(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728469
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】コーティング方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20150514BHJP
C23C 16/513 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
C23C16/42
C23C16/513
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-508520(P2012-508520)
(86)(22)【出願日】2010年4月14日
(65)【公表番号】特表2012-526190(P2012-526190A)
(43)【公表日】2012年10月25日
(86)【国際出願番号】US2010031095
(87)【国際公開番号】WO2010129149
(87)【国際公開日】20101111
【審査請求日】2013年4月9日
(31)【優先権主張番号】12/435,110
(32)【優先日】2009年5月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ピングリー, リアム エス.シー.
(72)【発明者】
【氏名】サンダラム, ワサン エス.
(72)【発明者】
【氏名】サーキス, マイケル アール.
(72)【発明者】
【氏名】ペア, ショーン エム.
【審査官】
國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/137588(WO,A1)
【文献】
特表2008−545059(JP,A)
【文献】
特開平10−119336(JP,A)
【文献】
特表2007−528446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンオキシカーバイドコーティングを基板に施す方法であって:
シールドガス及びプラズマ源ガスを大気圧プラズマ装置に導入して大気圧プラズマを生成する工程であって、シールドガスは、前記大気圧プラズマ装置におけるプラズマ形成に大きく寄与することがないガスであり、不活性ガスからなり、プラズマ源ガスは、励起時に大気圧プラズマ装置によって大気圧プラズマを形成することができるガスであり、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、フッ素ガスのうちのすくなくとも1つを含む工程と;
環状有機シロキサン前駆体を該大気圧プラズマに導入する工程であって、該環状有機シロキサン前駆体がキャリアガスで運ばれる工程と;
該環状有機シロキサン前駆体が該大気圧プラズマに導入される間、該基板を該大気圧プラズマ装置に対して位置決めして、該大気圧プラズマにより該シリコンオキシカーバイドコーティングを該基板に堆積させる工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記大気圧プラズマが大気圧酸素プラズマである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に、前記前駆体に対する前記プラズマ源ガス流の容積比を変化させて前記シリコンオキシカーバイドコーティングの物理特性を操作する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記位置決めする工程では、前記基板と前記大気圧プラズマ装置との間に一定間隔を維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記大気圧プラズマ装置がロボット装置に取り付けられ、前記一定間隔は前記ロボット装置により維持される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基板が延伸アクリルである、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、耐摩耗性コーティングを種々の基板に施す方法に関するものであり、特に耐摩耗性コーティングを透明ポリマー基板に大気圧プラズマにより製膜する方法に関するものであり、更に具体的には、耐摩耗性/耐薬品性コーティングを透明ポリマー基板に大気圧プラズマにより製膜する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の窓は普通、延伸アクリルまたは延伸ポリカーボネートにより作製されるが、その理由は、これらの材料が軽量であり、可撓性を示し、成形性を呈するからである。しかしながら、延伸アクリルは、他の透明ポリマー基板と同じように、種々の浮遊微小粒子(例えば、砂)及び液体(例えば、水)に触れるのみならず、大気汚染物質、及び航空機メンテナンスに使用される洗剤、凍結防止剤、及び他の化学薬品のような種々の化学物質に定常的に触れることから生じる摩耗の影響を受け易い。
【0003】
したがって、有効寿命を延ばそうとするために、航空機の窓は通常、耐摩耗性コーティングが施される。
【0004】
透明ポリマー基板の耐摩耗性コーティングはこれまで、ポリシロキサン系コーティング、ポリウレタン系コーティング、または複合ゾルゲルコーティングであった。これらのゾルゲルコーティングは溶剤、有機シロキサン、アルコキシド、及び触媒の均一混合物であり、これらの材料を処理して適切なコーティングを形成する。これらのゾルゲルコーティングは、透過率が高く、かつ摩耗及び紫外線による劣化に対する耐性が低い。「sol−gel(ゾルゲル)」または「solution−gelation(溶液ゲル化)」という用語は、材料が加水分解及び凝集のような一連の反応を起こしている状態を指す。通常、金属アルコキシドまたは金属塩が加水分解して金属水酸化物を形成する。次に、金属水酸化物が溶液中で凝集して、複合有機/無機ポリマーを形成する。ポリマー基質内の有機物または無機物の比を制御して、所定の用途に関する性能を最大化する。例えば、有機基を多く導入すると、可撓性が高くなるが、摩耗耐性が低下する。ゾルゲルコーティングは、セリウムまたはチタンのような材料を含むことにより、コーティングの摩耗耐性及び紫外線劣化を改善することができる。
【0005】
このようなコーティングは通常、フローコーティング法を使用して施され、これらのフローコーティング法では、硬化時間を非常に長くする必要があり、基板の幾何学形状が限定され、これらのフローコーティング法は多くの場合、微粒子/塵による損傷を硬化プロセス中に受け易い。したがって、フローコーティング法は普通、稼働中の修復または現場使用中の修復には適していない。
【0006】
したがって、この技術分野の当業者は、耐摩耗性コーティングを透明ポリマー基板に施す新規のシステム及び方法を追求し続けている。
【発明の概要】
【0007】
1つの態様では、耐摩耗性コーティングを基板に施すために開示される方法は、大気圧プラズマを生成する工程と、前記耐摩耗性コーティングを形成するために選択される前駆体を前記大気圧プラズマに導入する工程と、前記基板を前記大気圧プラズマに対して位置決めして、前記大気圧プラズマにより前記耐摩耗性コーティングを前記基板に堆積させる工程とを含むことができる。
【0008】
別の態様では、耐摩耗性コーティングを基板に施すために開示される方法は、シールドガス及びプラズマ源ガスを、2つの電極から成るチャンバに導入して、プラズマを照射ヘッドによって生成する工程と、キャリアガスによって供給される環状有機シロキサン前駆体を前記大気圧プラズマに導入する工程と、前記環状有機シロキサン前駆体を前記大気圧プラズマに混入させながら、前記基板を大気圧プラズマ装置に対して位置決めして、前記大気圧プラズマによりシリコンオキシカーバイドコーティングを前記基板に堆積させる工程とを含む。
【0009】
耐摩耗性コーティングを施すために開示されるシステム及び方法の他の態様は、以下の記述、添付の図面、及び添付の請求項から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、耐摩耗性コーティングを施すために開示されるシステムの1つの態様を模式的に示している。
【
図2】
図2は、耐摩耗性コーティングを施すために開示される方法の1つの態様を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本開示に従って施される例示的なコーティングに関して得られるテーバー摩耗試験データをグラフで示している。
【
図4】
図4は、本開示に従って施される例示的なコーティングに関して得られる落砂摩耗試験データをグラフで示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、参照番号10で一括指示されるシステムであって、耐摩耗性コーティングを施すために開示されるシステムの1つの態様は、大気圧プラズマ装置12と、プラズマ源ガス流14と、前駆体流16と、任意であるが、シールドガス流18とを含むことができる。大気圧プラズマ装置12の出力20はプラズマ22とすることができ、このプラズマ22の位置を基板24に対して決めることにより、コーティング26を基板24に施すことができる。
【0012】
基板24は、耐摩耗性コーティングを、プラズマ22を利用して施すことができるいずれの基板としてもよい。1つの特定の態様では、基板24は、延伸アクリルのような透明ポリマー基板とすることができる。更に、
図1は、略平坦な構造を有する基板24を示しているが、この技術分野の当業者であれば、種々の形状、サイズ、及び構造を有する基板24を、本開示の範囲から逸脱しない範囲で使用することができることが理解できるであろう。
【0013】
大気圧プラズマ装置12は、物質を励起してプラズマ22を大気圧下で生成することができるいずれの装置またはシステムとすることもできる。大気圧プラズマ装置12は、プラズマ22を、この技術分野において公知の如く、直流エネルギー、高周波エネルギーなどを使用して生成するように構成することができる。1つの態様では、大気圧プラズマ装置12は大気圧プラズマ溶射ガンとすることができる。本開示による有用な大気圧プラズマ装置12の1つの例は、カリフォルニア州カルバー市に位置するSurfx Technologies LLCから入手することができるATOMFLO
TMプラズマシステムである。
【0014】
プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマを励起時に大気圧プラズマ装置12によって形成することができるガス流とすることができる。適切なプラズマ形成ガスの例として、酸素ガス(O
2)、窒素ガス(N
2)、水素ガス(H
2)、及びフッ素ガス(F
2)のような分子ガスだけでなく、他のガスを挙げることができる。プラズマ源ガス流14は、複数種類のガスの組み合わせを、本開示の範囲から逸脱しない範囲で含むことができる。例えば、プラズマ源ガス流14は、酸素がほとんどを占めるガスの流れとすることができる。
【0015】
1つの態様では、プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12に理想的なガス状態で供給することができる。別の態様では、プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12に大気圧下で供給することができる。例えば、プラズマ源ガス流14は、約1atmの圧力、かつ約25℃の温度で流すことができる。この技術分野の当業者であれば、プラズマ源ガス流14の物理的諸量は、特定の用途によって変えることができ、調整することにより大気圧プラズマ装置12の性能を最適化することができる。
【0016】
前駆体流16は、前駆体の流れとすることができ、任意であるが、前駆体を大気圧プラズマ装置12に流し込むためのキャリアガスとすることができる。キャリアガスは、大気圧プラズマ装置12におけるプラズマ形成に大きくは寄与することがないガスとして、または複数種類のガスの組み合わせとして選択することができる。有用なキャリアガスの例として、ヘリウムガス(He)及びアルゴンガス(Ar)を挙げることができる。
【0017】
前駆体は、耐摩耗性コーティング26を、基板24に大気圧プラズマ22が堆積するときに形成することができるいずれの材料とすることもできる。1つの態様では、前駆体は、シリコンオキシカーバイド(SiO
xC
y)コーティングを、基板24に大気圧プラズマ22が堆積するときに形成することができるいずれの材料とすることもできる。別の態様では、前駆体は、環状有機シロキサンとすることができる(または、環状有機シロキサンを含むことができる)。適切な前駆体の1つの例が、テトラメチルシクロテトラシロキサン(“TMCTS”)である。適切な前駆体の別の例が、オクトメチルシクロテトラシロキサン(“OMCTS”)である。
【0018】
1つの態様では、前駆体は、標準温度及び標準圧力における蒸気圧が比較的高い液体とすることができ、キャリアガスを前駆体に気泡として導入して混合させることにより、前駆体流16を形成することができる。しかしながら、この技術分野の当業者であれば、蒸発法のような種々の別の方法を使用して前駆体を前駆体流16に導入することができることを理解できるであろう。1つの特定の態様では、前駆体流16は、TMCTS液中にヘリウムガスを気泡として大気圧下で導入することにより形成することができる。
【0019】
シールドガス流18は、大気圧プラズマ装置12におけるプラズマ形成に大きくは寄与することがないシールドガス流とすることができる。シールドガスはプラズマ22に導入することができ、かついずれの特定の理論にも拘束されることなく、大気中の水分、酸素、及び他の汚染物質がプラズマ22に与える影響を最小限に抑えることができる。適切なシールドガスの例として、ヘリウムガス(He)及びアルゴンガス(Ar)を挙げることができる。シールドガス流18は、複数種類のシールドガスの組み合わせを、本開示の範囲を逸脱しない範囲で含むことができる。1つの特定の態様では、シールドガス流18は、ヘリウムがほとんどを占めるガスの流れとすることができる。
【0020】
1つの態様では、シールドガス流18は、大気圧プラズマ装置12に理想的なガス状態で供給することができる。別の態様では、シールドガス流18は、大気圧プラズマ装置12に大気圧下で供給することができる。例えば、シールドガス流18は、約1atmの圧力で、かつ約25℃の温度で供給することができる。この技術分野の当業者であれば、シールドガス流18の物理的諸量は、特定の用途によって変えることができ、調整することにより大気圧プラズマ装置12の性能を最適化することができることを理解できるであろう。
【0021】
この段階で、この技術分野の当業者であれば、プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18を大気圧プラズマ装置12において混合することにより、プラズマ22を生成することができることを理解できるであろう。しかしながら、この技術分野の当業者であればまた、プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18のうちの2種類以上のガス流を、大気圧プラズマ装置12に流入する前に組み合わせることができることを理解できるであろう。例えば、プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18を大気圧プラズマ装置12に、単体流体として供給することができる。
【0022】
プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18の流量を制御することにより、プラズマ22中のプラズマ源ガス、前駆体、及びシールドガスの所望濃度を得ることができる。
図1には示していないが、制御値をプラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18に関して設定して関連流量を制御することができる。この技術分野の当業者であれば、プラズマ22中のプラズマ源ガス、前駆体、及びシールドガスの相対濃度を操作して、大気圧プラズマ装置12の性能を最適化し、結果的に得られるコーティング26に所望の特性を付与することができることを理解できるであろう。例えば、プラズマ22中の酸素の濃度を低くして、コーティング26のポリマー性を高めることにより、更に可撓性の高いコーティング26を生成することができる。別の構成として、プラズマ22中の酸素の濃度を高くして、コーティング26の無機性を高めることにより、更に硬度の高いコーティング26を生成することができる。
【0023】
1つの態様では、プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、せいぜい約5容積パーセントしか占めず、前駆体流16は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、せいぜい約10容積パーセントしか占めず、シールドガス流18が残りの容積パーセントを占める。別の態様では、プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、せいぜい約2容積パーセントしか占めず、前駆体流16は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、せいぜい約5容積パーセントしか占めず、シールドガス流18が残りの容積パーセントを占める。更に別の態様では、プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、約1〜2容積パーセントを占め、前駆体流16は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、約2〜4容積パーセントを占め、シールドガス流18は、残りの容積パーセントを占める。
【0024】
図1及び2を参照するに、耐摩耗性コーティング26を基板24に施す方法は参照番号50で一括指示されるが、当該方法50は、ブロック52に示すように、基板をクリーニングする工程から始めることができる。基板24は、ケトンまたは軽アルコール(例えば、メタノールまたはイソプロピルアルコール)のような種々の溶剤を使用してクリーニングすることができる。酸素プラズマを使用して基板24をクリーニングすることもでき、これによって、コーティング26が施される表面を活性化させることもできる。ブロック54に示すように、清浄な基板を任意であるが、この技術分野において公知の如く、アルミニウム系ゾルゲル接着促進剤のような接着促進剤で処理することができる。
【0025】
ブロック56に示すように、システム10は、大気圧プラズマ装置12にプラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18を供給してプラズマ22を生成するようにすることにより組み付けることができる。プラズマ22の大きさは、大気圧プラズマ装置12の規模、及びプラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18の流量を含む種々の要素によって変わり得る。例えば、プラズマ22の幅は、約2インチとすることができる。
【0026】
ブロック58に示すように、基板24を大気圧プラズマ装置12に対して位置決めして、プラズマ22を利用してコーティング26を基板に堆積させることにより、基板24にコーティングを施すことができる。プラズマ22を基板24の上で、ラスタ走査させることにより、基板24の表面に均一なコーティングを施すことができる。携帯型装置を使用することができるが、この技術分野の当業者であれば、適切なロボットを用いて、基板24と大気圧プラズマ装置12との間に一定の間隔を維持するようにすることができることが理解できるであろう。
【0027】
この段階で、この技術分野の当業者であれば、本開示の範囲を逸脱しない範囲で、更に別のコーティングをコーティング26の上に層状に形成することができることが理解できるであろう。例えば、最上層コーティングは、開示される方法50、または他のいずれかの適切なコーティング方法(例えば、ゾルゲル法)を使用して施すことができる。
【実施例】
【0028】
Surfx Technologies LLCから入手することができる大気圧プラズマ装置を使用して、シリコンオキシカーバイド(SiO
xC
y)コーティングを延伸アクリル基板に堆積させた。当該装置に、約0.5L/分の流量の酸素ガス、ヘリウムガスに混入する約1.0L/分の流量のTMCTS(テトラメチルシクロテトラシロキサン)、及び約30L/分の流量のヘリウムガス(シールドガス)を供給した。TMCTS/ヘリウム流が、TMCTS液容器内の液中にヘリウムキャリアガスを気泡として大気圧下で導入することにより得られた。
【0029】
大気圧プラズマコーティングを行なった結果として得られるアクリル基板を耐摩耗性に関して、テーバー摩耗試験(Taber abrasion test:ASTM D 1044−08)及び落砂摩耗試験(Falling Sand test:ASTM D968)を使用して試験した。これらの結果を
図3及び4に示す。比較のために、同じ試験を、剥き出しの延伸アクリル、及びポリシロキサンゾルゲルコーティングを施した延伸アクリルに対して行なった。比較データも
図3及び4に示す。
【0030】
したがって、開示されるシステム及び方法を用いて施される耐摩耗性コーティングは、所望の機械的特性を有するガラス状膜であり、この所望の機械的特性として、航空機窓が飛行中に受ける曲げ力のような基板24に加わる曲げ力に耐えるような高い硬度及び十分な延性を挙げることができる。詳細には、約300MPa〜約2.1GPaの硬度をシリコン基板に関して達成することができ、約300MPa〜約1.5GPaの硬度を延伸アクリル基板に関して達成することができると考えられる。
【0031】
更に、開示されるシステム及び方法によって、コーティングを部品群に施すために要する時間を短くすることができ、コーティングを量産レベルで適用するために必要な設置面積を小さくすることができ、フローコーティング装置及び硬化用オーブンの必要を無くすことができ、複雑かつ高価な真空堆積システムの必要を無くすことができ、適用方法に起因して目標とする表面以外の表面を覆う必要を無くすことができ、真空対応品以外の部品(例えば、ゴム及びゲル状シール)を含むアセンブリを、高いコストを掛けて分解することなく処理することができる。
【0032】
更には、耐摩耗性コーティングを施すために開示されるシステム及び方法は、修復プロセスに用いることができ、かつ現場で実行することができる。
【0033】
耐摩耗性コーティングを施すために開示されるシステム及び方法の種々の態様を示し、記載してきたが、種々の変形をこの技術分野の当業者であれば、本明細書を一読した後に想到し得る。本出願は、このような変形を含み、かつ請求項の範囲によってのみ限定される。
また、本発明は以下に記載する態様を含む。
(態様1)
耐摩耗性コーティングを基板に施す方法であって:
大気圧プラズマを生成する工程と;
前記耐摩耗性コーティングを形成するために選択される前駆体を前記大気圧プラズマに導入する工程と;
前記基板を前記大気圧プラズマに対して位置決めして、前記大気圧プラズマにより前記耐摩耗性コーティングを前記基板に堆積させる工程と
を含む方法。
(態様2)
前記耐摩耗性コーティングがシリコンオキシカーバイドコーティングである、態様1に記載の方法。
(態様3)
前記基板が延伸アクリルである、態様1に記載の方法。
(態様4)
前記大気圧プラズマが大気圧酸素プラズマである、態様1に記載の方法。
(態様5)
前記生成する工程では、シールドガス流及びプラズマ源ガス流を大気圧プラズマ装置に導入する、態様1に記載の方法。
(態様6)
更に、前記前駆体に対する前記プラズマ源ガス流の容積比を変化させて前記耐摩耗性コーティングの物理特性を操作する工程を含む、態様5に記載の方法。
(態様7)
前記シールドガス流が、ヘリウムガス及びアルゴンガスのうちの少なくとも1つを含み、前記プラズマ源ガス流が分子ガスを含む、態様5に記載の方法。
(態様8)
前記前駆体を、キャリアガスによって前記大気圧プラズマに導入する、態様1に記載の方法。
(態様9)
前記前駆体が環状有機シロキサンを含む、態様1に記載の方法。
(態様10)
前記前駆体がテトラメチルシクロシクロテトラシロキサンを含む、態様1に記載の方法。
(態様11)
前記前駆体はオクトメチルシクロシクロテトラシロキサンを含む、態様1に記載の方法。
(態様12)
前記大気圧プラズマは、大気圧プラズマ装置によって生成され、前記位置決めする工程では、前記基板と前記大気圧プラズマ装置との間に一定間隔を維持する、態様1に記載の方法。
(態様13)
前記大気圧プラズマ装置がロボット装置に取り付けられ、前記一定間隔は前記ロボット装置により維持される、態様12に記載の方法。
(態様14)
更に、前記位置決めする工程の前に前記基板をクリーニングする工程を含む、態様1に記載の方法。
(態様15)
更に、前記位置決めする工程の前に、前記前駆体をほとんど含まない酸素プラズマで前記基板を処理する工程を含む、態様1に記載の方法。