【実施例1】
【0024】
  本発明の実施例1に係る制御装置について説明する。
【0025】
≪熱間圧延装置の構成≫
  
図1は、本発明の実施例1に係る制御装置により制御される熱間圧延装置の構成を示した構成図である。
図1中の矢印は、熱間圧延装置(熱間圧延ライン)において圧延される圧延材200が搬送される搬送方向を示している。一般的に、圧延材200は、熱間圧延装置において圧延される過程において、スラブ、バー、コイルとも呼ばれるが、ここでは、圧延材200という呼称で統一するものとする。
【0026】
  図1に示すように、熱間圧延装置1000は、加熱炉101と、プライマリデスケーラ103と、粗エッジャ105と、粗圧延機107と、粗出側板幅計109と、粗出側温度計111と、仕上入側温度計113と、クロップシャー115と、セカンダリデスケーラ117と、仕上圧延機119と、仕上出側板厚計121と、マルチゲージ123と、仕上出側温度計125と、平坦度計127と、ランアウトラミナースプレー冷却部129と、コイラ入側温度計131と、コイラ入側板幅計133と、コイラ135とを備える。
【0027】
  加熱炉101は、圧延材200を加熱するための炉である。
【0028】
  プライマリデスケーラ103は、加熱炉101の加熱により圧延材200表面に形成された酸化膜を、圧延材200の上下方向から高圧水を噴射することにより除去する。
【0029】
  粗エッジャ105は、熱間圧延ライン上面方向から見て、圧延材200の幅方向の圧延を行う。
【0030】
  粗圧延機107は、単数又は複数スタンドを備え、圧延材200の上下方向の圧延を行う。また、粗圧延機107は、温度低下防止等の観点から、ライン長を短くする必要があり、さらに複数パス(搬送方向に対する往復運動)による圧延が必要であることから、可逆式圧延機を含んで構成される場合が多い。また、粗圧延機107は、半製品である圧延材200に高圧水を噴射し、表面の酸化膜を除去するためのデスケーラを備えている。圧延は、高温で行われるため、酸化膜が形成されやすく、このような酸化膜を除去するための装置を適宜用いる必要がある。
【0031】
  粗出側板幅計109は、圧延中の半製品である圧延材200の板幅を測定する。
【0032】
  粗出側温度計111は、圧延中の半製品である圧延材200の表面温度を測定する。
【0033】
  仕上入側温度計113は、粗圧延機107と仕上圧延機119の間の距離が長いため、仕上圧延機119の入口における圧延材200の表面温度を測定する。
【0034】
  クロップシャー115は、圧延材200の先尾端部を切断する。
【0035】
  セカンダリデスケーラ117は、粗圧延機107と仕上圧延機119の間の距離が長いため、仕上圧延機119の入口に設けられ、仕上圧延後の圧延材200の表面性状を良くするため、粗圧延された圧延材200表面に形成される酸化膜を、圧延材200の上下方向から高圧水を噴射することにより除去する。
【0036】
  仕上圧延機119は、スタンドと呼ばれる圧延ロールが複数列設置されたタンデム式が採用されており、複数の圧延ロールで上下方向に圧延することにより、目標板厚の圧延材200を得ることができる。この仕上圧延機119のスタンドおよびスタンド間には、酸化膜形成を抑制するため、及び温度制御を行うために、スプレーが備えられている。
【0037】
  仕上出側板厚計121は、仕上圧延機119により圧延された圧延材200の板厚を測定する。
【0038】
  X線測定器の一種であるマルチゲージ( Multi-Channel Gauge)123は、X線の検出器を圧延材200の幅方向に並べた形態をしており、幅方向における板厚分布が測定できることから、板厚、クラウン、板幅など複数の種類のプロセス値を1台で測定できる複合型測定器である。
【0039】
  仕上出側温度計125は、仕上圧延機119による圧延後の圧延材200の表面温度を測定する。圧延材200の温度は、製品の金属組織の形成や材質と密接に関連しており、適切な温度に管理される必要がある。
【0040】
  平坦度計127は、仕上圧延機119による圧延後の圧延材200の平坦度を測定する。また、平坦度計127は、複数のCCDカメラを備えており、圧延材200の板幅を測定することも可能である。平坦度計127はマルチゲージ123より測定精度が高いので、仕上圧延機119出側の板幅値としては、平坦度計127により測定された板幅値が用いられる場合が多い。
【0041】
  ランアウトラミナースプレー冷却部129は、圧延材200の温度を制御するために、冷却水により圧延材200を冷却する装置である。これらには、通常のランナウトテーブル冷却装置に加えて、前後に強制冷却装置が備えられることもある。
【0042】
  コイラ入側温度計131は、ランアウトラミナースプレー冷却部129により冷却された圧延材200の表面温度を測定する。圧延材200の温度は、圧延製品の金属組織の形成や材質と密接に関連しており、適切な温度に管理される必要がある。
【0043】
  コイラ入側板幅計133は、ランアウトラミナースプレー冷却部129により冷却された圧延材200の板幅を測定する。通常の圧延では、オーステナイト域まで加熱された圧延材200は、ランアウトラミナースプレー冷却部129においてフェライトやパーライトなどの組織に変態するため変態後の板幅を測定する。また、仕上圧延機119出側で約860℃前後、コイラ135入側で約600℃前後であることから、より室温に近い状態で測定することにより、線膨張による室温との誤差がより少ない状態で板幅を測定することができる。
【0044】
  コイラ135は、圧延材200を搬送するために巻き取る。
【0045】
  図2は、熱間圧延装置1000が備える粗圧延機107による圧延材200の圧延を説明した側面図である。
【0046】
  図2に示すように、粗圧延機107は、入側搬送テーブル10aと、ロールセット7と、圧延加重検出器8と、ピックアップ量変更部9と、出側搬送テーブル10bと、モータ4と、モータパワー測定器5とを備えている。
【0047】
  入側搬送テーブル10aは、圧延材200をロールセット7の方向(搬送方向)へ搬送する。
【0048】
  ロールセット7は、モータ4の駆動力により回転駆動する上ワークロール7a及び下ワークロール7bを備えており、入側搬送テーブル10aにより搬送される圧延材200を、上ワークロール7aと下ワークロール7bとで上下方向から押圧することにより初期サイズから目標サイズへ圧延する。ここで、初期サイズとは、圧延前の圧延材200の搬送方向の板長、板幅、板厚のうち、少なくともいずれか1つのことをいい、目標サイズとは、圧延後の圧延材200の搬送方向の板長、板幅、板厚のうち、少なくともいずれか1つのことをいう。
【0049】
  また、圧延材200の反りや噛み込み不良を抑制するために、入側搬送テーブル10aの最上点高さ201と、下ワークロール7bの最上点高さ202との間に差を設けており、この高さの差をピックアップ量Δdという。そして、圧延材200が入射する角度、即ち、圧延材200が上ワークロール7aと下ワークロール7bとに噛み込まれる際に、圧延材200と、入側搬送テーブル10aの最上点高さ201との間で形成される角度を入射角αとする。
【0050】
  ロールセット7の下方には、ロールセット7を上下方向に昇降させることにより、ピックアップ量Δdを変更するピックアップ量変更部9が設けられている。
【0051】
  また、上ワークロール7aの上方には、上ワークロール7aと下ワークロール7bとで上下方向から押圧して圧延する際の圧延荷重を検出する圧延加重検出器8が設けられており、モータ4には、モータ4のモータパワーを測定するモータパワー測定器5が設けられている。
【0052】
  なお、ここでは、上ワークロール7aと下ワークロール7bとで上下方向から押圧することにより初期サイズから目標サイズへ圧延する粗圧延機107を例に挙げて説明したが、押圧する回数は1回に限らず、複数回でもよい。例えば、圧延材200を搬送方向に前後させることにより、上ワークロール7aと下ワークロール7bとで上下方向から複数回押圧することにより圧延(リバース圧延)するようにしてもよい。
【0053】
  さらに、本発明は、粗圧延機107に限らず、ロールセット7を複数備え、複数のロールセット7で圧延材200を圧延する圧延機、例えば、仕上圧延機119のようにタンデム圧延機で各スタンド1パスずつ一方向に圧延する場合でも適用することができる。
【0054】
≪制御装置1の機能構成≫
  次に、本発明の実施例1に係る制御装置が適用された制御システムの機能構成について説明する。
【0055】
  図3は、本発明の実施例1に係る制御装置が適用された制御システムの機能構成を示したブロック図である。なお、ここでは、圧延材200を搬送方向に前後させることにより、上ワークロール7aと下ワークロール7bとで上下方向から複数回押圧することにより圧延(リバース圧延)する粗圧延機107を例に挙げて説明する。なお、ロールセット7を通過した回数をパスという。
【0056】
  図3に示すように、制御システム100は、上位計算機301と、制御装置1と、ピックアップ量変更部9とを備えている。
【0057】
  上位計算機301は、利用者の操作に基づいて、圧延材200の成分調整時の実測情報に基づいた化学的な成分情報と、圧延材200の初期サイズ及び目標サイズとを含む要求信号を制御装置1に供給する。
【0058】
  制御装置1は、上位計算機301から供給された要求信号に基づいて、ピックアップ量を計算し、計算したピックアップ量に基づいて、ピックアップ量変更部9を制御する。
【0059】
  制御装置1は、パススケジュール計算部12と、入射角度情報記憶部13と、ピックアップ量計算部14と、ピックアップ記憶部17と、ピックアップ量変更タイミング計算部15と、ピックアップ量変更制御部16とを備えている。
【0060】
  パススケジュール計算部12は、圧延材200の初期サイズ及び目標サイズに基づいて、圧延条件を計算する。例えば、パススケジュール計算部12は、上位計算機301により供給された圧延前における圧延材200の板厚と、圧延後における圧延材200の板厚と、圧延後の圧延材200の板幅とに基づいて、各パスの厚み方向の圧下量を、圧下量配分、荷重比配分などを考慮して計算する。
【0061】
  ここで、圧下量とは、圧延前および圧延後の圧延材200の板厚差である。また荷重比は、すべてのパスのうちもっとも荷重の高いパスの荷重を用いて各パスの荷重を割った比である。パススケジュール計算部12による圧下量の計算により、各パスの圧延材200のサイズ、すなわち板厚、板幅および板長さは既知となる。
【0062】
  入射角度情報記憶部13は、粗圧延機107が圧延するための圧延条件と、圧延材200に反りや噛み込み不良が発生しないような入射角度αとを関連づけて、入射角情報として記憶する。
【0063】
  図4は、本発明の実施例1に係る制御装置が備える入射角度情報記憶部13が記憶している入射角情報の一例を示した図である。
【0064】
  図4に示すように、圧延材200の鋼種401と、圧延材200とロールセット7との接触投影弧長を、ロールセット7への入側と出側における圧延材200の板厚の平均値で除した値である形状比402と、圧延材200の温度403と、入射角度404とが関連づけられて、入射角情報として記憶されている。これらのうち、鋼種401と、形状比402と、温度403とを、ここでは圧延条件という。また、入射角度404は、実験などで予め求めた対象圧延ラインで反りが発生しない角度、又は操業圧延中に反りが発生せず良好に圧延された場合の角度として予め決められた角度である。
【0065】
  ピックアップ量計算部14は、パススケジュール計算部12により計算された圧延条件と、入射角度情報記憶部13に記憶された入射角情報とに基づいて、幾何学的および力学的関係からピックアップ量を計算する。
【0066】
  具体的には、ピックアップ量計算部14は、パススケジュール計算部12が計算する各パスの圧延条件と、入射角度情報記憶部13の入射角情報に含まれる入射角度αとの幾何学的および力学的関係を用い、各パスのピックアップ量Δdの設定値を計算する。ここで、上述したように、ピックアップ量Δdは、入側搬送テーブル10aの最上点高さ201と下ワークロール7bの最上点高さ202との差である。
【0067】
  例えば、圧延材200の板厚が厚く、板長さが短い場合や、圧延材200の温度が低い場合などで、圧延材200がたわまないと仮定できる条件では、
図2のように、圧延材200の尾端が入側搬送テーブル10aに接触し、圧延材200が上ワークロール7aと下ワークロール7bとの間に噛み込まれる際の入射角度αは、圧延材200と入側搬送テーブル10aとがなす角度となる。
【0068】
  この場合、ピックアップ量計算部14は、パススケジュール計算部12により計算された各パスの圧延前の圧延材200の板長さLと、入射角度情報記憶部13から抽出された各パスの反りが発生しないような入射角度αとにより、幾何学的に、下記の(数式1)を用いてピックアップ量Δdを算出する。
【数1】
【0069】
  しかしながら、圧延材200の板厚が薄く、板長さが長い条件や圧延材200の温度が高いと下方へたわみが生じる場合がある。
【0070】
  そこで、ピックアップ量計算部14は、圧延材200にたわみが生じる場合、圧延材200が下方向に撓んだ場合における最大のたわみ量をピックアップ量として計算する。
【0071】
  図5は、圧延材200にたわみが生じた場合における粗圧延機107の側面を模式的に示した図であり、
図6は、圧延材200にたわみが生じた場合におけるピックアップ量の計算を説明した図である。
【0072】
  図5に示すように、圧延材200にたわみが生じると、圧延材200は下方向に湾曲して、点Aにおいて、入側搬送テーブル10aと接触する。また、撓んだ圧延材200は、下ワークロール7bの上部の点Bにおいて接触している。
【0073】
  このとき、入側搬送テーブル10aの最上点高さ201(パスライン)上における点Bの直下の位置から点Aまでのの距離をxとする。
【0074】
  そして、
図6に示すように、ピックアップ量計算部14は、入射角度αを、たとえば、点Aと点Bを結ぶ直線とパスラインとの角度(傾斜角度)φと近似し、α=φとする。そして、ピックアップ量計算部14は、当該パスにおいて、入射角度情報記憶部13から抽出された入射角度となるピックアップ量Δdを幾何学的に、下記の(数式2)を用いて計算する。
【数2】
【0075】
  また、
図6に示すように、長さ2xの梁が両端支持されている状態を仮定すると、梁のたわみが最大となる位置において圧延材200がパスラインと接触し、この最大たわみ量δはピックアップ量Δdに等しい。
【0076】
  そこで、ピックアップ量計算部14は、両端支持の梁の最大たわみの式を変形した(数式3)を用いてピックアップ量Δdを力学的に計算する。
【数3】
【0077】
  ここで、wは単位長あたりの荷重、Eはヤング率、Iは断面二次モーメントである。
【0078】
  なお、単位長あたりの荷重は、圧延材200の体積密度ρ、板厚H、板幅Bにより、下記の(数式4)を用いて計算される。
【数4】
【0079】
  ここでgは重力加速度である。ヤング率Eは、圧延材200の温度や成分によって異なる。予めテーブル等を用意しておき、パススケジュール計算部12で計算される温度計算値に対応するヤング率を選択することや、適切な代表値を選択するなどする。
【0080】
  ピックアップ量計算部14は、当該パスの板厚H、板幅Bに基づいて、下記の(数式5)を用いて断面二次モーメントIを計算する。
【数5】
【0081】
  (数式1)、(数式2)およびα=φとすると、ピックアップ量計算部14は、入射角度情報記憶部13から抽出された各パスの反りが発生しないような入射角度αに基づいて、下記の(数式6)を用いて、ピックアップ量Δdを計算する。
【数6】
【0082】
  また、
図7に示すように、長さ2xの梁が両端支持されている状態を仮定し、入射角度αを圧延材200が下ワークロール7bと接触する点Bにおける圧延材200下面の圧延方向の接線とパスラインとの角度θと近似し、α=θとする。ここで、θは、両端支持梁の最大たわみ角度に等しいため、ピックアップ量計算部14は、最大たわみ角度を求める公式を変形した下記の(数式7)を用いて、角度θを計算する。
【数7】
【0083】
  そして、ピックアップ量計算部14は、入射角度情報記憶部13から抽出された反りが発生しない入射角度αを(数式7)のθに代入して、下記の(数式8)を用いて、xを計算する。
【数8】
【0084】
  ここで、両端支持梁を仮定した場合、ピックアップ量Δdは(数式3)で表される最大たわみ量となる。そこで、ピックアップ量計算部14は、(数式8)を用いて計算したxと、入射角度情報記憶部13から抽出された各パスの反りが発生しないような入射角度αから、下記の(数式9)を用いて、ピックアップ量Δdを算出する。
【数9】
【0085】
  ピックアップ記憶部17は、ピックアップ量計算部14により算出されたピックアップ量Δdを記憶する。
【0086】
  ピックアップ量変更タイミング計算部15は、たとえば、前パスで圧延材200の尾端が粗圧延機107から抜ける尻抜けタイミングと、該当パスで圧延材200の先端が粗圧延機107に噛み込まれる噛み込みタイミングとの間で、ピックアップ量を変更するようなピックアップ量変更タイミングtを計算する。
【0087】
  ここで、尻抜けタイミングや噛み込みタイミングは、たとえば、図示しない圧延材200のトラッキング装置による計算、圧延荷重計算装置による圧延荷重が変化するタイミングの計算などにより得られる。
【0088】
  ピックアップ量変更制御部16は、ピックアップ量変更タイミング計算部15により計算するピックアップ量変更タイミングtで、ピックアップ記憶部17に記憶されたピックアップ量Δdの設定値となるように、下ワークロール7bと入側搬送テーブル10aとの高さに差を設ける。具体的には、ピックアップ量変更制御部16は、ピックアップ量変更部9を制御することにより、ロールセット7を上下方向に昇降させ、ピックアップ量Δdを変更する。
【0089】
  このように、ピックアップ量Δdは、下ワークロール7bの位置を圧延ラインと垂直方向に上下に変更できる装置を備えた圧延機や、入側搬送テーブル10aの位置を圧延ラインと垂直方向に上下に変更できる装置を備えた圧延ラインにおいて、機械的に変更することができる。
【0090】
  また、ピックアップ量変更制御部16がピックアップ量Δdを油圧等により高速に変更できる装置を備える場合、ピックアップ量Δdの変更による圧延効率の低下を防ぐことができる。
【0091】
≪制御装置1の作用≫
  次に、本発明の実施例1に係る制御装置1が適用された制御システム100の作用について説明する。
【0092】
  図8は、本発明の実施例1に係る制御装置1が適用された制御システム100の作用を示したブロック図である。
【0093】
  図8に示すように、パススケジュール計算部12は、上位計算機301から要求信号が供給されたか否かを判定する(ステップS101)。
【0094】
  ステップS101において、上位計算機301から要求信号が供給されたと判定された場合(YESの場合)、パススケジュール計算部12は、圧延材200の初期サイズ及び目標サイズに基づいて、圧延条件を計算する(ステップS103)。
【0095】
  次に、ピックアップ量計算部14は、入射角度情報記憶部13から、パススケジュール計算部12により計算された圧延条件に対応する反りや噛み込み不良が発生しないような入射角度αを抽出する(ステップS105)。
【0096】
  そして、ピックアップ量計算部14は、パススケジュール計算部12により計算された圧延条件と、抽出した入射角度αとに基づいて、幾何学的および力学的関係からピックアップ量を計算し(ステップS107)、計算したピックアップ量をピックアップ記憶部17に記憶させる(ステップS109)。
【0097】
  次に、ピックアップ量変更制御部16は、カウンタiの値に“1”を代入する(ステップS111)。
【0098】
  そして、ピックアップ量変更タイミング計算部15は、第iパス目のピックアップ量変更タイミングtを計算する(ステップS113)。
【0099】
  そして、ピックアップ量変更制御部16は、第iパス目のピックアップ量変更タイミングtに達した場合、ピックアップ記憶部17に記憶されたピックアップ量を読み出し、この読み出したピックアップ量になるように、ピックアップ量変更部9を制御することにより、ロールセット7を上下方向に昇降させる(ステップS115)。
【0100】
  次に、粗圧延機107は、設定されたピックアップ量で、第iパス目の圧延材200の圧延を開始する(ステップS117)。
【0101】
  そして、圧延材200の圧延条件を満たすか否かにより圧延を終了したか否かを判定し(ステップS119)、圧延が終了していない場合(NOの場合)、ピックアップ量変更制御部16は、カウンタiの値に“1”だけ加算する(ステップS121)。
【0102】
  以上のように、本発明の実施例1に係る制御装置1が適用された制御システム100によれば、パススケジュール計算部12により計算された圧延条件と、入射角度情報記憶部13に記憶された入射角情報とに基づいて、幾何学的および力学的関係からピックアップ量を計算するので、高性能な計算機を用いることなく、適正なピックアップ量を設定することができる。
 
【実施例2】
【0103】
  本発明の実施例1では、圧延材200の圧延前に各パス毎のピックアップ量を予め計算して記憶しておき、圧延時に読み出したピックアップ量を設定する制御装置1を例に挙げて説明した。
【0104】
  本発明の実施例2では、圧延材200の圧延中に、各パス毎に圧延実績(圧延状態の実績値)を反映したピックアップ量を計算し、ピックアップ量を設定する制御装置を例に挙げて説明する。
【0105】
  図9は、本発明の実施例2に係る制御装置1Aが適用された制御システム100Aの機能構成を示したブロック図である。
【0106】
  図9に示すように、制御システム100Aは、上位計算機301と、制御装置1Aと、ピックアップ量変更部9とを備えている。ここで、上位計算機301と、ピックアップ量変更部9とは、それぞれ本発明の実施例1に係る制御装置1が備えるそれぞれ同一符号が付された構成と同一であるので、説明を省略する。
【0107】
  制御装置1Aは、上位計算機301から供給された要求信号に基づいて、ピックアップ量を計算し、計算したピックアップ量に基づいて、ピックアップ量変更部9を制御する。
【0108】
  制御装置1Aは、圧延実績収集部19と、パススケジュール計算部12と、入射角度情報記憶部13と、ピックアップ量計算部14と、ピックアップ量変更タイミング計算部15と、ピックアップ量変更制御部16とを備えている。これらの構成のうち、圧延実績収集部19以外の構成については、それぞれ本発明の実施例1に係る制御装置1が備えるそれぞれ同一符号が付された構成と同一であるので、説明を省略する。
【0109】
  圧延実績収集部19は、圧延中に各パスのモータパワーや圧下量などの圧延実績を収集する。例えば、圧延実績収集部19は、モータパワー測定器5により測定されたモータ4のモータパワーを収集する。また、圧延実績収集部19は、圧延加重検出器8により検出された圧延荷重を収集する。
【0110】
  そして、圧延実績収集部19は、収集された圧延荷重をP(ton)、圧延後の圧延材200の板厚をh(mm)、圧下位置S(mm)として、下記の(数式10)に示すゲージメータ式を用いて、圧延後の圧延材200の板厚hを算出する。
【0111】
  h=S+(P/M)                  (数式10)
  なお、M(ton/mm)は、ミル定数と呼ばれる圧延荷重に対する圧延機の弾性係数である。
【0112】
  そして、圧延実績収集部19は、圧延前の圧延材200の板厚と、(数式10)を用いて計算した圧延後の圧延材200の板厚の差として圧下量を計算し、計算した圧下量とモータパワーとを圧延実績としてパススケジュール計算部12へ供給する。
【0113】
≪制御装置1Aの作用≫
  次に、本発明の実施例2に係る制御装置1Aが適用された制御システム100Aの作用について説明する。
【0114】
  図10は、本発明の実施例2に係る制御装置1Aが適用された制御システム100Aの作用を示したブロック図である。
【0115】
  図10に示すように、パススケジュール計算部12は、上位計算機301から要求信号が供給されたか否かを判定する(ステップS201)。
【0116】
  ステップS201において、上位計算機301から要求信号が供給されたと判定された場合(YESの場合)、パススケジュール計算部12は、圧延材200の初期サイズ及び目標サイズに基づいて、圧延条件を計算する(ステップS203)。
【0117】
  次に、ピックアップ量変更制御部16は、カウンタiの値に“1”を代入する(ステップS207)。
【0118】
  次に、ピックアップ量計算部14は、入射角度情報記憶部13から、パススケジュール計算部12により計算された圧延条件に対応する反りや噛み込み不良が発生しないような入射角度αを抽出する(ステップS209)。
【0119】
  そして、ピックアップ量計算部14は、パススケジュール計算部12により計算された圧延条件と、抽出した入射角度αとに基づいて、幾何学的および力学的関係からピックアップ量を計算する(ステップS211)。
【0120】
  次に、ピックアップ量変更タイミング計算部15は、第iパス目のピックアップ量変更タイミングtを計算する(ステップS213)。
【0121】
  そして、ピックアップ量変更制御部16は、第iパス目のピックアップ量変更タイミングtに達した場合、ピックアップ量計算部14により計算されたピックアップ量になるように、ピックアップ量変更部9を制御することにより、ロールセット7を上下方向に昇降させる(ステップS215)。
【0122】
  次に、粗圧延機107は、設定されたピックアップ量で、第iパス目の圧延材200の圧延を開始する(ステップS217)。
【0123】
  そして、第iパス目の圧延材200の圧延を終了した場合(ステップS219)、圧延実績収集部19は、圧延中における各パスのモータパワーや圧下量などの圧延実績を収集する(ステップS221)。
【0124】
  次に、パススケジュール計算部12は、圧延実績収集部19により収集された圧延実績、圧延材200の初期サイズ及び目標サイズに基づいて、圧延条件を再計算する(ステップS223)。
【0125】
  そして、圧延材200の圧延条件を満たすか否かにより圧延を終了したか否かを判定し(ステップS225)、圧延が終了していない場合(NOの場合)、ピックアップ量変更制御部16は、カウンタiの値に“1”だけ加算する(ステップS227)。
【0126】
  以上のように、本発明の実施例2に係る制御装置1Aが適用された制御システム100によれば、パス毎、即ち上ワークロール7aと下ワークロール7bとにより圧延材200を押圧する度に、圧延実績収集部19により収集された圧延実績(圧延状態の実績値)、初期サイズ、及び目標サイズに基づいて、圧延条件を計算するので、パス毎に、より適正なピックアップ量を設定することができる。