(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上面開口の凹部を有するケースと、該ケースの凹部を水密及び気密に閉塞したリッドと、該閉塞凹部内に封入された充放電可能な蓄電素子及び電解液とを備え、該蓄電素子が第1電極シートと第2電極シートと両電極シートの間に介装されたセパレートシートとから構成された電気化学デバイスにおいて、
前記セパレートシートは、前記両電極シートに挟まれた高吸液度部と、該高吸液度部よりも前記電解液の吸水速度である吸液度が低く、且つ、前記両電極シートから外側に張り出した低吸液度部とを連続して有しており、前記低吸液度部の厚さは、前記高吸液度部の厚さよりも大きく、
前記低吸液度部の表面の少なくとも一部は、前記電解液を補充可能に前記両電極シートの外側面に接している
ことを特徴とする電気化学デバイス。
前記高吸液度部は、所定の厚さ及び空隙率を有するセパレートシート母材の押し潰された中央部分から成り、前記低吸液度部は、該セパレートシート母材の押し潰されていない外周部分から成る、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気化学デバイス。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコンやビデオカメラやデジタルカメラ等の電子機器には、メモリバックアップ等の用途に適した電源として、表面実装可能な電気化学デバイス、例えば、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池等が用いられている。
【0003】
この電気化学デバイスは、一般に、上面開口の凹部を有する絶縁性ケースと、該ケースの凹部を水密及び気密に閉塞した導電性リッドと、該閉塞凹部内に封入された充放電可能な蓄電素子及び電解液と、ケースの実装面に設けられた正極端子及び負極端子と、該正極端子と蓄電素子の正極側とを電気的に接続するための正極配線と、該負極端子と蓄電素子の負極側とを電気的に接続するための負極配線とを備えている(特許文献1を参照)。
【0004】
前記蓄電素子は、活物質から成る所定サイズの第1電極シートと、活物質から成る所定サイズの第2電極シートと、イオン透過シートから成る所定サイズのセパレートシートとを、第1電極シート、セパレートシート、第2電極シートの順に積み重ねて構成されている。セパレートシートには両電極シートの外形寸法よりも僅かに大きい外形寸法を有するものが用いられているため、該セパレートシート13の外周部分は両電極シートから外側に僅かに張り出している。因みに、第1電極シートと第2電極シートの材料は、電気化学デバイスの種類によって同じ場合と異なる場合とがある。
【0005】
また、前記セパレートシートは、第1電極シートと第2電極シートの短絡を防止する役割と、第1電極シートと第2電極シートの対向面間に電解液を保持する役割と、保持された電解液中のイオン移動を許容する役割を担うことから、これら役割を果たすのに適した厚さを有する繊維系多孔質シートが一般に用いられている。
【0006】
ところで、前記電気化学デバイスにあっては、電解液は主に第1電極シート、第2電極シート及びセパレートシートに含浸されており、該電解液は充放電過程において大きく流動することは無いが、該過程で両電極シート中の電解液に分解や劣化等を生じると、これに伴ってセパレートシートの両電極シートに挟まれた部分に含浸している電解液が両電極シートに引き込まれて該部分の電解液量が極めて微量ではあるが減少する現象を生じることがある。
【0007】
このような現象を生じた場合、セパレートシートの両電極シートに挟まれた部分は、両電極シートに引き込まれた分に相当する電解液を、セパレートシートの両電極シートから外側に張り出した部分から引き込もうとする。しかしながら、セパレートシートの両電極シートから外側に張り出した部分の厚さは両電極シートに挟まれた部分の厚さと同じで、且つ、吸液度も同じであるため、両電極シートから外側に張り出した部分から両電極シートに挟まれた部分に電解液を直ぐに引き込むことは難しい。また、両電極シートから外側に張り出した部分に含浸している電解液量が微量であることも相俟って、前記現象がたびたび生じると、セパレートシートの両電極シートに挟まれた部分の電解液量の減少を解消できなくなり、該現象の累積によって充放電特性の低下を招来する。
【0008】
尚、前記「吸液度」の用語は、明細書の[背景技術]以外の項目で使用した「吸液度」、特許請求の範囲で使用した「吸液度」、及び要約書で使用した「吸液度」の用語を含めて、JIS−L−1907に規定されたバイレック法による吸水速度に相当する。また、明細書の[発明を実施するための形態]では、前記「吸液度」の単位としてmm/10minを用いている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
図1〜
図5は、本発明を適用した電気化学デバイス(第1実施形態)を示す。
図1及び
図2に示した電気化学デバイス10は、絶縁性ケース11と、導電性リッド12と、蓄電素子13と、正極端子14と、負極端子15と、正極配線16と、負極配線17と、を具備しており、ケース11には正極端子14と負極端子15と正極配線16と負極配線17が設けられている他、結合リング18と集電膜19が設けられている。
【0016】
<ケースの構成>
ケース11は、アルミナ等の絶縁体材料から成り、所定の長さ、幅及び高さを有する直方体形状を成すように形成されている。また、ケース11の上面には、上面視輪郭が矩形で所定の深さを有する上面開口の凹部11aが形成されている。つまり、ケース11はその下面が実装面として利用される。さらに、ケース11を上から見たときの4つの角部には、上面視輪郭が略1/4円を成す切り欠き11bが上下方向に形成されている。このケース11には、正極端子14と負極端子15と正極配線16と負極配線17が設けられている他、結合リング18と集電膜19が設けられている。
【0017】
正極端子14は、金等の導電体材料から成り、ケース11の長さ方向の一端面の中央から下面に及ぶ断面L字形を成すように、且つ、所定の幅を有するように形成されている。負極端子15は、金等の導電体材料から成り、ケース11の長さ方向の他端面の中央から下面に及ぶ断面L字形を成すように、且つ、正極端子14と略同じ幅を有するように形成されている。
【0018】
図示を省略したが、ケース11の材料等を原因として、該ケース11の側面及び下面に正極端子14及び負極端子15を直接形成しても十分な密着力が得られない場合には、該側面及び下面に対する正極端子14及び負極端子15の密着力を高めるための密着補助層(例えば、ケース側から順にタングステン膜とニッケル膜とが並ぶもの等)を予めケース11の側面及び下面に形成しておくと良い。
【0019】
正極配線16は、タングステン等の導電体材料から成り、ケース11の長さ方向の一端面の中央から集電膜19の下面に至るように該ケース11の内部に形成されている。詳しくは、
図3に示したように、正極配線16は、正極端子14と略同じ幅を有する部分(符号無し)と、該部分から内側に延びる計3本の帯状部16aと、各帯状部16aの端から集電膜19に向かって延びる計3個の柱状部16bとを有している。各柱状部16bの位置はケース11の凹部11aの底面において異なっており、該各柱状部16bの上面は該凹部11aの底面で露出している。また、正極配線16のケース11の長さ方向の一端面から露出する部分は、正極端子14の側面部分に電気的に接続されている。
【0020】
負極配線17は、タングステン等の導電体材料から成り、ケース11の長さ方向の他端面の中央から該ケース11の上面に至るようにその一部がケース11の内部に形成され他部がケース11の側面及び上面に形成されている。詳しくは、
図3に示したように、負極配線17は、負極端子15と略同じ幅を有しケース11内に位置する部分(符号無し)と、該部分から外側に延びケース11内に位置する計2本の帯状部17aと、各帯状部17aと連続してケース11の2つの切り欠き11bの内面上に位置する計2本の帯状部17bと、各帯状部17bと連続してケース11の上面上に位置する計2個の扇状部17cとを有している。また、負極配線17のケース11の長さ方向の他端面から露出する部分は、負極端子15の側面部分に電気的に接続されており、該負極配線17のケース11の上面に存する各扇状部17cは、結合リング18の下面に電気的に接続されている。
【0021】
結合リング18は、コバール(鉄−ニッケル−コバルト合金)等の導電体材料から成り、ケース11の上面視輪郭よりも僅かに小さな上面視輪郭の矩形状を成すように形成されている。また、結合リング18の内孔18aの上面視輪郭は、ケース11の凹部11aの上面視輪郭と略一致している。この結合リング18は、内孔18aが凹部11aと整合するようにケース11の上面に接合材を介して結合されているため、該内孔18aは凹部11aとの協働によって実質的な凹部を構成することになる。
【0022】
図示を省略したが、ケース11の材料等を原因として、該ケース11の上面に結合リング18を接合材、例えば、金−銅合金等のロウ材を用いて直接結合しても十分な結合力が得られない場合には、該上面に対する結合リング18の結合力を高めるための結合補助層(例えば、上面側から順にタングステン膜とニッケル膜とが順に並ぶもの等)を予めケース11の上面に形成しておくと良い。また、結合リング18が電解液に対する耐食性が低い材料から成る場合には、電解液に対する耐食性を高めるための耐食性膜(例えば、表面側からニッケル膜と金膜が順に並ぶものや、この金膜を白金や銀やパラジウム等の他の金属膜に変えたもの等)を結合リング18の表面(少なくとも上下面と内孔18aの内面)に形成しておくと良い。
【0023】
集電膜19は、アルミニウム等の導電体材料から成り、ケース11の凹部11aの底面に該底面の上面視輪郭よりも僅かに小さな上面視輪郭をもって形成されている。また、ケース11の凹部11aの底面に形成された集電膜19は、正極配線16の各柱状部16bの露出部分に電気的に接続されている。
【0024】
図示を省略したが、正極配線16の各柱状部16bの材料等を原因として、ケース11の凹部11aの底面に集電膜19を形成しても該各柱状部16bの露出部分とに十分な電気伝導が得られない場合には、該各柱状部16bの露出部分と集電膜19の電気伝導を高めるための導電補助層(例えば、突出部分の表面側から順にニッケル膜と金膜が並ぶもの等)を予め該露出部分の表面に形成しておくと良い。
【0025】
<リッドの構成及び結合方法>
リッド12は、コバール(鉄−ニッケル−コバルト合金)等の導電体材料から、好ましくは、コバール母材の上下面にニッケル膜を有するクラッド材やコバール母材の下面にニッケル膜を有するクラッド材や、これらのニッケル膜を白金や銀や金やパラジウム等の金属膜に変えたクラッド材等から成り、結合リング18の上面視輪郭と略一致した上面視輪郭を有する矩形状に形成されている。図面には、リッド12の中央部分が矩形状に盛り上がったものをリッド12として示してあるが、平板形状を成すものを該リッド12として用いても良い。
【0026】
このリッド12は、ケース11の凹部11a(結合リング18の内孔18aを含む)の内側に蓄電素子13を配置した後に、その下面の外周部分を結合リング18の上面に電気的に導通するように結合され、該結合によってケース11の各凹部11a(結合リング18の内孔18aを含む)は水密及び気密に閉塞される。因みに、結合リング18に対するリッド12の結合には、シーム溶接やレーザ溶接等の直接接合法を利用できる他、導電性接合材を介在した間接接合法を利用できる。
【0027】
<蓄電素子の構成及び配置方法>
蓄電素子13は、矩形状の第1電極シート13aと、矩形状の第2電極シート13bと、両電極シート13a及び13bの間に介装された矩形状のセパレートシート13cと、から構成されている。第1電極シート13a及び第2電極シート13bはケース11の凹部11aの上面視輪郭よりも小さな上面視輪郭を有し、セパレートシート13cは両電極シート13a及び13bの上面視輪郭よりも僅かに大きく、且つ、ケース11の凹部11aの上面視輪郭よりも僅かに小さな上面視輪郭を有している。
【0028】
第1電極シート13a及び第2電極シート13bは活性炭やPAS(ポリアセン系半導体)等の活物質から成り、セパレートシート13cはガラス繊維やセルロース繊維やプラチック繊維等を主材料とした繊維系多孔質シートから成る。因みに、第1電極シート13aと第2電極シート13bの材料は、電気化学デバイス10の種類によって同じ場合と異なる場合とがある。
【0029】
セパレートシート13cは、両電極シート13a及び13bに挟まれた高吸液度部13c1と、該高吸液度部13c1よりも吸液度が低く、且つ、両電極シート13a及び13bから外側に張り出した低吸液度部13c2とを連続して有している。また、低吸液度部13c2の厚さ(最大厚さ)Tc2は高吸液度部13c1の厚さTc1よりも大きく、好ましくは厚さ比Tc1/Tc2は0.3〜0.8の範囲にある。後に説明するように、高吸液度部13c1は、
図4に示したセパレートシート母材RM13cの押し潰された中央部分から成り、低吸液度部13c2は、該セパレートシート母材RM13cの押し潰されていない外周部分から成る。さらに、低吸液度部13c2の表面における両電極シート13a及び13bに近い領域、要するに、低吸液度部13c2の表面の少なくとも一部は、両電極シート13a及び13bの外側面に接している。
【0030】
この蓄電素子13は、リッド12によって閉塞された凹部11a(結合リング18の内孔18aを含む)の内側に、図示省略の電解液と一緒に封入されている。電解液には、公知の電解液、即ち、溶媒に電解質塩が溶解した溶液の他、溶媒不使用のイオン性液体が適宜使用できる。前者の電解液(溶液)の具体例としては、溶媒が鎖状スルホン、環状スルホン、鎖状カーボネート、環状カーボネート、鎖状エステル、環状エステル、ニトリル等で、リチウムイオン、四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン等のカチオンを含み、BF4、PF6、TFSA等のアニオンを含むものが挙げられる。また、後者の電解液(イオン性液体)の具体例としては、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、四級アンモニウムイオン等のカチオンを含み、BF4、PF6、TFSA等のアニオンを含むものが挙げられる。
【0031】
また、
図2に示したように、蓄電素子13の第1電極シート13aの下面は導電性接着層20を介して集電膜19の上面に電気的に接続され、第2電極シート13bの上面は導電性接着層21を介してリッド12の下面に電気的に接続されている。この導電性接着層20及び21は導電性接着剤の硬化物であり、該導電性接着剤には、好ましくは、導電性粒子を含有した熱硬化性接着剤、例えば、グラファイト粒子を含有したエポキシ系接着剤等が利用できる。
【0032】
ここで、蓄電素子13の配置方法を配置前の構成と併せて説明する。
図4は蓄電素子13の配置前の構成を示すもので、図中の13aは第1電極シート、13bは第2電極シート13b、RM13cはセパレートシート母材である。
【0033】
第1電極シート13aは所定の長さLa及び幅Waを有し、第2電極シート13bは第1電極シート13aと略同じ長さLb及び幅Wbを有している。第1電極シート13aと第2電極シート13bの材料は先に説明した通りであり、また、各々の厚さは、電気化学デバイス10の種類によって同じ場合と異なる場合とがある。
【0034】
セパレートシート母材RM13cは、所定の長さLc、幅Wc及び厚さTcと所定の空隙率及び吸液度(平均値)を有し、両電極シート13a及び13bによる押し潰しが可能な硬度(柔らかさ)を有している。セパレートシート母材RM13cの長さLcは両電極シート13a及び13bの長さLcよりも好ましくは20〜40%程度長く、幅Wcは両電極シート13a及び13bの幅Wa及びWbよりも好ましくは20〜40%程度広い。また、セパレートシート母材RM13cの材料は先に説明したセパレートシート13cと材料と同じである。
【0035】
蓄電素子13を配置するときには、
図5に示したように、先ず、集電膜19の表面に未硬化の導電性接着剤を塗布し、該導電性接着剤に第1電極シート13aの下面を相対的に押し当てて密着させ、該導電性接着剤を硬化させた後に該第1電極シート13aに電解液を注液して含浸させる(ステップST1を参照)。次いで、第1電極シート13aの上面にセパレートシート母材RM13cを載置し、該セパレートシート母材RM13cに電解液を注液して含浸させる(ステップST2を参照)。これに前後して、リッド12の下面に前記と同じ未硬化の導電性接着剤を塗布し、該導電性接着剤に第2電極シート13bの上面を相対的に押し当てて密着させ、該導電性接着剤を硬化させた後に該第2電極シート13bに電解液を注液して含浸させる。次いで、リッド12の下面の外周部分を結合リング18の上面に重ねると同時に、第2電極シート13bの下面をセパレートシート13cの上面に押し付ける(ステップST3を参照)。次いで、リッド12を結合リング18に結合する。
【0036】
因みに、蓄電素子13を構成する第1電極シート13aと第2電極シート13bに使用極性が予め定まっている場合には、ケース11の各凹部11a(結合リング18の内孔18aを含む)の内側に蓄電素子13を配置するときにその挿入順序に注意する。例えば、第1電極シート13aの使用極性が正極に定められ、且つ、第2電極シート13bの使用極性が負極に定められている場合には、正極側の第1電極シート13aが集電膜19の上面と向き合い、且つ、負極側の第2電極シート13bがリッド12の下面と向き合うようにする。
【0037】
前記ステップST3では、セパレートシート母材RM13cの中央部分が第1電極シート13aの上面と第2電極シート13bの下面によって押し潰され、この押し潰された部分は、厚さTc1の高吸液度部13c1となる(
図2を参照)。セパレートシート母材RM13cの外周部分は押し潰されないことから、該押し潰されていない部分は厚さ(最大厚さ)Tc2の低吸液度部13c2となり(
図2を参照)、その厚さ(最大厚さ)Tc2はセパレートシート母材RM13cの厚さTcと変わらない。
【0038】
<セパレートシートの空隙率及び吸液度>
ここで、前記セパレートシート13cの高吸液度部13c1及び低吸液度部13c2の空隙率及び吸液度について具体例を挙げて説明する。
【0039】
実験によれば、セパレートシート母材RM13cとして空隙率が85%で電解液(ここでは溶媒が環状スルホランでカチオンがTEMAでアニオンがBF4の溶液を使用)に対する吸液度(平均値)が10mm/10minのものを用いて、高吸液度部13c1の厚さTc1と低吸液度部13c2の厚さ(最大厚さ)Tc2との厚さ比Tc1/Tc2が0.5のセパレートシート13cを得た場合、高吸液度部13c1の空隙率は約70%で低吸液度部13c2は約84%であり、高吸液度部13c1の吸液度(平均値)は16mm/10minで低吸液度部13c2の吸液度(平均値)は10.5mm/10minであった。
【0040】
この場合、先の押し潰しによって形成された高吸液度部13c1の空隙率(約70%)が、セパレートシート母材RM13cの空隙率(85%)、並びに、低吸液度部13c2の空隙率(約84%)と比較して大きく低下しない理由は、セパレートシート母材RM13cとして空隙率が高いものを使用していることにある。他の実験によれば、セパレートシート母材RM13cとして空隙率が85〜95%のものを用いれば、厚さ比Tc1/Tc2が0.5の場合において、高吸液度部13c1に70〜90%の空隙率を確保できることが確認されている。加えて、セパレートシート母材RM13cとして空隙率が85〜95%のものを用いれば、厚さ比Tc1/Tc2が0.3〜0.8の範囲において、高吸液度部13c1の空隙率が、セパレートシート母材RM13cの空隙率、並びに、低吸液度部13c2の空隙率と比較して大きく低下しないことも確認されている。
【0041】
また、先の押し潰しによって形成された高吸液度部13c1の吸液度(平均値:16mm/10min)がセパレートシート母材RM13cの吸液度(平均値:10mm/10min)、並びに、低吸液度部13c2の吸液度(平均値:10.5mm/10min)と比較して大きく向上する理由は、セパレートシート母材RM13c内の空隙の断面形が先の押し潰しによって小さくなることにある。他の実験によれば、セパレートシート母材RM13cとして空隙率が85〜95%で、且つ、電解液に対する吸液度(平均値)が5〜30mm/10minのものを用いれば、厚さ比Tc1/Tc2が0.5の場合において、高吸液度部13c1に7〜52mm/minの吸液度を確保できることが確認されている。加えて、セパレートシート母材RM13cとして空隙率が85〜95%のものを用いれば、厚さ比Tc1/Tc2が0.3〜0.8の範囲において、高吸液度部13c1の吸液度が、セパレートシート母材RM13cの吸液度、並びに、低吸液度部13c2の吸液度と比較して大きく向上することも確認されている。
【0042】
<電気化学デバイス(第1実施形態)によって得られる効果>
前記電気化学デバイス10にあっては、電解液は主に第1電極シート13a、第2電極シート13b及びセパレートシート13cに含浸されている。セパレートシート13cは、両電極シート13a及び13bから外側に張り出し、且つ、高吸液度部13c1よりも厚さが大きな低吸液度部13c2を有しているため、該低吸液度部13c2には相当量の電解液が含浸されている。
【0043】
第1電極シート13a、第2電極シート13b及びセパレートシート13cに含浸されている電解液は充放電過程において大きく流動することは無いが、該過程で両電極シート13a及び13b中の電解液に分解や劣化等を生じると、これに伴ってセパレートシート13cの両電極シート13a及び13bに挟まれた部分(高吸液度部13c1)に含浸している電解液が両電極シート13a及び13bに引き込まれて該部分の電解液量が極めて微量ではあるが減少する現象を生じることがある(
図2の上下向きの実線矢印を参照)。
【0044】
このような現象を生じても、前記電気化学デバイス10によれば、低吸液度部13c2に含浸している電解液が吸液度差に応じて高吸液度部13c1に直ぐに引き込まれて、該高吸液度部13c1への電解液補充が即座に行われる(
図2の左右向きの実線矢印を参照)。また、低吸液度部13c2には相当量の電解液が含浸しているため、前記現象がたびたび生じても、その都度、高吸液度部13c1への電解液補充が即座に行われる。つまり、セパレートシート13cの両電極シート13a及び13bに挟まれた部分(高吸液度部13c1)に電解液量減少の現象をたびたび生じた場合でも該現象を迅速、且つ、確実に解消でき、該現象の累積によって生じ得る充放電特性の低下も未然に回避できる。
【0045】
また、低吸液度部13c2の表面の少なくとも一部が両電極シート13a及び13bの外側面に接しているため、両電極シート13a及び13b中の電解液に分解や劣化等を生じることに伴う電解液の引き込みが、高吸液度部13c1から両電極シート13a及び13bのルートでは無く、低吸液度部13c2から両電極シート13a及び13bへのルートにて直接に行われる(
図2の破線矢印を参照)。つまり、高吸液度部13c1に含浸している電解液が両電極シート13a及び13bに引き込まれて該高吸液度部13c1の電解液量が減少する現象を、低吸液度部13c2から両電極シート13a及び13bへの電解液補充作用によって抑制できる。
【0046】
[第2実施形態]
図6及び
図7は、本発明を適用した電気化学デバイス(第2実施形態)を示す。この電気化学デバイスが、前記[第1実施形態]で説明した電気化学デバイス10と異なるところは、
・蓄電素子13のセパレートシート13c’として、高吸液度部13c1’と低吸液度部 13c2’が予め整形されたものを用いた点
にある。他の構成は前記[第1実施形態]で説明した電気化学デバイス10と同じであるためその説明を省略する。
【0047】
図6に示したセパレートシート13c’は、
図4に示したセパレートシート母材RM13cをプレス加工して高吸液度部13c1’と低吸液度部13c2’を予め整形したものである。詳しくは、第1電極シート13aの上面と同じ形状の上型と第2電極シート13bの下面と同じ形状の下型を用い、セパレートシート母材RM13cの中央部分を両型でプレスし押し潰して、厚さTc1’の高吸液度部13c1’を形成する。セパレートシート母材RM13cの外周部分は押し潰されないことから、該押し潰されていない部分は厚さ(最大厚さ)Tc2’の低吸液度部13c2’となる。高吸液度部13c1’の厚さTc1’は
図2に示した厚さTc1と同じであり、低吸液度部13c2’の厚さTc2’は
図2に示した厚さTc2と同じである。
【0048】
先に説明したように、セパレートシート母材RM13cは押し潰しが可能な硬度(柔らかさ)を有しているが、該セパレートシート母材RM13cの弾性力が強いと、押し潰しにより形成された高吸液度部13c1’の厚さTc1’が押し潰し後に増加することもある。このような場合には、高吸液度部13c1’をプレスにより形成するときにその可塑に必要な熱を同時に加えて、押し潰し後の冷却によって高吸液度部13c1’の厚さTc1’を維持できるようにすると良い。
【0049】
蓄電素子13を配置するときには、
図7に示したように、先ず、集電膜19の表面に未硬化の導電性接着剤を塗布し、該導電性接着剤に第1電極シート13aの下面を相対的に押し当てて密着させ、該導電性接着剤を硬化させた後に該第1電極シート13aに電解液を注液して含浸させる(ステップST11を参照)。次いで、第1電極シート13aの上面にセパレートシート13c’の高吸液度部13c1’の下面を互いが整合するように載置し、該セパレートシート13c’に電解液を注液して含浸させる(ステップST12を参照)。これに前後して、リッド12の下面に前記と同じ未硬化の導電性接着剤を塗布し、該導電性接着剤に第2電極シート13bの上面を相対的に押し当てて密着させ、該導電性接着剤を硬化させた後に該第2電極シート13bに電解液を注液して含浸させる。次いで、リッド12の下面の外周部分を結合リング18の上面に重ねると同時に、セパレートシート13c’の高吸液度部13c1’の上面に第2電極シート13bの上面を互いが整合するように載置する(ステップST13を参照)。次いで、リッド12を結合リング18に結合する。
【0050】
因みに、蓄電素子13を構成する第1電極シート13aと第2電極シート13bに使用極性が予め定まっている場合には、ケース11の各凹部11a(結合リング18の内孔18aを含む)の内側に蓄電素子13を配置するときにその挿入順序に注意する。例えば、第1電極シート13aの使用極性が正極に定められ、且つ、第2電極シート13bの使用極性が負極に定められている場合には、正極側の第1電極シート13aが集電膜19の上面と向き合い、且つ、負極側の第2電極シート13bがリッド12の下面と向き合うようにする。
【0051】
蓄電素子13を配置した後のセパレートシート13c’の断面形状は
図2に示したセパレートシート13cの断面形状と同じであり、該セパレートシート13c’の空隙率及び吸液度も
図2に示したセパレートシート13cの空隙率及び吸液度と同じである。
【0052】
<電気化学デバイス(第2実施形態)によって得られる効果>
前記電気化学デバイスによれば、前記[第1実施形態]の<電気化学デバイス(第1実施形態)によって得られる効果>で説明した効果と同じ効果が得られる。加えて、セパレートシート13c’の高吸液度部13c1’の下面側には窪みが存在し、且つ、その下面形状は第1電極シート13aの上面形状と整合していると共に、該高吸液度部13c1’の上面側には窪みが存在し、且つ、その上面形状は第2電極シート13bの下面形状と整合しているため、第1電極シート13aの上面にセパレートシート13c’の高吸液度部13c1’の下面を載置する過程で両者の位置合わせを簡単、且つ、的確に行えると共に、セパレートシート13c’の高吸液度部13c1’の上面に第2電極シート13bの上面を載置する過程で両者の位置合わせを簡単、且つ、的確に行える。