特許第5728516号(P5728516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5728516吸着材及びその製造方法、並びにキャニスタ及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728516
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】吸着材及びその製造方法、並びにキャニスタ及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/28 20060101AFI20150514BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20150514BHJP
   F02M 25/08 20060101ALI20150514BHJP
   B01D 53/02 20060101ALI20150514BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20150514BHJP
   C01B 31/08 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   B01J20/28 Z
   B01J20/20 B
   F02M25/08 311D
   B01D53/02 Z
   B01D53/04 D
   C01B31/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-67484(P2013-67484)
(22)【出願日】2013年3月27日
(62)【分割の表示】特願2009-531208(P2009-531208)の分割
【原出願日】2008年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-173137(P2013-173137A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2013年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2007-232537(P2007-232537)
(32)【優先日】2007年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390001177
【氏名又は名称】クラレケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】花本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 進
(72)【発明者】
【氏名】石川 賢一
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−009208(JP,A)
【文献】 特開2007−107518(JP,A)
【文献】 特開2006−214403(JP,A)
【文献】 特開2007−117863(JP,A)
【文献】 特開平05−146678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
B01D 53/02−53/12
C01B 31/00−31/36
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀ポロシーで測定した平均直径3000nm〜100000nmの範囲の積算細孔容積が12.9mL/dlから25.5mL/dlでありかつ3.3nmから5nmの中心細孔半径を有する活性炭を含み、
該活性炭のn−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡吸着量が0.16g/dlから0.32g/dlである、吸着材。
【請求項2】
前記活性炭の水銀ポロシーで測定した平均直径3000nm〜100000nmの範囲の積算細孔容積が12.9mL/dlから22.5mL/dlである、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
複数の層に区画された燃料蒸散防止装置における第1キャニスタの後に接続されるキャニスタに充填するために用いられる、請求項1または2に記載の吸着材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の吸着材を有する、燃料蒸散防止装置。
【請求項5】
前記吸着材が、複数の層に区画されたキャニスタのうち、第1のキャニスタの後に接続されるキャニスタ内に充填されている、請求項に記載の燃料蒸散防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着材及びその製造方法、並びにキャニスタ及びその使用方法に関する。さらに詳しくは、吸着・脱着性能(以下、吸着・脱着を単に吸脱着という)に優れ、自動車を長時間停車した場合でも燃料ガスの大気への蒸散が少ない燃料蒸散防止用として好適な吸着材とその製造方法、並びに該吸着材を用いたキャニスタとその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気環境改善及び地球温暖化防止に対する関心が世界的に高まる中、それらの一因であるガソリン内燃機関の燃料タンクからの燃料蒸散ガスの大気放出低減のため、蒸散燃料抑制装置(キャニスタ)が用いられている。この装置には、一般的に活性炭等の吸着剤が充填され、蒸散燃料が吸着、捕集されるとともに、エンジン稼動時にはキャニスタ内に、燃焼用の空気を導入して吸着された蒸散燃料を脱着し、エンジン内にて燃焼させるようになっている。
【0003】
しかしながら、活性炭をそのまま使用して蒸散燃料ガスの吸脱着を行うと、吸着時には発熱反応が起こって温度が上昇し、また脱着時には吸熱反応が起こって温度が低下するので吸脱着性能低下をおこすことが知られている。そこでこれらの問題を解決するため、蓄熱材を併用したり、活性炭の比熱を大きくしたりすることが知られている。例えば活性炭などの多孔質体の内部に蓄熱材を使用すること(特許文献1)、活性炭に比熱の大きい液体を含有させ比熱を大きくすること(特許文献2)が提案されている。
【0004】
近年、米国では蒸散燃料ガスの規制が厳しく、72時間停車中の自動車から蒸散される燃料ガス量(DBL)も規制されているので、単に自動車から蒸散される燃料ガスを吸脱着するだけでなく、長時間自動車を停車した場合の燃料ガスの大気への蒸散を少なくしてこのような規制にも対応する必要がある。
【0005】
このような規制に対応可能な燃料蒸散防止装置として、本出願人は第1キャニスタの後にハニカム活性炭からなる第2キャニスタを接続した燃料蒸散防止装置を開発し、先に特許出願した(特許文献3)。この燃料蒸散防止装置は、第1キャニスタの後に、ハニカム活性炭で構成された小型の第2キャニスタを接続するだけで自動車を長時間停車した場合でも燃料ガスの大気への蒸散を低減化することができ有用である。
【0006】
また、25℃での5容量%と50容量%のn−ブタン蒸気濃度間における吸着能が35g n−ブタン/L(リットル)を越える吸着材と35g n−ブタン/L(リットル)以下の吸着材を組み合わせたキャニスタが提案されている(特許文献4)。
【0007】
特許文献3及び特許文献4に記載されたキャニスタは、粒状炭を用いたキャニスタの後に第2のキャニスタを接続することにより、自動車を長時間停車した場合でもガソリンのリーク量を抑制できるとされており、かかる特許文献には第2キャニスタとしてハニカム状の活性炭を用いることが開示されている。しかしながら、特許文献3に記載のハニカム成型体は押し出し成型によって作製されたものであり割れやすい。また、特許文献4にもハニカムを使用する記載があるが、セラミックである為、通気抵抗は低いが割れやすい。
【0008】
近年では、自動車に搭載されるという点で振動に対する強度の面での要求が厳しく、従来の活性炭ハニカムでは特に強度の問題が指摘されており、更にキャニスタ内に設置する場合Oリングのようなシール材が必要であることに加え、製造コストが高いという難点がある。一方、キャニスタ内に吸脱着性能の異なる活性炭を複数充填したキャニスタが知られており、このキャニスタは、第1吸着材層(主室)に蒸散燃料の吸着量が多く保持力が弱い活性炭Aを、第2以降の吸着材層(副室)には蒸散燃料の吸着量が中くらいで保持力が弱い活性炭を充填することにより構成されている(特許文献5)。
【0009】
キャニスタの性能は、活性炭を充填したキャニスタにn−ブタンを特定量吸着させた増量と、空気で脱着させた減量の平均値であるブタン・ワーキング・キャパシティー(BWC)で示されるが、一般的に、炭素原料を常法により造粒し炭化賦活して活性炭とした場合、BWC性能を向上させるに従って見かけ密度が小さくなることにより比熱も小さくなる。
【0010】
これを防ぐ方法として、活性炭粉末にバインダーを用いて造粒し、造粒炭として使用する方法があり、例えば、木質系の粒状活性炭とベントナイト白土からなる成型活性炭が知られており、キャニスタに使用されることが記載されている(特許文献6)。しかしながら、本出願人がこの成型活性炭について詳細に検討してみたところ、バインダーによる活性炭の吸着能力及び吸着速度の阻害が大きく、必ずしも性能的に満足できるものではなかった。
【0011】
また、粉末活性炭素、ベントナイト及び無機系接着剤を40〜70:10〜30:10〜40の割合に混合したものに混合物の重量の80〜120%の水を添加し、フィルターの形状に成形した吸着材の製造方法も開示されている(特許文献7)。しかしながら、ここに開示されているのは、実施例からも明らかなように、金型で成型する板状の吸着材であり、特許文献7に開示された方法を採用しても使用に耐え得る造粒炭を成型することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開昭63−57351号公報
【特許文献2】特開昭64−36961号公報
【特許文献3】特開平10−37812号公報
【特許文献4】米国特許第6540815号明細書
【特許文献5】特開2002−256989号公報
【特許文献6】特開昭63−242343号公報
【特許文献7】特開昭59−69146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、自動車を長時間停車した場合でも大気中に放出される蒸散燃料ガス量を低減することのできるキャニスタ用の吸着材に好適な吸着材及びその製造方法、並びに該吸着材を用いたキャニスタ及びその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、吸着材の特定範囲の空隙を一定量以上形成し、且つ特定の低濃度n−ブタン平衡吸着量を満足する吸着材により上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の第1の発明は、水銀ポロシーで測定した平均直径3000〜100000nmの範囲の積算細孔容積が6.5mL/dl以上でn−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡吸着量が0.16g/dl以上であることを特徴とする吸着材である。
【0015】
また、本発明の第2の発明は、粉末又は粒状の活性炭、滑り材、酸に可溶な無機化合物、バインダー及び水を混合して造粒し、乾燥した後、整粒、酸水洗し、乾燥、整粒することを特徴とする吸着材の製造方法である。
【0016】
また、本発明の第3の発明は、かかる吸着材を有するキャニスタであり、本発明の第4の発明は、蒸散燃料ガス吸着材におけるn−ブタンの有効吸着量をa(g/dl)、使用量をb(mL)としたとき、a×b/100が2.7g以上となるキャニスタの使用方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の吸着材は、脱着速度が大きく、吸着した蒸散燃料ガスなど吸着ガスを少量のパージエアーで、脱着することができ、被吸着物の残留量が少なく、低濃度における吸着能力を有していることから、自動車からの蒸散燃料ガス吸着材として好適である。したがって、自動車を長時間停車した場合でも大気中に放出される蒸散燃料ガス量を低減することができる。このような吸着材をキャニスタに用いた場合、好ましくは、吸着材層を複数の層に区画したキャニスタにおいて少なくとも第2層目以降に配置するか、第2キャニスタを付設したキャニスタにおいて第2キャニスタに配置されて使用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】キャニスタ試験機の断面概略図である。
図2】第2キャニスタ試験機の断面概略図である。
図3】テドラーバッグの断面概略図である。
図4】キャニスタの一例を示す斜視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で使用する活性炭の原料となる炭素質材料としては、賦活することによって活性炭を形成するものであればとくに制限はなく、植物系、鉱物系、天然素材及び合成素材などから広く選択することができる。具体的には、植物系の炭素質材料として、木材、木炭、ヤシ殻などの果実殻、鉱物系の炭素質材料として、石炭、石油系及び/又は石炭系ピッチ、コークス、天然素材として、木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、ビスコースレーヨンなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、合成素材として、ナイロンなどのポリアミド系、ビニロンなどのポリビニルアルコール系、アクリルなどのポリアクリロニトリル系、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリウレタン、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂などを例示することができる。これらはブレンドして使用してもよい。
【0020】
炭素質材料の形状は限定されるものではなく、粒状、粉状、繊維状、シート状など種々の形状のものを使用することができるが、造粒するという観点から粉末又は粒状が好ましく、粒子サイズは0.3mm以下のものが好ましい。炭素質材料は炭化、賦活されて活性炭となるが、炭化条件、賦活条件は従来公知の条件を採用することができる。
【0021】
粉末又は粒状の活性炭の中心細孔半径は、あまり小さいと吸着力が大きすぎて脱着し難く、またあまり大きいと脱着性は良いが吸着量が少なくなるので、中心細孔半径としては3.5〜6.0nmが好ましい。
【0022】
本発明において、粉末又は粒状の活性炭はバインダーを加えて造粒されるが、本発明の最大の特徴は、酸に可溶な無機化合物を加えて造粒、乾燥後、酸水洗することにあり、かかる操作により、無機化合物が溶かし出され、吸着材に空隙が形成される。
【0023】
酸に可溶な無機化合物としては、アルカリ土類金属の炭酸塩(含む炭酸マグネシウム)、酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどを挙げることができる。中でも、炭酸カルシウムが好ましい。使用する酸は、塩酸、硝酸、酢酸、蟻酸、クエン酸などを挙げることができるが、中でも塩酸が好ましい。
【0024】
配合物は、活性炭(A)、酸に可溶な無機化合物(C)、バインダー(D)、滑り材(E)、水(F)からなり、骨格形成の補助材として骨材(B)を配合してもかまわない。骨材(B)は酸に耐性があって、かつ高融点の無機物であるのが好ましく、具体的には、アルミナ、珪酸(ガラス粉末)、黒鉛などが1種または2種以上で用いられる。中でもアルミナが好ましい。
【0025】
バインダー(D)としては、耐酸性、耐熱性があり、吸脱着性能の阻害が小さい物が好ましく、例えば、ポリウレタンエマルジョン、アクリルエマルジョンなどを挙げることができる。
【0026】
造粒性を向上させる滑り材(E)としては、ベントナイト系、セルロース系、及びポリビニルアルコール系化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種が用いられるが、ベントナイト系化合物としては、ナトリウムベントナイト、カルシウムベントナイトなどを挙げることができる。
【0027】
セルロース系化合物としては、セルロース、水酸基をアルキルエーテル、カルボキシメチル基などで置換したセルロース誘導体などを挙げることができる。なかでも、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースが好ましい。ポリビニルアルコール系化合物としては、ポリビニルアルコール、各種変性ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。
【0028】
本発明の吸着材において、活性炭(A)と骨材(B)を100重量部としたとき、酸に可溶な無機化合物(C)は10重量部以上混合するのが好ましく、20〜500重量部になるように混合するのがより好ましく、50〜400重量部とするのが更に好ましい。
【0029】
活性炭(A)と骨材(B)を100重量部としたとき、バインダー(D)の混合割合は、固形分として、7〜25重量部とするのが好ましく、8〜20重量部とするのがより好ましい。
【0030】
活性炭(A)と骨材(B)を100重量部としたとき、滑り材(E)は、1〜10重量部とするのが好ましく、2〜7重量部とするのがより好ましい。
【0031】
活性炭(A)と骨材(B)を100重量部としたとき、水(F)は60〜250重量部とするのが好ましい。
【0032】
活性炭(A)と骨材(B)を100重量部としたとき、骨材(B)は、0〜90重量部とするのが好ましく、0〜65重量部とするのがより好ましい。
【0033】
粉末又は粒状の活性炭(A)、骨材(B)、酸に可溶な無機化合物(C)、バインダー(D)、滑り材(E)及び水(F)からなる混合物はニーダーなどで混練される。混練物は、次いでペレッターなどの造粒機で造粒され、200℃以下の温度で乾燥し、常温で冷却後、整粒し、酸溶液中で酸に可溶な無機化合物(C)を溶解し、水浴中で十分水洗し、再度200℃以下で乾燥し、常温で冷却、整粒して本発明の吸着材が製造される。吸着材はペレット状、顆粒状または球状とするのが取扱いの点で好ましく、ペレット状の場合、ペレットの長さをL、直径をDとしたとき、L/Dは0.5〜4であるのが好ましい。
【0034】
粉末又は粒状の活性炭として、少なくとも細孔分布及び/又は吸着特性の異なる2種類以上をブレンドした活性炭を使用すると、任意の細孔径分布を有する造粒炭を容易に製造することができ、吸着性能を任意にコントロールすることが可能となり、好ましい。
【0035】
本発明の吸着材は、水銀ポロシーで測定した平均直径3000〜100000nmの範囲の積算細孔容積が6.5mL/dl以上、好ましくは7.5mL/dl以上で、n−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡吸着量が0.16g/dl以上、好ましくは0.2g/dl以上であり、蒸散燃料ガス吸着材としてキャニスタに好ましく使用される。
【0036】
本発明の吸着材を、キャニスタに用いる場合、n−ブタン脱着率は78%以上、より好ましくは80%以上であるのが好ましい。このような吸着材は、吸着材層を複数の層に区画したキャニスタにおいて、少なくとも第2層目以降に配置するか、第2キャニスタを付設したキャニスタにおいて、第2キャニスタに配置するのがDBLを減少させる観点から好ましい。吸着材層が複数の層に区画されている場合、吸着材が各区画単位で蒸散燃料ガス吸入ポート側から大気ポート側へ向かって吸着容量が順次小さくなるように配置するのが好ましい。
【0037】
本発明の吸着材を、キャニスタの最も大気側に使用する場合、前層から流入してくる蒸散燃料ガスの濃度が薄くなるため、低濃度での吸着能力が高いことが必要であり、n−ブタン2000ppmにおける吸着量が0.16g/dl以上であることが必要である。更に、DBLにおいて、2日間に吸脱着し、大気に蒸散燃料ガスを放出しないためには、使用される部位に前層から流入してくる蒸散燃料ガスを全て吸着できる容量が必要であることから、n−ブタン有効吸着量をa(g/dl)、使用容積をb(mL)としたとき、a×b/100が2.7g以上となるように使用するのが好ましい。
【0038】
本発明の吸着材が蒸散燃料ガスの吸脱着に優れる理由を必ずしも明確に説明することはできないが、外部と連通した空隙を形成することで、活性炭粒子と脱着エアーとの接触効率が向上し、少ない脱着エアー量で多くの吸着物を脱着することが可能となったことが考えられる。
【実施例】
【0039】
本発明の吸着材の製造に使用する活性炭の中心細孔半径、吸着材のn−ブタン吸脱着率及びDBL、n−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡濃度、水銀ポロシーによる細孔容積の測定は次によった。
【0040】
活性炭の中心細孔半径:水蒸気吸着法による細孔分布曲線から求めた。活性炭の細孔は、硫酸水溶液の硫酸濃度に固有の1気圧(絶対圧)、30℃での飽和水蒸気圧の値(P)から下記式(I)で表されるKelvinの式に基づいて求められる細孔半径(r)以下の細孔半径を有する。すなわち、Kelvinの式に基づいて求められる細孔半径以下の細孔の累積細孔容積が、その測定試験での飽和吸着量に相当する30℃の水の体積となる。
【0041】
r=−[2Vmγcosφ]/[RTln(P/P)] (I)
r:細孔半径(cm)
Vm:水の分子容(cm/mol)=18.079(30℃)
φ:毛細管壁と水との接触角(°)=55°
R=ガス定数(erg/deg・mol)=8.3143×10
T:絶対温度(K)=303.15
P:細孔内の水の示す飽和蒸気圧(mmHg)
:水の1気圧(絶対圧)、30℃における飽和蒸気圧(mmHg)=31.824
【0042】
硫酸濃度を変化させた13種類の硫酸水溶液(すなわち、1.05〜1.30までの0.025間隔の比重を有する11種類の硫酸水溶液、1.35の比重を有する硫酸水溶液及び1.40の比重を有する硫酸水溶液)について飽和吸着量の測定試験を行い、各測定試験において、対応する細孔半径以下の細孔の累積細孔容積を求める。このようにして求めた累積細孔容積を細孔半径に対してプロットすることにより、活性炭の細孔分布曲線を得ることができる。この細孔分布曲線において最高ピーク値を示す半径を中心細孔半径とする。
【0043】
吸着材のn−ブタン脱着率(%)及びn−ブタン有効吸着量(BWC):
1)JIS K1474に準拠して造粒炭の充填密度を測定する。
2)内径17.5mmのガラスカラムに1)で測定した充填密度に基づき24ミリリットル(mL)の試料を充填し秤量した後(Ag)、25℃の恒温槽へセットする。
3)n−ブタン(純度99.9%以上)をアップフローでガラスカラムに300mL/分の流量で20分以上通気させた後、ガラスカラムを取り外し秤量する(Cg)。
4)ガラスカラムを再度装置にセットし、ダウンフローで乾燥空気をガラスカラムに240mL/分の流量で20分間通気した後、ガラスカラムを取り外し秤量する(Dg)。
5)上記操作を行い、次の式によりn−ブタン脱着率及び造粒炭1dL当りの脱離量をブタン有効吸着量(BWC)とする。n−ブタン脱着率=(Cg−Dg)/(Cg−Ag)×100(%)、BWC(g/dL)=(Cg−Dg)/0.24
【0044】
DBL:
<前処理>
1)図1のごとき有効容積2900mL(第1層2200mL+第2層700mL)、高さ/相当直径(第1層2.7、第2層3)のキャニスタ試験機1に、第1層用活性炭2としてクラレケミカル株式会社製の活性炭クラレコール3GX及び第2層用活性炭3として本発明の吸着材を充填し蓋をする。さらに、図2に示すような内径29mmφ長さ180mmの第2キャニスタ試験機9を直列に接続する場合は、第1層用活性炭としてクラレケミカル株式会社製の活性炭クラレコール3GX及び第2層用活性炭としてクラレケミカル株式会社製の活性炭2GK−C7を充填し、本発明の吸着材を第2キャニスタ試験機に充填する。なお、相当直径とは、断面形状が円形でない場合、円に換算したときの直径であり、吸着容量は3GX>2GK−C7である。図1において、4は隔壁、5及び6は分散板である。また、図2において、10は吸着材、11は分散板である。
2)雰囲気温度25℃でキャニスタ試験機の蒸散燃料ガス入口7に模擬ガソリン蒸気(ブタン:ペンタン:ヘキサン=25:50:25容量比)1.5g/分と空気500mL/分を通気し、キャニスタ試験機の蒸散燃料ガス出口8から排出されるガスの濃度を炭化水素計で測定する。キャニスタ試験機の出口濃度が10000ppm(破過)に達した後通気を停止し、キャニスタ試験機容量の400倍量の空気を出口8から吸着とは逆方向に導入しパージする。
3)上記2)の操作を10サイクル実施し、25℃で1晩(16〜20時間)放置する。
4)雰囲気温度25℃で、キャニスタに空気で希釈した50容量%n−ブタンを40g/時間で通気し、キャニスタ出口濃度を炭化水素計で測定する。出口濃度が10000ppm(破過)に達した後通気を停止し、キャニスタ試験機容量の150倍量の空気を出口8から逆方向に導入しパージする。
【0045】
<DBLの測定>
1)雰囲気温度を30℃に設定し、1晩(16〜20時間)放置後、簡易DBLテストを実施する。
2)キャニスタ試験機に模擬ガソリン蒸気供給源を接続し、キャニスタ試験機出口と図3に示すようなリーク測定用のテドラーバッグ12を配管またはホースで接続する。テドラーバッグとは、ガスの吸着、浸透などを生じないガス捕集袋であり、DuPont社の商品名である。
3)キャニスタ試験機に、模擬ガソリン蒸気0.19g/分と空気63mL/分を通気し、雰囲気温度を35℃×1.5時間、35℃×0.5時間+40℃×1時間、40℃×1時間でリーク量を測定する(1日目)。
4)雰囲気温度を30℃に設定し、2時間放置後、空気を100mL/分の流量で2時間パージした後17時間放置する。
5)キャニスタ試験機に、模擬ガソリン蒸気0.143g/分と空気47.3mL/分を通気し、雰囲気温度を35℃×2時間、40℃×2時間でリーク量を測定する(2日目)。
6)ガス濃度をガスクロマトグラフ、体積をガスメータより求め、リーク量をテドラーバッグ内気体の(濃度)×(体積)より求める。以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、配合割合は全て重量部である。
【0046】
n−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡吸着量
1)JIS K1474に準拠して吸着材の充填密度を測定する。
2)内径17.5mmのガラスカラムに1)で測定した充填密度に基づき24ミリリットル(mL)の試料を充填し秤量した後(Ag)、25℃の恒温槽へセットする。
3)n−ブタン(2000ppm)をアップフローでガラスカラムに300mL/分の流量で20分以上通気させた後、ガラスカラムを取り外し秤量する(C1g)。
4)ガラスカラムを再度装置にセットし、再度3の操作を行い、秤量する(C2g)。
5)重量増加がなくなる最終重量(Cng)まで4の操作を行い、次の式によりn−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡吸着量を計算する。n−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡吸着量=(Cng−A)/0.24
【0047】
水銀ポロシーによる細孔容積の測定
株式会社島津製作所製細孔分布測定装置オートポア9510により測定した。
【0048】
実施例1〜12、比較例1〜6
クラレケミカル株式会社製クラレコール3GXをロータリーキルンに入れ920〜950℃で水蒸気賦活し、賦活時間を変えることで中心細孔半径3.3、4.2、4.8、5.0nmの4種類の活性炭を得た。そのうち4.8nmのものはBWC法におけるn−ブタン吸着量50%、脱着率77%、BWC11.9g/dLであった。
【0049】
これらの活性炭を粉砕機で粒度0.1mm以下に粉砕した粉末活性炭(A)に、骨材(B)として和光純薬工業株式会社製酸化アルミニウム又は和光純薬工業株式会社製グラファイト粉末(100μmアンダー)又は和光純薬工業株式会社製珪酸、酸に可溶な無機化合物(C)として株式会社カルファイン製炭酸カルシウム寒水石KD−100、バインダー(D)として日本カーバイド工業株式会社製アクリルエマルジョンニカゾールFX−6074又は株式会社クラレ製ポリウレタンエマルジョンKMN−N0c、滑り材(E)として株式会社ホージュン製ベントナイト(商品名「ベンゲル」)、又はカルボキシメチルセルロース(以下CMCとする)を混合し、さらに水(F)を添加して十分に混練した後、油圧式造粒機により押し出し造粒を行った。造粒炭サイズはダイス孔径を変えることにより任意に調節できるが、ここでは直径2.5mmとした。
【0050】
造粒品を120℃の乾燥機で16時間乾燥後、1.5〜10mmの長さに整粒し、250ml計り取り1規定濃度の塩酸5Lに16時間浸漬した。その後水を切り、5Lの水で攪拌しながら洗浄した後水を切って、再度水洗を行う作業を10回行った後、120で乾燥した後、目開き3.35mmと2.00mmの篩いで整粒し、目開き2.00mmの篩いに残った物をサンプルとした。
【0051】
水銀ポロシーで測定した時の平均細孔直径3000〜100000nmの積算細孔容積が6.5mL以上でn−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡吸着量が0.16g/dl未満の場合を比較例1及び比較例4、水銀ポロシーで測定した時の平均細孔直径3000〜100000nmの積算細孔容積が6.5mL未満でn−ブタン容量濃度2000ppmにおける平衡吸着量が0.16g/dl以上の場合を比較例2及び比較例5、酸水洗を行わないで酸に可溶な無機化合物(C)をそのまま残した場合を比較例3及び比較例6とした。
【0052】
有効容量2900mL(第1層2200mL+第2層700mL)、高さ/相当直径(第1層2.7、第2層3)のキャニスタに、第1層用活性炭としてクラレケミカル株式会社製の活性炭クラレコール3GX及び第2層用活性炭として本発明の造粒炭を充填して、DBL性能を測定し表1の実施例1〜5、比較例1〜3に示した。
【0053】
有効容量2900mL(第1層2200mL+第2層700mL)、高さ/相当直径(第1層2.7、第2層3)のキャニスタに、第1層用活性炭としてクラレケミカル株式会社製の活性炭クラレコール3GX及び第2層用活性炭としてクラレケミカル株式会社製の活性炭クラレコール2GK−C7、第3層として内径29mmφ長さ180mmのガラスカラムに本発明の造粒炭を充填してJIS18メッシュの金網を丸めてスペース調整及び分散板とし、両側に外径8mmφのガラス管を取り付けたゴム栓を装着してキャニスタと接続し、DBL性能を測定し表1の実施例6〜12、比較例4〜6に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
自動車に搭載するためのキャニスタは前記したキャニスタ試験機と実質的に同じものであり、図4に直方体形状(160mm×110mm×260mm)の斜視概略図の一例を示す。13はキャニスタ実機、14は蒸散燃料ガス吸入ポート、15は大気ポート、16はパージポートである。17は第1層と第2層とを区画するための隔壁である。図4はキャニスタ1基の例であるが、第2キャニスタとをホースなどで接続した形態で実施されることもある(図示省略)。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、吸着材及びその製造方法、並びにキャニスタとその使用方法を提供することができる。本発明の吸着材は吸着性能及び吸脱着速度が大きいので、環境保全に有用な蒸散燃料ガス吸着材としてキャニスタに好ましく使用され、自動車などを長時間停車した場合でも大気中に放出される燃料ガス蒸散量を低減することができる。とくにキャニスタの第2層目以降の吸着材として好適であるが、キャニスタ用途だけでなく、脱臭用、溶剤回収用、触媒用など種々の用途に適用可能であり産業上有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 キャニスタ試験機
2 第1層吸着材
3 第2層吸着材
4 隔壁
5 分散板
6 分散板
7 蒸散燃料ガス吸入ポート
8 大気ポート
9 第2キャニスタ試験機
10 吸着材
11 分散板
12 テドラーバッグ
13 キャニスタ実機
14 蒸散燃料ガス吸入ポート
15 大気ポート
16 パージポート
17 隔壁
図1
図2
図3
図4