特許第5727923号(P5727923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727923
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】アブレータ
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/58 20060101AFI20150514BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   B64G1/58
   B32B5/28 A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-271248(P2011-271248)
(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-121786(P2013-121786A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大矢 洋明
(72)【発明者】
【氏名】久保田 伸幸
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−527441(JP,A)
【文献】 特開平09−239847(JP,A)
【文献】 特開2001−278199(JP,A)
【文献】 米国特許第03793861(US,A)
【文献】 特開平06−072398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/58
B32B 5/22 − 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂が含浸した第1繊維からなる内層アブレータと、
第2樹脂が含浸した第2繊維からなり、前記内層アブレータよりも低密度の外層アブレータと、を備え
前記内層アブレータは、部分的に厚みが大きく形成されて、シェル外面に締結具を用いて取り付けられる締結部分を有する、アブレータ。
【請求項2】
前記外層アブレータの密度が0.2〜1.0g/cmである、請求項1に記載のアブレータ。
【請求項3】
前記内層アブレータの密度が1.0〜1.6g/cmである、請求項1又は2に記載のアブレータ。
【請求項4】
前記外層アブレータは、ホットプレス、焼結、又はオートクレーブにより作成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアブレータ。
【請求項5】
前記内層アブレータは、第1繊維に第1樹脂を含浸させたプリプレグクロスから構成されており、
前記内層アブレータと前記外層アブレータはオートクレーブによりコキュア成形される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアブレータ。
【請求項6】
前記外層アブレータは、フェルト状の第2繊維に第2樹脂を含浸させたプリプレグフェルトをホットプレスする、または電気炉又はオートクレーブにより焼結することにより製造され、
前記第1繊維に前記第2樹脂よりも含浸させる樹脂の量が大きくなるように、第1樹脂を含浸させたプリプレグクロスを前記外層アブレータの内面に貼り付け、前記内層アブレータと前記外層アブレータをオートクレーブによりコキュア成形する、請求項5に記載のアブレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブレータの構造に関し、特に低密度アブレータを備えるアブレータの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙実験ミッション又は惑星探査ミッション等で、実験装置又はサンプル等を回収するために、大気圏に再突入するカプセル等には、アブレータが備えられている。アブレータは、炭素繊維等の繊維に樹脂を含浸したプリプレグ等によって形成されていて、大気圏に再突入するときに、樹脂が熱分解すること等によって、カプセル本体への熱の伝達を遮断するものである。
【0003】
このようなアブレータの一例として、特許文献1に開示されているものがある。特許文献1には、表面側が内部側に比べて密度の高い表面側高密度アブレータ材料よりなっていると共に、内部側が表面側に比べて密度の低い内部側低密度アブレータ材料よりなっていることを特徴とする高性能アブレータ材料が記載されている。
【0004】
特許文献1には、表面側が高密度アブレータ材料により形成されていることによって、従来の全体が高密度アブレータ材料からなるものと同程度にリセッション量が少なく、形状安定性(均一リセッション性)に優れていると記載されている。また、特許文献1に開示されている高性能アブレータ材料では、高密度アブレータ材料は断熱性があまり良くないという問題点があり、低密度アブレータ材料はリセッション量が多いという問題点があるため、上記のように、内側に低密度アブレータ材料を配置し、表面側に高密度アブレータ材料を配置した構造をとっている。
【0005】
また、アブレータ等の熱防御材料におけるカプセル等の機体構造への取り付けには、耐熱性の接着剤が用いられることが知られている(例えば、非特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−268396号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】John Cleland and Francesco Iannetti, “Thermal Protection System of the Space Shuttle”, NASA Contractor Report 4227.
【非特許文献2】William M. Congdon, “Development of design and production processes for block-ablator heatshields with preliminary test results”, http://www.planetaryprobe.eu/IPPW7/proceedings/IPPW7%20Proceedings/Papers/SessionP2/p477.pdf
【非特許文献3】木元 順一、並木 祐之、高原 智英、清野 多美子、古田 実、伊牟田 守、中谷 浩、槻木 啓一、田島 直之、飯尾 真也、奥 康生、“セラミックタイル開発基礎試験 中密度セラミックタイル”、NASDA Technical Memorandum pp.161-182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、低密度のアブレータは、高密度のアブレータに比して強度が低いため、機体構造への取り付けには荷重の集中を避ける必要があり、アブレータの下面全体を構造部材に接着して、荷重を分散させる必要がある。また、アブレータをカプセル等の機体構造に直接接着剤を用いて接着させると、機体構造の与圧変形等により、接着剥離を引き起こす可能性があるため、アブレータは、SIP(Strain Insulation Pad)等を介して、機体構造に接着される(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
非特許文献3に開示されているように、低密度のアブレータ等の熱防御材料を機体構造に取り付けるには、機体構造にSIPを接着し、当該SIPに低密度アブレータを接着するので、取り付け作業に、非常に時間を要するという問題があった。具体的には、機体構造の形状及び機体構造に接着された各SIPの弾性の個体差により、隣接する低密度のアブレータ間における表面の段差が生じやすく、この段差をなくすために、SIPの厚みの調整をする必要があり、取り付け作業に、非常に時間を要するという問題があった。
【0010】
また、SIPと低密度のアブレータとの接着に用いる接着剤の耐熱温度にまで、アブレータで断熱しなければならず、このため、アブレータの厚みが厚くなり、その結果、軽量化を図ることができないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、従来のアブレータに比して、カプセル等の機体構造への取り付け作業効率を改善することができる、アブレータを提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、従来の低密度アブレータを備えるアブレータに比して、軽量化を図ることができる、アブレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、以下の点を見出した。
【0014】
すなわち、低密度アブレータの荷重を受け持つ構造部材としての役割を高密度アブレータが行えるということと、高密度アブレ−タと低密度アブレータとの接合は、接着剤を用いなくても、オートクレーブによるコキュア成形で行えるということと、を見出した。
【0015】
また、特許文献1に開示されているように、高密度アブレータは、低密度アブレータに比して断熱性があまりよくないとしても、低密度アブレータを高密度アブレータの外側に配置することにより、高密度アブレータよりも先に低密度アブレータが断熱するので、高密度アブレータの断熱性能でも充分にカプセル等への熱伝導を抑制することができるということを見出した。
【0016】
そして、本発明者等は、以下に記載する構成を採用することが、上記本発明の目的を達成する上で極めて有効であるということを見出し、本発明を想到した。
【0017】
すなわち、本発明に係るアブレータは、第1樹脂が含浸した第1繊維からなる内層アブレータと、第2樹脂が含浸した第2繊維からなり、前記内層アブレータよりも低密度の外層アブレータと、を備える。
【0018】
高密度アブレータを低密度アブレータの内側に配置することにより、アブレータをカプセル等の機体構造に取り付ける際に、接着剤、ひいては、SIPを用いなくても取り付けることができる。このため、従来の低密度アブレータを備えるアブレータに比して、カプセル等の機体構造への取り付け作業効率を改善することができる。
【0019】
また、外層アブレータ(低密度アブレータ)の荷重を受け持つ構造部材を内層アブレータ(高密度アブレータ)にし、かつ、外層アブレータと内層アブレータとの接合を、接着剤を用いないようにすることにより、外層アブレータの厚み、ひいては、アブレータ全体の厚みを小さくすることができ、軽量化を図ることができる。
【0020】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施形態の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るアブレータによれば、従来の低密度アブレータを備えるアブレータに比して、カプセル等の機体構造への取り付け作業効率を改善することができる。また、本発明に係るアブレータによれば、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係るアブレータを備えるカプセルの概略構成を示す模式図である。
図2図2は、図1に示すカプセルの一部の断面図である。
図3図3は、本実施の形態1に係るアブレータにおける外層アブレータの製造工程の一例を示した模式図である。
図4図4は、本実施の形態1に係るアブレータの製造工程の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を具体的に例示する。なお、全ての図面において、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、全ての図面において、本発明を説明するために必要となる構成要素を抜粋して図示しており、その他の構成要素については図示を省略している。さらに、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0024】
(実施の形態1)
[アブレータの構成]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアブレータを備えるカプセルの概略構成を示す模式図である。図2は、図1に示すカプセルの一部の断面図である。なお、図1の破線は、カプセルのシェルの輪郭を示している。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施の形態1に係るアブレータ100は、内層アブレータ1と、外層アブレータ2と、を備えていて、大気圏再突入用のカプセル101のシェル4の外面を覆うように配置されている。また、アブレータ100は、シェル4に結合ピン5により取り付けられていて、アブレータ100とシェル4との間には、断熱材3が設けられている。断熱材3としては、例えば、セラミック繊維等を用いることができる。なお、本実施の形態1においては、結合ピン5により、アブレータ100をシェル4に取り付ける構成としたが、これに限定されず、ボルト等の締結具を用いて、アブレータ100をシェル4に取り付ける構成を採用してもよい。
【0026】
内層アブレータ1は、結合ピン5が嵌入される部分が、他の部分よりもその厚みが厚くなるように構成されている。また、内層アブレータ1は、第1樹脂が含浸した第1繊維から構成されていて、その密度が、1.0〜1.6g/cmである。第1繊維としては、炭素繊維又はシリカ繊維等を用いることができる。また、第1繊維は、長繊維状又は布状の形態であることが好ましい。第1樹脂としては、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、又はエポキシ樹脂等を用いることができる。
【0027】
外層アブレータ2は、第2樹脂が含浸した第2繊維から構成されていて、その密度が、内層アブレータ1の密度よりも小さく、具体的には、0.2〜1.0g/cmである。第2繊維としては、炭素繊維又はシリカ繊維等を用いることができる。また、第2繊維の形態としては、長繊維状、短繊維状、布状、又はフェルト状のいずれの形態であってもよい。また、第2樹脂としては、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、又はエポキシ樹脂等を用いることができる。
【0028】
なお、第1繊維と第2繊維は、同じ種類の繊維を用いてもよく、異なる種類の繊維を用いてもよい。また、第1樹脂と第2樹脂は、外層アブレータ2と内層アブレータ1の接合を強化する観点から、同じ種類の樹脂を用いることが好ましく、フェノール樹脂を用いることがより好ましい。
【0029】
[アブレータの製造方法]
図3は、本実施の形態1に係るアブレータにおける外層アブレータの製造工程の一例を示した模式図である。また、図4は、本実施の形態1に係るアブレータの製造工程、より詳しくは、内層アブレータと外層アブレータの接合工程の一例を示した模式図である。
【0030】
まず、図3を参照しながら、本実施の形態1に係るアブレータ100における外層アブレータ2の製造方法を説明する。
【0031】
図3に示すように、外層アブレータ2に対応するプレス型102を用意し、例えば、フェルト状の第2繊維に第2樹脂を含浸させたプリプレグフェルト103を用意する。そして、プリプレグフェルト103を外層アブレータ2のプレス型102に配置して、ホットプレスすることで外層アブレータ2を作成する。なお、プリプレグフェルト103は、ホットプレス後の密度が、0.2〜1.0g/cmとなるように、含浸させる第2樹脂の量及びプレスされる厚さを調整する。
【0032】
次に、図4に示すように、外層アブレータ2の内面にプリプレグクロス105を配置する。このとき、プリプレグクロス105は、外層アブレータ2の内面に複数層貼り付けられる。これにより、外層アブレータ2とプリプレグクロス105の積層体106が形成される。なお、プリプレグクロス105は、第1繊維が布状に織り込まれたものに第1樹脂を含浸させたものであり、オートクレーブ後の密度が、外層アブレータ2の密度よりも高くなるように、具体的には、1.0〜1.6g/cmとなるように、含浸させる第1樹脂の量を調整する。
【0033】
次に、外層アブレータ2とプリプレグクロス105の積層体106をオートクレーブでコキュア成形する。このとき、プリプレグクロス105に含まれる第1樹脂が、外層アブレータ2とプリプレグクロス105との間に滲み出て、硬化することにより、外層アブレータ2と内層アブレータ1が接合される。これにより、アブレータ100が一体成型される。
【0034】
このように、本実施の形態1に係るアブレータ100では、外層アブレータ2の荷重を受け持つ構造部材としての役割を内層アブレータ1が行い、かつ、高密度アブレータを低密度アブレータの内側に配置することにより、アブレータ100をカプセル等の機体構造に取り付ける際に、接着剤、ひいては、SIPを用いなくても取り付けることができる。このため、本実施の形態1に係るアブレータ100では、従来の低密度アブレータを備えるアブレータに比して、カプセル等の機体構造への取り付け作業効率を改善することができる。
【0035】
また、本実施の形態1に係るアブレータ100では、低密度アブレータが高密度アブレータよりも外側に配置されることにより、低密度アブレータの外側に高密度アブレータが配置される構造に比して、低密度アブレータが有する樹脂の熱分解等に伴う、気体の噴出が高密度アブレータによって妨げられないため、低密度アブレータの断熱性能をより発揮することができる。このため、本実施の形態1に係るアブレータ100は、従来のアブレータに比して、より断熱性を向上させることができる。
【0036】
さらに、本実施の形態1に係るアブレータ100では、接着剤の耐熱温度に制約されないので、外層アブレータ2の厚みを薄くすることができ、アブレータ100を軽量化することができる。
【0037】
なお、本実施の形態1においては、外層アブレータ2をホットプレスにより作成したが、これに限定されず、例えば、電気炉又はオートクレーブにより焼結することで作成してもよい。オートクレーブにより外層アブレータ2を作成する場合、オートクレーブ後の密度が、0.2〜1.0g/cmとなるように、含浸させる第2樹脂の量、及び/又は加圧する圧力を調整する。
【0038】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の形態を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の要旨を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアブレータは、従来の低密度アブレータを備えるアブレータに比して、カプセル等の機体構造への取り付け作業効率を改善することができ、かつ、軽量化を図ることができるため、航空宇宙の分野で有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 内層アブレータ
2 外層アブレータ
3 断熱材
4 シェル
5 結合ピン
100 アブレータ
101 カプセル
102 プレス型
103 プリプレグフェルト
105 プリプレグクロス
106 積層体
図1
図2
図3
図4