(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728210
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】軸流ファン
(51)【国際特許分類】
F04D 25/08 20060101AFI20150514BHJP
F04D 29/38 20060101ALI20150514BHJP
F04D 29/52 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
F04D25/08 303
F04D29/38 A
F04D29/52 C
F04D29/52 D
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-263086(P2010-263086)
(22)【出願日】2010年11月26日
(65)【公開番号】特開2011-247246(P2011-247246A)
(43)【公開日】2011年12月8日
【審査請求日】2013年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2010-102000(P2010-102000)
(32)【優先日】2010年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベア株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴子
(72)【発明者】
【氏名】小串 正樹
(72)【発明者】
【氏名】川井 洋一
(72)【発明者】
【氏名】大木 直也
【審査官】
加藤 一彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−251179(JP,A)
【文献】
米国特許第03334807(US,A)
【文献】
特開2007−198327(JP,A)
【文献】
特開2008−215150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 25/08
F04D 29/38
F04D 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、該ハブの外周に配設された複数の羽根とを有するインペラと、該インペラを囲繞するハウジングを備えた軸流ファンにおいて、
前記羽根の前縁角度(α)は−8°〜−20°の範囲で、
前記羽根の取付け角度(β)は36°〜50°の範囲で、
前記羽根のひねり角度(θ)は10°±2°の範囲であることを特徴とする軸流ファン。
【請求項2】
前記羽根の前縁角度(α)が−15°〜−20°の範囲で、
前記羽根の取付け角度(β)が38°〜50°の範囲で、
前記羽根のひねり角度(θ)は10°±2°の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の軸流ファン。
【請求項3】
前記ハウジングは筒状のケーシングと、該筒状のケーシングの両端に一体に形成したフランジと、モータベースとを備え、前記筒状のケーシングは、吸気口から排気口に向かって内壁面が形成され、前記内壁面の吸気口側は前記フランジのコーナー部に対応した位置になだらかな曲面を備え、各曲面は2箇所のR面によって形成され、前記内壁面の中央部分は傾斜面が形成され、前記内壁面の排気口側は前記フランジのコーナー部に対応した位置に曲面を備え、各曲面はR面によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸流ファン。
【請求項4】
前記筒状のケーシングは排気口に前記モータベースと連結してなる複数のスポークを備え、該スポークは円周方向で均等配置されており、断面形状は翼形にて形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の軸流ファン。
【請求項5】
前記ハウジングの前記円筒状のケーシングの側壁にスリット又は穴を形成してなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の軸流ファン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸流ファンに係り、特に電子機器等の冷却用に用いられる軸流ファンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パーソナルコンピュータやコピー機等の電子機器においては、多数の電子部品を比較的狭い筐体内に収容しているため、電子部品から発生する熱が筐体内にこもり、電子部品を熱破壊させる虞があり、大きな問題を引き起こす。このため、このような電子機器の筐体の壁面や天井面に通気口を設け、その通気口から筐体内の熱を外部に排出している。このような電子機器の冷却用手段として、軸流ファンが用いられている。このような電子機器を冷却するための軸流ファンはできる限り騒音を低減させ、風量性能の向上が求められている。そして、軸流ファンの風量性能の向上を図るために、羽根の形状の最適化や、ハウジング構造を最適化することが行われている。
【0003】
羽根においては、羽根の形状を最適化することによって低騒音化を図る軸流ファンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図13は特許文献1の軸流ファンを示した正面図、
図14は
図13のB−B’線に沿った断面図である。羽根車の円筒形ハブ2の外周面に翼1が放射状に取り付けられ、羽根車の形状はいわゆる前進翼を構成している。そして、羽根車の外径の70%近傍で翼断面の取り付け角θが最大となるように構成することによって、負圧面上の境界層を吹き飛ばして流出される渦を小さくして低騒音化を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−303391号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の電子部品の高密度化、高性能化に伴って電子部品からの発熱量が多くなっている。このため、電子部部品を収容した電子機器に使用される冷却用軸流ファンは低騒音化のみならず、大風量、高静圧が求められており、さらなる風量特性の改善が求められている。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたもので、軸流ファンの羽根の形状を改良することにより、風量特性を改善した軸流ファンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、羽根の形状と軸流ファンの風量特性との関係について鋭意検討した。その結果、インペラ形状、特に羽根の形状を最適化することによって軸流ファンの風量特性をさらに改善できることを知見した。
【0009】
具体的には、ハブと、該ハブの外周に配設された複数の羽根とを有するインペラと、該インペラを囲繞するハウジングを備えた軸流ファンにおいて、前記羽根の前縁角度(α)は−8°〜−20°の範囲で、前記羽根の取付け角度(β)は36°〜50°の範囲で、前記羽根のひねり角度(θ)は10°±2°の範囲であることを特徴とする。
【0010】
また、好ましくは、前記羽根の前縁角度(α)は−15°〜−20°の範囲で、前記羽根の取付け角度(β)は38°〜50°の範囲で、前記羽根のひねり角度(θ)は10°±2°の範囲であることを特徴とする。
【0011】
また、ハウジングは筒状のケーシングと、該筒状のケーシングの両端に一体に形成したフランジと、モータベースとを備え、前記筒状のケーシングは、吸気口から排気口に向かって内壁面が形成され、前記内壁面の吸気口側は前記フランジのコーナー部に対応した位置になだらかな曲面を備え、各曲面は2箇所のR面によって形成され、前記内壁面の中央部分は傾斜面が形成され、前記内壁面の排気口側は前記フランジのコーナー部に対応した位置に曲面を備え、各曲面はR面によって形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、筒状のケーシングは排気口に前記モータベースと連結してなる複数のスポークを備え、該スポークは円周方向で均等配置され
ており、断面形状は翼形にて形成され
ていることを特徴とする。
【0013】
また、ハウジングの前記円筒状のケーシングの側壁にスリット又は穴を形成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1に係る発明によれば、静圧−風量特性が不安定になり低下することなく、静圧−風量特性を向上することができる軸流ファンを提供できる。
【0015】
本願請求項2に係る発明によれば、静圧−風量特性がサージング現象等で不安定となり低下することなく、さらに静圧−風量特性を向上することができる軸流ファンを提供できる。
【0016】
本願請求項3に係る発明によれば、吸気口の空気をなだらかに筒状のケーシングの内部に案内するとともに、筒状のケーシングの内部を通過した空気を排気口に案内して風量特性を向上することができる。
【0017】
本願請求項4に係る発明によれば、筒状のケーシングの内部を通過した空気を排気口に案内すると共に、排気口側での圧力を増加して、風量特性を向上することができる。
【0018】
本願請求項5に係る発明によれば、円筒状のケーシングの側壁に形成したスリット又は穴が吸気口とすることができるため、一層の高風量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る軸流ファンを示す斜視図である。
【
図3】
図1に示す軸流ファンの吸込み側から見た平面図である。
【
図6】
図5に示すインペラの平面図で前縁角度を説明した図である。
【
図7】羽根の前縁角度と流量の関係を説明した図ある。
【
図8】
図5に示すインペラの側面図で取付け角度を説明した図ある。
【
図9】羽根の取付け角度と流量の関係を説明した図ある。
【
図11】羽根のひねり角度と流量の関係を説明した図ある。
【
図12】本発明の実施形態に係る軸流ファンと従来の軸流ファンにおける静圧−風量特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る軸流ファンを示す斜視図、
図2は
図1の断面図、
図3は
図1に示す軸流ファンの吸込み側から見た平面図、
図4は
図1に示す軸流ファンの底面図、
図5は
図1に示すインペラの斜視図、
図6は
図5に示すインペラの平面図で前縁角度を説明した図、
図7は羽根の前縁角度と流量の関係を説明した図、
図8は
図5に示すインペラの側面図で取付け角度を説明した図、
図9は羽根の取付け角度と流量の関係を説明した図、
図10は羽根のひねり角度を説明した図、
図11は羽根のひねり角度と流量の関係を説明した図である。また、
図7、
図9、
図11はいずれも回転数が4600rpm一定で、静圧10Pa時の排気口での流量を、有限体積法を用いた解析技術によりシミュレーションした図である。なお、シミュレーション値と実測値とはその整合性を確認済みである。
【0021】
軸流ファン1は、複数の羽根4を備えたインペラ3を取り付けたモータ2と、モータ2を支持するハウジング6とで構成されている。モータ2は複数本のスポーク7によりハウジング6に固定されている。そして、モータ2によって羽根4を回転させる。モータ2の回転に伴い、羽根4が回転すると、ハウジング6の吸気口側から空気を吸気し、ハウジング6の内部を通過してハウジング6の排気口側から排気を行う。
【0022】
インペラ3は円筒状のハブ5と、ハブ5の外周面に配設された複数の羽根4から構成されており、羽根4(図示例では7枚)は円周方向に等間隔で設けられている。そして、羽根4はすべて同じ形状からなり、熱可塑性樹脂の射出成形にてハブ5と一体に形成されている。矢印10は羽根4の回転方向を示す。
【0023】
羽根4の前縁角度(α)は−8°〜−20°の範囲に設定される。ここで、前縁角度(α)は、
図6に示すように、ハブ5の中心Oと羽根4の前縁11とハブ5との交点Aを結ぶ直線と、交点Aと羽根4の前縁11と羽根4の翼端12との交点Bとを結ぶ直線とがなす角度で定義される角度を示すもので、マイナス(−)は交点Bがハブ5の中心Oと羽根4の前縁11とハブ5との交点Aを結ぶ直線よりも回転方向後端(後側)に位置していることを意味している。
【0024】
図7は羽根4の前縁角度(α)と流量の関係を説明した図で、静圧10Pa時の排気口での流量を、有限体積法を用いた解析技術によりシミュレーションした図である。
図7に示すように、羽根4の前縁角度(α)を−8°から−20°に変化させたときの流量は羽根4の前縁角度(α)を小さくすると(0°に近づける方向)、流量は前縁角度(α)が約−15°から減少する。一方、前縁角度(α)が約−15°から約−20°の範囲では流量にほとんど変化は見られないが、前縁角度(α)が−17°にて最大の流量を示している。したがって、羽根4の前縁角度(α)は−8°〜−20°の範囲に設定され、好ましくは前縁角度(α)が−15°〜−20°の範囲に設定することによって流れの剥離の発生を抑制し、この角度範囲で極大とも言える高い流量特性を維持・確保できる。
【0025】
また、羽根4の取付け角度(β)は36°〜50°の範囲に設定される。
図8に示すように、羽根4の取付け角度(β)は、羽根4の前縁11と羽根4の後縁13とを結んだ直線と回転軸線に垂直な平面とがなす角度を示すもので、回転軸線に垂直な平面に対する傾きの角度を示している。ここで、取付け角度(β)は、羽根4の根元側(ハブ5との装着側)における角度を示している。
【0026】
図9は羽根4の取付け角度(β)と流量の関係を説明した図で、羽根4の前縁角度(α)が17°、静圧10Pa時の排気口での流量を、有限体積法を用いた解析技術によりシミュレーションした図である。
図9に示すように、羽根4の取付け角度(β)を約40°よりも小さくすると、羽根4が流体の流路を遮る状態となるため、流量が減少傾向を示す。一方、羽根4の取付け角度(β)を大きくすると、流量は増加傾向を示し、羽根4の取付け角度(β)が約40°から50°の範囲では流量にほとんど変化は見られないが、取付け角度(β)が40°にて最大の流量を示している。したがって、羽根4の取付け角度(β)は36°〜50°の範囲に設定され、好ましくは取付け角度(β)が38°〜50°の範囲に設定することによって流量がほとんど変化することなく、流量を大きくできる。なお、羽根4の取付け角度(β)を大きくすると、モータ2の回転トルクが増大し、その結果、モータ2の消費電力の増加を招き、ファン効率が低下するため、取付け角度(β)は40°前後に設定することが好ましい。
【0027】
また、羽根4のひねり角度(θ)は10°±2°の範囲に設定される。ここで、ひねり角度(θ)は、
図10に示すように、羽根4の根元側(ハブ5との装着側)における傾き角(θ1)と羽根4の翼端12側(羽根4の先端側)における傾き角(θ2)との差を示している。
【0028】
図11は羽根4のひねり角度(θ)と流量の関係を説明した図で、羽根4の前縁角度(α)が17°、取付け角度(β)が40°、静圧10Pa時の排気口での流量を、有限体積法を用いた解析技術によりシミュレーションした図である。
図11に示すように、流量を低下させることなく、流量の増大を図ることができる。
【0029】
ハウジング6は、外形が四角形からなり、筒状のケーシング8と、筒状のケーシング8の両端に一体に形成したフランジ9,9と、モータ2を装着するモータベース18とで構成されており、モータベース18はスポーク7にてハウジング6と連結している。そして、筒状のケーシング8とフランジ9,9とモータベース18とスポーク7は熱可塑性樹脂の射出成形にて一体に形成されている。
【0030】
フランジ9の4箇所のコーナー部には機器などに取り付けるためのボルトやねじを挿通するための貫通孔14が形成されている。
【0031】
また、筒状のケーシング8は、吸気口から排気口に向かって内壁面が形成されている。内壁面の吸気口側は、フランジの4箇所のコーナー部に対応した位置に4つのなだらかな曲面15を備えており、各曲面15は、それぞれ
図2に示すように2箇所のR面(R1、R2)によって形成されている。そして、内壁面の中央部分は、
図2に示すように僅かに傾斜した傾斜面16が形成されている。羽根4の外周面と内壁面との間には隙間が形成され、この隙間は吸気口から排気口に向かって漸減している。
【0032】
一方、内壁面の排気口側は、フランジの4箇所のコーナー部に対応した位置に4つのなだらかな曲面17を備えており、各曲面17は、
図2に示すようにR面によって形成されている。
【0033】
筒状のケーシング8の排気口の中央に配設されたモータベース18は4本のスポーク7にて筒状のケーシング8の排気口側に連結固定されている。この4本のスポーク7は円周方向で均等配置されており、断面形状は翼形にて形成され所定の角度に傾けられている。そして、筒状のケーシング8の内部を通過した空気を排気口に案内すると共に、排気口側での圧力を増加するための案内羽根として機能する。
【0034】
軸流ファン1の作用について簡単に説明する。制御回路からの信号に基づき、励磁電流が供給されることによってモータ2のロータが回転し、このロータの回転によって羽根4が回転する。羽根4が回転すると、筒状のケーシング8の吸気口側の空気の流れが吸気口に形成した曲面15に沿って滑らかに筒状のケーシング8の内部に流入する。そして、筒状のケーシング8の内部に流入した空気は、羽根4によって案内されると共に傾斜面16が形成された内壁に沿って案内され、ケーシング6の内部を通過する。ケーシング6の内部を通過した空気は、排気口側に形成された曲面17に沿って滑らかに排気されると共に、ケーシング6の内部を通過した空気は翼形に形成されたスポーク7によって排気口で圧力が増加されて排気される。
【0035】
図12は本発明の軸流ファンと従来の軸流ファンにおける静圧−風量特性を示した図である。縦軸に静圧Pを、横軸に風量Qをとっている。
図12に示すように、従来の軸流ファンでは、風量の中域で静圧が低下する、いわゆるサージング現象が生じ、軸流ファンが動作不安定となる傾向を示しているが、本発明の軸流ファンによれば、従来の軸流ファンにおいて見られたサージング現象が改善され、動作不安定となることなく、静圧−風量特性を向上することができ、ひいては低騒音の軸流ファンを提供できる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、ハウジングの円筒状のケーシング8の側壁にスリット又は穴を形成した構成であってもよい。この場合、円筒状のケーシング8の側壁に形成したスリット又は穴が吸気口の一部として機能するため、風量を増加することができる結果、さらに静圧−風量特性を向上することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 軸流ファン
2 モータ
3 インペラ
4 羽根
5 ハブ
6 ハウジング
7 スポーク
8 ケーシング
9 フランジ
11 前縁
12 翼端
13 後縁
14 貫通孔
15 曲面
16 傾斜面
17 曲面
18 モータベース
α 前縁角度
β 取付け角度
θ ひねり角度