組み合わせて波長選択膜としてもよい。波長選択反射膜3の平均膜厚は、好ましくは20μm、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。波長選択反射膜3の平均膜厚が20μmを超えると、透過光が屈折する光路が長くなり、透過像が歪んで見える傾向がある。波長選択反射膜の形成方法としては、例えば、スパッタ法、蒸着法、ディップコーティング法、ダイコーティング法などを用いることができる。
以下、積層膜、透明導電膜、または機能膜について順次説明する。
【0047】
(積層膜)
積層膜は、例えば、屈折率の異なる低屈折率層および高屈折率層を交互に積層してなる積層膜である。または、積層膜は、例えば、赤外領域において反射率の高い金属層と、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する光学透明層、または透明導電膜とを交互に積層してなる積層膜である。
【0048】
赤外領域において反射率の高い金属層は、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのAg系、Cu系、Al系、Si系またはGe系の材料が好ましい。また、金属層の材料として合金を用いる場合には、金属層は、AlCu、AlTi、AlCr、AlCo、AlNdCu、AlMgSi、AgPdCu、AgPdTi、AgCuTi、AgPdCa、AgPdMg、AgPdFe、AgまたはSiBなどを主成分とすることが好ましい。また、金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。特に、金属層の材料としてAgを用いる場合には、上記材料を添加することが好ましい。
【0049】
光学透明層は、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する光学透明層である。光学透明層は、例えば酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタンなどの高誘電体を主成分とする。透明導電膜は、例えば、ZnO系酸化物、インジウムドープ酸化錫などを主成分とする。なお、ZnO系酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(GAZO)、Alをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびガリウム(Ga)をドープした酸化亜鉛(GZO)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0050】
また、積層膜に含まれる高屈折率層の屈折率は、好ましくは1.7以上2.6以下、より好ましくは1.8以上2.6以下、更に好ましくは1.9以上2.6以下の範囲内である。これにより、クラックが発生しない程度の薄い膜で可視光領域での反射防止が実現できるからである。ここで、屈折率は、波長550nmにおけるものである。高屈折率層は、例えば、金属の酸化物を主成分とする層である。金属の酸化物としては、層の応力を緩和し、クラックの発生を抑制する観点からすると、酸化亜鉛以外の金属酸化物を用いることが好ましい。特に、酸化ニオブ(例えば、五酸化ニオブ)、酸化タンタル(例えば、五酸化タンタル)、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。高屈折率層の膜厚は、好ましくは10nm以上120nm以下、より好ましくは10nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上80nm以下である。膜厚が10nm未満であると、可視光が反射しやすくなる傾向がある。一方、膜厚が120を超えると、透過率の低下やクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0051】
なお、積層膜は、無機材料からなる薄膜に限定されるものではなく、高分子材料からなる薄膜や高分子中に微粒子などを分散した層を積層して構成してもよい。また、これら光学透明層製膜時の下層金属の酸化劣化を防ぐ目的で、成膜する光学透明層の界面に数nm程度のTiなどの薄いバッファー層を設けてもよい。ここで、バッファー層とは、上層製膜時に、自らが酸化することで下層である金属層などの酸化を抑制するための層である。
【0052】
(透明導電膜)
透明導電膜は、可視領域において透明性を有する導電性材料を主成分とする透明導電膜である。透明導電膜は、例えば、酸化錫、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ含有体、インジウムドープ酸化錫、インジウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化錫などの透明導電物質を主成分とする。もしくはこれらのナノ粒子や金属などの導電性を持つ材料のナノ粒子、ナノロッド、ナノワイヤーを樹脂中に高濃度に分散させた層を用いても良い。
【0053】
(機能膜)
機能膜は、外部刺激により反射性能などが可逆的に変化するクロミック材料を主成分とする。クロミック材料は、例えば、熱、光、侵入分子などの外部刺激により構造を可逆的に変化させる材料である。クロミック材料としては、例えば、フォトクロミック材料、サーモクロミック材料、ガスクロミック材料、エレクトロクロミック材料を用いることができる。
【0054】
フォトクロミック材料とは、光の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。フォトクロミック材料は、例えば紫外線などの光照射により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。フォトクロミック材料としては、例えばCr,Fe,NiなどをドープしたTiO
2、WO
3、MoO
3、Nb
2O
5などの遷移金属酸化物を用いることができる。また、これらの膜と屈折率の異なる膜を積層することで波長選択性を向上させることもできる。
【0055】
サーモクロミック材料とは、熱の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。フォトクロミック材料は、加熱により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。サーモクロミック材料としては、例えばVO
2などを用いることができる。また、転移温度や転移カーブを制御する目的で、W、Mo、Fなどの元素を添加することもできる。また、VO
2などのサーモクロミック材料を主成分とする薄膜を、TiO
2やITOなどの高屈折率体を主成分とする反射防止層で挟んだ積層構造としてもよい。
または、コレステリック液晶などのフォトニックラティスを用いることもできる。コレステリック液晶は層間隔に応じた波長の光を選択的に反射することができ、この層間隔は温度によって変化するため、加熱により、反射率や色などの物性を可逆的に変化させることができる。この時、層間隔の異なるいくつかのコレステリック液晶層を用いて反射帯域を広げることも可能である。
【0056】
エレクトロクロミック材料とは、電気により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる材料である。エレクトロクロミック材料としては、例えば、電圧の印加により構造を可逆的に変化させる材料を用いることができる。より具体的には、エレクトロクロミック材料としては、例えば、プロトンなどのドープまたは脱ドープにより、反射特性が変わる反射型調光材料を用いることができる。反射型調光材料とは、具体的には、外部刺激により、光学的な性質を透明な状態と、鏡の状態、および/またはその中間状態に制御することができる材料である。このような反射型調光材料としては、例えば、マグネシウムおよびニッケルの合金材料、マグネシウムおよびチタンの合金材料を主成分とする合金材料、WO
3やマイクロカプセル中に選択反射性を有する針状結晶を閉じ込めた材料などを用いることができる。
【0057】
具体的な機能膜の構成としては、例えば、第2の光学層上に、上記合金膜、Pdなどを含む触媒膜、薄いAlなどのバッファー層、Ta
2O
5などの電解質層、プロトンを含むWO
3などのイオン貯蔵層、透明導電膜が積層された構成を用いることができる。または、第2の光学層上に透明導電膜、電解質層、WO
3などのエレクトロクロミック層、透明導電膜が積層された構成を用いることができる。これらの構成では、透明導電膜と対向電極の間に電圧を印加することにより、電解質層に含まれるプロトンが合金膜にドープまたは脱ドープされる。これにより、合金層の透過率が変化する。また、波長選択性を高めるために、エレクトロクロミック材料をTiO
2やITOなどの高屈折率体と積層することが望ましい。また、その他の構成として、第2の光学層上に透明導電膜、マイクロカプセルを分散した光学透明層、透明電極が積層された構成を用いることができる。この構成では、両透明電極間に電圧を印加することにより、マイクロカプセル中の針状結晶が配向した透過状態にしたり、電圧を除くことで針状結晶が四方八方を向き、波長選択反射状態にすることができる。
【0058】
(指向反射体の機能)
図5、
図6は、指向反射体の機能の一例を説明するための断面図である。ここでは、例として、構造体の形状が傾斜角45°のプリズム形状である場合を例として説明する。
図5に示すように、この指向反射体1に入射した太陽光のうち近赤外線L
1の一部は、入射した方向と同程度の上空方向に指向反射するのに対して、可視光L
2は指向反射体1を透過する。
【0059】
また、
図6に示すように、指向反射体1に入射し、波長選択反射膜3の反射膜面で反射された光は、入射角度に応じた割合で、上空反射する成分L
Aと、上空反射しない成分L
Bとに分離する。そして、上空反射しない成分L
Bは、第2の光学層4と空気との界面で全反射した後、最終的に入射方向とは異なる方向に反射する。
【0060】
光の入射角度をα、第1の光学層4の屈折率をn、波長選択反射膜3の反射率をRとすると、全入射成分に対する上空反射成分L
Aの割合xは以下の式(1)で表される。
x=(sin(45−α')+cos(45−α’)/tan(45+α'))/(sin(45−α')+cos(45−α'))×R
2 ・・・(1)
但し、α'=sin
-1(sinα/n)
【0061】
上空反射しない成分L
Bの割合が多くなると、入射光が上空反射する割合が減少する。上空反射の割合を向上するためには、波長選択反射膜3の形状、すなわち、第1の光学層4の構造体11の形状を工夫することが有効である。例えば、上空反射の割合を向上するためには、構造体11の形状は、
図3Cに示すシリンドリカル形状、または
図4に示す非対称な形状とすることが好ましい。このような形状にすることで、入射光と全く同じ方向に光を反射することはできなくても、建築用窓材などの上方向から入射した光を上方向に反射させる割合を多くすることが可能である。
図3Cおよび
図4に示す二つの形状は、
図7および
図8に示すように、波長選択反射膜3による入射光の反射回数が1回で済むため、最終的な反射成分を
図5に示すような2回反射させる形状よりも多くすることが可能である。例えば、2回反射を利用する場合、波長選択反射膜3のある波長に対する反射率を80%とすると、上空反射率は64%となるが、1回反射で済めば上空反射率は80%となる。
【0062】
図9は、柱状の構造体11の稜線l
3と、入射光Lおよび反射光L
1との関係を示す。指向反射体1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L
1を選択的に(θo、−φ)の方向(0°<θo<90°)に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L
2を透過することが好ましい。このような関係を満たすことで、特定波長帯の光を上空方向に反射できるからである。但し、θ:入射面S1に対する垂線l
1と、入射光Lまたは反射光L
1とのなす角である。φ:入射面S1内において柱状の構造体11の稜線l
3と直交する直線とl
2と、入射光Lまたは反射光L
1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。なお、垂線l
1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l
2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。
【0063】
(指向反射体の製造方法)
以下、
図10および
図11を参照して、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の製造方法の一例について説明する。
まず、例えば、バイトやレーザー加工などにより、構造体11と同一の凹凸形状、またはその反転形状を有する金型を形成する。次に、例えば溶融押し出し法や転写法を用いて、上記金型の凹凸形状をフィルム状またはシート状の樹脂材料に転写する。転写法としては、型に電離線硬化樹脂を流し込み、電離線を照射して硬化させる方法や、樹脂に熱や圧力を印加し、形状を転写する方法などが挙げられる。これにより、
図10Aに示すように、一主面に複数の構造体11を有する第1の光学層4が形成される。次に、
図10Bに示すように、その第1の光学層4の一主面上に波長選択反射膜3を成膜する。波長選択反射膜3の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ウェットコーティング法、スプレーコーティング法などが挙げられ、これらの成膜方法から、構造体11の形状などに応じて適宜選択することが好ましい。
【0064】
次に、
図10Cに示すように、未硬化状態の樹脂21を波長選択反射膜3上に塗布する。樹脂21としては、例えば、熱可塑性樹脂、または電離線硬化樹脂などを用いることができる。電離線硬化樹脂としては、紫外線硬化樹脂が好ましい。次に、
図11Aのように、樹脂21上に剥離用フィルム22を被せて、樹脂表面を成形する。次に、
図11Bに示すように、光源23によりUV光を樹脂21に照射する、もしくは、樹脂21を冷却することにより、樹脂21を硬化させる。次に、
図11Cに示すように、硬化した樹脂21から剥離用フィルム22を剥離する。これにより、表面が平滑な第2の光学層5が波長選択反射膜3上に形成される。またこの時、剥離用フィルム22を用いず、波長選択反射膜が透過する波長の光や電離線に対して透明なフィルムを用い、剥離せずに光学体として用いることも可能である。更には、溶剤中に溶かした粘着剤成分を厚く塗り、レベリングさせて平らにした後に剥離用フィルム22を被せて粘着剤が片面に形成された光学体とすることもできる。
以上により、光学層2の内部に所望の形状の波長選択反射膜が設けられた指向反射体1が得られる。
【0065】
上述の製造方法のように、第1の光学層4の凹凸形状を金型により形成する場合には、第1の光学層4および第2の光学層5のうち、少なくとも第2の光学層5が、極性の高い官能基を含んでいることが好ましい。第1の光学層4および第2の光学層5の両方が極性の高い官能基(例えばリン酸系アクリレート)を含む場合には、第2の光学層中における極性の高い官能基の含有量が、第1の光学層中における極性の高い官能基の含有量よりも多いことが好ましい。第1の光学層4が極性の高い官能基を多量に含むと、金型により凹凸形状を形成する際に、金型の離型が困難となるからである。金型の離型を容易にする観点からすると、以下のように第1の光学層4および第2の光学層5のうち、少なくとも第2の光学層5に対して、極性の高い官能基を含有させることが好ましい。すなわち、極性の高い官能基の含有量は、第1の光学層4と第2の光学層5とにおける屈折率差が、好ましくは0以上0.010以下、より好ましくは0以上0.009以下の範囲となるように調整することが好ましい。また、上述したように、屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。
【0066】
<2.第2の実施形態>
図12〜
図14は、本発明の第2の実施形態に係る指向反射体の構造体の構成例を示す断面図である。第2の実施形態において、第1の実施形態と対応する箇所には同一の符号を付す。第2の実施形態は、第1の光学層4の一主面にて構造体11が2次元配列されている点において、第1の実施形態とは異なっている。
【0067】
第1の光学層4の一主面には、構造体11が2次元的に配列されている。この配列は、最稠密充填状態での配列であることが好ましい。例えば、第1の光学層4の一主面には、構造体11を最稠密充填状態で2次元配列することにより正方稠密アレイ、デルタ稠密アレイ、六方稠密アレイなどの稠密アレイが形成されている。正方稠密アレイは、正方形状の底面を有する構造体11を正方稠密状に配列させたものである。デルタ稠密アレイは、三角形状の底面を有する構造体11を六方稠密状に配列させたものである。六方周密アレイは、六角形状の底面を有する構造体11を六方稠密状に配列させたものである。
【0068】
構造体11は、例えば、コーナーキューブ状、半球状、半楕円球状、プリズム状、自由曲面状、多角形状、円錐形状、多角錐状、円錐台形状、放物面状などの凸部または凹部である。構造体11の底面は、例えば、円形状、楕円形状、または三角形状、四角形状、六角形状もしくは八角形状などの多角形状を有している。なお、
図12では、四角形状の底面を有する構造体11を最稠密充填状態で2次元配列した正方稠密アレイの例が示されている。また、
図13では、六角形状の底面を有する構造体11を最稠密充填状態で2次元配列したデルタ稠密アレイの例が示されている。また、
図14では、三角形の底面を有する構造体11を最稠密充填状態で2次元配列した六方稠密アレイの例が示されている。また、構造体11のピッチP1、P2は、所望とする光学特性に応じて適宜選択することが好ましい。また、指向反射体1の入射面に対して垂直な垂線に対して、構造体11の主軸を傾ける場合、構造体11の2次元配列のうちの少なくとも一方の配列方向に構造体11の主軸を傾けるようにすることが好ましい。地面に対して垂直に配置された窓材に指向反射体1を貼る場合には、構造体11の主軸が、垂線を基準にして窓材の下方(地面側)に傾いていることが好ましい。
【0069】
<3.第3の実施形態>
図15は、本発明の第3の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第3の実施形態において、第1の実施形態と対応する箇所には同一の符号を付す。
図15に示すように、第3の実施形態は、構造体に代えてビース31を備えている点において、第1の実施形態とは異なっている。
【0070】
第1の光学層4の一主面には、この一主面からビース31の一部が突出するようにビース31が埋め込まれている。そして、ビース31が埋め込まれた第1の光学層4の一主面に、焦点層32、波長選択反射膜3、第2の光学層が順次積層されている。ビース31は、例えば球状を有する。ビース31は、透明性を有することが好ましい。ビース31は、例えば、ガラスなどの無機材料、または高分子樹脂などの有機材料を主成分とする。
【0071】
<4.第4の実施形態>
図16は、本発明の第4の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第4の実施形態において、第1の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。第4の実施形態は、光の入射面に対して傾斜した複数の波長選択反射膜3を光学層2内に備え、これらの波長選択反射膜3を互いに平行に配列している点において、第1の実施形態とは異なっている。
【0072】
図17は、本発明の第4の実施形態に係る指向反射体の構造体の一構成例を示す斜視図である。構造体11は、一方向に延在された三角柱状の凸部であり、この柱状の構造体11が一方向に向かって一次元配列されている。構造体11の延在方向に垂直な断面は、例えば、直角三角形状を有する。構造体11の鋭角側の傾斜面上に、例えば、蒸着法、スパッタリング法などの、指向性を有する薄膜形成法により、波長選択反射膜3が形成される。
【0073】
第4の実施形態によれば、複数の波長選択反射膜3を光学層5内に平行に配列している。これにより、波長選択反射膜3による反射回数を、コーナーキューブ形状やプリズム形状の構造体11を形成した場合に比べて低減することができる。したがって、反射率を高くすることができ、かつ、波長選択反射膜3による光の吸収を低減できる。
【0074】
<5.第5の実施形態>
図18は、本発明の第5の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第5の実施形態において、第1の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
図18に示すように、第5の実施形態は、指向反射体1の入射面上に、洗浄効果を発現する自己洗浄効果層6をさらに備える点において、第1の実施形態とは異なっている。自己洗浄効果層6は、例えば、光触媒を含んでいる。光触媒としては、例えば、TiO
2を用いることができる。
【0075】
上述したように、指向反射体1は特定波長帯の光を選択的に指向反射する点に特徴を有している。指向反射体1を屋外や汚れの多い部屋などで使用する際には、表面に付着した汚れにより光が散乱され指向反射特性が失われてしまうため、表面が常に光学的に透明であることが好ましい。そのため、表面が撥水性や親水性などに優れ、表面が自動的に洗浄効果を発現することが好ましい。
【0076】
第5の実施形態によれば、指向反射体1の入射面上に自己洗浄効果層6を形成しているので、撥水性や親水性などを入射面に付与することができる。したがって、入射面に対する汚れなどの付着を抑制し、指向反射特性の低減を抑制できる。
【0077】
<6.第6の実施形態>
第6の実施形態は、特定波長の光を指向反射するのに対して、特定波長以外の光を散乱させる点において、第1の実施形態とは異なっている。指向反射体1は、入射光を散乱する光散乱体を備えている。この散乱体は、例えば、光学層2の表面、光学層2の内部、および波長選択反射膜3と光学層2との間のうち、少なくとも1箇所に設けられている。光散乱体は、好ましくは、波長選択反射膜3と第2の光学層5との間、第2の光学層5の内部、および第2の光学層5の表面のうちの少なくとも一箇所に設けられている。指向反射体1を窓材などの支持体に貼り合わせる場合、室内側および室外側のどちらにも適用可能である。指向反射体1を室外側に対して貼り合わせる場合、波長選択反射膜3と窓材などの支持体との間にのみ、特定波長以外の光を散乱させる光散乱体を設けることが好ましい。指向反射体1を窓材などの支持体に貼り合わせる場合、波長選択反射膜3と入射面との間に光散乱体が存在すると、指向反射特性が失われてしまうからである。また、室内側に指向反射体1を貼り合せる場合には、その貼り合わせ面とは反対側の出射面と、波長選択反射膜3との間に光散乱体を設けることが好ましい。
【0078】
図19Aは、本発明の第6の実施形態に係る指向反射体の第1の構成例を示す断面図である。
図19Aに示すように、第2の光学層5は、樹脂と微粒子12とを含んでいる。微粒子12は、第2の光学層5の主構成材料である樹脂とは異なる屈折率を有している。微粒子12としては、例えば、有機微粒子および無機微粒子の少なくとも1種を用いることができる。また、微粒子12としては、中空微粒子を用いてもよい。微粒子12としては、例えば、シリカ、アルミナなどの無機微粒子、スチレン、アクリル、やそれらの共重合体などの有機微粒子が挙げられるが、シリカ微粒子が特に好ましい。
【0079】
図19Bは、本発明の第6の実施形態に係る指向反射体の第2の構成例を示す断面図である。
図19Bに示すように、指向反射体1は、第2の光学層5の表面に光拡散層7をさらに備えている。光拡散層7は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0080】
図19Cは、本発明の第6の実施形態に係る指向反射体の第3の構成例を示す断面図である。
図19Cに示すように、指向反射体1は、波長選択反射膜3と第2の光学層5との間に光拡散層7をさらに備えている。光拡散層7は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0081】
第6の実施形態によれば、赤外線などの特定波長帯の光を指向反射し、可視光などの特定波長対以外の光を散乱させることができる。したがって、指向反射体1を曇らせて、指向反射体1に対して意匠性を付与することができる。
【0082】
<7.第7の実施形態>
図20は、本発明の第7の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第7の実施形態において、第1の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。第7の実施形態は、窓材41上に波長選択反射膜3を直接形成している点において、第1の実施形態とは異なっている。
【0083】
窓材41は、その一主面に構造体42を有する。この構造体42が形成された一主面上に、波長選択反射膜3、光学層43が順次積層されている。構造体42の形状としては、第1の実施形態における構造体11の凹凸を反転した形状を用いることができる。光学層43は、透過像鮮明度や全光線透過率を向上するとともに、波長選択反射膜3を保護するためのものでもある。光学層43は、例えば、熱可塑性樹脂、または電離線硬化樹脂を主成分とする樹脂を硬化してなるものである。
【0084】
<8.第8の実施形態>
図21A、
図21Bは、本発明の第8の実施形態に係る指向反射体の第1の構成例を示す断面図である。
図22A、
図22Bは、本発明の第8の実施形態に係る指向反射体の第2の構成例を示す断面図である。第8の実施形態において、第1の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。第8の実施形態は、第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、2層構造を有している点において、第1の実施形態とは異なっている。
図21A、
図21Bでは、外光の入射面S1側となる第1の光学層4が2層構造を有する例が示されている。
図22A、
図22Bでは、外光の入射面S1側となる第1の光学層4と、外光の出射面S2側となる第2の光学層5との両方が2層構造を有する例が示されている。
図21A、
図21Bに示すように、第1の光学層4の2層構造は、例えば、表面側となる平滑な基材4aと、この基材4aおよび波長選択反射膜3との間に形成された樹脂層4bとから構成されている。
図22A、
図22Bに示すように、第2の光学層5の2層構造は、例えば、表面側となる平滑な基材5aと、この基材5aおよび波長選択反射膜3との間に形成された樹脂層5bとから構成されている。以下では、波長選択反射膜3が形成された第2の光学層5を反射層付き光学層9と称する。
【0085】
指向反射体1は、例えば、接合層8を介して被着体である窓材10の屋内側または屋外側に貼り合わされる。接合層8としては、例えば、接着剤を主成分とする接着層、または粘着剤を主成分とする粘着層を用いることができる。接合層8が粘着層であるである場合、
図21B、
図22Bに示すように、指向反射体1が、その入射面S1または出射面S2に形成された粘着層と、この粘着層上に形成された剥離層とをさらに備えることが好ましい。このような構成にすることで、剥離層を剥離するだけで、粘着層を介して窓材10などの被着体に対して指向反射体1を容易に貼り合わせることができるからである。
【0086】
指向反射体1と接合層8との接着性を向上する観点から、指向反射体1と接合層8との間に、プライマー層をさらに形成することが好ましい。また、同様に指向反射体1と接合層8との接着性を向上する観点から、指向反射体1の接合層8が形成される入射面S1または出射面S2に対して、公知の物理的前処理を施すことが好ましい。公知の物理的前処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理などが挙げられる。
【0087】
第1の基材4a、および第2の基材5aは、例えば、透明性を有する基材である。基材51の形状としては、例えば、フィルム状、シート状、プレート状、ブロック状を挙げることができるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。基材11の材料としては、例えば、公知の高分子材料を用いることができる。公知の高分子材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられるが、特にこれらの材料に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aの厚さは、生産性の観点から38〜100μmであることが好ましいが、この範囲に特に限定されるものではない。第1の基材4a、または第2の基材5aは、電離線透過性を有することが好ましい。これにより、後述するように、第1の基材4a、または第2の基材5aと波長選択反射膜3との間に介在させた電離線硬化樹脂に対して、第1の基材4a、または第2の基材5a側から電離線を照射し、電離線硬化樹脂を硬化させることができるからである。
【0088】
第1の樹脂層4b、および第2の樹脂層5bは、例えば、透明性を有する。第1の樹脂層4bは、例えば、第1の基材4aと波長選択反射膜3との間で樹脂組成物を硬化することにより得られる。第2の樹脂層5bは、例えば、第2の基材5aと波長選択反射膜3との間で樹脂組成物を硬化することにより得られる。樹脂組成物としては、製造の容易性の観点からすると、光または電子線などにより硬化する電離線硬化樹脂、または熱により硬化する熱硬化型樹脂を用いることが好ましい。電離線硬化樹脂としては、光により硬化する感光性樹脂組成物が好ましく、紫外線により硬化する紫外線硬化型樹脂組成物が最も好ましい。樹脂組成物は、第1の樹脂層4b、または第2の樹脂層5bと波長選択反射膜3との密着性を向上する観点から、リン酸を含有する化合物、コハク酸を含有する化合物、ブチロラクトンを含有する化合物をさらに含有することが好ましい。ここでは、第1の樹脂層4b、または第2の樹脂層5bを構成する樹脂組成物が、上記化合物を含有する場合を例として説明するが、本発明はこの例に限定されるものではない。すなわち、第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、波長選択反射膜3などの反射膜と接する面に上記化合物を含んでさえいれば、第1の光学層4または第2の光学層5と、波長選択反射膜3との密着性を向上することが可能である。
【0089】
リン酸を含有する化合物としては、例えばリン酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはリン酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。リン酸を含有する化合物の具体例としては、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(共栄社化学製、P−1A)、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート(共栄社化学製、P−1M、P−2M)、ジ−2−メタクリロキシエチルフォスフェート(日本化薬製、KAYAMER PM−2)などが挙げられる。コハク酸を含有する化合物としては、例えば、コハク酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはコハク酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。コハク酸を含有する化合物の具体例としては、2−アクリロイロキシエチルコハク酸(共栄社化学製、HOA−MS)などが挙げられる。ブチロラクトンを含有する化合物としては、例えば、ブチロラクトンを含有する(メタ)アクリレート、好ましくはブチロラクトンを官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。ブチロラクトンを含有する化合物の具体例としては、γ−ブチロラクトンアクリレート(大阪有機化学製、GBLA)、γ−ブチロラクトンメタクリレート(大阪有機化学製、GBLMA)などが挙げられる。なお、密着性の向上のために添加する材料は、極性の高い官能基などを含むものであればよく、上記の化合物の例に限定されるものではなく、上記以外のリン酸基などの極性基を有する化合物を用いてもよい。
【0090】
第1の樹脂層4bおよび第2の樹脂層5bの少なくとも一方における上記化合物の含有量は、第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとにおける屈折率差が、好ましくは0以上0.010以下、より好ましくは0以上0.009以下の範囲となるように調整することが好ましい。0.010を超えると、第1の樹脂層4bまたは第2の樹脂層5bを金型により成形する場合に、これらの樹脂層からの金型の離型が困難となる傾向がある。また、上述したように、屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向もある。
【0091】
第1の樹脂層4bおよび第2の樹脂層5bの少なくとも一方が、極性の高い官能基を含み、その含有量が第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとで異なることが好ましい。第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとの両方が、リン酸を含有する化合物を含み、第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとにおける上記リン酸の含有量が異なることが好ましい。リン酸の含有量は、第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとにおいて、好ましくは2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上異なることが好ましい。
【0092】
第1の樹脂層4b、および第2の樹脂層5bの少なくとも一方が、リン酸を含む化合物を含む場合、波長選択反射膜3は、リン酸を含む化合物を含む第1の樹脂層4bまたは第2の樹脂層5bと接する面に、酸化物もしくは窒化物、酸窒化物を含むことが好ましい。波長選択反射膜3は、リン酸を含む化合物を含む第1の樹脂層4bまたは第2の樹脂層5bと接する面に、酸化亜鉛(ZnO)または酸化ニオブを含む層を有することが特に好ましい。これらの光学層と波長選択反射膜3との密着性が向上するためである。
【0093】
紫外線硬化型樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有している。また、紫外線硬化型樹脂組成物が、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤および酸化防止剤などをさらに含有するようにしてもよい。
【0094】
アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることが好ましい。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。ここで、オリゴマーとは、分子量500以上60000以下の分子をいう。
【0095】
光重合開始剤としては、公知の材料から適宜選択したものを使用できる。公知の材料としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。重合開始剤の配合量は、固形分中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光硬化性が低下し、実質的に工業生産に適さない。一方、10質量%を超えると、照射光量が小さい場合に、塗膜に臭気が残る傾向にある。ここで、固形分とは、硬化後のハードコート層12を構成する全ての成分をいう。具体的には例えば、アクリレート、および光重合開始剤などを固形分という。
【0096】
用いられる樹脂としては、誘電体形成時のプロセス温度でも変形が無く、クラックが発生しないようなものが好ましい。ガラス転移温度が低いと設置後、高温時に変形してしまったり、誘電体形成時に樹脂形状が変化してしまうため好ましくなく、ガラス転移温度が高いとクラックや界面剥がれが生じやすく好ましくない。具体的にはガラス転移温度が60度以上、150度以下が好ましく、80度以上、130度以下がより好ましい。
【0097】
樹脂はエネルギー線照射や熱などによって構造を転写できるものが好ましく、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、熱可塑性樹脂など上述の屈折率の要求を満たすものであればどのような種類の樹脂を使用しても良い。
【0098】
硬化収縮が少ないよう、オリゴマーを添加しても良い。硬化剤としてポリイソシアネートなどを含んでも良い。また、基材との密着性を考慮して水酸基やカルボキシル基、カルボン酸、リン酸基を有するような単量体、多価アルコール類、シラン、アルミ、チタンなどのカップリング剤や各種キレート剤などを添加しても良い。
【0099】
ビニル系樹脂としてはアクリル(メタ)系樹脂が好ましく、好ましいアクリル(メタ)系樹脂としては水酸基含有ビニル系単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレートまたはモノ−2−ヒドロキシエチル−モノブチルフマレートをはじめ、ポリエチレングリコール−ないしはポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートまたは此等とε−カプロラクトンとの付加物、「プラクセル FMないしはFAモノマー」[ダイセル化学(株)製の、カプロラクトン付加モノマーの商品名]の如き、各種のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類、等が挙げられる。
【0100】
カルボキシル基含有ビニル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸もしくはシトラコン酸の如き、各種の不飽和モノ−ないしはジカルボン酸類またはフマル酸モノエチル、マレイン酸モノブチルの如きジカルボン酸モノエステル類、または、前掲の水酸基含有(メタ)アクリレート類と、こはく酸、マレイン酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ベンゼントリカルボン酸、ベンゼンテトラカルボン酸、「ハイミック酸」、テトラクロロフタル酸の如き各種のポリカルボン酸の無水物との付加物等が挙げられる。
【0101】
リン酸基含有ビニル系単量体の具体例としては、ジアルキル〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕ホスフェート類または(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシッドホスフェート類、ジアルキル〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕ホスファイト類もしくは(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシッドホスファイト類が挙げられる。
【0102】
多価アルコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールまたはソルビトールの如き、各種の多価アルコール類の1種または2種以上を使用することができる。またアルコールではないが、「カージュラ E」〔オランダ国シェル社製の、脂肪酸のグリシジルエステルの商品名〕の如き、各種の脂肪酸グリシジルエステル類等をアルコールの代わりに使用することができる。
【0103】
カルボン酸としては、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、(無水)フタル酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、テトラヒドロ(無水)フタル酸、テトラクロロ(無水)フタル酸、ヘキサクロロ(無水)フタル酸、テトラブロモ(無水)フタル酸、トリメリット酸、「ハイミック酸」[日立化成工業(株)製品;「ハイミック酸」は同社の登録商標である。]、
【0104】
(無水)こはく酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、アジピン酸、セバチン酸またはしゅう酸などのような、種々のカルボン酸類を使用することができる。これらの単量体は単独で用いても共重合させても良く、共重合可能な単量体を例示する。スチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、イソプロピルスチレンまたはp−tert−ブチルスチレンなどのスチレン系単量体。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソ(i)−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートもしくはラウリル(メタ)アクリレート、「アクリエステル SL」[三菱レーヨン(株)製の、C12−/C13メタクリレート混合物の商品名]、ステアリル(メタ)アクリレートのようなアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートもしくはイソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートの如き側鎖に官能基を含有しない(メタ)アクリレート類;およびエチレン−ジ−(メタ)アクリレートの如き二官能性ビニル系単量体類。
【0105】
メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートもしくはメトキシブチル(メタ)アクリレートの如き、各種のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類。
【0106】
ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジエチルフマレート、ジ(n−ブチル)フマレート、ジ(i−ブチル)フマレートもしくはジブチルイタコネートの如き、マレイン酸、フマル酸もしくはイタコン酸により代表される各種のジカルボン酸類と1価アルコール類とのジエステル類。
【0107】
酢酸ビニル、安息香酸ビニルもしくは「ベオバ」〔オランダ国シェル社製の、分岐状(分枝状)脂肪族モノカルボン酸類のビニルエステルの商品名〕、(メタ)アクリロニトリルの如き、各種のビニルエステル類。
【0108】
N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のような、N,N−アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;や(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドのブチルエーテル、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のようなアミド結合含有ビニル系単量体等の窒素含有ビニル系単量体類。
これらは誘電体層や金属膜の性質に応じて任意に量を調整することができる。
【0109】
第1の基材4a、または第2の基材5aは、第1の樹脂層4b、または第2の樹脂層5bより水蒸気透過率が低いことが好ましい。例えば、第1の樹脂層4bをウレタンアクリレートのような電離線硬化樹脂で形成する場合には、第1の基材4aを第1の樹脂層4bより水蒸気透過率が低く、かつ、電離線透過性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂により形成することが好ましい。これにより、入射面S1または出射面S2から波長選択反射膜3への水分の拡散を低減し、波長選択反射膜3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、指向反射体1の耐久性を向上することができる。厚み75μmのPETの水蒸気透過率は、10g/m
2/day(40℃、90%RH)程度である。
【0110】
[指向反射体の製造装置]
図23は、本発明の第8の実施形態に係る指向反射体の製造装置の一構成例を示す概略図である。
図23に示すように、この製造装置は、基材供給ロール51、光学層供給ロール52、巻き取りロール53、ラミネートロール54、55、ガイドロール56〜60、塗布装置61、および照射装置62を備える。
【0111】
基材供給ロール51および光学層供給ロール52はそれぞれ、帯状の基材4aおよび帯状の反射膜付き光学層9がロール状に巻かれ、ローラー56、57などにより基材4aおよび反射膜付き光学層9を連続的に送出できるように配置されている。図中の矢印は、基材4aおよび反射膜付き光学層9が搬送される方向を示す。反射膜付き光学層9は、波長選択反射膜3が形成された第2の光学層5である。
【0112】
巻き取りロール53は、この製造装置により作製された帯状の指向反射体1を巻き取りできるように配置されている。ラミネートロール54、55は、光学層供給ロール52から送出された反射膜付き光学層9と、基材供給ロール51から送出された基材4aとをニップできるように配置されている。ガイドロール56〜60は、帯状の反射膜付き光学層9、帯状の基材4a、および帯状の指向反射体1を搬送できるように、この製造装置内の搬送路に配置されている。ラミネートロール54、55およびガイドロール56〜60の材質は特に限定されるものではなく、所望とするロール特性に応じてステンレスなどの金属、ゴム、シリコーンなどを適宜選択して用いることができる。
【0113】
塗布装置61は、例えば、コーターなどの塗布手段を備える装置を用いることができる。コーターとしては、例えば、塗布する樹脂組成物の物性などを考慮して、グラビア、ワイヤバー、およびダイなどのコーターを適宜使用することができる。照射装置62は、例えば、電子線、紫外線、可視光線、またはガンマ線などの電離線を照射する照射装置である。
【0114】
[指向反射体の製造方法]
以下、
図22、および
図23を参照しながら、本発明の第8の実施形態に係る指向反射体の製造方法の一例について説明する。
【0115】
まず、反射膜付き光学層9を以下のようにして作製する。すなわち、帯状の基材5a上に電離線硬化樹脂を塗布し、塗布した電離線硬化樹脂に対して、ロール形状などの金型の凹凸面を押し当てるとともに、基板5a側から電離線硬化樹脂に対して電離線を照射し、電離線硬化樹脂を硬化させる。これにより、凹凸面を有する第2の光学層5が形成される。次に、例えばスパッタリング法などにより、第2の光学層5の凹凸面上に波長選択反射膜3を形成する。これにより、反射膜付き光学層9が作製される。波長選択反射膜3の形成方法としては、物理的気相成長法および化学的気相成長法の少なくとも一方を用いることができ、スパッタリング法を用いることが好ましい。次に、この反射膜付き光学層9を光学層供給ロール52に巻き取る。
【0116】
次に、
図23に示す製造装置を用いて、以下のようにして指向反射体1を作製する。
まず、基材供給ロール51から基材4aを送出し、送出された基材4aは、ガイドロール56を経て塗布装置61の下を通過する。次に、塗布装置61の下を通過する基材4a上に、塗布装置61により電離線硬化樹脂を塗布する。次に、電離線硬化樹脂が塗布された基材4aをラミネートロールに向けて搬送する。一方、光学層供給ロール52から反射膜付き光学層9を送出し、ガイドロール57を経てラミネートロール54、55に向けて搬送する。
【0117】
次に、基材4aと反射膜付き光学層9との間に気泡が入らないように、搬入された基材4aと反射膜付き光学層9とをラミネートロール54、55により挟み合わせ、基材4aに対して反射膜付き光学層9をラミネートする。次に、反射膜付き光学層9によりラミネートされた基材4aを、ラミネートロール55の外周面に沿わせながら搬送するとともに、照射装置62により基材4a側から電離線硬化樹脂に電離線を照射し、電離線硬化樹脂を硬化させる。これにより、基材4aと反射膜付き光学層9とが電離線硬化樹脂を介して貼り合わされ、目的とする指向反射体1が作製される。次に、作製された帯状の指向反射体1をロール58、59、60を介して巻き取りロール53に搬送し、指向反射体1を巻き取りロール53によりを巻き取る。
【0118】
<9.第9の実施形態>
図24は、本発明の第9の実施形態に係る指向反射体の第1の構成例を示す断面図である。
図25は、本発明の第9の実施形態に係る指向反射体の第2の構成例を示す断面図である。第9の実施形態は、窓材10などの被着体に貼り合わされる入射面S1または出射面S2上、またはその面と波長選択反射膜3との間に、バリア層71とをさらに備える点において、第8の実施形態とは異なっている。
図24では、指向反射体1が、窓材10などの被着体に貼り合わされる入射面S1上に、バリア層71をさらに備える例が示されている。
図25では、指向反射体1が、窓材10などの被着体を貼り合わせる側となる第1の基材4aと樹脂層4bとの間に、バリア層71をさらに備える例が示されている。
【0119】
バリア層71の材料としては、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
x)、およびジルコニアの少なくとも1種を含む無機酸化物、ポリビニリデンクロライド(PVDC)、ポリフッ化ビニル樹脂、およびエチレン・酢酸ビニル共重合体の部分加水分解物(EVOH)の少なくとも1種を含む樹脂材料などを用いることができる。また、バリア層71の材料としては、例えば、SiN、ZnS−SiO
2、AlN、Al
2O
3、SiO
2−Cr
2O
3−ZrO
2からなる複合酸化物(SCZ)、SiO
2−In
2O
3−ZrO
2からなる複合酸化物(SIZ)、TiO
2、およびNb
2O
5の少なくとも1種を含む誘電体材料を用いることもできる。
【0120】
上述のように、指向反射体1が入射面S1または出射面S2にバリア層71をさらに備える場合には、バリア層71が形成された第1の光学層4、または第2の光学層5が以下の関係を有することが好ましい。すなわち、バリア層71が形成された第1の基材4aまたは第2の基材5aの水蒸気透過率を、第1の樹脂層4bまたは第2の樹脂層5bのものよりも低くすることが好ましい。これにより、指向反射体1の入射面S1または出射面S2から波長選択反射膜3への水分の拡散をさらに低減することができるからである。
【0121】
第9の実施形態では、指向反射体1が入射面S1または出射面S2にバリア層71をさらに備えるので、入射面S1または出射面S2から波長選択反射膜3への水分の拡散を低減し、波長選択反射膜3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、指向反射体1の耐久性を向上することができる。
【0122】
<10.第10の実施形態>
図26は、本発明の第10の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第10の実施形態において、第8の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。第10の実施形態は、指向反射体1の入射面S1および出射面S2のうちの少なくとも一方に形成されたハードコート層72をさらに備える点において、第8の実施形態とは異なっている。なお、
図26は、指向反射体1の出射面S2にハードコート層72が形成された例が示されている。
【0123】
ハードコート層72の鉛筆硬度は、耐擦傷性の観点から、好ましくは2H以上、より好ましくは3H以上である。ハードコート層72は、指向反射体1の入射面S1および出射面S2のうちの少なくとも一方に、樹脂組成物を塗布、硬化して得られる。この樹脂組成物としては、例えば、特公昭50−28092号公報、特公昭50−28446号公報、特公昭51−24368号公報、特開昭52−112698号公報、特公昭57−2735号公報、特開2001−301095号公報に開示されているものが挙げられ、具体的に例えば、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのオルガノシラン系熱硬化型樹脂、エーテル化メチロールメラミンなどのメラミン系熱硬化樹脂、ポリオールアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの多官能アクリレート系紫外線硬化樹脂などが挙げられる。
【0124】
樹脂組成物は、ハードコート層72に防汚性を付与する観点から、防汚剤をさらに含有することが好ましい。防汚剤としては、1個以上の(メタ)アクリル基、ビニル基、またはエポキシ基を有するシリコーンオリゴマーおよび/またはフッ素含有オリゴマーを用いることが好ましい。シリコーンオリゴマーおよび/またはフッ素オリゴマーの配合量は、固形分の0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。0.01質量%未満であると、防汚機能が不十分となる傾向がある。一方、5質量%を超えると、塗膜硬度が低下する傾向がある。防汚剤としては、例えば、DIC株式会社製のRS−602、RS−751−K、サートマー社製のCN4000、ダイキン工業株式会社製のオプツールDAC−HP、信越化学工業株式会社製のX−22−164E、チッソ株式会社製のFM−7725、ダイセル・サイテック株式会社製のEBECRYL350、デグサ社製のTEGORad2700などを用いることが好ましい。防汚性が付与されたハードコート層72の純粋接触角は、好ましくは70°以上、より好ましくは90°以上である。樹脂組成物は、必要に応じて、光安定剤、難燃剤および酸化防止剤などの添加剤をさらに含有するようにしてもよい。
【0125】
第10の実施形態によれば、指向反射体1の入射面S1および出射面S2のうちの少なくとも一方にハードコート層72を形成しているので、指向反射体1に耐擦傷性を付与することができる。例えば、指向反射体1を窓の内側に貼り合わせた場合には、指向反射体1の表面を人が触ったり、または指向反射体1の表面を掃除したときにも傷の発生を抑制することができる。また、指向反射体1を窓の外側に貼り合わせた場合にも、同様に傷の発生を抑制することができる。
【0126】
<11.第11の実施形態>
図27は、本発明の第11の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第11の実施形態において、第10の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。第11の実施形態は、ハードコート層72上に防汚層74をさらに備える点において、第10の実施形態とは異なっている。また、ハードコート層72と防汚層74との間の密着性を向上する観点からすると、ハードコート層72と防汚層74との間に、カップリング剤層(プライマー層)73をさらに備えることが好ましい。
【0127】
第11の実施形態では、指向反射体1がハードコート層72上に防汚層74をさらに備えているので、指向反射体1に対して防汚性を付与することができる。
【0128】
<12.第12の実施形態>
図43Aは、本発明の第12の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第12の実施形態において、第8の実施形態と同一の箇所(
図22参照)には同一の符号を付して説明を省略する。第12の実施形態は、波長選択反射膜3に代えて、半透過膜81を備える点において、第8の実施形態とは異なっている。
【0129】
指向反射体1は、反射膜として半透過膜81を備える場合、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち一部の光L
1を正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射するのに対して、残りの光L
2を透過する(
図2参照)。ここで、θ、φの定義は、上述の第1の実施形態と同様である。反射膜として半透過膜81を備える場合、指向反射する光が、主に波長帯域400nm以上2100nm以下の光であることが好ましい。
【0130】
D65光源に対する透過像鮮明度に関し、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは30以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは75以上である。透過像鮮明度の値が30未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。30以上50未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。50以上75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が、好ましくは170以上、より好ましくは230以上、さらに好ましくは350以上である。透過像鮮明度の合計値が170未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。170以上230未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。230以上350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。ここで、透過像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。
【0131】
半透過膜81は、例えば、可視領域および近赤外領域において半透過性を有する反射膜であり、散乱が少なく反対側を視認できる透明性を有することが好ましい。半透過性の反射膜としては、例えば、半導体性物質を含む薄い金属層、金属窒化層などが挙げられ、反射防止、色調調整、化学的濡れ性向上、または環境劣化に対する信頼性向上などの観点からすると、上記反射膜を酸化層、窒化層、または酸窒化層などと積層した積層構造とすることが好ましい。
【0132】
可視領域および赤外領域において反射率の高い金属層の材料として、例えばAu、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする材料が挙げられる。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのAg系、Cu系、Al系、Si系またはGe系の材料が好ましい。また、金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。また、金属窒化層としては、例えば、TiN、CrN、WNなどが挙げられる。
【0133】
半透過膜81の膜厚は、例えば、2nm以上40nm以下の範囲とすることが可能であるが、可視領域および近赤外領域において半透過性を有する膜厚であればよく、これに限定されるものではない。ここで、半透過性とは、波長500nm以上1000nm以下における透過率が5%以上70%以下、好ましくは10%以上60%以下、更に好ましくは15%以上55%以下であることを示す。また、半透過膜81とは、波長500nm以上1000nm以下における透過率が5%以上70%以下、好ましくは10%以上60%以下、更に好ましくは15%以上55%以下である反射膜を示す。
【0134】
上述したように、第12の実施形態に係る指向反射体1によれば、第1の光学層4の凹凸面上に半透過膜81を形成しているので、眩しさや映り込みを抑えつつ、可視光を含めた日射の遮蔽が可能となる。また、第2の光学層5により、半透過膜81が形成された第1の光学層4の凹凸面を包埋し、好ましくは表面を平滑にすることで、透過像も鮮明に視認することが可能となる。
【0135】
<変形例>
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0136】
[第1の変形例]
図43Bは、本発明の第12の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。
図43Bに示すように、この第1の変形例に係る指向反射体1は、凹凸形状の入射面S1を有している。この入射面S1の凹凸形状と、第1の光学層4の凹凸形状とは、例えば、両者の凹凸形状が対応するように形成されており、凸部の頂部と凹部の最下部との位置が一致している。入射面S1の凹凸形状は、第1の光学層4の凹凸形状よりもなだらかであることが好ましい。
【0137】
[第2の変形例]
図43Cは、本発明の第12の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。
図43Cに示すように、この第2の変形例に係る指向反射体1では、半透過膜81が形成された第1の光学層4の凹凸面のうちの凸形状頂部の位置が、第1の光学層4の入射面S1とほぼ同一の高さとなるように形成されている。
【0138】
<13.第13の実施形態>
図44は、本発明の第13の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第13の実施形態において、第8の実施形態と同一の箇所(
図22参照)には同一の符号を付して説明を省略する。第13の実施形態は、波長選択反射膜3に代えて、高反射膜82を備える点において、第8の実施形態とは異なっている。
【0139】
指向反射体1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lの殆どを正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射する(
図2参照)。ここで、θ、φの定義は、上述の第1の実施形態と同様である。
【0140】
高反射膜82は、例えば、高反射率を有する金属膜であり、波長1000nm以上2000以下における反射率が、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上である。高反射膜82の材料として、例えばAu、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする材料が挙げられる。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのAg系、Cu系、Al系、Si系またはGe系の材料が好ましい。また、高反射膜82の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。また、金属窒化層としては、例えば、TiN、CrN、WNなどが挙げられる。高反射膜82の膜厚は、例えば、10nm以上200nm以下の範囲とすることが可能であるが、高反射率が得られる膜厚でればよく、これに限定されるものではない。
【0141】
上述したように、第12の実施形態に係る指向反射体1によれば、指向反射体1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lの殆どを正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射する。したがって、指向反射体1を高層ビルおよび住居などの建築物の外壁に貼り合わせることで、それらの建築物の外壁の温度上昇を抑制することができる。
【0142】
<14.第14の実施形態>
金属膜などの無機膜や無機基材に対して、ウレタンアクリレートなどの光硬化型樹脂は十分な密着性を示さないことが知られている。そこで、第14の実施形態では、波長選択反射膜、半透過膜および高反射膜などの各種反射膜に対する、光硬化型樹脂を含む第1の光学層4および/または第2の光学層5の密着性を向上させた指向反射体1について説明する。
【0143】
密着性の向上の方法としては、例えば、(1)第1の光学層4または第2の光学層5と反射膜との密着性を加熱により向上させる方法、(2)多官能アクリレートの配合量を調整し、残留応力により密着性の低下を抑制する方法、(3)反射膜に対して良好な密着性を示す機能性モノマーとして、リン酸基などの極性基を有する化合物を添加剤として配合する方法が挙げられる。リン酸基などの極性基を有する化合物としては、1個または2個以上のリン酸基と、1個または2個以上のメタ(アクリロイル基)とを有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることが好ましい。本明細書中において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。以下、リン酸基およびメタ(アクリロイル基)を有するモノマーおよび/またはオリゴマーをリン酸系アクリレートと称する。
【0144】
上記密着性向上の方法(3)において、第1の光学層4および/または第2の光学層5を形成する樹脂組成物中に含まれるリン酸系アクリレート中のモノマーに含まれるリン(P)の含有量は、好ましくは0.005質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.025質量%以上0.3質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以上0.2質量%以下である。0.005質量%未満であると、密着性向上の効果が殆ど得られなくなる傾向があり、1.0質量%を超えると硬化物が高温高湿化で白濁する傾向がある。
上記以外のことは、第1〜第13の実施形態のいずれかの実施形態に係る指向反射体と同様である。
【0145】
<15.第15の実施形態>
第15の実施形態は、波長選択反射膜、半透過膜および高反射膜などの反射膜を光学層内に包埋する構成を有し、光学層を形成する樹脂中に含まれる無機リン酸濃度を1.0質量%以下にするものである。
【0146】
第14の実施形態にて説明したように、密着性を向上するためには、反射膜に含まれる金属膜または金属酸化物膜などに対して良好な密着性を示す機能性モノマーとして、リン酸系アクリレートを添加剤として配合することが好ましい。そして、このリン酸系アクリレートの濃度は、硬化物の高温高湿下での白濁を抑制する観点から、5.0質量%以下であることが好ましい。しかしながら、本発明者らの知見によれば、リン酸系アクリレートの濃度が5質量%以下の場合でも、光学層2の透明性や耐候性が低下することがある。そこで、本発明者らが、この透明性の低下の原因を鋭意検討した結果、リン酸系アクリレート、具体的にはリン酸系アクリレートを主成分とする機能性樹脂(以下、リン酸系機能性樹脂と称する。)中に残留する無機リン酸が透明性や耐候性の低下に影響を与えていることを見出すに至った。従来、リン酸系機能性樹脂中には、リン酸系機能性樹脂を合成する際に用いた無機リン酸が不純物として残留していることが一般的であり、このような無機リン酸の残留を回避することは、従来のリン酸系機能性樹脂の合成方法では困難である。このように無機リン酸が残留しているリン酸系機能性樹脂を用いて光学層2を形成すると、残留する無機リン酸が表面などに結晶析出し、光を散乱する要因となることがある。また、残留する無機リン酸が、気中の水分を吸湿してしまい、金属膜や金属酸化物膜などの金属膜の腐食を招くこともある。ここで、無機リン酸は、メタ(アクリロイル基)を有さず、重合に寄与しない無機化合物である。
【0147】
そこで、本発明者らは、無機リン酸による透明性や耐久性の低下を抑制する技術について鋭意検討を行った。その結果、光学層2を形成するための樹脂組成物(但し、溶剤などの揮発成分を除く)中の残留無機リン酸濃度を1.0質量%以下に低減することで、指向反射体1の透明性や耐久性の低下を抑制できることを見出すに至った。ここで、残留無機リン酸濃度は、溶剤などの揮発成分を除く樹脂組成物全体(すなわち、硬化後に第1の光学層4および/または第2の光学層5として残る樹脂組成物全体)を100質量%とするものである。
【0148】
したがって、第1の光学層4および/または第2の光学層5を形成する樹脂中に含まれるリン酸系化合物の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましい。1.0質量%を超えると硬化物が高温高湿化で白濁する傾向がある。光学層形成用樹脂組成物中における無機リン酸の残留濃度は、例えばリン酸系機能性樹脂を光硬化型樹脂などに添加して樹脂組成物を調製する前に、リン酸系機能性樹脂を精製することで調整可能である。
上記以外のことは、第1〜第13の実施形態のいずれかの実施形態に係る指向反射体と同様である。
【0149】
<16.第16の実施形態>
上述の第1の実施形態では、本発明を窓材などに適用する場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、窓材以外の内装部材や外装部材などに適用することが可能である。また、本発明は壁や屋根などのように固定された不動の内装部材および外装部材のみならず、季節や時間変動などに起因する太陽光の光量変化に応じて、太陽光の透過量および/または反射量を内装部材または外装部材を動かして調整し、屋内などの空間に取り入れ可能な装置にも適用可能である。第16の実施形態では、このような装置の一例として、複数の日射遮蔽部材からなる日射遮蔽部材群の角度を変更することにより、日射遮蔽部材群による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置(ブラインド装置)について説明する。
【0150】
図45は、本発明の第16の実施形態に係るブラインド装置の一構成例を示す斜視図である。
図45に示すように、日射遮蔽装置であるブラインド装置は、ヘッドボックス203と、複数のスラット(羽)202aからなるスラット群(日射遮蔽部材群)202と、ボトムレール204とを備える。ヘッドボックス203は、複数のスラット202aからなるスラット群202の上方に設けられている。ヘッドボックス203からラダーコード206、および昇降コード205が下方に向かって延びており、これらのコードの下端にボトムレール204が吊り下げられている。日射遮蔽部材であるスラット202aは、例えば、細長い矩形状を有し、ヘッドボックス203から下方に延びるラダーコード206により所定間隔で吊り下げ支持されている。また、ヘッドボックス203には、複数のスラット202aからなるスラット群202の角度を調整するためのロッドなどの操作手段(図示省略)が設けられている。
【0151】
ヘッドボックス203は、ロッドなどの操作手段の操作により応じて、複数のスラット202aからなるスラット群202を回転駆動することにより、室内などの空間に取り込まれる光量を調整する駆動手段である。また、ヘッドボックス203は、昇降操作コード207などの操作手段の適宜操作に応じて、スラット群202を昇降する駆動手段(昇降手段)としての機能も有している。
【0152】
図46Aは、スラットの第1の構成例を示す断面図である。
図46Aに示すように、スラット202aは、基材211と、指向反射体1とを備える。指向反射体1は、基材211の両主面のうち、スラット群202を閉じた状態において外光が入射する入射面側(例えば窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。指向反射体1と基材211とは、例えば、接着層または粘着層などの貼合層により貼り合される。
【0153】
基材211の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材211の材料としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。指向反射体1としては、上述の第1〜第15の実施形態に係る指向反射体1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0154】
図46Bは、スラットの第2の構成例を示す断面図である。
図46Bに示すように、第2の構成例は、指向反射体1をスラット202aとして用いるものである。指向反射体1は、ラダーコード205により支持可能であるとともに、支持した状態において形状を維持できる程度の剛性を有していることが好ましい。
【0155】
<17.第17の実施形態>
第17の実施形態では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるロールスクリーン装置について説明する。
【0156】
図47Aは、本発明の第17の実施形態に係るロールスクリーン装置の一構成例を示す斜視図である。
図47Aに示すように、日射遮蔽装置であるロールスクリーン装置301は、スクリーン302と、ヘッドボックス303と、芯材304とを備える。ヘッドボックス303は、チェーン205などの操作部を操作することにより、スクリーン302を昇降可能に構成されている。ヘッドボックス303は、その内部にスクリーンを巻き取り、および巻き出すための巻軸を有し、この巻軸に対してスクリーン302の一端が結合されている。また、スクリーン302の他端には芯材304が結合されている。スクリーン302は可撓性を有し、その形状は特に限定されるものではなく、ロールスクリーン装置301を適用する窓材などの形状に応じて選択することが好ましく、例えば矩形状に選ばれる。
【0157】
図47Bは、
図47Aに示したB−B線に沿った断面図である。
図47Bに示すように、スクリーン302は、基材311と、指向反射体1とを備え、可撓性を有していることが好ましい。指向反射体1は、基材211の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。指向反射体1と基材311とは、例えば、接着層または粘着層などの貼合層により貼り合される。なお、スクリーン302の構成はこの例に限定されるものではなく、指向反射体1をスクリーン302として用いるようにしてもよい。
【0158】
基材311の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材311としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。指向反射体1としては、上述の第1〜第15の実施形態に係る指向反射体1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0159】
<18.第18の実施形態>
第18の実施形態では、指向反射性能を有する光学体に採光部を備える建具(内装部材または外装部材)に対して本発明を適用した例について説明する。
【0160】
図48Aは、本発明の第18の実施形態に係る建具の一構成例を示す斜視図である。
図48Aに示すように、建具401は、その採光部404に光学体402を備える構成を有している。具体的には、建具401は、光学体402と、光学体402の周縁部に設けられる枠材403とを備える。光学体402は枠材403により固定され、必要に応じて枠材403を分解して光学体402を取り外すことが可能である。建具401としては、例えば障子を挙げることができるが、本発明はこの例に限定されるものではなく、採光部を有する種々の建具に適用可能である。
【0161】
図48Bは、光学体の一構成例を示す断面図である。
図48Bに示すように、光学体402は、基材411と、指向反射体1とを備える。指向反射体1は、基材411の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けられる。指向反射体1と基材311とは、接着層または粘着層などの貼合層などにより貼り合される。なお、障子402の構成はこの例に限定されるものではなく、指向反射体1を光学体402として用いるようにしてもよい。
【0162】
基材411は、例えば、可撓性を有するシート、フィルム、または基板である。基材411としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空欄に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来建具の光学体として公知のものを用いることができる。指向反射体1としては、上述の第1〜第15の実施形態に係る指向反射体1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0163】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0164】
(実施例1)
まず、
図28に示すように、バイトによる切削加工によりプリズム形状をNi―P製金型に付与した。次に、このNi―P製金型に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合樹脂(日本化薬社製、商品名DPHA)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を載置した。次に、PETフィルム側からUV光を混合樹脂に対して照射し、混合樹脂を硬化させた後、樹脂とPETフィルムの密着体を金型から剥離した。
【0165】
次に、この樹脂とPETの積層体をNi―P製金型から剥がして、プリズム形状の成形面が成形された樹脂層(第2の光学層)を得た。次に、金型によりプリズム形状が成形された成形面に対し、下記の表1に示すように、五酸化二ニオブ膜および銀膜の交互多層膜を真空スパッタ法により製膜した。次に、この交互多層膜付PETフィルムの分光反射率を島津製作所製DUV3700により測定した。その結果、
図29に示す分光反射率曲線が得られた。次に、交互多層膜上に再び上述の混合樹脂を塗布し、気泡を押し出した後に、PETフィルムを載置してUV光照射することで樹脂を硬化して、交互多層膜上に樹脂層(第1の光学層)を形成した。これにより、目的とする指向反射体である光学フィルムが得られた。
【0166】
(実施例2)
まず、
図30A、
図30Bに示すように、バイトによる切削加工により、三角錐形状をNi−P製金型に付与した。次に、このNi−P製金型に、ウレタンアクリレート(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を設置し、PETフィルム側からUV光を照射して樹脂を硬化させた。
【0167】
次に、この樹脂とPETの積層体をNi―P製金型から剥がした後、金型により三角錐形状が成形された成形面に対し、表1に示すように、酸化亜鉛膜および銀合金膜の交互多層膜を真空スパッタ法により製膜した。なお、銀合金膜であるAgNdCu膜の製膜には、Ag/Nd/Cu=99.0at%/0.4at%/0.6at%の組成を有する合金ターゲットを使用した。製膜後、交互多層膜が形成されている形状面上に下地層と同じ樹脂(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)を塗布した。更にその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を設置し、気泡を押し出した後に、このPETフィルム越しにUV光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0168】
(実施例3)
選択反射膜を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例2と同様にして実施例3の光学フィルムを得た。
【0169】
(実施例4)
選択反射膜を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例2と同様にして実施例4の光学フィルムを得た。
【0170】
(実施例5)
実施例2と同様に、硬化後の屈折率が1.533の樹脂を用いて三角錐形状を形成後、実施例2と同様の構成で酸化亜鉛膜および銀合金膜の交互多層膜による選択再帰反射膜を形成した。その後、交互多層膜が形成されている形状面上にUV硬化型樹脂(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.540)を塗布した。更にその上に厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を設置し、気泡を押し出した後に、このPETフィルム越しにUV光を照射し、樹脂を硬化させた。以上により、上層樹脂と下層樹脂の屈折率差0.007の実施例5の光学フィルムを得た。
【0171】
(実施例6)
上層に硬化後屈折率が1.542のUV硬化樹脂を用い、上層樹脂と下層樹脂の屈折率差を0.009とした以外は実施例5と同様にして実施例6の光学フィルムを得た。
【0172】
(比較例1)
平滑な表面を有するPETフィルム上に、表1に示す膜厚構成で交互多層膜を成膜して、比較例1の光学フィルムを得た。
【0173】
(比較例2)
平滑な表面を有するPETフィルム上に、実施例2と同一の製膜条件下で交互多層膜を製膜して、比較例2の光学フィルムを得た。
【0174】
(比較例3)
平滑な表面を有するPETフィルム上に、実施例3と同一の製膜条件下で交互多層膜を製膜して、比較例3の光学フィルムを得た。
【0175】
(比較例4)
平滑な表面を有するPETフィルム上に、実施例4と同一の製膜条件下で交互多層膜を製膜して、比較例4の光学フィルムを得た。
【0176】
(比較例5)
交互多層膜の形成工程までは実施例2と同様にして、交互多層膜付PETフィルムを得た後、その交互多層膜上を樹脂で埋めずに交互多層膜が露出した状態として、比較例5の光学フィルムを得た。
【0177】
(比較例6)
交互多層膜の形成工程までは実施例2と同様にして、交互多層膜付PETフィルムを得た後、交互多層膜が形成されている形状面上に下地層と同じ樹脂(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)を塗布した。次に、塗布した樹脂上にPETフィルムを被せない状態で、酸素による硬化阻害を回避するため、N
2パージ下にてUV光を照射し、樹脂を硬化させた。これにより、比較例6の光学フィルムを得た。
【0178】
(比較例7)
上層に硬化後屈折率が1.546のUV硬化樹脂を用い、上層樹脂と下層樹脂の屈折率差を0.013とした以外は実施例5と同様にして比較例7の光学フィルムを得た。
【0179】
(比較例8)
上層に硬化後屈折率が1.558のUV硬化樹脂を用い、上層樹脂と下層樹脂の屈折率差を0.025とした以外は実施例5と同様にして比較例8の光学フィルムを得た。
【0180】
(指向反射率の評価)
実施例1、比較例1の光学フィルムの指向反射率を以下のようにして評価した。
図31は、光学フィルムの再帰反射率を測定するため測定装置の構成を示す。ハロゲン灯光源101から出射されレンズによりコリメートされた直線光が、光の進行方向に対し45°の角度に設置されたハーフミラー102に入射する。入射光の半分は、ハーフミラー102により反射されてその進行方向が90°回転するのに対して、入射光の残り半分は、ハーフミラー102を透過する。次に、反射光がサンプル103で再帰反射し、再びハーフミラー102に入射する。この入射光の半分が、ハーフミラー102を透過しディテクター104に入射する。この入射光の強度が、反射強度としてディテクター104により測定される。
【0181】
上述の構成を有する測定装置を用いて、以下の方法により波長900nmおよび1100nmにおける再帰反射率を求めた。まず、本測定装置のサンプルフォルダーに鏡を入射角θ=0°の角度で設置し、それぞれの波長の光強度をディテクター104で測定した。次に、本測定装置のサンプルフォルダーに光学フィルムを設置し、入射角θ=0°、20°、40°、60°、80°において光強度を測定した。その後、鏡の光強度を再帰反射率90%として、光学フィルムの再帰反射率を求めた。その結果を表2に示す(本測定ではφ=0°)。
【0182】
(指向反射方向の評価)
実施例1〜6、比較例5〜8の光学フィルムの指向反射方向の評価を、上述の
図31に示した測定装置を用いて以下のようにして行った。サンプル103を中心軸として、ディテクター104を矢印aに示すように回転させて、反射強度が最大となる方向を測定した。その結果を表3に示す。
【0183】
(垂直透過率の評価)
実施例2〜4、比較例2〜4の光学フィルムの垂直透過率を以下のようにして評価した。
可視及び近赤外領域の垂直透過率を島津製作所製DUV3700により測定した。その分光透過率波形を
図32および
図33に示す。
【0184】
(色度の評価)
実施例2〜4、比較例2〜4の光学フィルムの色度を以下のようにして評価した。
背面の色の影響を抑制するため、実施例および比較例の光学フィルムを黒色板(三菱レーヨン製 アクリライト L502)の上に置き、SP62(xRite社製 積分球型測色計。d/8°光学系、D64光源、2°視野、SPEXモード)により測定を行った。その結果を表4に示す。なお、サンプルを置かず測定した黒色板の色度はx=0.325、y=0.346であった。
【0185】
(透過像鮮明度の評価)
実施例1〜5、比較例5〜8の光学フィルムの透過写像鮮明性を以下のようにして評価した。JIS−K7105に従い、くし幅2.0mm、1.0mm、0.5mm、0.125mmの光学くしを用いて透過像鮮明度を評価した。評価に使用した測定装置はスガ試験機(株)製の写像性測定器(ICM−1T型)である。次に、くし幅2.0mm、1.0mm、0.5mm、0.125mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の総和を求めた。それらの結果を表3に示す。
【0186】
(ヘイズの評価)
実施例1〜6、比較例5〜8の光学フィルムのヘイズ評価を以下のようにして評価した。
JIS K7136に準拠した測定条件に基づき、ヘイズメータHM−150(村上色彩技術研究所製)を用いてヘイズの測定を行った。その結果を表3に示す。なお、光源はD65光源を用い、フィルターは適用しないで測定した。
【0187】
(視認性の評価)
実施例1〜6、比較例5〜8の光学フィルムの視認性を以下のようにして評価した。
作製したフィルムを光学透明な粘着剤により3mm厚のガラスに貼合した。次にこのガラスを目から50cm程度離して保持し、ガラス越しに約10mの距離にある隣の建物内部を観察し、以下の基準で評価した。その結果を表3に示す。
◎:回折による多重像などは見られず、通常の窓と同様に見える
○:通常の使用には問題ないが、鏡面反射体などがあると回折による多重像が若干見える
△:物体のおおよその形状は見分けられるが、回折による多重像が気になる
×:回折の影響などで曇って何があるか分からない
【0188】
(表面粗さの測定)
比較例6の光学フィルムの表面粗さを以下のようにして評価した。
触針式表面形状測定器ET−4000(小坂研究所製)を用いて、表面の粗さを測定した。その結果を
図34に示す。
【0189】
表1は、実施例1〜6、比較例1〜8の光学フィルムの構成を示す。
【表1】
【0190】
表2は、実施例1、比較例1の指向反射率の評価結果を示す。
【表2】
【0191】
表3は、実施例1〜6、比較例5〜8の光学フィルムに対して、入射角(θ、φ)=(10°、45°)で光を入射させたときの指向反射方向、透過像鮮明度、ヘイズ、および視認性の評価結果を示す。
【表3】
【0192】
表4は、実施例2〜4、比較例2〜4の色度の評価結果を示す。
【表4】
【0193】
表2および
図29から以下のことがわかる。
実施例1の光学フィルムでは、可視光の透過率を80%以上に維持しながら、近赤外線を指向反射させることができる。これに対して、比較例1の光学フィルムは、可視光の透過率を実施例1と同程度にできるが、入射角0度以外では近赤外線を再帰反射させることはできない。
【0194】
表3および
図34から以下のことがわかる。
比較例5の光学フィルムでは、波長1200nm程度の近赤外線に対して指向反射性が得られ、可視光線は透過するものの、交互多層膜上に樹脂層が形成され、透明化処理がされていないため、光学フィルムを介して反対側の物体を視認することはできない。比較例6の光学フィルムでは、
図34に示すように、透明化処理の際に表面を完全に平らにすることができない。このため、比較例6の光学フィルムでは、比較例5と同様に光学フィルムを介して反対側の物体を視認することができない。三角錐の底辺のピッチ約110μmに対し、最大高さRzが1.3μm程度、算術平均粗さRaが0.14μm程度であることから、透過像を鮮明にするためには、より平滑な表面が必要であることがわかる。
また、比較例7、8の光学フィルムではそれぞれ、屈折率差が0.013、0.025であるため、0.5mm幅の光学くしを用いて測定した透過像鮮明度が50未満となっている。また、0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が230未満となっている。したがって、比較例7、8の光学フィルムでは、散乱光が増加するとともに、可視光の選択透過性が低下している。すなわち、光学フィルムの透明性が低下している。
【0195】
表3から以下のことがわかる。
実施例1〜6の光学フィルムでは、0.5mm幅の光学くしを用いて測定した透過像鮮明度が50以上であり、各光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が230以上である。また、視認性の評価結果は「○」または「◎」となっている。
これに対して、比較例5〜8の光学フィルムでは、0.5mm幅の光学くしを用いて測定した透過像鮮明度が50未満であり、各光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が230未満である。また、視認性の評価結果は「×」となっている。
以上により、視認性の観点から、0.5mm幅の光学くしを用いて測定した透過像鮮明度を50以上とすることが好ましい。また、視認性の観点から、0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値を、230以上にすることが好ましい。
【0196】
表3、表4、
図32および
図33から以下のことがわかる。
比較例2の光学フィルムは、可視光領域において反射率が高く金色がかった色調を呈する。比較例3の光学フィルムは、可視光領域において反射率が高く青緑色がかった色調を呈する。比較例4の光学フィルムは、可視光領域において反射率が高く赤色がかった色調を呈する。また、比較例3〜4の光学フィルムの色は見る角度によっても変化する。すなわち、比較例2〜4の光学フィルムの色調は、ビルの窓などに適用しにくいものとなっている。これに対して、比較例2〜4それぞれと同一の膜構成を有する実施例2〜4の光学フィルムには、見ると気にならない程度の色相で、実施例2は若干緑色、実施例3、4は若干青みがかっているが、その色相は見る角度を変えても殆ど色が変わらない。このような特性は、意匠性が要求されるような窓ガラスなどに光学フィルムを適用する場合に好ましいものである。
【0197】
(実施例7)
まず、
図35A〜
図35Cに示す微細三角錐形状を有するNi−P金型ロールをバイトによる切削加工により作製した。次に、厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)上にウレタンアクリレート(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)を塗布し、金型に密着させた状態でPETフィルム側からUV光を照射してウレタンアクリレートを硬化させた。次に、ウレタンアクリレートが硬化されてなる樹脂層とPETフィルムとの積層体をNi−P製金型から剥離した。これにより、三角錐形状が付与された樹脂層(以下、形状樹脂層と称する。)がPETフィルム上に形成された。次に、金型により三角錐形状が成形された成形面に対し、表5に示す膜構成を有する波長選択反射膜をスパッタ法により製膜を行った。なお、AgPdCu膜の製膜には、Ag/Pd/Cu=99.0at%/0.4at%/0.6at%の組成を有する合金ターゲットを使用した。
【0198】
次に、
図23に示す製造装置を用いて、以下のようにして形状付きフィルムの成膜面を樹脂により埋包した。すなわち、厚み75μmの平滑なPETフィルム(東洋紡製、A4300)上に下記配合の樹脂組成物を塗布し、両フィルム間に気泡が入らないように、波長選択反射膜が表面に形成された形状付きPETフィルムで平滑なPETフィルムをラミネートした。その後、平滑なPETフィルム側からUV光を照射して樹脂組成物を硬化させた。これにより、平滑なPETフィルムと波長選択反射膜との間の樹脂組成物が硬化され、樹脂層(以下、包埋樹脂層と称する。)が形成された。以上により、目的とする実施例7の光学フィルムを得た。
【0199】
<樹脂組成物の配合>
ウレタンアクリレート 99質量部
(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)
2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート 1質量部
(共栄社化学製、ライトアクリレートP−1A)
【0200】
(実施例8)
波長選択反射膜を表5に示す膜構成にした以外は、実施例7と同様にして実施例8の光学フィルムを得た。
【0201】
(実施例9)
波長選択反射膜を表5に示す膜構成にした以外は、実施例7と同様にして実施例9の光学フィルムを得た。なお、AgBi膜の製膜には、Ag/Bi=99.0at%/1.0at%の組成を有する合金ターゲットを使用し、Nb
2O
5膜の製膜には、Nb
2O
5セラミックスターゲットを用いた。
【0202】
(実施例10)
波長選択反射膜を表5に示す膜構成にした以外は、実施例9と同様にして実施例10の光学フィルムを得た。
【0203】
(実施例11)
波長選択反射膜を表5に示す膜構成にした以外は、実施例9と同様にして実施例11の光学フィルムを得た。
【0204】
(実施例12)
波長選択反射膜を表5に示す膜構成にした以外は、実施例9と同様にして実施例12の光学フィルムを得た。
【0205】
(比較例9)
形状付きPETフィルムに代えて、平滑な表面を有するPETフィルム上に、実施例7と同一構成の波長選択反射膜を成膜した以外は、比較例1と同様にして比較例9の光学フィルムを得た。
【0206】
(比較例10)
形状付きPETフィルムに代えて、平滑な表面を有するPETフィルム上に、実施例8と同一構成の波長選択反射膜を成膜した以外は、比較例1と同様にして比較例10の光学フィルムを得た。
【0207】
(比較例11)
形状付きPETフィルムに代えて、平滑な表面を有するPETフィルム上に、実施例9と同一構成の波長選択反射膜を成膜した以外は、比較例1と同様にして比較例11の光学フィルムを得た。
【0208】
(比較例12)
形状付きPETフィルムに代えて、平滑な表面を有するPETフィルム上に、実施例10と同一構成の波長選択反射膜を成膜した以外は、比較例1と同様にして比較例12の光学フィルムを得た。
【0209】
(比較例13)
形状付きPETフィルムに代えて、平滑な表面を有するPETフィルム上に、実施例12と同一構成の波長選択反射膜を成膜した以外は、比較例1と同様にして比較例13の光学フィルムを得た。
【0210】
(反射膜密着性評価)
作製したフィルムを光学透明な粘着剤により3mm厚のガラスに貼合し、フィルムの端を剥がしてその様子を観察した。
◎:剥離が困難であり、無理に剥がすと、基材や樹脂などのバルク破壊が生じる
○:剥離が比較的困難であるが、無理に剥がすと界面で剥離する
△:界面での剥離は生じるが、剥離時に抵抗を感じる
×:抵抗なく界面剥離が生じる
【0211】
(透過率/反射率評価)
島津製作所製DUV3700により、透過率および反射率を測定した。透過率は光学フィルムの垂線を基準として0°のものであり、反射率は光学フィルムの垂線を基準として8°のものである。その結果を
図36〜
図40に示す。
【0212】
(透過光/反射光の色評価)
目視により透過光および反射光の赤みを判定した。その結果を表6、表7に示す。
【0213】
表5は、実施例7〜12、比較例9〜13の光学フィルムの構成およびその評価結果を示す。
【表5】
【0214】
なお、表5中において、波長選択反射膜を凹凸面上に形成する実施例7〜12おける各層の平均膜厚は、以下のようにして測定した。すなわち、実施例7〜12において形状樹脂層上に波長選択反射膜を製膜したときと同一条件において、波長選択反射膜を平滑なフィルム上に製膜し、FIBで断面をカットしたサンプルの各層の膜厚をTEMを用いて測定し、その測定値に基づき平均膜厚を求めた。なお、このようにして測定した平均膜厚は、形状樹脂層の三角錐を形成する三角形の垂線の中心位置におけるn2方向の平均膜厚t2と一致することを確認している(第42図参照)。ここで、三角形の垂線とは、三角錐の錐面を形成する三角形の頂点から対辺(三角錐の底辺)に下した垂線を意味する。このように平均膜厚が一致する三角錐上の位置を規定するのは、形状樹脂層の三角錐上に形成された波長選択反射膜の平均膜厚を測定すると、第42図に示すように、その平均膜厚は三角錐を形成する三角形上の位置により異なるからである。但し、
図42中、n1方向、n2方向は以下の方向を示す。
n1方向:PETフィルムに付与されたプリズム形状の傾斜面に対して垂直な方向
n2方向:PETフィルムの主面に対して垂直な方向(PETフィルムの厚さ方向)
【0215】
表6は、実施例7〜10、12の光学フィルムの評価結果を示す。
【表6】
【0216】
表7は、比較例9〜13の光学フィルムの評価結果を示す。
【表7】
【0217】
図41は、JIS R 3106の試験方法による感度係数を示すグラフである。
可視光透過率を向上するためには、可視視感度係数が高い波長500nm程度で高い透過率を有する必要があり、400〜750nmの光を通す事が望ましい。一方、熱の遮蔽を高めるためには、遮蔽に対する感度係数が高い波長域の光線を遮断する必要がある。これらを鑑み、可視透過率を向上させ、熱の遮蔽を向上するためには、波長400〜750nm程度の可視光線を透過し、波長750〜1300nm程度の近赤外線を効果的に遮断する必要がある。
【0218】
波長選択反射膜の形成前に形成される形状樹脂層と、波長選択反射膜形成後に形成される包埋樹脂層は屈折率が略同一であることが好ましい。しかし、両層に同一樹脂を用いる場合、無機薄膜である波長選択反射膜と、有機樹脂層である包埋樹脂層との密着性を向上するために、添加剤を包埋樹脂層に配合すると、形状転写の際にNi−P型から形状樹脂層を剥離しにくくなる。波長選択反射膜をスパッタ法により形成する場合は、高エネルギーの粒子が付着するため、形状樹脂層と波長選択反射膜との密着性が問題になることは少ない。そのため、形状樹脂層の添加剤の添加量を必要最低限に抑えておき、包埋樹脂層に密着性を向上する添加剤を導入することが好ましい。この際、包埋樹脂層と形状樹脂層の屈折率が大きく異なっていると、曇って反対側が見難くなるが、実施例7〜12では添加剤の添加量は1質量%であり、屈折率も殆ど変化がないため、透過鮮明性が非常に高かった。もし添加剤を多量に添加する必要がある場合には、形状樹脂層を形成するための樹脂組成物の配合を調整し、包埋樹脂層と屈折率を略同一とすることが好ましい。
【0219】
実施例9と実施例11を比較すると、波長選択反射膜の最表層のZnO層の有無が大きな違いであり、これらの分光スペクトルはほぼ一致するが、包埋樹脂層との密着性に関しては表層にZnOが存在する実施例9の方が高かった。
【0220】
図36〜
図40および表6、表7などの評価結果から以下のことがわかる。
比較例9、11〜13の光学フィルムは、赤紫〜紫の反射色相で、窓ガラスに貼ると気になる程の反射色を示している。比較例10の光学フィルムは、赤色の反射は気にならない程度であったが、太陽光の熱をさえぎるために必要な近赤外線のうち、波長800〜900nmにおける反射率が50%以下と低く、赤みと熱遮蔽性能の両立が難しい。
これに対して、実施例7〜10、12の光学フィルムは、反射光が光源の方向に再帰するために反射色が認識されず、太陽光を反射させて見ても、透過させて見ても、青緑系統の色しか認識されず、窓に適用すると涼しさを感じるような好ましい色調であった。そして、例えば実施例9の光学フィルムは、比較例11と同一の膜構成であり、赤外線の反射能力も高い。このように、本実施例のフィルムを適用すると、好ましい外観色と赤外線遮蔽性能を両立することができる。
【0221】
図49は、実施例2の形状転写樹脂の粘弾性率挙動を示す。なお、図中の矢印は、各曲線がどちら側の縦軸に属しているかを示している。tanδのピーク値95℃がガラス転移点の値となる。実施例2では、このようにガラス転移点が60度以上、150度以下の範囲内であるため、上述したように、製造工程における加熱や成膜による樹脂形状の変形を抑制でき、かつ、クラックや界面剥がれの発生を抑制できる。
【0222】
(実施例13)
まず、
図35A〜
図35Cに示す微細三角錐形状を有するNi−P金型ロールをバイトによる切削加工により作製した。次に、厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)上にウレタンアクリレート(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)を塗布し、金型に密着させた状態でPETフィルム側からUV光を照射してウレタンアクリレートを硬化させた。次に、ウレタンアクリレートが硬化されてなる樹脂層とPETフィルムとの積層体をNi−P製金型から剥離した。これにより、三角錐形状が付与された樹脂層(以下、形状樹脂層と称する。)がPETフィルム上に形成された。次に、金型により三角錐形状が成形された成形面に対し、表9に示す反射膜Aを有する波長選択反射膜をスパッタ法により製膜を行った。なお、AgPdCu膜の製膜には、Ag/Pd/Cu=99.0at%/0.4at%/0.6at%の組成を有する合金ターゲットを使用した。
【0223】
次に、
図23に示す製造装置を用いて、以下のようにして形状付きフィルムの成膜面を樹脂により埋包した。すなわち、厚み75μmの平滑なPETフィルム(東洋紡製、A4300)上に下記配合の樹脂組成物を塗布し、両フィルム間に気泡が入らないように、波長選択反射膜が表面に形成された形状付きPETフィルムで平滑なPETフィルムをラミネートした。その後、平滑なPETフィルム側からUV光を照射して樹脂組成物を硬化させた。これにより、平滑なPETフィルムと波長選択反射膜との間の樹脂組成物が硬化され、樹脂層(以下、包埋樹脂層と称する。)が形成された。以上により、目的とする実施例13の光学フィルムを得た。
【0224】
<樹脂組成物の配合>
ウレタンアクリレート 99質量部
(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)
2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート 1質量部
(共栄社化学製、ライトアクリレートP−1A)
但し、ウレタンアクリレートには、光重合開始剤などが含有されている。
【0225】
(実施例14)
包埋樹脂層を下記組成にした以外は、実施例13と同様にして実施例14の光学フィルムを得た。
【0226】
<樹脂組成物の配合>
ウレタンアクリレート 98質量部
(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)
2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート 2質量部
(共栄社化学製、ライトアクリレートP−1A)
【0227】
(実施例15)
包埋樹脂層を下記組成にし、形状樹脂層の屈折率を合わせるために形状樹脂層の配合を変え、硬化後の屈折率を1.530とした以外は、実施例13と同様にして実施例15の光学フィルムを得た。
【0228】
<上層の樹脂組成物の配合>
ウレタンアクリレート 95質量部
(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)
2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート 5質量部
(共栄社化学製、ライトアクリレートP−1A)
【0229】
(実施例16)
包埋樹脂層を下記組成にした以外は、実施例15と同様にして実施例16の光学フィルムを得た。
<上層の樹脂組成物の配合>
ウレタンアクリレート 95質量部
(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)
2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート 5質量部
(共栄社化学製、ライトアクリレートP−2M)
【0230】
(実施例17)
波長選択反射膜を表9に示す反射膜Bにした以外は、実施例13と同様にして実施例17の光学フィルムを得た。なお、AgBi製膜時には、Ag/Bi=99.0at%/1.0at%の合金ターゲットを使用し、Nb
2O
5製膜時には、Nb
2O
5セラミックスターゲットを用いた。
【0231】
(実施例18)
波長選択反射膜を表9に示す反射膜Cにした以外は、実施例17と同様にして実施例18の光学フィルムを得た。
【0232】
(実施例19)
波長選択反射膜を表9に示す反射膜Dにした以外は、実施例13と同様にして実施例19の光学フィルムを得た。
【0233】
(実施例20)
包埋樹脂層と形状樹脂層とを下記組成にした以外は、実施例13と同様にして実施例20の光学フィルムを得た。
<上層の樹脂組成物の配合>
ウレタンアクリレート 70質量部
(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)
2−アクリロイロキシエチル−コハク酸 30質量部
(共栄社化学製、HOA−MS)
【0234】
(実施例21)
包埋樹脂層と形状樹脂層を下記組成にした以外は、実施例13と同様にして実施例21の光学フィルムを得た。
ウレタンアクリレート 85質量部
(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)
γ−ブチロラクトンメタクリレート 15質量部
(大阪有機化学社製、GBLMA)
【0235】
(実施例22)
包埋樹脂層を形状樹脂層と同一組成にした以外は、実施例13と同様にして実施例22の光学フィルムを得た。
【0236】
(参考例1)
包埋樹脂層と形状樹脂層を下記組成にした以外は、実施例13と同様にして参考例1の光学フィルムを得た。
ウレタンアクリレート 99質量部
(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)
2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート 1質量部
(共栄社化学製、ライトアクリレートP−1A)
【0237】
(反射膜密着性評価)
作製した光学フィルムを光学透明な粘着剤により3mm厚のガラスに貼合し、フィルムの端を剥がしてその様子を観察した。その評価結果を表8に示す。
◎:剥離が困難であり、無理に剥がすと、基材や樹脂などのバルク破壊が生じる
○:剥離が比較的困難であるが、無理に剥がすと界面で剥離する
△:界面での剥離は生じるが、剥離時に抵抗を感じる
×:抵抗なく界面剥離が生じる
【0238】
(Ni−P離型性評価)
図35A〜
図35Cに示す微細三角錐形状を有するNi−P平板金型をバイトによる切削加工により作製し、各樹脂を塗布後、厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を被せ、金型に密着させた状態でPETフィルム側からUV光を1000mJ/cm
2照射して樹脂を硬化させた。この樹脂とPETフィルムの積層体をNi−P製金型から剥離させて離型性を評価した。その評価結果を表8に示す。
○:硬化後、容易に離型可能
△:硬化後、離型は可能だが、樹脂が一部型に残り、形状フィルムにムラが見える
×:硬化後、型に密着して剥離しない
【0239】
(鮮明性評価)
作製した光学フィルムを光学透明な粘着剤により3mm厚のガラスに貼合した。次に、このガラスを目から50cm程度離して保持し、ガラス越しに約10mの距離にある隣の建物内部を観察し、以下の基準で評価した。その評価結果を表8に示す。
○:回折による多重像などは殆ど見られず、窓としての使用に問題ない
△:物体のおおよその形状は見分けられるが、回折による多重像が気になる
×:回折の影響などで曇って何があるか分からない
【0240】
表8は、実施例13〜22、参考例1の光学フィルムの構成および評価結果を示す。但し、参考例1では、樹脂が金型から離型しなかったため、密着性の評価用のサンプルを作製できなかった。
【表8】
【0241】
表9は、実施例13〜23の光学フィルムの波長選択反射膜の膜構成を示す。
【表9】
【0242】
(試験例1)
まず、真空スパッタリンツ法により、ZnO膜をガラス板上に20nm製膜し、試験片を作製した。次に、アクリル樹脂組成物(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)に対して、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(共栄社化学製、ライトアクリレートP−1A)の添加量を表10に示すように変えて添加した。これにより、添加剤の添加量が異なるアクリル樹脂組成物を得た。次に、これらのアクリル樹脂組成物を、作製した試験片に塗布した後、ゼオノアフィルムを被せ、UV光を1000mJ/cm
2照射して樹脂を硬化させた。以上により、目的とするサンプルを得た。
【0243】
(試験例2)
添加剤として2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート(共栄社化学製、ライトアクリレートP−2M)を用い、その添加量を表10に示すように変えた以外は試験例1と同様にして、試験片を作製した。
【0244】
(試験例3)
添加剤として2−アクリロイロキシエチル−コハク酸(共栄社化学製、HOA−MS)を用い、その添加量を表10に示すように変えた以外は試験例1と同様にして、試験片を作製した。
【0245】
(試験例4)
添加剤としてγ−ブチロラクトンメタクリレート(大阪有機化学社製、GBLMA)を用い、その添加量を表10に示すように変えた以外は試験例1と同様にして、試験片を作製した。
【0246】
(密着性評価)
次に、上述のようにして作製して試験片からゼオノアフィルムを剥離し、樹脂をカッターで100マスにクロスカットし、密着性試験を行った。その評価結果を表10に示す。
◎:密着性が高く、剥離0
○:比較的密着が強く、剥離0〜20
△:比較的密着が弱く、剥離20〜50
×:密着が弱く、剥離50〜100
【0247】
表10は、試験例1〜4のサンプルの評価結果を示す。
【表10】
【0248】
表10から以下のことがわかる。
リン酸系の添加剤では0.5%程度の比較的少量の添加により、密着性が向上する事が分かる。一方、コハク酸系やブチロラクトン酸系の添加剤では、比較的多量の20%程度以上添加する事で、密着性が向上する事が分かった。
【0249】
(試験例5)
まず、バイトにより切削加工により、
図35A〜
図35Cに示す微細三角形状を有するNi−P平板金型を作製した。次に、アクリル樹脂組成物(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)に対して、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(共栄社化学製、ライトアクリレートP−1A)の添加量を表11に示すように変えて添加した。これにより、添加剤の添加量が異なるアクリル樹脂組成物を得た。次に、これらのアクリル樹脂組成物を、作製したNi−P平板金型の形状面に塗布した。次に、厚み75μmのPETフィルム(東洋紡製、A4300)を被せ、金型にPETフィルムを密着させた状態でPETフィルムからUV光を1000mJ/cm
2照射して樹脂を硬化させた。以上により、目的とするサンプルを得た。
【0250】
(試験例6)
添加剤として2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート(共栄社化学製、ライトアクリレートP−2M)を用い、その添加量を表11に示すように変えた以外は試験例5と同様にして、サンプルを作製した。
【0251】
(試験例7)
添加剤として2−アクリロイロキシエチル−コハク酸(共栄社化学製、HOA−MS)を用い、その添加量を表11に示すように変えた以外は試験例5と同様にして、サンプルを作製した。
【0252】
(試験例8)
添加剤としてγ−ブチロラクトンメタクリレート(大阪有機化学社製、GBLMA)を用い、その添加量を表11に示すように変えた以外は試験例5と同様にして、サンプルを作製した。
(離型性評価)
次に、硬化した樹脂層とPETフィルムとの積層体をNi−P平板金型から剥離させて離型性を評価した。その評価結果を表11に示す。
○:硬化後、容易に剥離可能
△:硬化後、剥離は可能だが、樹脂が一部型に残り、形状フィルムにムラが見える
×:硬化後、型に密着して剥離できない
【0253】
表11は、試験例5〜8のサンプルの評価結果を示す。
【表11】
【0254】
表11から以下のことがわかる。
添加剤がゼロの物は型から容易に剥離するが、密着性を向上する添加剤を少なくとも1%入れた物は剥離性に問題がある事が分かった。特に少量で密着性が向上するリン酸系の添加剤を添加した物は1%の添加で型に完全に密着するのに対し、密着性の比較的劣るブチロラクトン系でも1%の添加で樹脂が一部型に残るため、形状転写に使用出来ない事が分かる。
【0255】
以下の実施例において、無機リン酸の含有量は以下のようにして測定した。
リン酸系機能性樹脂をトルエン-d8(太陽日酸社製)に溶かし、核磁気共鳴装置(日本電子社製、商品名:JNM-ECP500)を用いて、
31P-NMR測定を行なった。得られたスペクトルから樹脂中の無機リン酸の含有量を決定した。
なお、硬化後に光学層に含まれる無機リン酸の含有量は、固体NMR(Nuclear Magnetic Resonance)により測定することができる。
【0256】
(実施例24)
まず、
図35A〜
図35Cに示す三角錐形状(コーナーキューブ形状)を、バイトによる切削加工によりNi−P製金型に付与した。次に、このNi−P製金型に、形状樹脂層形成用樹脂組成物である光硬化型樹脂(東亜合成製、商品名:アロニックス)を塗布し、さらにその上に厚み75μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東洋紡製、商品名A4300)を載置した。次に、PETフィルム側からUV光を光硬化型樹脂に対して照射し硬化させた。
【0257】
次に、光硬化型樹脂とPETフィルムとの積層体をNi―P製金型から剥がして、三角錐形状の成形面が成形された形状樹脂層(第1の光学層)を得た。次に、三角錐形状が成形された成形面に対して、波長選択反射膜を真空スパッタ法により成膜した。
【0258】
次に、機能性モノマー(リン酸エステル型のアクリレートモノマー)を主成分とするリン酸系機能性樹脂(共栄社化学株式会社製、商品名:P−1M)中の残留無機リン酸成分を低減するために抽出による精製を行い、リン酸系機能性樹脂中の残留無機リン酸の含有量(無機リン酸の残留濃度)を0.1質量%未満にした。精製したリン酸系機能性樹脂2.0質量%を、母材となる光硬化型樹脂(東亜合成株式会社製、商品名:アロニックス)に対して添加し、常温で30分間攪拌して包埋樹脂層形成用樹脂組成物を調製した。なお、包埋樹脂層形成用樹脂組成物中の無機リン酸の含有量は0.05質量%未満とした。
【0259】
次に、調製した光学層形成用樹脂組成物を波長選択反射膜上に塗布し、気泡を押し出した後に、PETフィルム(東洋紡製、商品名A4300)を載置した。次に、このPETフィルム越しにUV光を照射することで包埋樹脂層形成用樹脂組成物を硬化して、波長選択反射膜上に包埋樹脂層(第2の光学層)を形成した。以上により、目的とする光学フィルムが得られた。
【0260】
(実施例25)
リン酸系機能性樹脂中の無機リン酸の含有量を5質量%とし、包埋樹脂層形成用樹脂組成物中の無機リン酸の含有量を0.25質量%とする以外は実施例24と同様にして、光学フィルムを得た。
【0261】
(実施例26)
リン酸系機能性樹脂中の無機リン酸の含有量を20質量%とし、包埋樹脂層形成用樹脂組成物中の無機リン酸の含有量を1.0質量%とする以外は実施例24と同様にして、光学フィルムを得た。
【0262】
(実施例27)
リン酸系機能性樹脂中の無機リン酸の含有量を46質量%とし、包埋樹脂層形成用樹脂組成物中の無機リン酸の含有量を2.3質量%とする以外は実施例24と同様にして、光学フィルムを得た。
【0263】
(実施例28)
リン酸系機能性樹脂中の無機リン酸の含有量を64質量%とし、包埋樹脂層形成用樹脂組成物中の無機リン酸の含有量を3.2質量%とする以外は実施例24と同様にして、光学フィルムを得た。
【0264】
(高温高湿試験前の透過率)
上述のようにして得られた実施例24〜28の光学フィルムの高温高湿試験前の透過率を以下のようにして測定した。紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所製、商品名:DUV3700)を用いて、光学フィルムの垂線を基準として0°の透過率を測定した。波長380〜780nmにおける平均透過率を表12に示す。
【0265】
(高温高湿試験後の透過率)
上述のようにして得られた実施例24〜28の光学フィルムの高温高湿試験後の透過率を以下のようにして測定した。まず、得られた光学フィルムを60℃、90%の高温高湿環境に設定された高温高湿試験機に168時間(1週間)保存した。次に、保存後の光学フィルムの透過率を、上述の高温高湿試験前の透過率測定と同様にして測定した。波長380〜780nmにおける平均透過率を表12に示す。
【0266】
(透過率減少量)
上述のようにして測定した高温高湿試験後の透過率の差を取り、透過率減少量を求めた。その結果を表12に示す。
【0267】
(高温高湿試験評価)
上記のようにして求めた透過率減少量に基づき、光学フィルムの高温高湿試験を評価した。その結果を表1に示す。
以下に高温高湿試験の評価基準を示す。
○:透過率減少量が3.0%以下である
×:透過率減少量が3.0%を超える
【0268】
表12は、実施例24〜28の光学フィルムの評価結果を示す。
【表12】
【0269】
表12から以下のことがわかる。
光学フィルムの耐候性を向上するためには、包埋樹脂層形成用樹脂組成物中に残留する無機リン酸の含有量(濃度)を1.0%以下とすることが好ましい。
【0270】
以上、この発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0271】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0272】
また、上述の実施形態の各構成は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0273】
また、上述の実施形態では、剥離用フィルム22を用いて、表面が平滑な第2の光学層5を形成する例について説明したが、表面の形成方法はこの例に限定されるものではない。例えば、熱溶融樹脂や電離線硬化樹脂などを波長選択反射膜3の凹凸面上に塗布し、鏡面ロールを用いてフラット面を形成するようにしてもよい。また、電離線硬化樹脂や熱硬化樹脂などのレベリングしやすい樹脂を凹凸面上に塗布し、フラット面を形成するようにしてもよい。さらには、樹脂を凹凸面上に塗布する工程を省略し、粘着剤を波長選択反射膜3の凹凸面に塗布し、レベリングさせてフラット面を形成するようにしてもよい。
【0274】
上述の実施形態では、本発明に係る指向反射体を窓材などに適用する場合を例として説明したが、本発明に係る指向反射体をブラインドやロールカーテンなどに適用するようにしてもよい。指向反射体が適用されたブラインドまたはロールカーテンとしては、例えば、指向反射体自体により構成されたブラインドまたはロールカーテン、指向反射体が貼り合わされた透明基材などにより構成されたブラインドまたはロールカーテンなどが挙げられる。このようなブラインドまたはロールカーテンを室内の窓付近に設置することで、例えば、赤外線だけを屋外に指向反射し、可視光線を室内に取り入れることができる。したがって、ブラインドやロールカーテンを設置した場合にも、室内照明の必要性が低減される。また、ブラインドやロールカーテンによる散乱反射もないため、周囲の温度上昇も抑えることができる。また、冬季など熱線反射の必要性が低いときには、ブラインドやロールカーテンを上げておけばよく、状況に応じて熱線反射機能を容易に使い分けることができる、という利点もある。これに対して、赤外線を遮蔽するための従来のブラインドやロールカーテンなどでは、赤外線反射塗料などが塗られており、白、グレー、またはクリーム色などの外観を呈しているため、赤外線を遮断しようとすると可視光線も同時に遮断され、室内照明が必要となる。また、同様に障子のような形態をとる事も出来、必要がなければ外す事も可能である。