特許第5728334号(P5728334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5728334衝突性能に優れた車体用のプレス成形品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728334
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】衝突性能に優れた車体用のプレス成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20150514BHJP
   B21D 5/01 20060101ALI20150514BHJP
   B21D 53/88 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   B21D22/26 D
   B21D5/01 D
   B21D53/88 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-188310(P2011-188310)
(22)【出願日】2011年8月31日
(65)【公開番号】特開2013-49077(P2013-49077A)
(43)【公開日】2013年3月14日
【審査請求日】2013年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306019122
【氏名又は名称】株式会社エイチワン
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(72)【発明者】
【氏名】米村 繁
(72)【発明者】
【氏名】上西 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】豊川 伸
(72)【発明者】
【氏名】永井 健友
(72)【発明者】
【氏名】武部 洋行
【審査官】 馬場 進吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−094115(JP,A)
【文献】 特開2004−181502(JP,A)
【文献】 特開2010−110776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 5/01
B21D 53/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に曲げ加工を施すことにより、天壁部と、前記天壁部の幅方向両側に位置する一対の縦壁部と、前記天壁部と前記縦壁部との間に設けられた曲げ加工部位とを有する中間品を形成してから、前記天壁部の突出方向が反対方向に突出するように、かつ、前記曲げ加工部位が逆方向に曲げられるようにプレス加工されて製造された車体用のプレス成形品であり、
前記天壁部と、前記天壁部の幅方向両側に位置する新たな縦壁部とを有し、
前記新たな縦壁部に、前記曲げ加工部位を逆方向に曲げる曲げ戻し変形による加工硬化処理が施されたことによる前記プレス成形品の他の部位よりも高い変形強度の部位が設けられていることを特徴とする衝突性能に優れた車体用のプレス成形品。
【請求項2】
ダイとパンチの相対的な直進移動によって金属板をプレス成形することにより、車体用のプレス成形品を製造する方法において、
前記金属板に曲げ加工を施すことにより、天壁部と、前記天壁部の幅方向両側に位置する一対の縦壁部と、前記天壁部と前記縦壁部との間に設けられた曲げ加工部位とを有する中間品を形成する工程と、
前記パンチ側に向けて前記天壁部を突出させた状態で前記中間品を配置し、前記パンチを前記ダイに挿入して前記パンチにより前記天壁部を押圧することで前記天壁部をパンチ挿入前の突出方向の反対方向に突出させるプレス成形を行って、前記天壁部と前記天壁部の幅方向両側に位置する新たな縦壁部とを有する前記プレス成形品を形成する工程と、
を具備してなり、
前記プレス成形品を形成する工程において、前記中間品の前記曲げ加工部位を逆方向に曲げる曲げ戻し加工を施すことにより、前記新たな縦壁部に加工硬化処理を施すことを特徴とする衝突性能に優れた車体用のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車衝突時の吸収エネルギー及び耐座屈性に優れた車体用のプレス成形品とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界においては、地球温暖化の原因であるCO排出量を低減するための燃費向上が急務となっている。燃費向上のためには、代替燃料による抜本的なCO排出削減に加えて、エンジンやトランスミッション効率の向上、さらには車体軽量化などの対策が必要となっている。また、厳しくなる衝突安全規制のなか、衝突安全性に優れた車体を開発していくことも重要な課題である。
【0003】
衝突安全性向上の要求を低強度鋼板のみで達成するには、補強部品を多用するか、あるいは車体構造部品の板厚を厚くすることが必要であり、車体軽量化と両立させることは容易ではない。そこで、車体軽量化と衝突安全性の要求を同時に満足するために、自動車車体への高強度鋼板の適用が進められている。
【0004】
例えば、従来は引張強さが440MPa級の鋼板が車体構造部品に多用されていたが、最近では590MPa級の鋼板の採用が増え、また、980MPa級以上の鋼板も車体構造部品に適用され始めている。しかしながら、鋼板の強度が上昇するにつれて、プレス加工において形状凍結不良(スプリングバック)やしわが増加し、部品の寸法精度の確保が困難になっている。また、鋼板の強度上昇にともなう延性の低下はプレス成形時の破断の危険性も高めている。
【0005】
このように、高強度鋼板による車体性能と生産性の両立は、従来の軟鋼板を多用した車体に比べれば必ずしも容易ではなく、開発工期短縮や自動車製造コスト抑制と相まって、高強度鋼板を適用するうえでの阻害要因の一つとなっている。
【0006】
一方、高強度鋼板を用いずに車体の衝突性能を高める手段として、ホットプレス工法や高周波焼入れなどの熱処理法により、部品の全体または部分を高強度化する方法も検討されている(例えば、特許文献1、2)。しかし、部品形状によっては焼入れに適さない部品があるほか、新たな設備導入が必要であることなど生産技術、製造コストの面で課題が多く、適用部品は限られている。さらに、ホットプレス工法や熱処理法における加熱源としてレーザを用いることも提案されているが(例えば、特許文献3)、レーザでは加熱範囲が狭いため、大型の部品では長時間の熱処理時間が必要なうえ、十分な効果を得ることも難しく実用的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-174283号公報
【特許文献2】特開2006-213941号公報
【特許文献3】特開平4-72010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記実状に鑑み、ホットプレス工法や高周波焼入れなど熱処理を施さず、複数回の冷間プレスで部材強度を高めることができる車体用のプレス成形品の製造方法および衝突性能に優れた車体用のプレス成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、自動車フレームなどの構造部品の長手方向の所定位置に、複数回のプレス成形による曲げ・曲げ戻し変形加工を施して、板厚減少をともなわずに大きな加工硬化を導入するプレス成形方法を見出すとともに、この加工硬化を活用して衝突時の部材吸収エネルギーを大幅に向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の要旨は、次の通りである。
[1] 金属板に曲げ加工を施すことにより、天壁部と、前記天壁部の幅方向両側に位置する一対の縦壁部と、前記天壁部と前記縦壁部との間に設けられた曲げ加工部位とを有する中間品を形成してから、前記天壁部の突出方向が反対方向に突出するように、かつ、前記曲げ加工部位が逆方向に曲げられるようにプレス加工されて製造された車体用のプレス成形品であり、前記天壁部と、前記天壁部の幅方向両側に位置する新たな縦壁部とを有し、前記新たな縦壁部に、前記曲げ加工部位を逆方向に曲げる曲げ戻し変形による加工硬化処理が施されたことによる前記プレス成形品の他の部位よりも高い変形強度の部位が設けられていることを特徴とする衝突性能に優れた車体用のプレス成形品。
[2] ダイとパンチの相対的な直進移動によって金属板をプレス成形することにより、車体用のプレス成形品を製造する方法において、前記金属板に曲げ加工を施すことにより、天壁部と、前記天壁部の幅方向両側に位置する一対の縦壁部と、前記天壁部と前記縦壁部との間に設けられた曲げ加工部位とを有する中間品を形成する工程と、前記パンチ側に向けて前記天壁部を突出させた状態で前記中間品を配置し、前記パンチを前記ダイに挿入して前記パンチにより前記天壁部を押圧することで前記天壁部をパンチ挿入前の突出方向の反対方向に突出させるプレス成形を行って、前記天壁部と前記天壁部の幅方向両側に位置する新たな縦壁部とを有する前記プレス成形品を形成する工程と、を具備してなり、前記プレス成形品を形成する工程において、前記中間品の前記曲げ加工部位を逆方向に曲げる曲げ戻し加工を施すことにより、前記新たな縦壁部に加工硬化処理を施すことを特徴とする衝突性能に優れた車体用のプレス成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ホットプレス工法や高周波焼入れなど新たな焼入れ用の設備を導入することなく、従来の冷間プレス前提で、フロントフレームやサイドシルアウタ−など自動車構造部品の所定位置に対して加工硬化を付与することで衝突強度を高めることができ、衝突性能を損なうことなく板厚を薄くできる。このように、本発明により、生産コストへの負荷増も小さく抑えつつ、軽量化と衝突性能を同時に満足した自動車用構造部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、断面視ハット形状の車両用のプレス成形品の外観を示す斜視図である。
図2図2は、従来のプレス成形方法を説明する工程模式図である。
図3】本発明のプレス成形方法を説明する工程模式図である。
図4】本発明の効果を説明するための図である。
図5】本発明の実施例の試験条件を説明する図である。
図6】本発明の効果を説明する図であって、金属板、中間品及び最終製品の板厚方向におけるビッカース硬度の分布を示すグラフである。
図7】本発明の効果を説明する図であって、エネルギー吸収量とストロークとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した車体用のプレス成形品及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各部の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0014】
本実施形態では、車両用のプレス成形品の一例として、図1に示すサイドメンバを模した断面視ハット形断面形状のビーム100(車両用のプレス成形品)を対象に、本発明による具体的なプレス成形方法について説明する。図1に示すビーム100には、天壁部100aと、天壁部100aの幅方向両端につながる一対の縦壁部100b、100cと、縦壁部100b、100cの幅方向一端側につながるフランジ部100d、100eとを備えている。
【0015】
まず、従来のドローベンド成形により、図1のハット断面形状のビーム100をプレス成形する事例について、図2を用いて説明する。
図2はプレス成形装置の概要を示す模式図である。図2に示すプレス成形装置は、図視略の下ホルダに取付けられたパンチ4と、図視略の上ホルダに支持されたダイ1と、それぞれ独立したガスシリンダ3aによって支持されたしわ押さえ3とから概略構成されている。ダイ1にはガスシリンダ1aが接続されており、上昇及び下降が可能とされている。
【0016】
上記構造のプレス成形装置において、まず、図2(a)に示すように、パンチ4及びしわ押さえ3の上に金属板2を配置し、ダイ1を下降させてダイ1としわ押さえ3との間に金属板2を挟持させる。このとき、金属板2には、ガスシリンダ3aの圧力調整によりしわ押さえ3を介してしわ押さえ力が付与される。
【0017】
次に、図2(b)に示すように、ダイ1をプレス下死点まで更に下降させる。ダイ1の下降により、金属板2のプレス成形が開始され、プレス下死点までダイ1が下降することで図1に示すハット断面形状のビーム100が形成される。このとき、金属板2にはしわ押さえ3によって張力が付与されているので、しわ押さえ3とパンチ4で拘束されない縦壁部2a、2bは、塑性変形により板厚が減少するとともに加工硬化が生じる。なお、図2における縦壁部2a、2bは、図1におけるビーム100の縦壁部100b、100cに相当する。
【0018】
ここで、従来の方法では、縦壁部2a、2bに加工硬化が生じることにより縦壁部2a、2bにおける部材強度が上昇する一方で、縦壁部2a、2bにおける板厚が同時に減少し、これにより期待されるほど縦壁部2a、2bの強度が高まらず、衝突性能が向上しない。
【0019】
そこで本発明者らは、衝突性能を向上すべく鋭意検討の結果、自動車用フレームなどの構造部品の長手方向の所定位置に、複数回のプレス成形により板厚減少をともなわずに大きな加工硬化を導入する方法を見出して、本発明を完成させたものである。
【0020】
以下、本実施形態の車体用のプレス成形品の製造方法を、図1の断面視ハット形状のビーム100をプレス成形する事例にして、図3を参照しつつ説明する。
【0021】
本実施形態のプレス成形品の製造方法は、金属板を加工して曲げ加工部位を有する中間品を形成する工程と、曲げ加工部位を逆方向に曲げる曲げ戻し加工を施すとともに、金属板をプレス成形して前記プレス成形品を形成する工程からなる。
【0022】
中間品を形成する工程は、図3(a)に示すプレス成形機により行う。図3(a)に示すプレス成形機10は、図視略の下ホルダに取付けられたパンチ14と、図視略の上ホルダに支持されたダイ11と、ダイ11の内側に配置されたパッド15とが備えられて構成されている。パンチ14にはガスシリンダ14aが接続されており、パンチ14の上昇及び下降が可能とされている。また、パッド15は、パッド15の加圧面15aの位置が、ダイ11よりも下方の成形開始位置から成形下死点の位置に至るまで、パンチ14の動きに合わせて移動可能とされている。
【0023】
図3(a)に示すプレス成形機において、成形開始位置において金属板2をパンチ14及びパッド15によって挟んで固定する。次いで、金属板2が動かないようにパンチ14とパッド15で押さえたまま、パンチ14及びパッド15をダイ11に対して上昇させることによって、ダイ11とパンチ14及びパッド15によって金属板2をプレス成形して中間品12を製造する。
【0024】
得られた中間品12は、最終製品であるビーム100の天壁部100aの突出方向とは反対方向に突出された天壁部12aと、天壁部12aの幅方向両端につながる一対の縦壁部12b、12cと、縦壁部12b、12cの幅方向一端側につながるフランジ部12d、12eとを備えている。また、天壁部12aと縦壁部12b、12cとの間にはそれぞれ、金属板2の曲げ加工部位2d、2eが形成されている。同様に、縦壁部12b、12cとフランジ部12d、12eの間にもそれぞれ、金属板2の曲げ加工部位2f、2gが形成されている。また、中間品12のプレス成形の際には、中間品12の縦壁部12b、12cの高さが、最終製品であるビーム100の縦壁部100b、100cの高さよりも低くなるように、パンチ14の下死点を調整するとよい。中間品12の縦壁部12b、12cの高さが、最終製品のビーム100の縦壁部100b、100cよりも高くなると、最終製品を断面視ハット状に成形することが困難になる。
【0025】
次に、得られた中間品12を、図3(b)に示すプレス成形機によってプレス成形して最終製品であるビーム100を製造する。図3(b)に示すプレス成形機20は、図視略の上ホルダに取付けられたパンチ24と、図視略の下ホルダに支持されたダイ21と、ダイ21の内側に配置されたパッド25とが備えられて構成されている。パンチ24にはガスシリンダ24aが接続されており、パンチ24の上昇及び下降が可能とされている。また、パッド25は、パッド25の加圧面25aの位置が、ダイ21よりも上方の成形開始位置から成形下死点の位置に至るまで、パンチ24の動きに合わせて移動可能とされている。
【0026】
図3(b)に示すプレス成型機20に、中間品12をセットする。このとき、中間品12の天壁部12aの突出方向がパンチ24側に向くように中間品12をセットする。
次に、成形開始位置において中間品12の天壁部12aをパンチ24及びパッド25によって挟んで固定する。次いで、図3(c)に示すように、中間品12をパンチ24とパッド25で押さえたまま、パンチ24及びパッド25をダイ21に対して下降させることによって、ダイ21とパンチ24及びパッド25によって中間品12をプレス成形して最終製品であるビーム100を製造する。
【0027】
このとき、中間品12(金属板2)における曲げ加工部位2d〜2gには、各曲げ加工部位の曲げ方向とは逆方向の曲げ戻し加工がなされる。これにより、金属板の長手方向の所定位置において曲げ・曲げ戻し変形がなされる。図4に示すように、金属板2に曲げ・曲げ戻し変形がなされることで、金属板2に塑性変形が導入され、その結果、板厚が減少することなく大きな加工硬化を導入することができる。
本実施形態の最終製品であるビーム100においては、縦壁部100a、100bに加工硬化が導入されることにより、縦壁部100a、100bが他の部位よりも高い変形強度の部位となる。
【0028】
理論的には、厚さtの薄板を曲げ半径Rだけ曲げ、再びもとの形状に曲げ戻したとき、図4に示すように曲げひずみ(ε’)と曲げ戻しひずみ(ε”)は相互に消し合うため板厚は減少しないが、相当塑性ひずみ(εeq)は、図4の破線に示すように、曲げ加工時の相当塑性ひずみ(ε’eq)と曲げ戻し加工時の相当塑性ひずみ(ε”eq)とが合計される。そして、この曲げ・曲げ戻しにともなう相当塑性ひずみ(εeq)により被加工材に大きな加工硬化が導入される。
【0029】
以上説明したように、本実施形態によれば、ビーム100の縦壁部100a、100bに加工硬化が導入されて、縦壁部100a、100bが他の部位よりも高い変形強度の部位となるので、ビーム100の座屈変形反力を向上させることができ、また、ビーム100を車体用のフレームに提供した場合にはビーム100の衝突性能を高めることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
金属板として板厚1.2mmの590MPa級複合組織鋼板を用いた。この鋼板を図3(a)に示すプレス成形機でプレス成形することで、パンチ肩R5mm、成形高さ10mmの中間品を形成した。
【0031】
次いで、得られた中間品を図3(b)に示すプレス成形機でプレス成形することで、最終製品形状の断面視ハット形状のビームに成形した。ビームの成形高さは50mmであり、曲げ部の曲率半径Rは5mmであり、天壁部の幅は70mmであり、フランジ部を含む全体の幅は120mmであり、全長は300mmであった。
【0032】
続いて、断面視ハット形状のビームとクロージングプレートを、ビームのフランジ部において30mm間隔のスポット溶接処理にて締結し、長さ300mmの供試体を製作した。
【0033】
そして、図5に示すように、得られた供試体に、質量260kgの落錘を高さ3mから自由落下させ、初速7.7m/sで衝突させた。このときの部材変形反力は固定端側に設置したロードセルにより計測し、また、自由端の変位量はレーザ式変形計により計測した。さらに、本発明の効果を調査するため、図2で説明した従来方法により製作した供試体についても落重試験を実施した。
【0034】
曲げ・曲げ戻し変形により付与された加工硬化の状態を調査するため、板厚断面のビッカース硬さ(Hv)分布を測定した。図6に板厚断面のビッカース硬度分を示すが、加工前の鋼板ではHv=190で板厚方向にほぼ一定の硬さ分布を呈していたが、曲げ変形により板厚断面の硬さ分布は大きく変化し、曲げ外側ではHv=300に達していた。さらに、曲げ・曲げ戻し変形を受けると被加工材の断面硬さは板厚方向にほぼ一定の硬さ分布となり、板厚方向平均硬さはHv=370に達することが判明した。
【0035】
また、図7に部材変形反力をストロークで積分した部材吸収エネルギーの比較を示す。本発明により板厚減少をともなわずに大きな加工硬化を金属板に導入することで部材吸収エネルギーは3.6kJから4.2kJへおよそ17%増加することが判明した。
【符号の説明】
【0036】
11,21…ダイ、2…金属板、14、24…パンチ、15、25…パッド、12…中間品、100…ビーム(プレス成形品)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7