特許第5728421号(P5728421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5728421ロックアップ制御装置及びロックアップ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728421
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】ロックアップ制御装置及びロックアップ制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
   F16H61/14 601J
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-74898(P2012-74898)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-204716(P2013-204716A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年2月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】関谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛康
(72)【発明者】
【氏名】今岡 貴
【審査官】 広瀬 功次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−202793(JP,A)
【文献】 特開2010−210008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14,61/38−61/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御装置であって、
発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手段と、
運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手段と、
前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手段と、
を備え
前記減速意図検出手段は、アクセルペダルから足が離された時又はブレーキペダルが踏み込まれた時に運転者の減速意図があると判断し、
前記ブレーキペダルが踏み込まれて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記アクセルペダルから足が離されて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧よりも低い値である、
ことを特徴とするロックアップ制御装置。
【請求項2】
動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御装置であって、
発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手段と、
運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手段と、
前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手段と、
を備え、
アクセルペダルから足が離されて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップクラッチの指示圧と実圧との差の絶対値を前記アクセルペダルから足が離された時の前記ロックアップクラッチの指示圧から減じた値である、
ことを特徴とするロックアップ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のロックアップ制御装置であって、
前記アクセルペダルから足が離された時の前記ロックアップクラッチの指示圧から前記ロックアップクラッチの指示圧と実圧との差の絶対値を減じた値が前記ロックアップ解除圧の直前の値よりも低い場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップ解除圧の直前の値である、
ことを特徴とするロックアップ制御装置。
【請求項4】
動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御装置であって、
発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手段と、
運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手段と、
前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手段と、
を備え、
ブレーキペダルが踏み込まれて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップ解除圧の直前の値である、
ことを特徴とするロックアップ制御装置。
【請求項5】
動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御方法であって、
発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手順と、
運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手順と、
前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手順と、
を含み、
前記減速意図検出手順は、アクセルペダルから足が離された時又はブレーキペダルが踏み込まれた時に運転者の減速意図があると判断し、
前記ブレーキペダルが踏み込まれて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記アクセルペダルから足が離されて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧よりも低い値である、
ことを特徴とするロックアップ制御方法。
【請求項6】
動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御方法であって、
発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手順と、
運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手順と、
前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手順と、
を含み、
アクセルペダルから足が離されて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップクラッチの指示圧と実圧との差の絶対値を前記アクセルペダルから足が離された時の前記ロックアップクラッチの指示圧から減じた値である、
ことを特徴とするロックアップ制御方法。
【請求項7】
動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御方法であって、
発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手順と、
運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手順と、
前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手順と、
を含み、
ブレーキペダルが踏み込まれて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップ解除圧の直前の値である、
ことを特徴とするロックアップ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両発進時にロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機のトルクコンバータにはロックアップクラッチが設けられている。ロックアップクラッチを締結することによってトルクコンバータにおける滑りをなくし、自動変速機の伝達効率を向上させることができる。
【0003】
ロックアップクラッチは発進後、車速が所定のロックアップ車速に達した時に締結されるのが一般的であるが、特許文献1は、発進時にロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる制御(発進スリップ制御)を開示している。発進スリップ制御によれば、アクセルペダルの踏み込み時にエンジンが吹け上がるのを防止し、車両の燃費を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−226333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発進スリップ制御中にアクセルペダルから足が離された場合は、エンジン回転速度が低下するとともにエンジントルクが低下するので、ロックアップクラッチの締結容量(伝達可能トルク)を下げる必要がある。これは、エンジントルクに対してロックアップクラッチの締結容量が過多の状態になると、ロックアップクラッチの引き摺りによって足離し時の減速度が大きくなり、運転性が悪化するからである。
【0006】
ロックアップクラッチの締結容量を下げる態様としては、ロックアップクラッチの指示圧を足離し時の値から所定のランプ勾配で低下させることが考えられる。しかしながら、実圧が指示圧に対して遅れて変化するため、この態様ではアクセルペダルから足が離された直後はロックアップクラッチの締結容量が下がらず、上記問題が依然として生じる可能性がある。
【0007】
これを防止するために、ロックアップクラッチの指示圧を最低値まで直ちに下げる態様も考えられる。しかしながら、この態様では、ロックアップクラッチが急激に解放されることによって、予期しない車両の突き上げショックが発生する可能性がある。
【0008】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、発進スリップ制御中に運転者が減速意図を示した場合に、運転性を悪化させることなく発進スリップ制御を解除することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様によれば、動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御装置であって、発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手段と、運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手段と、前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手段と、を備え、前記減速意図検出手段は、アクセルペダルから足が離された時又はブレーキペダルが踏み込まれた時に運転者の減速意図があると判断し、前記ブレーキペダルが踏み込まれて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記アクセルペダルから足が離されて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧よりも低い値である、ことを特徴とするロックアップ制御装置が提供される。
本発明の別の態様によれば、動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御装置であって、発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手段と、運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手段と、前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手段と、を備え、アクセルペダルから足が離されて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップクラッチの指示圧と実圧との差の絶対値を前記アクセルペダルから足が離された時の前記ロックアップクラッチの指示圧から減じた値である、ことを特徴とするロックアップ制御装置が提供される。
本発明の別の態様によれば、動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御装置であって、発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手段と、運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手段と、前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手段と、を備え、ブレーキペダルが踏み込まれて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップ解除圧の直前の値である、ことを特徴とするロックアップ制御装置が提供される。
【0010】
本発明の別の態様によれば、動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御方法であって、発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手順と、運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手順と、前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手順と、を含み、前記減速意図検出手順は、アクセルペダルから足が離された時又はブレーキペダルが踏み込まれた時に運転者の減速意図があると判断し、前記ブレーキペダルが踏み込まれて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記アクセルペダルから足が離されて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧よりも低い値である、ことを特徴とするロックアップ制御方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御方法であって、発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手順と、運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手順と、前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手順と、を含み、アクセルペダルから足が離されて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップクラッチの指示圧と実圧との差の絶対値を前記アクセルペダルから足が離された時の前記ロックアップクラッチの指示圧から減じた値である、ことを特徴とするロックアップ制御方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、動力源の回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機のトルクコンバータに設けられるロックアップクラッチの締結状態を油圧を介して制御するロックアップ制御方法であって、発進時に前記ロックアップクラッチをスリップさせながら締結させる発進スリップ制御手順と、運転者の減速意図の有無を判断する減速意図検出手順と、前記発進スリップ制御中に運転者の減速意図があると判断された場合に、前記ロックアップクラッチの指示圧を、減速意図があると判断された時の指示圧よりも低くかつ前記ロックアップクラッチが解除されるロックアップ解除圧よりも高い解除初期圧まで瞬時に減少させ、その後、前記ロックアップクラッチの指示圧を時間の経過とともに前記解除初期圧から減少させる発進スリップ制御解除手順と、を含み、ブレーキペダルが踏み込まれて減速意図があると判断された場合の前記解除初期圧は、前記ロックアップ解除圧の直前の値である、ことを特徴とするロックアップ制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記態様によれば、発進スリップ制御中に運転者が減速意図を示すと、ロックアップクラッチの締結容量が速やかに下がる。これにより、ロックアップクラッチの引き摺りが抑えられ、車両に大きな減速度が作用するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】自動変速機を備えた車両の概略構成図である。
図2】発進制御の内容を示したフローチャートである。
図3】発進スリップ制御が実施された時の様子を示したタイムチャートである。
図4】発進スリップ制御中にアクセルペダルから足が離された時の様子を示したタイムチャートである(比較例)。
図5】発進スリップ制御中にアクセルペダルから足が離された時の様子を示したタイムチャートである(本発明の実施形態の第1スムースOFF処理)。
図6】発進スリップ制御中にアクセルペダルから足が離され、続けてブレーキペダルが踏み込まれた時の様子を示したタイムチャートである(本発明の実施形態の第2スムースOFF処理)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は自動変速機を備えた車両の概略構成を示している。車両のパワートレインは、動力源としてのエンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3とを備え、エンジン1の回転がトルクコンバータ2及び自動変速機3を介して図示しない駆動輪へと伝達される。
【0015】
トルクコンバータ2は、エンジン1のクランクシャフトに接続されるポンプインペラ21、自動変速機3の入力軸に接続されるタービンランナ22、及び、ポンプインペラ21とタービンランナ22の間に配置されるステータ23を備える。ポンプインペラ21が回転するとポンプインペラ21からタービンランナ22に向かう作動油の流れが生じ、この流れをタービンランナ22で受けることでタービンランナ22が回転する。タービンランナ22を出た作動油は、ステータ23によって整流されて再びポンプインペラ21へと戻され、これによってトルク増幅作用が実現される。
【0016】
また、トルクコンバータ2は、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを機械的に直結するロックアップクラッチ24を備える。ロックアップクラッチ24は、その両側に形成される油室に供給される作動油の差圧によって動作し、差圧をロックアップ解除圧よりも高めると解放され、ロックアップ解除圧よりも下げると締結する。
【0017】
自動変速機3は、入力軸と出力軸との変速比を変更することができる機構である。例えば、自動変速機3は、無段変速機であり、溝幅変更可能な一対のプーリと、一対のプーリの間に掛け回されるベルトとを備える。そして、油圧によってプーリの溝幅を変更すると、ベルトとプーリとの接触半径が変化し、変速比が変更される。
【0018】
トルクコンバータ2の締結状態の変更、及び、自動変速機3の変速に供される油圧は、油圧制御回路4から供給される。油圧制御回路4は、複数の弁及び複数の油路から構成され、変速機コントローラ5からの信号に基づき、図示しない油圧ポンプで生成された油圧を元圧として、トルクコンバータ2及び自動変速機3に供給する油圧を調圧する。
【0019】
変速機コントローラ5は、マイクロプロセッサを中心として構成され、車速を検出する車速センサ11、アクセルペダルの開度(操作量)を検出するアクセル開度センサ12、ブレーキペダルが踏み込まれているか検出するブレーキスイッチ13、エンジン1の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ14、タービンランナ22の回転速度を検出するタービン回転速度センサ15からの信号が入力される。変速機コントローラ5は、入力された信号に基づき、運転状態に応じて必要とされるロックアップクラッチ24の締結状態及び自動変速機3の変速比を判断し、これらが実現されるように油圧制御回路4に信号を出す。
【0020】
また、変速機コントローラ5は、ロックアップクラッチ24の締結状態を変更する時のエンジン1の回転速度変化から、ロックアップ解除圧を学習する。なお、ロックアップ解除圧はエンジン1の回転速度の影響を受けるので、ロックアップ解除圧の学習はエンジン1の回転速度毎に行われる。
【0021】
また、変速機コントローラ5は、停車状態からの発進時に、ロックアップクラッチ24をスリップさせながら締結させる発進スリップ制御を行う。これにより、アクセルペダルが踏み込まれた時にエンジン1が吹け上がるのを抑え、車両の燃費を向上させる。
【0022】
そして、変速機コントローラ5は、発進スリップ制御中に、運転者がアクセルペダルから足を離す、ブレーキペダルを踏み込む等の減速意図を示した場合には、発進スリップ制御を中止する。
【0023】
しかしながら、ロックアップクラッチ24の差圧の指示値(以下、「ロックアップ指示圧」という。)を、運転者が減速意図を示した時から所定のランプ勾配で低下させるという態様では、ロックアップ指示圧に対する実圧の遅れから、ロックアップクラッチ24が締結容量過多の状態となり、ロックアップクラッチ24の引き摺りによって減速度が大きくなって運転性が悪化する可能性がある。また、ロックアップ指示圧を最低値まで直ちに下げるという態様では、ロックアップクラッチ24の急激な解放によって、予期しない車両の突き上げショックが発生する可能性がある。
【0024】
そこで、変速機コントローラ5は、以下に説明する発進制御を行うことによって、発進スリップ制御中にアクセルペダルから足が離される、又は、ブレーキペダルが踏み込まれた場合であっても、運転性を悪化させることなく発進スリップ制御が解除されるようにする。
【0025】
図2は、変速機コントローラ5が実行する発進制御の内容を示したフローチャートである。これを参照しながら発進制御について説明する。
【0026】
S1では、変速機コントローラ5は、車両が停車状態から発進したか判断する。ここでは、ブレーキペダルから足が離され、ブレーキスイッチ13の信号がOFFからONに切り替わった場合に、車両が発進したと判断される。
【0027】
S2では、変速機コントローラ5は、発進スリップ制御を実行する。発進スリップ制御では、最初に、ロックアップ指示圧を、ロックアップクラッチ24がスリップ状態(わずかに締結する状態)となる所定圧までステップ的に上昇させ、アクセルペダルが踏み込まれるまでこの所定圧を維持する。そして、アクセルペダルが踏み込まれると、エンジン1の回転速度とタービンランナ22の回転速度(以下、「タービン回転速度」という。)との差が時間の経過とともに縮小されるように、ロックアップ指示圧をフィードバック制御する。
【0028】
発進スリップ制御の終了条件は、
・アクセルペダルから足が離されること(S3)
・エンジン1の回転速度とタービン回転速度との差がゼロの状態が所定時間経過したこと(S4)
のいずれかであり、終了条件が成立しない間は発進スリップ制御が継続される(S2〜S4)。これより、発進時にエンジン1が吹け上がるのが抑制される。
【0029】
発進スリップ制御中にアクセルペダルから足が離された場合は、処理がS3からS6に進み、変速機コントローラ5は、発進スリップ制御の解除処理を実行する。
【0030】
また、エンジン1の回転速度とタービン回転速度の差がゼロの状態が所定時間継続した場合は、処理がS4からS5に進み、変速機コントローラ5は、ロックアップ指示圧を最大値までステップ的に上昇させてロックアップクラッチ24を完全締結し、発進スリップ制御を終了する。
【0031】
S6以降の発進スリップ制御の解除処理について説明すると、発進スリップ制御の解除処理は、アクセルペダルから足が離された時に実行される第1スムースOFF処理(S6)と、さらにこの状態からブレーキペダルが踏み込まれた時に実行される第2スムースOFF処理(S11)とで構成される。
【0032】
<第1スムースOFF処理>
S6の第1スムースOFF処理では、変速機コントローラ5は、ロックアップ指示圧をその時点の値から、ロックアップ指示圧と実圧との差(以下、「油圧ばらつき分」という。)の絶対値だけ低い第1解除初期圧までステップ的に下げ、その後、ロックアップ指示圧を第1解除初期圧から所定のランプ勾配(一定の減少率)で低下させる。油圧ばらつき分は、設計上、ロックアップ指示圧に対して許容されている実圧のずれの最大値で、例えば30kPaである。
【0033】
ロックアップ指示圧を最初に油圧ばらつき分だけステップ的に下げておくことで、その後、ロックアップ指示圧を所定のランプ勾配で下げていく時には、ロックアップ指示圧の低下に連動させて実圧を下げることができる。
【0034】
第1スムースOFF処理の終了条件は、
・ブレーキペダルが踏み込まれたこと(S7)
・ロックアップ指示圧が所定の低油圧(ロックアップクラッチ24を完全解放させても突き上げショックが発生しない油圧)まで低下する、又は、車速が所定の低車速(車両が直ちに停車する可能性のある車速)まで低下すること(S8)
のいずれかであり、終了条件が成立しない間は第1スムースOFF処理が継続される(S6〜S8)。
【0035】
ブレーキペダルが踏み込まれた場合は、処理がS7からS11に進み、第2スムースOFF処理が実行される。
【0036】
ロックアップ指示圧が所定の低油圧まで低下した、又は、車速が所定の低車速まで低下した場合は、処理がS8からS10に進み、変速機コントローラ5は、ロックアップ指示圧を最低圧までステップ的に下げ、ロックアップクラッチ24を完全解放させる。
【0037】
<第2スムースOFF処理>
S11の第2スムースOFF処理では、変速機コントローラ5は、ロックアップ指示圧をロックアップ解除圧直前の第2解除初期圧(学習制御で学習されたロックアップ解除圧よりもわずかに高い圧)までステップ的に下げてロックアップクラッチ24がぎりぎり締結されている状態とし、その後、ロックアップ指示圧を第2解除初期圧から所定のランプ勾配(一定の減少率)で低下させる。
【0038】
第2スムースOFF処理の終了条件は、
・ロックアップ指示圧が所定の低油圧(ロックアップクラッチ24を完全解放させても突き上げショックが発生しない油圧)まで低下する、又は、車速が所定の低車速(車両が直ちに停車する可能性のある車速)まで低下すること(S12)
であり、終了条件が成立しない間は第2スムースOFF処理が継続される(S11〜S12)。
【0039】
ロックアップ指示圧が所定の低油圧まで低下した、又は、車速が所定の低車速まで低下した場合は、処理がS12からS10に進み、変速機コントローラ5は、ロックアップ指示圧を最低圧までステップ的に下げ、ロックアップクラッチ24を完全解放させる。
【0040】
第1及び第2スムースOFF処理を、ロックアップ指示圧が所定の低油圧まで低下した場合に解除するようにしたことにより(S8→S10、S12→S10)、ロックアップクラッチ24を解放した時の突き上げショックを防止することができる。また、車速が所定の低車速まで低下した場合にも解除するようにしたことにより(S8→S10、S12→S10)、ロックアップクラッチ24が締結容量を持ったまま車両が停車し、エンジン1がストールするのを防止することができる。
【0041】
続いて、上記発進制御を行うことによる作用効果を、タイムチャートを参照しながら説明する。
【0042】
図3は、発進時に発進スリップ制御が行われる様子を示している。
【0043】
時刻t11でブレーキペダルから足が離されると、ロックアップ指示圧がステップ的に高められる。この時のロックアップ指示圧は、ロックアップ解除圧よりも高く、ロックアップクラッチ24はスリップ状態となる。
【0044】
時刻t12でアクセルペダルが踏み込まれると、エンジン1の回転速度とタービン回転速度との差が時間の経過とともに小さくなるように、ロックアップ指示圧がフィードバック制御される。
【0045】
時刻t13では、エンジン1の回転速度とタービンランナ22の回転速度とが一致した状態が継続しているので、ロックアップ指示圧がステップ的に高められ、ロックアップクラッチ24が完全締結される。
【0046】
従来のロックアップ制御であれば、破線で示すように、車速が所定のロックアップ車速に達するまでロックアップクラッチ24の締結が開始されないので、アクセルペダルが踏み込まれるとエンジン1が吹け上がり、これによって燃費が悪化する。
【0047】
しかしながら、本実施形態では、発進スリップ制御を行うようにしたので、上記エンジン1の吹け上がるのが抑制され、燃費の悪化を防止することができる。
【0048】
図4及び図5は、発進スリップ制御中にアクセルペダルから足が離された時の様子を示している。図4は、第1スムースOFF処理を実施せず、アクセルペダルから足が離されたタイミングからロックアップ指示圧を所定のランプ勾配で下げる場合(比較例)を示しており、図5は、第1スムースOFF処理を実施する場合(本発明の実施形態)を示している。
【0049】
図4では、アクセルペダルから足が離された時刻t21からロックアップ指示圧を所定のランプ勾配で下げているが、実圧は、破線で示すようにしばらくは下がらず、ロックアップ指示圧に対して遅れて減少する。これは、ロックアップ指示圧と実圧との間にはずれ(油圧ばらつき)があり、ロックアップ指示圧を下げても直ちには実圧が下がらないためである。
【0050】
このため、図4に示した比較例では、ロックアップクラッチ24の引き摺りによって、時刻t21以降、エンジン1の回転速度の落ち込みが発生している。このため、アクセルペダルから足を離した時に車両に作用する減速度が大きくなり、運転者に違和感を与えてしまう。
【0051】
これに対し、図5では、アクセルペダルから足が離された時刻t31で、油圧ばらつき分だけロックアップ指示圧がステップ的に瞬時に下げられ、その後、ロックアップ指示圧が所定のランプ勾配で下げられる。
【0052】
ロックアップ指示圧を油圧ばらつき分だけ最初に下げたことにより、時刻t31以降はロックアップ指示圧の低下に連動して実圧も破線で示すように下がり、これによってロックアップクラッチ24の締結容量が速やかに下げられる。
【0053】
したがって、本実施形態では、ロックアップクラッチ24の引き摺りは起こらず、図4に示したようなエンジン1の回転速度の落ち込みが起こることはなく、車両に大きな減速度が作用することはない(請求項1、5〜7に対応する効果)。
【0054】
また、図6は、発進スリップ制御中にアクセルペダルから足が離され、その後続けてブレーキペダルが踏み込まれたことによって、第1スムースOFF処理に続けて第2スムースOFF処理が実施される場合(本発明の実施形態)を示している。
【0055】
時刻t41でアクセルペダルから足が離されると、第1スムースOFF処理が実行される。そして、第1スムースOFF処理の実行中である時刻t42にブレーキペダルが踏み込まれると、第2スムースOFF処理が実行される。
【0056】
ブレーキペダルが踏み込まれるとロックアップクラッチ24の締結容量が過多になり、ロックアップクラッチ24が締結容量を持ったまま車両が停車すると、エンジン1がストールする可能性がある。
【0057】
しかしながら、本実施形態では、ブレーキペダルが踏み込まれると、ロックアップ指示圧が油圧ばらつき分よりもさらに大きく、ロックアップ解除圧直前までステップ的に下げられるので(第2解除初期圧<第1解除初期圧)、その後、ロックアップ指示圧を所定のランプ勾配で下げればロックアップクラッチ24を速やかに解放することができ、エンジン1がストールするのが防止される(請求項1、4、5、7に対応する効果)。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的に限定する趣旨ではない。
【0059】
例えば、上記実施形態では、アクセルペダルから足が離されると第1スムースOFF処理が実施され、第1スムースOFF処理の実行中にブレーキペダルが踏み込まれると第2スムースOFF処理を実施するようにしている。しかしながら、このように二つの制御を段階的に実施する必要はなく、アクセルペダルから足が離されると第1スムースOFF処理を実施し、アクセルペダルの操作に関係なくブレーキペダルが踏み込まれると第2スムースOFF処理を実施するようにしてもよい。
【0060】
また、第1スムースOFF処理において、第1解除初期圧(油圧ばらつき分だけ下げた値)が第2解除初期圧(ロックアップ解除圧直前の値)よりも低くなる場合は、ロックアップ指示圧を第2解除初期圧まで下げるようにしてもよい。これにより、ロックアップ指示圧をステップ的に下げる時にロックアップ指示圧を下げすぎてロックアップクラッチ24が直ちに解放されてしまい、突き上げショックが発生するのを防止することができる(請求項に対応する効果)。
【符号の説明】
【0061】
1 エンジン(動力源)
2 トルクコンバータ
3 自動変速機
5 変速機コントローラ
12 アクセル開度センサ
13 ブレーキスイッチ
24 ロックアップクラッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6