(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728082
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】トブラマイシンおよびデキサメタゾンを含む局所用眼用懸濁液
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7036 20060101AFI20150514BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20150514BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20150514BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20150514BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20150514BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20150514BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20150514BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20150514BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20150514BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
A61K31/7036
A61K31/573
A61P29/00
A61P27/02
A61P31/00
A61K47/36
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/10
A61K9/10
【請求項の数】15
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-516553(P2013-516553)
(86)(22)【出願日】2010年6月23日
(65)【公表番号】特表2013-529632(P2013-529632A)
(43)【公表日】2013年7月22日
(86)【国際出願番号】US2010039618
(87)【国際公開番号】WO2011162752
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2013年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】508185074
【氏名又は名称】アルコン リサーチ, リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】カブラ, バグワティ ピー.
【審査官】
杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−510654(JP,A)
【文献】
MCCORMICK C,EFFECTIVENESS OF A NEW TOBRAMYCIN (0.3%) AND DEXAMETHASONE (0.05%) FORMULATION 以下備考,CURRENT MEDICAL RESEARCH AND OPINION,英国,INFORMA HEALTHCARE,2008年 6月 1日,V24 N6,P1569-1575,IN THE TREATMENT OF EXPERIMENTAL PSEUDOMONAS KERATITIS
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所用眼用組成物であって、該組成物は、
0.1から0.5w/v%のトブラマイシン;
0.03から0.1w/v%のデキサメタゾン;
0.3から0.9%の濃度で脱アセチル化キサンタンガムを含む、水性の眼科学的に許容されるビヒクル;および
1つ以上のイオン化可能な種であって、該組成物のインビトロ粘度が6sec−1のせん断速度および25℃の温度において10から700cpの範囲内に維持されるように、該トブラマイシンおよび該脱アセチル化キサンタンガムの間のイオン性相互作用を制限するのに十分な量の、1つ以上のイオン化可能な種
を含み、
5から6のpHを有し、該脱アセチル化キサンタンガムが2%未満の結合アセテートを含む、組成物。
【請求項2】
前記1つ以上のイオン化可能な種が、無機電解質、有機緩衝剤、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記1つ以上のイオン化可能な種が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸/マンニトール複合体、ホウ酸/ソルビトール複合体、およびその 組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記イオン化可能な種が、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物のインビトロ粘度が、10から300cpの範囲内にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、25から175cpの初期粘度を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、0.01から0.65のインビトロ/インビボ粘度比を有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記1つ以上のイオン化可能な種が、無機電解質、有機緩衝剤、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記1つ以上のイオン化可能な種が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸/マンニトール複合体、ホウ酸/ソルビトール複合体、およびその 組み合わせからなる群より選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記イオン化可能な種が、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、0.3w/v%の濃度のトブラマイシン、0.6w/v%の濃度のキサンタンガム、および0.05w/v%の濃度のデキサメタゾンを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物のpHが、約5.7である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
感染または感染のリスクのいずれかが存在する、眼の炎症性状態を処置するための、請求項1に記載の組成物であって、治療上有効な量の前記組成物は罹患した眼に局所付与されることを特徴とする、組成物。
【請求項14】
感染または感染のリスクのいずれかが存在する、眼の炎症性状態を処置するための、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記脱アセチル化キサンタンガムが1%未満の結合アセテートを含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、眼用抗感染性/抗炎症性組成物、および哺乳類、特にヒトにおける関連する処置方法に関する。より具体的には、本発明は、トブラマイシンおよびデキサメタゾンを含む、新規の眼用抗感染性/抗炎症性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼の感染および付随する炎症を処置するために、トブラマイシンおよびデキサメタゾンを組み合わせて使用することが公知である。同様に、例えば眼の外科的手順と組み合わせて、炎症を処置する、および感染を予防的に処置する(すなわち、予防または寛解させる)ために、これらの化合物を組み合わせて使用することも公知である。この型の製品は、Alcon Laboratories,Inc.によって米国および他の国々において、TOBRADEX(登録商標)(トブラマイシン0.3%/デキサメタゾン0.1%)眼用懸濁液(トブラデックス点眼液)として市販されている。この製品は、米国において1988年から利用可能であった。それは長年にわたって、最先端の眼用抗感染性/抗炎症性製品であることが広く受け入れられてきた。TOBRADEX(登録商標)ブランドの眼用懸濁液の組成に関するさらなる詳細は、特許文献1において提供される。
【0003】
本発明は、眼への局所投与のための、改善されたトブラマイシン/デキサメタゾン組成物の提供に関する。特に、本発明は、キサンタンガムを含み、そして5から6の範囲のpHを有する組成物の提供に関する。製造のときに、および使用前の容器における保存中の組成物の粘度は、使用するキサンタンガムの濃度に基づいて通常予測されるよりもかなり低い。この使用前の粘度の低下は、組成物を患者へ投与する場合、点眼ボトル(例えばDROPTAINER
TM、Alcon Laboratories,Inc.)または他の容器からの組成物の投薬と比較して有利である。製造のときおよび眼への投与前の保存中の組成物の粘度の低下は、5から6のpHで起こる、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用に起因する。それらの相互作用は、もし制御されなければ、トブラマイシンおよびキサンタンガムの集塊の形成および/またはキサンタンガムの沈殿を引き起こす。本発明は、部分的には、トブラマイシン/キサンタンガム相互作用の制御において有効であることが示された、処方成分およびパラメーターの発見に基づく。
【0004】
上記で示したように、本発明の組成物は、キサンタンガムを含む。眼用組成物の成分としてキサンタンガムを使用することは、特許文献2;特許文献3;特許文献4;および特許文献5において記載されている。特許文献3の特許は、トブラマイシンと組み合わせたキサンタンガムの使用を記載する。それは、キサンタンガムおよびトブラマイシンは、5.0から7.8のpHで不相溶性であることを示し、そしてトブラマイシン/キサンタンガム組成物を、7.9から8.6の範囲のpHを有するように処方することによって、この不相溶性の問題が回避され得ることを教示する。特許文献3の特許に記載された発明に基づく製品が、ヨーロッパおよび他の数カ国で、Alcon Laboratories,Inc.の系列会社によって市販されている。
【0005】
特許文献4および特許文献5の特許は、眼への局所投与のときにゲル化する、非ゲル化液体として処方されたキサンタンベースの眼用組成物を記載する。特許文献4および特許文献5の特許の組成物は、その全イオン強度が約120mMまたはそれより低く、および好ましくは約94mMまたはそれより低くなるように処方される。約120mMより高い全イオン強度を有する特許文献4および特許文献5の特許の組成物は、眼との接触のときにゲル化しない。特許文献4および特許文献5の特許の組成物は一般的に粘稠性であり、そして眼への局所投与のときにゲル化する。対照的に、本発明の組成物は一般的に、ボトル中でより低い粘度を有するが、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間の相互作用が壊れるので、眼への投与後に粘度が有意に増加する。
【0006】
本発明のトブラマイシン/デキサメタゾン組成物は、5から6のpHで処方される。このpH範囲は、デキサメタゾンの安定性を維持するために必要である。眼用トブラマイシン/デキサメタゾン組成物のためにこの範囲のpHを使用することは、特許文献1において記載されている。TOBRADEX(登録商標)(トブラマイシン0.3%/デキサメタゾン0.1%)眼用懸濁液も、この範囲のpHを有する。
【0007】
本発明は、改善されたトブラマイシン/デキサメタゾン処方物、特にトブラマイシンおよびデキサメタゾンの媒体としてキサンタンガムを使用することによって、眼への局所投与のときにトブラマイシンおよび/またはデキサメタゾンの増強された生物学的利用能を提供する組成物を生成するための努力から生じた。しかし、上記で記載したように、5から6のpHにおけるトブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用は、キサンタンガムの集塊および/または沈殿を引き起こすことが発見された。それに加えて、キサンタンガムは保存中にゆっくりと脱アセチル化を受け、それによって安定性の問題を生じることが発見された。下記でより詳細に説明するように、本発明は、これらの問題に対する解決の発見に基づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,149,694号明細書
【特許文献2】米国特許第4,136,177号明細書
【特許文献3】米国特許第6,352,978号明細書
【特許文献4】米国特許第6,174,524号明細書
【特許文献5】米国特許第6,261,547号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トブラマイシンおよびデキサメタゾンを含み、そしてヒト患者の眼への局所投与に適切な、改善された薬学的組成物の提供に関する。本発明の組成物は、部分的には、デキサメタゾンの安定性を維持しながら、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用を制御する処方パラメーターの発見に基づく。それらの相互作用の制御は、本発明者らが、非常に有利な物理的性質を有する組成物を提供することを可能にした。より具体的には、本発明の組成物は、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間の、制御された相互作用の結果として、有利な流体力学的性質を有し、そしてそれらの性質は、眼に局所的に投与された薬物、特にトブラマイシンおよびデキサメタゾンの生物学的利用能を増強する。それに加えて、その組成物は、中でデキサメタゾンが比較的不溶性である形態の懸濁液(すなわちデキサメタゾンアルコール)と比較して有意な改善を提供し、患者がたまに眼への投与の前に組成物を含むボトルを振るという指示に従わなかったとしても、組成物中に懸濁したデキサメタゾンの利用能は有意に減少しない。
【0010】
本発明において使用される濃度のキサンタンガムを含む溶液または懸濁液は、通常非常に粘稠性である。下記でより詳細に説明するように、本発明は、部分的には、陽イオン分子であるトブラマイシンが、陰性に荷電したキサンタンガム分子とイオン的に相互作用し、それによって組成物の粘度を低下させるという発見に基づく。眼への投与のときに、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用の破壊の結果として、本発明のトブラマイシン/キサンタンガム組成物の粘度は回復し(すなわち増加し)、それによって眼での保持の増加および眼での生物学的利用能の増強を引き起こす。しかし、組成物の製造中、および使用前の組成物の保存中、沈殿および集塊の形成を回避するために、および組成物中でのキサンタンガムの均一な分散を維持するために、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用を制御しなければならない。本発明は、部分的には、デキサメタゾンの安定性を維持しながら、製造および保存期間中のトブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用を制御する処方特徴およびパラメーターの同定に基づく。
【0011】
トブラマイシンは陽性に荷電した分子であり、一方キサンタンガムは陰性に荷電している。酸性pHにおいて水溶液または懸濁液中で組み合わせた場合、トブラマイシンはキサンタンガムを沈殿させるか、または集塊を形成させる。そのような沈殿または集塊は、2つの面で容認できない。まず、トブラマイシンおよびキサンタンガムは、もはや組成物中で均一に分布していない。適切なボトルまたは他の容器から投与されるときに、その組成物の各滴は、均一なおよび予測可能な量の、組成物の成分、特に活性成分を提供しなければならないので、これは容認できない。2番目に、キサンタンガムに対するトブラマイシンの沈殿または集塊効果は、その組成物に対するキサンタンガムの粘度増強効果の喪失を引き起こし、組成物の粘度は水と同等の値(すなわち約1センチポイズ)に逆戻りし得る。
【0012】
米国特許第6,352,978号は、部分的には、これらのイオン性相互作用は、アルカリ性pH(すなわち、8.0またはより高いpH)を利用することによって制御され得るという発見に基づく。しかし、デキサメタゾンはこのpHレベルにおいて不安定であるので、本発明のトブラマイシン/デキサメタゾン組成物において、アルカリ性pHを使用することは不可能である。デキサメタゾンは5から6のpHにおいて安定であるが、このpHにおいて陰性に荷電したキサンタンガムおよび陽性に荷電したトブラマイシンは相互作用して物質の沈殿および/または集塊を形成する。
【0013】
本発明者らは、沈殿または塊の形成を回避し、そして本トブラマイシン/デキサメタゾン懸濁液または溶液の粘度を、眼への投与前に許容可能な範囲内に維持するために、上記で議論した問題が、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用を制御するためのイオン種を使用することによって克服され得ることを発見した。この制御は、キサンタンガムまたはトブラマイシンと結合するイオン種を含み、それによってこれらの化合物間の直接的な相互作用を抑制することによって達成される。この目的のために使用するイオン種は、5から6の範囲のpHで陰イオンおよび陽イオンに解離する、あらゆる薬学的に許容可能な剤であり得るが、好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、または硫酸ナトリウムのような、無機電解質または有機緩衝剤である。
【0014】
眼への投与のときに、キサンタンガムおよびトブラマイシンの間の複合体の破壊のために、本発明の組成物の粘度が回復する。すなわち、眼への投与のときに、本発明の組成物の粘度は増加し、それによって組成物が角膜表面に保持される時間の長さを増加させ、そして眼の生物学的利用能を増強する。例えば、この増強された眼の生物学的利用能の結果として、本発明の組成物中のわずか0.05w/v%のデキサメタゾン濃度が、TOBRADEX(登録商標)眼用懸濁液中の0.1w/v%のデキサメタゾン濃度と生物学的に同等である。
【0015】
本発明はまた、部分的には、本発明のキサンタンガムベースの組成物は優れた懸濁性質を有するという発見に基づく。より具体的には、デキサメタゾン粒子は本発明の組成物中で、以前のTOBRADEX(登録商標)処方物と比較して、有意により長く懸濁液のままである。この改善は特に、全ての眼用懸濁液組成物にあてはまる、「使用前によく振る」という指示を時々忘れる、または見過ごす患者に関して、重要な利点を提供する。
【0016】
本発明はまた、部分的には、キサンタンガムは、少なくとも部分的に脱アセチル化されている場合、本発明の組成物において、粘度増強剤としてはるかにより有効であるという発見に基づく。より具体的には、キサンタンガムは、水溶液においてゆっくりと脱アセチル化を受ける。そのような脱アセチル化は、組成物のpHをさらに低下させ、それによってトブラマイシンおよびデキサメタゾンの間のイオン性相互作用を増加させることが決定された。これらの相互作用は、最初は粘度の喪失を引き起こし、そして最終的にキサンタンガムおよびトブラマイシンの集塊および/または沈殿を引き起こす。本発明者らは、本発明の組成物に含む前にキサンタンガムを脱アセチル化することによって、この問題を克服し得ることを決定した。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
局所用眼用組成物であって、該組成物は、
0.1から0.5w/v%のトブラマイシン;
0.03から0.1w/v%のデキサメタゾン;
0.3から0.9%の濃度で脱アセチル化キサンタンガムを含む、水性の眼科学的に許容されるビヒクル;および
1つ以上のイオン化可能な種であって、該組成物のインビトロ粘度が6sec−1のせん断速度および25℃の温度において10から700cpの範囲内に維持されるように、該トブラマイシンおよび該脱アセチル化キサンタンガムの間のイオン性相互作用を制限するのに十分な量の、1つ以上のイオン化可能な種
を含み、
5から6のpHを有する、組成物。
(項目2)
前記1つ以上のイオン化可能な種が、無機電解質、有機緩衝剤、およびその組み合わせからなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記1つ以上のイオン化可能な種が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸/マンニトール複合体、ホウ酸/ソルビトール複合体、およびその組み合わせからなる群より選択される、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記イオン化可能な種が、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、およびその組み合わせからなる群より選択される、項目3に記載の組成物。
(項目5)
前記組成物のインビトロ粘度が、10から300cpの範囲内にある、項目1に記載の組成物。
(項目6)
前記組成物が、25から175cpの初期粘度を有する、項目5に記載の組成物。
(項目7)
前記組成物が、0.01から0.65のインビトロ/インビボ粘度比を有する、項目6に記載の組成物。
(項目8)
前記1つ以上のイオン化可能な種が、無機電解質、有機緩衝剤、およびその組み合わせからなる群より選択される、項目7に記載の組成物。
(項目9)
前記1つ以上のイオン化可能な種が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸/マンニトール複合体、ホウ酸/ソルビトール複合体、およびその組み合わせからなる群より選択される、項目8に記載の組成物。
(項目10)
前記イオン化可能な種が、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、およびその組み合わせからなる群より選択される、項目9に記載の組成物。
(項目11)
前記組成物が、0.3w/v%の濃度のトブラマイシン、0.6w/v%の濃度のキサンタンガム、および0.05w/v%の濃度のデキサメタゾンを含む、項目1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
(項目12)
前記組成物のpHが、約5.7である、項目11に記載の組成物。
(項目13)
感染または感染のリスクのいずれかが存在する、眼の炎症性状態を処置する方法であって、治療上有効な量の項目1に記載の組成物を、罹患した眼に局所付与する工程を含む、方法。
(項目14)
感染または感染のリスクのいずれかが存在する、眼の炎症性状態を処置する方法であって、治療上有効な量の項目11に記載の組成物を、罹患した眼に付与する工程を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例3で記載したような、本発明の代表的な処方物の粘度に対する塩化ナトリウム濃度の影響を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例3で記載したような、本発明の代表的な処方物の粘度に対するpHの影響を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例3で記載したような、本発明の代表的な処方物の粘度に対する、7.4のpHを有するリン酸緩衝化食塩水の影響を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例4で記載したような、塩化ナトリウム当量濃度および粘度の間の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例5で記載したような、先行技術の処方物と比較した、本発明の3つの代表的な処方物に関する眼の生物学的利用能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の組成物は、0.1から0.5重量/体積パーセント(w/v%)、好ましくは0.3w/v%の濃度のトブラマイシン;0.03から0.1w/v%、好ましくは0.05w/v%の濃度のデキサメタゾン;0.3から0.9w/v%、好ましくは0.6w/v%の濃度の脱アシル化(deacylated)キサンタンガムを含む水性媒体;および製造日から18ヶ月の間、懸濁液の粘度が10から700センチポイズ(「cp」)、好ましくは10から300cpの範囲内に維持されるように、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間の相互作用を制限するのに十分な量のイオン種、を含む、滅菌水性懸濁液として処方される。その懸濁液は、5から6の範囲のpHを有する。
【0019】
本発明において使用されるイオン種は、5から6の範囲のpHで陽イオン成分および陰イオン成分に解離する、あらゆる薬学的に許容可能な化合物であり得る。その化合物は、無機化合物または有機化合物であり得るが、好ましくは無機電解質、有機緩衝剤、またはその組み合わせである。そのようなイオン種の例は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸/マンニトール複合体、ホウ酸/ソルビトール複合体、およびその組み合わせを含む。
【0020】
本発明の組成物中に存在するイオン化可能な種の全量は、組成物の粘度に影響を与える。その組成物は、上記で特定した粘度の範囲を超えることなく、組成物中の沈殿または集塊の形成を回避するように、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用を抑制または排除するのに十分な量で、1つ以上のイオン化可能な化合物を含まなければならない。従ってその組成物は、少なくとも10cpの製造のときにおける粘度(本明細書中で「初期粘度」と呼ばれる)を有する組成物を提供するのに十分な量で、好ましくは15cpまたはそれより高い初期粘度を提供するのに十分な量で、および最も好ましくは25cpまたはそれより高い初期粘度を提供するのに十分な量で、イオン種を含まなければならない。その組成物の初期粘度は、好ましくは25から175cpの範囲にある。
【0021】
イオン強度および粘度に対するイオン種の影響は、選択された特定のイオン種に依存する。例えば、イオン強度および粘度に対する硫酸ナトリウムの影響は、塩化ナトリウムの影響より約5.3倍強い。異なるイオン化塩の相対的な影響が、本明細書中で特定されたpH範囲、トブラマイシン濃度、キサンタンガム濃度、および粘度範囲内で、日常的な実験によって決定され得る。本発明の組成物に関する限り、唯一の決定的なパラメーターは、イオン化可能な塩の量は、組成物の粘度を700cp、またはより好ましくは300cpより上に増加させることなく、トブラマイシンおよびキサンタンガムの沈殿または集塊の形成を回避するために十分でなければならないということである。
【0022】
本発明の眼用懸濁液の粘度は、組成物からの水分の喪失のために、経時的にいくらか増加し得る。従ってその懸濁液は、18ヶ月の間、その粘度を10から700cp、好ましくは10から300cpの範囲内に維持するように処方される。製造のときから眼への投与までの、本発明の組成物の粘度は、本明細書中で、その組成物の「インビトロ粘度」と呼ばれる。
【0023】
本明細書中で表される粘度の値は、約6sec
−1のせん断速度および25℃の温度における、Brookfield粘度計の使用に基づく。約6sec
−1のせん断速度は、1分あたり3回転(「rpm」)でのスピンドルCP−52、1.5rpmでのスピンドルCP−51、1.5rpmでのスピンドルCP−42、または3rpmでのスピンドルCP−41使用することにより、達成され得る。スピンドルCP−52およびCP−51は、典型的には300センチポイズ(「cp」)より高い粘度を測定するために使用される。スピンドルCP−42およびCP−41は一般的に、典型的には300cp未満の粘度を測定するために使用される。
【0024】
上記で示したように、本発明の組成物の粘度は、眼への投与のときに回復し、局所眼球投与後の組成物の粘度は、容器中での保存中、製造後、および眼への投与前の粘度より高い。この増加は、その少量(すなわち1または2滴)がヒトの眼の涙液(すなわち涙)と接触した場合に、組成物のpHおよびイオン強度のシフトによって引き起こされる。すなわち、涙液中の電解質が、組成物のpHおよびイオン強度を増加させ、それが組成物の粘度を増加させ、それによって組成物の眼における保持および生物学的利用能を増強する。
【0025】
インビボで、すなわち眼への投与後に、本発明の組成物の粘度を測定することは、容易に可能ではない。しかし、下記で説明するシミュレートされたインビボ粘度モデルが、インビボにおける本発明の組成物の粘度に対する涙液の影響を評価するために利用され得る。インビボにおける(すなわち眼への局所投与後の)本発明の組成物の粘度は、少量の以下のリン酸緩衝化食塩水を組成物へ加えることによってシミュレートされる:
【0026】
【表1】
上記で記載したリン酸緩衝化食塩水(「PBS溶液」)の、本発明の組成物への追加は、組成物の粘度に対する涙液の影響をシミュレートする。1対10の比で、すなわち10部の本発明のトブラマイシン/デキサメタゾン/キサンタンガム組成物あたり、1部のPBS溶液の比で、そのPBS溶液をその組成物に加える。
【0027】
本明細書の目的に関して、本発明の組成物の実際のインビボ粘度は、そのような組成物のシミュレートされたインビボ粘度と同じであると仮定する。従って、本明細書中で「インビボ粘度」に対する全ての言及は、「シミュレートされたインビボ粘度」と交換可能である。本明細書中で「シミュレートされたインビボ粘度」および「インビトロ/インビボ粘度比」に対する全ての言及は、上記で記載した粘度測定手順およびシミュレートされたインビボ粘度モデルの使用に基づく。
【0028】
眼への投与前の本発明の組成物の粘度の、その1滴を眼へ投与した後の同じ組成物の粘度に対する比を、本明細書中で「インビトロ/インビボ粘度比」と呼ぶ。本発明の組成物は、好ましくは1/100から65/100または0.01から0.65の範囲のインビトロ/インビボ粘度比を有する。
【0029】
前述の比はまた、パーセンテージに関して、すなわちインビトロ粘度をシミュレートされたインビボ粘度で割って100をかけたもので表され得る。従ってシミュレートされたインビボ粘度に対するインビトロ粘度の比に関する前述の範囲は、本発明の組成物のインビトロ粘度が、当該組成物のシミュレートされたインビボ粘度の1%から65%である範囲と等価である。
【0030】
相対的な粘度値はまた、インビトロ粘度に対するインビボ粘度の比として表し得る。本発明の組成物は、好ましくは100/1から100/65のインビボ/インビトロ粘度比を有し、それは組成物のインビボ粘度が、当該組成物のインビトロ粘度より約1.5から100倍高い範囲と等価である。
【0031】
本発明の滅菌眼用懸濁液で利用されるトブラマイシン、デキサメタゾン、およびキサンタンガムは、公知の化合物であり、そして様々な供給源から容易に入手可能である。デキサメタゾンアルコールのような、デキサメタゾンの非塩形態が好ましい。しかし、デキサメタゾンリン酸ナトリウムのような、デキサメタゾンの塩形態も使用し得る。デキサメタゾン塩を選択する場合、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用を制御するために必要なイオン化可能な種の濃度を決定する場合に、デキサメタゾン塩の解離のときに形成されるイオンによって寄与されるイオン強度を考慮しなければならない。
【0032】
医薬品グレードのキサンタンガムが使用されるべきである。そのキサンタンガムは、好ましくは、使用の前にポリッシングろ過するべきである。適切なろ過技術の選択は、当業者によって容易に決定され得る。上記で議論したように、そのキサンタンガムは、保存の間、本発明の懸濁液の安定性を増強するために、脱アセチル化されなければならない。キサンタンガムのアセテート含有量は、キサンタンガムに結合したアセテートに基づく。そのアセテート含有量は、典型的には、重量に基づいてキサンタンガムのパーセントとして表される。キサンタンガムの原材料は、典型的には6%までの結合アセテートを有する。本発明で使用される脱アセチル化キサンタンガムは、2%未満の結合アセテート、および好ましくは1%未満の結合アセテートを含む。キサンタンガムを脱アセチル化することの重要性および脱アセチル化が行われ得るプロセスは、下記の実施例1および2においてさらに説明される。
【0033】
上記で示したように、本発明の組成物は、5から6のpHを有する。その組成物はまた、眼科学的に許容可能な浸透圧を有し、それは典型的には水1キログラムあたり200から400ミリオスモル(mOsm/kg)の範囲にある。組成物のpHを5から6の特定した範囲に維持するために適切な緩衝剤を選択する場合、および/または浸透圧調整剤を選択する場合、そのような剤の、組成物のイオン化可能な種の含有量に対する影響が考慮されなければならない。例えば、浸透圧を調整する目的のために加えた塩化ナトリウムが、イオン種濃度を許容可能なレベルを超えて(すなわち標的粘度値と比較して)増加させるなら、塩化ナトリウムの全てまたは一部を、プロピレングリコールのような非イオン性浸透圧調整剤と置き換える必要があり得る。
【0034】
本発明の組成物は、抗菌保存剤(例えば塩化ベンザルコニウム)および湿潤剤のような、眼用薬学的組成物において典型的に使用される、様々な他の成分を含み得る。その組成物は、好ましくは複数用量製品として処方および包装されるが、従来の抗菌保存剤無しに処方され、そして密封された単位用量バイアルにも包装され得る。
【0035】
本発明の組成物は、感染または感染のリスクのいずれかが存在する、眼の炎症性状態の処置に有用である。本明細書中で使用する場合、「処置」という用語は、存在する状態の積極的な処置、および状態(例えば感染)を発症するリスクのある患者の予防的処置の両方を含む。本発明の組成物は、外傷から起こる眼の損傷に関連する眼の炎症、および眼の外科的手順(例えば白内障手術、網膜の手術、LASIK手術)および眼内注射(例えば眼球後注射、後方強膜近傍注射(posterior juxtascleral injection)、および前方強膜近傍注射)に関連する炎症の処置に特に有用である。
【0036】
そのような処置を、少量(例えば1から2滴)の本発明の組成物を、1日あたり2から4回、患者の罹患した片方または両方の眼に付与することによって行われ得る。しかし、用量および投与頻度の両方は、臨床医により変更され得る。
【0037】
トブラマイシン以外の選択された少数の治療剤が、実質的にトブラマイシンと同じ方式でキサンタンガムと相互作用し得、そして本発明において使用され得ることが企図される。理論に拘束されることなく、分子内に2つ以上の陽性または陽イオン性電荷を有する治療剤分子は、トブラマイシンと同じ方式でキサンタンガムと相互作用し得ると考えられる。さらに、理論に拘束されることなく、フルオロキノロン治療剤のかなりの部分が、トブラマイシンと類似の方式でキサンタンガムと相互作用し得ると考えられる。1つの例として、発明者らは、イオン種を使用してモキシフロキサシンおよびキサンタンガムの間の相互作用を制御して、上記で議論したものと実質的に同様のインビトロ/インビボ粘度比を生じ得ることを発見した。
【実施例】
【0038】
実施例1
脱アセチル化されていないキサンタンガムを使用した、トブラマイシン/デキサメタゾン/キサンタンガム処方物の調製を下記で説明する。できた処方物の安定性も、下記で説明するように評価した。
【0039】
キサンタンガムストック溶液の調製
熱湯を容器に加えた。キサンタンガムを計量し、そして混合しながら容器にゆっくりと加えた。その温度を60℃に調節し、そしてキサンタンガムおよび水を均一になるまで混合した。精製水を加えて、組成物を最終的な標的重量にし、そして均一になるまで混合した。適切なポリッシングフィルター、例えば1.2μmフィルターを通してろ過する前に、その温度を70℃まで上げた。
【0040】
キサンタンガムストック溶液を用いたトブラマイシン/デキサメタゾン処方物の調製
下記の表1Aで明記した量のトブラマイシン、塩化ナトリウム、ホウ酸およびエデト酸二ナトリウムを、一回分の精製水に加え、そして溶解させた。塩酸または硫酸を加えて、pHを低下させた。チロキサポールおよびデキサメタゾンを、スラリーまたは粉末として加えた。バッチ量のキサンタンガムストック溶液を加え、そしてよく混合した。1Nの塩酸または1Nの硫酸を加えて、標的pHにした。精製水を加えて最終的な体積にし、そしてよく混合した。できた処方物の粘度を、6sec
−1のせん断速度で測定した。それぞれの粘度値を、下記の表1Aに示す。
【0041】
【表1A】
表1Aに記載した処方物に、加速安定性試験を行った。下記の表1Bに示すように、脱アセチル化されていないキサンタンガムを用いて調製した処方物のpHおよび粘度は、保存のときに低下する。これは最終的にその処方物を使用不可能にする。具体的には、その懸濁液の均一な性質が失われた。
【0042】
【表1B】
実施例2
脱アセチル化キサンタンガムの使用を含む、本発明の原理によるトブラマイシン/デキサメタゾン処方物の調製を、下記で説明する。
【0043】
キサンタンガムストック溶液の調製および塩基による前処理
熱湯を容器に加えた。キサンタンガムを計量し、そして混合しながらゆっくりと容器に加えた。キサンタンガム1gあたり2.5mlの1N NaOHまたは等価物を加え、そして次いで20分間混合した。次いでキサンタンガム1gあたり1.66mlの1N HClまたは等価物を加えた。標的重量に調節するために精製水を加え、続いて15分間混合した。次いで脱アセチル化キサンタンガムを、適切なフィルター、例えば1.2μmのフィルターを通してろ過した。
【0044】
前処理したキサンタンガムストック溶液を用いたトブラマイシン/デキサメタゾン処方物の調製
明記した量のトブラマイシン、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、およびプロピレングリコールを、一回分の精製水に加え、続いてチロキサポールおよびデキサメタゾンをスラリーまたは粉末として加えた。1Nの塩酸を用いて、pHを、標的pHよりわずかに高いpHに調節した。次いで上記で記載した脱アセチル化キサンタンガムストック溶液を加え、そしてできた懸濁液をよく混合した。pHを、HClおよび/またはNaOH溶液で、標的レベルまで調節し、そして処方物の粘度を測定した。
【0045】
【表2A】
下記の表2Bに示すように、脱アセチル化キサンタンガムを含む処方物108536のpHの値は、実施例1の処方物107201および107209と異なり、保存のときにかなり安定であった。結果として、処方物108536の粘度は、実施例1のように減少するのではなく、安定なままであるか、または増加した。
【0046】
【表2B】
実施例3
本発明の組成物の初期粘度に対するトブラマイシンの影響、およびその組成物を眼に投与したときの粘度の回復を、本明細書中でさらに説明する。上記の表2Aで記載した処方物番号108536の異なるロットであり、そして本発明の組成物の代表的なものである、下記の表3Aに示す処方物を、脱アセチル化キサンタンガムを用いて調製した。その処方物の初期粘度を、6sec
−1のせん断速度で測定し、そして42cpであると決定した。
【0047】
【表3A】
トブラマイシンの省略以外は表3Aに示した処方物と同一である2番目の処方物も調製した。その2番目の処方物は、836cpの初期粘度を有すると決定した。
【0048】
pHのわずかな上昇、または少量のイオン(例えば塩化ナトリウム、リン酸緩衝液)の添加は、トブラマイシンおよびキサンタンガムの間のイオン性相互作用を抑制し、それによって処方物の粘度を回復させる。この現象を、
図1〜3において図表で示す。
図1は、表3Aで記載した処方物の粘度が、0.2gの塩化ナトリウムを100mLのその処方物に加えたときに、42cpから1,000cp超まで増加することを示す。
図2は、その処方物の粘度が、pH5.7における42cpから、pHを6.2に上向きに調節した場合に1,100cp超まで、およびpHが6.4の場合1,300cpまで増加することを示す。
図3は、その処方物の粘度が、10mLの上記で記載したPBS溶液を100mLの懸濁液に加えたときに、42cpから1,059cpまで増加することを示す。
【0049】
表3Aに示した処方物からトブラマイシンを除去した場合、その処方物の粘度は、PBS溶液と混合した後に増加しなかった。具体的には、トブラマイシンを含まない、改変されたバージョンの処方物は、10mlのリン酸緩衝化食塩水を100mlのその処方物に加えた場合、667cpの粘度を有すると決定された。言い換えると、改変された処方物の粘度は、リン酸緩衝化食塩水の添加後、836cpの初期粘度から、667cpのシミュレートされたインビボ粘度まで実際には低下した。
【0050】
実施例4
下記で議論および説明するように、本発明の組成物の粘度は、組成物のイオン強度およびpH、およびそれぞれ0.1から0.5w/v%および0.3から0.9w/v%の明示された範囲内で選択されるトブラマイシンおよびキサンタンガムの量によって影響される。表4A〜4Eで示すその処方物および関連するデータは、これらの因子の相互作用をさらに例証および説明するために提供される。
【0051】
処方物A〜Dおよびこれらの組成物のそれぞれの粘度値の比較は、キサンタンガムを0.6w/v%の濃度で含む組成物の粘度に対するトブラマイシンの影響を示す。具体的には、トブラマイシンを0.3w/v%の濃度で含む処方物Aは、15センチポイズ(「cp」)の初期粘度を有し、一方トブラマイシンの欠如以外は処方物Aと同一である処方物Cは、919cpの初期粘度を有する。従って、処方物Aにおけるトブラマイシンの存在は、組成物の粘度の低下に寄与している。このトブラマイシンの影響はまた、処方物BおよびDの比較に基づいても明らかである。(処方物AおよびBはデキサメタゾンを含まないが、他は代表的な本発明のトブラマイシン/デキサメタゾン組成物の例である。処方物CおよびDは、比較の目的のために提供され、そして本発明の組成物の代表的な例ではない。)
処方物Aの粘度は、好ましいイオン化可能な種である、23.9mM(0.34%)の硫酸ナトリウムを含むことによって安定化される。処方物Aはまた、脱アセチル化キサンタンガムストック溶液が、脱アセチル化工程の間に水酸化ナトリウムおよび塩酸の添加によって形成された塩化ナトリウムを含むので、約10mMの塩化ナトリウムを含む。EDTA(エデト酸二ナトリウム)および塩化ベンザルコニウムからのイオン性の寄与は、それらの濃度が非常に低いので、わずかである。
【0052】
処方物Bの粘度は、これも好ましいイオン化可能な種である、138.2mMの塩化ナトリウムを含むことによって安定化される。
【0053】
本発明の組成物の粘度は、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムを用いて安定化され得る。しかし、必要な硫酸ナトリウムの濃度は、塩化ナトリウムの濃度よりはるかに低い。約1mMの硫酸ナトリウムが、5.3mMの塩化ナトリウムと等価である。これは、実施例A、B、およびEからLによって示される。
【0054】
処方物A、BおよびEからLの粘度対塩化ナトリウム当量イオン濃度が、
図4にプロットされる。これらの処方物のための塩化ナトリウム当量イオン濃度を、「塩化ナトリウム濃度(mM)+5.3硫酸ナトリウム濃度(mM)」と定義する。0.3%のトブラマイシンおよび0.6%のキサンタンガムを含む処方物の粘度は、塩化ナトリウム当量イオン濃度が増加するにつれて増加する。その粘度は、134から150mMの塩化ナトリウム当量イオン濃度範囲に関して、10から300cpの好ましい範囲にある。
【0055】
塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムの代わりに、他のイオン化可能な種が使用され得る。好ましいイオン化される塩は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および塩化マグネシウムである。異なるイオン化される種は、塩化ナトリウム当量濃度を決定するために、異なる係数(硫酸ナトリウムでは5.3)を必要とする。この係数は、異なる比の塩化ナトリウムおよび他の塩でサンプルを作製することによって決定され得る。次いでそれらのサンプルの粘度結果を分析して、塩化ナトリウム当量濃度を決定するための係数を決定し得る。この係数は、多価イオンを有する塩のものより高い。
【0056】
所定の活性部分およびその濃度に関して、比較的低い粘度を生じる塩化ナトリウム当量イオン濃度範囲は、pHおよびキサンタンガム濃度に依存する。0.3%のトブラマイシン溶液に関して、処方物MおよびNは、5.75のpHにおけるものと比較して、より低い5.5のpHにおいて同様の粘度を生じるためには、より高い塩化ナトリウム当量イオン濃度が必要であることを示す。
【0057】
処方物O、PおよびQは、固定したpH(5.5)において、キサンタンガム濃度が0.6%から0.9%へ増加するにつれて、より低い塩化ナトリウム当量イオン濃度が必要であることを示す。
【0058】
【表4A】
【0059】
【表4B】
【0060】
【表4C】
【0061】
【表4D】
【0062】
【表4E】
実施例5
ウサギ生物学的利用能試験結果
本発明の3つの代表的な組成物の眼の生物学的利用能を、TOBRADEX(登録商標)(トブラマイシン0.3%/デキサメタゾン0.1%)眼用懸濁液と比較して評価した。本発明の組成物の処方物を、下記の表5Aに示す。TOBRADEX(登録商標)眼用懸濁液の処方物は、米国特許第5,149,694号の実施例1に示される。
【0063】
【表5A】
それぞれの組成物を、雄New Zealandウサギの両眼に投与した。処方物の投与後、0.5、0.75、1、2、および3時間において、水性体液サンプルを両目から採取し、そしてデキサメタゾンの濃度を、下記で記載するLC−MS/MS手順を用いて決定した。
【0064】
ウサギ水性体液中のデキサメタゾン濃度を、承認されたHPLCタンデム質量分析(HPLC/SM/MS)法を用いて測定した。この手順において、水性体液の25.0マイクロリットルのアリコートに、内部標準としてベクロメタゾンを加え、そしてメチル−t−ブチルエーテルを用いて抽出した。有機層を蒸発させて乾燥し、そして20:80の10mMギ酸アンモニウム:メタノールで再構築し、そしてサンプルの再構築に使用したものと同じ組成の移動相で、無勾配条件下で逆相HPLCカラムに注入する。カラム流出液に陽イオンエレクトロスプレーイオン化を行い、そしてデキサメタゾンおよびベクロメタゾンのプロトン化分子イオンに衝突断片化を行う。デキサメタゾンおよびベクロメタゾンの、それぞれm/z 393.1→373.4および409.3→391.4の遷移の多重反応モニタリングが、特異的な検出を可能にする。その手順の動作範囲は1.00から200ng/mLである。
【0065】
デキサメタゾンの平均水性体液濃度対時間は、
図5にプロットされる。水性体液中のデキサメタゾンの最高濃度(C
max)および曲線下面積(AUC)値を、下記の表5Bで示す:
【0066】
【表5B】
前述の結果は、デキサメタゾンをそれぞれ0.05%および0.1%の濃度で含む、本発明のキサンタンベースの処方物の水性体液濃度は、0.1%のデキサメタゾンを含むTOBRADEX(登録商標)懸濁液のものよりはるかに高いことを示す。これらの結果は、本発明の組成物の優れた生物学的利用能を示す。