(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1閾値は、前記ピーク値が所定値よりも大きい場合には、前記ピーク値が前記所定値以下の場合よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ制御装置。
アクセル開度に対応して推定された無負荷時のエンジン回転数と実際のエンジン回転数との偏差に基づき、当該偏差が所定の解除基準値を超えた場合に、ブレーキ力保持手段により保持されたブレーキ力の解除を判定する第2の解除判定手段と、
路面の傾斜角を取得する傾斜角取得手段と、をさらに備え、
前記解除実行手段は、前記傾斜角取得手段が取得した傾斜角に基づき、上り坂の場合には、前記第1の解除判定手段と前記第2の解除判定手段との両方で解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除し、平坦路または下り坂の場合には前記第1の解除判定手段により解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クラッチの接続位置は、クラッチが新品のときと摩耗した後とで異なるため、センサが検出したストロークが所定ストローク以下になったときにブレーキ力の保持を解除する場合には、閾値となる所定ストロークをクラッチの摩耗状態に応じて変化させる必要がある。
【0006】
そこで、本発明では、クラッチの摩耗状態に応じて設定を変更することなく、AVH制御におけるブレーキ力の保持の解除を行うことができる車両用ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明は、車両のクラッチストロークを取得する
クラッチストローク取得手段と、停止した車両の車輪ブレーキに付与されたブレーキ力を保持するブレーキ力保持手段と、
シフトポジションを取得するシフトポジション取得手段と、前記ブレーキ力保持手段により保持されたブレーキ力の解除を前記クラッチストローク取得手段が取得したクラッチストロークに基づいて判定する第1の解除判定手段と、第1の解除判定手段がブレーキ力の保持の解除を判定したことを条件として、前記ブレーキ力保持手段により保持されたブレーキ力の解除を実行する解除実行手段と、を備えた車両用ブレーキ制御装置であって、前記第1の解除判定手段は、
前記シフトポジションが非ニュートラルであるときにクラッチストロークのピーク値を保持するピーク値保持手段と、前記ピーク値からのクラッチの戻し量を算出する戻し量算出手段とを有し、前記戻し量
が第1閾値を超えたことを条件としてブレーキ力の保持の解除を判定することを特徴とする。
【0008】
このような構成によると、第1の解除判定手段は、ピーク値からのクラッチの戻し量
が第1閾値を超えたことを条件としてブレーキ力の保持の解除を判定する。そのため、クラッチの摩耗状態に応じて設定を変更することなく、AVH制御におけるブレーキ力の解除を行うことができる。
【0009】
前記したブレーキ制御装置において、前記第1の解除判定手段は、前記戻し量が
前記第1閾値を超えた時間が第2閾値を超えた場合にブレーキ力の保持の解除を判定することができる。
【0010】
このような構成によると、第1閾値を超える戻し量でクラッチペダルが戻され、かつ、そのようにクラッチペダルを戻した時間が第2閾値を超える程度に長くなった場合に、運転者がクラッチを繋げる操作をしたことがほぼ確実であると判定することができる。
【0011】
前記したブレーキ制御装置において、前記第1閾値は、前記ピーク値が所定値よりも大きい場合には、前記ピーク値が前記所定値以下の場合よりも大きく設定されていることが望ましい。
【0012】
運転者がクラッチペダルを略いっぱいに踏み込んだ場合、その後、運転者は、クラッチペダルをいっぱいに踏み込んだ状態を維持できずに、クラッチを繋ぐつもりがなくても多少クラッチペダルを戻してしまう傾向がある。そのため、ピーク値が所定値よりも大きい場合には、ピーク値が所定値以下の場合よりも大きく設定されていることで、クラッチペダルを略いっぱいに踏み込んだ後に少し戻した場合に、誤ってブレーキ力の保持を解除する可能性を低くすることができる。
【0013】
前記したブレーキ制御装置においては、アクセル開度に対応して推定された無負荷時のエンジン回転数と実際のエンジン回転数との偏差に基づき、当該偏差が所定の解除基準値を超えた場合に、ブレーキ力保持手段により保持されたブレーキ力の解除を判定する第2の解除判定手段と、路面の傾斜角を取得する傾斜角取得手段と、をさらに備え、前記解除実行手段は、前記傾斜角取得手段が取得した傾斜角に基づき、上り坂の場合には、前記第1の解除判定手段と前記第2の解除判定手段との両方で解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除し、平坦路または下り坂の場合には前記第1の解除判定手段により解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除することが望ましい。
【0014】
運転者は、上り坂において発進する場合は、アクセルを踏み込みながらクラッチを繋ぐのが一般的であるが、平坦路または下り坂の場合には、アクセルを踏み込むことなくクラッチを繋ぐ場合も少なくない。そこで、上り坂の場合には、前記したクラッチペダルの操作に基づいた第1の解除判定手段とアクセル開度に基づいた第2の解除判定手段の両方で解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除することで、より適切なタイミングでブレーキ力の保持を解除することができる。一方、平坦路または下り坂の場合には、第2の解除判定手段の判定結果によらず、第1の解除判定手段により解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除するので、平坦路または下り坂でアクセルを踏み込まずにクラッチを繋ぐ傾向がある運転者が運転する場合にも適切なタイミングでブレーキ力の保持を解除することができる。
【0015】
前記したブレーキ制御装置においては、シフトポジションが前進ギアにあるか後退ギアにあるかの情報を取得するシフトポジション取得手段をさらに備え、前記解除実行手段は、前記シフトポジション取得手段が取得した情報に基づき、シフトポジションが前進ギアにある場合には、水平よりも後傾側にずれた傾斜角を第3閾値とし、傾斜角が当該第3閾値よりも前傾側の場合に平坦路または下り坂と判定し、シフトポジションが後退ギアにある場合には、水平よりも前傾側にずれた傾斜角を第3閾値とし、傾斜角が当該第3閾値よりも後傾側の場合に平坦路または下り坂と判定することが望ましい。
【0016】
このような構成によると、シフトポジションが前進ギアにある場合には、水平よりも後傾側にずれた傾斜角を第3閾値とし、傾斜角が第3閾値よりも前傾側の場合に平坦路または下り坂と判定するので、傾斜角取得手段が取得した傾斜角に誤差があったとしても、平坦路において確実に平坦路と判定することができる。また、シフトポジションが後退ギアにある場合には、水平よりも前傾側にずれた傾斜角を第3閾値とし、傾斜角が第3閾値よりも後傾側の場合に平坦路または下り坂と判定するので、傾斜角取得手段が取得した傾斜角に誤差があったとしても、平坦路において確実に平坦路と判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ピーク値からのクラッチの戻し量に基づいてブレーキ力の保持の解除を判定することで、クラッチの摩耗状態に応じて設定を変更することなく、AVH制御におけるブレーキ力の解除を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の一実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ制御装置Aは、車両CRの各車輪Wに付与するブレーキ力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部100とを主に備えている。
【0020】
車両CRは、車輪Wの回転速度を検出する車輪速センサ91と、クラッチペダルCPのストロークを検出するクラッチストロークセンサ95と、アクセルペダルAPの操作量、すなわちアクセル開度を検出するアクセルペダルセンサ96と、シフトポジションセンサ97と、前後方向の加速度を検出する加速度センサ98と、エンジン回転数センサ99とを備えており、これらの各センサの信号は制御部100に出力されている。
【0021】
制御部100は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、各センサからの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0022】
ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用ブレーキ制御装置Aにより発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ制御装置Aの液圧ユニット10に接続されている。
【0023】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。
【0024】
マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2はポンプボディ10aの入口ポート12Aに接続され、ポンプボディ10aの出口ポート12Bは各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート12Aから出口ポート12Bまでが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0025】
また、出力ポートM1から始まる油路は前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0026】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5a、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。さらに、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータである。また、本実施形態では、第二系統にのみマスタシリンダ圧センサの一例としての圧力センサ8が設けられている。
【0027】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0028】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2およびチェック弁1aを備えて構成されている。
【0029】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部100により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0030】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部100により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0031】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0032】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0033】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3に貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合でもブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRにブレーキ力を発生することができる。
なお、ポンプ4のブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数に依存しており、例えば、モータ9の回転数が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0034】
オリフィス5aは、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動および後述する調圧弁Rが作動することにより発生する脈動を減衰させている。
【0035】
調圧弁Rは、通常時に開いていることで、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する。また、調圧弁Rは、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、ブレーキ液の流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。そのため、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0036】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
【0037】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0038】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態または遮断する状態に切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6が閉じるとき、すなわち、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御部100により開放(開弁)される。
【0039】
圧力センサ8は、第二系統の出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出、すなわち、マスタシリンダ圧を検出するものであり、その検出結果は制御部100に入力される。
【0040】
次に、制御部100の詳細について説明する。
図3に示すように、制御部100は、圧力センサ8、車輪速センサ91、クラッチストロークセンサ95、アクセルペダルセンサ96、シフトポジションセンサ97、加速度センサ98およびエンジン回転数センサ99から入力された信号に基づいて液圧ユニット10内の制御弁手段V、切換弁6(調圧弁R)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御(AVH制御)するものである。このため、制御部100は、AVH制御手段120、弁駆動部140、モータ駆動部150および記憶部180を備えている。記憶部180は、予め設定された定数や、センサが検出した値や各機能部が算出した値が適宜記憶される。なお、詳細は説明しないが、制御部100は、公知のアンチロックブレーキ制御を行うアンチロックブレーキ制御手段や公知の横滑り抑制制御を行う横滑り抑制制御手段などを有している。
【0041】
AVH制御手段120は、クラッチストローク取得手段121、アクセル開度取得手段122、シフトポジション取得手段123、傾斜角取得手段124、ブレーキ力保持手段125、エンジン回転数取得手段126、第1の解除判定手段127、第2の解除判定手段128および解除実行手段129を有する。
【0042】
クラッチストローク取得手段121は、クラッチストロークセンサ95からクラッチストロークの信号を取得する手段である。
アクセル開度取得手段122は、アクセルペダルセンサ96からアクセル開度を取得する手段である。
シフトポジション取得手段123は、シフトポジションセンサ97からシフトポジションを取得する手段である。得られたシフトポジションの信号からは、シフトポジションが前進ギアにあるか、後退ギアにあるかの判別が可能である。
傾斜角取得手段124は、加速度センサ98からの信号と車輪速センサ91からの信号に基づいて、傾斜角を算出する手段である。ここでは、傾斜角は、
図7(a)、(b)に示すように%で算出され、前傾側が正であるものとする。
エンジン回転数取得手段126は、エンジン回転数センサ99から実際のエンジン回転数(実エンジン回転数)を取得する手段である。
これらの取得手段により取得された各パラメータは、適宜記憶部180に記憶される。
【0043】
ブレーキ力保持手段125は、停止した車両CRの車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに付与されたブレーキ力を保持する手段である。ブレーキ力保持手段125が、いかなる条件を満たした場合にブレーキ力の保持を開始するかの構成は、公知の構成を採用することができ、特に限定されない。
【0044】
第1の解除判定手段127は、ブレーキ力保持手段125により保持されたブレーキ力の解除をクラッチストローク取得手段121が取得したクラッチストロークに基づいて判定する手段である。
図4(a)に示すように第1の解除判定手段127は、ピーク値保持手段127Aと、戻し量算出手段127Bとを有する。
【0045】
ピーク値保持手段127Aは、AVH制御中でシフトポジションが非ニュートラルであるときにクラッチストロークのピーク値を保持する手段である。このピーク値の保持は、前回の処理で保持されたピーク値と、今回検出されたクラッチストロークとを比較し、今回のクラッチストロークの方が大きければ、ピーク値を今回のクラッチストロークに置き換えることで行われる。ピーク値は、AVH制御が終了した場合や、シフトポジションがニュートラルにされた場合にリセットされる。
戻し量算出手段127Bは、ピーク値からのクラッチの戻し量を算出する手段である。
【0046】
そして、第1の解除判定手段127は、戻し量算出手段127Bが算出した戻し量が第1閾値であるリリース判定閾値RLthを超えた時間が第2閾値であるタイマ閾値TMthを超えた場合にブレーキ力の保持の解除を判定するように構成されている。第1の解除判定手段127がブレーキ力の保持の解除を判定すると、第1解除判定フラグFL1がONとされ、解除を判定しないとFL1がOFFとされる。
【0047】
ここで、リリース判定閾値RLthは、
図5に示すように、クラッチストロークのピーク値が所定値P1よりも大きい場合には、所定値P1以下の場合よりも大きく設定されている。これは、運転者は、クラッチペダルCPを略いっぱいに踏み込んだ場合、その後、クラッチペダルCPをその踏み込んだ状態を維持できずに、クラッチを繋ぐつもりがなくても多少クラッチペダルを戻してしまう傾向があるからである。
【0048】
また、リリース判定閾値RLthは、クラッチストロークの全体に対して小さい値に設定されている。これは、本実施形態においてリリース判定閾値RLthは、運転者がクラッチペダルCPを「戻し始めた」ことを判定するための閾値だからである。
【0049】
第2の解除判定手段128は、
図4(b)に示すように、エンジン回転数推定手段128Aと、偏差算出手段128Bとを有する。
エンジン回転数推定手段128Aは、アクセル開度取得手段122が取得したアクセル開度に基づいて無負荷時のエンジン回転数(推定エンジン回転数)を推定する手段である。アクセル開度と無負荷時のエンジン回転数は、例えば、
図6に示すような関係を有しており、この関係を示すテーブルが予め記憶部180に記憶されている。
【0050】
偏差算出手段128Bは、エンジン回転数取得手段126が取得した実際のエンジン回転数とエンジン回転数推定手段128Aが推定した無負荷時のエンジン回転数の偏差を算出する手段である。この偏差は、エンジンに掛かっている負荷の大きさを意味しており、偏差が大きいほど、クラッチが繋がっていることを意味しているといえる。算出した偏差は、適宜記憶部180に記憶される。
【0051】
そして、第2の解除判定手段128は、偏差算出手段128Bが算出した偏差に基づき、偏差が所定の解除基準値ΔNthを超えた場合に、ブレーキ力保持手段125により保持されたブレーキ力の解除を判定するように構成されている。第2の解除判定手段128がブレーキ力の保持の解除を判定すると、第2解除判定フラグFL2がONとされ、解除を判定しないとFL2がOFFとされる。
【0052】
解除実行手段129は、第1の解除判定手段127および第2の解除判定手段128の判定結果に基づいてブレーキ力保持手段125によるブレーキ力の保持の解除を実行する手段である。具体的には、
図7(a)、(b)に示すように、解除実行手段129は、傾斜角取得手段124が取得した傾斜角に基づき、上り坂の場合には、第1の解除判定手段127と第2の解除判定手段128との両方で解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除し、平坦路または下り坂の場合には第1の解除判定手段127により解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除する。これは、運転者は、上り坂において発進する場合は、アクセルを踏み込みながらクラッチを繋ぐのが一般的であるため、第1の解除判定手段127の判定結果に加えて、アクセル開度に基づいた第2の解除判定手段128の判定結果も考慮することで、より適切なタイミングでブレーキ力の保持の解除ができるからである。一方、平坦路または下り坂の場合には、アクセルを踏み込むことなくクラッチを繋ぐような運転の仕方をする運転者もいるため、アクセル開度に基づいた第2の解除判定手段128の判定結果を考慮せず、第1の解除判定手段127により解除が判定された場合にブレーキ力の保持を解除することで、誤ったタイミングでブレーキ力の保持を解除することを抑制できるからである。
【0053】
ここで、上り坂と平坦路を区別する閾値(傾斜角判定閾値SLth)は、傾斜角が0のときとすることもできるが、
図7(a)、(b)に示すように、少し上り気味の傾斜角を閾値とすることが望ましい。すなわち、解除実行手段129は、シフトポジション取得手段123が取得した情報に基づき、シフトポジションが前進ギアにある場合には、水平よりも後傾側にずれた傾斜角を傾斜角判定閾値SLth(第3閾値)とし、傾斜角がこの傾斜角判定閾値SLthよりも前傾側の場合に平坦路または下り坂と判定し、シフトポジションが後退ギアにある場合には、水平よりも前傾側にずれた傾斜角を傾斜角判定閾値SLthとし、傾斜角が当該傾斜角判定閾値SLthよりも後傾側の場合に平坦路または下り坂と判定することが望ましい。
【0054】
このような構成によると、傾斜角取得手段124が取得した傾斜角に誤差があったとしても、平坦路において確実に平坦路と判定することができる。
【0055】
弁駆動部140は、AVH制御手段120および図示しないアンチロックブレーキ制御手段および横滑り抑制制御手段からの指示に従い、制御弁手段V、調圧弁Rおよび吸入弁7を実際に駆動する。
【0056】
モータ駆動部150は、AVH制御手段120および図示しない横滑り抑制制御手段からの指示に従いモータ9を回転駆動させる機能を有する。
【0057】
以上のように構成された車両用ブレーキ制御装置AによるAVH制御の処理を説明する。
図8に示す処理は、繰り返し行われる。
図8に示すように、AVH制御手段120は、所定のAVH作動条件を満たさない場合には(S1,No)、処理を終了し、満たした場合には(S1,Yes)、ブレーキ力を保持する(S2)。
【0058】
そして、ブレーキを保持した後、AVH制御手段120は、第1の解除判定手段127により第1の解除判定(S100)を行う。第1の解除判定の詳細は後述するが、解除が判定されると第1解除判定フラグFL1がONとされ、解除を判定しないとFL1がOFFとされる。
【0059】
次に、AVH制御手段120は、第2の解除判定手段128により第2の解除判定(S200)を行う。第2の解除判定の詳細は後述するが、解除が判定されると第2解除判定フラグFL2がONとされ、解除を判定しないとFL2がOFFとされる。
【0060】
次に、解除実行手段129により、シフトポジションが判定され、ニュートラルの場合には(S5、ニュートラル)、発進の可能性は無いので処理を終了する。一方、前進ギアの場合には(S5、前進ギア)、解除実行手段129は、傾斜角判定閾値SLthを負の値に設定し(S6)、傾斜角が傾斜角判定閾値SLthより大きい場合には(S7,Yes)平坦路または下り坂であるので、ステップS10に進み、傾斜角が傾斜角判定閾値SLth以下の場合には(S7,No)、上り坂であるのでステップS11に進む。また、解除実行手段129は、後退ギアの場合には(S5、後退ギア)、傾斜角判定閾値SLthを正の値に設定し(S8)、傾斜角が傾斜角判定閾値SLthより小さい場合には(S9,Yes)、平坦路または下り坂であるのでステップS10に進み、傾斜角が傾斜角判定閾値SLth以上の場合には(S9,No)、上り坂であるのでステップS11に進む。
【0061】
解除実行手段129は、ステップS10で、第1解除判定フラグFL1がONか否か判定し、ONの場合には(S10,Yes)、ブレーキ力の保持を解除し(S12)、処理を終了する。一方、第1解除判定フラグFL1がOFFの場合には(S10,No)、ブレーキ力の保持を解除せずに処理を終了する。
【0062】
また、解除実行手段129は、ステップS11で、第1解除判定フラグFL1がONであり、かつ、第2解除判定フラグFL2がONであるか否かを判定し、両方ともONの場合には(S11,Yes)、ブレーキ力の保持を解除し(S12)、処理を終了する。一方、第1解除判定フラグFL1と第2解除判定フラグFL2のいずれかがOFFの場合には(S11,No)、ブレーキ力の保持を解除せずに処理を終了する。
【0063】
次に、第1の解除判定処理について説明する。
図9に示すように、第1の解除判定手段127は、シフトポジションが非ニュートラル(ニュートラル以外)か否か判定し、ニュートラルの場合(S101,No)には、発進されることはないので、タイマTMをリセットして(S109)、第1解除判定フラグFL1をOFFとする(S120)。一方、シフトポジションがニュートラル以外の場合(S101,Yes)、ピーク値保持手段127Aは、クラッチストロークのピーク値を保持する(S102)。
【0064】
次に、戻し量算出手段127Bは、ピーク値と、今回のクラッチストロークの値との差を計算して戻し量を算出する(S103)。そして、第1の解除判定手段127は、戻し量が、ピーク値からリリース判定閾値RLthを決定し(S104)、戻し量がリリース判定閾値RLthよりも大きいか否かを判定する。戻し量がリリース判定閾値RLth以下の場合(S105,No)、ステップS109に進み、タイマTMをリセットし、第1解除判定フラグFL1をOFFにする(S120)。
【0065】
一方、戻し量がリリース判定閾値RLthよりも大きい場合(S105,Yes)、タイマTMをカウントアップする(S106)。そして、第1の解除判定手段127は、タイマTMがタイマ閾値TMthよりも大きいか否か判定し、タイマTMがタイマ閾値TMth以下の場合(S107,No)、第1解除判定フラグFL1をOFFにし(S120)、タイマTMがタイマ閾値TMthより大きい場合(S107,Yes)、第1解除判定フラグFL1をONにする(S110)。
【0066】
次に、第2の解除判定処理について説明する。
図10に示すように、第2の解除判定手段128は、シフトポジションが非ニュートラルか否か判定し、ニュートラルの場合(S201,No)には、発進されることはないので、第2解除判定フラグFL2をOFFとする(S220)。
【0067】
シフトポジションが非ニュートラルの場合(S201,Yes)、エンジン回転数推定手段128Aは、アクセル開度から無負荷時の推定エンジン回転数を推定する(S202)。そして、偏差算出手段128Bは、実エンジン回転数と推定エンジン回転数の偏差を算出する(S203)。
【0068】
次に、第2の解除判定手段128は、偏差が解除基準値ΔNthより大きいか否か判定し、偏差が解除基準値ΔNth以下の場合(S204,No)、第2解除判定フラグFL2をOFFにする(S220)。一方、偏差が解除基準値ΔNthより大きい場合、第2の解除判定手段128は、第2解除判定フラグFL2をONにする(S210)。
【0069】
以上のような処理によって、車両CRにおいてAVH制御を行う場合の各パラメータの変化を説明する。なお、以下においては、説明を簡単にするため、第1の解除判定処理と第2の解除判定処理を個別に説明する。
【0070】
まず、
図11を参照して、第1の解除判定処理により(例えば、下り坂の場合)、AVH制御の解除を判定する場合について説明する。
図11の例では、AVH作動条件が満たされたことでAVH作動モードがONになった後、運転者がクラッチペダルCPを踏んで(t11〜t12)、シフトレバーをニュートラルから非ニュートラル(例えば、ローポジション)に入れている(t13)。
【0071】
ここで、シフトポジションが非ニュートラルになったことで、クラッチストロークのピーク値が保持される(t13)。そして、運転者が時刻t14以降、徐々にクラッチペダルCPを戻していくと、クラッチの戻し量が徐々に大きくなり(t14〜t15)、戻し量がRLthを超えたときから、タイマTMがカウントされる(t15〜t16)。そして、タイマTMがタイマ閾値TMthを超えたときに(t16)、第1解除判定フラグFL1がONとなる。
【0072】
このようにして、第1の解除判定では、クラッチペダルCPを戻し始めてから所定の時間が経過したことで車両CRの発進を推定し、ブレーキ力の保持の解除を判定することができる。
【0073】
次に、
図12を参照して、第2の解除判定処理により(例えば、上り坂の場合)、AVH制御の解除を判定する場合について説明する。
図12では、第1の解除判定について表示していないが、時刻t23よりも早く第1解除判定フラグFL1がONになっているものとする。
【0074】
図12の例では、AVH作動条件が満たされたことでAVH作動モードがONになった後、運転者がクラッチペダルCPを踏んで(t21)、シフトレバーをニュートラルから非ニュートラル(例えば、ローポジション)に入れている(t22)。その後、運転者は、アクセルペダルAPを徐々に踏んでいき(t23〜)、クラッチペダルCPを戻していく(t24〜t26)。
【0075】
時刻t25においてクラッチが接続し始めると、実線の推定エンジン回転数に対して破線で示した実エンジン回転数が低くなり、偏差が徐々に大きくなる。そして、偏差がΔNthよりも大きくなったときに(t26)、第2解除判定フラグFL2がONとなる。
【0076】
このようにして、第2の解除判定では、アクセルペダルAPを踏んだ後のエンジン回転数の変化から車両CRの発進を推定し、ブレーキ力の保持の解除を判定することができる。
【0077】
以上のようにして、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置Aによれば、第1の解除判定手段127によるブレーキ力の解除の判定を行うことで、クラッチの摩耗状態に応じて設定を変更することなく、クラッチの接続を推定し、AVH制御におけるブレーキ力の解除を適切に行うことができる。そして、上り坂においては、このクラッチペダルCPの操作に基づく第1の解除判定だけでなく、アクセルペダルAPの操作に基づく第2の解除判定においてもブレーキ力の保持の解除が判定された場合にブレーキ力の保持の解除を行うので、より適切なタイミングでブレーキ力の保持の解除を実行することができる。一方、平坦路または下り坂においては、第2の解除判定を考慮せず、第1の解除判定のみによってブレーキ力の保持の解除を行うので、アクセルペダルAPを踏まずにクラッチを繋ぐなど、運転者による操作方法の違いに影響されずに適切なタイミングでブレーキ力の保持の解除を実行することができる。
【0078】
また、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置Aは、傾斜角判定閾値SLthを、前進の場合と後退と場合とで異なる値に設定し、平坦路において確実に平坦路と判定できるので、傾斜角取得手段124が取得した傾斜角に誤差があったとしても、平坦路において第2の解除判定に影響されにくい。
【0079】
さらに、車両用ブレーキ制御装置Aは、ピーク値が所定値P1よりも大きい場合には、ピーク値が所定値以下の場合よりも大きく設定されているので、運転者がクラッチペダルCPを略いっぱいに踏み込んだ後に少し戻した場合に、誤ってブレーキ力の保持を解除する可能性を低くすることができる。
【0080】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではない。具体的な構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0081】
前記実施形態においては、第1の解除判定手段127に加えて第2の解除判定手段128を備えていたが、第1の解除判定手段127のみによってブレーキ力の保持の解除を判定し、実行してもよい。
【0082】
前記実施形態においては、第1の解除判定手段127は、戻し量がリリース判定閾値RLthを超えた時間(タイマTM)がタイマ閾値TMthを超えた場合にブレーキ力の保持の解除を判定していたが、タイマを用いずに、戻し量がリリース判定閾値RLthを超えたときにブレーキ力の保持の解除を判定してもよい。この場合、リリース判定閾値RLthは、通常の運転者がクラッチペダルCPをクラッチ接続位置から余分に踏み込む量に近い値に設定しておくとよい。
【0083】
前記実施形態においては、ブレーキ力をブレーキ液圧によって付与する場合について説明したが、液圧を用いずに、ブレーキ力をモータにより直接機械的に駆動する構成を採用しても構わない。