【文献】
自然科学研究機構 国立天文台編纂,理科年表 平成19年,日本,丸善,2006年11月30日,第397−398頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、たとえば、上記例でいえば、試料ホルダーのX軸駆動の作用点3と、試料1の位置との間に、試料ホルダーの主軸の一部である部材2が介在する(以下、この部材2の範囲、すなわち、X軸駆動の作用点3と試料1の位置との間をX駆動遠隔距離間ともいう。)ので、前記のX駆動遠隔距離間の部材2が、温度の変動を受けた場合、前記部材2は、軸上の熱膨張または熱収縮が発生し、その結果、試料ホルダーの長手方向19の軸上にて伸縮を起こし、試料1の位置は、19と20の交点を通過する電子線位置とに、相対ズレを起こすことになる。
【0007】
また、試料ホルダーのX軸駆動させるリンク部材10は、試料ホルダー保持筒6に装着されているので、試料ホルダー保持筒6自体が、温度の変動を受けた場合、結果的にX軸駆動の作用点3は、試料ホルダー保持筒6と共に、膨張または熱収縮を起こし、試料ホルダーの主軸の一部である部材2に有する試料1の位置は、19と20の交点を通過する電子線位置に対して相対ズレを起こすことになるという問題もある。
【0008】
特に、試料を試料ホルダーに装着する作業において、一般的には、室内の雰囲気中で行うので、試料ホルダーの主軸部材の温度は、当該室温影響下にあるが、試料取り付け後に電顕に装着すると、今度は、電顕内部の温度の環境下に移行し、温度の差異が平衡状態になるまで、X駆動遠隔距離間は、変化し続けることになる。
【0009】
なお、電顕は、電子線を収束制御するために、多数の電子線集束レンズコイルを用い常にジュール熱を発生しているので、前記の熱を逃がすために、電子線集束レンズコイルに冷却水を流し緩和している。しかしながら、一般的な電顕筐体内部の温度は室温より高いので、電顕に試料ホルダー装着した場合、試料ホルダーの主軸の部材の温度は上昇し始めて、温度平衡に至るまで熱膨張を続ける。
【0010】
つまり前途の時間中、X駆動遠隔距離間は伸び続けるので、試料1の位置は、19と20の交点を通過する電子線位置とに相対的にズレ続けることになり、電顕利用者は、試料ドリフトが利用可能なレベルまでに収まるのを待たねばならない問題がある。
【0011】
通常、試料ドリフトが収まるまでの待ち時間は、取得したい分解能(倍率)に依存するが、高分解能のナノレベルでのデーター取得の場合、ナノレベルの試料ドリフトでも問題となるので、そのため数時間待つ場合もある。
【0012】
さらに、試料駆動装置は、室温変動の影響により、試料駆動装置の主部材が熱膨張変化を伴う為、結果的に試料ドリフトを起こすので、電顕利用者は、電顕設置室の室温を一定に保つ(通常の理想的な電顕室は、室温20℃、変動範囲±0.1℃以下)必要があり、利用者は、可能な限り、電顕設置環境の恒温室化を配慮しているが、前記制御は、一般的に室温20℃±0.1℃の制御ですら限界である。
【0013】
さらに、実際に電顕を使用する場合、試料交換作業や、当該装置のオペレーション(操作)の為、電顕設置されている部屋に入出、及び滞在することになるので、置環境から、室温を一定に保つ恒温を要求されるが、ドアの開閉や、滞在人員の人数(発熱量)の変化影響により、実質的な室温を、20℃±0.1℃に保つのは不可能である。
【0014】
さらに、当該装置のオペレーションを行う人体の発熱の影響により、電顕設置室の空気の流れの安定を乱す要因で、結果的に電顕に備わる試料駆動装置の近傍の気温の安定を乱す要因である。
【0015】
昨今、透過型電子顕微鏡や走査透過型電子顕微鏡の利用分野は、研究機関ののみならず、ナノ技術を必要とする産業の生産ラインに取り込まれている。しかしながら、生産ラインの場合、スループットの向上は重要なファクターであり、効率よい電顕観察手段が求められている。試料を試料ホルダーに装填する作業は、室内の雰囲気中で行うので、試料ホルダーの主軸部材の温度は、室温影響下にある一方、試料を試料ホルダーに装填し電顕に装着する際には、電顕の温度の環境下に移行し、温度の差異が平衡状態になるまで、ゴニオステージの試料ホルダーのX軸駆動の作用点と、試料固定部、つまり観察点との間、すなわちX駆動遠隔距離間に介在する部材の熱膨張の影響を受け、試料ドリフトを起こし、データー取得できないため、温度平衡安定状態に至るまで、電顕利用者は、待たねばならない問題があった。すなわち、電顕は研究用途だけでなく産業上の生産ラインに取り込まれ、試料観察スループットの向上など、効率化が重要視されるので、電顕に試料ホルダーを装着した直後に発生する試料ドリフトが収まるまでの時間の軽減は、重要な課題となっている。しかし、このような試料ドリフトを回避可能な試料ホルダーはこれまで知られていない。
【0016】
そこで、本発明は、電子顕微鏡の利用におけるデーター取得開始が可能になるまでの待ち時間を軽減させることが可能で、大幅な利便を有する試料ホルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明者は、試料ホルダー本体の長手方向の主軸材や試料ホルダーの保持筒等の試料駆動装置に用いる材料として種々の材料を用いることで、線膨張を軽減させることで、電顕に試料ホルダーを装着した直後に発生する試料ドリフトの発生を軽減させる構成等について鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0018】
本発明の試料ホルダーは、試料ホルダー本体の主軸材であって、試料の観察点と、ゴニオステージに備わる試料ホルダーの
長手方向軸の駆動の作用点との間に介在する部分の前記主軸材の材料は、熱膨張率が14.7×E-6[1/K]未満であって
、94W−4Ni−2Cu又は94W-2Ni−2Cuからなることを特徴とする。
【0020】
本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、
前記遷移金属の4〜6族に属する元素からなる材料は、遷移金属の6族に属する元素を主材とすることを特徴とする。
【0023】
本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、タングステンを含む合金が、94W−4Ni−2Cu又は94W-2Ni−2−Cuであることを特徴とする。
【0024】
本発明の試料駆動装置は、本発明の試料ホルダーを有することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の試料駆動装置の好ましい実施態様において、前記試料ホルダーの保持筒の主材
は、熱膨張率が14.7×E-6[1/K]未満であって、94W−4Ni−2Cu又は94W-2Ni−2Cuからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の試料ホルダー及び試料駆動装置によれば、試料ホルダー本体の長手方向の主軸材に、低熱膨張係数の材料、例えばタングステン等を用いることで、線膨張を軽減させ、電顕に試料ホルダーを装着した直後に発生する試料ドリフトの発生を軽減させる機構において、特に、電顕筐体内部の温度は、一般的室温より高く、室温下で、試料ホルダーに試料を装着した際の試料ホルダーの温度から、電顕に装着した際に受ける試料ホルダー主軸部材の温度上昇、および、温度平衡に至るまで、熱膨張による試料位置の長手方向のドリフトを軽減することで、電顕利用者は、電子顕微鏡の利用におけるデーター取得開始可能なまでの待ち時間を大幅に軽減できる有利な効果を奏する。
【0027】
また、本発明の試料ホルダー及び試料駆動装置によれば、試料ホルダー本体の主軸材に用いる材料に、低熱膨張率の材料、特にタングステンを用いることにより、漏洩X線のシールドの為の鉛を用いる必要がないという有利な効果を奏する。
【0028】
また、本発明の試料ホルダー及び試料駆動装置によれば、試料ホルダー本体の長手方向の主軸材に用いる、低熱膨張率材料は比熱が高いため、従来から用いられている、真鍮、燐青銅、アルミ、非磁性ステンレスより、電顕に装着後、電顕内部にて平衡温度に達した後に外気による微小な温度変化によるドリフトも軽減させる事を可能にし、より安定したデーター取得を可能とする。
【0029】
また、試料ホルダー本体の長手方向の主軸材、又は、試料ホルダー保持筒等の試料駆動装置に用いる低熱膨張率材料、特にモリブデンおよびタングステンを主材料とする低熱膨張率材料は、従来から用いられている真鍮、燐青銅、アルミ、非磁性ステンレスより質量(密度)が大きいので、表2からも判るように、室温変動における実熱膨張量は小さい。
【0030】
従って、本発明によれば、従来から用いられている、真鍮、燐青銅、アルミ、非磁性ステンレスより、電顕に装着後、電顕内部にて平衡温度に達した後に外気による微小な温度変化によるドリフトも表2で示すようにHCA1の温度変動による熱膨張量は、例えば、従来のSUS304の温度変動による熱膨張量に対比して、約1/6に軽減可能であり、室温変動に対し、安定したデーター取得を可能とする有利な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
まず、本発明の試料ホルダーにおいて、試料ホルダー本体の長手方向の主軸材に、低熱膨張率の材料を用いることで、線膨張を軽減させ、電顕に試料ホルダーを装着した直後に発生する試料ドリフトの発生を軽減させる機構を説明すると以下のようである。
【0033】
電顕筐体内の電子線と、ゴニオステージと、試料ホルダーの構成を、図も用いて詳述する。
図1のようにゴニオステージの試料ホルダー保持筒6に装着された試料ホルダーを、ゴニオステージのX軸駆動機構8、9、10にて、試料ホルダー2,4の配した駆動伝達受け部3駆動することで、試料1の観察点を、電子線位置(19と20の交点)にて、電子線に当てるX軸駆動機構において、ゴニオステージに備わる試料ホルダーのX軸駆動の作用点3と、試料1の観察点との間の、X駆動遠隔距離に介在する試料ホルダーの主軸の部材2は、熱膨張の影響を極限に少なくすることが望まれる。
【0034】
そこで、例えば、
図2で示すように、試料ホルダーのX軸駆動の伝達受け部3と試料1との間の部材2、つまりX駆動遠隔距離間に用いる部材2に低膨張率の材料、例えばタングステン等を用いることで、ドリフトを軽減させ、本発明者は、電子顕微鏡の利用におけるデーター取得開始可能なまでの待ち時間を大幅に軽減させる実施形態を見出すに至った。
【0035】
すなわち、本発明の試料ホルダーは、試料ホルダー本体の主軸材が、低熱膨張係数の材料からなる。低熱膨張係数の材料とは、従来試料ホルダー本体の主軸材として用いられていた材料の熱膨張率よりも低いという意味で用いている。まず、試料ホルダーは、電子線に影響を与えないという観点、すなわち、もし試料ホルダーに不均一な磁場を含んでいる場合、試料を通過する電子線は、ローレンツ力:Lorentz force(電磁場中で運動する荷電粒子が受ける力)を受けて、当該電子線を乱してしまうという観点から、非磁性であることが要求される。したがって、従来の試料ホルダーへの適用材料は、下記のように限られた材料であり、当該材料の熱膨張率は、以下の表1のようになる。表1は、金属種別による線膨張を示す。
【表1】
表中、※1は、理科年表2007年版より引用。※2は、清峰金属工業株式会社の物性的特長表より引用。※3は、日本タングステン株式会社の物性的特長表より引用(タングステン合金HAC1の成分:97W−2Ni−1Cu、タングステン合金HAC2の成分:97W−4Ni−2Cu)。備考:上記データーは、試料提供元の違いで、若干異なる場合がある。
【0036】
一般的な試料ホルダーの主軸部材として、真鍮、燐青銅、アルミ、非磁性ステンレスなどが用いられているが、これらは、すべての固体温度帯域で、温度が上昇すると膨張し続ける、つまりプラスの膨張係数をもつ。したがって、試料ドリフトを抑えるという観点から、より低い熱膨張率の材料が望まれることになる。すなわち、電顕に試料ホルダーを装着した直後に発生する試料ドリフトが、収まるまでの時間を軽減するには、ゴニオステージに備わる試料ホルダーのX軸駆動の駆動伝達受け部3と、試料1の固定部との間に介在する、X駆動遠隔距離間の部材2の熱膨張を軽減する必要があるが、本発明においては、従来使用されている主軸材の熱膨張率より低い熱膨張率の材料を用いて試料ドリフトの問題を解決しようとしている。
【0037】
本発明において、ステンレス鋼の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有する材料を、本発明の試料ホルダーの主軸材等に適用することが可能である。好ましい実施態様において、前記低熱膨張係数の材料が、遷移金属の4〜6族に属する元素を含む。遷移金属の4〜6族に属する元素とは、具体的に、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、チタン、ジルコニウム等である。
【0038】
好ましくは、前記低熱膨張係数の材料が、遷移金属の6族に属する元素を含み、特にタングステン、又はタングステン主材料の合金からなる。本発明の試料ホルダーの材料は、タングステンが主材料の合金であれば、特に限定されるものではない。非磁性等試料ホルダーに要求される条件をクリアすれば、例えば、タングステンを主材料として、不純物として上記遷移金属を含有してもよく、また、上記遷移金属以外の金属等を含有してもよい。要するに、従来よりも低い熱膨張率を達成可能な合金であればよい。
【0039】
好ましい実施態様において、前記低熱膨張係数の材料が、鉛フリーである。特に低熱膨張率の材料として、タングステンを用いた場合には、所謂鉛よりもX線遮断効率がよいので、鉛を一切使用せずに試料ホルダーを提供可能である。特に、好ましい実施態様において、成形が容易という観点から、タングステンを含む合金が、94W−4Ni−2Cu又は94W-2Ni−
2Cuである。
【0040】
次に、本発明の試料ホルダーの保持筒について説明する。本発明の試料ホルダーの保持筒は、従来の保持筒に対して、材質として、低熱膨張率の材料を用いることを特徴とする。その効果は、試料ホルダーの保持筒に、低熱膨張率の材料を用いることにより、温度変化による試料ドラフトの問題を解消するために、
図1の部材10及び伝達面3の位置を安定化させることである。すなわち、本発明の試料ホルダー保持筒によれば、電顕内部にて平衡温度に達した後に外気による微小な温度変化によるドリフトをも軽減可能となる。
【0041】
電顕筐体内の電子線と、ゴニオステージと、試料ホルダー、試料ホルダーの保持筒の構成を、図も用いて詳述する。上述のように、X軸駆動機構において、
図1のようにゴニオステージの試料ホルダー保持筒6に装着された試料ホルダーを、ゴニオステージのX軸駆動機構8、9、10にて、試料ホルダー2,4の配した駆動伝達受け部3駆動することで、試料1の観察点を、電子線位置(19と20の交点)にて、電子線に当てることが可能である。ここで、試料ホルダーのX軸駆動させるリンク部材10は、試料ホルダー保持筒6に装着されているので、試料ホルダー保持筒6自体が、温度の変動を受けた場合、結果的にX軸駆動の作用点3は、試料ホルダー保持筒6と共に、膨張または熱収縮を起こし、試料ホルダーの主軸の一部である部材2に有する試料1の位置は、19と20の交点を通過する電子線位置に対して相対ズレを起こすことになるので、ゴニオステージのX軸駆動機構8、9、10等を搭載する試料ホルダー保持筒6等の試料駆動装置に用いられる材料も熱膨張の影響を極力少なくすることが望まれる。
【0042】
そこで、本発明者は、例えば、試料ホルダーの保持筒等の試料駆動装置に用いられる材料として、低膨張率の材料を用いることで、室温変動における実熱膨張量を大幅に軽減させることを見出すに至った。
【0043】
すなわち、本発明の試料ホルダーの保持筒は、低熱膨張係数の材料からなることを特徴とする。低熱膨張係数の材料とは、従来試料ホルダーの保持筒として用いられていた材料の熱膨張率よりも低いという意味で用いている。
【0044】
一般的な試料ホルダーの保持筒等の試料駆動装置に用いられる部材として、真鍮、燐青銅、アルミ、非磁性ステンレスなどが用いられているが、これらは、すべての固体温度帯域で、温度が上昇すると膨張し続ける、つまりプラスの膨張係数をもつ。したがって、試料ドリフトを抑えるという観点から、より低い熱膨張率の材料が望まれることになる。
【0045】
本発明において、ステンレス鋼の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有する材料を、本発明の試料ホルダー保持筒等の試料駆動装置に用いられる材料に適用することが可能である。好ましい実施態様において、前記低熱膨張係数の材料が、遷移金属の4〜6族に属する元素を含む。遷移金属の4〜6族に属する元素とは、具体的に、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、チタン、ジルコニウム等である。
【0046】
好ましくは、前記低熱膨張係数の材料が、遷移金属の6族に属する元素を含み、特にタングステン、又はタングステン主材料の合金からなる。本発明の試料ホルダーの保持筒等試料駆動装置に用いられる材料は、タングステンが主材料の合金であれば、特に限定されるものではない。非磁性等試料駆動装置に要求される条件をクリアすれば、例えば、タングステンを主材料として、不純物として上記遷移金属を含有してもよく、また、上記遷移金属以外の金属等を含有してもよい。要するに、従来よりも低い熱膨張率を達成可能な合金であればよい。
【0047】
好ましい実施態様において、試料駆動装置に用いる材料である前記低熱膨張係数の材料が、鉛フリーである。特に低熱膨張率の材料として、タングステンを用いた場合には、所謂鉛よりもX線遮断効率がよいので、鉛を一切使用せずに試料ホルダーを提供可能である。特に、好ましい実施態様において、成形が容易という観点から、タングステンを含む合金が、94W−4Ni−2Cu又は94W-2Ni−
2Cuである。
【0048】
次に、本発明の試料駆動装置について説明する。本発明の試料駆動装置は、本発明の試料ホルダーを有する。試料ホルダーについては、上述の本発明の試料ホルダーの説明を参照されたい。試料駆動装置は、例えば、所望によりX軸駆動機構アクチュエーター本体8、X軸駆動機構アクチュエーター本体の駆動ピン9、試料ホルダーの軸へX軸駆動を伝達するリンク部材10などによって構成される試料ホルダー駆動機構や、所望によりY軸駆動機構で押された保持筒を押し返す部材11、Y軸駆動機構用アクチュエーター本体12、保持筒押し返し部材11用のスプリング13、試料ホルダー保持筒のピボット駆動部材14などを有してもよい。X軸駆動機構アクチュエーター本体8、X軸駆動機構アクチュエーター本体の駆動ピン9、試料ホルダーの軸へX軸駆動を伝達するリンク部材10などにより、試料ホルダーの所謂X軸方向の制御を可能とする。また、Y軸駆動機構用アクチュエーター本体12等により、試料ホルダーの所謂Y軸方向の制御を可能とする。
【0049】
また、本発明の試料駆動装置の好ましい実施態様において、前記試料ホルダーの保持筒の主材が、低熱膨張係数の材料からなることを特徴とする。試料ホルダー保持筒については、上述の本発明の試料ホルダー保持筒の説明を参照されたい。
【0050】
本発明において、試料ホルダーの保持筒等以外にタングステン等の低熱膨張係数の材料を代替して用いることが可能な試料駆動装置の部分として、主フレーム部材7、電子顕微鏡筐体17等を挙げることができる。主フレーム部材7には、一般に、Y、Z各軸の駆動機構が組みこまれている。この例の構成においては、Y軸駆動機構用アクチュエーター本体12は、主フレーム部材7に配置されているので、主フレーム部材7の外径方向の熱膨張、または収縮により、試料ホルダー保持筒6に対して変動することになる。従って、その変動分は、ピボット支点14を介し、試料ホルダー保持筒6に保持された試料ホルダーの軸2を変動させて、試料位置1が変動することになる。
【0051】
Z軸駆動機構は、Y駆動と全く同様であるが、軸19を基準に90度の回転した位置に配した場合、それがZ軸駆動機構となるので、同じ結果となる。
【0052】
電子顕微鏡筐体17については、図では、ポールピース、ポールピースをセンターリングする非磁性のスペーサー及び、電子レンズの磁場を流す導磁誘導部材は省略されて記載されている。実際には、ポールピース、スペーサー、導磁誘導部材など他の構成を含んでいる。電子顕微鏡筐体17の位置が内側や外側にくる等、電顕の種類等により電子顕微鏡筐体17の位置が異なる場合も考えられるが、例えば、外郭に来る場合の電顕筐体の対物レンズ周りの構造を詳述すると、中央(19、20の交点)の真空部には、電子線経路やポールピースが配される。その外殻にポールピースをセンターリングする、非磁性のスペーサーを介して、さらに、その外側に電子レンズの磁場を流す導磁誘導部材が配される。さらにその外殻に鏡筒として、電子顕微鏡筐体17が存在する。
【0053】
上述のように、電子顕微鏡筐体17の位置が内殻や外殻にくる等、電顕の種類等により電子顕微鏡筐体17の位置が異なる場合も考えられるが、いずれの場合にも本発明を適用可能である。電子顕微鏡筐体17が内側、中側、外側等のいずれの位置に存在していても、電子顕微鏡筐体17の熱膨張および収縮の影響で、保持する機構14の位置がラジアル上に変動して、14を変動させることとなり、結果、試料ホルダー保持筒6の位置も変動することになる。したがって、電子顕微鏡筐体17の材料を、タングステン等の低熱膨張係数の材料に代替して用いることは同様の効果がある。
【0054】
なお、電顕の鏡筒部フレーム部材(電子顕微鏡筐体17)に配されているピボット支点を保持する機構14も低熱膨張係数の材料を使用することが可能である。
【0055】
なお、
図1及び2においては、X駆動遠隔距離間の素材の形状は円筒軸を表すが、三角形、四角形でも、可能であるので、本発明の試料ホルダーにおいて、特に軸断面の形状やまた軸断面積を限定するものではない。
【0056】
また、図では、試料ホルダーに用いる低熱膨張率の材料は
図2で示すように、試料ホルダーのX軸駆動の伝達受け部3と試料1との間の部材2(試料ホルダー本体の主軸材)で用いているが、低熱膨張率の材料を、3、4、5に用いる事も特に問題では無いので、部材2に限定するものではない。
【0057】
なお、図面を用いて本発明の一例を挙げ、詳細に説明してきたが、引用した図面の形状に限定して解釈されることを意図するものではない。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【0059】
実施例1
先ず、本発明の試料ホルダー本体の長手方向の主軸材に、低熱膨張率の材料、例えばタングステンを用いることで、線膨張を軽減させ、電顕に試料ホルダーを装着した直後に発生する試料ドリフトの発生を軽減させる機構について試験を行った。
【0060】
具体的に、試料ホルダーに試料を装着する際の電子顕微鏡設置室の室温を20℃前後、また電顕内部温度を40℃前後と想定し、20℃から40℃において、X駆動遠隔距離間の線膨張係数を軽減させることについて試験した。タングステンを用いた試料ホルダーの作成方法については、常法に従った。
【0061】
これまで最も一般的に用いられる試料ホルダーの素材、燐青銅を例に挙げると、20℃から40℃において、前記燐青銅の線膨張係数は、α=15μm/℃である。
【0062】
これに対して、本発明の実施例に用いたタングステン「ヘビーアロイ」の線膨張係数は、α=5μm/℃である。
【0063】
従って、本発明の実施例では、これまで最も一般的に用いられる試料ホルダーの素材、燐青銅の試料ホルダーに対し、ほぼ1/3に軽減させることが可能となる。このようにタングステンを用いて試料ホルダーの主軸2を形成した場合には、試料ドリフトを大幅に軽減できることが判明した。
【0064】
TEMには、多種多様な装置があり、性能的にも固体差が大きい。したがって、TEMの設置環境の違いで、同じ性能のTEMでも全くコンディションが異なることになる。
【0065】
一方、TEMでデータを取得する際は、Film感光やCCD撮影となる。通常CCDでの露光時間は1秒程度であるが、撮影倍率での電子線密度、試料透過率で露光の単位時間を決定することができない。従ってシャッターを切っている間にどの程度試料が流れボケるか?等も限定できないことになる。さらに最近のCCDは、旧型CCDとの比較性能差が著しく、これもまた、露光時間を限定できない要因である。
【0066】
従って、本発明によるドリフトを軽減する効果についても理論的な説明となる。仮にCCDの画素数が1024x1024Pixclと仮定する(一般的な普及型)。CCDのダイサイズは、1インチX1インチと仮定する(一般的な普及型)。この場合、1 Pixel のサイズは、24.8ミクロンとなる。つまりCCD露光上で、24.8ミクロン以下の像ドリフトならば、全く問題ないことになる。
【0067】
例として、取得したい電顕の倍率が10KXである仮定すると、上の定義から、実際の試料のドリフトは2.48nm以下である必要がある。露光時間は、1秒と仮定すると(通常1秒がもっとも汎用的に用いられている。)、約150nm/Min以下のドリフトレートなら撮影可能となる。
図4は、燐青銅の試料ホルダー及びタングステン合金の試料ホルダーのドリフト減衰表(理論値)を示す図である。
【0068】
図4に示すドリフト減衰表から判るとおり、燐青銅の試料ホルダーのドリフト量が約150nm程度まで安定する時間は約25分であるが、タングステン合金HAC1の場合には約12分であり、約150nm程度まで安定する。
【0069】
従って、従来材料に対して、約半分の待ち時間で撮影が可能となることが分かる。
【0070】
尚、下記は、ドリフト減衰表(理論値)に記載している定義である。(1)タングステン合金製試料ホルダーのドリフト量が1nm/min に安定するまでの時間が60分後と仮定する。(2)X駆動遠隔距離間は、10cm(100mm)と仮定する。(3)電子顕微鏡内部装着した場合の試料ホルダー温度上昇は、20℃と仮定する。
【0071】
(1)について補足すると、実際の装置で、燐青銅ホルダーの場合1時間後で4〜5nm/min 程度であるので、実験データと大差は無いといえる。
【0072】
このシミュレーションにおいて、本発明の試料ホルダーの下記優位点がわかる。すなわち、同じドリフトレート到達までに1/2の時間で達し同一経過時間におけるドリフトレートは1/4の軽減になることになる。
【0073】
なお、本発明の実施例に用いたタングステン「ヘビーアロイ」は、日本タングステン株式会社が開発した、高密度タングステン系焼結重合金、94W-4Ni-2Cuまたは94W-2Ni-2Cuである。これまで通常のタングステンは非常に酸化しやすく、切断などの加工が困難であったが、当該の「ヘビーアロイ」は、耐酸化性に優れ、さらに機械加工を可能にする材料であるので、加工精度が必要な試料ホルダーのパーツとして用いる事が可能である。なお、本発明の実施例において、日本タングステン社の「ヘビーアロイ」を用いたが、同様の機械加工が可能なタングステン素材であれば、特に日本タングステン社の「ヘビーアロイ」を限定するものではない。
【0074】
なお、本発明の実施例において、X駆動遠隔距離間の線膨張係数の軽減を求める為、素材を限定したが、特に接続する部材の点数を限定されることを意図するものではない。
【0075】
実施例2
次に、試料及び試料近傍から発生するX線の漏えい防止可能な好適な材料でかつ、低熱膨張率の材料を調査した。
【0076】
具体的には、低熱膨張率の材料として、タングステンを調べた。
図3は、鉛とタングステン(ヘビーアロイ)のガンマ線減衰率を比較したものである。その結果、
図3で示すように、タングステンのX線遮蔽力は、鉛を上回ることが判明した。よって、これまでの試料ホルダーに付帯されている、電子線に照射された、試料及び試料近傍から発生するX線に対し、漏洩しないように用いられている鉛部材を必要としないことが判明した。
【0077】
実施例3
次に、本発明の試料ホルダーの主軸材、保持筒等に用いることが可能な材料について、特に室温変動における実熱膨張量の点から評価を行った。すなわち、特に試料ホルダー保持筒6にタングステンを用いた場合に、リンク部材10及び伝達面3の位置等の温度変化に対する安定性について調査した。すなわち、外気による微小な温度変化によるドリフトの問題も軽減できるかどうかを調べた。
【0078】
表2は、物性特徴表を示す。室温変動における実熱膨張量の対比を調べたものである。
【表2】
表2中、SUS304は、従来使用されているオーステナイト系ステンレスを示し(具体的な、SUS304の規格成分:Bal.Fe 18.00-20.00Cr 8.00-10.50Ni ≦0.08C ≦1.00Si ≦2.00Mn ≦0.045P ≦0.030S。なお、規格品以外にも各メーカーの独自鋼種が数多く存在する。)、またHCA1は、タングステン合金(HCA1:97W−2Ni−1Cu)を示す。
【0079】
上記材質における温度変動による熱膨張量を比較する場合、下記計算により、粗推測できる。すなわち、温度変動による熱膨張量=密度・比熱・熱膨張=J・m/cm3・K2である。但し、定義1:材料形状、体積(cm3)は、同じである。定義2:平均温度(室温)の条件は同じであり、変動量の同じとする。定義3:材料形状が同じであるので、表面積は等しく、熱交換効率は同じとする。
【0080】
A材料:B材料=J・m/cm
3・K
2:J・m/cm
3・K
2
【0081】
したがって、HCA1とSUS304との対比は以下のようである。
【0082】
HCA1:SUS304
=18.5・0.146・5.0:7.93・0.59・17.3
=13.51:80.94
=1:5.99
【0083】
従って、HCA1の温度変動による熱膨張量は、従来のSUS304の温度変動による熱膨張量に対比して理論的に、約1/6≒0.17倍に軽減が可能であることが分かる。
【0084】
以上の結果から、室温変動によって微小なドリフトを生じ得る伝達面3等において、試料ホルダー保持筒等の材料として低熱膨張率材料を用いることにより、室温変動に対して安定したデーターの取得を可能にするという有利な効果を奏することが判明した。