(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理した原料炭組成物であって、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比が0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の原料炭組成物。
上記重質油組成物が、0.3〜0.65の芳香族指数faと5〜20質量%のノルマルパラフィン含有率とを有し、7〜15質量%の範囲で脱硫処理された脱瀝油を含有する請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の原料炭組成物。
請求項1又は請求項2に記載の原料炭組成物を、平均粒子径として30μm以下に粉砕してから炭素化及び/又は黒鉛化することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
リチウム二次電池用負極炭素材料の原料として、「重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理した原料炭組成物」は、一般的に知られている。このディレードコーキングプロセスは、品質が高い炭素材料を大量生産するために大変適しており、多品種のコークス製品がこのプロセスで量産されている。
【0016】
原料炭組成物が炭素化及び/又は黒鉛化された炭素材料の結晶構造は、その前駆体原料となる原料炭組成物の結晶組織(物性)に強く依存される。本出願に係る第一の発明に記載されたような物性、即ち、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比が
0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%を有した原料炭組成物を炭素化及び/又は黒鉛化して得られた炭素材料の特徴は、整然としたリチウムイオンの拡散経路が確保され、且つリチウムイオンの拡散に伴う六角網平面の物理的変位率を抑制することが可能な結晶組織を有することにある。なお、リチウムイオンの拡散経路とは、隣接積層した六角網平面に形成される擬二次元空間と、隣接する結晶子間に形成された三次元空間である。このため本発明の原料炭組成物を原料とした炭素材料が負極として使用されたリチウムイオン二次電池は、極めて高い出力特性を実現することが可能となる。
【0017】
ここで原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率である。
全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で求められる。電量滴定式のカール・フィッシャー法では、予め滴定セルにヨウ化物イオン、二酸化硫黄、塩基(RN)及びアルコールを主成分とする電解液を入れておき、滴定セルに試料を入れることで試料中の水分は、下式(4)の通り反応する。なお、試料は、例えばコーキング処理後、乾燥雰囲気下で冷却した後測定される。
H
2O+I
2+SO
2+CH
3OH+3RN
→2RN・HI+RN・HSO
4CH
3(4)
【0018】
この反応に必要なヨウ素は、下式(5)の通りヨウ化物イオンを電気化学的に反応(2電子反応)させることにより得られる。
2I
-+2e
− → I
2 (5)
水1モルとヨウ素1モルとが反応することから、水1mgを滴定するのに必要な電気量が、下式(6)の通りファラデーの法則により求められる。
(2×96478)/(18.0153×103)
=10.71クーロン(6)
ここで、定数96478はファラデー常数、18.0513は水の分子量である。
ヨウ素の発生に要した電気量を測定することで、水分量が求められる。さらに得られた水分量から、水素量に換算し、これを測定に供した試料質量で除することにより、全水素分(TH(質量%))が算出される。
【0019】
全炭素の測定は、試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO
2+CO赤外線検出器により、全炭素分(TC(質量%))が算出される。
【0020】
またマイクロ強度は、鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュ(目開き0.295mm)でふるい分け、試料に対するふるい上の質量をパーセントで示した値である。
【0021】
原料炭組成物のH/C原子比が0.30未満の場合は、炭素化及び/又は黒鉛化した場合に六角網平面の広がりが発達し易く、隣接する結晶子間の成長を相互に阻害し合うことにより、結晶子に歪が導入され、重なり合った隣接六角網平面間の平行度が低下するため好ましくない。この平行度が低下することにより、吸蔵されたリチウムイオンが放出されるときの拡散速度に方角依存性を生じ、放出速度、即ち電池の出力特性が大幅に低下するため好ましくない。
逆に原料炭組成物中のH/C原子比が0.50を超えると、その炭素骨格の構造形成が不十分であるため、後の炭化及び/又は黒鉛化領域において溶融が起こり、六角網平面の3次元的積層配列が大きく乱れる結果、積層した隣接六角網平面間のリチウムイオンの拡散経路が曲路に近い状態となり、リチウムイオンが移動し難くなるため好ましくない。
【0022】
以上の通り原料炭組成物のH/Cは0.30〜0.50に限定される。この範囲内の物性を有する原料炭組成物が炭素化及び/又は黒鉛化されたとき、リチウムイオンが高い拡散速度で移動するための経路が形成される。この経路は、隣接積層する六角網平面間に形成された擬二次元空間であるが、隣接積層する六角網平面間の平行度が極めて高いため、リチウムイオンの拡散移動速度に方角依存性が生じ難いことを特徴とする。即ち、原料炭組成物のH/Cが0.30〜0.50の範囲内である場合に限り、リチウムイオンの移動拡散速度に方角依存性が生じないほどの平行度が実現されるため、このような炭素材料をリチウムイオン二次電池の負極に使用したとき、極めて高い出力特性を得ることが可能となる。
【0023】
一方、本出願に係る第一の発明の態様には、原料炭組成物のマイクロ強度が7〜17質量%であることも規定されている。このマイクロ強度は、隣接する結晶子間の結合強さを示す指標である。一般に、隣接する結晶子の間には、六角網平面の構成単位となるベンゼン環以外の構造を有した未組織炭素が存在し、その隣接する結晶子間を結合させる機能を有している。この未組織炭素は、原料炭組成物が炭素化及び/又は黒鉛化された後も残存し、同様な役割を演じている。
原料炭組成物のマイクロ強度が7質量%未満である場合には、隣接する結晶子間の結合強さが極めて弱く、このような原料炭組成物が炭素化及び/又は黒鉛化された場合も同様な性質の炭素材料が得られるため、このような炭素材料にリチウムイオンが可逆的にインターカレーションされると、リチウムイオンの拡散移動に伴う六角網平面の物理的変位率が高くなり、その変位量、即ち六角網平面の変位に伴う平行度の低下により、リチウムイオンの拡散が極端に阻害され、拡散速度に方角依存性が生じてしまうため好ましくない。
逆に原料炭組成物のマイクロ強度が17質量%を超える場合には、隣接する結晶子間の結合強さが極端に大きくなる。その理由は、隣接した結晶子間に存在する未組織炭素が、その隣接する結晶子と強固な三次元的化学結合を構築するからである。ここで未組織炭素とは、炭素六角網平面に組み込まれない炭素を指し、その特徴は、隣接する炭素結晶子の成長や選択的な配向を妨害しながら、処理温度の上昇と共に徐々に炭素六角網平面中に取り込まれる炭素原子のことである。このような原料炭組成物が炭素化及び/又は黒鉛化された場合も同様な性質の炭素材料が得られるため、このような炭素材料にリチウムイオンがインターカレーションされると、隣接した結晶子間に存在する未組織炭素がリチウムイオンの拡散移動を阻害するため好ましくない。その理由は、この未組織炭素が、隣接する結晶子間で強固な化学結合を形成しているからである。リチウムイオンの拡散経路には、隣接積層した六角網平面に形成される擬二次元空間の他に、隣接した結晶子間に形成される三次元空間も含まれるため、この三次元空間におけるリチウムイオンの拡散速度は、三次元空間を構成する未組織炭素の状態、即ち、未組織炭素と結晶子の結合の強さに依存することとなり、この結合強さが大きい場合にはリチウムイオンの移動拡散速度が低下するため好ましくない。
【0024】
以上の通り原料炭組成物のマイクロ強度は7〜17質量%に限定される。この範囲内の物性を有する原料炭組成物が炭素化及び/又は黒鉛化されたとき、リチウムイオンが高い拡散速度で移動するための経路が形成される。この経路は、隣接積層する六角網平面間に形成された擬二次元空間、及び結晶子間の未組織炭素で形成された三次元空間であるが、その原料炭組成物のマイクロ強度が7〜17質量%である場合、可逆的にインターカレーションされても六角網平面間の平行度が高い状態に維持され、且つ三次元空間を構成する未組織炭素と結晶子の結合強さが弱いため、このような炭素材料をリチウムイオン二次電池の負極に使用したとき、極めて高い出力特性を得ることが可能となる。
【0025】
このように、H/C原子比が
0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%であることを特徴とする原料炭組成物を炭素化及び/又は黒鉛化して得られた炭素材料は、整然としたリチウムイオンの拡散経路が確保され、且つリチウムイオンの拡散に伴う六角網平面の物理的変位率を抑制することが可能な結晶組織を有することができる。このような原料炭組成物は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理することで得ることができる。
【0026】
重質油組成物の成分としては、流動接触分解油のボトム油(FCC DO)、高度な水添脱硫処理を施した重質油、減圧残油(VR)、石炭液化油、石炭の溶剤抽出油、常圧残浚油、シェルオイル、タールサンドビチューメン、ナフサタールピッチ、エチレンボトム油、コールタールピッチ及びこれらを水素化精製した重質油等が挙げられる。これらの重質油を二種類以上ブレンドして重質油組成物を調製する場合、ディレードコーキングプロセスによってコーキング処理した後に得られる原料炭組成物の物性として、H/C原子比が0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%となるように、使用する原料油の性状に応じて配合比率を適宜調整すればよい。なお、原料油の性状は、原油の種類、原油から原料油が得られるまでの処理条件等によって変化する。
特に好ましい重質油組成物の例としては、(1)芳香族指数faが0.3〜0.65であること、(2)ノルマルパラフィン含有率が5〜20質量%であること、(3)脱硫処理された脱瀝油が7〜15質量%の範囲で含有されていること、の3つの条件が満たされた重質油組成物を挙げることができる。生コークスの製造に際して、脱硫脱瀝油を添加した例はなく、本発明者らは、脱硫脱瀝油の含有が特に有効であることを見出した。
【0027】
重質油は高温処理されることによって、熱分解及び重縮合反応が起こり、メソフェーズと呼ばれる大きな液晶が中間生成物として生成する過程を経て生コークスが製造される。このとき、(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分と、(2)このバルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、メソフェーズを構成する六角網平面積層体の大きさを小さく制限する機能を有したガスを生じ得る重質油成分と、更に(3)その切断された六角網平面積層体どうしを結合させる成分が全て含有された原料油組成物(重質油組成物)を用いることが特に好ましい。(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分が、芳香族指数faとして0.3〜0.65を与える成分であり、(2)ガスを生じ得る重質油成分が、ノルマルパラフィン含有率の5〜20質量%に相当する成分であり、(3)六角網平面積層体どうしを結合させる成分が7〜15質量%の範囲で含有された脱硫脱瀝油である。この原料油組成物(重質油組成物)の15℃における密度は、0.880g/cm
3以上、好ましくは0.900g/cm
3以上である。なお、一般的に、上記(3)を満たせば、上記(1)と(2)は満たされている。
このような重質油組成物が本発明の原料炭組成物の原料として好ましく使用される理由は、良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分により形成された六角網平面が、相対的に小さなサイズに制限されることで、コーキング後に形成される六角網平面積層体の隣接網面間の平行度を高く維持できることに加え、脱硫脱瀝油が、隣接する六角網平面積層体を適度に結合させるからである。
【0028】
ここでfaとは、下式7によって算出される値である。
fa=3.65×D−0.00048H−2.969 - - - (式7)
ここで、H=875×[log{log(V+0.85)}]
D:重質油の密度(g/cm
3)
V:重質油の粘度(mm
2/sec.)
【0029】
また原料油組成物のノルマルパラフィンの含有率は、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した値を意味する。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、上記溶出クロマトグラフィー法によって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定する。この測定値から原料油組成物の全質量を基準とした含有率が算出可能である。
【0030】
脱硫脱瀝油は、脱瀝油を間接脱硫装置(Isomax)で処理されたものであり、脱瀝油は、減圧蒸留残渣に含まれるアスファルテン・レジン成分を、プロパンで除去した後の残渣油である。
【0031】
重質油組成物の芳香族指数faが0.3未満となった場合は、重質油組成物からのコークスの収率が極端に低くなるほか、良好なバルクメソフェーズを形成することが出来ず、炭素化・黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。また0.65を超える場合には、生コークスの製造過程においてマトリックス中に急激にメソフェーズが多数発生し、主としてメソフェーズのシングル成長よりも、メソフェーズどうしの急激な合体が繰り返される。このためノルマルパラフィン含有成分によるガスの発生速度よりも、メソフェーズどうしの合体速度の方が速くなるため、バルクメソフェーズの六角網平面を小さなサイズに制限することが不可能となり好ましくない。
このように重質油組成物の芳香族指数faは0.3〜0.65の範囲が特に好ましい。faは重質油組成物の密度Dと粘度Vから算出可能であるが、密度Dは0.91〜1.02g/cm
3、粘度Vは10〜220mm
2/sec.の範囲の重質油組成物で、faが0.3〜0.6となるようなものが特に好ましい。
【0032】
一方、重質油組成物の中に適度に含まれるノルマルパラフィン成分は、前述の通り、コーキング処理時にガスを発生することで、バルクメソフェーズの大きさを、小さなサイズに制限する重要な役割を演じている。また、このガス発生は、小さなサイズに制限された隣接するメソフェーズどうしを一軸配向させ、系全体を選択的に配向させる機能も有している。ノルマルパラフィン含有成分の含有率が5質量%未満になると、メソフェーズが必要以上に成長し、巨大な炭素六角網平面が形成されてしまうため好ましくない。また20質量%を超えると、ノルマルパラフィンからのガス発生が過多となり、バルクメソフェーズの配向を逆に乱す方向に働く傾向があるため、炭素化・黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。以上の通り、ノルマルパラフィン含有率は5〜20質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0033】
脱硫脱瀝油は、前述の通り、隣接する六角網平面積層体を適度に結合させる役割を演じているが、重質油組成物の中の含有率として、7〜15質量%の範囲であることが特に好ましい。7質量%未満の場合、又は15質量%を超える場合には、コーキング後に得られる重質油組成物のマイクロ強度が7質量%以下、又は17質量%以上となるため好ましくない。
【0034】
芳香族指数faが0.3〜0.65、ノルマルパラフィン含有率が5〜20質量%であり、脱硫処理された脱瀝油が7〜15質量%の範囲で含有されている重質油組成物は、例えば、次のようにして得ることができる。
常圧蒸留残渣油を、触媒存在下、水素化分解率が好ましくは25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油を得る。水素化脱硫条件は、好ましくは、全圧16MPa以上、水素分圧7〜20MPa、温度300〜500℃である。
また、常圧蒸留残渣油を直接脱硫して得られる脱硫減圧軽油(好ましくは、硫黄分500質量ppm以下、15℃における密度0.8g/cm
3以上)を流動接触分解し、流動接触分解残油を得る。
また、減圧蒸留残渣油をプロパン、ブタンなどの溶剤に混合・分離して得られる脱瀝油を脱硫して脱硫脱瀝油を得る。脱硫脱瀝油は、好ましくは500質量ppm以下の硫黄分を有する。
水素化脱硫油と流動接触分解残油を、好ましくは質量比1:5〜1:3で混合したものに、脱硫脱瀝油を好ましくは7〜15質量%(脱硫脱瀝油自体を含む混合物全体で100質量%)となるように加え、コークスの原料油組成物を得る。
この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、好ましくは0.1〜0.8MPaの圧力下、400〜600℃でコーキング処理し、原料炭組成物を得ることができる。
【0035】
このような特徴を有した重質油組成物は、コークス化され、本発明の重質油組成物を形成される。その重質油組成物を炭素化・黒鉛化することにより、リチウム二次電池の負極用の炭素材料として使用される。
【0036】
所定の条件を満たす重質油組成物をコークス化する方法としては、ディレードコーキング法が好ましい。より具体的には、コーキング圧力が制御された条件の下、ディレードコーカーによって原料油組成物を熱処理して生コークスを得る方法が好ましい。このときディレードコーカーの好ましい運転条件としては、圧力が0.1〜0.8MPa、温度が400〜600℃である。
コーカーの運転圧力に好ましい範囲が設定されている理由は、ノルマルパラフィン含有成分より発生するガスの系外への放出速度を、圧力で制限することができるからである。前述の通り、メソフェーズを構成する炭素六角網平面のサイズは、発生するガスで制御するため、発生ガスの系内への滞留時間は、前記六角網平面の大きさを決定するための重要な制御パラメータとなる。また、コーカーの運転温度に好ましい範囲が設定されている理由は、本発明の効果を得るために調整された重質油から、メソフェーズを成長させるために必要な温度だからである。
【0037】
次に、本出願に係る第二の発明の態様について説明する。第二の発明の態様は、第一の発明の態様に記載されたリチウムイオン二次電池負極材用原料炭組成物を、平均粒子径として30μm以下、好ましくは5〜30μmに粉砕してから炭素化及び/又は黒鉛化することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法である。
粉砕方法は、特に限定されず、ディスククラッシャーやミル等の公知の方法を使用することができる。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計による測定に基づく。
ここで粉砕後の粒度分布の粒子径として、30μm以下と規定された理由は、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として、一般的且つ好適に使用されている粒子径だからである。即ち、数値限定される理由の本質は、原料炭組成物を粉砕し、必要に応じて分級したあと、炭素化及び/又は黒鉛化してリチウムイオン二次電池の負極材料として使用されるまで、二度と粉砕工程を経由しないことである。
原料炭組成物を炭素化した炭化物、あるいはその炭化物を黒鉛化した黒鉛化物が粉砕・分級された場合、粒子表面に存在する六角網平面のエッヂには、化学結合が切断されたことによるダングリングボンド、即ち価電子結合が飽和せず結合の相手無しに存在する局在電子が生成する。このような炭化物や黒鉛化物をリチウムイオン二次電池の負極炭素材料として使用された場合、その局在電子がインターカレーションされたリチウムイオンの拡散速度を低下させるため、電池としての出力特性が低下し、本発明の原料炭組成物を原料として使用したことによる効果が得られ難くなり好ましくない。
本発明の原料炭組成物を粉砕した場合も、その粒子表面には局在電子が導入されることに相違ないが、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として使用される場合は、その後炭素化及び/又は黒鉛化されるため、局在電子が六角網平面に取り込まれるか、又は局在電子どうしが化学結合することにより、その熱履歴を経由した後の局在電子密度は極めて低下する。この結果、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として使用された場合に、その原料炭組成物の特徴を十分に発揮することが可能となる。
【0038】
平均粒子径30μm以下に粉砕された原料炭組成物は、好ましくは900〜1500℃に加熱されて炭素化(予備焼成)される。通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気で3〜10時間行われる。この工程では、水素、窒素等以外の原子を揮散せしめ、炭素分を好ましくは98〜99質量%に高める。
【0039】
炭化された原料炭組成物は、その後、黒鉛化される。
黒鉛化は、好ましくは、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で、好ましくは2500〜3000℃、より好ましくは2700〜3000℃で、例えば1〜6時間加熱することにより行われる。黒鉛化により、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料とすることができる。
【0040】
本出願に係る第三の発明の態様は、第二の発明の態様で規定された製造方法で得られた炭素材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池である。この電池は、出力特性が極めて優れたことを特徴としている。第二の発明の態様で規定された製造方法で得られた炭素材料を負極として使用しているからである。
【0041】
リチウム二次電池用負極の製造方法としては特に限定されず、例えば、本出願に係る発明が適用された炭素材料、バインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を含む混合物(負極合剤)を、所定寸法に加圧成形する方法が挙げられる。また他の方法としては、本出願に係る発明が適用された炭素材料、バインダー(結着剤)、導電助剤等を有機溶媒中で混練・スラリー化し、当該スラリーを銅箔等の集電体上に塗布・乾燥したもの(負極合剤)を圧延し、所定の寸法に裁断する方法も挙げることが出来る。
【0042】
前記バインダー(結着剤)としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、SBR(スチレンーブタジエンラバー)等を挙げることができる。負極合剤の中のバインダーの含有率は、炭素材料100質量部に対して1〜30質量部程度を、電池の設計上、必要に応じて適宜設定すれば良い。
【0043】
前記導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、又は導電性を示すインジウム−錫酸化物、又は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子を挙げることができる。導電助剤の使用量は、炭素材料100質量部に対して1〜15質量部が好ましい。
【0044】
前記有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等を挙げることができる。
【0045】
炭素材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を混合する方法としては、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。該混合物は、ロール加圧、プレス加圧することにより成形されるが、このときの圧力は100〜300MPa程度が好ましい。
【0046】
前記集電体の材質については、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用することが出来る。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を挙げることが出来る。また前記集電体の形状についても特に制限なく利用可能であるが、例示するとすれば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを挙げることができる。また、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0047】
前記スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を挙げることができる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うのが一般的である。
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
【0048】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池負極用炭素材料を用いたリチウム二次電池は、例えば、以上のようにして製造した負極と正極とが、セパレータを介して対向するように配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
正極に用いる活物質としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、例示するのであれば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、及び複酸化物(LiCo
XNi
YMn
ZO
2、X+Y+Z=1)、リチウムバナジウム化合物、V
2O
5、V
6O
13、VO
2、MnO
2、TiO
2、MoV
2O
8、TiS
2、V
2S
5、VS
2、MoS
2、MoS
3、Cr
3O
8、Cr
2O
5、オリビン型LiMPO
4(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0049】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0050】
リチウム二次電池に使用する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N−メチル2−ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの溶媒の溶質としては、各種リチウム塩を使用することができる。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAlCl
4、LiSbF
6、LiSCN、LiCl、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2等がある。
【0051】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
【0052】
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
【0053】
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造や、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。リチウム二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用される。
【0054】
本出願の発明に係る原料炭組成物を原料とした炭素材料、又は第二の発明の態様に規定された方法で製造された炭素材料を、負極材料として使用したリチウム二次電池は、従来の炭素材料を用いたリチウム二次電池と比較して、極めて良好な出力特性を実現することが可能となるため、自動車用、具体的にはハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用や、系統インフラの電力貯蔵用など産業用として利用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例に基づき本出願に係る発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
1.原料炭組成物とその製造方法
(1)原料炭組成物A
硫黄分3.1質量%の常圧蒸留残油を、触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油(15℃における密度:0.92)を得た。水素化脱硫条件は、全圧180MPa、水素分圧160MPa、温度380℃である。また、脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm
3)を流動接触分解し、流動接触分解残油(15℃における密度:1.00)を得た。この流動接触分解残油を、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの芳香族分を抽出した。この抽出芳香族分(15℃における密度:1.10)と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油(15℃における密度:0.92)を加え(脱硫脱瀝油自体を含む混合物全体で100質量%)、コークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Aを得た。
【0056】
(2)原料炭組成物B
原料炭組成物Aの原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Bを得た。
【0057】
(3)原料炭組成物C
原料炭組成物Aの原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Cを得た。
【0058】
(4)原料炭組成物D
原料炭組成物Aの原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、17質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Dを得た。
【0059】
(5)原料炭組成物E
原料炭組成物Aの原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Eを得た。
【0060】
(6)原料炭組成物F
原料炭組成物Aの原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Fを得た。
【0061】
(7)原料炭組成物G
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、15質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Gを得た。
【0062】
(8)原料炭組成物H
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Hを得た。
【0063】
(9)原料炭組成物I
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Iを得た。
【0064】
(10)原料炭組成物J
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Jを得た。
【0065】
(11)原料炭組成物K
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Kを得た。
【0066】
(12)原料炭組成物L
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、5質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Lを得た。
【0067】
(13)原料炭組成物M
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、3質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Mを得た。
【0068】
(14)原料炭組成物N
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、14質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Nを得た。
【0069】
(15)原料炭組成物O
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Oを得た。
【0070】
(16)原料炭組成物P
原料炭組成物Aの原料油組成物の原料となった流動接触分解残油(15℃における密度:1.00)に、同体積のn−ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの飽和分を選択抽出した。流動接触分解残油と、この抽出飽和分(15℃における密度:0.90)とを質量比1:1で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油(15℃における密度:0.92)を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Pを得た。
【0071】
(17)原料炭組成物Q
原料炭組成物Pの原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Qを得た。
【0072】
(18)原料炭組成物R
原料炭組成物Pの原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Rを得た。
【0073】
(19)原料炭組成物S
原料炭組成物Pの原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Rを得た。
【0074】
(20)原料炭組成物T
原料炭組成物Pの原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、10質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Tを得た。
【0075】
(21)原料炭組成物U
原料炭組成物Pの原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Uを得た。
【0076】
2.原料炭組成物の分析
(1)原料炭組成物のH/C原子比の測定方法
原料炭組成物の全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で測定した。また原料炭組成物試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO
2+CO赤外線検出器により、全炭素分を測定した。原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率で算出した。原料炭組成物A〜UのH/C値は表1に示された通りである。
【0077】
(2)原料炭組成物のマイクロ強度の測定方法
鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量の割合を、パーセントで算出した。原料炭組成物A〜Uのマイクロ強度は表1に示された通りである。
【0078】
3.原料炭組成物A〜Uの炭素化及び黒鉛化
得られた原料炭組成物を、機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、平均粒子径12μmの微粒子材料を得た。この微粒子を、高砂工業社製のローラーハースキルンで、窒素ガス気流下、最高到達温度が1200℃、最高到達温度保持時間が5時間となるように炭素化した。得られた炭素材料を坩堝に投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2800℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は3時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させた。得られた黒鉛材料は、原料炭組成物A〜Uに対応させて、黒鉛A〜Uと呼称する。
【0079】
4.黒鉛Vの製造方法
原料炭組成物Kをロータリーキルンに導入して1400℃でか焼し、炭素材料を得た。得られた炭素材料を機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、平均粒子径12μmの炭素微粒子材料を得た。この炭素微粒子材料を坩堝に投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2800℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は16時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させた。このようにして得られた黒鉛粉末を黒鉛Vと呼称する。
【0080】
5.黒鉛Wの製造方法
原料炭組成物Kをロータリーキルンに導入して1400℃でか焼し、炭素材料を得た。得られた炭素材料を坩堝に投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2800℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は16時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させた。この黒鉛を機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、平均粒子径12μmの黒鉛粉末を得た。このようにして得られた黒鉛粉末を黒鉛Wと呼称する。
【0081】
6.電池の作製と特性の評価方法
(1)電池の作製方法
図1に作製した電池10の断面図を示す。正極11は、正極材料である平均粒子径6μmのニッケル酸リチウム(戸田工業社製LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05)と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1320)、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)を質量比で89:6:5に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅30mm、長さ50mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、ニッケル酸リチウムの質量として、10mg/cm
2となるように設定した。
このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に正極合剤が掻き取られ、その露出したアルミニウム箔が塗布部の集電体12(アルミニウム箔)と一体化して繋がっており、正極リード板としての役割を担っている。
【0082】
負極13は、負極材料である黒鉛A〜Wの黒鉛粉末と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#9310)、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)を質量比で91:2:8に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅32mm、長さ52mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、黒鉛粉末の質量として、6mg/cm
2となるように設定した。
このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に負極合剤が掻き取られ、その露出した銅箔が塗布部の集電体14(銅箔)と一体化して繋がっており、負極リード板としての役割を担っている。
電池10の作製は、正極11、負極13、セパレータ15、外装17及びその他部品を十分に乾燥させ、露点−100℃のアルゴンガスが満たされたグローブボックス内に導入して組み立てた。乾燥条件は、正極11及び負極13が減圧状態の下150℃で12時間以上、セパレータ15及びその他部材が減圧状態の下70℃で12時間以上である。
【0083】
このようにして乾燥された正極11及び負極13を、正極の塗布部と負極の塗布部とが、ポリポロピレン製のマイクロポーラスフィルム(セルガード社製#2400)を介して対向させる状態で積層し、ポリイミドテープで固定した。なお、正極及び負極の積層位置関係は、負極の塗布部に投影される正極塗布部の周縁部が、負極塗布部の周縁部の内側で囲まれるように対向させた。得られた単層電極体を、アルミラミネートフィルムで包埋させ、電解液を注入し、前述の正・負極リード板がはみ出した状態で、ラミネートフィルムを熱融着することにより、密閉型の単層ラミネート電池を作製した。使用した電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートが体積比で3:7に混合された溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)が1mol/Lの濃度となるように溶解されたものである。
【0084】
(2)電池の評価方法
得られた電池を25℃の恒温室内に設置し、以下に示す充放電試験を行った。先ず1.5mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電した。10分間休止の後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電する充放電サイクルを10回繰り返した。この充放電サイクルは、電池の異常を検地するためのものである。本実施例で作製された電池は、全て異常がないことを確認した。
次に、充電電流を15mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い、1分間休止の後、同じ電流(15mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電させた。この放電電流値は1mA/cm
2に相当する。得られた放電容量をX(mAh)とする。10分間休止させた後、同様な条件で充電し、1分間休止の後、150mAで電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電させた。この放電電流値は10mA/cm
2に相当する。得られた放電容量をY(mAh)とする。
1mA/cm
2の電流密度で得られた放電容量に対する10mA/cm
2の電流密度で得られた放電容量の割合(Y/X)を百分率で算出した。この結果を、表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
7.試験結果に関する考察
表1に原料炭組成物A〜UのH/C値、及びマイクロ強度と、その原料炭組成物A〜Uに対応した黒鉛A〜Wを負極として使用したリチウムイオン二次電池の電流密度1mA/cm
2で得られた放電容量、及び密度10mA/cm
2で得られた放電容量と、1mA/cm
2の電流密度で得られた放電容量に対する10mA/cm
2の電流密度で得られた放電容量の割合を百分率で示した。
また、
図2及び
図3に、原料炭組成物A〜UのH/C値及びマイクロ強度と、その原料炭組成物A〜Uに対応した黒鉛A〜Wを負極として使用したリチウムイオン二次電池の1mA/cm
2の電流密度で得られた放電容量に対する10mA/cm
2の電流密度で得られた放電容量の割合(百分率)の関係を示した。
【0087】
表1、
図2及び
図3より、原料炭組成物が本発明の範囲内、即ちH/C値として0.3〜0.5であり、且つマイクロ強度として7〜17質量%となったもの(G,H,K,N,O)は、その黒鉛化物を負極として使用した電池の放電容量維持率が88%以上となり、出力特性に極めて優れたリチウムイオン二次電池を実現できることが分かった。原料炭組成物A、C、D、F、I、J、L、M、P、R、S及びUは、脱硫脱瀝油の含有量が7〜15質量%の範囲外であり、原料炭組成物B、E及びTは、脱硫脱瀝油の含有量が7〜15質量%の範囲内であったが、芳香族指数faが0.3〜0.65の範囲外であった。原料炭組成物Qは、脱硫脱瀝油の含有量が7〜15質量%の範囲内であったが、ノルマルパラフィン含有率が5〜20質量%の範囲外であった。
また原料炭組成物Kを原料とした黒鉛化物の製造方法として、原料炭組成物の段階で粉砕・分級し、炭素化・黒鉛化した黒鉛粉末Kは、放電容量維持率が95.5%であったのに対し、原料炭組成物Kを炭素化後に粉砕・分級して黒鉛化した黒鉛粉末V、及び原料炭組成物Kを炭素化し黒鉛化後に粉砕・分級した黒鉛粉末Wの容量維持率は、各々90.5%及び88.8%であった。原料炭組成物を、平均粒子径として30μm以下に粉砕してから炭素化及び/又は黒鉛化することを特徴とした製造方法を採用した黒鉛粉末に、優位性が認められた。