(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図21に示すシリンダ傾斜型エンジンでは、エンジン全高を低くすることはできるが、クランクケース101の前後方向(矢印H)の寸法、すなわちクランク軸103と直交する水平な方向の寸法が長くなり、エンジン全体の大形化を避けることはできない。特に、シリンダ100の配置側と反対側に配置された他方のバランサ軸106及び被駆動ギヤ118ギヤを収納するために、クランクケース101の端壁101aには、シリンダ配置側と反対側に大きく円弧状に突出する部分101aが形成され、エンジンの大形化の原因となる。
【0008】
本発明は、シリンダ傾斜型エンジンにおいて、2本のバランサ軸を備えることにより、ピストンの往復運動及びクランク軸の回転により発生する慣性力を、できる限り完全に打ち消し、エンジン振動を抑制すると共に、上記2本のバランサ軸を備えているにもかかわらず、それらの配置を工夫することにより、クランクケースの水平方向の寸法(前後方向の寸法)もコンパクトにできるようにすることを、目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、
クランクケースと、シリンダ軸中心線が鉛直線に対して傾斜したシリンダと、
前記クランクケース内に水平に配置したクランク軸と、
前記クランクケース内に前記クランク軸と
平行に配置した2本のバランサ軸と、を備えたシリンダ傾斜型エンジンにおいて、
前記クランクケースは水平な底面形状を有すると共に上側には燃料タンクが配置でき、前記クランク軸にバランサ用の駆動ギヤ
が設けられ、前記各バランサ軸に、前記駆動ギヤにそれぞれ噛み合う被駆動ギヤ
が設けられ、前記2本のバランサ軸の各軸芯は、前記クランク軸の軸芯回りに180度の位相差で配置され、前記2本バランサ軸のうち、
一方のバランサ軸の軸芯は、クランク軸方向に見て前記シリンダ軸中心線で分けられる両側域の一方の側域内において、前記クランク軸の前記軸芯に対し、下側、かつ、前記シリンダ側に位置し、前記2本バランサ軸のうち、他方のバランサ軸の軸芯は、前記クランク軸方向に見て前記シリンダ軸中心線で分けられる前記両側域の他方の側域内において、前記クランク軸の前記軸芯に対し、上側、かつ、前記シリンダ側とは反対側に位置し、さらに、前記2本のバランサ軸の前記軸芯は、
前記クランク軸の前記軸芯と直交する水平方向において、前記駆動ギヤの直径の範囲内
で、かつ、前記燃料タンクの前記水平方向の範囲内に収まるように配置されており、
前記クランク軸方向に見て、前記一方のバランサ軸の前記軸芯と、前記シリンダとの間に、弁駆動用のカム軸の軸芯が位置し、
前記一方のバランサ軸に対し前記カム軸が配置された側と反対側の
クランクケース内の空間部に、オイルゲージ又はオイルレベルセンサー
が配置されている。
【0013】
本発明は、上記構成において、好ましくは、次のような構成を採用する。
(a)上側の前記
他方のバランサ軸に対してシリンダ配置側と反対側に位置するクランクケース端部に、取付孔を有するスタータモータ取付部を形成し、前記取付孔には、これと同軸芯の位置決めピン用の位置決め孔を形成する。
【0014】
(b)下側に配置された前記
一方のバランサ軸には、オイルポンプのポンプ用被駆動ギヤに噛み合うポンプ用駆動ギヤが固着されている。
【0015】
(c)下側に配置された前記
一方のバランサ軸には、オイルポンプのポンプ軸が一体的に接続されている。一体的に接続されるとは、ポンプ軸がバランサ軸に一体成形された構造だけでなく、ポンプ軸がバランサ軸と同一軸芯上に配置されて継手機構により接続されている構造も含むものである。
【0016】
(d)前記オイルポンプは、クランクケースカバー、又はクランクケースに設けられている。
【発明の効果】
【0017】
(1)本発明によると、シリンダを傾斜させることによりエンジン全高を低く抑えることができると共に、バランサ軸を2本配置することにより、エンジンの振動減衰効果を向上させることができ、しかも、バランサ軸が2本配置されていても、クランクケース及びエンジンの水平方向の寸法(クランク軸と直交する水平方向の寸法)をコンパクトにできる。
【0018】
(2)両バランサ軸の被駆動ギヤは、バランサ用の駆動ギヤと同径同歯数であるので、バランサ用の駆動ギヤ及び各被駆動ギヤの製造及び管理が容易になる。
【0019】
(3)2本のバランサ軸の各軸芯を、クランク軸の軸芯回りに180度の位相差で配置することにより、両バランサ軸の所定回転角度での組み付け作業の能率向上と、クランクケースのさらなるコンパクト化を達成できる。すなわち、バランサ軸組み付け時、両バランサ軸の各被駆動ギヤとクランク軸の駆動ギヤとを、所定の回転角度に、簡単に噛み合わせ、組み付けることができる。
【0020】
(4)下側のバランサ軸の軸芯がクランク軸の軸芯よりもシリンダ側に、上側のバランサ芯軸の軸芯がクランク軸の軸芯よりもシリンダ側と反対側に位置していることにより、シリンダ傾斜型エンジンにおいて、さらなるエンジン及びクランクケースのコンパクト化を達成できる。
【0021】
(5)クランクケース内のスペースを有効に利用して、カム軸をコンパクトに配置できる。また、前記水平方向のコンパクト化を達成しつつ、容易に、
オイルゲージ又はオイルレベルセンサーを配置できる。
【0022】
(6)構成
(a)によると、クランクケースに、取付孔及びこれと同軸芯の位置決め孔を有するスタータモータ取付部を設け、上記位置決め孔及び取付孔を利用してスタータモータを、簡単かつ精度良く、所定位置に位置決め固定できる。また、従来のように、スタータモータの本体部分の外周面全周を嵌合保持するための大きな取付壁を形成する必要がなくなるので、クランクケースを軽量化し、コンパクト化できる。特に、スタータモータを取り付けない仕様のシリンダ傾斜型エンジンを提供する場合には、スタータモータ取付部により、エンジンのコンパクト化を妨げることはない。
【0023】
(7)構成
(b)によると、下側に配置されたバランサ軸をオイルポンプの駆動源として利用するので、一般にオイル溜まりに近いエンジン下部に配置されるオイルポンプとの間で、ギヤ伝動機構をコンパクトに配置できる。
【0024】
(8)構成
(c)によると、下側に配置されたバランサ軸にポンプ軸が一体的に接続されているので、オイルポンプ駆動用の部品点数を少なくできる。
【0025】
(9)構成
(d)によると、オイルポンプの吸入及び吐出口を、クランクケースカバー又はクランクケース内に形成されたオイル通路に簡単に接続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1の実施の形態]
図1乃至
図17は、本発明の第1の実施の形態に係るシリンダ傾斜型エンジンであり、これらの図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
(エンジン全体の構成)
図1は、前記シリンダ傾斜型エンジンをクランク軸5の軸方向に見た側面図であり、説明の都合上、略水平なクランク軸5と直交する水平方向のうち、シリンダ2が傾斜している方向をエンジンの「前方」とし、エンジン後方から見たクランク軸5の軸方向を、エンジンの「左右方向」として、説明する。
【0029】
図1において、クランクケース1の前半部の上面に、シリンダ2がクランクケース1と一体に形成され、シリンダ2には、シリンダヘッド3及びヘッドカバー4が順次締着されている。シリンダ2の軸中心線C1は、クランク軸5の軸芯O0を通る鉛直線Mに対し、前方に一定角度θ(たとえば55度〜60度)だけ傾斜している。クランクケース1の左右方向(クランク軸5の軸方向)の右端面にはクランクケースカバー6が複数本のボルト7(符号は一部のみに付している)により締着されており、クランク軸5の右端部は、出力軸部として、クランクケースカバー6から外部に突出している。クランクケース1の後半部の上側には燃料タンク11が配置され、シリンダヘッド3及びヘッドカバー4の上側には排気マフラー12が配置されている。
【0030】
クランクケース1の後端の下端部には、オイルゲージ取付部8が開口し、該オイルゲージ取付部8からクランクケース1内にオイルゲージ8aが差し込まれている。さらに、オイルゲージ取付部8の上方には、オプション仕様として、浮子を備えたオイルレベルセンサーを挿入固定できるセンサー取付部(未開口状態)9が形成されている。このセンサー取付部9は、オイルレベルセンサーを取り付ける場合には、機械加工等により、開口部が形成されるようになっている。
【0031】
図2は、
図1の平面図であり、クランクケース1の後半部の上側に配置された燃料タンク11は、平面視で略矩形状に形成されており、シリンダヘッド3及びヘッドカバー4の上側に配置された排気マフラー12は、エアクリーナ13と共に左右方向に並んで配置されている。たとえば、排気マフラー12は右側に、エアクリーナ13は左側に配置されている。クランクケース1の左側にはリコイルスタータ14が設けられている。
【0032】
図3は、
図1のクランクケースカバー6、排気マフラー12及びエアクリーナ13を取り除いて示すエンジンの側面図であり、クランクケース1内には、前記クランク軸5と略平行に、2本の第1及び第2のバランサ軸21,22並びに吸排気弁駆動用のカム軸23が配置されている。
【0033】
第1及び第2のバランサ軸21,22の駆動機構は、クランク軸5に固着された一枚のバランサ用の駆動ギヤ30と、各バランサ軸21,22にそれぞれ固着されると共に前記バランサ用の駆動ギヤ30に噛み合うバランサ用の第1及び第2の被駆動ギヤ31,32とを備えており、第1及び第2の被駆動ギヤ31,32は、バランサ用の駆動ギヤ30と同径同歯数のギヤ構造を有している。すなわち、クランク軸5から、前記バランサ用の駆動ギヤ30及びバランサ用の第1及び第2の被駆動ギヤ31,32を介して第1及び第2のバランサ軸21,22にそれぞれ動力伝達されることにより、第1及び第2のバランサ軸21,22は、クランク軸5の回転方向A1と逆方向A2に、かつ、クランク軸5と同一の回転速度で回転するようになっている。
【0034】
バランサ用の第1の被駆動ギヤ31は、ガバナギヤとしての機能も有しており、後で詳しく説明するが、バランサ用の第1の被駆動ギヤ31の端面には、フライウエイト式のガバナ機構34が装着されている。
【0035】
カム軸23の駆動機構は、クランク軸5に固着されたカム用駆動ギヤ35と、カム軸23に固着されると共に前記カム用駆動ギヤ35に噛み合うカム用被駆動ギヤ36とを備えており、カム用被駆動ギヤ36は、カム用駆動ギヤ35の2倍の直径及び歯数を有する構造となっている。すなわち、カム軸23は、クランク軸5の回転方向A1と逆方向A2に、かつ、クランク軸5の1/2の回転速度で回転するようになっている。
【0036】
(両バランサ軸21,22及びカム軸23のレイアウト)
本実施の形態において、第1及び第2のバランサ軸21,22は、エンジン側方から見て、すなわちクランク軸5の軸方向に見て、次の(a)乃至(e)で規定される位置に配置されている。
【0037】
(a)
図3において、第1のバランサ軸21の軸芯 (以下、「第1のバランサ軸芯」と称する)O1と、第2のバランサ軸22の軸芯 (以下、「第2のバランサ軸芯」と称する)O2とは、シリンダ2の軸中心線(以下、「シリンダ軸中心線」と称する)C1の両側方に分かれるように配置されている。勿論、両被駆動ギヤ31,32と駆動ギヤ30とは同径同歯数のギヤであるので、第1のバランサ軸芯O1と第2のバランサ軸芯O2とは、クランク軸芯O0から等距離に位置している。
【0038】
(b)第1のバランサ軸芯O1がクランク軸芯O0よりも上方位置に、第2のバランサ軸芯O2がクランク軸芯O0よりも下方に位置するように、両バランサ軸21,22は配置されている。
【0039】
(c)第1のバランサ軸芯O1と第2のバランサ軸芯O2とが、クランク軸芯O0回りに略180度の位相差を有するように、第1及び第2のバランサ軸21,22が配置されている。言い換えると、クランク軸5の軸方向に見て、クランク軸芯O0と、両バランサ軸芯O1,O2とは、同一直線L1上に位置している。この場合、3つの軸芯O0、O1、O2が並ぶ前記直線L1は、クランク軸芯O0を通り、シリンダ軸中心線C1と直交する直線L2よりも、時計回りに一定角度(例えば19度)だけ偏角している。これにより、上側の第1のバランサ軸芯O1と下側の第2のバランサ軸芯O2とは、前後方向において、クランク軸芯0を通る垂直線Mに近づくように設定されている。
【0040】
(d)第1のバランサ軸芯O1と第2のバランサ軸芯O2とは、前後方向において、バランサ用駆動ギヤ30の直径範囲(前後方向範囲)W内に配置されている。
【0041】
(e)上側の第1のバランサ軸芯O1は、バランサ用駆動ギヤ30の直径範囲W内において、前記クランク軸芯O0を通る鉛直線Mよりも後側に位置し、下側の第2のバランサ軸芯O2は、バランサ用駆動ギヤ30の直径範囲W内において、前記クランク軸芯0を通る鉛直線Mよりも前側に位置している。
【0042】
また、カム軸23は、その軸芯O3が下側の第2のバランサ軸芯O2と、シリンダ2の下端部との間に位置するように配置されている。
【0043】
上記のように、下側の第2のバランサ軸22を、その軸芯O2がクランク軸芯O0よりも前側にくるように配置していることにより、前該第2のバランサ軸22の後側のクランクケース1内には、オイルレベルセンサーの浮子等が収納可能な、十分な広さのオイルレベルセンサー配置用空間部S1が確保されている。
【0044】
図5は、
図3のV-V断面図であり、クランク軸5は、周知にように、左右のジャーナル部5a、5bと、左右一対のクランクアーム5eと、両クランクアーム5eに支持されたクランクピン5dとを備えている。左側のジャーナル部5aは、クランクケース1の左側壁に軸受41を介して回転可能に支持され、右側のジャーナル部5bは、クランクケースカバー6に軸受42を介して回転可能に支持されている。また、クランク軸5の左端部には、フライホイール43、冷却ファン44及び前記リコイルスタータ14のプーリ14aが固着されている。フライホイール43の外周面には、スタータ用のリングギヤ43a(
図17参照)を取り付けるための凹部が形成されている。
【0045】
図6は
図3のVI-VI断面図(前方から見た図)であり、第1及び第2のバランサ軸21,22は、各左側のジャーナル部21a、22aがクランクケース1の左側壁にそれぞれ軸受46,47を介して回転可能に支持され、右側のジャーナル部21b、22bがクランクケースカバー6にそれぞれ軸受48,49を介して回転可能に支持されている。
【0046】
(各バランサ軸21,22の形状)
図6において、第1のバランサ軸21と第2のバランサ軸22とは、同一形状の共通部品であり、右側ジャーナル部21b,22bの左側にそれぞれガバナ配置用の延長軸部21c、22cが形成されており、各延長軸部21c、22cの左側に形成された環状のギヤ取付面21d、22dに、前記バランサ用の第1及び第2の被駆動ギヤ31,32がそれぞれ嵌着されている。上記第1の被駆動ギヤ31は、
図13に示すように位置決めピン26により、第1のバランサ軸21に対して、所定の相対回転角で回転方向に位置決め固定されている。
図6の第2の被駆動ギヤ32も同様に位置決めされている。
【0047】
図10は下側に配置された第2のバランサ軸22の単体の正面図であり、第2のバランサ軸22は、前述のように、左右のジャーナル部22a、22b、延長軸部22c及び環状のギヤ取付面22dを備えると共に、このギヤ取付面22dと左側ジャーナル部22aとの間にクランク状に形成された第1段ウエイト部22eと、該第1段ウエイト部22eの左右幅中央部の外周面に形成された第2段ウエイト部22fと、を一体に備えている。
【0048】
第1段ウエイト部22eは、クランク状に形成されることにより、第2バランサ軸芯O2から径方向の一方向に重心が偏倚(偏心)すると共に、該偏倚方向側とは反対側に、第2バランサ軸芯O2側に凹む凹部22gを有している。第2段ウエイト部22fは、第1段ウエイト部22eの外周面からさらに第1段ウエイト部22eの偏倚方向と同方向に突出している。
【0049】
図11は
図10のXI-XI断面図であり、第1段ウエイト部22eは、軸方向に見て、第2のバランサ軸芯O2を扇中心とする扇形に形成され、その開き角(中心角)は、たとえば略90度となっている。
【0050】
第2のウエイト部22fも、軸方向に見て、第2のバランサ軸芯O2を扇中心とする扇形に形成され、第1段ウエイト部22eと同じ開き角略90度となっている。
【0051】
前記扇形の第2段ウエイト部22fの径方向の外端部近傍は、たとえばクランクケース1内のオイル溜まり29に浸っており、これにより、第2段ウエイト部22fの回転方向A2側の端面22hが、オイル掻き上げ面として機能するようになっている。なお、オイル掻き上げ面22hとしての機能を向上させるために、前記端面22hの形状を、仮想線で示すように、円弧状に凹む形状とし、オイル掻き上げ効率を向上させることも可能である。
【0052】
図12は上側に配置された第1のバランサ軸21を一部断面で示す正面図であり、前述のように第2のバランサ軸22と同一形状の共通部材を使用している。すなわち、左右のジャーナル部21a、21bと、右側ジャーナル部21bの左側に形成されたガバナ配置用延長軸部21cと、該延長軸部21cの左側に形成された環状のギヤ取付面21dと、このギヤ取付面21dと左側ジャーナル部21aとの間にクランク状に形成された断面扇形の第1段ウエイト部21eと、該第1段ウエイト部21eの左右幅中央部の外周面に形成された断面扇形の第2段ウエイト部21fと、凹部21g、とを一体に備えている。
【0053】
図7は、ピストン55の上死点位置におけるクランク軸5のウエイト部5cと両バランサ軸21,22の各ウエイト部21e、21f、22e、22fとの位置関係を示している。クランク軸5のウエイト部5cは、周知のようにシリンダ2側とは正反対側に向いており、両バランサ軸21,22のウエイト部21e,21f、22e、22fの向きは、クランク軸5のウエイト部5cと略平行で同方向である。この様な位置関係を前提として、第1及び第2のバランサ軸21,22の第1段及び第2段ウエイト部21e、21f、22e、22fの径方向の寸法及び凹部21g、22gの径方向の寸法(深さ)は、エンジン運転中、第1及び第2のバランサ軸21,22が、クランク軸5のウエイト部5c並びにコンロッド51の主軸受キャップ52及びそのキャップボルト53と干渉しない範囲内に収まるように、次のように設定される。
【0054】
図8はピストン55の上死点位置からクランク角で略90度進角した状態を示しており、クランク軸5のウエイト部5cが矢印A1方向に略90度だけ移動しているのに対し、各バランサ軸21,22のウエイト部21e、21f、22e、22fは、クランク軸5の回転方向A1とは逆方向A2に略90度だけ移動している。このとき、主軸受キャップ52及びキャップボルト53が、上側の第1のバランサ軸21に接近しているが、軸受キャップ52及びキャップボルト53と第1のバランサ軸21とが干渉しないように、第1のバランサ軸21の凹部21gの深さが設定されている。すなわち、凹部21g内を前記主軸受キャップ52及びキャップボルト53が通過するように凹部21gの深さが設定されている。
【0055】
また、第2のバランサ軸22に関しては、その第2段ウエイト部22fが、軸方向に見てクランク軸5のウエイト部5cと重なるが、
図6のように、第2段ウエイト部22fはクランク軸5のウエイト部5c間(クランクアーム5e間)に配置され、かつ、ウエイト部5c間の間隔よりも狭い幅で形成されている。これにより、第2段ウエイト部22fはクランク軸5のウエイト部5c間に入り込み、クランク軸5のウエイト部5cと第2のバランサ軸22の第2段ウエイト部22fとが干渉することはない。
【0056】
また、第2のバランサ軸22の第1段ウエイト部22eは、その外周面がクランク軸5のウエイト部5cの外周面に干渉しない範囲で、かつ、できる限り接近できるように、扇形の半径が設定される。
【0057】
図9は、ピストン55の下死点位置における状態を示しており、クランク軸5のウエイト部5cはシリンダ2側に向いており、両バランサ軸21,22のウエイト部21e、21f、22e、22fも、クランク軸5のウエイト部5cの向きと平行に、同方向に向いている。
【0058】
なお、
図9のピストン55の下死点位置から更にクランク角で略90度進角すると、各バランサ軸21,22のウエイト部21e、21f、22e、22fとクランク軸5のウエイト部5cとの位置関係は、前記
図8の場合と逆になり、第1のバランサ軸21の第2段ウエイト部21fがクランク軸5のウエイト部5c間に挿入され、一方、第2のバランサ軸22の凹部22g内を主軸受キャップ52及びキャップボルト53が通過する。
【0059】
上記のようにクランク軸5及びそのウエイト部5cや主軸受キャップ52及びキャップボルト53等と干渉しないように、第1及び第2のバランサ軸21,22の形状及び寸法が決定される。勿論、基本的には、ピストン55の慣性力等によるアンバランスを打ち消すように、それらの重量等が決定される。
【0060】
(スタータモータの取付構造)
本実施の形態のシリンダ傾斜型エンジンは、スタータモータを備えた仕様としても製作できるように、
図7に示すように、クランクケース1の後壁1aに、スターモータ取付部60がクランクケース1と一体に形成されている。
【0061】
スタータモータ取付部60は、クランクケース1の後壁1aから後方に突出するように形成されると共に、略上下方向に間隔をおいて一対のめねじ孔(取付孔)61が形成されており、また、クランクケース1の前後方向の寸法のコンパクト化及びスタータモータ65の取付状態の安定のために、上下のめねじ孔61間には、前方に凹む円弧形凹部63が形成されている。
【0062】
図17は、スタータモータ65を取り付けた状態を示す
図7のXVII-XVII断面相当図であり、各めねじ孔61には、該めねじ孔61の内径よりも大きい内径を有する位置決め孔62が、めねじ孔61と同軸芯に形成されている。一方、スタータモータ65のフランジ部67に形成されたボルト挿通孔68には、ボルト挿通孔68の内径よりも大きくて、前記スタータモータ取付部60の位置決め孔62と同径の位置決め孔69が、ボルト挿通孔68と同軸芯に形成されている。すなわち、両位置決め孔62,69に筒状の位置決めピン70を嵌入することにより、クランク軸5と略直交方向する方向におけるスタータモータ65の位置決めを行い、フライホイール43のリングギヤ43aに対するスタータモータ65のピニオンギヤ65aの位置決めを行う。なお、ピニオンギヤ65aとしては、ベンディックスタイプ(慣性摺動式)を利用しているが、いわゆるシフトタイプのピニオンギヤを利用することも可能である。
【0063】
スタータモータ65を取り付ける場合には、
図7に仮想線で示すように、スタータモータ65の外周面を円弧形凹部63に合わせると共に、
図17のように、スタータモータ取付部60にスタータモータ65のフランジ部67を重ね合わせるが、このとき、筒状の位置決めピン70を、両位置決め孔62,69に亘って嵌入することにより、スタータモータ65の位置決めを行う。そして、ボルト挿通孔68及び筒状の位置決めピン70内に挿通したボルト71を、スタータモータ取付部60のめねじ孔61に螺着することにより、スタータモータ65を所定位置に固定する。
【0064】
(ガバナの構造)
図12乃至
図15により、第1のバランサ軸21の被駆動ギヤ31の一端面に配置されたガバナ機構34の構造を説明する。
図13は
図12のXIII矢視図、
図14はガバナ機構34の分解正面図、
図15はガバナ機構34を軸方向に見た分解側面図、
図16は
図13のXVI-XVI断面拡大部分図である。
図14において、このガバナ機構34は、一対のフライウエイト81と、各フライウエイト81をそれぞれ回動自在に支持する一対の支持ピン82と、両支持ピン82を固定する一対の押さえ部材(ホルダー)83と、を備えている。前記両支持ピン82は、第1の被駆動ギヤ31の端面に形成された凹部84内に配置されている。
【0065】
図15において、前記凹部84は、第1のバランサ軸芯O1を中心とした環状に形成されており、両支持ピン82は互いに略平行に配置されると共に、第1のバランサ軸芯O1に対して互いに対称位置に配置されている。各支持ピン82が配置される箇所には、各支持ピン82の長さ方向の両端部に対応する位置に貫通孔85が形成されており、各支持ピン82の両端部は凹部84内から両貫通孔85内に突入している。
【0066】
フライウエイト81は板金製であり、矩形状のウエイト部81aと、該ウエイト部81aの両端に折り曲げ成形された一対のアーム部81bとを備えており、両アーム部81bの基端部(第1のバランサ軸芯O1側の端部)が、各貫通孔85部分に挿入されると共に支持ピン82に回動自在に支持される。
【0067】
一対の押さえ部材83も板金製であり、支持ピン82と直交する方向に細長く延びると共に、長さ方向の両端部83aは「く」の字形に傾斜しており、さらに各端部83aの先端には、
図16に示すように第1の被駆動ギヤ31側に折れ曲がる折り曲げ部83bが一体に形成されている。この折り曲げ部83bにはU字溝88が形成され、このU字溝88を支持ピン82に嵌合することにより、支持ピン82を凹部84内に固定している。
【0068】
図15に示すように、上記押さえ部材83の端部83aにはリベット挿通孔87が形成されており、
図12に示すように、前記リベット挿通孔87に挿通したリベット86により、各押さえ部材83を第1の被駆動ギヤ31の端面に固定している。
【0069】
なお、押さえ部材83の両端部83aは、段部を介してステップ状に被駆動ギヤ31の端面から離れるように変位している。
【0070】
ガバナ機構34は、上記フライウエイト81及び押さえ部材83等に加え、延長軸部21cに軸方向移動自在に嵌合する円筒状あるいは円板状のガバナスリーブ91と、このガバナスリーブ91の左端面に当接する二股状のピボットアーム92と、このピボットアーム92が固着されたアーム軸93とを備えている。前記ガバナスリーブ91の左端面は前記フライウエイト81の作用部81cに当接しており、第1のバランサ軸21の回転によりフライウエイト81が支持ピン82回りに拡開すると、ガバナスリーブ91は作用部81cに押されて右方に移動する。前記アーム軸93は略垂直上方に延びており、クランクケースカバー6に形成されたボス部6aに回動自在に支持されると共に、該ボス部6aからさらに上方に突出している。
【0071】
図4において、前記アーム軸93の上端部には、仮想線で示すようにクランクケース1の上方を左方に延びる操作アーム94が固着されており、この操作アーム94の左端部は、連結ロッド95を介してキャブレター(あるいはスロットルボディ)96の燃料調量レバー97に連結されている。
【0072】
(実施の形態による作用効果)
(1)
図2に示すリコイルスタータ14あるいは
図7に示すスタータモータ65によりエンジンを始動すると、
図7において、クランク軸5は矢印A1方向に回転し、両バランサ軸21,22は、クランク軸5と同一回転速度で逆方向A2に回転する。ピストン55の往復運動及びクランク軸5の回転により発生する慣性力は、クランク軸5のウエイト部5c並びに両バランサ軸21,22のウエイト部21e,21f、22e、22fにより、打ち消され、これにより、エンジン振動が抑制される。
【0073】
(2)本実施の形態によるエンジンは、
図3のように、シリンダ2を傾斜させることによりエンジン全高を低く抑えことができると共に、単気筒エンジンでありながらも、2本のバランサ軸21,22を備えることにより、各バランサ軸21,22を大形化することなく、エンジンの振動減衰効果を向上させることができる。しかも、前記2本の第1及び第2のバランサ軸21,22は、クランク軸5の略直上近傍位置と直下近傍位置に配置され、具体的には、上下の第1及び第2のバランサ軸21,22の各軸芯O1,O2が、バランサ駆動ギヤ30の前後方向範囲(直径範囲)W内に配置されているので、2本の第1及び第2のバランサ軸21,22を備えていながらも、クランクケース1の前後方向の寸法をコンパクト化できる。
【0074】
(3)
図3のように、第1及び第2のバランサ軸21,22の被駆動ギヤ31,32は、いずれもが駆動ギヤ30と同径同歯数であるので、バランサ用の各被駆動ギヤ31,32及び駆動ギヤ30の製造及びその管理が容易になる。
【0075】
(4)
図3のように、第1及び第2のバランサ軸21,21の各軸芯O1、O2を、クランク軸5の軸芯O0回りに180度の位相差で配置しているので、第1及び第2のバランサ軸21,22の所定回転角度での組み付け作業の能率向上と、クランクケース1のさらなるコンパクト化を達成できる。すなわち、第1及び第2のバランサ軸21,22の組み付け時、第1及び第2のバランサ軸21,22の各被駆動ギヤ31,32とクランク軸5の駆動ギヤ30との噛み合わせマークを、簡単に合わせることができるので、両バランサ軸21,22を、クランク軸の回転角度に対し、所定の回転角度に簡単に設定し、組み付けることができる。
【0076】
(5)
図3のように、傾斜したシリンダ2を備えたエンジンにおいて、下側の第2のバランサ軸22の軸芯O2をクランク軸5の軸芯Oよりもシリンダ側に位置させ、上側の第1のバランサ軸21の軸芯O1をクランク軸5の軸芯O0よりもシリンダ側と反対側に位置させているので、クランクケース1及びエンジンの前後方向の寸法のさらなるコンパクト化が達成できる。
【0077】
(6)
図3のように、傾斜したシリンダ2の下端部と下側の第2のバランサ軸22との間のスペースを有効に利用して、カム軸23をコンパクトに配置することができる。
【0078】
(7)
図3のように、下側の第2のバランサ軸22の軸芯O2を、クランク軸5の軸芯O0よりも前側(シリンダ側)に配置しているので、クランクケース1の前後方向のコンパクト化を達成しつつ、下側の第2のバランサ軸22の後側に、オイルレベルセンサー配置用のスペースS1を容易に確保できる。
【0079】
(8)
図7のように、クランクケース1の後壁1aに、前方に凹む円弧形凹部63を有するスタータモータ取付部60を形成し、該スタータモータ取付部60には、
図17に示すように、位置決め孔62を同軸芯に有するめねじ孔61を形成し、そして、スタータモータ取り付け用の取付ボルト71と筒状の位置決めピン70とを同軸芯に配置して、スタータモータ65の位置決めを行い、固定しているので、従来のように、スタータモータの本体部分の外周面全周を嵌合保持するための大きな取付壁を形成する必要がなく、クランクケース1を軽量化し、かつ、コンパクト化できる。特に、スタータモータを取り付けない仕様のシリンダ傾斜型エンジンを提供する場合には、
図7のようにスタータモータ取付部60は後方に大きく突出しないので、エンジンをコンパクト化できる。
【0080】
[その他の実施の形態]
(1)
図18は、本発明の第2の実施の形態に係るシリンダ傾斜型エンジンである。エンジンを大型化する場合には、前記下側のバランサ軸22を利用したオイル掻き上げ機能の代わりに、あるいはオイル掻き上げ機能に加え、オイルポンプを備える必要性が生じる。
図18に示すエンジンは、クランクケース1内にオイルポンプ72を備えており、このオイルポンプ72のポンプ用被駆動ギヤ72bに噛み合うポンプ用駆動ギヤ72aを、前記下側のバランサ軸22に設けている。これにより、クランクケース1の下部において、簡単な伝動機構によりオイルポンプ72を駆動することができる。
図18では、前記オイルポンプ72は、側方から見て下側のバランサ軸22の後側に配置しているが、下側のバランサ軸22の前側あるいは下側に配置することもできる。
【0081】
なお、バランサ軸22とポンプ軸との間の動力伝達機構として、上記ギヤ式伝達機構以外の機構を採用することも可能である。
【0082】
(2)
図19は、本発明の第3の実施の形態に係るシリンダ傾斜型エンジンであり、前記第2の実施の形態と同様にオイルポンプ72を備えているが、オイルポンプ72のポンプ軸74を下側のバランサ軸22と同軸上に配置し、ギヤ伝動機構ではなく、継手機構により一体的に接続している。
【0083】
図20は
図19のオイルポンプ(トロコイドポンプ)72の断面図であり、ポンプ軸74の軸芯は下側バランサ軸22の軸芯O2と同一直線上に揃えられている。継手機構は、ポンプ軸74の端面に形成された径方向に延びる突起75と、バランサ軸22の端面に形成されて前記突起75に噛み合う径方向の溝76とから構成されている。いわゆるオルダム継手機構を備えている。
【0084】
前記オイルポンプ72は、ポンプケーシング部分がクランクケースカバー6(あるいはクランクケースカバー1)と一体に形成されており、クランクケースカバー6の壁内に形成されたオイル吸込通路72a及びオイル供給通路72bに、オイルポンプ72の吸入口及び吐出口がそれぞれ連通している。
【0085】
第3の実施の形態によると、ギヤ伝動機構が不要となるので、ポンプ駆動用の部品点数が削減できる。
【0086】
なお、ポンプ軸74をバランサ軸22と一体的に接続する構造として、ポンプ軸74をバランサ軸72に一体成形することも可能である。
【0087】
(3)本発明は、単気筒エンジンに適しているが、複数気筒にも適用可能である。
【0088】
(4)本発明は、特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。