(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728545
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】耐塩害セメント硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20150514BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20150514BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20150514BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20150514BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20150514BHJP
C04B 7/19 20060101ALI20150514BHJP
C04B 111/23 20060101ALN20150514BHJP
C04B 111/24 20060101ALN20150514BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
C04B22/08 A
C04B40/02
C04B7/19
C04B111:23
C04B111:24
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-197017(P2013-197017)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-63420(P2015-63420A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2014年12月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229128
【氏名又は名称】ゼニス羽田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】石田 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】大森 清武
【審査官】
相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−217197(JP,A)
【文献】
特開2010−285290(JP,A)
【文献】
特開2010−285293(JP,A)
【文献】
特開2013−047154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00〜28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグを主体としたセメント硬化体であって、
高炉スラグ粉末70〜93質量%、遊離石灰、無水石膏を含み、化学成分で1〜15質量%の酸化アルミニウムを含む石灰・石膏複合物2〜20質量%、ポルトランド系セメント5〜28質量%から成るセメント系結合材を蒸気養生したことを特徴とする、
耐塩害セメント硬化体。
【請求項2】
塩化物イオン拡散係数が0.3cm2/年以下であることを特徴とする、請求項1に記載の耐塩害セメント硬化体。
【請求項3】
蒸気養生温度が40〜65℃であることを特徴とする、請求項1に記載の耐塩害セメント硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント硬化体に関し、より詳細には耐塩害性、耐酸性の特性を有する高炉スラグを主体としたセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポルトランドセメント硬化体に比較して、高炉セメント(高炉スラグ粉末は70質量%以下)、或いは高炉スラグ粉末を多く含有したセメント硬化体は耐塩害性および耐酸性に優れていることが知られている。
特に、コンクリートとして細骨材に高炉スラグ細骨材を使用した高炉セメント、或いは高炉スラグ粉末系コンクリートは、耐硫酸性が優れたものとなる(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−281057号公報
【特許文献2】特開2010−1208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のセメント硬化体にはつぎのような課題がある。
<1>実際にコンクリートが使用される厳しい環境条件下では、通常の高炉セメントに更に耐塩害性、耐酸性の向上が要求される。
このため、水硬性セメント組成物中の高炉スラグ粉末の比率を増大させた配合で硬化体を得ようとするが、高炉スラグ粉末に若干のポルトランドセメントを加えたものでは強度発現性が悪い。
<2>水硬性セメント組成物の耐塩害、耐酸の性能を向上させるためには、高炉スラグ粉末の割合を70質量%以上にする必要がある。
その一方で、高炉スラグ粉末の割合を70質量%以上にすると、混和するポルトランドセメントの割合が低くなるために強度発現性が悪くなって、所望する耐塩害性、耐酸性の特性が得られていない。
<3>このため、様々な改良が模索されているが、密実な高強度のセメント硬化体は得られていない。
<4>通常のポルトランドセメントの製造時に発生する二酸化炭素は、セメント1トン当たり焼成燃料から350kg/トン、原料の石灰石の脱炭酸から450kg/トン、合計約750kg/トンにもおよぶ。
二酸化炭素は地球温暖化の要因とみなされ、国内だけでなく世界規模で二酸化炭素の低減が強く求められている。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、耐塩害性、耐酸性の特性を有する密実なセメント硬化体を短時間に製造できる、高炉スラグ粉末を主体とした耐塩害セメント硬化体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
水硬性セメント組成物の耐塩害、耐酸の性能を向上させるためには、高炉スラグ粉末の割合を70質量%以上にする必要があるが、混和するポルトランドセメントの割合が低くなるため強度発現が悪くなり、目的の耐塩害、耐酸の特性も得られない。
この問題の解決のために、本発明者は、石灰・石膏複合物を一定量、高炉スラグ粉末とポルトランドセメントに混和し、低温蒸気養生することにより強度発現性が良く、塩化物イオンの浸透が少ない、耐硫酸性のセメント硬化体を見出したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は少なくとも次のひとつの効果を奏する。
<1>高炉スラグ粉末を主体とした、海水・防凍剤等の塩害、硫酸が存在する環境下においても耐久性のあるセメント硬化体を提供できる。
<2>本発明で使用するセメント結合材である大量の高炉スラグ粉末は、鉄鋼生産時の廃棄物を有効活用するものであるから、セメント系結合材の製造時に二酸化炭素の排出が著しく少ない。
したがって、従来と比べて二酸化炭素の排出量を大幅に削減できて、地球環境の保護にも大きく貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0009】
<1>セメント硬化体の組成
本発明に係るセメント硬化体は、高炉スラグ粉末を主体とし、これに石灰・石膏複合物、およびポルトランド系セメントを含むセメント系結合材を蒸気養生したものである。
セメント硬化体の組成配合は、高炉スラグ粉末が70〜93質量%、石灰・石膏複合物が2〜20質量%、ポルトランド系セメントが5〜28質量%からなるセメント系結合材を、40〜65℃にて蒸気養生したものである。
【0010】
<2>高炉スラグ粉末
耐塩害、耐酸性を得るためには高炉スラグ粉末は70質量%以上(70〜93質量%)必要である。
【0011】
本発明で用いる高炉スラグ粉末は、粉末度がブレーン比表面積で3000〜10000cm
2/gのものを使用でき、JIS A 6206に規定されている高炉スラグ粉末でも良い。
【0012】
<3>ポルトランド系セメント
混和するポルトランド系セメントは通常の普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等を含む。
【0013】
ポルトランド系セメントは5〜28質量%が好適である。
ポルトランド系セメントは5質量%以下では強度発現が悪くなり、28質量%以上では耐塩害の効果が減じる。
【0014】
<4>石灰・石膏複合物
混和する石灰・石膏複合物は、遊離石灰、無水石膏を相当量含有し、化学成分として1〜15質量%の酸化アルミニウム(Al2O
3)を含む。
高温焼成品、あるいは、一部混合品でも良い。
粉末度はブレーン比表面積で2000〜5000cm
2/gのものが良い。
コンクリート用膨張材にはこの組成を満足するものもあり、使用可能である。
遊離石灰、無水石膏は水和時に高炉スラグ粉末に刺激を与え、反応性を良好にしてスラグの水和を促進させ、密実な組織を作り、セメント硬化体の強度を増進させる。
酸化アルミニウム成分を含む石灰アルミナ系鉱物は初期強度発現に寄与する。
酸化アルミニウム成分が1質量%以下では効果がほとんど無く、酸化アルミニウム成分が15質量%以上になると硬化が早すぎて成形作業が困難となる。
【0015】
さらに石灰、酸化アルミニウム成分を含む石灰・石膏複合物を用いるのは、セメント硬化体に外部から塩分が侵入しようとした際、フリーデル氏塩(3CaO・Al2O3・CaCl2・10H2O)を生成し、塩化物イオンを固定化して硬化体内部への浸透を防ぎ耐塩害の性能を発揮させるためである。
【0016】
石灰・石膏複合物は2〜20質量%か好適である。
石灰・石膏複合物が2質量%以下では強度および密実性の向上、塩化物イオンの侵入防止に効果が無く、20質量%以上では膨張過多によりコンクリート硬化体の物性に大きな悪影響を及ぼす。
【0017】
<5>骨材
本発明に用いる骨材は、通常の天然の粗骨材、細骨材も使用可能であるが、耐酸性向上の観点にたてば細骨材として高炉スラグ細骨材を用いることが望ましい。
【0018】
<6>水とセメント系結合材の比率
水とセメント系結合材の比率は、セメント系結合材に対し、水は45%以下である。45%を超えると良好な耐塩害セメント硬化体を得ることがきわめて困難となる。
【0019】
<7>蒸気養生
本発明では養生手段として低温による蒸気養生を用いる。
耐塩害セメント硬化体製造時の初期材齢(18時間まで)の具体的な蒸気養生温度は40〜65℃に保たれなければならない。
常温養生では強度発現性が悪く、また65℃以上の蒸気養生ではセメント組成物の水和物が安定せず、完成したセメント硬化体の物性に悪影響が出るだけでなく、養生後の脱型枠時にひび割れが発生しやすい。
【0020】
<8>塩化物イオン拡散係数
既述した配合と上記養生法を経て製造したセメント硬化体の塩化物イオン拡散係数は0.3cm
2/年以下となる。
通常の一般コンクリートの塩化物イオン拡散係数は1cm
2/年であるから、本発明では一般コンクリートと比較し、著しく良好な耐塩害セメント硬化体が得られる。
【0021】
なお、本発明における塩化物イオン拡散係数の測定は、土木学会の「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法(案)」(JSCE−G−572−2010)に準じて行なった。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0023】
<1>使用材料
使用材料は次の材料を用いた。(数字は密度)
【0024】
<2>供試体
上記材料を使用し、表1に示した各種コンクリート配合で練混ぜ、養生条件を変化させてセメント硬化体の供試体を製造した(実施例1〜3、比較例1〜6)。
【0025】
【表1】
【0026】
<3>供試体の試験結果
各供試体の圧縮強度および塩化物イオンの浸透深さの試験結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
塩化物イオンの浸透深さの試験は、前述のJSCE.G572.2010 に準じ、濃度10%の塩化ナトリウム水溶液中に供試体を浸せきし、浸せき期間6ヶ月で表面からの塩化物イオン浸透深さを測定した。
実施例1,2,3に示されるように本発明のセメント硬化体は、初期材齢においても高い圧縮強度を示し、塩化物イオン浸透深さの小さいものが得られていることが確認できた。
比較例1に示されるように石灰・石膏複合物を混和していないものは、強度も低く、塩化物イオンの浸透深さが大きい。
また、比較例2に示されるように石灰・石膏複合物に変え無水石膏を使ったものは、混和効果が現れていない。
【0029】
<4>塩化物イオン拡散係数試験
実施1と比較例6のコンクリート配合により得られた供試体を前述のJSCE.G572−2010 に準じて、濃度10%の塩化ナトリウム水溶液中に浸せきし、浸せき期間12ヶ月で塩化物イオン拡散係数を測定した。
その試験結果はつぎのとおりである。
本発明のセメント硬化体では塩化物イオンの浸透が著しく小さかったことが確認できた。
【0030】
<5>耐硫酸試験
実施例1と比較例6のコンクリート配合により得られた供試体を日本下水道事業団「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」に準じ、供試体脱型後14日水中養生した後、5%硫酸液に浸せきし質量変化を測定した。その試験結果を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
本発明の実施例1の供試体は、二水石膏の析出生成により若干質量が増加しているが、硫酸で溶解してはいない。
これに対し、比較6の供試体は表面から硫酸に溶解し大きく質量が減少していることが確認された。