(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高炉操業に関する知見を有する高炉技術者であれば、現状の装入物分布の分布形状が与えられれば、その一部を変更することにより高炉の安定操業に適した分布形状を想定することができる。この方法によれば、高炉における現状の装入物分布が得られれば、計算機等によって複雑な演算を行うことなく、その分布形状から高炉の安定操業に適した目標とすべき分布形状(目標分布形状)を容易且つ迅速に得ることができる。
【0008】
しかし、このように求められた目標分布形状はその形状のみに着目して求められたものであり、実際の高炉の操業条件が考慮されていないため、高炉の装入物分布の分布形状が前記の目標分布形状となるような操業条件を求めてこの条件により高炉の操業を行っても、実際の高炉の装入物分布は目標分布形状と異なった分布形状となる可能性が高い。
【0009】
そこで、高炉の操業において目標とする装入物分布が与えられたときに、この装入物分布を実際の高炉の操業条件が考慮された分布に変換する高炉装入物の目標分布変換装置、この装置に用いられる目標分布変換方法、及び高炉装入物の目標分布変換プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上記の課題を解決すべく、本発明は、高炉の炉頂部において交互に積層される鉱石層とコークス層との所定の炉半径の各位置における層厚比の分布である装入物分布を変換する装置であって、前記高炉への鉱石及びコークスの1バッチあたりの各装入体積を取得する装入量取得手段と、前記高炉の操業において目標とする装入物分布である目標分布を取得する目標分布取得手段と、前記取得された目標分布を前記取得された鉱石及びコークスの各装入体積に基づいて変換する変換手段と、前記変換手段によって変換された目標分布を出力する出力手段と、を備え、前記変換手段は、前記目標分布取得手段によって取得された目標分布における各層厚比の値に所定の係数を乗じることにより、当該変換手段によって変換された目標分布における鉱石とコークスとの1バッチあたりの各
装入体積の比と前記
装入量取得手段によって取得された1バッチあたりの鉱石とコークスとの各
装入体積の比とが一致するように、前記目標分布取得手段によって取得された目標分布を変換することを特徴とする。尚、本発明において、鉱石及びコークスの高炉内への装入単位をバッチとする。
【0011】
かかる構成によれば、高炉の操業条件を考慮せずに装入物分布の分布形状のみに着目して目標分布を設定しても、この目標分布の分布形状が高炉の操業条件を考慮した分布形状となるように前記目標分布が調整される。具体的には、実際の高炉の操業において、装入物分布(分布形状)のみを変更するために操業条件を変える場合には、通常、鉱石及びコークスの装入方法(ベルレス高炉ならシュートの傾動角、ベルアーマ高炉ならアーマストローク)のみを変更し、1バッチあたりの鉱石及びコークスの各装入量を変更しないことに着目する。即ち、目標分布の分布形状が、取得されたときの当該目標分布の分布形状と近似し且つ高炉操業における1バッチあたりの鉱石及びコークスの各装入量と整合するように前記目標分布が変換される。これにより、高炉の操業条件が考慮された目標分布を得ることができ、高炉の装入物分布がこの変換後の目標分布となるような操業条件を求めてその条件により高炉の操業を行うことにより、高炉の装入物分布を目標分布と近似した分布形状とすることができる。
【0012】
操業中の高炉における装入物分布を監視し、装入物分布が所定の分布から外れたときにこの装入物分布を元の分布(前記所定の分布)に戻るように操業条件を変更することにより、装入物分布の変化を小さくして炉内の状態が不安定になる等のリスクを抑えることが従来から行われていた。上記の構成では、高炉の現状の装入物分布(分布形状)の一部だけを変更して目標分布を設定することにより、装入物分布の変化を小さくして炉内が不安定になる等のリスクを抑える。即ち、変換された目標分布の分布形状が設定された目標分布の分布形状と近似していることから現状の装入物分布の分布形状とも近い形状を有することとなり、現状の装入物分布が変換後の目標分布となるよう高炉の操業条件を変更しても、炉内が不安定になる等のリスクを抑えることができる。
【0014】
また、目標分布を変換するのに必要なパラメータとして装入物(鉱石及びコークス)の体積(装入量)を用いることにより、各パラメータが容易に得られる。具体的には、装入量取得手段により取得する鉱石及びコークスの各装入量は、実際の高炉の操業においては必須の項目であるため計算等を行わなくても得られる。また、変換する前の目標分布を高炉内に実現した場合にこの目標分布を構成する鉱石及びコークスの各体積は、変換する前の目標分布の分布形状から簡単な計算によって得られる。
【0016】
また、所定の係数が目標分布における各層厚比の値に乗じられることにより、目標分布の分布形状と比例した(近似した)分布形状の分布が得られる。しかも、容易に得られる装入物の体積を所定の係数を規定するパラメータとして用いることにより、所定の係数を容易に導出することができる。
【0017】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、高炉の炉頂部において交互に積層される鉱石層とコークス層との所定の炉半径の各位置における層厚比の分布である装入物分布を変換するためのプログラムであって、コンピュータを、前記高炉への鉱石及びコークスの1バッチあたりの各装入体積と前記高炉の操業において目標とする装入物分布である目標分布とを受け取り、前記受け取った目標分布
における各層厚比の値に所定の係数を乗じることで、前記係数を乗じた目標分布における鉱石とコークスとの1バッチあたりの各装入体積の比と前記受け取った鉱石とコークスとの1バッチあたりの各装入体積の比とが一致するように前記受け取った目標分布を変換する手段として機能させることを特徴とする。
【0018】
このようなプログラムをコンピュータに組み込むことにより、高炉の操業条件を考慮せずに装入物分布の分布形状のみに着目して設定した目標分布と、高炉への鉱石及びコークスの1バッチあたりの各装入量とをコンピュータに入力すれば、当該コンピュータが前記目標分布を高炉の操業条件を考慮した分布に変換する。
【発明の効果】
【0019】
以上より、本発明によれば、高炉の操業において目標とする装入物分布が与えられたときに、この装入物分布を実際の高炉の操業条件が考慮された分布に変換する高炉装入物の目標分布変換装置、この装置に用いられる目標分布変換方法、及び高炉装入物の目標分布変換プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0022】
高炉装入物の目標分布変換装置(以下、単に「変換装置」とも称する。)は、操業中の高炉炉頂部における目標とする装入物分布(目標分布)を設定したときに、この目標分布を高炉の操業条件と整合するように変換するものである。本実施形態において、装入物分布とは、高炉の炉頂部において交互に積層される鉱石層とコークス層との層厚をそれぞれLOとLCとしたときに、これらの比であるLO/(LO+CO)の炉半径方向の各位置における分布状態のことをいう(
図8参照)。また、分布形状とは、炉半径の各位置とその位置における層厚比との関係を表した形状である。
【0023】
具体的には、
図1に示されるように、変換装置10は、取得手段11と、取得手段11からの情報を処理する計算機本体14と、計算機本体14において処理された情報(後述の変換結果)を外部に出力する出力手段16とを備える。
【0024】
取得手段11は、高炉技術者等の操業者によって所定の情報が入力され、この入力により取得した情報を計算機本体14に送信するものである。本実施形態の取得手段11は、高炉への装入物、詳しくは鉱石O及びコークスCの1バッチあたりの各装入量(体積)を取得する装入量取得手段12と、操業中の高炉における目標分布を取得する目標分布取得手段13とを備える。装入量取得手段12は、実際の操業において高炉に装入されている1バッチあたりの鉱石O及びコークスCの各装入量を操業者が入力することにより取得し、これを計算機本体14に送信する。また、目標分布取得手段13は、目標分布を操業者が入力することにより取得し、これを計算機本体14に送信する。本実施形態では、装入量取得手段12と目標分布取得手段13とが共通のキーボードによって構成されている。装入量取得手段12や目標分布取得手段13の具体的構成は限定されず、本実施形態ではキーボードであるが、タッチパネル等であってもよい。尚、装入量取得手段12と目標分布取得手段13とが別々に構成され、それぞれが独立して計算機本体14に接続されてもよい。また、装入量取得手段12及び目標分布取得手段13は、高炉の制御等に用いられる計算機等から有線又は無線により前記の各情報を直接取得するように構成されてもよい。
【0025】
計算機本体14は、種々の情報を処理可能ないわゆるコンピュータである。この計算機本体14には、所定のプログラムが組み込まれ、このプログラムの実行によって機能的に変換手段15が構成される。この変換手段15は、取得手段11により取得した高炉の操業条件に基づいて目標分布を変換する。本実施形態の変換手段15は、目標分布を1バッチあたりの鉱石O及びコークスCの各装入量に基づいて変換する。具体的に、変換手段15は、取得手段11により取得された目標分布の形状(目標分布形状)と近似し且つ取得手段11により取得された1バッチあたりの鉱石O及びコークスCの各装入量と整合する形状をもつ分布に目標分布を変換する。詳しくは、変換手段15は、目標分布における各層厚比の値に所定の係数αを乗じることにより目標分布を変換する。即ち、変換手段15においては、装入物分布(目標分布)をy=f(x)と表したときにy=α・f(x)とする変換が行われる。これにより、目標分布(y=f(x))の分布形状と比例した(近似した)形状の分布(y=α・f(x))が得られる。
【0026】
ここで、特定の装入物分布の形状に近似する装入物分布の形状とは、炉半径方向の各位置における層厚比の値の絶対値が互いに異なるが、炉半径方向に沿った層厚比の値の増減傾向が共通していることをいう。また、所定の係数α(以下、単に「α」と称する。)は、取得手段11により取得した鉱石OとコークスCとの1バッチあたりの各体積(詳しくは体積の比)と、変換される前の目標分布に基づく鉱石OとコークスCとの各体積(詳しくは体積の比)と、に基づいて規定される係数である。具体的に、αは、下記の式(1)により表される。
【0028】
以下、αについて詳細に説明するが、その前に装入物分布の分布形状に基づく鉱石OとコークスCとの体積及びその比の求め方について説明する。
【0029】
装入物分布y=f(x)は、
図2(A)に示されるように、炉中心と炉壁とを含む所定の炉半径におけるN点の層厚比を炉内の表面プロフィールの実測値から求め、隣り合う2点間を直線で補間したものである。
【0030】
そして、
Vo1:y=f(x),x=0,x=R,x軸で囲まれた面をy軸を回転中心にして回転させたときのこの面の通過領域の体積
Vc1:y=f(x),x=0,x=R,y=1で囲まれた面をy軸を回転中心にして回転させたときのこの面の通過領域の体積
と定義する。
【0031】
Vo1+Vc1は、x=0,x=R,y=1で囲まれた面をy軸を回転中心にして回転させたときのこの面の通過領域の体積であるから、
【数2】
と表せる。この式(2)を変形することで
【数3】
が得られる。この式(3)によれば、Vo1を与えることによってVc1が求まることがわかる。
【0032】
Vo1は次のようにして求めることができる。
【0033】
関数f(x)は、N個の点を直線補間しているので、半径方向にN−1個の区間に分けることができ、各区間は、直線で表される。炉中心からi個目の区間は、(x
i,y
i)と(x
i+1,y
i+1)を結ぶ直線である。
図2(B)に示されるy=f
i(x),x軸,x=x
i,x=x
i+1で囲まれた面をy軸を回転中心にして回転させたときのこの面の通過領域の体積をV
iとすると、f
i(x),V
iは、以下の式(4)及び式(5)のように求められる。
【数4】
【数5】
以下の式(6)に示すように、このV
iをi=1〜N−1まで足し合わせるとVo1が求まる。
【数6】
高炉において、鉱石OとコークスCとの層厚の和(LO+LC)は、炉半径方向において一定とみなすことができる。従って、Vo1とVc1との比は、高炉に装入される鉱石OとコークスCとの体積比Vo:Vcと等しい。即ち、
【数7】
が成り立つ。ここで、Voは、実際に操業中の高炉へ装入される1バッチあたりの鉱石Oの装入量であり、Vcは、実際に操業中の高炉へ装入される1バッチあたりのコークスCの装入量である。
【0035】
例えば、操業中の高炉において現状の装入物分布の分布形状が
図3に示されるような形状であった場合、操業者は、これまでの操業経験等に基づき、安定操業に適した分布形状に比べて炉壁近傍の部位(点線の楕円部)の層厚比が炉壁に向って上がりすぎていると判断することができる。この判断に基づき、操業者は、高炉の安定操業を維持するための目標分布形状を
図4に示されるような形状に設定することができる。このとき設定された目標分布形状は、分布形状の形のみに着目して設定されたものである。即ち、この目標分布形状の設定の際に、高炉の操業条件(詳しくは、1バッチあたりの鉱石O及びコークスCの各装入量)は考慮されていない。
【0036】
この形状をy=F2(x)とし、上記と同様にしてVo1,Vc1に相当するVo2,Vc2を求める。このように求めたVo2,Vc2と、Vo,Vc(高炉へ実際に装入される1バッチあたりの鉱石O及びコークスCの装入量)とを用いてαが規定される。このように、αは、当該αを規定するパラメータとして装入物(鉱石O及びコークスC)の体積(装入量)Vo,Vc,Vo2,Vc2を用いることで、容易に求めることができる。具体的には、取得手段11により取得する鉱石O及びコークスCの各装入量Vo,Vcは、実際の高炉の操業においては必須の項目であるため計算等を行わなくても容易に得られる。また、変換する前の目標分布F2(x)を高炉内に実現した場合にこの目標分布F2(x)を構成する鉱石O及びコークスCの各体積Vo2,Vc2は、変換する前の目標分布F2(x)の分布形状(
図4参照)から簡単な計算(式(3)〜式(6)参照)によって得られる。
【0037】
ここで、変換手段15によって変換された目標分布を
【数8】
と表す。
【0038】
この新たな装入物分布(変換された目標分布)y=F3(x)における上記のVo1,Vc1に相当するVo3,Vc3を求める。Vo3は、式(8)よりVo2のα倍となるので、
【数9】
ここで、式(3)より、
【数10】
となり、
【数11】
が得られる。これにより、変換手段15により変換された目標分布F3(x)に基づく1バッチあたりの鉱石OとコークスCとの各装入量(体積比Vo3:Vc3)と、実際の高炉に装入される1バッチあたりの鉱石OとコークスCとの各装入量(体積比Vo:Vc)との整合が取れていることがわかる。
【0039】
変換手段15は、操業者が設定して取得手段11に入力した目標分布F2(x)をこのようなαを用いて変換し、その変換結果(変換された目標分布F3(x))を出力手段16に出力する。
【0040】
出力手段16は、計算機本体14(詳しくは、変換手段15)が出力した変換結果を受信し、これを外部に出力するものである。本実施形態の出力手段16は、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、PDP等の表示手段によって構成されているが、これに限定されず、プリンタ等の印刷手段や、他の装置(例えば、高炉の制御等に用いられる計算機等)等へ出力するように構成されてもよい。また、出力手段16は、これらを組み合わせたものでもよい。
【0041】
以上のように構成される変換装置10では、
図6を参照しつつ以下において説明するように、目標分布F2(x)が変換される。
【0042】
先ず、操業中の高炉における現状の装入物分布が取得される。この現状の装入物分布は、プロフィールメーター等によって、直接、高炉内の表面プロフィールを測ることにより得てもよく、過去の実績データや装入条件等からシミュレーションによって得てもよい。
【0043】
得られた装入物分布を
図3に示す。この装入物分布F1(x)の分布形状から、操業者は、これまでの操業経験等に基づき、安定操業に適した分布形状に比べて炉壁近傍の部位(点線の楕円部)の層厚比が炉壁に向って上がりすぎていると判断することができる。そして、操業者は、この判断に基づき、高炉の安定操業を維持するための目標分布形状を設定する。具体的に、操業者は、
図4に示されるように、得られた分布形状の一部を修正した分布形状の目標分布F2(x)を設定する。詳しくは、操業者は、前記の判断において層厚比が上がりすぎていると判断した部分を水平に修正し、これを目標分布F2(x)とする。
【0044】
このように、操業者の知見等に基づいて目標分布F2(x)が設定されることにより、複雑な演算等を行うことなく、迅速に目標分布F2(x)の設定が行われる。しかし、この目標分布F2(x)は、分布形状のみに着目して設定された分布であるため、実際の高炉の操業条件が考慮されていない。そのため、この目標分布F2(x)に基づいて操業条件を変更しても、実際の装入物分布は、目標分布F2(x)と異なる分布となる可能性が高い。そこで、変換装置10により、この目標分布F2(x)を操業条件が考慮された分布に変換する。
【0045】
操業者によって入力されることにより、取得手段11が目標分布F2(x)を取得する(ステップS1A)。このとき、操業者によって入力されることにより、取得手段11が操業中の高炉における1バッチあたりの鉱石O及びコークスCの各装入量Vo,Vcも取得する(ステップS1B)。このステップS1Bは、ステップS1Aと同時に行われる必要はなく、ステップS1Aの前や後に行われてもよい。
【0046】
取得手段11は、目標分布F2(x)と鉱石O及びコークスCの各装入量Vo,Vcとを計算機本体14の変換手段15に送信する。
【0047】
これを受信した変換手段15は、目標分布F2(x)から上記のようにしてVo2,Vc2を求める(ステップS2)。変換手段15は、求めたVo2,Vc2と、取得手段11から取得した鉱石O及びコークスCの各装入量Vo,Vcとからαを求める(ステップS3)。
【0048】
そして、このようにして求めたαを用い、変換手段15は、目標分布F2(x)をF3(x)に変換(具体的には、F3(x)=α・F2(x)とする変換)を行う(ステップS4)。即ち、変換手段15では、操業条件が考慮されずに設定された目標分布F2(x)が、当該目標分布F2(x)における各層厚比の値にαが乗じられることにより、操業条件の考慮された分布F3(x)に変換される。この変換後の目標分布F3(x)は、
図5に示すような分布形状となる。
【0049】
ここで、このF3(x)から上記のようにしてVo3,Vc3を求め、実際に高炉に装入されている鉱石O及びコークスCの各装入量Vo,Vcと比べると、式(11)が成り立っていることがわかる。即ち、変換後の目標分布F3(x)は、実際に高炉に装入されている鉱石O及びコークスCの各装入量と整合が取れており、操業条件が考慮された分布形状となっている。
【0050】
一方、目標分布F2(x)から求めた前記のVo2,Vc2の比Vo2:Vc2は、
Vo:Vc≠Vo2:Vc2
となる。そのため、目標分布F2(x)では、実際に高炉に装入されている鉱石O及びコークスCの各装入量と整合が取られておらず、操業条件の考慮されていない分布形状であることがわかる。
【0051】
このように変換手段15で変換された後の目標分布F3(x)は、出力手段16に向けて変換結果として出力される。この変換手段15からの変換結果を受信した出力手段16は、これを表示する(ステップS5)。
【0052】
その後、表示された変換後の目標分布F3(x)を見た操業者は、高炉の装入物分布の分布形状が変換後の目標分布F3(x)となるような操業条件を求め、現状の操業条件をこの求めた操業条件に変更する。これにより、高炉の装入物分布が装入物分布F1(x)から変換後の目標分布F3(x)となり、高炉の安定操業が維持される。
【0053】
以上のような変換装置10によれば、高炉の操業条件を考慮せずに装入物分布の分布形状のみに着目して目標分布F2(x)を設定しても、この目標分布F2(x)の分布形状が高炉の操業条件を考慮した分布形状F3(x)となるように目標分布F2(x)が調整される。具体的には、実際の高炉の操業において、装入物分布(分布形状)のみを変更するために操業条件を変える場合には、通常、鉱石O及びコークスCの装入方法(ベルレス高炉ならシュートの傾動角、ベルアーマ高炉ならアーマストローク)のみを変更し、1バッチあたりの鉱石O及びコークスCの各装入量を変更しないことに着目する。即ち、目標分布F2(x)の分布形状が、取得されたときの当該目標分布F2(x)の分布形状と近似し且つ高炉操業における1バッチあたりの鉱石O及びコークスCの各装入量と整合するように、目標分布F2(x)が変換される。これにより、高炉の操業条件が考慮された目標分布F3(x)を得ることができ、高炉の装入物分布がこの変換後の目標分布F3(x)となるような操業条件を求めてその条件により高炉の操業を行うことにより、高炉の装入物分布F1(x)を変換後の目標分布F3(x)とすることができる。この変換後の目標分布F3(x)の分布形状は、変換前の目標分布F2(x)の分布形状と近似しているため、操業条件を変更して高炉内に得られた装入物分布の分布形状は、目標分布F2(x)の分布形状と近似している。即ち、目標とした分布形状に近似した装入物分布とすることができる。
【0054】
また、従来の方法によれば、操業中の高炉における装入物分布を監視し、装入物分布が所定の分布から外れたときに、この装入物分布を元の分布(前記所定の分布)に戻るように操業条件が変更される。これにより、装入物分布の変化を小さくして、炉内の状態が不安定になる等のリスクを抑えることができる。これに対し、変換装置10によれば、高炉の現状の装入物分布(分布形状)F1(x)の一部(
図3における炉壁近傍の部位)だけを変更して目標分布F2(x)を設定することにより(
図4参照)、装入物分布の変化を小さくすることができる。即ち、変換された目標分布F3(x)の分布形状が設定された目標分布F2(x)の分布形状と近似していることから現状の装入物分布F1(x)の分布形状とも近い形状を有することとなり、現状の装入物分布F1(x)が変換後の目標分布F3(x)となるように高炉の操業条件を変更しても、炉内が不安定になる等のリスクを抑えることができる。
【0055】
尚、本発明の高炉装入物の目標分布変換装置、この装置に用いられる目標分布変換方法、及び高炉装入物の目標分布変換プログラムは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0056】
目標分布の具体的な設定の仕方は限定されない。例えば、本実施形態では、目標分布F2(x)は、現状の装入物分布F1(x)に基づいてその分布形状の一部を変更することにより設定されているが、現状の装入物分布F1(x)に基づいて設定されなくてもよい。また、目標分布は、現状の装入物分布F1(x)の複数箇所を変更することにより設定されてもよい。
【実施例1】
【0057】
上記実施形態において現状の装入物分布F1(x)を得た高炉を解析モデルとし、その操業条件を所定の操業条件に変えて操業を続けた場合に当該高炉内に得られる装入物分布をシミュレーション(装入物シミュレーション)により求めた。
【0058】
目標とする装入物分布を高炉内で得るために変更すべき操業条件を求める具体的方法は、操業条件(装入条件)を変更して前記装入物分布シミュレーションを多数回実行して得られた装入物分布と変換後の目標分布F3(x)とを比較する。これを多数回繰り返すことにより、変更後の操業条件を求める。即ち、操業条件の変更と、変更した操業条件でのシミュレーションの実行と、シミュレーションにより得られた装入物分布と変換後の目標分布F3(x)との比較と、を一組としてこの組を多数回繰り返し、変換後の目標分布F3(x)と最も近似した装入物分布が得られたときのシミュレーションの操業条件を前記変更すべき操業条件とする。詳しくは、
図2(A)に示されるN個の半径位置において変換後の目標分布F3(x)の層厚比をy
i、当該半径位置での層厚比のシミュレーション結果をs
iとし、y
iとs
iとの差Eを以下の式(12)で表す。そして、このEの値が最も小さくなったときの操業条件(装入条件)とシミュレーション結果の装入物分布とを求める。
【0059】
【数12】
【0060】
このEの値が最も小さくなったときのシミュレーション結果の装入物分布を
図7(A)に示す。
【0061】
一方、変換前の目標分布F2(x)を用い、上記と同様に、Eの値が最も小さくなったときの操業条件(装入条件)とシミュレーション結果の装入物分布とを求めた。このEの値が最も小さくなったときのシミュレーション結果の装入物分布を
図7(B)に示す。
【0062】
図7(A)では、炉壁近傍(
図3における点線の楕円部)の装入物分布の分布形状がほぼ目標分布として設定したフラットな形状となっている。これに対し、
図7(B)では、図中の矢印の位置をピークとする山型形状が現れている。これは、変換前の目標分布F2(x)の分布形状が鉱石O及びコークスCの各装入量と整合がとれていないため、その影響が現れたものと考えられる。
【0063】
以上より、高炉の操業条件を考慮せずに装入物分布の分布形状のみに着目して目標分布F2(x)を設定しても、この目標分布F2(x)を高炉の操業条件を考慮した分布形状F3(x)となるように変換し、高炉の装入物分布がこの変換後の目標分布F3(x)となるような操業条件を求めてその条件により高炉の操業を行うことにより、高炉の装入物分布F1(x)を目標分布F3(x)とすることができることが確認できた。