(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム合金を第1の水溶性アミン系化合物水溶液に浸漬し、当該アルミニウム合金の表面を20〜80nm周期の超微細凹凸、又は直径20〜80nmの超微細凹部若しくは超微細凸部で覆い、且つその表面にアミン系化合物を吸着させるエッチング工程と、
前記エッチング工程を経たアルミニウム合金を、15〜45℃とした0.05〜1%濃度の第2の水溶性アミン系化合物水溶液に1分〜10分浸漬し、アミン系化合物の吸着量を増加させる吸着工程と、
前記吸着工程を経たアルミニウム合金を50〜70℃で乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程を経たアルミニウム合金を射出形成用の金型にインサートし、当該アルミニウム合金の表面に硬質の結晶性熱可塑性樹脂であって、前記アミン系化合物と反応し得る樹脂を主成分とする樹脂組成物を射出し、射出成形を行うと共に、当該樹脂組成物の成形品と当該アルミニウム合金を接合させる射出接合工程と、
を含むことを特徴とする金属樹脂複合体の製造方法。
表面が20〜80nm周期の超微細凹凸、又は直径20〜80nmの超微細凹部若しくは超微細凸部で覆われ、且つ表層が主として厚さ3nm以上の酸化アルミニウムの薄層であるアルミニウム合金部品と、
前記アルミニウム合金部品の表面に射出されたポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を主成分とする樹脂組成物の成形品と、からなる金属樹脂複合体であって、
前記金属樹脂複合体は、無底筒状体である前記アルミニウム合金部品の孔の一端が前記成形品によって封止されることにより構成された有底筒状体であり、その筒状体内部から筒状体外部に対して0.5MPaの差圧をかけて前記アルミニウム合金部品と前記成形品との接合部分を通じてヘリウムガスを通過させるようにしたときに、筒状体外部に漏れたヘリウムガスの1時間あたりの量に、ガスの流路長を乗じて、ガスの封止線長で除した値であるヘリウムガスの漏れ速度が概ね3×10−5ml/h以下であることを特徴とする金属樹脂複合体。
【背景技術】
【0002】
金属同士を接合する接着剤、金属と合成樹脂を強く接着する技術等は、自動車、家庭電化製品、産業機器等の部品製造業等だけでなく広い産業分野において求められ、このために多くの接着剤が開発されている。即ち、接着や接合に関する技術は、あらゆる製造業に於いて基幹の基礎技術、応用技術である。
【0003】
接着剤を使用しない接合方法に関しても従来から研究されている。その中でも製造業に大きな影響を与えたのは、本発明者らが開発した「NMT(Nano molding technologyの略)」である。NMTとは、アルミニウム合金と樹脂組成物との接合技術であり、予め射出成形金型内にインサートしていたアルミニウム合金部品に、溶融したエンジニアリング樹脂を射出して樹脂部分を成形すると同時に、その成形品とアルミニウム合金部品とを接合する方法(以下、略称して「射出接合」という。)である。特許文献1には、特定の表面処理を施したアルミニウム合金形状物に対し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT」という。)を射出接合させる技術を開示している。また、特許文献2には、特定の表面処理を施したアルミニウム合金に対し、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、「PPS」という。)を射出接合させる技術を開示している。特許文献1及び特許文献2における射出接合の原理を簡単に説明すると以下のとおりである。
【0004】
(NMT)
NMTの要件として、アルミニウム合金に2の条件、樹脂組成物に1の条件がある。アルミニウム合金の2条件を以下に示す。
(1)アルミニウム合金表面が20〜80nm周期の超微細凹凸、又は直径20〜80nmの超微細凹部又は超微細凸部で覆われていること。指標としては、RSmが20nm〜80nmである超微細凹凸で覆われていると良い。また、Rzが20〜80nmの超微細凹部又は超微細凸部で覆われていても良い。さらに、RSmが20nm〜80nmであり、且つRzが20〜80nmの超微細凹凸で覆われていても良い。RSmは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される輪郭曲線要素の平均長さであり、Rzは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される最大高さである。
このアルミニウム合金の表層は酸化アルミニウムの薄層であり、その厚さは3nm以上である。
(2)アルミニウム合金表面に、アンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン化合物が化学吸着していること。
一方、樹脂組成物の条件は以下の通りである。
(3)硬質の結晶性熱可塑性樹脂であって、150〜200℃でアンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン類等の広義のアミン系化合物と反応し得る樹脂を主成分とすること。具体的には、PBT、PPS、又はポリアミド樹脂等が主成分として含まれている樹脂組成物であること。
【0005】
ここで、樹脂組成物がPBT又はPPSを主成分とし(即ち(3)の条件を満たし)、且つ10〜40質量%のガラス繊維を含むものであった場合、(1)及び(2)の条件を満たすアルミニウム合金と従来になく強固な接合力を示した。アルミニウム合金及び樹脂組成物がいずれも板状物であって、両者を一定面積(0.5cm
2)で接合したときに、せん断破断力で20〜25MPaを示した。
【0006】
NMTにおいて、強い接合力を得るためには樹脂組成物側に更に1の条件が加わる。
(4)主成分高分子と異なる高分子が含まれており、異高分子の大部分が主成分の結晶性熱可塑性樹脂と分子レベルで混ざっていること。
この条件(4)を追加した目的は、溶融状態の樹脂組成物が急冷された時に、結晶化する速度を低下させることにある。分子レベルで異高分子が混ざっていれば、溶融状態から結晶化に向かう際に異高分子の存在が邪魔になって整列し難くなり、結果的に急冷時の結晶化速度を抑制するとの考えに基づく。これにより、樹脂組成物が硬化する前に超微細凹凸に十分侵入し、接合力の向上に寄与すると予測した。この予測は結果として正しかった。
【0007】
樹脂組成物がPBT又はPPSを主成分とし(即ち(3)の条件を満たし)、且つ(4)の条件を満たし(異種の高分子をコンパウンドし)、さらに10〜40質量%のガラス繊維を含むものであった場合、(1)及び(2)の条件を満たすアルミニウム合金と極めて強固な接合力を示した。アルミニウム合金及び樹脂組成物がいずれも板状物であって、両者を一定面積(約0.5〜0.8cm
2)で接合したときに、せん断破断力で25〜30MPaを示した。異種のポリアミド樹脂同士をコンパウンドした樹脂組成物を使用した場合、20〜30MPaのせん断破断力を示した。
【0008】
(新NMT)
また、本発明者らは、特許文献3、4、5、6、及び7に示すように、アルミニウム合金以外の金属合金についても、その金属合金とPBTやPPS等の熱可塑性樹脂を射出接合によって強固に接合することができる条件を発見し、この条件に基づく射出接合のメカニズムを「新NMT」と称した。これらの発明は全て本発明者らによる。より広く使用できる「新NMT」の条件を示す。金属合金側と射出樹脂側の双方に各々条件があり、まず金属合金側については以下に示す3条件((a)(b)(c))が必要である。
【0009】
(a)第1の条件は、金属合金表面が、化学エッチング手法によって1〜10μm周期の凹凸で、その凹凸高低差がその周期の半分程度まで、即ち0.5〜5μmまでの粗い粗面になっていることである。ただし、実際には、前記粗面で正確に全表面を覆うことはバラツキがあり、一定しない化学反応では難しく、具体的には、粗度計で見た場合に0.2〜20μm範囲の不定期な周期の凹凸で、且つその最大高低差が0.2〜5μmの範囲である粗度曲線が描けることを要する。また、最新型のダイナミックモード型の走査型プローブ顕微鏡で金属合金表面を走査したときには、RSmが0.8〜10μmであり、Rzが0.2〜5μmである粗度面であれば前述した粗度条件を実質的に満たしたものとしている。本発明者等は、理想とする粗面の凹凸周期が前述したように、ほぼ1〜10μmであるので、分かり易い言葉として「ミクロンオーダーの粗度を有する表面」と称した。
【0010】
(b)第2の条件は、上記ミクロンオーダーの粗度を有する金属合金表面に、さらに5nm周期以上の超微細凹凸が形成されていることである。言い換えると、ミクロの目で見てザラザラ面であることを要する。当該条件を具備するために、上記金属合金表面に、微細エッチングを行い、前述のミクロンオーダーの粗度をなす凹部内壁面に5〜500nm、好ましくは10〜300nm、より好ましくは30〜100nm(最適値は50〜70nm)周期の超微細凹凸を形成する。
【0011】
この超微細凹凸について述べると、その凹凸周期が10nm以下の周期であると樹脂分の進入が明らかに難しくなる。また、この場合には通常、凹凸高低差も小さくなるので、樹脂側から見て円滑面となる。その結果、スパイクの役目を為さなくなる。又、周期が300〜500nm程度又はこれよりよりも大きな周期なら(その場合、ミクロンオーダーの粗度をなす凹部の直径や周期は10μm近くになると推定される)、ミクロンオーダーの凹部内でのスパイクの数が激減するので効果が効き難くなる。よって、原則としては、超微細凹凸の周期が10〜300nmの範囲であることを要する。しかしながら、超微細凹凸の形状によっては、5nm〜10nm周期のものでも、樹脂がその間に侵入する場合がある。例えば、5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜している場合等がこれに該当する。また、300nm〜500nm周期のものでも、超微細凹凸の形状がアンカー効果を生じやすい場合がある。例えば、高さ及び奥行きが数十〜500nmで、幅が数百〜数千nmの階段が無限に連続したパーライト構造のような形状がこれに該当する。このような場合も含め、要求される超微細凹凸の周期を5nm〜500nmと規定した。
【0012】
ここで、従来は上記第1の条件に関して、RSmの範囲を1〜10μm、Rzの範囲を0.5〜5μmと規定していたが、RSmが0.8〜1μm、Rzが0.2〜0.5μmの範囲であっても、超微細凹凸の凹凸周期が、特に好ましい範囲(概ね30〜100nm)に有れば、接合力が高く維持できる。それ故に、RSmの範囲を小さい方にやや広げることとした。即ち、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5μmの範囲とした。
【0013】
(c)さらに、第3の条件は、上記金属合金の表層がセラミック質であることである。具体的には、元来耐食性のある金属合金種に関しては、その表層が自然酸化層レベルかそれ以上の厚さの金属酸化物層であることを要し、耐食性が比較的低い金属合金種(例えばマグネシウム合金や一般鋼材等)では、その表層が化成処理等によって生成した金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であることが第3の条件となる。
【0014】
一方、樹脂側の条件を以下に示す。
(d)硬質の結晶性熱可塑性樹脂であること。具体的には、PBT、PPS、又はポリアミド樹脂等が主成分として含まれている樹脂組成物であること。
さらに、新NMTにおいて、強い接合力を得るためには樹脂組成物側に更に1の条件が加わる。
(e)主成分高分子と異なる高分子が含まれており、異高分子の大部分が主成分の結晶性熱可塑性樹脂と分子レベルで混ざっていること。
【0015】
上記(d)、(e)の条件は、NMTの条件(3)、(4)と同様である。即ち、射出樹脂は異種の高分子をコンパウンドしたPBT系樹脂、PPS系樹脂、又はポリアミド樹脂が最適である。これらの樹脂組成物は射出成形機により金型に向かって射出され、金型内で急冷されて結晶化・固化する際、最初の種結晶の生じるタイミングが遅い。この性質を利用し、射出樹脂をミクロンオーダーの粗度を構成する凹部の底まで到達させることを試みた。そしてその凹部の内壁面にある5〜500nm周期の超微細凹凸を構成する凹部に対しても、その樹脂流の頭部が侵入し、所謂頭を突っ込んだ状態で結晶化・固化すると推定した。実際に、条件(a)(b)(c)を満たすよう表面処理した各種金属合金に対して上記樹脂を射出した際に、超微細凹凸まで樹脂が侵入しており、これが接合力に大きく寄与していた。
【0016】
板状のマグネシウム合金、アルミニウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、一般鋼材等の表面を、条件(a)(b)(c)を満たす表面とし、その表面にPBT系樹脂又はPPS系樹脂を板状に射出成形し、板状物同士の接合物を得た。これら金属合金及び樹脂組成物がいずれも板状物であって、両者を一定面積(約0.5〜0.8cm
2)で接合したときに、せん断破断力で25〜30MPaを示した。このときの破断は樹脂成形品側の材破によるものであった。新NMTによる接合力は極めて高いため、破断は樹脂側の材破で生じるので、接合力は各種金属合金に関して同レベルとなった(特許文献3〜7)。
【0017】
【特許文献1】WO 03/064150 A1(アルミニウム合金)
【特許文献2】WO 2004/041532 A1(アルミニウム合金)
【特許文献3】WO 2008/069252 A1(マグネシウム合金)
【特許文献4】WO 2008/047811 A1(銅合金)
【特許文献5】WO 2008/078714 A1(チタン合金)
【特許文献6】WO 2008/081933 A1(ステンレス鋼)
【特許文献7】WO 2009/011398 A1(一般鋼材)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
NMT及び新NMTは本発明者らによって実用化され、既に多くの製品に使用されている。現状では、電子機器用の各種部品に使用されており、具体的には携帯電話、ノートパソコン、プロジェクター用部品がその多くを占める。そして現状では、NMT及び新NMTは専ら、金属合金部品と樹脂成形品の強固な一体化を図る目的(これにより部品の軽量化、部品点数の削減を図る目的)で利用されている。
【0019】
本発明者らが開発したNMT、新NMTは、金属合金部品と樹脂成形品の強固な一体化を可能とするため、金属部品によって構成された空隙を樹脂によってガスを封止する用途にも適合する可能性がある。例えば、キャパシタの電極部の封止に使用できる可能性があり、また、リチウムイオン二次電池の引き出し電極の封止に使用できる可能性がある。リチウムイオン二次電池は非水系電解液を使用しており、正極にはアルミニウム、負極には銅が引き出し電極として使用される。この電解液には若干の水分浸入も許されず、水分を含むガスの封止は不可欠である。水分の浸入は電池の性能を低下せしめ電池寿命を短くするとされるためである。なお、現状はリチウムイオン二次電池の引き出し電極はO−リングによって封止されている。
【0020】
しかしながら、金属合金部品と樹脂成形品の接合力が高いことが、必ずしも封止性の向上に直結しない。これは後述する実験結果からも明かである。従って、リチウムイオン二次電池で封止部材として用いられているO−リングと比較して優れたガス封止性を発揮するか否かは不明である。しかし、仮にNMT及び新NMT、又はこれらの接合技術を改良したものが優れたガス封止性を発揮するのであれば、リチウムイオン二次電池等のガス封止方法として全く新たな解決手段を提供することができる。本発明はこのような技術背景のもとになされたものであり、その目的は金属と樹脂の強固な接合を達成しつつ、高いガス封止性を有する金属樹脂複合体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは従来のガス封止技術(O−リングによる封止)の性能と、NMT及び新NMTによる封止技術を比較して、NMTが最もガス封止性に優れていることを確認した。後述する表1に示すように、従来のO−リングによる締め付けと比較して、ガスの漏れ量はNMTで100分の1程度、新NMTで5分の1程度であった。このNMTと新NMTによるガス封止性能の差異に関して
図1及び
図2を用いて説明する。
【0022】
(NMT)
図1に示すNMTの例では、アルミニウム合金相10の表面に形成された直径20〜80nmの超微細凹部に樹脂が侵入している。超微細凹部は厚さ3nm以上の酸化アルミニウム薄層30で覆われている。このような表面構造のアルミニウム合金を射出成形金型にインサートし、溶融した熱可塑性樹脂を高圧で射出させる。このとき、熱可塑性樹脂と、アルミニウム合金表面に吸着していたアミン系化合物分子が遭遇することで化学反応する。この化学反応は、この熱可塑性樹脂が低温の金型温度に保たれたアルミニウム合金に接して急冷されて結晶化し固化せんとする物理反応を抑制する。その結果、樹脂は、結晶化や固化が遅れ、その間にアルミニウム合金表面の超微細凹部に浸入し、侵入後に結晶化、固化して硬質の酸化アルミニウム薄層30と接合する。このアンカー効果により、熱可塑性樹脂は外力を受けてもアルミニウム合金表面から剥がれ難くなる。即ち、アルミニウム合金と形成された樹脂成形品は強固に接合する。実際、アミン系化合物と化学反応できるPBTやPPSがこのアルミニウム合金と射出接合ができることを確認している。
【0023】
NMTは特許文献1、2に開示されているが、その概要を記載する。形状化したアルミニウム合金部品を脱脂槽に投入して脱脂操作をする。次いで数%濃度の苛性ソーダ水溶液に浸漬して表層を溶かし、脱脂操作で落とし切れなかった汚れをアルミニウム表層ごと落とす。次いで数%濃度の硝酸水溶液に浸漬して、前操作で表面に付着したナトリウムイオン等を中和し除去する。ここまでの操作はアルミニウム合金部品の表面を構造的、化学的に安定した綺麗な表面にする操作であり、言わば化粧前の洗顔である。もし汚れや腐食箇所の全くない綺麗なアルミニウム合金部品であれば、これら前処理操作は省くことができる。
【0024】
NMTにおける重要な処理は以下に示すものである。NMTでは水溶性アミン系化合物の水溶液にアルミニウム合金を適当な条件で浸漬し、合金表面をエッチングして20〜80nm周期の超微細凹凸を形成し、同時にそのアミン系化合物を化学吸着させる。本発明者等は、表面処理条件を異ならせた各々のアルミニウム合金を射出成形金型にインサートしてNMT用のPBT系樹脂やPPS系樹脂を射出接合する実験を行った。そして、その接合力が最大になり、且つ表面処理の際の浸漬時間が1〜2分になる条件を探し出し、これを最適な製造方法として使用してきた。より具体的に言えば、アルミニウム合金の表面処理に使用する水溶性のアミン系化合物は一水和ヒドラジンであり、条件(濃度、液温度、浸漬時間)を異ならせて表面処理を行い、各アルミニウム合金と熱可塑性樹脂との接合力を測定し、最適の濃度、液温度、及び浸漬時間を決定した。
【0025】
例えば、アルミニウム合金部品を、45〜65℃にした数%濃度の水和ヒドラジン水溶液に1分〜数分浸漬して20〜40nm周期の超微細凹凸表面とする超微細エッチングを行う。この水和ヒドラジン水溶液への浸漬処理では、水溶液の弱塩基性によって水素ガスを発しつつアルミニウム合金部品が全面腐食型にエッチングされる。温度と濃度、及び浸漬時間を調節すると、アルミニウム合金表面が20〜40nm周期の超微細凹凸で覆われるようになる。超微細エッチング後、アルミニウム合金部品をイオン交換水でよく水洗し、50〜70℃で乾燥すると、ヒドラジンの化学吸着が認められる射出接合に適しものとなる。これが「NMT」の表面処理法である。
【0026】
(新NMT)
図2に示す新NMTの例でも金属合金相11の表面に形成された超微細凹凸に樹脂相21が侵入している。超微細凹部は金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層31で覆われている。ただし、NMTと比較して超微細凹凸(本例では概ね直径50〜100nm)への樹脂の侵入度は浅かった。これは、熱可塑性樹脂とアミン系化合物分子との化学反応がないため、NMT程には、樹脂の結晶化、固化を遅らせることができないためと考えられる。即ち、直径数十nm程度の超微細凹凸に対しての樹脂の侵入度では、NMTが優れているため、その結果、ガスの封止性も優れていたと考えられる。
【0027】
(NMT2)
本発明者らはNMTを改良して、さらにガス封止性に優れた射出接合技術を開発した。この技術を「NMT2」と称する。NMTではアルミニウム合金と樹脂組成物を従来になく高い接合力で接合させることができる。しかしながら、接合力という観点から最適の条件が、ガス封止性においても最適の条件とは限らない。この改良とは、超微細凹凸の直径は20〜80nm程度に維持しつつ、吸着させるアミン系化合物の量を増大させるというものである。即ち、超微細凹凸の形状を変形させずに接合力は最大レベルを維持しつつ、アミン系化合物(例えばヒドラジン)をNMTの場合よりも多量に吸着させて、熱可塑性樹脂の結晶化、固化をさらに遅らせ、超微細凹凸への侵入度を高めようようというものである。
【0028】
本発明者らは、このような視点を持って処理法を工夫した。先ずアルミニウム合金表面にNMTと同様の条件で、超微細エッチングによって超微細凹凸を作り、その後に、NMTで使用するものより低温で、より希釈された水溶性アミン系化合物水溶液に浸漬してアミン系化合物の化学吸着量を増加させる処理工程を設けた。具体例としては、まず45〜65℃にした数%濃度の水和ヒドラジン水溶液に1分〜数分浸漬して、表面に直径20〜40nmの超微細凹部を形成する(NMTと同じ処理)。この水和ヒドラジン水溶液への浸漬処理では、水溶液の弱塩基性によって水素ガスを発しつつアルミニウム合金が全面腐食型にエッチングされるが、温度と濃度、及び浸漬時間を調節すると20〜40nm周期の超微細凹凸で全面が覆われるようになる。
【0029】
NMT2においては、上記エッチング処理(NMTと同じ処理)の後に、15〜45℃とした0.05〜1%濃度の水溶性アミン系化合物水溶液(例えば水和ヒドラジン水溶液)に1分〜10分浸漬して水洗し、さらに50〜70℃で低温乾燥する。その意図は、低濃度水溶性アミン系化合物水溶液(例えば水和ヒドラジン水溶液)でエッチングを控え、アミン系化合物(例えばヒドラジン)の化学吸着のみを進めることにある。また、水洗後の乾燥条件を50〜70℃と低温にしている。これはアルミニウム合金表面の水酸化を防ぐために低温乾燥するのではなく、吸着したアミン系化合物(例えばヒドラジン)を化学吸着物として定着させるために最適な温度を探った結果である。なお、NMTにおけるアルミニウム合金の表面処理はヒドラジンに限らず、アンモニア又は水溶性アミンでも可能であり、NMT2もこれと同様である。後述する実験例では、水和ヒドラジン水溶液、アルキルアミン類水溶液、及びエタノールアミン水溶液を使用して、それぞれでNMT2用の表面処理が可能であることを確認した。
【0030】
再度の水溶性アミン系化合物水溶液への浸漬では、エッチング速度が大幅に低下する一方で、化学吸着するアミン系化合物量を増加させ得る可能性があると判断し、実験を行った結果、良好な結果を得た。射出接合による接合力は全く低下せず、ガス封止性が、NMTと比較して大幅に向上した。アルミニウム合金表面に射出された熱可塑性樹脂は、直径20〜40nm程度の超微細凹部の奥底までほぼ完全に侵入し、
図3に示すように、アルミニウム合金相の表層の酸化アルミニウム薄層と、熱可塑性樹脂との隙間がほぼ無くなったとみられる。これがNMTと比較してNMT2のガス封止性が格段に向上した理由であろう。
【0031】
接合力が従来型NMTとNMT2で変化しない理由は、いずれも強い外力が加わったときに破断するのは樹脂部分であることによる。即ち、破断が生じても侵入した樹脂は超微細凹凸内部に殆ど残っており、樹脂自体の材料破壊により破断が生じる以上、接合力自体は同じである。このように、NMT2による射出接合技術はアルミニウム合金に特定の表面処理を施し、射出成形金型にインサートし、改良型熱可塑性樹脂を射出して離型し、アルミニウム合金/樹脂成形品の一体化物を得るという点では「NMT」と全く同じである。但し、そのガス封止性はNMTと比較して明かに高い。
【0032】
NMT2により得られた複合体はガス封止性能以外の点では、NMTによる複合体と際が無い。複合体のせん断破断力や引っ張り破断力においては、いずれも25〜30MPa程度であり、これらの数値は樹脂成形品の破断値である。NMT用の表面処理がされたアルミニウム合金材とNMT2用の表面処理がされたアルミニウム合金材を電子顕微鏡観察しても、差異は確認できない。また、複合体のアルミニウム合金片の接合部分を50nmの厚さにスライスして、これを透過型分析電子顕微鏡で観察してもNMTとNMT2の差異を確認するのは困難である。従って、後述する構造体を作成して、数日〜1週間以上かけてガス封止性を測定する方法を採った。
【0033】
その他の手段としては、表面処理後のアルミニウム合金片をXPSで分析する方法がある。ただし、単独試料ではNMT用の表面処理を施したのか、又はNMT2用の表面処理を施したのかを確定するのは難しい。XPSは試料表面から深さ数nmまでのほぼ全原子の存在信号を引き出す分析法なので、全面吸着しているとしても1分子層しかない化学吸着ではその存在率は低くなり、ヒドラジン分子が発する窒素原子の信号は極めて小さい。よって、NMT処理品であってもNMT2処理品であってもXPSで窒素原子の存在確認をするには少なくとも5回以上の照射データを積算しなければ雑音信号からピークを引き出せない。一方、繰り返しのX線照射は試料を痛め、化学吸着ヒドラジンも照射繰り返しによって次第に減少する。従って積算を多数行えば良いというものでもなく、15回程度の積算が限度となる。結論としては、XPSを吸着ヒドラジンの定量分析に使用するのは困難であり、むしろ定性分析用と言える。しかしながら、NMT処理品とNMT2処理品を同日、同条件で連続的にXPS分析すれば窒素原子ピークは明らかに後者が大きくなる。
【0034】
[NMT2で使用する樹脂組成物]
NMT2では、NMTで使用する樹脂組成物を使用することができる。即ちPBT、PPS、又はポリアミド樹脂等が含まれている樹脂組成物を使用できる。ここではPPS系樹脂を例に説明する。NMT用のPPS系樹脂として現在3社から数種累市販されている。「SGX120(株式会社 東ソー製)」は、NMT用PPS系樹脂の一つである。これをNMT2でも使用できる。樹脂組成物の詳細は特許文献3に記載があり、これを転載する。NMT用のPPS系樹脂組成物は、樹脂分の70〜97%がPPSであり、30〜3%が変性ポリオレフィン系樹脂である組成物である。これに加え、両者の相溶化を促進する成分が含まれているのが好ましい。樹脂分の他には、フィラー、その他が含まれる。
【0035】
変性ポリオレフィン系樹脂としては、無水マレイン酸変性エチレン系共重合体、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体、エチレンアルキルアクリレート共重合体等であることが好ましい。該無水マレイン酸変性エチレン系共重合体としては、例えば無水マレイン酸グラフト変性エチレン重合体、無水マレイン酸−エチレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体等をあげることができ、その中でも特に優れた複合体が得られることからエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体であることが好ましく、該エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体の具体的例示としては、「ボンダイン(アルケマ社製)」等が挙げられる。
【0036】
該グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、グリシジルメタクリレート−エチレン共重合体を挙げることができ、その中でも特に優れた複合体が得られることからグリシジルメタクリレート−エチレン共重合体であることが好ましく、該グリシジルメタクリレート−エチレン共重合体の具体例としては、「ボンドファースト(住友化学社製)」等が挙げられる。
【0037】
該グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えばグリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル−エチレン共重合体を挙げることができ、該エチレンアルキルアクリレート共重合体の具体例としては、「ロトリル(アルケマ社製)」等が挙げられる。又、エチレンアルキルアクリレート共重合体には、エチレンアルキルアクリレート共重合体、エチレンアルキルメタクリレート共重合体等があり好ましく使用できる。
【0038】
上記樹脂分100重量部に対し、多官能性イソシアネート化合物0.1〜6重量部及び/又はエポキシ樹脂1〜25重量部を配合した場合に押し出し機での混ざり(分子レベルでの混ざり)がよくなり好ましい。該多官能性イソシアネート化合物は、市販の非ブロック型、ブロック型のものが使用できる。該多官能性非ブロック型イソシアネート化合物としては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートフェニル)スルホン等が例示される。また、該多官能性ブロック型イソシアネート化合物としては、分子内に2個以上のイソシアネート基を有し、そのイソシアネート基を揮発性の活性水素化合物と反応させて、常温では不活性としたものであり、該多官能性ブロック型イソシアネート化合物の種類は特に規定したものではなく、一般的には、アルコール類、フェノール類、ε−カプロラクタム、オキシム類、活性メチレン化合物類等のブロック剤によりイソシアネート基がマスクされた構造を有する。該多官能性ブロック型イソシアネートとしては、例えば「タケネート(三井竹田ケミカル社製)」等が挙げられる。
【0039】
該エポキシ樹脂としては、一般にビスフェノールA型、クレゾールノボラック型等として知られているエポキシ樹脂を用いることができ、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば「エピコート(ジャパンエポキシレジン社製)」等が挙げられ、該クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、「エピクロン(大日本インキ化学工業社製)」等が挙げられる。
【0040】
フィラーとしては強化繊維、粉体フィラー等を挙げることができ、強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられ、ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6〜14μmのチョップドストランド等が挙げられる。また、粉体フィラーとしては、例えば炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物等が挙げられる。該充填剤は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤で処理したものあることが好ましい。フィラー含有量は出来上がった樹脂組成物中の0〜60%、好ましくは20〜40%である。
【0041】
(射出接合工程)
射出成形金型に前記のNMT2処理をしたアルミニウム合金部品をインサートし、前記のPPS系樹脂を射出する。射出条件は通常のPPS系樹脂の射出成形条件と同様である。NMT及びNMT2の共通の目的は、アルミニウム合金部品の超微細凹凸面の超微細凹部に樹脂を押し込むことで強い接合力を生み出すことである。それ故、ガス溜まり、ガス焼け等は厳禁となり、金型にはガス抜きが欠かせない。ガス抜きをした場合には薄バリも生じやすいが、NMT2の場合には薄バリが出る程度にしっかり射出することが好ましい。要するに、見た目が綺麗な成形品を得ることのみを目的にして射出成形条件を決定すべきではない。目的はしっかり射出接合させて封止性を高めることであり、薄バリが生じることが支障になる場合には後工程で薄バリ除きをすべきである。
【発明の効果】
【0042】
「NMT2」により製造したアルミニウム合金と樹脂組成物の複合体は、両者が容易に剥がれることなく一体化されたものであり、かつ、非常に優れたガス封止性を有する。この技術「NMT2」は「NMT」を改良したものである。従来の「NMT」によるアルミニウム合金と熱可塑性樹脂の射出接合物よりも遥かに優れたガス封止性を有し、完全封止に近い性能を有する。アルミニウム合金と樹脂成形品との接合境界には実質的に隙間がなく、接合境界面部をガス分子が通過するのが非常に困難である。
【0043】
それ故、非水系電解液を用いる電池やキャパシタの電極引き出し部において、その蓋部の製造にNMT2を使用すれば、外部とのガス封止性を最高度に高めることができる。特に水分子の侵入を抑制することができる。リチウムイオン電池に関しては、その非水系電解液に外部から水分子が侵入した場合、性能が低下し蓄電容量も蓄電速度も減じるとされるので、その電池寿命を長くすることができる。今後大きな需要が期待されるキャパシタやリチウムイオン電池の電極封止部の製造にNMT2を使用することで、その経時耐久性を著しく向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下発明を実施するための最良の形態を実験例に基づいて説明する。後述する実験例において、O−リングによるガス封止性実験、NMTによるガス封止性実験、新NMTによるガス封止性実験、NMT2によるガス封止性実験を行った。O−リングによるガス封止性実験には構造体40aを使用し、NMTによるガス封止性実験には構造体40bを使用し、新NMTによるガス封止性実験には構造体40cを使用し、NMT2によるガス封止性実験には構造体40dを使用した。
【0046】
O−リングによるガス封止に使用した構造体40aを
図4に示す。構造体40aは、A5052アルミニウム合金製の本体部41a、A5052アルミニウム合金製の底部42a、及び市販のゴム製O−リング46によって構成される。本体部41aは略円柱状であり、
図4の断面図に示されるように中央部に孔48が設けられている。孔48上部を囲む壁の外周の径は、孔48下部を囲む壁の外周の径より小さい。即ち、孔48上部を覆う壁は薄く、本体部41aの断面は凸形状となっている。底部42aと本体部41aとの間隙は、溝49に係合したO−リング46によって封止される。O−リングとして外径25mm、内径19mmで断面が3mmφのものを使用した。本体部41a、底部42aの側面近傍には各々ボルト孔45が設けられている。本体部41aの溝49にO−リング46を係合させ、さらにO−リングの下端に底部42aを接触させた状態で、本体部41aと底部42aの双方のボルト孔45にボルトを貫通させて本体部41aの上面及び底部42aの底面からナットによって締め付けることで、本体部41a、O−リング46、及び底部42aを一体化する。
【0047】
NMTによるガス封止実験に使用した構造体40bを
図5、
図6に示す。本体部41bは構造体40aで使用した本体部41aと同形状、同材質であるが、NMT用の表面処理がなされている。また、底部42bは構造体40aで使用した底部42aと同形状、同材質であるが、NMT用の表面処理がなされている。また、構造体40bでは0−リングを使用せず、断面が方形である金属リング43bを溝49に係合させる。この金属リング43bも41b、42bと同材質のA5052アルミニウム合金製でありNMT用の表面処理がなされている。本体部41bと金属リング43bとの間隙、金属リング43bと底部42bとの間隙は、樹脂部材47によって封止されている。
【0048】
構造体40bの製造方法を示す。
図5に示すように、溝49に金属リング43bを係合させ、金属リング43bの底面に底部42bを密着させるように射出成形金型にインサートし、孔48内に金型内突起部50を嵌め込む。金型内突起部50にはピンゲート51が彫り込まれている。このときピンゲート51の高さは、底部42bの上面と、本体部41bの底面の中間に位置している。この状態で、ピンゲート51から樹脂組成物を射出して、底部42bの上面、本体部41bの底面、及び金属リング43bの内周面と接合する樹脂部材47を成形する。射出成形後に
図6に示す構造物40bが得られる。
【0049】
樹脂部材47の斜視図を
図7に示す。樹脂部材47は、中央部分が浅くなった皿状の射出成形品である。樹脂部材47は内径15mm、外径19mmであり、縁の幅は2mmである。中央部分の凹部が孔48と連なり、構造体内部の空洞を形成する。樹脂部材47の縁の上面は本体部41bの下面と接合し、側面は金属リング43bの側面と接合し、底面は底部42bの上面と接合する。樹脂部材47の上面部分(縁部分)がガス封止に直接関係する。ガス通過量はこの面の内周長さ(15mm×3.14=4.71cm)に比例すると考えられ、内周と外周間の幅(縁部分の幅0.2cm)に反比例すると考えられる。
【0050】
新NMTによるガス封止性実験に使用する構造体40cは、構造体40bと同様の形状である。但し、構造体40cの本体部41cは、新NMT用の表面処理がされた各種合金(本例では銅合金)である。一方、底部42c及び金属リング43cはいずれもNMT用の表面処理がされたA5052アルミニウム合金とした。
【0051】
NMT2によるガス封止実験に使用した構造体40dを
図5、
図6に示す。本体部41dは構造体40aで使用した本体部41aと同形状、同材質であるが、NMT2用の表面処理がなされている。また後述する実験例において、本体部41dの材質をアルミニウム合金A1050としたものも用意した。これにもNMT2用の表面処理がなされている。一方、底部42d、金属リング43dについては、42b、43bと同材質のA5052アルミニウム合金製で、且つ、NMT用の表面処理を行った物を使用した。そして本体部41dと金属リング43dとの間隙、金属リング43dと底部42dとの間隙は、樹脂部材47によって封止されている。
【0052】
(封止性の測定装置)
図8には、ガス封止性実験装置100の概要を示す。ガス封止性実験装置100は、前述した構造体40a、40b、40c、及び40dのガス封止性を測定するための実験装置である。
図8に示すようにガス封止性実験装置100は、ヘリウムボンベ110及びこれに接続される圧力計付きレギュレータ111、アルゴンボンベ120及びこれに接続される圧力計付きレギュレータ121、オートクレーブ130、スウェージロック型のパイプ継ぎ手131、水銀柱による真空度計140、真空ポンプ150、及びサンプル容器160等を備える。
【0053】
オートクレーブ130内には、
図8に示すように、外部からヘリウムボンベ110に連なる管132が挿入され、アルゴンボンベ120に連なる管133が挿入され、さらに真空度計140、真空ポンプ150、及びサンプル容器160に連なる管134が挿入される。測定時には、構造体40a、40b、40c、又は40dをオートクレーブ130内に入れて、構造体の中央上端部(突出している部分)と、管132とをパイプ継ぎ手131により接続して、蓋を閉じ、オートクレーブ130内を密閉状態にする。
【0054】
測定時にはヘリウムボンベ110からレギュレータ111及び管132を通して、構造体内部の空洞(孔48)を加圧して絶対圧0.61MPaとする。そして、そのヘリウム圧0.61MPaが測定終了まで維持されるように調整管理する。一方、アルゴンボンベ120からレギュレータ121を通して、オートクレーブ130内部を絶対圧0.11MPa(常圧より僅かに高い程度)にしたアルゴンで満たしておく。構造体内部とオートクレーブ130内部の差圧は0.5MPaとなる。
【0055】
試験当初は真空度計140を参照しつつ真空ポンプ150によりオートクレーブ内部を減圧し、オートクレーブ内部を100%アルゴン雰囲気にする。そして72時間後に、サンプル容器160とその引き込み管を真空ポンプ150により真空にして、オートクレーブ内のガスを30cc程度抜き、サンプル容器160に取る。その後、サンプル容器内のガスを分析し、アルゴン中に漏れ出したヘリウム量を測定する。即ち、構造体空洞を6気圧程度の高圧ヘリウムで満たし、オートクレーブ内部は常圧付近(1気圧)のアルゴン雰囲気とし、0.5MPaの差圧を生じさせて構造体空洞からオートクレーブ内部にヘリウムを漏出させる。そして所定時間経過後に、オートクレーブ内部のガスをサンプリングして、漏れ出したヘリウム量をガス分析する方法である。
【0056】
本発明者らは、このようにして測定した漏れヘリウム量に基づいて、ヘリウム漏れ速度を算出した。漏れヘリウム量を試験時間で除した値が漏れ速度となる(表1)。しかし、O−リングを使用した構造体40aにおいて、圧力差によって漏れた単位時間あたりのガス量がXml/hある場合、この値をO−リングの中心径22mmの円周長6.91cmで除した値である(X/6.91)ml/cmhが、単位長さあたり、且つ単位時間あたりの漏れ量(即ち漏れ速度)を示す値として適切である。一方、射出接合による構造体40b、40c、40dに関しては、圧力差によって漏れたガス量がXml/hである場合、この値を樹脂部材47の内径15mmの円周長4.71cmで除して、ガスの流路長0.2cmを乗じた値である(0.2X/4.71)ml/hが、単位時間あたりの漏れ量(即ち漏れ速度)を示す値として適切である。O−リングを使用した構造体40aと射出接合を利用した構造体40b、40c、40dでは形状も封止方法も異なるが、全体の形状は似ており上記の値に基づいた簡易的な比較は可能である。
【0057】
[実験例]
以下、本発明のNMT、新NMT、及びNMTによるガス封止性の測定方法について実験例により説明する。実験に使用した装置を以下に示す。
【0058】
(1)電子顕微鏡観察
主にアルミニウム合金表面の観察のために電子顕微鏡を用いた。この電子顕微鏡は、走査型(SEM)の電子顕微鏡「JSM−6700F(日本電子株式会社製)」であり、1〜2kVで観察した。
(2)X線光電子分析(XPS観察)
試料にX線を照射することによって試料から放出してくる光電子のエネルギーを分析し、 元素の定性分析等を行う光電子分析装置(XPS観察)を使用した。XPSによってアルミニウム合金上の窒素原子を定性分析し、化学吸着したヒドラジンの存在を確認した。実験で使用したのはXPS「AXIS−Nova(クレイトス/株式会社 島津製作所製)」である。
(3)複合体の接合強度の測定
金属合金と樹脂組成物との複合体の接合強度を測定するために、
図9に示す複合体50を作成した。複合体50は、金属合金板51と樹脂成形品53が射出接合によって接合されたものであり、接合部分52の面積は0.5cm
2である。この複合体50の接合強度の測定として、引張り応力を測定する。具体的には、引張り試験機で複合体50を引っ張ってせん断力を負荷し、複合体50が破断するときの破断力を測定した。引張り試験機は「AG−10kNX(株式会社 島津製作所製)」を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断した。
(4)封止度測定装置で使用したガス分析機
アルゴン中のヘリウム濃度等を定量分析するのに四重極質量分析計「JMS−Q1000GC(日本電子株式会社製)」を使用した。
【0059】
[実験例1]A5052アルミニウム合金製部品の作成(NMT2)
図5に示した構造体40dを作成するために、A5052アルミニウム合金製部品である本体部41d、底部42d、金属リング43dを用意した。本体部41dにはNMT2用の表面処理がなされている。一方、底部42d、及び金属リング43dにはNMT用の表面処理が施されている。NMT2用の表面処理は以下のように行った。まず、アルミ用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を7.5%含む水溶液(液温60℃)を脱脂液とし、この脱脂液を入れた脱脂槽を用意し、これにA5052アルミニウム合金製の部品(処理完了時に本体部41dとなる形状物)を5分浸漬し、水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に塩酸1%を含む水溶液(40℃)を用意し、この槽を予備酸洗浄槽とした。この予備酸洗浄槽に前記部品を1分浸漬しイオン交換水で水洗した。
【0060】
次いで別の槽に苛性ソーダを1.5%含む水溶液(液温40℃)を用意し、この漕をエッチング槽とした。このエッチング槽に前記部品を1分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、この漕を中和槽とした。この中和槽に前記部品を1分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで別の漕に水和ヒドラジン3.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これをNMT第1処理槽とした。そしてNMT第1処理槽に前記部品を1分浸漬した。次いで別の漕に水和ヒドラジン0.5%を含む水溶液(40℃)を用意し、これをNMT第2処理槽とした。そしてNMT第2処理槽に前記部品を3分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで55℃とした温風乾燥機内に前記部品を40分置いて乾燥した。得られた部品はアルミ箔でしっかり包み、更にポリ袋に入れて封じ、保管した。
【0061】
上記処理を行ったA5052アルミニウム合金表面を電子顕微鏡観察で観察したところ、表面は無数の超微細凹部で覆われており、その凹部の直径は20〜40nmであった。また、XPSによる観察では窒素の存在が確認できた。
【0062】
一方、底部42d、金属リング43dについてはNMT用の表面処理を行ったが、その処理方法は、後述する実験例2に記載したNMT用の表面処理法と全く同じである。
【0063】
[実験例2]A5052アルミニウム合金製部品の作成(NMT)
図5に示した構造体40bを作成するために、A5052アルミニウム合金製部品である本体部41b、底部42b、金属リング43bを用意した。本体部41b、底部42b、及び金属リング43bにはNMT用の表面処理が施されている。NMT用の表面処理を以下のように行った。まず、アルミ用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(液温60℃)を脱脂液とし、この脱脂液を入れた脱脂槽を用意し、これにA5052アルミニウム合金製の部品(処理完了時に本体部41b、底部42b、金属リング43bとなる形状物)を5分浸漬し、水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に塩酸1%を含む水溶液(40℃)を用意し、この槽を予備酸洗槽とした。この予備酸洗槽に前記部品を1分浸漬しイオン交換水で水洗した。
【0064】
次いで別の槽に苛性ソーダを1.5%含む水溶液(液温40℃)を用意し、この漕をエッチング槽とした。このエッチング槽に前記部品を1分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、この漕を中和槽とした。この中和槽に前記部品を1分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで別の漕に水和ヒドラジン3.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これをNMT処理槽とした。そしてNMT処理槽に前記部品を1分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで67℃とした温風乾燥機内に15分置いて乾燥した。得られた部品はアルミ箔でしっかり包み、更にポリ袋に入れて封じ、保管した。
【0065】
上記処理を行ったA5052アルミニウム合金表面を電子顕微鏡観察で観察したところ、表面は無数の超微細凹部で覆われており、その凹部の直径は20〜40nmであった。また、XPSによる観察では窒素の存在が確認できた。ここでXPSによる窒素原子ピークの大きさ(ここではスペクトルピークを10回測定した合計値)を、実験例1で示したNMT2用処理法で処理したA5052アルミニウム合金と比較したところ、実験例1のアルミニウム合金の値が本実験例2によるものより大きかった。
【0066】
[実験例3]射出接合
温度を140℃にした射出成形用金型に、実験例1の表面処理を施した本体部41d、底部42d、及び金属リング43dを
図5のように組み立てて、射出成形金型にインサートし、孔48内に金型内突起部50を嵌め込んだ。金型内突起部50にはピンゲート51が彫り込まれている。射出成形金型を閉めて、10秒程度、本体部41d、底部42d、金属リング43dを温めてから市販のNMT用PPS系樹脂「SGX120(株式会社 東ソー製)」を射出した。射出温度300℃、金型温度140℃として射出成形を行い、
図6に示す構造体40dを得た。これはNMT2により製造された封止試験用複合体である。
【0067】
この構造体40dと同様にして、実験例2の表面処理を施した本体部41b、底部42b、及び金属リング43bを使用して構造体40bを作成した。これはNMTにより製造された封止試験用複合体である。このようにして作成した構造体40b、40dを170℃にした熱風乾燥機に1時間入れてアニール処理をした。
【0068】
[実験例4]封止性の測定(NMT、NMT2)
実験例3で作成した構造体40b、40dのガス封止性を
図8に示す測定装置を用いて測定した。構造物40bの上面中央部分の突出部と、管132をスウェージロック型のパイプ継ぎ手131で接続し、オートクレーブ130内を密閉状態にする。構造体40bの空洞部がヘリウムで置換されるようにバルブ操作し、空洞部の圧力を0.2MPa程度にした。次いで真空ポンプ150を使ってオートクレーブ130内を数mmHgレベルの真空にし、アルゴンガスを入れて常圧程度に戻した。この操作をもう一度行い、オートクレーブ130内をほぼ100%アルゴンとした。次いでオートクレーブ内圧を微調整し、絶対圧で0.11MPaとした。常圧よりやや高い程度の圧力である。次いで、構造体40bの空洞部の圧力を0.61MPaに上げた。ここからガス封止試験を開始した。
【0069】
試験開始から3日後(72時間後)のオートクレーブ130内のガスに含まれるヘリウム量を、サンプル容器160にサンプリングしたガスの分析によって算出した。3つの構造体40bについて同様の実験を行った結果を表1(NMT)及び
図10に示す。構造体40bの1つに関しては試験開始から7日後(168時間後)のヘリウム量も測定した。これと同様にして、3つの構造体40dについてヘリウム量を測定した。その結果を表1(NMT2)及び
図10に示す。
【0070】
表1及び
図10に示すように、NMTを使用した構造体40bは、漏れヘリウム量が72時間後で0.10〜0.22ml、168時間後で0.25mlである。後述するO−リングによる封止では、72時間後の漏れヘリウム量が17〜19mlであるから100倍程度の差があり、NMTによるガス封止性は良好であるといえる。
【0071】
構造体40dについても、構造体40bと同様の実験を行った。NMT2を利用した構造体40dでは、NMTよりさらに高いガス封止性を示した。表1及び
図10に示すように、NMT2を利用した構造体40dは、漏れヘリウム量が72時間後で0.01mlである。このようにNMT2を利用した構造体40dの漏れヘリウム量はNMTの10分の1以下であり、極少量である。
【0072】
[実験例5]封止性の測定(NMT2で測定日数の延長)
実験例4ではNMT2によるガス封止性能が極めて高いことを確認できたが、漏れヘリウム量が少なすぎて数値の信頼性が問題となる。そのため、NMT2を利用した構造体40dの1つに関しては、試験開始から28日後(672時間後)の漏れヘリウム量も測定した。その結果を表1及び
図10に示す。漏れ速度は0.0002ml/h程度であり、形状修正すると0.0002×0.2/4.71=8.5×10
−6ml/hであった。但し、スウェージロック型のパイプ継ぎ手131からのガスの漏れが若干でもあれば、これが計測された漏れヘリウム量に含まれる可能性があり、実際の漏れヘリウム量は更に少ないことになる。従ってNMT2によるガス封止性能を高精度に測定することは、この程度の実験ではできない可能性もある。
【0073】
[実験例6]C1100銅合金製部品の作成(新NMT処理)及び射出接合
(C1100銅合金製部品の新NMT処理)
図5に示した構造体40cを作成するために、C1100銅合金製部品である本体部41c、A5052アルミニウム合金製部品である底部42c、及び金属リング43cを用意した。本体部41cはC1100用の新NMT用表面処理が施され、底部42c及び金属リング43cにはA5052用のNMT用表面処理が施されている。このNMT用表面処理の具体的方法は実験例2に記載したのと全く同じである。一方、C1100銅材への新NMT用表面処理法は以下のようにした。まず、アルミ用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(液温60℃)を脱脂液とし、この脱脂液を入れた脱脂槽を用意し、これにC1100銅合金製の本体部41cを5分浸漬し、水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダ1.5%を含む水溶液(40℃)を用意し、この槽を予備塩基洗浄槽とした。この予備塩基洗浄槽に前記部品を1分浸漬しイオン交換水で水洗した。
【0074】
次いで別の槽に硝酸10%含む水溶液(液温40℃)を用意し、これに前記部品を0.5分浸漬した。次いで別の槽に硝酸3%を含む水溶液(40℃)を用意し、これに前記部品を10分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで別の槽に10%濃度の硫酸と6%濃度の過酸化水素、及び0.3%濃度の水和リン酸三ソーダの水溶液(25℃)を用意しこれをエッチング槽とした。このエッチング槽に前記部品を1分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで別の槽に硝酸2%を含む水溶液を用意し、これに前記部品を0.5分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。次いで別の槽に苛性カリ3%と過マンガン酸カリ2%を含む水溶液(70℃)を用意して、これを酸化処理槽とした。この酸化処理槽に前記部品を3分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。次いで80℃とした温風乾燥機内に前記部品を15分置いて乾燥した。得られた部品はアルミ箔でしっかり包み、更にポリ袋に入れて封じ、保管した。
【0075】
(C1100銅合金片の新NMT用処理)
45mm×18mm×1.5mm厚のC1100銅合金片に対して、上記部品と同じ新NMT用処理を行った。この表面処理を施したC1100銅合金片の表面に、PPS系樹脂「SGX120(株式会社 東ソー製)」を射出して、板状の成形品を得た。得られた複合体50は、C1100銅合金板51と樹脂成形品53が射出接合によって接合されたものであり、接合部分52の面積は0.5cm
2である。射出接合後、170℃で1時間程度のアニール処理を行い。複合体50を引っ張り破断したところ、3組平均で22MPaのせん断破断力を示した。C1100銅合金片とPPS系樹脂の成形品とがNMTと同等の極めて高い接合力で一体化されていた。
【0076】
(射出接合)
温度を140℃にした射出成形用金型に、新NMT用の表面処理を施した本体部41c、NMT用の表面処理をした底部42c、及び金属リング43cを
図5のように組み立てて、射出成形金型にインサートし、孔48内に金型内突起部50を嵌め込んだ。金型内突起部50にはピンゲート51が彫り込まれている。射出成形金型を閉めて、10秒程度、本体部41c、底部42c、金属リング43cを温めてから市販のPPS系樹脂「SGX120(株式会社 東ソー製)」を射出した。射出温度300℃、金型温度140℃として射出成形を行い、
図6に示す構造体40cを得た。これは新NMTにより製造された封止試験用複合体である。このようにして作成した構造体40cを170℃にした熱風乾燥機に1時間入れてアニール処理をした。
【0077】
[実験例7]封止性の測定(C1100銅)
実験例6で作成した構造体40cを使用して、実験例4と同様にガス封止性を測定した。その結果を表1及び
図10に示す。表1及び
図10に示すように、新NMTを利用した構造体40cは、漏れヘリウム量が72時間後で2.6ml、3.9mlである。このように新NMTを利用した構造体40cの漏れヘリウム量はNMTの10倍以上であり、NMT2は当然のこと、NMTと比較してもガス封止性が明らかに劣っている。また、漏れ速度は0.036〜0.054ml/hでありNMTよりかなり劣っていた。
【0078】
[実験例8]封止性の測定(O−リング)
O−リングを利用した構造体40aを用いて、実験例4と同様にガス封止性を測定した。上下からO−リングを締め付けるボルト/ナットの締め具合を異ならせた3つの構造体40aについてガス封止性を測定した。締め具合は「普通」「やや強」「強」の3段階である。その結果を表1及び
図10に示す。表1及び
図10に示すように、O−リングを利用した構造体40aは、漏れヘリウム量が72時間後で15〜19mlであり、そのガス封止性は新NMTを利用した構造体40cにも遠く及ばなかった。なお、O−リングの締め付けを「普通」より強くしても、漏れヘリウム量は大きく変化しなかった。
【0079】
【表1】
【0080】
[実験例9]NMT2によるガス封止性実験(ジメチルアミンを使用)
本発明者らは、構造体40dとして、本体部41dの素材をA1050アルミニウム合金材としたものも作成した。本実験例9では本体部41dにNMT2用表面処理をしたA1050アルミニウム合金製部品を使用し、底部42d、金属リング43dにはNMT用表面処理をしたA5052アルミニウム合金製部品を使用した。A1050アルミニウム合金材のNM2用表面処理は以下のように行った。まず、アルミ用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を7.5%含む水溶液(液温60℃)を脱脂液とし、この脱脂液を入れた脱脂槽を用意し、これにA1050アルミニウム合金製部品(本体部41dとなる形状物)を5分浸漬し、水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に塩酸1%を含む水溶液(40℃)を用意し、この槽を予備酸洗浄槽とした。この予備酸洗浄槽に前記部品を1分浸漬しイオン交換水で水洗した。
【0081】
次いで別の槽に苛性ソーダを1.5%含む水溶液(液温40℃)を用意し、この漕をエッチング槽とした。このエッチング槽に前記部品を4分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、この漕を中和槽とした。この中和槽に前記部品を3分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで別の漕に水和ヒドラジン3.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これをNMT第1処理槽とした。そしてNMT第1処理槽に前記部品を1分浸漬した。次いで別の漕に濃度0.1%のジメチルアミン水溶液(20℃)を用意し、これをNMT第2処理槽とした。そしてNMT第2処理槽に前記部品を8分浸漬し、イオン交換水で水洗した。次いで50℃とした温風乾燥機内に前記部品を40分置いて乾燥した。得られた部品はアルミ箔でしっかり包み、更にポリ袋に入れて封じ、保管した。
【0082】
上記処理を行ったA1050アルミニウム合金表面を電子顕微鏡観察で観察したところ、表面は無数の超微細凹部で覆われており、その凹部の直径は30〜50nmであった。また、XPSによる観察では窒素の存在が確認できた。
【0083】
上記表面処理を施したA1050アルミニウム合金製の本体部41dと、底部42d、及び金属リング43dを
図5のように組み立て、140℃にした射出成形金型にインサートし、孔48内に金型内突起部50を嵌め込んだ。その後は実験例3と全く同様にしてPPS系樹脂「SGX120(株式会社 東ソー製)」を射出し、射出接合品40dを得た。次いで実験例3と同様に170℃にした熱風乾燥機に1時間入れてアニール処理をした。
【0084】
次いで実験例4と全く同様にして、
図8に示す測定装置を用いてガス封止性を測定した。試験開始から3日後(72時間後)のオートクレーブ130内のガスに含まれるヘリウム量を、サンプル容器160にサンプリングしたガスの分析によって算出した。その結果、漏れヘリウム量が0.04mlであり、極少量であった。
【0085】
[実験例10]NMT2によるガス封止性実験(エタノールアミンを使用)
実験例9とは本体部42dの表面処理方法のみを異ならせて実験を行った。本実験例では、A1050アルミニウム合金製部品(本体部42d)のNMT2用表面処理方法を異ならせた。NMT第2処理槽に使用する水溶性アミン系化合物としてエタノールアミンを使用し、浸漬条件を異ならせた。具体的には、NMT第2処理槽での使用液を、温度40℃で濃度0.15%のエタノールアミン水溶液とし、浸漬時間を1分とした。
【0086】
上記表面処理を施したA1050アルミニウム合金製の本体部41dと、底部42d、及び金属リング43dを
図5のように組み立て、140℃にした射出成形用金型にインサートし、PPS系樹脂「SGX120(株式会社 東ソー製)」を射出し、射出接合品40dを得た。次いで170℃にした熱風乾燥機に1時間入れてアニールをした。
【0087】
次いで実験例4と全く同様にして、
図8に示す測定装置を用いてガス封止性を測定した。試験開始から3日後(72時間後)のオートクレーブ130内のガスに含まれるヘリウム量を、サンプル容器160にサンプリングしたガスの分析によって算出した。その結果、漏れヘリウム量が0.04mlであり、極少量であった。
【0088】
[接合力及びガス封止性能の比較]
本発明者らはNMTを用いて、
図9に示す形状のA5052アルミニウム合金とPPS系樹脂「SGX120」の射出成形品との複合体50を20個作成し、引張り試験機で複合体50を引っ張ってせん断力を負荷し、複合体50が破断するときの破断力を測定した。その結果、せん断破断力は25〜30MPa程度であった。また、NMT2を用いて
図9に示す形状のA5052アルミニウム合金とPPS系樹脂「SGX120」の射出成形品との複合体50を20個作成し、同様の実験を行った結果、せん断破断力は25〜30MPa程度であった。従って、NMTとNMT2の接合力は同等である。一方、ガス封止性を比較すると、NMTを利用した構造体40bの漏れ速度は0.0015〜0.003ml/h)、NMT2を利用した構造体40dの漏れ速度は0.0001〜0.0002ml/hである(本体部41dがA5052アルミニウム合金製の場合)。即ちNMTとNMT2では接合力は同等であるが、ガス封止性能は10倍程度の差異がある。
【0089】
本体部41dがA1050アルミニウム合金製の場合も含めると、NMT2を利用した構造体40dの漏れ速度は0.0001〜0.0005ml/hである。これに前述した流路長(0.2cm)を乗じて、封止線長(4.71cm)で除した形状修正値は、(0.0001〜0.0005)×0.2/4.71=(4.2〜21)×10
−6ml/hとなる。一方、NMTを利用した構造体40bの漏れ速度は0.0015〜0.003ml/hである。これに前述した流路長(0.2cm)を乗じて、封止線長(4.71cm)で除した形状修正値は、(0.0015〜0.003)×0.2/4.71=(6.4〜12.7)×10
−5ml/hとなる。本発明者らが開発したNMT2を用いることによって、形状修正値が従来のNMTと比較して大幅に向上している。同じ材質(A5052)でNMTとNMT2を比較すると、ガス封止性能は前述したように10倍程度の差異がある。このように、形状修正値が3×10
−5ml/h以下となるような樹脂によるガス封止技術は従来では考えられなかった技術である。NMT2によって、常温下におけるヘリウム漏れ速度の形状修正値を3×10
−5ml/h以下にすることができる。これが本発明の特徴である。
【0090】
漏れ速度の形状修正値は少なくとも差圧1MPa程度までは差圧に比例し、試験温度にも影響されると考えられる。高温になると分子の振動や移動速度が激しくなるので、漏れ速度が増加すると推定される。本発明者らは上記試験を25〜30℃で行った。
【0091】
一方、O−リングを使用した構造体40aでは、試験開始から72時間後の漏れヘリウム量が15〜19mlであり、漏れ速度は0.21〜0.26ml/hであった。NMTとの比較で100倍程度、NMT2との比較では1000倍程度の漏れ量である。 なお、この漏れ速度をO−リングの円周長6.91cmで除した形状修正値は(0.21〜0.26/6.91)=(2.9〜3.8)×10
−2ml/cmhとなる。
【0092】
新NMTを利用した構造体40cでは、試験開始から72時間後の漏れヘリウム量は2.6〜3.9mlであり、漏れ速度は0.036〜0.054ml/hであった。このデータは、実験例6に示した新NMT用表面処理をC1100銅に施した試料での数値であり、その他の金属合金種やそれら合金種にあわせて開発した新NMT用表面処理法によっても数値は異なって来るだろう。しかしながら、新NMT用表面処理を施した金属合金表面は
図2のようになり、表面皮膜層を含む金属合金相でも樹脂相でない空隙部が点々と存在する。この空隙部はNMTでの射出接合物の断面を模式化した
図1に於ける空隙部の様子と比較すれば漏れ量や漏れ速度に悪い影響を与えるのは当然であろうと思われる。その様な見方をすれば、新NMT用処理法をした各種合金材を使用して同様な実験をした場合に得られる漏れ速度は0.01〜0.1ml/h程度の広がりがあるように思われた。
【0093】
何れにせよ、C1100銅使用時の漏れ量は、NMTでの漏れ量の10倍程度あり、NMT2の漏れ量の100倍程度であった。但し、O−リングによる締め付けと比較するとC1100銅の新NMTでの漏れ量はO−リング使用時の1/5程度となった。なお、C1100銅の新NMTでの漏れ速度に前述した流路長(0.2cm)を乗じて、封止線長(4.71cm)で除した形状修正値は、(0.036〜0.054)×0.2/4.71=(1.5〜2.3)×10
−3ml/hとなる。
【0094】
[リチウムイオン電池蓋の構造]
上記実験結果に示すように、ガス封止性に最も優れているのはNMT2であり、次にNMTである。但し、NMT及びNMT2はアルミニウム合金と樹脂を強固に射出接合させる技術である。リチウムイオン電池では引き出し電極としてアルミニウムと銅を使用している。従って、アルミニウム電極に対してNMT又はNMT2を使用可能であるとしても、銅電極に対しては新NMTを使用しなければならず、リチウムイオン電池蓋全体としてはNMT又はNMT2のガス封止性が損なわれてしまうという問題がある。新NMTであっても、O−リング方式よりガス封止性は優れているものの、銅電極での封止性の低さがアルミニウム電極側の最高の封止性を相殺してしまう。
【0095】
従って、電解液に外部湿気が長期間侵入しないようにするためには、金属と樹脂の封止部をNMT又はNMT2によって封止することが好ましい。このような観点からリチウムイオン電池蓋の構造を検討した結果、
図11のような構造が最適である。リチウムイオン電池蓋60の構造では、蓋61をアルミニウム合金製とし、この蓋61を閉じたときに設けられる貫通孔とアルミニウム電極62との空隙、この蓋61を閉じたときに設けられる貫通孔とアルミニウム合金部材61aとの空隙をPPS等の熱可塑性樹脂組成物64で封止している。銅電極63と蓋61との間には空隙が生じないように、アルミニウム合金部材61aを銅電極63の周囲に巻き付けて銅表面に食い込ませている。蓋61、アルミニウム合金部材61a、及びアルミニウム電極62にはNMT又はNMT2用の表面処理を施しているため、熱可塑性樹脂組成物64と蓋61、熱可塑性樹脂組成物64とアルミニウム電極62とは強固に接合され、且つ極めて高いガス封止性能を示す。また、銅電極63に食い込んでいるアルミニウム合金部材61aと熱可塑性樹脂組成物64もNMT又はNMT2によって強固に接合され、且つ極めて高いガス封止性能を示す。さらに、アルミニウム合金部材61aと蓋61との間の空隙も熱可塑性樹脂組成物64によって封止される。蓋61、アルミニウム合金部材61a裏面側の電解液と接触する部分は熱可塑性樹脂組成物64によって覆われている。
【0096】
この
図11に示すリチウムイオン電池蓋60の要点は使用するアルミニウム電極62の引き出し部と蓋61との空隙の封止、銅電極63の引き出し部と蓋61との空隙の封止を、いずれもNMT又はNMT2によって行うことにある。リチウムイオン電池蓋60のうち、ガス封止性に劣るのは銅電極63の周囲である。そこで、銅電極63の周囲を巻くような形状のアルミニウム合金構造を一旦作成し、巻き付けたアルミニウム合金を銅電極63に密着させ、更にプレスや鍛造法でアルミニウム合金を銅電極63に食い込ませる。それから所定形状に機械加工してアルミニウム合金部材61a付きの銅電極63を作成する。次いでアルミニウム電極62、アルミニウム合金部材61a付きの銅電極63、アルミニウム合金製の蓋61の3部材に対して、NMT又はNMT2用の表面処理を施し、射出成形金型に3部材をインサートし、例えばPPS系樹脂である熱可塑性樹脂組成物64を射出し、
図11に示す構造のリチウムイオン電池蓋60を得る。これにより、ガス封止性はO−リングによる封止と比較して大幅に向上する。
図11に示す構造により、電池組立て時の電解液組成を長期間維持できるようになり、電池寿命を延ばすことが可能になる。