(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
(本発明の基本思想)
本発明者等は、前述したようなFPCに対する最近の要求(例えば、CCLにおける樹脂フィルムと銅箔の接合面低粗度化と高い接合性との両立)を満たすべく、接合面の低粗度化とピール強度との関係を詳細に調査した。
【0024】
その調査のなかで、本発明者等は、従来技術の範疇で接合面を低粗度化すると、表面凹凸全体の平均は確かに小さくなるが、局所的には表面凹凸が小さい領域と大きい領域とに二極化する傾向があり、ピール強度のばらつきが大きくなる(その結果、FPCの製品歩留まりが低下する)ことを見出した。そこで、その要因を解明するために、粗化銅めっき層の形成プロセスにさかのぼって更に詳細に調査した。
【0025】
特許文献1〜4のような従来技術においては、いずれの場合も粗化銅めっき層の形成プロセスが、限界電流密度以上の電流密度による電解めっき(いわゆる、やけめっき)によって行われている。なお、電解めっきにおける限界電流密度とは、ファラデーの法則から予想される単位時間当たりの析出量に対して析出する金属イオンの供給量が追いつかなくなる(拡散境界層内の当該金属イオンの濃度がゼロになる)電流密度と定義される。すなわち、やけめっきは、もはや定常状態の電解めっきではなく、非定常状態での電解めっきと言える。
【0026】
非定常状態における物理化学現象(ここでは、電解めっきによる金属結晶粒の析出成長)は、定常解を持たないことから理論的な解析が困難であり、作製条件のわずかなゆらぎや極微量の不純物であっても、それらの影響を強く受け易い。そのため、従来技術における粗化銅めっき層形成工程は、数多くの検討の積み重ねから得られた形成条件によって成り立っていることが多い。
【0027】
ここで、本発明者等は、従来の粗化銅めっき層の形成プロセスがやけめっきであること自体について考察した。
【0028】
従来技術において、粗化銅めっき層は、銅原箔または下地銅めっき層の直上に形成されている。すなわち、粗化銅めっき層/銅原箔の界面や粗化銅めっき層/下地銅めっき層の界面は、ほぼ同種界面になっている(銅原箔や粗化銅めっき層を銅合金にしたとしても、銅を主成分とする合金の組み合わせの範疇では、ほぼ同種界面と言える)。
【0029】
電解めっきによる金属結晶粒の析出成長を考えた場合、定常状態の成長条件下で同種界面を形成するような同種成長をさせると、原理的に沿面成長性が高いために緻密で平滑な層が形成され易く、明確な表面凹凸を有する粗化層(すなわち、多核三次元成長が主となるめっき層)の形成は困難であると考えられる。言い換えると、同種成長において多核三次元成長を実現するために、非定常状態での電解めっき(やけめっき)が必要であったと考えられる。しかしながら、非定常状態での電解めっきでは、前述したように制御困難な因子の影響が強く出るため、局所的に表面凹凸が小さい領域と大きい領域とに二極化し易く、接合面の低粗度化を進めようとするとその二極化が顕在化するため、ピール強度のばらつきが大きく現れると考えられた。
【0030】
アンカー効果による接合強度の向上は、一般的に接合界面(接合面積)の増大に起因すると解釈される。FPC(およびFPCの前段階であるCCL)に対する前述の要求(接合面の低粗度化と高い接合性との両立)を満たすためには、原理的には、粗化粒による表面凹凸の絶対値を小さくしながらも、従来と同等以上の接合界面(接合面積)を確保できればよいと考えられる。
【0031】
接合界面(接合面積)の増大という観点において、特許文献3に記載された技術(一次粗化銅粒子の上に微細粒の二次粗化銅粒子を形成する)が参考になる。しかしながら、特許文献3に記載された技術は、やけめっきで形成した一次粗化銅粒子の上に、更にやけめっきで二次粗化銅粒子を形成しており、制御が難しい非定常状態での電解めっき(やけめっき)を重ねて行うことから、全体としての制御性・再現性の確保が極めて厳しいと考えられ、製品歩留りが低下することが懸念される。
【0032】
本発明者等は、一次粗化銅粒子の上への二次粗化銅粒子の形成は、少なくとも制御された大きさ・形状の微細粒を均等に析出成長させること(言い換えると、定常状態の成長条件下で多核三次元成長が主となる電解めっきを行うこと)が必要と考えた。そして、詳細な調査・検討および考察の結果、本発明者等は、二次粗化銅粒子の析出成長を異種界面上に行うことに解の可能性を見出した。異種界面上に析出成長させることにより析出粒の沿面成長が抑制され、定常成長条件下であっても多核三次元成長を主とする電解めっきが可能になる。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0033】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で組合せや改良が適宜可能である。
【0034】
[表面処理銅箔の構造]
図1は、本発明に係る表面処理銅箔の構造の一例を示す断面模式図および部分拡大模式図である。なお、
図1には、銅張積層板の構成が理解し易くなるように、貼り合わせる樹脂フィルムも示した。
図1に示したように、本発明に係る表面処理銅箔10は、樹脂フィルム11と貼り合わせて銅張積層板を形成するための表面処理銅箔であって、銅原箔1の少なくとも一方の表面(樹脂フィルム11と貼り合わせる側の表面)上に複数の被覆層が形成されたものである。
【0035】
当該複数の被覆層としては、銅原箔1の上に形成された下地銅めっき層2と、下地銅めっき層2の上に形成された粗化銅めっき層3と、粗化銅めっき層3の上に形成された防錆ニッケルめっき層4と、防錆ニッケルめっき層4の上に形成された小突起銅めっき層5と、小突起銅めっき層5の上に形成された亜鉛めっき層6と、亜鉛めっき層6の上に形成されたクロメート処理層7と、クロメート処理層7の上に形成されたシランカップリング処理層8とから構成される。
【0036】
なお、本発明において、下地銅めっき層2は、必須の層ではないが、銅原箔1の表面に残存する望まない凹凸(例えば、銅原箔1製造時に生じた微小なオイルピットや傷)を補修する観点から、形成されることが好ましい。また、クロメート処理層7およびシランカップリング処理層8も、それらに限定されるものではなく、それぞれ防錆・耐食性および化学的接合性の作用効果を有する他の層を用いてもよい。
【0037】
銅原箔1の他方の表面(樹脂フィルム11と貼り合わせる側と反対側の表面)は、FPC回路配線の表側となる面であり、防錆(耐湿性)の観点から、銅原箔1の上に防錆ニッケルめっき層4’が形成され、防錆ニッケルめっき層4’の上に亜鉛めっき層6’が形成され、亜鉛めっき層6’の上にクロメート処理層7’が形成されることが好ましい。なお、上述と同様に、この構造に限定されるものではなく、耐湿性が確保できる他の被覆層構造を用いてもよい。
【0038】
以下、各構成について具体的に説明する。
【0039】
(銅原箔)
銅原箔1に特段の限定はなく、従前の銅箔(圧延銅箔、電解銅箔)を用いることができる。FPCにおいて極めて優れた屈曲特性(例えば、100万回以上の屈曲特性)が要求される場合、圧延銅箔を用いることが好ましい。また、素材としては、純銅(例えば、タフピッチ銅(JIS H 3100 C1100)や無酸素銅(JIS H 3100 C1020))、および銅(Cu)にスズ(Sn)や銀(Ag)が微量添加された希薄銅合金がよく用いられる。機械的強度特性が優先される場合は、銅原箔1として銅合金材(希薄合金よりも添加元素濃度が高い合金)が用いられることもある。
【0040】
(下地銅めっき層)
下地銅めっき層2は、銅原箔1の直上に形成され、銅原箔1の表面に残存する望まない凹凸(例えば、銅原箔1製造時に生じた微小なオイルピットや傷)を補修するための層である。所定の下地銅めっき層2を設けることにより、その上に形成する粗化銅めっき層3の粗化粒形状(厚さ(凹凸)方向や面内方向の形状)を均等化・安定化することができる利点がある。下地銅めっき層2の平均厚さは0.1μm以上0.6μm以下が好ましい。平均厚さが0.1μm未満になると、下地銅めっき層2の作用効果が不十分になる。平均厚さが0.6μm超では、作用効果が飽和しプロセスコストが無駄になる。素材としては、純銅または銅原箔1と同じ組成が好ましい。
【0041】
(粗化銅めっき層)
粗化銅めっき層3は、下地銅めっき層2の直上に形成される。粗化銅めっき層3の粗化粒形状は、「樹脂フィルムと銅箔との接合性(アンカー効果)」、「銅箔のエッチング制御性」、「FPC回路配線の電気的な高周波特性」および「導体箔除去後の樹脂フィルム部分での透過視認性」に対して影響するため、平均粒径が0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0042】
また、粗化銅めっき層3の平均厚さは0.07μm以上0.35μm以下が好ましい。平均厚さが0.07μm未満になると、粗化粒の平均粒径が小さくなり過ぎてアンカー効果がほとんど得られず接合性が不十分になる。粗化銅めっき層3の平均厚さが0.35μm超になると粗化粒の平均粒径が0.5μm超になり易くなるため、「銅箔のエッチング制御性」や「FPC回路配線の電気的な高周波特性」や「導体箔除去後の樹脂フィルム部分での透過視認性」が低下しはじめる。
【0043】
(防錆ニッケルめっき層)
防錆ニッケルめっき層4は粗化銅めっき層3の直上に形成され、防錆ニッケルめっき層4’は銅原箔1の反対側の面の直上に形成される。防錆ニッケルめっき層4,4’は、Cu原子の拡散バリアとして作用し、銅箔の変色を抑制する効果がある。樹脂フィルムへのCu原子の拡散は接合性を劣化させると言われており、それを抑制する効果もある。
【0044】
また、防錆ニッケルめっき層4は、小突起銅めっき層5の下地となる層である。所定の防錆ニッケルめっき層4を設けることにより、その上に形成する銅めっき層において、析出粒の沿面成長が抑制され、定常成長条件下であっても多核三次元成長を主とする電解めっきが可能になる。その結果、一次粗化銅粒子の上への二次粗化銅粒子の形成を均等化・安定化することができる。防錆ニッケルめっき層4と小突起銅めっき層5との組み合わせは、本発明の表面処理銅箔10における最も特徴的な点である。
【0045】
防錆ニッケルめっき層4の平均厚さは0.005μm以上0.1μm以下が好ましい。平均厚さが0.005μm未満になると、防錆ニッケルめっき層4でその下の層(下地銅めっき層3)の表面を一様に覆うことが困難になり、防錆ニッケルめっき層4の作用効果が不十分になる。平均厚さが0.1μm超では、作用効果が飽和しプロセスコストが無駄になる。また、防錆ニッケルめっき層4の被膜量は、2μg/cm
2以上20μg/cm
2以下が好ましい。該被膜量が2μg/cm
2未満では、拡散バリアとして作用が低下する。該被膜量が20μg/cm
2超になると、エッチング制御性が低下する。
【0046】
なお、本発明における防錆ニッケルめっき層4,4’は、ニッケル−コバルト合金めっき層である場合を含むものとする。防錆ニッケルめっき層4,4’をニッケル−コバルト合金めっき層とする場合、コバルト含有率は、ニッケルとコバルトとの合計被膜量に対して40質量%以上75質量%以下が好ましい。
【0047】
(小突起銅めっき層)
小突起銅めっき層5は、防錆ニッケルめっき層4の直上に形成され、一次粗化銅粒子(粗化銅めっき層3)の上に形成される微細な二次粗化銅粒子の層である。前述したように、異種界面となる防錆ニッケルめっき層4上に銅めっき層を析出成長させることにより、析出粒の沿面成長が抑制され、定常成長条件下であっても多核三次元成長を主とする電解めっきが可能になる。
【0048】
小突起銅めっき層5を構成する小突起銅結晶粒の平均粒径は、0.03μm以上であり、かつ粗化銅めっき層3を構成する粗化銅結晶粒の平均粒径の1/2以下であることが好ましい。小突起銅結晶粒の平均粒径が0.03μm未満になると、粒子が小さ過ぎて(各小突起粒による凹凸が小さくなって)膜状析出との差異が小さくなる。その結果、樹脂フィルムとの接合界面・接合面積の増大に十分寄与できず、作用効果(アンカー効果の向上)が不十分になる。
【0049】
一方、小突起銅結晶粒の平均粒径が粗化銅結晶粒のそれの1/2超になると、粗化銅結晶粒一つあたりに析出する小突起銅結晶粒の数が少なくなり、実質的に粗化粒が粗大化したような形態になる。その結果、接合面の低粗度化の工夫が相殺されてしまい、低粗度化によって達成される作用効果が不十分になる。
【0050】
上記の作用効果に加えて、小突起銅めっき層5は、後のCCL製造工程での熱処理を通して亜鉛めっき層6と合金化して銅−亜鉛合金層を形成することによって、亜鉛めっき層6の耐薬品性(耐食性)を向上させる作用効果も有する。なお、本作用効果(亜鉛めっき層の耐薬品性を向上)の観点から、本発明は、防錆ニッケルめっき層4’の上に小突起銅めっき層を形成してもよい。
【0051】
(亜鉛めっき層)
亜鉛(Zn)めっき層6は、小突起銅めっき層5の直上に形成され、亜鉛(Zn)めっき層6’は、防錆ニッケルめっき層4’の直上に形成される。亜鉛めっき層6,6’は、クロメート処理層7,7’の形成やシランカップリング処理層8の形成の下地となる層である。亜鉛めっき層6,6’の被膜量は、0.1μg/cm
2以上3μg/cm
2以下が好ましい。該被膜量が0.1μg/cm
2未満では、亜鉛めっき層6,6’の作用効果が不十分になる。該被膜量が3μg/cm
2超になると、耐薬品性(例えば、耐酸性)が低下する。
【0052】
(クロメート処理層)
クロメート処理層7,7’は、それぞれ亜鉛めっき層6,6’の直上に形成される。クロメート処理層7,7’は、表面処理銅箔10において主に防錆・耐食性の確保を担う層である。クロメート処理層7,7’として特段の限定はなく、従前の技術を利用できるが、環境保護の観点から3価クロメート処理層であることが好ましい。クロメート処理層7,7’の被膜量は、クロム量として0.1μg/cm
2以上1μg/cm
2以下が好ましい。該被膜量が0.1μg/cm
2未満では、防錆・耐食効果が不十分になる。該被膜量が1μg/cm
2超になると、クロメート処理層自体が厚く脆弱になり、ピール強度が低下する。
【0053】
(シランカップリング処理層)
シランカップリング処理層8は、クロメート処理層7の直上に形成される。シランカップリング処理層8は、CCLにおいて樹脂フィルム11との化学的な接合作用を担う層である。シランカップリング処理層8として特段の限定はなく、従前の技術を利用できる。
【0054】
[銅張積層板の製造方法]
本発明に係る銅張積層板の製造方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明に係る銅張積層板の製造工程の一例を示すフロー図である。なお、以下では、洗浄工程や乾燥工程の説明を省略する場合があるが、それらの工程は必要に応じて適宜行われることが好ましい。
【0055】
(S10)銅原箔準備工程
本工程では、銅原箔1を準備する。前述したように、銅原箔1自体に特段の限定はなく、従前の圧延銅箔や電解銅箔を用いることができるので、銅箔準備方法にも特段の限定はなく、従前の方法を用いることができる。
【0056】
(S20)下地銅めっき層形成工程
本工程では、銅原箔1の直上に下地銅めっき層2を形成する。前述したように、本工程は、必須の工程ではないが、銅原箔1の表面に残存する望まない凹凸を補修する観点から、行われることが好ましい。
【0057】
下地銅めっき層2を形成する前に、電解脱脂処理および酸洗処理を行って銅原箔1の表面を清浄化することは好ましい。電解脱脂処理は、銅原箔1をアルカリ水溶液に浸漬し陰極電解脱脂を行う処理である。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)を20 g/L以上60 g/L以下、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)を10 g/L以上30 g/L以下で含む水溶液を用いることができる。
【0058】
酸洗処理は、電解脱脂処理を行った銅原箔1を酸性水溶液に浸漬し、銅原箔1の表面に残存するアルカリ成分の中和および銅酸化膜の除去を行う処理である。酸性水溶液としては、例えば、硫酸(H
2SO
4)を120 g/L以上180 g/L以下含む水溶液や、クエン酸(C
6H
8O
7)水溶液、銅エッチング液等を用いることができる。
【0059】
下地銅めっき層2の形成は、硫酸銅および硫酸を主成分とする酸性銅めっき浴にて銅原箔1を陰極とする電解処理により行う。酸性銅めっき浴の液組成、液温、電解条件、下地銅めっき層の平均厚さは、例えば下記の範囲から選択されることが好ましい。
硫酸銅五水和物:20 g/L以上300 g/L以下(50 g/L以上300 g/L以下がより好ましい)
硫酸:10 g/L以上200 g/L以下(30 g/L以上200 g/L以下がより好ましい)
添加剤:所定の有機系添加剤を添加
液温:15℃以上50℃以下
電流密度:2 A/dm
2以上15 A/dm
2以下(限界電流密度末満とする)
処理時間:1秒間以上30秒間以下
平均厚さ:0.1μm以上0.6μm以下。
【0060】
所定の有機系添加剤としては、例えば、メルカプト基を持つ化合物(例えば、3-メルカプト-1-スルホン酸(MPS)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(SPS))、界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシアルキレンエーテル)、レベリング剤(例えば、ジアリルジアルキルアンモニウムアルキルサルフェイト)、および塩化物イオンを含む水溶液(例えば、塩酸水溶液)を、組み合わせた添加剤が用いられる。
【0061】
このような添加剤は、構成成分の試薬(市販品)を所定量配合して作製することが可能である。また、構成成分が予め配合されて市販されているめっき用薬液(例えば、メルカプト基を持つ化合物が配合されためっき用薬液、界面活性剤が配合されためっき用薬液、レベリング剤が配合されためっき用薬液)を混合して用いることも可能である。さらに、構成成分が予め配合されて市販されているめっき用薬液と、構成成分の試薬(市販品)とを混合して用いることも可能である。
【0062】
より具体的には、下地銅めっき浴中のメルカプト基を持つ化合物の濃度としては、例えばSPSの場合、10 mg/L以上60 mg/L以下が好ましく、10 mg/L以上45 mg/L以下がより好ましく、10 mg/L以上30 mg/L以下が更に好ましい。SPSの濃度が10 mg/L未満であると、本添加剤を添加することの効果が十分に得られない。一方、SPSの濃度が60 mg/L超になると、本添加剤の作用効果が飽和して、無駄な材料コストが発生する。
【0063】
界面活性剤としては、例えば、荏原ユージライト株式会社製のCU-BRITE TH-R III(登録商標)シリーズの界面活性剤薬液を用いることができる。この場合、下地銅めっき浴中への添加濃度は、1 mL/L以上5 mL/L以下が好ましい。
【0064】
レベリング剤としては、例えば、荏原ユージライト株式会社製のCU-BRITE TH-R III(登録商標)シリーズの高分子炭化水素を主成分とするレベリング剤薬液を用いることができる。この場合、下地銅めっき浴中への添加濃度は、3 mL/L以上10 mL/L以下が好ましい。
【0065】
塩化物イオンを含む水溶液としては、例えば、市販の塩酸(塩化水素濃度35%〜37%)を用いることができる。この場合、下地銅めっき浴中への添加濃度は、0.05 mL/L以上0.3 mL/L以下が好ましい。
【0066】
(S30)粗化銅めっき層形成工程
本工程では、下地銅めっき層2の直上に粗化銅めっき層3を形成する。粗化銅めっき層3の形成は、硫酸銅および硫酸を主成分とする酸性銅めっき浴にて銅原箔1を陰極とする電解処理により行い、粗化粒を下地銅めっき層2の表面に析出・成長させるものである。酸性銅めっき浴の液組成、液温、電解条件、粗化銅めっき層の平均厚さは、例えば下記の範囲から選択されることが好ましい。
硫酸銅五水和物:20 g/L以上300 g/L以下
硫酸:10 g/L以上200 g/L以下
その他成分:Fe,Mo,Ni,Co,Cr,Zn,Wから選ばれる一種以上の添加が好ましい
液温:15℃以上50℃以下
電流密度:20 A/dm
2以上100 A/dm
2以下(限界電流密度超とする)
処理時間:0.1秒間以上5秒間未満
平均厚さ:0.07μm以上0.35μm以下。
【0067】
粗化銅めっき層3の形成は、限界電流密度を超えた電流密度のめっき(いわゆる、ヤケめっき)によって行うので、析出・成長する粗化粒が過剰に巨大化しないように、めっき浴にFe,Mo,Ni,Co,Cr,Zn,Wから選ばれる一種以上の硫酸塩を添加することが好ましい。例えば、硫酸鉄七水和物を10 g/L以上30 g/L以下の範囲でめっき浴に添加する。これにより、粗化形状の制御が容易になる。なお、粗化形状は、各粗化粒が凹凸方向や面内方向に均等に析出・成長している限り特段の限定はない。
【0068】
(S40)防錆ニッケルめっき層形成工程
本工程では、粗化銅めっき層3の直上に防錆ニッケルめっき層4を形成する。防錆ニッケルめっき層4の形成は、例えば、下記のめっき条件から選択されることが好ましい。
硫酸ニッケル六水和物:280 g/L以上320 g/L以下
塩化ニッケル:40 g/L以上50 g/L以下
硼酸:40 g/L以上60 g/L以下
その他成分:他の金属元素(例えばCo)を添加してNi合金めっき層としてもよい
液温:30℃以上60℃以下
電流密度:0.5 A/dm
2以上10 A/dm
2以下(限界電流密度末満とする)
処理時間:1秒間以上10秒間以下
平均厚さ:0.005μm以上0.1μm以下
被膜量:2μg/cm
2以上20μg/cm
2以下。
【0069】
また、防錆ニッケルめっき層4としてニッケル−コバルト合金めっきを施す場合は、例えば、下記のような成分を含むめっき浴を用いることが好ましい。
硫酸ニッケル六水和物:150 g/L以上250 g/L以下
硫酸コバルト七水和物:5 g/L以上50 g/L以下
クエン酸三ナトリウム:5 g/L以上50 g/L以下。
【0070】
(S50)小突起銅めっき層形成工程
本工程では、防錆ニッケルめっき層4の直上に小突起銅めっき層5を形成する。小突起銅めっき層5の形成は、硫酸銅および硫酸を主成分とする酸性銅めっき浴にて銅原箔1を陰極とする電解処理により行い、微細粒(小突起粒)を防錆ニッケルめっき層4の表面に析出成長させるものである。酸性銅めっき浴の液組成、液温、電解条件、小突起銅結晶粒の平均粒径は、例えば下記の範囲から選択されることが好ましい。
硫酸銅五水和物:20 g/L以上300 g/L以下(50 g/L以上300 g/L以下がより好ましい)
硫酸:10 g/L以上200 g/L以下(30 g/L以上200 g/L以下がより好ましい)
その他成分、添加剤:特になし
液温:15℃以上50℃以下
電流密度:2 A/dm
2以上15 A/dm
2以下(限界電流密度末満とする、3 A/dm
2以上10 A/dm
2以下がより好ましい)
処理時間:0.1秒間以上25秒間以下。
【0071】
本発明における小突起銅めっき層形成工程は、従来技術のそれと異なって限界電流密度未満の通常電解めっきによって行うところに大きな特徴がある。また、従来技術のように析出成長する粗化粒の形状制御のために、めっき浴に他の成分や添加剤を添加する必要がなく、銅成分のみからなる単純めっき浴を利用できる特徴もある。これらの特徴(限界電流密度未満の電解めっき、単純めっき浴の利用)から、本小突起銅めっき層形成工程は、ファラデーの法則や核生成理論に基づく理論的解析が容易になり、めっき層の被膜量や小突起銅結晶粒の形状・平均粒径を精度よく制御することができる。核生成頻度の制御性の観点から、電解めっきの電流密度は、限界電流密度の1/5以上2/3以下がより好ましい。なお、本小突起銅めっき層形成工程は、めっき浴に他の成分や添加剤を添加することを否定するものではない。
【0072】
(S60)亜鉛めっき層形成工程
本工程では、小突起銅めっき層5の直上に亜鉛めっき層6を形成する。亜鉛めっき層6の形成は、例えば、下記のめっき条件から選択されることが好ましい。
硫酸亜鉛:80 g/L以上120 g/L以下
硫酸ナトリウム:60 g/L以上80 g/L以下
液温:15℃以上35℃以下
電流密度:0.1 A/dm
2以上10 A/dm
2以下(限界電流密度末満とする)
処理時間:0.2秒間以上10秒間以下
被膜量:0.1μg/cm
2以上3μg/cm
2以下。
【0073】
(S70)クロメート処理層形成工程
本工程では、亜鉛めっき層6の直上にクロメート処理層7を形成する。クロメート処理層7の形成は、例えば、下記の処理条件から選択されることが好ましい。
処理液:3価クロムの反応型クロメート液(3価クロムイオン濃度:金属クロム換算で70 mg/L以上500 mg/L未満。3価クロムイオンの供給源に特段の限定はなく、例えば、硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロムが挙げられる)
液温:15℃以上40℃以下
処理時間:3秒間以上30秒間以下
被膜量:クロム量として0.1μg/cm
2以上1μg/cm
2以下。
【0074】
(S80)シランカップリング処理層形成工程
本工程では、クロメート処理層7の直上にシランカップリング処理層8を形成する。シランカップリング処理層8の形成は、例えば、下記の処理条件から選択されることが好ましい。
処理液:シランカップリング液(積層する可撓性基材に適したものを選択する。例えば、可撓性基材がポリイミドからなる場合、アミノシランやアミノプロピルトリメトキシシランを主成分とするものを選択することが望ましい)
液温:15℃以上35℃以下
処理時間:3秒間以上40秒間以下
乾燥温度:100℃以上200℃以下
乾燥時間:5秒間以上35秒間以下
厚さ:分子層レベル。
【0075】
以上S10〜S80の工程により、本発明に係る表面処理銅箔10(銅張積層板用の表面処理銅箔)が完成する。
【0076】
なお、銅原箔1の他方の表面上に防錆ニッケルめっき層4’・亜鉛めっき層6’・クロメート処理層7’を形成する際には、それぞれ上述の防錆ニッケルめっき層4・亜鉛めっき層6・クロメート処理層7と同じ方法で形成することができる。また、防錆ニッケルめっき層4’・亜鉛めっき層6’・クロメート処理層7’の形成は、防錆ニッケルめっき層4・亜鉛めっき層6・クロメート処理層7の形成と同時に行ってもよいし、別個に行ってもよい。
【0077】
(S90)可撓性基材積層工程
本工程では、表面処理銅箔10と樹脂フィルム11とを積層する。二層銅張積層板の場合、表面処理銅箔10と樹脂フィルム11とが、樹脂接着層を介さずに加熱・押圧されて直接積層される。加熱・押圧の条件は、樹脂フィルム11の性状により適宜設定されるが、例えば下記の範囲から選択されることが好ましい。
温度:150℃以上350℃以下
圧力:0.5 MPa以上30 MPa以下
保持時間:5分間以上60分間以下。
【0078】
本工程により、本発明に係る銅張積層板が完成する。
【0079】
なお、銅原箔1として圧延銅箔を用いた場合、本工程の加熱により、圧延銅箔は再結晶焼鈍されて立方体集合組織に調質され、圧延銅箔の屈曲特性(すなわち、最終的なFPCの屈曲特性)が飛躍的に向上する。また、本工程のハンドリング中に、表面処理銅箔10の望まない変形(伸び、しわ、折れ等)を防ぐため、本工程に供される表面処理銅箔10(少なくとも銅原箔1)は、再結晶組織に調質されていない状態(少なくとも焼鈍されていない状態)であることが好ましい。
【0080】
上記では、予め成形された樹脂フィルム11を可撓性基材として用いた場合について説明したが、本発明はそれに限定されるものではない。例えば、ポリイミドになるワニスを表面処理銅箔10の接合面に塗布し、熱処理によって該ワニスを硬化させて可撓性基材とする積層方法(キャスト法による二層銅張積層板の製造)であってもよい。また、本発明の銅張積層板は、樹脂フィルム11の片面に表面処理銅箔10が積層された二層片面銅張積層板であってもよいし、樹脂フィルム11の両面に表面処理銅箔10が積層された二層両面銅張積層板であってもよい。
【0081】
[FPCの製造方法]
上記で得られた銅張積層板に対し、回路配線の形成工程を行うことによりFPCが製造される。回路配線の形成工程は、通常、銅張積層板の表面処理銅箔10の一部を化学エッチング除去することによりなされる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
[実施例1の表面処理銅箔の作製]
以下の手順により、実施例1の表面処理銅箔10を作製した。はじめに、銅原箔1として、無酸素銅からなる圧延銅箔(厚さ11μm)を準備した。次に、銅原箔1に対して電解脱脂処理および酸洗処理をそれぞれ下記の条件で施して、銅原箔1の表面を清浄化した。酸洗処理の後、銅原箔1を水洗した。
【0084】
(電解脱脂処理)
溶液:水酸化ナトリウム40 g/Lと炭酸ナトリウム20 g/Lとを含む水溶液
液温:40℃
電荷密度:100 C/dm
2(10 A/dm
2×10 s)。
【0085】
(酸洗処理)
溶液:硫酸150 g/Lを含む水溶液
液温:室温(25℃)
処理時間:10秒間。
【0086】
次に、銅原箔1の一方の面に、下記のめっき条件により下地銅めっき層2を形成し、その後、水洗を行った。
(下地銅めっき層形成工程)
硫酸銅五水和物:170 g/L
硫酸:70 g/L
添加剤1:有機硫黄化合物としてSPS 30 mg/L
添加剤2:界面活性剤として荏原ユージライト株式会社製のCU-BRITE TH-R III
シリーズの界面活性剤薬液 3 mL/L
添加剤3:レベリング剤として荏原ユージライト株式会社製のCU-BRITE TH-R III
シリーズの高分子炭化水素を主成分とするレベリング剤薬液 5 mL/L
添加剤4:塩化物イオンを含む水溶液として塩酸試薬原液 0.15 mL/L
液温:35℃
電荷密度:210 C/dm
2(7 A/dm
2×30 s)
平均厚さ:0.3μm。
【0087】
次に、下地銅めっき層2上に、下記のめっき条件により粗化銅めっき層3を形成し、その後、水洗を行った。
(粗化銅めっき層形成工程)
硫酸銅五水和物:100 g/L
硫酸:150 g/L
その他成分:硫酸鉄七水和物 20 g/L
液温:30℃
電荷密度:120 C/dm
2(60 A/dm
2×2 s)
平均厚さ:0.2μm。
【0088】
次に、粗化銅めっき層3を形成した銅原箔1の両面(粗化銅めっき層3上、銅原箔1の他方の面)に対し、下記のめっき条件により防錆ニッケルめっき層4,4’を形成し、その後、水洗を行った。ここでは、防錆ニッケルめっきとして、ニッケル−コバルト合金めっきを行った。
(防錆ニッケルめっき層形成工程)
硫酸ニッケル六水和物:200 g/L
硫酸コバルト七水和物:30 g/L
クエン酸三ナトリウム:30 g/L
液温:50℃
電荷密度:14 C/dm
2(2 A/dm
2×7 s)
被膜量:20μg/cm
2(平均厚さ:0.025μm)。
【0089】
次に、防錆ニッケルめっき層4上に、下記のめっき条件により小突起銅めっき層5を形成し、その後、水洗を行った。
(小突起銅めっき層形成工程)
硫酸銅五水和物:170 g/L
硫酸:70 g/L
液温:40℃
電荷密度:0.55 C/dm
2(5.5 A/dm
2×0.1 s)
平均厚さ:0.001μm。
【0090】
次に、小突起銅めっき層5および防錆ニッケルめっき層4’の上に、下記のめっき条件により亜鉛めっき層6,6’を形成し、その後、水洗を行った。
(亜鉛めっき層形成工程)
硫酸亜鉛:90 g/L
硫酸ナトリウム:70 g/L
液温:30℃
電荷密度:1.5 C/dm
2(1.5 A/dm
2×1 s)
被膜量:1.2μg/cm
2(平均厚さ:0.0017μm)。
【0091】
次に、亜鉛めっき層6,6’上に、下記の処理条件によりクロメート処理層7,7’を形成した。
(クロメート処理層形成工程)
処理液:硝酸クロムを3価クロムイオンの供給源とした3価クロムの反応型クロメート液
(3価クロムイオン濃度:金属クロム換算で300 mg/L)
液温:30℃
処理時間:5秒間
被膜量:0.7μg/cm
2。
【0092】
次に、クロメート処理層7上に、下記の処理条件によりシランカップリング処理層8を形成した。
(シランカップリング処理層形成工程)
処理液:5%の3-アミノプロピルトリメトキシシランを含有するシランカップリング液
液温:室温(25℃)
処理時間:5秒間
加熱乾燥:200℃,15秒間。
【0093】
[実施例2の表面処理銅箔の作製]
実施例2の表面処理銅箔10は、小突起銅めっき層形成工程における電荷密度を15 C/dm
2(5 A/dm
2×3 s)として小突起銅めっき層5の析出成長形態を変更したこと以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0094】
[実施例3の表面処理銅箔の作製]
実施例3の表面処理銅箔10は、小突起銅めっき層形成工程における硫酸銅五水和物の濃度を250 g/Lとし、電荷密度を0.68 C/dm
2(6.8 A/dm
2×0.1 s)として小突起銅めっき層5の析出成長形態を変更した。それ以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0095】
[実施例4の表面処理銅箔の作製]
実施例4の表面処理銅箔10は、粗化銅めっき層形成工程における電荷密度を4.4 C/dm
2(22 A/dm
2×0.2 s)として粗化銅めっき層4の析出成長形態を変更したこと以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0096】
[実施例5の表面処理銅箔の作製]
実施例5の表面処理銅箔10は、粗化銅めっき層形成工程における電荷密度を210 C/dm
2(60 A/dm
2×3.5 s)として粗化銅めっき層4の析出成長形態を変更したこと以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0097】
[実施例6の表面処理銅箔の作製]
実施例6の表面処理銅箔10は、小突起銅めっき層形成工程における電荷密度を70 C/dm
2(7 A/dm
2×10 s)として小突起銅めっき層5の析出成長形態を変更したこと以外は、上述の実施例5の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0098】
[実施例7の表面処理銅箔の作製]
実施例7の表面処理銅箔10は、防錆ニッケルめっき層4,4’を純ニッケルめっき層としたこと以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。純ニッケルめっき層のめっき条件は、下記のとおりである。
(防錆ニッケルめっき層形成工程)
硫酸ニッケル六水和物:300 g/L
塩化ニッケル:45 g/L
硼酸:50 g/L
液温:50℃
電荷密度:10 C/dm
2(2 A/dm
2×5 s)
被膜量:15μg/cm
2(平均厚さ:0.02μm)。
【0099】
[比較例1の表面処理銅箔の作製]
比較例1の表面処理銅箔は、従来技術の範疇で粗化銅めっき層を低粗度化したものであり、従来技術の基準となる試料である。具体的な作製方法としては、下地銅めっき層形成工程において所定の有機系添加剤を添加しないで下地銅めっき層2を形成し、本発明の小突起銅めっき層5を形成しなかった。それ以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0100】
[比較例2の表面処理銅箔の作製]
比較例2の表面処理銅箔は、粗化銅めっき層3の直上に実施例1と同様のめっき条件で小突起銅めっき層5の形成を試み、該小突起銅めっき層5の直上に防錆ニッケルめっき層4を形成した。それ以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0101】
[比較例3の表面処理銅箔の作製]
比較例3の表面処理銅箔は、粗化銅めっき層形成工程における硫酸銅五水和物の濃度を25 g/Lとして硫酸鉄七水和物の濃度を5 g/Lとし、かつ電荷密度を0.55 C/dm
2(5.5 A/dm
2×0.1 s)として粗化銅めっき層4の析出成長形態を変更した。また、小突起銅めっき層形成工程における硫酸銅五水和物の濃度を250 g/Lとし、電荷密度を0.2 C/dm
2(2 A/dm
2×0.1 s)として小突起銅めっき層5の析出成長形態を変更した。それ以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0102】
[比較例4の表面処理銅箔の作製]
比較例4の表面処理銅箔は、粗化銅めっき層形成工程における電荷密度を252 C/dm
2(60 A/dm
2×4.2 s)として粗化銅めっき層4の析出成長形態を変更したこと以外は、上述の実施例2の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0103】
[比較例5の表面処理銅箔の作製]
比較例5の表面処理銅箔は、小突起銅めっき層形成工程における硫酸銅五水和物の濃度を250 g/Lとし、電荷密度を0.2 C/dm
2(2 A/dm
2×0.1 s)として小突起銅めっき層5の析出成長形態を変更したこと以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0104】
[比較例6の表面処理銅箔の作製]
比較例6の表面処理銅箔は、小突起銅めっき層形成工程における電荷密度を70 C/dm
2(7 A/dm
2×10 s)として小突起銅めっき層5の析出成長形態を変更したこと以外は、上述の実施例1の表面処理銅箔10と同様の条件で作製した。
【0105】
[銅張積層板の作製]
上記の実施例1〜7および比較例1〜6の表面処理銅箔を用いて、以下の条件により、実施例1〜7および比較例1〜6の銅張積層板(CCL)を作製した。なお、CCLとしては、表面処理銅箔の粗化面(粗化銅めっき層3を形成した側の面)を樹脂フィルムに対向させて、樹脂フィルムの片面に表面処理銅箔を積層した二層片面銅張積層板を作製した。
樹脂フィルム:ポリイミドフィルム(厚さ25μm、株式会社カネカ製、ピクシオ)
温度:300℃
圧力:5 MPa
保持時間:15分間。
【0106】
[FPC模擬試料の作製]
実施例1〜7および比較例1〜6の銅張積層板に対して、表面処理銅箔の一部を化学エッチング除去して回路配線(線幅1 mm)を形成したFPC模擬試料(実施例1〜7および比較例1〜6)を作製した。化学エッチング除去は、塩化第二鉄のスプレーエッチングにより行った。
【0107】
[表面処理銅箔およびFPC模擬試料の性状調査]
(1)表面処理銅箔の表面微細組織観察
実施例1〜7および比較例1〜6の表面処理銅箔の製造途中段階の試料に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、防錆ニッケルめっき層4表面および小突起銅めっき層5表面の微細組織を観察した(試料表面に対して垂直方向および斜め方向の2方向から観察した)。また、試料表面に対して垂直方向から観察したSEM像に画像解析を行って、粗化粒および小突起粒の平均粒径を求めた。具体的には、取得したSEM観察像内の各粒に対して、当該粒の面積と等価面積になる円(等価円)の直径を求め、その平均値を平均粒径とした。平均粒径の結果を後述の表1に示す。
【0108】
(2)FPC模擬試料におけるピール強度測定
実施例1〜7および比較例1〜6のFPC模擬試料における回路配線(表面処理銅箔が残存している部分)に対して、JIS C6481に準拠してピール強度の測定を行い、10試料の平均値を求めた。最近では、樹脂フィルムと銅箔との接合性の指標として、0.8 N/mm以上のピール強度が求められていることから、ここでの合否の判定基準も0.8 N/mmとした。結果を表1に併記する。
【0109】
(3)露出したポリイミドフィルム部分での光透過性測定
実施例1〜7および比較例1〜6のFPC模擬試料における露出したポリイミドフィルム部分対して、ヘイズメーター(BYKガードナー・ヘイズ-ガード プラス、株式会社東洋精機製作所)を用いて、該ポリイミドフィルムの全光線透過率T
t、拡散透過率T
dを測定し、曇度H(T
d/T
t × 100%)を算出した。導体箔除去後の樹脂フィルム部分での透過視認性の観点からは、60%以下の曇度Hが指標の一つと考えられていることから、ここでの合否の判定基準も「H≦60%」とした。結果を表1に併記する。
【0110】
【表1】
【0111】
図3Aは、実施例1の表面処理銅箔の製造途中段階(粗化銅めっき層形成工程直後)における粗化銅めっき層の表面のSEM観察像である。
図3Bは、実施例1の表面処理銅箔の製造途中段階(小突起銅めっき層形成工程直後)における粗化銅めっき層側の表面のSEM観察像である。
図3Cは、実施例2の表面処理銅箔の製造途中段階(小突起銅めっき層形成工程直後)における粗化銅めっき層側の表面のSEM観察像である。
図3A〜
図3Cは、粗化粒や小突起粒の形態が分り易くなるように、試料表面に対して斜め方向から観察したSEM像である。
【0112】
図3A〜
図3Cからも確認できるように、実施例1における粗化粒の平均粒径は0.3μmと計測され(表1参照)、実施例1における小突起粒の平均粒径は0.05μmと計測され(表1参照)、実施例2における小突起粒の平均粒径は0.15μmと計測された(表1参照)。また、
図3B,3Cに示したように、粗化粒の表面に沿って(厳密には、粗化粒表面に形成された防錆ニッケルめっき層の表面に沿って)一様に小突起粒が多核三次元成長している様子が確認された。
【0113】
表1に示したように、実施例1〜7は、ピール強度測定において、平均強度が0.8 N/mm以上を達成していると共に、個々の測定のばらつきが小さいことも確認された。また、光透過性測定において、60%以下の曇度を達成していることが確認された。
【0114】
これらに対し、従来技術の基準試料である比較例1は、ピール強度測定において、個々の測定のばらつきが大きいために平均強度が0.8 N/mmを下回った。これは、粗化銅めっき層の局所的な厚さのばらつきが大きいことに起因すると考えられた。ただし、粗化粒の平均粒径が小さいことから、光透過性測定における曇度は60%を下回った。
【0115】
比較例2は、防錆ニッケルめっき層4と小突起銅めっき層5との順番を入れ替えて、粗化銅めっき層3の直上に小突起銅めっき層5を形成しようとしたものであるが、同種界面上への電解めっきであるために限界電流密度未満の条件では小突起粒形状の析出成長自体が起こらなかった。そのため、比較例1と同じ性状結果となった。
【0116】
比較例3は、粗化粒の平均粒径が小さ過ぎたために、平均ピール強度が0.8 N/mmを下回った。また、個々の測定のばらつきも大きかった。比較例4は、粗化粒の平均粒径が大き過ぎたために、光透過性測定における曇度が60%を上回っており、接合面の低粗度化自体が未達であったと言える。比較例3,4および実施例4,5の結果から、粗化粒の平均粒径は、0.1μm以上0.5μm以下が好ましいと言える。
【0117】
比較例5は、小突起粒の平均粒径が小さ過ぎたために、平均ピール強度が0.8 N/mmを下回った。比較例6は、小突起粒の平均粒径が大き過ぎたために、光透過性測定における曇度が60%を上回った。比較例5,6および実施例2,3の結果から、小突起粒の平均粒径は、0.03μm以上であり、かつ粗化粒の平均粒径の1/2以下が好ましいと言える。
【0118】
(小突起銅めっき層と亜鉛めっき層との合金化反応調査)
上述の性状調査に加えて、本発明のCCLは、CCL製造工程の熱処理によって、小突起銅めっき層5と亜鉛めっき層6との合金化反応が生じるか否か(銅−亜鉛合金層の生成の有無)を調査した。
【0119】
ただし、上記で作製した実施例の表面処理銅箔は、小突起銅めっき層5および亜鉛めっき層6の被膜量が非常に少ないことから、そのままの試料に対してX線回折測定を行っても、それら小突起銅めっき層5と亜鉛めっき層6との合金化反応を検知・検出することが困難である。そこで、CCL製造工程の熱処理によって、小突起銅めっき層5と亜鉛めっき層6との間の合金化反応を確認するために、X線回折測定用の表面処理銅箔試料を別途作製した。
【0120】
具体的には、実施例6の作製条件をベースとした上で、小突起銅めっき層5と亜鉛めっき層6との平均厚さ比率を保たせながら両層の平均厚さの和が約1μmになるように小突起銅めっき層5と亜鉛めっき層6とを形成し、クロメート処理層7およびシランカップリング処理層8を形成しないX線回折測定用試料を作製した。次に、CCL製造工程の熱処理を模擬するために、当該X線回折測定用試料を300℃に加熱し所定時間保持した。当該所定時間は、X線回折測定用試料における銅および亜鉛の合金化反応の程度(相互拡散の程度)が先の実施例6と等価になるように、形成しためっき層の厚さから逆算して設定した。
【0121】
上記で作製したX線回折測定用試料の元亜鉛めっき層6の表面に対して、X線回折装置(株式会社リガク、型式:Ultima IV)を用いてXRD測定を行った。XRD測定条件は、ターゲット:Cu、管電圧:40 kV、管電流:40 mA、測定モード:2θ/θ、スキャン速度:1 deg/min、スキャンステップ:0.01°とした。
【0122】
XRD測定の結果、X線回折測定用試料から銅−亜鉛合金相のピークが検出された。このことから、本発明のCCLは、CCL製造工程の熱処理により、小突起銅めっき層5と亜鉛めっき層6との間で合金化反応が生じ、銅−亜鉛合金層が生成されることが確認された。その結果、本発明のCCLは、比較例1のような従来のCCLよりも高い耐薬品性(耐食性)を有すると言える。
【0123】
上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【課題】銅箔と樹脂フィルムとの接合面を従来よりも低粗度化しても、従来と同等以上の接合性(銅箔と樹脂フィルムとの接合性)を有するFPCを可能にする銅張積層板、該銅張積層板を得るための表面処理銅箔、および該表面処理銅箔の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の表面処理銅箔は、銅原箔に対して、該銅原箔の前記樹脂フィルムと貼り合わせる側の表面に複数の被覆層が形成されたものであり、前記複数の被覆層は、前記銅原箔の上に形成され所定の平均粒径を有する粗化銅結晶粒からなる粗化銅めっき層と、前記粗化銅めっき層の上に形成された防錆ニッケルめっき層と、前記防錆ニッケルめっき層の上に形成され所定の平均粒径を有する小突起銅結晶粒からなる小突起銅めっき層と、前記小突起銅めっき層の上に形成された亜鉛めっき層とを有する。