(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の前記ニッケル水素蓄電池を備える組電池の各々の前記ニッケル水素蓄電池について、請求項1または請求項2に記載の電池の容量回復方法を行う組電池の容量回復方法であって、
前記組電池をなす複数の前記ニッケル水素蓄電池のうち、これらの中央部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を冷却する、及び、
前記組電池をなす複数の前記ニッケル水素蓄電池のうち、これらの外側部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を加熱する、の少なくともいずれかを行いつつ、前記酸素発生排出ステップを行う
組電池の容量回復方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、負極の放電容量を回復させるにあたり、特許文献1のように、過充電、即ち、SOCが100%を越える状態から充電を開始すると、放電容量を十分に増加させるためには、深く過充電を行わなければならず、ニッケル水素蓄電池へのダメージが大きくなる。
【0009】
一方、SOCが低い状態から充電を開始して負極の放電容量を回復させようとすると、以下の問題が生じる。即ち、SOCの低い状態から充電を開始すると、正極で水酸化物イオンから酸素ガスが生じる反応、具体的には、OH
- → 1/4O
2+1/2H
2O+e
- の反応が生じない或いは生じ難いので、充電により正極で酸素ガスが発生しない或いは発生する量が少ない。また、負極で水が分解して水素が生じる反応、具体的には、M+H
2O+e
- → MH+OH
- (但し、「M」は水素吸蔵合金)の反応が生じない或いは生じ難いので、充電により負極の水素吸蔵合金に水素が吸蔵されない或いは吸蔵される量が少ない。その一方で、負極の水素吸蔵合金に吸蔵されていた水素の一部が水素ガスとなって、開弁した安全弁装置を通じて電池外部に排出される。このため、SOCが低い間は、充電を行っているにも拘わらず、逆に負極の放電容量が減少しがちとなり、その結果、負極の放電容量の回復効率が低下する。
【0010】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、過充電によるニッケル水素蓄電池へのダメージを無くすまたは少なくできると共に、負極の放電容量の回復を効率良く行うことができる電池の容量回復方法、組電池の容量回復方法、並びに、負極の放電容量の回復に適した電池の容量回復装置、及び、組電池の容量回復装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、正極から発生された酸素ガスが電池外部に排出された後、つまり安全弁装置の開弁後から負極の放電容量の回復が開始され、開弁の状況によりその効率が変わることを発見し、本発明に到った。
上記課題を解決するための本発明の一態様は、正極と負極と復帰型の安全弁装置と水系電解液とを備えるニッケル水素蓄電池について、前記負極の放電容量を増加させる電池の容量回復方法であって、前記ニッケル水素蓄電池を充電して、前記正極で前記水系電解液から酸素ガスを発生させると共に、前記安全弁装置を開弁状態とし、発生した酸素ガスの少なくとも一部を前記安全弁装置を通じて電池外部に排出する酸素発生排出ステップを備え、前記酸素発生排出ステップの開始時の電池温度Taが−30〜10℃の範囲内で前記開始時のSOCが(30−Ta)〜100%の範囲内、または、前記開始時の電池温度Taが10〜50℃の範囲内で前記開始時のSOCが20〜100%の範囲内である電池の容量回復方法である。
【0012】
この電池の容量回復方法では、酸素発生排出ステップの開始時の電池温度Ta及びSOCの範囲を規定し、その範囲内から酸素発生排出ステップを行い、負極の放電容量を増加させる。SOC100%以下の状態から酸素発生排出ステップを開始して負極の放電容量を回復させることで、負極の放電容量を目標値まで増加させたときのSOCの値も低くできるので、過充電によるニッケル水素蓄電池へのダメージを無くすまたは少なくできる。
【0013】
一方で、電池温度Taが−30〜10℃の範囲内では、SOC=30−Ta(%)以上の範囲で、或いは、電池温度Taが10〜50℃の範囲内では、SOC20%以上の範囲で酸素発生排出ステップを開始することにより、開始時以降、正極で酸素ガスを確実に発生させる共に、負極の水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることができる。従って、この範囲で充電を開始すると共に、安全弁装置を開弁状態として(開弁させ続けて)発生した酸素ガスを電池外部に排出すれば、リコンビネーション反応を抑え、水素を負極の水素吸蔵合金に吸蔵させることができ、負極の放電容量の回復を効率良く行うことができる。
【0014】
なお、「ニッケル水素蓄電池」としては、電池ケースに1つの電極体を収容した単電池のほか、1つの電池ケース内に複数の電極体を隔壁部を介して配置し、電極体相互を(直接或いは並列に)接続した電池モジュールも挙げられる。
なお、「SOC(State Of Charge)」は、出荷時初期容量における充電量を言う。
【0015】
「電池温度」は、例えば、サーミスタ等の温度センサを電池に取り付けて測定すればよい。
「安全弁装置」は、電池内圧が所定の開弁圧に達したときに開弁し、電池内圧が開弁圧を下回ったときに閉弁する復帰型のものである。そして更に、例えば、電池外部から安全弁を開弁方向に移動させ得る形態としたものが挙げられる。この安全弁装置では、電池外部から安全弁を開弁方向に移動させることで、電池内圧に拘わらず自由なタイミングで開弁及び閉弁を行うことができる。また、電池ケースの外部のうち少なくとも安全弁装置の周囲を減圧して、開弁のタイミング(従って開始時)を調整することもできる。
【0016】
また、他の態様は、正極と負極と復帰型の安全弁装置と水系電解液とを備えるニッケル水素蓄電池について、前記負極の放電容量を増加させる電池の容量回復方法であって、
前記ニッケル水素蓄電池を充電して、前記正極で前記水系電解液から酸素ガスを発生させると共に、前記安全弁装置を開弁状態とし、発生した酸素ガスの少なくとも一部を前記安全弁装置を通じて電池外部に排出する酸素発生排出ステップを備え、前記酸素発生排出ステップの開始時の電池温度Taが−30〜10℃の範囲内で前記開始時のSOCが(40−Ta)〜100%の範囲内、または、前記開始時の電池温度Taが10〜50℃の範囲内で前記開始時のSOCが30〜100%の範囲内である電池の容量回復方法
である。
【0017】
上述の電池温度Ta及びSOCの範囲内で酸素発生排出ステップを開始すると、開始時以降、充電により正極で更に効率良く酸素ガスを発生させることができ、また、負極の水素吸蔵合金に吸蔵させる水素の量も多くできる。従って、この範囲で充電を開始すると共に、安全弁装置を開弁状態として発生した酸素ガスを電池外部に排出すれば、更に多くの水素を負極の水素吸蔵合金に吸蔵させることができ、負極の放電容量の回復を更に効率良く行うことができる。
【0018】
また、他の解決手段は、複数の前記ニッケル水素蓄電池を備える組電池の各々の前記ニッケル水素蓄電池について、上記のいずれかに記載の電池の容量回復方法を行う組電池の容量回復方法であって、前記組電池をなす複数の前記ニッケル水素蓄電池のうち、これらの中央部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を冷却する、及び、前記組電池をなす複数の前記ニッケル水素蓄電池のうち、これらの外側部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を加熱する、の少なくともいずれかを行いつつ、前記酸素発生排出ステップを行う組電池の容量回復方法である。
【0019】
組電池をなすニッケル水素蓄電池のうち、これらの中央部に配置されたニッケル水素蓄電池ほど放熱され難く、外側部に配置されたニッケル水素蓄電池ほど放熱され易いので、組電池内のニッケル水素蓄電池間で電池温度のバラツキが生じる。このように電池温度のバラツキが生じていると、各ニッケル水素蓄電池について同じタイミングで充電及び開弁を開始しても、ニッケル水素蓄電池間で負極の放電容量の回復量に差が生じてしまい好ましくない。また、電池温度が高くなり過ぎると、熱によりニッケル水素蓄電池がダメージを受けることも懸念される。
【0020】
これに対し、この組電池の容量回復方法では、組電池をなす複数のニッケル水素蓄電池のうち、これらの中央部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を冷却する、及び、これらの外側部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を加熱する、の少なくともいずれかを行いつつ、負極の放電容量を回復させる。このようにすることで、ニッケル水素蓄電池間の電池温度のバラツキを抑えることができるので、ニッケル水素蓄電池間で負極の放電容量の回復量がバラつくのを抑制できる。また、高温によりニッケル水素蓄電池がダメージを受けるのを防止できる。
【0021】
また、他の解決手段は、正極と負極と復帰型の安全弁装置と水系電解液とを備えるニッケル水素蓄電池について、前記負極の放電容量を増加させる電池の容量回復装置であって、前記ニッケル水素蓄電池を充電して、前記正極で前記水系電解液から酸素ガスを発生させる充電部と、前記ニッケル水素蓄電池の前記安全弁装置を開弁させる開弁部と、前記ニッケル水素蓄電池の電池温度Taを検知する温度検知部と、前記ニッケル水素蓄電池のSOCを測定するSOC測定部と、前記ニッケル水素蓄電池の電池温度及びSOCに基づいて、前記充電部による充電及び前記開弁部による開弁を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記温度検知部で検知した電池温度Taが−30〜10℃の範囲内で、かつ、前記SOC測定部で測定したSOCが(30−Ta)〜100%の範囲内であることを開始条件とし、前記充電部で前記ニッケル水素蓄電池を充電すると共に、前記開弁部で前記安全弁装置を開弁状態にする、または、電池温度Taが10〜50℃の範囲内で、かつ、SOCが20〜100%の範囲内であることを開始条件とし、前記充電部で前記ニッケル水素蓄電池を充電すると共に、前記開弁部で前記安全弁装置を開弁状態にする電池の容量回復装置である。
【0022】
この電池の容量回復装置は、上述のように、充電部、開弁部、温度検知部、SOC測定部及び制御部を備える。このうち制御部は、電池温度Taが上述の範囲内で、かつ、SOCが上述の範囲内であることを開始条件とし、充電部でニッケル水素蓄電池を充電すると共に、開弁部で安全弁装置を開弁状態にして、負極の放電容量を増加させる。
この電池の容量回復装置によれば、SOC100%以下の状態から充電及び開弁を開始して負極の放電容量を回復させるので、負極の放電容量を目標値まで増加させたときのSOCの値も低くでき、過充電によるニッケル水素蓄電池へのダメージを無くすまたは少なくできる。
【0023】
一方で、電池温度Taが−30〜10℃の範囲内では、SOC=30−Ta(%)以上の範囲で、或いは、電池温度Taが10〜50℃の範囲内では、SOC20%以上の範囲で充電及び開弁を開始するので、開始時以降、正極で酸素ガスを確実に発生させる共に、負極の水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることができる。従って、この範囲で充電を開始すると共に、安全弁装置を開弁状態として発生した酸素ガスを電池外部に排出することで、リコンビネーション反応を抑え、水素を負極の水素吸蔵合金に吸蔵させることができ、負極の放電容量の回復を効率良く行うことができる。
【0024】
また、他の態様は、正極と負極と復帰型の安全弁装置と水系電解液とを備えるニッケル水素蓄電池について、前記負極の放電容量を増加させる電池の容量回復装置であって、
前記ニッケル水素蓄電池を充電して、前記正極で前記水系電解液から酸素ガスを発生させる充電部と、前記ニッケル水素蓄電池の前記安全弁装置を開弁させる開弁部と、前記ニッケル水素蓄電池の電池温度Taを検知する温度検知部と、前記ニッケル水素蓄電池のSOCを測定するSOC測定部と、前記ニッケル水素蓄電池の電池温度及びSOCに基づいて、前記充電部による充電及び前記開弁部による開弁を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、
前記温度検知部で検知した電池温度Taが−30〜10℃の範囲内で、かつ、
前記SOC測定部で測定したSOCが(40−Ta)〜100%の範囲内であることを開始条件とし、前記充電部で前記ニッケル水素蓄電池を充電すると共に、前記開弁部で前記安全弁装置を開弁状態にする、または、電池温度Taが10〜50℃の範囲内で、かつ、SOCが30〜100%の範囲内であることを開始条件とし、前記充電部で前記ニッケル水素蓄電池を充電すると共に、前記開弁部で前記安全弁装置を開弁状態にする電池の容量回復装置
である。
【0025】
上述の電池温度Ta及びSOCの範囲内で電池の充電及び安全弁装置の開弁の両者を開始すると、開始時以降、充電により正極で更に効率良く酸素ガスを発生させることができ、また、負極の水素吸蔵合金に吸蔵させる水素の量も多くできる。従って、この範囲で充電を開始すると共に、安全弁装置を開弁状態として発生した酸素ガスを電池外部に排出することで、更に多くの水素を負極の水素吸蔵合金に吸蔵させることができ、負極の放電容量の回復を更に効率良く行うことができる。
【0026】
また、他の解決手段は、複数の前記ニッケル水素蓄電池を備える組電池の各々の前記ニッケル水素蓄電池について、前記負極の放電容量を増加させる組電池の容量回復装置であって、上記のいずれかに記載の電池の容量回復装置と、前記組電池をなす複数の前記ニッケル水素蓄電池のうち、これらの中央部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を冷却する冷却装置、及び、前記組電池をなす複数の前記ニッケル水素蓄電池のうち、これらの外側部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を加熱する加熱装置の少なくともいずれかと、を備える組電池の容量回復装置である。
【0027】
この組電池の容量回復装置は、前述の電池の容量回復装置の他に、上述の冷却装置及び加熱装置の少なくともいずれかを備える。このため、中央部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を冷却する、及び、外側部に配置された一又は複数のニッケル水素蓄電池を加熱する、の少なくともいずれかを行いつつ、負極の放電容量を回復させることができる。これにより、ニッケル水素蓄電池間の電池温度のバラツキを抑えることができるので、ニッケル水素蓄電池間で負極の放電容量の回復量がバラつくのを抑制できる。また、高温によりニッケル水素蓄電池がダメージを受けるのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施形態1)
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1〜
図3に、本実施形態1に係るニッケル水素蓄電池10(以下、単に電池10とも言う)を示す。また、
図4及び
図5に、この電池10の安全弁装置80を示す。
この電池10は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両などに搭載される角型で密閉型のニッケル水素蓄電池である。この電池10は、直方体状の電池ケース20と、この電池ケース20内に収容された複数(6つ)の電極体30と、電池ケース20に支持された正極端子部材60及び負極端子部材70等から構成された電池モジュールである(
図1〜
図3参照)。
【0030】
このうち電池ケース20は、樹脂により形成されている。この電池ケース20は、上側のみ開口した有底角筒状のケース本体21と、このケース本体21の開口を封口する矩形板状の蓋部材23から構成されている。ケース本体21には、電池ケース20の内部から外部に延出する形態の正極端子部材60と負極端子部材70がそれぞれ固設されている。一方、蓋部材23には、復帰型の安全弁装置80が設けられている。
【0031】
この安全弁装置80は、ゴム製の安全弁81を有する(
図4及び
図3参照)。この安全弁81は、電池内圧が所定の開弁圧(具体的には0.6MPa)未満のときは、電池ケース20の内外を連通する通気孔83を気密に封止した状態を保っている。一方、電池内圧が開弁圧に達すると、自動的に開弁して、電池10(電池ケース20)内のガスGAを通気孔83を通じて電池外部に排出する。詳細には、電池内圧が開弁圧に達すると、その圧力で安全弁81の底部81cが電池外部側に押し上げられて、通気孔83の封止が解除される(
図6参照)。これにより、電池10内のガスGAが通気孔83を通じて電池外部に排出される。
【0032】
なお、この安全弁装置80の安全弁81には、その中心軸に沿って延び、電池外部側に開口するネジ孔82が形成されている。このため、
図5に示すように、このネジ孔82に、先端側にネジ部86を有するボルト85のネジ部86を別途螺挿することで、ボルト85を安全弁81に固定できる。そして、
図6に矢印で示すように、このボルト85を上方に引き上げると、電池内圧が開弁圧に達したときと同様に、安全弁81が電池外部側に持ち上げられて、通気孔83の封止が解除される。つまり、安全弁装置80を強制的に開弁させることができる。
【0033】
電池ケース20の内部は、5つの隔壁部25によって、6つのセル90に仕切られている(
図3参照)。各々のセル90内には、それぞれ電極体30が収容されると共に、水系電解液27が保持されている。電極体30は、正極31と負極41と袋状のセパレータ51から構成されている。正極31は、袋状のセパレータ51内に挿入されており、セパレータ51内に挿入された正極31と負極41とが交互に積層されている。各セル90内に位置する正極31及び負極41は、それぞれ集電されて、これらが直列に接続されると共に、前述の正極端子部材60及び負極端子部材70に接続されている。正極31は、水酸化ニッケルを含む活物質と、発泡ニッケルからなる活物質支持体とを有する電極板である。また、負極41は、水素吸蔵合金を負極構成材として含む電極板である。また、セパレータ51は、親水化処理された合成繊維からなる不織布である。また、水系電解液27は、KOHを含む比重1.2〜1.4のアルカリ水溶液である。
【0034】
この電池10は、各々のセル90の正極容量AEがAE=6.5Ah、負極容量BEがBE=11.0Ahである(
図7参照)。なお、
図7は、出荷時初期の電池10(各セル90)における正極容量AEと負極容量BEとの関係を模式的に示す。この図では、正極容量AE及び負極容量BEをそれぞれ縦長の帯の長さで表している。
【0035】
この電池10は、正極規制の状態であり、各々のセル90の電池容量(出荷時初期容量)が6.5Ahである。即ち、SOC(State Of Charge)100%=6.5Ahである。また、正極31の充電容量AC及び放電容量ADは、正極容量AEに等しく、AC=AD=AE=6.5Ahである。一方、負極41の充電容量BCはBC=8.5Ahであり、このうち充電リザーブ容量BCRはBCR=2.0Ahである。また、負極41の放電容量BDはBD=9.0Ahであり、このうち放電リザーブ容量BDRはBDR=2.5Ahである。
【0036】
ここで、負極41の放電リザーブ容量BDRの測定方法について説明する。まず出荷時初期の未使用の電池10を複数用意し、これらの電池10について、電池電圧が1.0Vになるまで放電した後、電池10内に水系電解液27を補充して水系電解液27が過剰に存在する状態とする。その後、各セル90内の水系電解液27中にHg/HgO参照極(図示しない)を配設して、放電容量を測定しながら各電池10を過放電させた。そして、次式に基づいて負極41の放電リザーブ容量BDRを算出した。
放電リザーブ容量BDR=(参照極の電位に対する負極41の電位が−0.7Vになるまでの放電容量)−(参照極に対する正極31の電位が−0.5Vになるまでの放電容量)
【0037】
その結果、各セル90の負極41の放電リザーブ容量BDRの初期値は、前述のように、平均してBDR=2.5Ahであった。また、正極容量AE=6.5Ahであるので、負極41の放電容量BDは、BD=6.5+2.5=9.0Ahと求められる。また、負極41の充電容量BCは、BC=11.0−2.5=8.5Ah、充電リザーブ容量BCRは、BCR=8.5−6.5=2.0Ahとそれぞれ求められる。
【0038】
(劣化した状態の電池の作製)
次に、負極41の放電容量BDを強制的に減少させた電池10を作製する。具体的には、出荷時初期の未使用の電池10を複数用意し、これらの電池10について電池ケース20に穴をあけ、電池ケース20内に強制的に酸素を注入して、負極41の放電容量BDを減少させる。なお、電池ケース20にあけた穴は酸素注入後に閉塞する。
その後、これらの電池10について、各セル90の負極41の放電容量BDを調査したところ、放電リザーブ容量BDRは無くなっており(BDR=零)、放電容量BDが平均して初期の9.0Ahから2.5Ah減ってBD=6.5Ahであった(
図8参照)。
【0039】
(電池の容量回復試験)
次に、上述の劣化させた(負極41の放電容量BDを減少させた)電池10を複数(88個)用意し、これらについて、負極41の放電容量BDを増加(回復)させる電池の容量回復試験を行った。具体的には、各電池10を充電して、正極31で水系電解液27から酸素ガスを発生させると共に、安全弁装置80を開弁させて、発生した酸素ガスの少なくとも一部を安全弁装置80を通じて電池外部に排出して、負極41の放電容量BDを増加させた。
【0040】
電池10は、充電すると、後述するようにSOCがある程度高い状態では、次の反応が生じる。なお、「M」は、水素吸蔵合金を示す。
(正極)OH
- → 1/4O
2+1/2H
2O+e
- …(1)
(負極)M+H
2O+e
- → MH+OH
- …(2)
MH+1/4O
2 → M+1/2H
2O …(3)
【0041】
式(1)の正極31で発生した酸素ガスO
2 の少なくとも一部を、開弁した安全弁装置80を通じて電池外部に排出すると、負極41では、式(2)の反応が進行して水素Hが吸蔵される一方、式(3)の反応が抑制されるので、水素Hの放出が抑制される。従って、電池10を充電すると、
図9に破線のハッチングで模式的に示すように、負極41の充電部分の容量が増加する。その結果、負極41の放電容量BDを増加させることができる(
図10参照)。なお、
図9及び
図10では、正極31及び負極41の充電部分の容量をハッチングで示している。
例えば、負極41に充電リザーブ容量BCRが再び生じるまで、具体的には、放電リザーブ容量BDRがBDR=2.5Ahに回復するまで、放電容量BDをBD=6.5Ahから2.5Ah増加させてBD=9.0Ahとする。
【0042】
この電池の容量回復試験は、
図11に示す電池の容量回復装置100を用いて行った。この電池の容量回復装置100は、充放電部120、温度検知部130、SOC測定部140、制御部150及び開弁部160を備える。このうち、充放電部120、温度検知部130の温度検知部本体131、SOC測定部140及び制御部150によって、充電制御装置110が構成されている。
【0043】
このうち充放電部120は、接続ケーブル121,123を通じて、電池10の正極端子部材60及び負極端子部材70に接続されている。これにより、この充放電部120によって電池10を充放電できる。また、この充放電部120は、電池10を充電したときの充電電気量、及び、電池10を放電させたときの放電電気量を測定できる構成とされている。なお、この充放電部120は、前述の「充電部」に相当する。
【0044】
温度検知部130は、温度検知部本体131とこれに接続する温度センサ133とを有する。温度センサ133は、電池10に取り付けられ、電池温度Taに対応した信号を温度検知部本体131へ送信し、この信号に基づいて温度検知部本体131が電池温度Taを検知する。また、この温度検知部本体131は、充電制御装置110内で制御部150に接続されており、電池温度Taの情報を制御部150に送信できる。
【0045】
SOC測定部140は、充放電部120で充放電した充電電気量及び放電電気量に基づいて、電池10の現在のSOCを算出する。また、このSOC測定部140は、充電制御装置110内で制御部150に接続されており、SOCの情報を制御部150に送信できる。
【0046】
制御部150は、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロコンピュータであり、所定のプログラムにより駆動される。この制御部150は、充放電部120と接続されており、この制御部150によって、充放電部120による電池10の充電を制御できる。また、制御部150は、次述する開弁部160と接続されており、この制御部150によって、開弁部160による安全弁装置80の開弁を制御できる。
【0047】
開弁部160は、電池内圧が開弁圧に達しているか否かに拘わらず、安全弁装置80を強制的に開弁可能に構成された装置である。この開弁部160は、モータ161とワイヤ163とボルト85とを有する。ボルト85は、前述のように、安全弁装置80の安全弁81のネジ孔82に固定される(
図5及び
図6参照)。また、このボルト85は、ワイヤ163を介してモータ161に接続されている(
図11参照)。これにより、モータ161を駆動して、ワイヤ163を上方に引っ張ると、ボルト85が引き上げられ、安全弁81が持ち上げられて、通気孔83の封止が解除されるので、強制的に安全弁装置80を開弁させることができる。そして、充電により正極31で発生した酸素ガスの少なくとも一部を、安全弁装置80の通気孔83を通じて電池外部に排出できる。
【0048】
この電池の容量回復試験では、上述の電池の容量回復装置100を用いて、前述の強制劣化させた(負極41の放電容量BDを減少させた)88個の電池10について、電池温度及びSOCの様々な条件で、充電により負極41の放電容量BDを増加させた。即ち、充電及び開弁の両者の開始時の電池温度Taを、10℃間隔で−30〜40℃のいずれかとした。また、充電及び開弁の両者の開始時のSOCを、10%間隔で0〜100%のいずれかとした。
【0049】
そして、上記のいずれかの条件で各電池10の充電を開始して、正極31で水系電解液27から酸素ガスを発生させると共に、安全弁装置80を開弁させて、発生した酸素ガスの少なくとも一部を安全弁装置80を通じて電池外部に排出して、負極41の放電容量BDを増加させた。なお、いずれの電池10についても、充電電流値を3.0Cの一定電流値とし、また、充電量を3.85Ahとした。
【0050】
試験後の各電池10について、負極41の放電容量BDを測定し、試験前後の放電容量BDの容量増加量(Ah)をそれぞれ求めた。そして、放電容量BDの目標回復量に対する回復効率(%)をそれぞれ算出した。具体的には、前述の充電量(3.85Ah)を充電することにより、負極41の放電容量BDを最大で2.5Ah増加させることができるので、放電容量BDの増加が2.5Ahであるときを基準(目標回復量:回復効率100%)として、各々の電池10の回復効率を算出した。なお、目標回復量(=2.5Ah)は、電池温度Ta=25℃、SOC100%から3.85Ah分の過充電を行い、安全弁装置80は自然開弁(電池内圧が開弁圧に達することで開弁)させたときに増加(回復)する放電容量である。
その結果を表1に示す。なお、負極41の放電容量BDの回復効率が80%以上であった電池10を特に良好(表1中に「○」で示す)、回復効率が50〜80%であった電池10を良好(表1中に「△」で示す)、回復効率が50%未満しかなかった電池10を不良(表1中に「×」で示す)と評価した。
【0052】
表1から明らかなように、電池の容量回復試験において、充電及び開弁開始時の電池温度Taが−30〜10℃の範囲内では、SOCが(40−Ta)〜100%の範囲内で、負極41の放電容量BDの回復効率が特に良好(○印)であった。また、電池温度Taが10〜50℃の範囲内では、SOCが30〜100%の範囲内で、特に良好((○印)であった。
また、電池温度Taが−30〜10℃の範囲内では、SOCが30−Ta(%)で、負極41の放電容量BDの回復効率が良好(△印)であった。また、電池温度Taが10〜50℃の範囲内では、SOCが20%でも、良好(△印)であった。
【0053】
これらに対し、電池温度Taが−30〜10℃の範囲内で、かつ、SOCが0〜(20−Ta)%の範囲内では、負極41の放電容量BDの回復効率が不良(×印)であった。また、電池温度Taが10〜50℃の範囲内で、かつ、SOCが0%または10%でも、不良(×印)であった。これらの結果から、充電及び開弁開始時の電池温度Ta及びSOCを△印の範囲、更には○印の範囲内として、充電及び開弁を開始すれば、良好な負極41の放電容量BDの回復効率を得られることが判る。
【0054】
(実施例)
次いで、本実施形態1に係る電池の容量回復装置100を用いた電池の容量回復方法について、
図12及び
図13を参照しつつ説明する。前述のように負極41の放電容量BDが減少した電池10を用意し、これを前述の電池の容量回復装置100にセットする。具体的には、電池10の正極端子部材60及び負極端子部材70を、接続ケーブル121,123により充電制御装置110の充放電部120に接続する。また、電池10に温度センサ133を取り付け、温度センサ133を充電制御装置110の温度検知部本体131に接続する。更に、電池10の安全弁装置80にボルト85を取り付け、ボルト85とモータ161をワイヤ163を介して接続する。
【0055】
そして、
図12に示すように、まずステップS1において、電池10の電池温度TaとSOCを調整する。具体的には、
図13に示すように、まずステップS11において、電池10の現在の電池温度Taを測定する。この電池温度Taは、前述のように、電池10に取り付けた温度センサ133で測定され、充電制御装置110内の温度検知部本体131で検知される。
次に、ステップS12に進み、電池10の現在のSOCを測定する。このSOCは、前述のように、充電制御装置110のSOC測定部140で算出される。
【0056】
次に、ステップS13に進み、ステップS11及びステップS12で得られた電池温度Ta及びSOCが、所定の開始条件を満たしているか否かを判断する。本実施例では、この開始条件は、電池温度Taが−30〜10℃の範囲内で、かつ、SOCが(40−Ta)〜100%の範囲内、または、電池温度Taが10〜50℃の範囲内で、かつ、SOCが30〜100%の範囲内である。
【0057】
ステップS13でNO(開始条件を満たさない)と判断された場合には、ステップS14に進む。そして、ステップS14において、電池10の電池温度Taを調整する。具体的には、本実施例では、20℃の環境下において、この容量回復方法を行っているので、放置により時間が経つにつれて電池温度Taが20℃に近づいていく。
次に、ステップS15に進み、電池10のSOCを調整する。即ち、充放電部120により電池10を充電しまたは放電させて、電池10のSOCが前述の範囲に含まれるように調整する。その後、ステップS11に戻る。
【0058】
一方、ステップS13でYES(開始条件を満たす)と判断された場合には、ステップS2の酸素発生排出ステップを行う(
図12参照)。このステップS2では、電池10を充電して、正極31で水系電解液27から酸素ガスを発生させると共に、安全弁装置80を開弁させて、発生した酸素ガスの少なくとも一部を安全弁装置80を通じて電池外部に排出する。
【0059】
具体的には、まず
図13に示すステップS21において、充放電部120により電池10の充電を行う。なお、前述のステップS15のSOCの調整において、電池10を充電した場合には、このステップS21では、その充電を継続して行うことになる。一方、ステップS15を行わなかった場合や、ステップS15で電池10を放電させた場合には、このステップS21において、充電を開始することとなる。なお、本実施例では、充電電流値を3.0Cの一定電流値とする。
【0060】
次に、ステップS22に進み、電池10の安全弁装置80を開弁部160により強制的に開弁させる。具体的には、開弁部160をなすモータ161を駆動して、ワイヤ163及びボルト85を介して安全弁81を持ち上げ、通気孔83の封止を解除して、安全弁装置80を開弁状態とする。
【0061】
次に、ステップS23に進み、ステップS21で充電を開始して以降の現在の充電量が、目標充電量(例えば3.85Ah)に達したか否かを判断する。なお、この目標充電量=3.85Ahは、放電容量BDを最大で2.5Ah増加させて、現在のBD=6.5AhからBD=9.0Ahに増やすことができる充電量である。
ここで、YES、即ち、現在の充電量が目標充電量に達したと判断された場合には、ステップS27に進み、充電を終了すると共に閉弁する。一方、NO、即ち、現在の充電量がまだ目標充電量に達していないと判断された場合には、引き続き充電を行う。かくして、負極41の放電容量BDを所望の容量増加(回復)させることができる。
【0062】
以上で説明したように、電池の容量回復方法では、電池の容量回復装置100を用いて、電池温度Taを−30〜10℃の範囲内とすると共に、SOCを(30−Ta)〜100(%)の範囲内として、酸素発生排出ステップS2を開始し、負極41の放電容量をBD増加させる。または、電池温度Taを10〜50℃の範囲内とすると共に、SOCを20〜100(%)の範囲内として、酸素発生排出ステップS2を開始し、負極41の放電容量BDを増加させる。
【0063】
SOC100%以下の状態から充電を開始して負極41の放電容量BDを回復させることで、負極41の放電容量BDを目標値まで増加させたときのSOCの値も低くできるので、過充電による電池10へのダメージを無くすまたは少なくできる。
一方で、電池温度Taが−30〜10℃の範囲内では、SOC=30−Ta(%)以上の範囲で、或いは、電池温度Taが10〜50℃の範囲内では、SOC20%以上の範囲で充電を開始することにより、開始時以降、正極31で酸素ガスを確実に発生させる共に、負極41の水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることができる。従って、この範囲で充電を開始すると共に、安全弁装置80を開弁させ続けて発生した酸素ガスを電池外部に排出すれば、リコンビネーション反応を抑え、水素を負極41の水素吸蔵合金に吸蔵させることができ、負極41の放電容量BDの回復を効率良く行うことができる。
【0064】
特に、電池温度Taが−30〜10℃の範囲内では、SOC=40−Ta(%)以上の範囲で、或いは、電池温度Taが10〜50℃の範囲内では、SOC30%以上の範囲で酸素発生排出ステップS2を開始すると、開始時以降、充電により正極31で更に効率良く酸素ガスを発生させることができ、また、負極41の水素吸蔵合金に吸蔵させる水素の量も多くできる。従って、この範囲で充電を開始すると共に、安全弁装置80を開弁させ続けて発生した酸素ガスを電池外部に排出すれば、更に多くの水素を負極41の水素吸蔵合金に吸蔵させることができ、負極41の放電容量BDの回復を更に効率良く行うことができる。
【0065】
(実施形態2)
次いで、第2の実施の形態について説明する。本実施形態2に係る組電池の容量回復方法は、複数の電池10を備える組電池200の各々の電池10について、負極41の放電容量BDを増加させる点が、1つの電池10について負極41の放電容量BDを増加させる実施形態1の電池の容量回復方法と異なる。また、本実施形態2に係る組電池の容量回復装置300は、冷却装置310及び加熱装置320を備える点が、実施形態1の電池の容量回復装置100と異なる。それ以外は、実施形態1と同様であるので、実施形態1と同様な部分の説明は、省略または簡略化する。
【0066】
まず、前述の電池10を複数有する組電池200について説明する(
図14参照)。この組電池200は、列置方向BHに一列に列置された複数の電池10と、これらを押圧しつつ拘束する拘束部材210とを備える。なお、
図14においては、電池10の正極端子部材60及び負極端子部材70の記載を省略してある。
【0067】
複数の電池10は、電池厚み方向(列置方向BH)に列置されており、隣り合う電池10同士は、図示しないバスバにより相互に電気的に直列に接続されている。拘束部材210は、一対のエンドプレート211と、4本の拘束ロッド213と、8個のナット215とを有する。エンドプレート211は、矩形板状をなし、列置された電池10の両側にそれぞれ配置されている。拘束ロッド213は、その両端にそれぞれ雄ネジが形成され、一対のエンドプレート211,211の間に配置されて、ナット215でエンドプレート211,211同士の間を締結している。
【0068】
次に、本実施形態2に係る組電池の容量回復装置300について説明する。この組電池の容量回復装置300は、実施形態1に係る電池の容量回復装置100(
図11参照)に加え、冷却装置310と加熱装置320(
図14参照)を備える。これら冷却装置310及び加熱装置320は、充電制御装置110に接続され、充電制御装置110によって制御される。
【0069】
このうち冷却装置310は、冷却風RFを電池10に吹き付けることが可能な送風装置であり、組電池200の列置方向BH中央の上方及び下方にそれぞれ配置されている。これにより、冷却装置310によって、組電池200をなす電池10のうち、これらの中央部CBに配置された複数の電池10(電池10A)を冷却できる。
また、加熱装置320は、ヒータであり、組電池200の列置方向BHの外側、具体的には、エンドプレート211,211に接してそれぞれ外側に配置されている。これにより、加熱装置320によって、組電池200をなす電池10のうち、これらの外側部SBに配置された複数の電池10(電池10B)を加熱できる。
【0070】
次に、この組電池の容量回復装置300を用いた組電池の容量回復方法について説明する。まず、各々の電池10が前述のように負極41の放電容量BDが減少した組電池200を用意し、これを容量回復装置300にセットする。この組電池200は、搭載していた車両から取り外したため、その中央部SBに位置する電池10Aは温度が高い。一方、外側部SBに位置する電池10Bは、放熱により冷却され易く低温となる。
【0071】
そこで、実施形態1と同様に(
図12参照)、ステップS1において、組電池200を構成する各電池10の電池温度TaとSOCを調整する。具体的には、冷却装置310を用いて中央部CBに位置する電池10Aを冷却すると共に、加熱装置320を用いて外側部SBに位置する電池10Bを加熱し、電池10A,10Bを含む組電池200をなす各電池10の電池温度Taを20〜40℃の範囲内にする。また、組電池200を充電してまたは放電させて、組電池200をなす各電池10をSOC30%に調整する。
【0072】
次に、実施形態1と同様に(
図13参照)、ステップS2の酸素発生排出ステップを行う。但し、本実施形態2では、この酸素発生排出ステップS2においても、冷却装置310で組電池200の中央部CBに配置された電池10Aを冷却すると共に、加熱装置320で組電池200の外側部SBに配置された電池10Bを加熱しつつ行う。かくして、組電池200を構成する各電池10の負極41の放電容量BDを所望の容量増加(回復)させることができる。
【0073】
組電池200をなす電池10のうち、これらの中央部CBに配置された電池10Aほど放熱され難く、外側部SBに配置された電池10Bほど放熱され易いので、組電池200内で電池10間で電池温度のバラツキが生じる。このような電池温度のバラツキが生じると、各電池10について同じタイミングで充電及び開弁を開始しても、電池10間で負極41の放電容量BDの回復量に差が生じてしまう。また、電池温度が高くなり過ぎると、熱により電池10がダメージを受けることも懸念される。
【0074】
これに対し、組電池の容量回復装置300を用いた組電池の容量回復方法では、組電池200をなす複数の電池10のうち、これらの中央部CBに配置された複数の電池10Aを冷却すると共に、これらの外側部SBに配置された複数の電池10Bを加熱しつつ、負極41の放電容量BDを回復させる。このようにすることで、電池10間の電池温度のバラツキを抑えることができるので、電池10間で負極41の放電容量BDの回復量がバラつくのを抑制できる。また、高温により電池10がダメージを受けるのを防止できる。
【0075】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上述の実施形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態1,2では、樹脂製の電池ケース20を備える電池10を対象にして、負極41の放電容量BDを増加(回復)させたが、電池ケースが樹脂以外の材質からなるニッケル水素蓄電池についても同様に、負極の放電容量BDを増加させることができる。
【0076】
また、実施形態1では、ステップS1において電池10の電池温度Taを20℃に、SOCをSOC30%に調整した。また、実施形態2では、ステップS1において組電池200をなす各電池10の電池温度Taを20〜40℃の範囲内に、SOCをSOC30%に調整したが、これに限られない。電池温度Taを−30〜10℃の範囲内とするときは、SOCを(30−Ta)〜100%の範囲内に調整すれば良く、また、電池温度Taを10〜50℃の範囲内とするときは、SOCを20〜100%の範囲内に調整すれば良い。更に、電池温度Taを−30〜10℃の範囲内とするときは、SOCを(40−Ta)〜100%の範囲内に調整するのがより好ましく、また、電池温度Taを10〜50℃の範囲内とするときは、SOCを30〜100%の範囲内に調整するのがより好ましい。
このように、電池10毎に、開弁すべき最適なSOCが判る。そのため、例えば、車両に搭載している電池10の負極41の放電容量BDを、温度条件の調整し難い場所(屋外等)で回復させたいときでも、開弁すべきSOCが判るため、好適に回復させることができる。
【0077】
また、電池10の充電及び開弁の終了についても適宜変更できる。実施形態1,2では、負極41に放電リザーブ容量BDRが再び生じるまで、具体的には、回復前は零であった放電リザーブ容量BDRが、元のBDR=2.5Ahに回復するまで、充電及び開弁を行って、放電容量BDを回復前のBD=6.5Ahから2.5Ah増加させてBD=9.0Ahとした場合を示したが、これに限られない。例えば、回復が十分ではないが、放電容量BDを回復前のBD=6.5Ahから2.0Ah増加させて、出荷時初期のBD=9.0Ahよりも少ないBD=8.5Ahまで回復させてもよい。
【0078】
また、実施形態1,2では、劣化により負極41の放電容量BDが減って放電リザーブ容量BDRがちょうど無くなった電池10を対象にして、負極41の放電容量BDを増加(回復)させたが、これに限られない。例えば、出荷時初期よりは負極41の放電容量BDが減ったものの、放電リザーブ容量BDRがまだ残っている電池や放電リザーブ容量BDRが零になり、さらには負極規制となっている電池を対象にして、負極41の放電容量BDを増加(回復)させてもよい。