特許第5727778号(P5727778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日新製鋼株式会社の特許一覧

特許5727778ステンレス鋼電気炉酸化スラグの製造方法
<>
  • 特許5727778-ステンレス鋼電気炉酸化スラグの製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727778
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】ステンレス鋼電気炉酸化スラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/54 20060101AFI20150514BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20150514BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   C21C5/54
   F27D15/00 C
   C04B5/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-283223(P2010-283223)
(22)【出願日】2010年12月20日
(65)【公開番号】特開2012-132046(P2012-132046A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年11月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 社団法人日本鉄鋼協会,「材料とプロセス」 Vol.23(2010)No.2,2010年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】谷田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】天宅 秀樹
【審査官】 本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−015523(JP,A)
【文献】 電気炉酸化スラグ骨材 エコスター,株式会社星野産商,日本,2009年 5月
【文献】 國府勝郎、四谷進,電気炉酸化スラグ骨材の概要,コンクリート工学,日本,2003年 8月 1日,Vol.41 No.8,Page.3-7
【文献】 李勲河、他1名,コンクリート用ステインレス電気炉酸化スラグ細骨材の安定性評価,日本建築学会学術講演梗概集,日本,2008年 7月20日,Vol.2008,Page.631-632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/54
C04B 5/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼を電気炉で溶解又は精錬する際に副生する溶融或いは半溶融状態の酸化スラグクロム酸化物、マンガン酸化物又は酸化鉄の少なくともいずれか一つ添加し、酸化スラグ中におけるCr23、MnO及びFeOの組成割合の合計が12質量%以上となるように調整すると共に、冷却固化の際又は冷却固化後に該酸化スラグに対して気泡抑制処理をし、絶乾密度3.1〜4.5g/cm3の範囲内とすることを特徴とするステンレス鋼電気炉酸化スラグの製造方法
【請求項2】
気泡抑制処理が、
(a)溶融或いは半溶融状態の酸化スラグを急冷すること、
(b)溶融或いは半溶融状態の酸化スラグを加圧しつつ冷却すること、
(c)冷却固化させた酸化スラグを、再度溶融させた後冷却固化すること、
の内いずれか1つ又は2つ以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼電気炉酸化スラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特殊鋼電気炉酸化スラグの用途の拡大、更に詳しくは重量骨材用として供することが可能な特殊鋼電気炉酸化スラグ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼を始めとする特殊鋼(合金鋼 炭素と、例えばマンガン、珪素、ニッケル、クロム、銅、モリブデン等、炭素以外の成分との合金鋼で、添加元素の種類と量によって、特殊な性質、高張力、靱性、耐食性、高温強さ、耐摩耗性、高磁性その他の性質を持たせた鋼である。合金元素の総量の多少で、高合金鋼、低合金鋼に分けられる。)や普通鋼(通常の大量生産方式で生産される、炭素を主な合金元素とする炭素鋼)の溶解又は精錬過程で発生するスラグの組成は、溶解又は精錬の方法や鋼種等により実に多種多様である。従来よりこのようなスラグは冷却固化後に破砕処理された後、分別調整されて道路用路盤材や加熱アスファルト混合物或いは埋め立て用資材やコンクリート用スラグ骨材などとしてリサイクルされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなスラグの内、ステンレス鋼を含む特殊鋼を電気炉で溶解又は精錬する際に副生される酸化スラグ(以下、特殊鋼電気炉酸化スラグという。)は、普通鋼電気炉プロセスで発生する酸化スラグ(以下、普通鋼電気炉酸化スラグという。)に比べて絶乾密度が低く、そのため、軽量骨材として主として道路用路盤材としてリサイクルされている。
【0004】
しかしながら、この特殊鋼電気炉酸化スラグを道路用路盤材としてリサイクルするのみでは再利用にも限界があることから、更なる用途の拡大を図る必要がある。
【0005】
そこで、この特殊鋼電気炉酸化スラグを普通鋼電気炉酸化スラグのようにコンクリート用骨材のような重量骨材としてリサイクルすることが考えられるが、上述したように特殊鋼電気炉酸化スラグは、普通鋼電気炉酸化スラグに比べて絶乾密度が低く、「JIS A 5011−4」にて規定されている電気炉酸化スラグ細骨材の絶乾密度範囲である3.1〜4.5g/cm3を充足していないと云う問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−330112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それ故に本発明の主たる課題は、ステンレス鋼を始めとする特殊鋼を電気炉で溶解又は精錬する際に副生される特殊鋼電気炉酸化スラグの絶乾密度を向上させてリサイクル用途の拡大を図ることが可能な特殊鋼電気炉酸化スラグ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
「請求項」に記載した発明は、ステンレス鋼電気炉酸化スラグの製造方法であって
ステンレス鋼を電気炉で溶解又は精錬する際に副生する溶融或いは半溶融状態の酸化スラグにクロム酸化物、マンガン酸化物又は酸化鉄の少なくともいずれか一つを添加し酸化スラグ中におけるCr23、MnO及びFeOの組成割合の合計が12質量%以上となるように調整すると共に、冷却固化の際又は冷却固化後に該酸化スラグに対して気泡抑制処理をし、絶乾密度を3.1〜4.5g/cm3の範囲内とすることを特徴とするステンレス鋼電気炉酸化スラグの製造方法である。
【0011】
「請求項」は請求項に記載のステンレス鋼電気炉酸化スラグの製造方法であって、気泡抑制処理が、
(a)溶融或いは半溶融状態の酸化スラグを急冷すること、
(b)溶融或いは半溶融状態の酸化スラグを加圧しつつ冷却すること、
(c)冷却固化させた酸化スラグを、再度溶融させた後冷却固化すること、
の内いずれか1つ又は2つ以上を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
ステンレス鋼を始めとする特殊鋼を電気炉で溶解又は精錬する際に副生する酸化スラグは、通常、その主成分はカルシウム酸化物およびシリコン酸化物である。本発明ではこれらの酸化物に比べてより酸化物密度の高いマンガン酸化物又は酸化鉄或いはクロム酸化物の組成割合をある程度増加させることに加えて 前記(a)〜(c)に示す「気泡抑制処理」を行い、特殊鋼電気炉酸化スラグをある程度中実状態(気泡が抑制された状態のことを言い、勿論、「気泡なし」とはしない。)とすることによって普通鋼電気炉酸化スラグに匹敵する所定の絶乾密度を得、特殊鋼電気炉酸化スラグを例えばコンクリート用骨材等の重量骨材とすることができたものであり、特殊鋼電気炉酸化スラグのリサイクル用途の拡大を図ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】酸化スラグのCr23、MnO及びFeOの組成割合の合計と絶乾密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における対象物は、普通鋼(炭素鋼)以外の特殊鋼(ステンレス鋼に限る)の電気炉での溶解又は精錬時に副生する電気炉酸化スラグ(=特殊鋼電気炉酸化スラグ)である。この特殊鋼電気炉酸化スラグは従来例で述べたように普通鋼電気炉酸化スラグに比べて絶乾密度が低い。この理由のひとつは、特殊鋼電気炉酸化スラグは普通鋼電気炉酸化スラグに比べFeOの組成割合が低いことにある。本発明の特殊鋼電気炉酸化スラグの製造方法は、特殊鋼電気炉酸化スラグの絶乾密度を向上させてリサイクル用途の拡大を図るためのもので、第1段階として特殊鋼電気炉酸化スラグに対して酸化スラグ中におけるCr23、MnO及びFeOの組成割合の合計をある程度高めるための「金属酸化物投入工程」又は「溶鋼酸化工程」を有しており、これに第2段階として特殊鋼電気炉酸化スラグに「気泡抑制処理」が実行される。
【0015】
「金属酸化物投入工程」は、溶融或いは半溶融状態の特殊鋼電気炉酸化スラグに密度の高い金属酸化物を投入・添加して酸化スラグ全体の絶乾密度を向上させる工程である。
【0016】
この「金属酸化物投入工程」で投入される金属酸化物としてはマンガン酸化物,酸化鉄及びクロム酸化物などを挙げることができるが、環境面や安全面を考慮すると、有毒な六価クロムを溶出する虞のあるクロム酸化物よりも、MnO2などのマンガン酸化物或いはFe23などの酸化鉄を使用するのが好ましい。
【0017】
別法である「溶鋼酸化工程」は、溶鋼に、直接、酸素ガスを吹き込んで、該酸素ガスにより溶鋼中の溶鋼金属成分(主として鉄、マンガン、クロムなど)を酸化させて密度の高い金属酸化物を生成させ、これらを溶融或いは半溶融状態の酸化スラグに混入させて特殊鋼電気炉酸化スラグ全体の絶乾密度を高める「酸素吹精」や、溶鋼中に窒素やアルゴンガスのような不活性化ガスを吹き込んで溶鋼を積極的に攪拌し、これによって溶鋼中に存在する酸素により前記溶鋼金属成分を酸化させて密度の高い金属酸化物を生成させ、これらを溶融或いは半溶融状態の酸化スラグに混入させて特殊鋼電気炉酸化スラグ全体の絶乾密度を高める「不活性ガス吹き込み方法」などがあり、これらを必要に応じて選択することができる。
【0018】
ここで、前記「金属酸化物投入工程」で酸化スラグに添加する金属酸化物の量、或いは「溶鋼酸化工程」で生成させる金属酸化物の量は、冷却固化後の特殊鋼電気炉酸化スラグ中のCr23、MnO及びFeOの組成割合の合計が12質量%以上となるようにするのが好ましい。12質量%以上とすれば、後述する「気泡抑制処理」を実行することにより酸化スラグ全体の絶乾密度が3.1g/cm3以上となり、特殊鋼電気炉酸化スラグをコンクリート用骨材等の重量骨材に利用できるようになるからである。一方、冷却固化後の酸化スラグ中のCr23、MnO及びFeOの組成割合の合計が12質量%未満の場合には、第2段階の「気泡抑制処理」を実行しても酸化スラグ全体の絶乾密度が3.1g/cm3未満となり、特殊鋼電気炉酸化スラグのリサイクル用途の拡大が困難になる。
【0019】
また、酸化スラグに添加する金属酸化物(Cr23、MnO2及びFe23)の量或いは生成させる金属酸化物(Cr23、MnO及びFeO)の量の上限については、酸化スラグの絶乾密度を向上させてコンクリート用スラグ骨材としてリサイクル用途の拡大を図る場合には、酸化スラグ全体の絶乾密度が4.5g/cm3以下となるような範囲で上記金属酸化物の量を調整するのが好ましい。
【0020】
以上のように、金属酸化物を投入・添加して、或いは溶鋼金属成分を酸化させて絶乾密度をある程度向上させ、更に「気泡抑制処理」がなされた特殊鋼電気炉酸化スラグは破砕されて取り出され、粒度別に分級・計量してリサイクル資材として利用される。
【0021】
ここで、金属酸化物を投入・添加して、或いは溶鋼金属成分を酸化させて生成した特殊鋼電気炉酸化スラグでは、水又は金属酸化物の分解反応又は還元反応或いは炭素の酸化によってその内部で水蒸気、水素、酸素又は一酸化炭素等の反応ガス(以下、単に「反応ガス」とも云う)が発生し、冷却(放冷)時にこれらの反応ガスが酸化スラグ内から外へと移動することで酸化スラグに気孔が生じ絶乾密度が低下する。そこで、このような反応ガスの移動放出に伴う絶乾密度の低下を防止する技術として、「気泡抑制処理」が実行される。
【0022】
「気泡抑制処理」は、スラグ中の気泡発生を抑制或いは発生した気泡を排除して絶乾密度を高めるものであって、
(a)溶融或いは半溶融状態の酸化スラグを急冷すること(急冷工程)、
(b)溶融或いは半溶融状態の酸化スラグを加圧しつつ冷却すること(加圧冷却工程)、
(c)冷却固化させた酸化スラグを、再度溶融させた後冷却固化すること(再溶融工程)、
などを含み、スラグの状況に応じてこれらの1つ又は必要に応じて2以上が採用される。また、酸化スラグ中の炭素含有量を抑制することなども気泡抑制に効果があり、必要に応じて採用することができる。
【0023】
「急冷工程」は特殊鋼を電気炉で溶解又は精錬する際に副生する溶融或いは半溶融状態の特殊鋼電気炉酸化スラグ(特に、Cr23、MnO及びFeOの組成割合の合計が12質量%以上16質量%未満の特殊鋼電気炉酸化スラグ)の冷却凝固時に行われる1つの気泡抑制処理であり、酸化物密度が高い金属酸化物が添加された、或いは生成混入した溶融或いは半溶融状態の酸化スラグを、15℃/分以上の冷却速度で急冷する工程である。
【0024】
この急冷工程における特殊鋼電気炉酸化スラグの冷却速度は、上述したように15℃/分以上であることが好ましい。冷却速度が15℃/分未満の場合には、溶融或いは半溶融状態の酸化スラグ内で発生した水蒸気、水素、酸素又は一酸化炭素等の反応ガスの移動を抑制することができなくなる結果、気孔が多発して絶乾密度が低下するようになるからである。
【0025】
「加圧冷却工程」は特殊鋼電気炉酸化スラグの冷却工程を加圧下で行うものであり、前記酸化スラグ内で発生した水蒸気、水素、酸素又は一酸化炭素等の反応ガスの気泡の成長を抑制して絶乾密度を高めるものである。急冷と同様の効果をもたらす。
【0026】
「再溶融工程」は最初の冷却で水蒸気、水素、酸素又は一酸化炭素等の反応ガスの気泡が抜けたポーラスな特殊鋼電気炉酸化スラグを再溶融して冷却固化する方法で、再溶融により酸化スラグ中の気孔は除去され、しかも再溶融時にはもはや再溶融スラグ中には前記水蒸気、水素、酸素又は一酸化炭素等の反応ガスの気泡が殆ど発生せず、従って再冷却固化時には稠密体となって絶乾密度を高めることが出来るのである。
【0027】
また、酸化スラグ中の炭素含有量の抑制は、スラグ中の一酸化炭素の発生を抑制する働きを持ち、冷却時のスラグのポーラス化を抑制する。
【0028】
以上の「気泡抑制処理」は本発明ではCr23、MnO及びFeOの組成割合の合計が12質量%以上16質量%未満の特殊鋼電気炉酸化スラグが対象となるが、絶乾密度を所定の範囲内に収めることが出来るのであれば、勿論、Cr23、MnO及びFeOの組成割合の合計が16質量%以上の特殊鋼電気炉酸化スラグに適用することは可能である。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明をより具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0030】
「実施例1」
実機電気炉内でステンレス鋼を溶解した際に副生した約1450℃の溶融状態の酸化スラグを前記電気炉から排滓鍋に流し込み、そのまま自然放冷して冷却固化させた(実機酸化スラグ(ベース材))。そして、該酸化スラグから試料を採取し組成及び絶乾密度を求めた。組成の分析は蛍光X線分析を用いて行ない、絶乾密度の測定は、JIS A 1110に規定された粗骨材の密度試験方法に準拠した。
【0031】
次に、所定量の前記実機酸化スラグ(ベース材)及び所定量のMnO2(二酸化マンガン)又はFe23(酸化鉄)の粉末を実験用のアルミナるつぼに入れ、アルゴン雰囲気の電気炉にて1450℃で3時間保持して再溶融した。その後約2時間かけて炉内温度が1000℃以下になるまで降温させて炉冷した後、炉から取り出して空冷した。そして、投入するMnO2又はFe23の量を変更して、計10種類の酸化スラグを得た。そして、これら再溶融して冷却固化した10種類の酸化スラグのそれぞれから試料を切り出し、前記と同様の方法で組成分析を行なうと共に絶乾密度を求めた。
【0032】
表1に、各スラグの組成及び絶乾密度を示す。ここで、試料No.1は自然放冷ままの再溶融処理をしていない実機酸化スラグ(ベース材)であり、試料No.2はそれを再溶融した酸化スラグ(MnO2及びFe23は投入せず)である。また、試料No.3〜6はMnO2を投入して再溶融した酸化スラグ、試料No.7〜11はFe23を投入して再溶融した酸化スラグである。
【0033】
【表1】
【0034】
図1は、各酸化スラグのCr23+MnO+FeOと絶乾密度との関係を示した図である。図1において、プロット▲は再溶融した酸化スラグのデータである。また、プロット□は再溶融処理をしていない実機酸化スラグ(ベース材)のデータである。図1が示すように、再溶融処理をしていない実機酸化スラグ(ベース材)はポーラスなので、その絶乾密度は小さいが、該酸化スラグを再溶融することによって絶乾密度が凡そ0.1g/cm3程度上昇しているのがわかる。これは、MnO2などの金属酸化物を含む酸化スラグでは、溶融、冷却過程で、水又は金属酸化物の分解又は還元反応或いは炭素の酸化によってその内部で水蒸気、水素、酸素又は一酸化炭素と云った反応ガスが発生し、冷却時にこれらのガスが酸化スラグ内から外へと移動することで酸化スラグに気孔が生じて絶乾密度が低下するようになるが、このような気孔が生じた酸化スラグを再溶融することによって当該気孔が除去され、絶乾密度が上昇するようになることによるものと考えられる。図1から、再溶融した酸化スラグでは、酸化スラグ中におけるCr23、MnO及びFeOの組成割合の合計が12質量%以上であれば、絶乾密度が3.1g/cm3以上となり、当該酸化スラグをコンクリート用スラグ骨材としてリサイクルできるようになることが窺える。
【0035】
「実施例2」
実機電気炉内でステンレス鋼を溶解した際に副生した約1450℃の溶融状態の酸化スラグを前記電気炉から3つの排滓鍋に3等分して流し込み、1つの排滓鍋はそのまま自然放冷した(比較例1)。一方、別の1つの排滓鍋には、直ちに、MnO源としてMnO2(二酸化マンガン)をスラグ中MnO含有量が12質量%になるように投入して、その後自然放冷した(比較例2)。また、もう1つの排滓鍋にも、直ちに、MnO源としてMnO2(二酸化マンガン)をスラグ中MnO含有量が12質量%になるように投入して、その後、水を噴霧して急冷した(本発明例)。このときの冷却速度は、比較例では1℃/分、本発明例では60℃/分であった。そして冷却固化した酸化スラグから試料を採取し、前記実施例1と同様の方法で、組成及び絶乾密度を求め、表2を得た。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示すように、本発明例の酸化スラグのCr23+MnO+FeOは13.43質量%であり、絶乾密度は3.1g/cm3以上を満足していた。また、本発明例の結果は実施例1のCr23+MnO+FeOと絶乾密度の関係(図1の実線)に従っていることを確認した。即ち、絶乾密度の増加に対する急冷の効果(本発明例)は再溶融の効果(実施例1)と同等であることが確認された。一方、比較例の酸化スラグのCr23+MnO+FeOは4.82質量%及び13.84質量%であり、絶乾密度はいずれも3.1g/cm3未満であった。比較例2のCr23+MnO+FeOは12質量%を超えているが、酸化スラグに気泡抑制処理を行っていないため、絶乾密度3.1g/cm3以上を満たしていない。
【0038】
「実施例3」
実機電気炉内でステンレス鋼を溶解し、ステンレス溶鋼に酸素吹精を行い、副生した約1450℃の溶融状態の酸化スラグを前記電気炉から排滓鍋に流し込み、その後、水を噴霧して急冷した。そして、冷却固化した酸化スラグから試料を採取し、前記実施例1と同様の方法で、組成及び絶乾密度を求めた。その結果、Cr23+MnO+FeOは31.05質量%、絶乾密度は3.53g/cm3であった。絶乾密度は3.1g/cm3以上であり、当該酸化スラグをコンクリート用スラグ骨材としてリサイクルできるようになることが窺える。
図1