(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727936
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】表面官能化ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20150514BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K9/04
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-533822(P2011-533822)
(86)(22)【出願日】2009年11月3日
(65)【公表番号】特表2012-507588(P2012-507588A)
(43)【公表日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】GB2009002605
(87)【国際公開番号】WO2010052455
(87)【国際公開日】20100514
【審査請求日】2012年10月26日
(31)【優先権主張番号】0820101.4
(32)【優先日】2008年11月4日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/111,093
(32)【優先日】2008年11月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509295262
【氏名又は名称】ナノコ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100066728
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100100099
【弁理士】
【氏名又は名称】宮野 孝雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100114
【弁理士】
【氏名又は名称】西岡 伸泰
(74)【代理人】
【識別番号】100119596
【弁理士】
【氏名又は名称】長塚 俊也
(74)【代理人】
【識別番号】100141841
【弁理士】
【氏名又は名称】久徳 高寛
(72)【発明者】
【氏名】ピケット,ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】マクケアン,マーク,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエルズ,スティーブン,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ムシュタック,イムラナ
(72)【発明者】
【氏名】グラーベイ,ポール
【審査官】
山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/075784(WO,A1)
【文献】
国際公開第2005/021150(WO,A1)
【文献】
特開2003−286292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンポリマー材料に組み込むために用いられる、表面官能化ナノ粒子を生成する方法であって、
ナノ粒子を、ナノ粒子結合基及びシリコーンポリマー結合基を含有するナノ粒子表面結合配位子と反応させることを含み、
前記ナノ粒子結合基は、チオール基、酸基、エステル基、チオール基の塩又は酸基の塩を含有し、
前記反応により、ナノ粒子は、前記ナノ粒子表面結合配位子が結合することにより、表面が官能化される、表面官能化ナノ粒子を生成する方法。
【請求項2】
表面結合配位子のシリコーン結合基は架橋基又は重合基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
表面結合配位子のシリコーン結合基は少なくとも1つの不飽和アルキル基を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
表面結合配位子のシリコーン結合基は2つ以上のビニル基を含む、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
酸基は、カルボン酸、スルホン酸又はリン酸であり、エステル基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル又はリン酸エステルであり、酸基の塩は、カルボン酸塩、スルホン酸塩又はリン酸塩である、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
表面結合配位子のナノ粒子結合基とシリコーンポリマー結合基とはリンカーによって結合される、請求項1乃至5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記リンカーは、共有結合;炭素、窒素、酸素もしくは硫黄原子;置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の脂肪族基または脂環基;及び置換もしくは無置換の芳香族基、から成る群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応は、前記ナノ粒子表面結合配位子とは異なる溶媒の中で実施される、請求項1乃至7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒はルイス塩基化合物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ルイス塩基化合物は、ヘキサデシルアミン(HDA)、トリオクチルホスフィン(TOP)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、ジベンジルスルフィド(DBS)、及びオクタノールから成る群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノ粒子は半導体ナノ粒子である、請求項1乃至10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記ナノ粒子はコア、コア−シェル又はコア−マルチシェルのナノ粒子である、請求項1乃至11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子は、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、InP、InAs、InSb、AlP、AlS、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、PbS、PbSe、Si、Ge、MgS、MgSe、MgTe及びそれらの組合せから成る群の中の1または複数の半導体材料を含む、請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れかに記載の方法を用いて生成される表面官能化ナノ粒子であって、ナノ粒子表面結合配位子に結合しており、
前記ナノ粒子表面結合配位子は、ナノ粒子結合基及びシリコーンポリマー結合基を含有し、
前記ナノ粒子結合基は、チオール基、酸基、エステル基、チオール基の塩又は酸基の塩を含有する、表面官能化ナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面官能化ナノ粒子の製造方法に関し、限定するものではないが、特に、溶媒、インク、ポリマー、ガラス、金属、電子材料およびデバイス、生体分子および細胞に組み込むなどの用途において、ドット使用の容易性を高めることができる表面結合官能基を含む半導体の量子ドットナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ナノ粒子の大きさが物質の電子特性に影響を及ぼし、バンドギャップエネルギーは、量子閉じ込め効果の結果として半導体ナノ粒子の大きさに反比例する。さらに、ナノ粒子の表面積対体積比(surface area to volume ratio)が大きい場合、ナノ粒子の物理化学特性に対して大きな影響を与える。
【0003】
半導体ナノ粒子に固有の特性に関与する2つの基本的ファクターがあり、両方とも、個々の半導体ナノ粒子のサイズに関するものである。第1のファクターは、表面積対体積率の大きさである。粒子が小さくなると、内部原子の数に対する表面原子の数の比は増加する。これにより、物質の総合特性に対して重要な役割を果たす表面特性が得られる。第2のファクターは、半導体ナノ粒子を含む多くの材料に関するもので、サイズと共に材料の電子特性が変化し、さらに量子閉じ込め効果によって、粒子の大きさが小さくなるにつれてバンドギャップが徐々により大きくなる。この効果は、「箱の中に電子(electron in box)」を閉じ込めた結果であり、対応するバルク半導体物質で観察される連続的なバンドよりむしろ、原子および分子で観察されるものと同じような離散的エネルギー準位を生じさせる。このようにして、半導体ナノ粒子に関しては、物理パラメータのために、エネルギーが第1の励起子遷移より大きい電磁放射、光子の吸収によって生じる「電子と正孔(electron and hole)」は、マクロ結晶材料中にあると考えられるものより接近しており、さらにクーロン力の相互作用は無視することができない。これにより、ナノ粒子材料の粒径および組成に依存する狭帯域放射が発生する。このため、量子ドットでは、対応するマクロ結晶材料よりも運動エネルギーが高く、その結果、第1の励起子遷移(バンドギャップ)はエネルギーが増大し、粒子径が減少する。
【0004】
コア型半導体ナノ粒子が、外側の有機不動態化層とともに単一の半導体物質から成り、欠陥箇所で発生する電子正孔再結合や、非放射型の電子正孔再結合が生じうるナノ粒子表面に位置するダングリングボンドによって、量子効率が比較的低くなる傾向がある。
【0005】
量子ドットの無機表面の欠陥およびダングリングボンドを除去する一方法では、コア粒子の表面のエピタキシャルに形成されたコア材よりバンドギャップが大きく、格子不整合が小さい第2の無機物質を成長させて「コア−シェル」粒子を生成する。コア−シェル粒子がほかに非発光再結合中心として作用する表面状態からコアに閉じ込められたあらゆる担体を分離する。一例として、CdSeコアの表面で成長するZnSがある。
【0006】
別の方法では、「電子−正孔(electron-hole)」対が、量子ドット量子井戸構造などの特定の物質のいくつかの単分子層から成る単一のシェル層に完全に閉じ込められるコア−マルチシェル構造を形成する。ここで、コアは、バンドギャップが大きい物質、次にシェルが薄く、バンドギャップが小さい物質、さらにバンドギャップが大きい層でキャッピングしたものであり、コアナノ結晶の表面のCdをHgで置換し、単分子層のCdSによって成長するいくつかの単分子層のHgSを付着させて成長させるCdS/HgS/CdSなどがある。得られた構造は、HgS層に光励起担体が閉じ込められていることを示した。
【0007】
量子ドットに安定性をさらに加え、電子正孔対を閉じ込めるために、最もよくみられる方法のひとつが、コアで傾斜組成合金層をエピタキシ成長させることによるものであり、これにより、ほかに欠陥を生じさせると考えられる歪みを軽減させることができる。さらに、CdSeコアに関して、構造安定性と量子収量を改善するためには、ZnSのシェルを直接コア上で成長させるよりむしろ、Cd
1-xZn
xSe
1-yS
yの傾斜合金層を使用することができる。これにより、量子ドットのフォトルミネッセンス放射を大いに増大させることがわかっている。
【0008】
また、量子ドットに原子不純物とドーピングすることは、ナノ粒子の放射特性および吸収特性を操作する効果的な方法である。マンガンおよび銅をセレン化亜鉛および硫化亜鉛(ZnSe:MnまたはZnS:Cu)などのバンドギャップが大きい材料にドーピングする方法が開発されている。さまざまなルミネッセンス活性剤を半導体ナノ結晶にドーピングすると、バルク物質のバンドギャップよりさらに低いエネルギーで、フォトルミネッセンスおよびエレクトロルミネセンスを調整することができるが、量子サイズ効果は、活性剤による放射のエネルギーを大きく変化させずに、ナノ結晶の大きさによって励起エネルギーを調整することができる。
【0009】
コア型、コア−シェル型またはコア−マルチシェル型でドーピングまたはグレード付けされた(graded)どのナノ粒子においても、最終の無機表面原子の配位は不完全であり、粒子表面は、反応性が高く、原子が十分に配位されていない「ダングリングボンド(dangling bonds)」であるから、粒子凝集(particle agglomeration)を引き起こしうる。この問題は、「剥き出し(bare)」の表面原子を保護的有機基で不動態化させ(「キャッピング」とも呼ばれる)ることによって解消される。
【0010】
有機材料またはシース材(「キャッピング剤(capping agent)」と呼ばれる)の最外層が、粒子凝集を阻害し、その周囲の電子環境および化学環境からナノ粒子を保護する。
図1に、そのようなナノ粒子に関する略図を示す。多くの場合、キャッピング剤は、ナノ粒子が生成される溶媒であり、ルイス塩基化合物または炭化水素などの不活性溶媒で希釈されたルイス塩基化合物を含む。ルイス塩基のキャッピング剤の孤立電子対には、ナノ粒子の表面に対する供与型配位能がある。好適なルイス塩基化合物には単座配位子または多座配位子が挙げられ、例えば、ホスフィン(トリオクチルホスフィン、トリフェノールホスフィン、t−ブチルホスフィン)、ホスフィンオキシド(トリオクチルホスフィンオキシド)、アルキルホスホン酸、アルキルアミン(ヘキサデシルアミン、オクチルアミン)、アリールアミン、ピリジン、長鎖脂肪酸およびチオフェン誘導体などが挙げられるが、このような物質に限らない。
【0011】
量子ドットナノ粒子の広範囲にわたる開発は、物理的/化学的な不安定性、及び多くの用途に対する不適合性の点から制限されてきた。特に、ナノ粒子をシリコーンポリマーに組み込むことを許容し得る方法が見つけられないために、電子機器におけるナノ粒子の使用は大幅に制限されてきた。その結果、量子ドットをより安定なものとし、所望の用途に適合させるようにするために、一連の表面修飾法が用いられている。この試みは主に、キャッピング剤を二官能性または多官能性にするか、又はさらなる化学結合に使用されることができる官能基を有する追加の有機層でキャッピング層を被覆することによって行われている。
【0012】
最も広く用いられる量子ドット表面修飾法は、「配位子交換(ligand exchange)」として知られている。配位子分子は、コアの合成及びシェリング工程中に、量子ドットの表面に誤って配位するので、続いて、所望の特性または官能基をもたらす配位子化合物と交換される。それゆえ、この配位子交換法は、量子ドットの量子収量をかなり減少させることになる。
図2に、この過程を概略的に示す。
【0013】
別の表面修飾法では、離散分子またはポリマーとシェル化法を実施時に量子ドットの表面に対してすでに配位される配位子分子を相互キレート化する。このような合成後の相互キレート化法によって、量子収量を保持することが多いが、量子ドットの大きさがかなり大きくなる。
図3に、この過程を概略的に示す。
【0014】
現在の配位子交換法および相互キレート化法では、量子ドットナノ粒子をその所望の用途にさらなる適合性にすることが可能であるが、通常、量子ドットの無機表面に損傷を与えることから、量子収量が減少し、および/または、最終ナノ粒子の大きさが増大する。更に、シリコーンポリマーへの組込みに適した表面官能化ナノ粒子を生成するための、経済的に実行可能な方法は未だ実現されていない。
【0015】
本発明の目的は、上記の1または複数の問題を取り除くか、改善することである。
【発明の概要】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、シリコーンポリマー材料に組み込む(incorporation)ための表面官能化ナノ粒子を生成する方法であって、成長するナノ粒子(growing nanoparticles)を、ナノ粒子結合基及びシリコーンポリマー結合基を含有するナノ粒子表面結合配位子に反応させることを含み、前記反応は、前記表面結合配位子を成長するナノ粒子に結合させる条件下で実施して、前記表面官能化ナノ粒子を生成する方法、を提供する。
【0017】
本発明は、シリコーンポリマーへの結合に適した官能化層をナノ粒子の外側表面に設ける方法を提供する。従来、このことは一見困難であるとされていたが、驚くべきことに、表面結合配位子のナノ粒子表面への結合能力又は他の官能化基のシリコーンポリマーへの結合能力を損なうことなく、シリコーンポリマー結合基を含有する予め官能化された(pre-functionalised)ナノ粒子表面結合配位子にナノ粒子を結合させることが実際に可能であることを見出した。
【0018】
このように、本発明は、予め化学的に官能化された選択された配位子を量子ドットナノ粒子の表面にその場で意図的に配位することにより、物理的/化学的に堅固(robust)で、量子収量が高く粒径が小さい量子ドットナノ粒子を生成できる方法を提供するものである。重要なことは、前記量子ドットナノ粒子がシリコーンポリマーに組み込まれ得る状態であるため、このような量子ドットをLEDなどの電子機器に用いることが容易になることである。
【0019】
この方法は、好ましくは、表面結合配位子を成長するナノ粒子に結合させる条件下で、成長するナノ粒子をナノ粒子表面結合配位子の中で合成することを含み、前記表面官能化ナノ粒子が生成される。
【0020】
本発明は、シリコーンポリマー材料に組み込むための表面官能化ナノ粒子を生成する方法を提供するものであって、該方法は、合成中、表面結合配位子を成長するナノ粒子に結合させることが可能な条件下で、ナノ粒子結合基及びシリコーンポリマー結合基を含有するナノ粒子表面結合配位子にナノ粒子を合成することを含み、表面官能化ナノ粒子が生成される。
【0021】
本発明は、ナノ粒子の表面を不動態化させることができるナノ粒子結合基と、ナノ粒子に関する架橋結合やポリマー材料中への組込みなどのさらなる化学結合能力を有する追加の配位子とを有するキャッピング剤中でのナノ粒子の合成を容易にする。
【0022】
成長するナノ粒子は、例えば、予め成形されたナノ粒子コアであ
って、以下に記載する実験例のように、
前記ナノ粒子コアの上で、1又は複数のシェル層が、ナノ粒子粒子表面結合配位子の存在下
にて成長が起こるナノ粒子コア
であってよい。或いは、成長するナノ粒子は、コア前駆体材料
が適当
に結合されることによって生成され
、成長
が起こるナノ粒
子でもよい。
【0023】
<ナノ粒子>
本発明の第1の態様を形成する方法の第1の好適な実施形態では、ナノ粒子は第1イオン及び第2イオンを含む。第1イオンおよび第2イオンは、限定するものでないが、周期表の第11、12、13、14、15または16族などのあらゆる望ましい族から選択されることができる。第1イオンおよび/または第2イオンは、遷移金属イオンまたはd−ブロック金属イオンでもよい。好ましくは、第1イオンは、周期表の第11、12、13または14族から選択され、第2イオンは、第14、15または16族から選択される。本発明の第1の態様に基づいて生成された表面官能化ナノ粒子は、好ましくは半導体ナノ粒子(例えば、コアナノ粒子、コア−シェルナノ粒子、グレード付けされたナノ粒子、又はコア−マルチシェルナノ粒子などの所望の表面官能化を含有するナノ粒子である。)である。
【0024】
<本発明の方法に使用される好適な溶媒>
成長するナノ粒子と配位子との間の反応は、あらゆる適切な溶媒の中で実施されることができる。反応は、前記ナノ粒子表面結合配位子とは異なる溶媒の中で実施されるのが好ましいが、必ずしもそうである必要はないことは理解されるべきであり、また別の実施形態では、表面結合配位子は、反応が実施される溶媒または溶媒の1つでもよいことは理解されるであろう。溶媒は、例えば、配位溶媒(即ち、成長するナノ粒子を配位する溶媒)または非配位溶媒(即ち、成長するナノ粒子を配位しない溶媒)である。好ましくは、溶媒はルイス塩基化合物であり、HDA、TOP、TOPO、DBS、オクタノールなどから成る群から選択されることができる。
【0025】
<ナノ粒子表面結合配位子>
表面結合配位子のナノ粒子結合基は、好ましくはシリコーン結合基とは異なる。シリコーン結合基は、選択的に除去可能となるように選択される保護基を含むことができるし、含まなくてもよい。
【0026】
表面結合配位子のシリコーン結合基の性質は、シリコーンポリマーへの結合能力を保持し得ることを条件として、最終の表面官能化ナノ粒子にあらゆる望ましい化学特性または物理特性をもたらすように選択されることができる。例えば、シリコーン結合基を含む配位子を選択することができる。該シリコーン結合基は、結合ナノ粒子をシリコーンポリマー内に取り入れることができるほか、表面官能化ナノ粒子に対して特定の試薬(reagent)に対する所定の反応性をもたらすことができる。また、表面官能化ナノ粒子に対して水相溶性(即ち、水媒体の中へ安定して分散または溶解される能力)を付与し、また、相溶性の架橋結合基を取り入れることができるシリコーンポリマーと架橋結合する能力を付与することができる、シリコーン結合基を取り入れる配位子を選択することができる。
【0027】
表面結合配位子は、ナノ粒子に結合するあらゆる適当なナノ粒子結合基を含むことができる。好ましくは、ナノ粒子結合基は硫黄、窒素、酸素およびリンから成る群から選択される原子を含む。ナノ粒子結合基は、チオ基、アミノ基、オキソ基およびリン基から成る群から選択される種を含むことができる。ナノ粒子結合基は、ヒドロキシド、アルコキシド、カルボン酸、カルボン酸エステル、アミン、ニトロ、ポリエチレングリコール、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸およびリン酸エステルから成る群から選択されることができる。また、ナノ粒子結合基は、荷電基または極性基であってよく、ヒドロキシド塩、アルコキシド塩、カルボン酸塩、アンモニウム塩、スルホン酸塩またはリン酸塩などが挙げられるが、これに限定されない。
【0028】
表面結合配位子のナノ粒子結合基とシリコーンポリマー結合基は、好ましくはリンカーを介して結合され、あらゆる望ましい形態をとることができる。前記リンカーは、共有結合;炭素、窒素、酸素もしくは硫黄原子;置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の脂肪族基または脂環基;及び置換もしくは無置換の芳香族基、から成る群から選択されることが特に好ましい。
【0029】
本発明は、シリコーンポリマーに組み込まれることができ、物理的/化学的に堅固で、量子収量が高く、粒径が小さく、その意図される用途に適合する表面官能化ナノ粒子を生成する方法を提供するものである。本発明に従って生成されるナノ粒子は、次の式1によって表すことができる。
【化1】
【0030】
但し、式中、QDはコアナノ粒子またはコア(マルチ)シェルナノ粒子を表し、X−Y−Zはナノ粒子表面結合配位子を表し、Xはナノ粒子表面結合基であり、YはXとZを結合するリンカー基であり、Zはシリコーンポリマーに結合することができる官能基である。
【0031】
Xおよび/またはZは、置換もしくは無置換のアルキル、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換の複素環、置換もしくは無置換のポリエチレングリコールであってよい。(置換基の例として、ハロゲン、エーテル、アミン、アミド、エステル、ニトリル、イソニトリル、アルデヒド、カルボナート、ケトン、アルコール、カルボン酸、アジド、イミン、エナミン、無水物、酸塩化物、アルキン、チオール、スルフィド、スルホン、スルフォキシド、ホスフィン、ホスフィンオキシドが挙げられるがこれらに限定されない)
【0032】
Xおよび/またはZは、例えばヒドロキシド塩、アルコキシド塩、カルボン酸塩、アンモニウム塩、スルホン酸塩またはリン酸塩などの荷電基または極性基である。
【0033】
Xおよび/またはZは、−SR
1(R
1=H、アルキル、アリール)と、−OR
2(R
2−H、アルキル、アリール)と、−NR
3R
4(R
3および/またはR
4=H、アルキル、アリール)と、−CO
2R
5(R
5=H、アルキル、アリール)と、−P(=O)OR
6OR
7(R
6および/またはR
7=H、アルキル、アリール)と、−OR
8(式中、R
8は置換もしくは無置換および/または飽和もしくは不飽和でありうる水素またはアルキル基である)と、−C(O)OR
9(式中、R
9は水素であり、置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の脂肪族基もしくは脂環基または置換もしくは無置換の芳香族基である)と、−NR
10R
11(式中、R
10およびR
11は、独立して水素、置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の脂肪族基もしくは脂環基または置換もしくは無置換の芳香族基であるか、R
10およびR
11は結合され、−NR
10R
11があらゆる望ましい大きさ、たとえば5、6または7員環の含窒素複素環も生成してもよい)と、−N
+R
12R
13R
14(式中、R
12、R
13およびR
14は、独立して水素であり、置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の脂肪族基もしくは脂環基または置換もしくは無置換の芳香族基である)と、−NO
2と、−(OCH
2CH
2)n−OR
15(式中、R15は水素であり、置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の脂肪族基もしくは脂環基または置換もしくは無置換の芳香族基である)と、−S(O)
2OR
16(式中、R
16は水素であり、置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の脂肪族基もしくは脂環基または置換もしくは無置換の芳香族基である)と、−P(OR
17)(OR
18)O(式中、R
17およびR
18は、独立して水素であり、置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の脂肪族基もしくは脂環基または置換もしくは無置換の芳香族基である)とから成る群から選択されてもよい。
【0034】
Zは、あらゆる適切な保護基も含むことができる。一例として、Zは、t−ブチル、ベンジル、トリチル、シリル、ベンゾイル、フルオレニル、アセタール、エステルまたはエーテル、たとえばメトキシメチルエーテル、2−メトキシ(エトキシ)メチルエーテルなどの酸不安定保護基を含むことができる。また、Zは求核基の不安定保護基を含むことができ、カルボン酸、アルコール、チオールなどを保護するカルボン酸エステル、スルホニウム塩、アミド、イミド、カルバメート、N−スルホンアミド、トリクロロエトキシメチルエーテル、トリクロロエチルエステル、トリクロロエトキシカルボニル、アリリックエーテル/アミン/アセタール/カルボナート/エステル/カルバメートが挙げられる。さらに、Zはベンジルアミン保護基を含むことができ、脱保護してアミン基を備えることができる。あるいは、Zは、さらに反応させるために、Zを脱保護してジオールを与えるのが最終的に望ましい場合に環状カルボナートを含むこともできる。
【0035】
Yは、単結合、アルキル、アリール、複素環、ポリエチレングリコール、置換もしくは無置換アルキル、置換もしくは無置換アリール、置換もしくは無置換複素環、置換もしくは無置換ポリエチレングリコール(置換基の例として、ハロゲン、エーテル、アミン、アミド、エステル、ニトリル、イソニトリル、アルデヒド、カルボナート、ケトン、アルコール、カルボン酸、アジド、イミン、エナミン、無水物、酸塩化物、アルキン、チオール、スルフィド、スルホン、スルフォキシド、ホスフィン、ホスフィンオキシドが挙げられる)、架橋/重合基(例として、カルボン酸、アミン、ビニル、アルコキシシラン、エポキシドが挙げられる)、または以下の式2によって表される基であってよい。
【化2】
【0036】
上記式中、k、mおよびnは、それぞれ独立して0〜約10,000のあらゆる数である。Xおよび/またはZは、同じでも異なるものでもよい。Xは、ナノ粒子結合基について先に特定したいずれの群であってもよく、例えば、カルボン酸基などの酸基もしくはエステル基またはカルボン酸エステルもしくはカルボン酸塩などのその誘導体または塩であってよい。別の実施形態では、Xはスルホン酸基、スルホン酸エステルもしくはスルホン酸塩、リン酸基、リン酸エステルもしくはリン酸塩またはアミノ基であってよい。Zは、好ましくは、1または複数のアルキル基を含み、それぞれが少なくとも1個の不飽和基を含んでシリコーンポリマーと結合する。その、または各々の、炭素−炭素の二重結合または三重結合は、末端不飽和基であってよく(即ち、炭素鎖の末端で原子を含む)、炭素鎖内に備えられてもよい。Zが1または複数のアルキル基を含む場合、その、または各々のアルキル鎖はあらゆる望ましい置換基を担持してもよい。結合基Yは、XとZを結合し、あらゆる好都合な形態を取ってもよい。たとえば、Yは、1または複数の脂肪族基および/または芳香族基を含んでもよい。脂肪族基は、直鎖炭素鎖、分岐炭素鎖を含んでもよく、脂環基であってよい。Yは、1または複数のエーテル基をさらに含んでもよい。特に好適な実施形態では、Yは、少なくとも1個、より好ましくは2または3個の不飽和アルキル基に、任意にエーテル結合によって結合するフェニル基を含む。特に好適なナノ粒子表面結合配位子(配位子1)には、以下に示す構造があり、3個のビニル基によって、他の配位子および/または周囲の種(たとえば、相溶性ポリマーまたは重合性モノマー)に架橋することができる。
【化3】
【0037】
本発明による方法に用いることができるさらに好ましい式1の架橋配位子を以下に示し、この架橋配位子は、上に記載されているような、あらゆる望ましい構造のナノ粒子結合配位子Xに結合される、脂肪族または芳香族のリンカーYに結合される、1または複数のビニル基を含有する官能基Zを含む。好適な配位子は、1個のビニル基、より好ましくは2個のビニル基、最も好ましくは3個以上のビニル基を含む。Zが2個以上のビニル基を含む場合は、ビニル基は同じ炭素原子または異なる炭素原子にそれぞれのアルキル基を介して結合されることができる(たとえば、同じ炭素環または複素環で異なる炭素原子は、それ自体が飽和してもよく、部分的に飽和してもよく、あるいは芳香族基であってよい)。上述のように、ナノ粒子結合基Xは単座配位または多座配位であってよい。一例として、Xは配位子1のように1個のカルボン酸基を含んでもよく、或いはXは、2、3あるいは4個以上のカルボン酸基を含んでもよい。2個以上カルボン酸基が存在する場合、各々の基はアルキル基を介して同じまたは異なる炭素原子に結合してもよい。
【0038】
例示的な単座配位の脂肪族配位子には、次の式のものがあり、式中、Xはカルボン酸基であり、Zは1、2または3個のビニル基を含み、Yは直鎖脂肪族基または分鎖脂肪族基であり、各々のxはあらゆる整数(たとえば0、1、2、3など)である。
【化4】
【0039】
例示的な単座配位の芳香族配位子には、次の式のものがあり、式中、Xはカルボン酸基であり、Zは1、2または3個のビニル基を含み、Yは芳香族基を含み、各々のxはあらゆる整数(たとえば0、1、2、3など)である。
【化5】
【0040】
例示的な二座配位の脂肪族配位子には、次の式のものがあり、式中、Xは2個のカルボン酸基を含み、Zは1、2または3個のビニル基を含み、Yは直鎖脂肪族基または分鎖脂肪族基であり、各々のxはあらゆる整数(たとえば0、1、2、3など)である。
【化6】
【0041】
例示的な三座配位の脂肪族配位子には、次の式のものがあり、式中、Xは3個のカルボン酸基を含み、Zは1、2または3個のビニル基を含み、Yは直鎖脂肪族基または分鎖脂肪族基であり、各々のxはあらゆる整数(たとえば0、1、2、3など)である。
【化7】
【0042】
上記の例示的な構造のいずれかの1または複数のカルボン酸基が、カルボン酸塩もしくはカルボン酸エステル、スルホン酸、スルホン酸エステルもしくはスルホン酸塩、リン酸、リン酸エステルもしくはリン酸塩またはアミノ基など、ただしこれに限らない別のナノ粒子結合基に置換されてもよいことが理解されるであろう。更に、結合基Yは上に示す特定の不飽和脂肪族または不飽和芳香族基以外の基を含んでもよい。例えば、Yは1または複数のエーテル基、炭素−炭素二重結合および/または多環式芳香族基もしくは多環式非芳香族基を含んでもよい。
【0043】
好適な実施形態では、本発明の第1の態様による方法が提供され、ナノ粒子表面結合配位子は、ビニル基形式である末端不飽和基を含む。換言すれば、ナノ粒子表面結合配位子は、ナノ粒子表面から最も遠い位置にある配位子の末端で炭素−炭素二重結合を含む。
【0044】
Xは、少なくとも1個のカルボン酸基または少なくとも1個のチオール基を含んでよい。Yは、直鎖脂肪族基もしくは分鎖脂肪族基または芳香族基を含んでよい。
【0045】
本発明の第1の態様に関して、ナノ粒子表面結合配位子はポリ(オキシエチレングリコール)nモノメチルエーテル酢酸であってよく、式中nは約1〜約5000である。好ましくは、nは約50〜3000、より好ましくは約250〜2000、そして最も好ましくは約350〜1000である。また、ナノ粒子表面結合配位子は、10−ウンデシレン酸と11−メルカプトウンデセンとから成る群から選択されてもよい。さらに好適な変形例として、ナノ粒子表面結合配位子は、上に示す配位子1である。
【0046】
<表面官能化ナノ粒子>
本発明の第2の態様では、本発明の第1の態様による方法を用いて生成した表面官能化ナノ粒子を提供し、前記表面官能化ナノ粒子は、ナノ粒子表面結合配位子に結合されるナノ粒子を含み、前記配位子は、ナノ粒子結合基およびシリコーンポリマー結合基を含む。
【0047】
本発明の第1の態様に従って生成されるナノ粒子は、好ましくは、半導体ナノ粒子、たとえば、コアナノ粒子、コア−シェルナノ粒子、グレード付けされたナノ粒子またはコア−マルチシェルナノ粒子である。前記ナノ粒子は、好ましくは、周期表の第11、12、13、14、15または16族など、ただしこれに限らない周期表のあらゆる適切な族から選択される1または複数のイオン、遷移金属イオンおよび/またはd-ブロック金属イオンを含む。ナノ粒子コアおよび/またはシェル(適切な場合)は、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、InP、InAs、InSb、AlP、AlS、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、PbS、PbSe、Si、Ge、MgS、MgSe、MgTeとそれらの組合せから成る群から選択される1または複数の半導体材料を含んでもよい。
【0048】
本発明は、予め化学官能化された選択配位子を量子ドットナノ粒子の表面にその場で意図的に配位し、また物理的/化学的に堅固で、量子収量が高く粒径が小さい量子ドットナノ粒子を生成する方策を記載するものであるが、前記量子ドットナノ粒子はシリコーンポリマーに組込み可能なため、後にLEDなどの電子機器の製造に用いられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明を、限定するものでない以下の実施例および図面を参照して説明する。
【0050】
【
図1】
図1は、相互キレート化された表面配位子を含む従来技術のコア−シェル型量子ドットナノ粒子を示す概略図である。
【
図2】
図2は、従来技術の配位子交換プロセスを示す概略図である。
【
図3】
図3は、従来技術の配位子交互キレート化プロセスを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
<実施例>
最初に、InPコアナノ粒子量子ドットを、分子クラスタ化合物を使用して調製し、出願人に係る同時係属中の欧州特許出願第1743054(A)号に記載の発明に従って、ナノ粒子の成長をシードした。
【0052】
その後、配位子1をキャッピング剤として用いて、InPコアにZnSのシェルを付着させた。
【化8】
【0053】
配位子1を、以下に示す反応スキームに従って生成した。
【化9】
【0054】
InP/ZnSコア−シェルナノ粒子を生成するために、火炎乾燥した三口フラスコ(100ml)に、サイドアーム付きコンデンサ、温度計、Suba−Sealおよび撹拌バーを配備し、このフラスコの中に、まず、リン化インジウムコアナノ粒子(セバシン酸ジブチル4.4ml中に0.155g)を装入し、100℃で1時間脱ガスした。フラスコを室温まで冷却した後、窒素を再充填した。次に、酢酸亜鉛(0.7483g)および配位子1(0.5243g)を加えて、混合物を55℃で1時間脱ガスし、窒素を再充填した。反応温度を190℃まで上げ、tert−ノニルメルカプタン(0.29ml)を滴加し、温度を190℃まで上げ、1時間30分保持した。温度を180℃に下げ、1−オクタノール(0.39ml)を加えて、温度を30分間維持した。反応混合物を室温まで冷却した。
【0055】
InP/ZnSコア−シェルナノ粒子を、N
2下で、遠心分離法により酢酸エチルの中で単離した。粒子をアセトニトリルで沈殿させ、次に遠心分離を実施した。粒子をクロロホルムに分散させ、アセトニトリルで再沈殿させ、次に遠心分離を実施した。クロロホルムおよびアセトニトリルを使用するこの分散沈殿法を、計4回繰り返した。InP/ZnSコア−シェル粒子は、最終的に、クロロホルムの中で分散させた。
【0056】
キャッピング剤として配位子1でコーティングして得られたコア−マルチシェルナノ粒子は、以下の例示的な反応スキームに示すように、隣接した末端ビニル基に架橋結合する標準的な条件下で、ホベイダ−グラブス触媒で処理されることができる。
【化10】
【0057】
配位子1の末端ビニル基は、或いは、以下に示すように、ナノ粒子に配位する前に架橋結合されることもできる。
【化11】
【0058】
表面結合配位子を架橋結合させる前又は後において、以下に示す反応スキームにて説明する方法を用いることによって、表面官能化ナノ粒子をシリコーン・ベースの材料に組み込むことができる(x及びyは、各々のシリコーン含有種の反復単位の数を表す)。
【化12】