(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728685
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】黒色化成皮膜生成処理液、それによる金属部材の処理方法、及び処理された金属部材
(51)【国際特許分類】
C23C 22/53 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
C23C22/53
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-117888(P2011-117888)
(22)【出願日】2011年5月26日
(65)【公開番号】特開2012-36496(P2012-36496A)
(43)【公開日】2012年2月23日
【審査請求日】2014年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2010-159773(P2010-159773)
(32)【優先日】2010年7月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】堀江 秀和
(72)【発明者】
【氏名】盛田 暁生
(72)【発明者】
【氏名】田園 優作
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−328483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)バナジウム化合物と(B)有機硫黄化合物と(C)塩素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオンならびにホウ素イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含有し、(D)クロムを含まず、しかも該有機硫黄化合物の濃度が2g/L以上であることを特徴とする黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項2】
前記有機硫黄化合物が一分子中に硫黄原子とカルボキシル基のいずれか1種以上を二つ以上含む請求項1記載の黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項3】
前記有機硫黄化合物が一分子中にジスルフィド基を含有する請求項1又は2記載の黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項4】
請求項1記載の有機硫黄化合物がカルボチオ酸またはその塩である黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項5】
請求項1記載の有機硫黄化合物がチオ尿素類である黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項6】
更にFe、Mg、Zn、Ca、Y、La、Ce、Mo、Al、Zr、Mn、Ni、Coから選ばれる1種以上の金属を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項7】
更にケイ素化合物を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項8】
更に分子中に硫黄を含まない有機酸またはその塩を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項9】
前記有機酸が2価以上の多価カルボン酸、オキシカルボン酸またはそれらの塩である請求項8記載の黒色化成皮膜生成処理液。
【請求項10】
金属部材を請求項1〜9のいずれか1項に記載の黒色化成皮膜生成処理液に浸漬することによりノンクロム黒色化成皮膜を形成する方法。
【請求項11】
前記金属部材が亜鉛または亜鉛鉄合金めっきである請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法を実施した後に無機、有機若しくは有機無機複合のコーティング処理を1回または複数回行うことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法を施した金属部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材、特に電解亜鉛めっき皮膜に対し、耐食性に優れた均一な外観を有するクロムフリー黒色皮膜を安定的に形成させるための表面処理液、及び、その表面処理方法、並びに、表面処理後のオーバーコート処理を含めた表面処理方法に関するものである。また、これらの表面処理方法によって得られた部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部材に対し耐食性を向上させる目的で六価クロムや三価クロムを含有する化成処理液と接触させることにより防錆皮膜を形成させる処理を施すことがある。しかし、六価クロムは人体や環境に対して有害性が高い為、近年になりその使用が大きく制限されてきている。さらに六価クロムの代替えとして登場した三価クロムを用いる防錆方法に関しても、三価クロムから六価クロムが生成される懸念があり、より積極的なグリーン調達を望む観点からも完全なクロムフリー処理が求められるようになってきた。
【0003】
三価クロムを含有する化成処理液を使用して黒色の防錆皮膜を形成させる処理は例えば特開2003−268562号には三価クロムと無機酸とコバルト及び/又はニッケルとキレート剤からなる、特開2005−206872号には三価クロムと無機酸と硫黄の化合物からなる黒色皮膜生成処理が開示されている。また、亜鉛系めっき部材に対し、三価クロム化成処理により黒色の防錆皮膜を得る、現在一般的に行われている方法は前記文献にも開示されている、硝酸又は硫酸等、無機酸による活性化を行い、水洗後に黒色皮膜形成処理を1回行い、水洗後に仕上げ処理を行い乾燥する方法である。
【0004】
クロムフリー処理により有色の防錆皮膜を形成させる処理もマグネシウム部材及びアルミニウム部材に対しては特開2004−232047号、特開2008−174807号が、亜鉛系部材に対しては特開2008−133502号、特開2007−023353号、特開2010−031332号、特開2009−270137号、特開2010−013677号などが開示されており、いずれも白色のクロムフリー防錆皮膜形成法が開示されている。しかし、黒色のクロムフリー防錆皮膜形成法の開示例は少ない。
【0005】
完全クロムフリー黒色防錆皮膜を形成することは白色防錆皮膜と比較して技術的に困難である。その理由として(1)外観に対する要求レベルが黒色部品のほうが高い(2)黒色を出すために必要な成分により耐食性の低下が起きる、ということが挙げられる。しかし、黒色部品は防錆機能と装飾性の両面で価値が大きく、経済的価値が非常に高いため、完全クロムフリー黒色防錆皮膜を形成することは技術的にも経済的にも非常に大きな意味を持つものである。
【0006】
(黒色とうたう特許として)特開2005−232504号にはバナジウム、アルミニウム、アンモニウムイオンからなる黒色化成処理液に浸漬し、更にタンニン酸処理してから有機樹脂皮膜を形成する方法が開示されている。しかし、現在行われている一般的な三価クロムを用いた黒色処理と比べ、処理回数が多く、ライン増設でも行わない限り、現行ラインに組み込むことは難しい。
【0007】
特開2006−328483号にはバナジウムと硫黄化合物を必須成分とし、さらにコバルト、ニッケル、チタン、タングステンより一種以上を選択して含有する第一黒色化成皮膜処理液に浸漬し、第一黒色化成皮膜処理液の金属イオンより大きなイオン化傾向を有し、タンニン酸を含有しない第二処理液と、タンニン酸を含有し、前記金属イオンを含有しない第三処理液からなる黒色化成皮膜形成方法が開示されている。しかし、処理回数が多く、現行ラインに組み込むことは難しい。また、この方法は3層以上の層を形成することが皮膜の性能を発揮する上で非常に大きなポイントとなっている。研究員が鋭意検討した結果、2層のみでは通常の耐食性もさる事ながら、きちんと皮膜が形成しない場合の耐食性において著しい低下が認められた。これは3層目以降の存在が大きな意味を持つ皮膜であった。また、実施例1を実際に実施したところ黒味のある外観が得られたものの、少し条件を変えるだけで黒味が得られにくくなってしまい、適用範囲に課題が残る皮膜であることがわかった。
【0008】
特開2008−214744号にはアルミニウム、アンチモン、リン酸、チオ化合物を用いて黒色皮膜を形成する方法が開示されているが、硝酸活性と1回目の化成皮膜形成処理を同時に行い(黒色金属活性化処理)、水洗後、黒色化成皮膜上にタンニン酸溶液による化成皮膜形成処理を行うことで耐食性を向上させる2段階処理であり、更にオーバーコート的な最終仕上げ処理を必須とするため、ライン増設でも行わない限り、現行ラインに組み込むことは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−268562号公報
【特許文献2】特開2005−206872号公報
【特許文献3】特開2004−232047号公報
【特許文献4】特開2008−174807号公報
【特許文献5】特開2008−133502号公報
【特許文献6】特開2007−023353号公報
【特許文献7】特開2010−031332号公報
【特許文献8】特開2009−270137号公報
【特許文献9】特開2010−013677号公報
【特許文献10】特開2005−232504号公報
【特許文献11】特開2006−328483号公報
【特許文献12】特開2008−214744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は金属表面を有する部材、特に亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきを施した部材(以下、総じて亜鉛系めっき部材と呼ぶ)に、めっき部材の形状に関わらず均一な黒色外観と十分な耐食性を有するクロムフリーかつリン酸フリーな化成皮膜を安定的に形成させる表面処理方法、表面処理システムを提供することにある。また、従来の三価クロム黒色化成皮膜形成処理と同一の設備を使用できる方法を提供することも本発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が鋭意研究した結果、バナジウムの化合物と有機硫黄化合物の水溶液に亜鉛系めっき部材を浸漬することで表層に存在する金属が実質的に単一である化成皮膜を形成することが確認された。
【0012】
白錆は亜鉛の酸化物であるため、表層に亜鉛が存在しないことは即ち亜鉛を含有する層に到達するまで白錆が発生しないということである。その亜鉛を含有しない層に黒色の成分が混入するため、黒色外観を有しつつ予想以上の耐食性をもつ皮膜が形成するものと考えられる。さらに仕上げ処理を行うことでクロムフリーでも既存の三価クロム黒色化成皮膜処理と同等に優れた耐食性、外観を有する黒色防錆皮膜を形成することを見出した。
【0013】
皮膜の黒色は有機硫黄化合物単独、もしくは亜鉛めっき皮膜との反応によるものであり、耐食性は化成皮膜の表層に亜鉛を含有しないことにより発揮しやすくなるものである。即ち、本願発明の皮膜は仕上げ処理を除けば一度の化成処理で黒色外観と耐食性を同時に有する皮膜を形成することができる点が優れている。
【0014】
黒色化成皮膜形成処理液に関してはクロムを含まないだけでなく、リン、フッ化物等も必須成分ではないため、これらを含有させない場合、排水処理がさらに容易である。以上の点で環境負荷を低く抑えられる利点も有する。処理手順は従来の三価クロムを用いる黒色化成皮膜形成処理と同じである為、これらの処理を行っている既存設備をそのまま利用でき、切り替え時に設備投資を抑えることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る処理液は一実施態様において、各成分の水溶液として提供される。処理物は金属表面を持つ部材全般が対象であるが、電解めっきにより形成される亜鉛系金属表面のものが好ましい。電解めっきの浴種並びにめっき部材の形状に制限はないが、電導塩が水酸化アルカリ若しくは無機塩酸塩によるものが複雑な形状の部材においても外観及び耐食性に優れる点で好ましい。表面処理手順は、従来の三価クロムによる黒色化成皮膜形成処理と同様である。
【0016】
本発明の表面処理液は一実施態様において、バナジウム族元素の化合物、有機硫黄化合物並びに塩素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン及び酢酸イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含有し、且つ、クロムを含有しない金属表面処理液である。
【0017】
化成処理液の成分のうちバナジウムの化合物は金属表面を有する部材に対して保護皮膜を形成し耐食性を付与するための基本成分である。また、有機硫黄化合物はバナジウム化成皮膜と反応して黒色成分を形成する。
【0018】
バナジウム化合物の供給源は限定的ではなく、例えば塩化バナジウム(VCl
2、VCl
3、及びVCl
4)、二塩化バナジル(VOCl
2)、臭化バナジウム(VBr
2、VBr
3)、ヨウ化バナジウム(VI
2、VI
3)、硫酸バナジウム(VSO
4、V
2(SO
4)
3)、硫酸バナジル(VOSO
4)、硝酸バナジウム(V(NO
3)
2、V(NO
3)
3)、五酸化バナジウム(V
2O
5)、バナジン酸(H
3VO
4)、オルトバナジン酸カリウム(K
3VO
4)、オルトバナジン酸ナトリウム(Na
3VO
4)、オルトバナジン酸リチウム(Li
3VO
4)メタバナジン酸カリウム(KVO
3)、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO
3)、メタバナジン酸リチウム(LiVO
3)、メタバナジン酸アンモニウム(NH
4VO
3)、等が挙げられる。より好ましくは、バナジウムの酸化数が4〜5の間にある化合物を含有させる。5価バナジウムは高濃度になると沈殿が生じるおそれがあるためである。これらの化合物の総濃度は1〜100g/Lとすることが好ましく、より好ましくは3〜60g/L存在させる。1g/L以下だと十分な皮膜が形成されないおそれがあり、100g/L以上だと継続的に処理を続けた場合に沈殿が生じるおそれがある。
【0019】
有機硫黄化合物の供給源は具体的にはチオ尿素、アリルチオ尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素、トリルチオ尿素、グアニルチオ尿素及びアセチルチオ尿素等のチオ尿素類、メルカプトエタノール、メルカプトヒポキサチン、メルカプトベンズイミダゾール及びメルカプトベンズチアゾール等のメルカプト類、チオシアン酸及びその塩、アミノチアゾール等のアミノ化合物、商品としては大内新興化学(株)のノクセラーTMU、ノクセラーTBT、ノクセラーNS−P、ノクラックTBTU及びノクラックNS−10N、川口化学工業(株)のアクセル22−R、アクセル22−S、アクセルBUR−F、アクセルCZ、アクセルEUR−H、アクセルLUR、アクセルTET及びアクセルTP等がある。また、チオ蟻酸、チオ酢酸等のチオカルボン酸及びその塩、ジチオ蟻酸、ジチオ酢酸、ジチオカルバミン酸等のジチオカルボン酸及びその塩、チオリンゴ酸、チオグリコール酸、チオジグリコール酸、ジチオジグリコール酸、チオサリチル酸等、硫黄を含有するカルボン酸、ジカルボン酸及びその塩はキレート剤と似た骨格を持ち有用である。その中でも特にチオ尿素類、チオカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、硫黄を含有するカルボン酸、ジカルボン酸及びその塩は有用であり、ジスルフィド基を含有する多価カルボン酸及びその塩がより好ましい。有機硫黄化合物の濃度は2〜100g/Lとすることが好ましく、より好ましくは5〜40g/Lである。2g/L以下では十分に黒色化しない。100g/L以上では正常な皮膜を形成できない。
【0020】
塩素イオン、フッ素、硝酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン又はホウ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一種については基材の種類により有効なイオンが異なると考えるが、亜鉛系の金属表面に対しては硝酸イオンを含有すると良好な外観の皮膜を得やすく、硝酸イオンはバナジウム皮膜の均一性と造膜性の向上に大きく寄与すると考えられる。各種イオンの供給源は、酸の形態の他、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩とするのが好ましいが、この他の金属塩やアンモニウム塩なども使用可能であり、制限は無い。硝酸イオンの濃度は、0.1g/L〜50g/Lより好ましくは、1〜10g/L存在させる。0.1g/L以下だと不均一な上に膜厚不足の皮膜が形成されるおそれが強く、50g/L以上でも過剰処理となり不均一で膜厚不足の皮膜が形成されるおそれが強い。アルミニウム、マグネシウム系の金属表面に対しては硼素、ケイ素、ジルコニウム、チタン及びハフニウムのフッ素化合物イオン、並びにフッ化物イオンからなる群から選ばれる一種以上を含有することにより皮膜の均一性と造膜性が向上する。
【0021】
さらに、この表面処理液にはFe、Mg、Zn、Ca、Y、La、Ce、Mo、Al、Zr、Mn、Ni、Coの群より選択される少なくとも一種を含有させることができる。これらの成分は、上述の皮膜形成の基本成分と共に析出したり、皮膜をより緻密にしたりする作用があると考えられ、外観や耐食性に寄与する。これらの供給源としては、水溶性の化合物であれば制限はないが、硝酸塩、硫酸塩または塩化物とするのが好ましい。また、酸素酸を形成しアニオン性のものはアルカリ金属塩またはアンモニウム塩とするのが好ましいが、制限はない。濃度は、1種のイオンにつき、0.1〜50g/Lの範囲とすることが好ましい。0.1g/L以下だと十分に効果を発揮せず、50g/L以上だと処理液に沈殿を生じるおそれがある。
【0022】
上記成分以外に、ケイ素化合物を含有することができる。ケイ素化合物の供給源としては、各種水溶性ケイ酸塩の他、水分散性コロイダルシリカが使用できる。
コロイダルシリカとしては、例えば、スノーテックス(商標)シリーズ(日産化学工業(株))、アデライト(商標)ATシリーズ((株)ADEKA)、シリカドール(商標)シリーズ(日本化学工業(株))、カタロイド(商標)シリーズ(日揮触媒化成(株))、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。コロイダルシリカの平均粒子径は50nm以下であることが好ましく、ケイ素化合物の濃度としては50g/L以下とすることが好ましい。平均粒子径が50nm以上だと粉っぽい、ボソボソとした外観となる。ケイ素化合物の濃度が50g/L以上だと処理液に沈殿が発生するおそれが強い。
【0023】
さらに上記成分以外に、皮膜外観の均一性を高めるために分子中に硫黄を含まない有機酸を含有することができる。特にカルボン酸が有効であり、グリコール酸、クエン酸、マロン酸を添加したときに効果が大きいが、これらに限定されるものではない。添加量は0.1〜50g/L、より好ましくは1〜10g/Lである。0.1g/L以下では十分に効果を発揮せず、50g/L以上では逆に皮膜形成の妨げとなるおそれが強い。
【0024】
浸漬条件としては、温度10〜50℃、pH1.0〜3.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは温度20〜40℃、pH1.5〜2.5の範囲である。低温では十分な皮膜が形成せず、高温では外観が曇りがちになる上、作業の容易性を損なう。低pHでは過剰反応となり十分な皮膜が形成しない。高pHでは反応不足で皮膜が形成しづらい上、処理液にTi、Zrを含むときは沈殿が発生しがちである。浸漬時間は10〜120秒、好ましくは30秒〜90秒の範囲である。浸漬時間が10秒未満では十分な膜厚が得られない可能性が高い。120秒以上の浸漬は効果が薄く、むしろ生産性の低下を招く。また、均一に皮膜を形成させる為には、撹拌があることが好ましく、化成処理後は、被処理物を水洗することが好ましい。
【0025】
上述化成処理後、水洗し、乾燥前または乾燥後に、無機、有機若しくは有機無機複合のコーティングを行うと耐食性がさらに向上する。無機系のオーバーコートとしては、シリカ系、リン酸系のオーバーコートが挙げられるがそれ以外のオーバーコートも可能である。有機系のオーバーコートとしては、塗料、樹脂種も特に限定をせず水系あるいは水系以外でも適用可能である。例えばポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の有機皮膜が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、オーバーコートは本発明による表面処理後すぐに行っても良いが乾燥後、プレスや折り曲げ等の加工後に行っても有効であり、複数回実施することも有効である。オーバーコートの方法は特に限定せず、塗布塗装、浸漬塗装、静電塗装、電着塗装、粉体塗装など種々の方法が可能である。上述のオーバーコートの中でも特にリン酸塩皮膜形成処理を施し、化成皮膜表面にリン酸塩皮膜を形成させた場合、耐食性が大きく向上する特徴がある。これは三価クロム黒色化成皮膜処理には見られなかったことである。
【0026】
本発明の処理液の具体的な一例は、バナジウム化合物1〜100g/L、有機化合物1〜100g/L、硝酸イオン等の酸イオン0.1g/L〜50g/L、場合によりさらにFe、Mg、Zn、Ca、Y、La、Ce、Mo、Al、Zr、Mn、Ni、Coから選ばれる一種以上の金属化合物(一種につき)0.1〜50g/L、場合によりさらにケイ素化合物0.1〜50g/Lを含有する酸性の反応型化成処理液であり、この処理液を使用して亜鉛めっき部材及び亜鉛合金めっき(特に亜鉛−鉄合金めっき)部材を温度10〜50℃、pH;1.0〜3.0の化成処理液に10〜120秒、撹拌しながら浸漬するか、或いはさらに被処理物を水洗した後のノンクロム黒色化成処理皮膜上に無機、有機又は有機無機複合のコーティング皮膜又はこれらの多層コーティング皮膜を形成する。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。試験は試験片を硝酸浸漬などの適当な前処理を行った後、下表に示すそれぞれの実施例に従い処理を行った。試験片は亜鉛めっき(Zn)、亜鉛−鉄合金めっき(Zn−Fe)のいずれかを施した鉄製ボルトまたはアルミニウム、マグネシウム製ボルトを使用した。めっきの膜厚は平均10〜12μmとした。尚、処理液のpH調整は硝酸を用いて行った。外観の評価は目視にて、光沢、ムラ、モヤ、黒味などを総合的に判断した。耐食性の評価は、JIS Z 2371に従う塩水噴霧試験を行い白錆が5%発生した時間を示した。
【0028】
(実施例3〜17、20)
使用するバナジウム化合物を塩化バナジウムとして下地となるめっき、各成分の濃度、仕上げ処理を変化させて試験を行った。ただし、実施例12、13については基材が異なることよりフッ化バナジウムをさらに添加した。その結果を表1に示す。また、表1の耐食性の欄は上が仕上げ処理なし、下が仕上げ処理ありの場合である。
【0029】
(実施例2、18、19、21〜36)
使用するバナジウム化合物を硫酸バナジウムとして各成分の濃度、化成皮膜処理条件、仕上げ処理を変化させて試験を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
(実施例1)
使用するバナジウム化合物をメタバナジン酸カリウムとして試験を行った。その結果を表1に示す。
【0031】
(比較例1)
実施例8からチオリンゴ酸を除いたものを作成し処理したところ、実施例8と同等の耐食性が得られたが黒色色調が得られなかった。
【0032】
(比較例2)
実施例8から塩化バナジウムを除いたものを作成し処理したところ、黒色外観は得られたが白錆発生時間が仕上げ無しで8時間、仕上げありで24時間であった。
【0033】
(比較例3、4)
黒色化用金属を含む金属化合物としてメタバナジン酸アンモン、硫酸コバルトを用いて、特開2006−328483の黒色防錆皮膜形成用組成物の第1黒色化用処理液(比較例3:V10g/L、Co10g/L、比較例4:V10g/L、Co5g/L、硝酸にてpH3.0)を調整した。前記の試験片をこの第1黒色化用処理液に硫黄化合物(チオグリコール酸)1g/L添加した処理液で30℃で60秒間浸漬処理して第2防錆皮膜を形成した後、水洗し、さらに続いて黒色防錆皮膜形成用組成物の第3処理液(タンニン酸含有量3.0g/L)で25℃で60秒間浸漬して処理して第3防錆皮膜を形成した後、水洗し、60℃で10分間乾燥して黒色防錆処理金属を得た。外観は良好で耐食性試験の結果、96時間で白錆発生した。
【0034】
(比較例5、6)
比較例3、4に示した化成処理で、第3処理液に浸漬する過程を省略したものをそれぞれ比較例5、6とした。外観はいずれも良好であったが、耐食性試験の結果、24時間で白錆発生した。
【0035】
【表1-1】
【0036】
【表1-2】