(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液状洗浄剤組成物(本明細書において、「液状洗浄剤組成物」とは、液体のみからなる洗浄剤組成物のみならず、洗浄剤組成物として通常使用されうる下限の流動性(具体的には粘度として4500mPa・s程度以下である。)を維持する範囲で固体が分散する洗浄剤組成物も含む。)は、洗浄機能、すなわち、被洗浄部材に付着している油分などの除去対象成分を除去する機能に優れることばかりでなく、その保管時の安定性について優れることが求められる場合がある。
【0003】
液状洗浄剤組成物の保管時の安定性を失う要因の一つに、保管環境が低温であることが挙げられる。それゆえ、液状洗浄剤組成物には、洗浄剤組成物が低温環境下にあっても、洗浄剤組成物の凍結や、洗浄剤組成物内に析出物が発生してその流動性が通常使用されうる下限の流動性未満となってしまうこと(以下、「流動不良」という。)が発生する可能性が十分に低減されていることが、低温安定性として求められる場合がある。洗浄剤組成物が低温安定性に優れる場合には、ポンプ補給などによって洗浄剤組成物を洗浄槽内に補給するにあたり、供給量の制御性が低下したり、供給できなくなったりする不具合が発生しにくい。
【0004】
低温安定性を確保しうる下限温度は、その液状洗浄剤組成物の想定される使用環境に応じて設定されるが、通常、例えば特許文献1に記載されるように、下限温度は−5℃とされる場合が多い。
【0005】
しかしながら、製造された液状洗浄剤組成物を目的地に運搬する場合や、保管環境が特に制御されていない場合など、外気とほぼ同じ環境に液状洗浄剤組成物が置かれる場合には、低温安定性を確保しうる下限温度(以下、「保存下限温度」ともいう。)として−20℃が求められる場合がある。液状洗浄剤組成物の保存下限温度が−20℃である場合には、世界的に見ても、シベリアの一部、北アメリカの北部など限られた一部以外であれば、外気とほぼ同じ環境に液状洗浄剤組成物が置かれても、凍結や流動不良が発生する可能性は十分に低いといえる。
【0006】
このような保存下限温度が−20℃である液状洗浄剤組成物を実現するには、例えば特許文献2や3に開示されるように、低温安定性を向上させるための成分を液状洗浄剤組成物に含有させることが一般的である。
【0007】
具体的には、特許文献2には、界面活性剤を20〜50重量%の範囲で含有する透明な液体洗浄剤組成物であって、(a)アルファオレフィンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩と、(b)ポリオキシエチレンアルキル硫酸またはそのアルカリ金属塩と、(c)マグネシウム塩とを含有し、上記(a)成分/(b)成分が重量比で90/10〜10/90の範囲で、かつ{(a)成分+(b)成分}/(c)成分がモル比で99/1〜75/25の範囲であることを特徴とする透明液体洗浄剤組成物が開示されている。特許文献2に開示される組成物において、アルファオレフィンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩とポリオキシエチレンアルキル硫酸またはそのアルカリ金属塩とマグネシウム塩とが凍結抑制剤として位置付けられている。
【0008】
特許文献3には、アルカリ剤20〜60重量%を含むアルカリ液体洗浄剤組成物中に、ホスホノブタントリカルボン酸或はその塩を0.1〜10重量%配合したことを特徴とする高濃度アルカリ液体洗浄剤組成物が開示されている。特許文献2に開示される組成物において、ホスホノブタントリカルボン酸およびその塩の少なくとも一方が凍結抑制剤として位置付けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年、洗浄剤組成物に含有される成分が被洗浄部材に残留することに起因して被洗浄部材を備える製品の品質が低下する問題が生じる場合があり、こうした問題が発生する可能性を低減させる能力を洗浄剤組成物が有していることが求められる場合がある。このような観点に加え、廃液処理負荷の緩和、製造コストの低減などの観点から、洗浄剤組成物に含有される成分数は低下する傾向がある。
【0011】
そのように単純化された組成の場合には、上記の特許文献2や3に示されるような手法はもはや適用できず、保存下限温度を−20℃としうる、優れた低温安定性を有する洗浄剤組成物を得ることは困難となっている。
【0012】
本発明はかかる現状を鑑み、優れた低温安定性を有する流動性の洗浄剤組成物を提供することを課題とする。なお、本明細書において、「流動性を有する」とは、前述の流動不良が発生していないこと意味し、具体的には、粘度が4500mPa・s以下であることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)カリウムイオンとナトリウムイオンと水溶性無水ケイ酸化合物と水とからなるアルカリ性のケイ酸塩含有水溶液を含有し、流動性を有する洗浄剤組成物であって、前記洗浄剤組成物のカリウム分はKOH換算で10.0質量%以上であり、前記洗浄剤組成物におけるカリウム分のナトリウム分に対するモル比は
1.5以上であり、前記洗浄剤組成物における水溶性無水ケイ酸化合物の含有量がSiO
2換算で1.0質量%以上24質量%以下であって、前記洗浄剤組成物に含有される水分の含有量が75質量%以下であり、前記洗浄剤組成物は−20℃の環境下に500時間静置されても流動性を有するものであり、前記洗浄剤組成物は
透明液体であり、ポリエーテルポリオールを含む凍結抑制剤(A);ホスホノブタントリカルボン酸およびその塩の少なくとも一方を含む凍結抑制剤(B)
;アルファオレフィンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩とポリオキシエチレンアルキル硫酸またはそのアルカリ金属塩とマグネシウム塩とを含む凍結抑制剤(C)
;ならびに水溶性高分子キレート剤のいずれも含有しないことを特徴とする洗浄剤組成物。
【0015】
(2)前記ケイ酸塩含有水溶液は、カリウムの水酸化物、ナトリウムの水酸化物、カリウムの水酸化物の水溶液、
ナトリウムの水酸化物の水溶液、酸化カリウムと無水ケイ酸との混合物、酸化ナトリウムと無水ケイ酸との混合物、酸化カリウムと無水ケイ酸との混合物の水溶液、酸化ナトリウムと無水ケイ酸との混合物の水溶液、および水からなる群から選ばれる二種以上からなる上記(1)に記載の洗浄剤組成物。
【0016】
(3)前記ケイ酸塩含有水溶液は、
カリウムの水酸化物の水溶液、酸化
ナトリウムと無水ケイ酸との混合物の水溶液、および水からなる上記(3)に記載の洗浄剤組成物。
【0017】
(4)キレート剤をさらに含有する上記(1)から
(3)のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【0018】
(5)前記キレート剤が窒素含有物質およびリン含有物質の少なくとも一方を含有する上記
(4)に記載の洗浄剤組成物。
【0019】
(6)前記キレート剤がアルカリ土類金属に対するキレート機能を有する上記
(4)または
(5)に記載の洗浄剤組成物。
【0020】
(8)界面活性剤
を含有する
上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、保存下限温度を−20℃以下としうる、優れた低温安定性を有する洗浄液組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、流動性を有する。本実施形態において流動性を有するとは、前述のように粘度として4500mPa・s以下であることを意味する。本実施形態に係る洗浄剤組成物は好ましくは、コロイドまたは液体であって、可視サイズの固体を実質的に含まないことが好ましい。そのような固体を含有する場合には、低温時にこれを核として結晶化が進行する可能性が高まる、またはそのような結晶化が始まる温度が高くなる可能性がある。
【0038】
1.ケイ酸塩含有水溶液
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、カリウムイオンとナトリウムイオンと水溶性無水ケイ酸化合物と水とからなるアルカリ性のケイ酸塩含有水溶液を含有する。
【0039】
ここで、本実施形態において、「水」とは、水分子、水素イオンおよび水酸化物イオンからなる一群の物質の総称であり、本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液はアルカリ性であるから、水に含まれる水素イオン濃度は水に含まれる水酸化物イオンよりも低い。
【0040】
また、本実施形態において「ケイ酸塩含有水溶液を含有する」とは次の場合を含む。
(A)本実施形態に係る洗浄剤組成物を製造する際にケイ酸塩含有水溶液を原料の少なくとも一部とする場合
(B)本実施形態に係る洗浄剤組成物がケイ酸塩含有水溶液以外の成分(本実施形態において「第二成分」という。)を含有する場合において、本実施形態に係る洗浄剤組成物の組成から第二成分を理論上除外して得られる仮想的なケイ酸塩含有水溶液が、後述する組成上の条件を満たす場合
【0041】
実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液中において、カリウムイオンおよびナトリウムイオンは、水和していたり、無水ケイ酸と水などを介して化学的に相互作用していたりする。
【0042】
本実施形態において、「水溶性無水ケイ酸化合物」とは、無水ケイ酸(SiO
2)分子および無水ケイ酸が、水など本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液に含有される他の物質(具体的には、水分子および他の無水ケイ酸分子が例示される。)と化学的に相互作用した状態にあるものの総称である。
【0043】
本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液は、カリウムイオン、ナトリウムイオン、水溶性無水ケイ酸化合物および水以外の成分を実質的に含まない。ここで、「実質的に含まない」とは、ケイ酸塩含有水溶液が、その製造過程において不可避的に混入する不純物(リチウム成分、マグネシウム成分、アルミニウム成分など)を含む場合もあることを意味する。
【0044】
(1)組成
本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液は、次の組成上の条件を満たすことによって、−20℃の環境下に500時間静置されても流動性を有することができる。
【0045】
(1−1)カリウム分
本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液のカリウム分(本実施形態において、「カリウム分」とは、ケイ酸塩含有水溶液に含まれるカリウムを含有する成分の含有量を意味する。)はKOH換算で10.0質量%以上である。水に対する溶解度はナトリウムに比べてカリウムの方が高いため、ケイ酸塩含有水溶液のカリウム分がKOH換算で10.0質量%未満となると、−5℃程度までであれば流動性を有する状態にある場合であっても、−20℃まで冷却されると沈殿が生じるなどして流動性を失ってしまう。したがって、そのようなケイ酸塩含有水溶液を含有する洗浄剤組成物には流動不良などの問題が発生してしまう。−20℃に保管されたときに洗浄剤組成物に流動不良などの問題が発生する可能性をさらに低減させる観点から、本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液のカリウム分はKOH換算で11質量%以上とすることが好ましく、18質量%以上とすることがより好ましく、25質量%以上とすることがさらに好ましい。
実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液のカリウム分の上限は、水溶性無水ケイ酸化合物や水など他の成分との関係で適宜設定されるべきものである。
【0046】
(1−2)カリウム分のナトリウム分に対するモル比
本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液におけるカリウム分のナトリウム分に対するモル比(本実施形態において「K/Na比」ともいう。)は、0.5以上である。K/Na比を0.5以上とし、上記のカリウム分などの条件をも満たすことにより、−20℃の環境下に500時間置かれても流動不良などの問題が発生しにくい洗浄剤組成物を得ることが実現される。K/Na比が0.5未満となると、上記のカリウム分に関する条件を満たすこと
が困難になり、−20℃に保管されたときに洗浄剤組成物に流動不良などの問題が発生する可能性が高まる。流動不良の発生の可能性を、さらに長期、例えば800時間以上にわたってより安定的に低減させる観点から、本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液のK/Na比を0.6以上とすることが好ましく、1.5以上とすることがより好ましく、5以上とすることがさらに好ましい。
本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液のK/Na比の上限は、水溶性無水ケイ酸化合物や水など他の成分との関係で適宜設定されるべきものである。
【0047】
(1−3)水溶性無水ケイ酸化合物の含有量
本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液における水溶性無水ケイ酸化合物の含有量は、SiO
2換算で1.0質量%以上24質量%以下である。この範囲にあることで、−20℃に保管されたときにケイ酸塩含有水溶液が流動性を失う可能性を低減させることができる。特に、水溶性無水ケイ酸化合物のSiO
2換算含有量が1.0質量%未満の場合には、−5℃程度までであれば流動性を有する状態にある場合であっても、−20℃まで冷却されると沈殿が生じるなどして流動性を失う可能性が高まる。この可能性をより安定的に低減させる観点から、水溶性無水ケイ酸化合物のSiO
2換算含有量は1.0質量%以上20.0質量%以下とすることが好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0048】
(1−4)水分含有量
本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液における水分の含有量は75質量%以下である。この範囲にあることで、−20℃に保管されたときにケイ酸塩含有水溶液が流動性を失う可能性を低減させることができる。水分の含有量が過度に高くなると、凝固点降下による凍結防止の効果が得られにくくなり、ケイ酸塩含有水溶液が流動性を失う傾向が見られやすくなる。かかる傾向が現れる可能性をより安定的に低減させる観点から、水分の含有量は70質量%以下とすることが好ましい。また、水分の含有量を低下させることにより、水溶性無水ケイ酸化合物を相対的に多く含有させることができる。そのような場合には洗浄力が高まる場合もあるため、用途に応じて水分を65質量%以下として水溶性無水ケイ酸化合物の含有量を高めることがさらに好ましいときもある。
一方、水分の含有量の下限は、単独では規定されない。例えば、水分の含有量が少なくなって、結果的に水溶性無水ケイ酸化合物のSiO
2換算含有量の含有量が高まれば、ケイ酸塩含有水溶液が流動性を失う可能性が高まる。また、カリウム分が少ない場合や、K/Na比が小さい場合には、相対的に溶解度の低いナトリウムを含有する成分の含有量(ナトリウム分)が増加するため、ケイ酸塩含有水溶液が流動性を失う傾向が顕在化しやすくなる。こうした問題が発生する可能性をより安定的に低減する観点から、水分の含有量の下限は、40%以上とすることが好ましく、45%以上とすることがより好ましい。上記の問題が発生する可能性をさらに安定的に低減するとともに、取り扱い性が低下する可能性を低減したり、過度に濃厚液となって安全管理上の問題が発生する可能性を回避したりする観点から、ケイ酸塩含有水溶液中の水分の含有量は49.0質量%以上とすることが好ましく、50.0質量%以上とすることがより好ましい。流動性が低下することに起因する問題が発生する可能性を特に長期にわたって安定的に低減する観点から、ケイ酸塩含有水溶液中の水分の含有量は51質量%以上とすることが好ましく、52質量%以上とすることがより好ましい。
【0049】
(2)材料成分
本実施形態に係るケイ酸塩含有水溶液を構成する材料成分は特に限定されない。例えば、次の成分からなる群から選ばれる二種以上からなるようにしてもよい。
カリウムの水酸化物、
ナトリウムの水酸化物、
カリウムの水酸化物の水溶液、
ナトリウムの水酸化物の水溶液、
酸化カリウムと無水ケイ酸との混合物、
酸化ナトリウムと無水ケイ酸との混合物、
酸化カリウムと無水ケイ酸との混合物の水溶液、
酸化ナトリウムと無水ケイ酸との混合物の水溶液、および
水。
【0050】
さらに具体的な一例を挙げれば、ケイ酸塩含有水溶液は、ナトリウムの水酸化物の水溶液、酸化カリウムと無水ケイ酸との混合物の水溶液、および水からなるものとしてもよい。アルカリ金属の水酸化物および酸化カリウムと無水ケイ酸との混合物は、あらかじめ水溶液としておいた方が取扱いが容易である。また、いずれも強アルカリ性物質であるから、粉体などの固体として取り扱うと、安全衛生上の問題が生じる可能性が高まる。
【0051】
2.第二成分
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、第二成分として、ケイ酸塩含有水溶液を構成する成分以外の成分(溶媒も含む。)をさらに含有してもよい。なお、前述のように、洗浄剤組成物の組成を単純化する近時の要請に応える観点から、本実施形態に係る洗浄剤組成物は、前述のケイ酸塩含有水溶液のみまたはこれを溶媒で希釈したものを用いてもよい。
【0052】
また、本実施形態に係る洗浄剤組成物は、特許文献2や3に開示されるような、ポリエーテルポリオールを含む凍結抑制剤(A);ホスホノブタントリカルボン酸およびその塩の少なくとも一方を含む凍結抑制剤(B);ならびにアルファオレフィンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩とポリオキシエチレンアルキル硫酸またはそのアルカリ金属塩とマグネシウム塩とを含む凍結抑制剤(C)のいずれも、第二成分として含有しないことが好ましい。また、不凍液に多用されるポリエチレングリコールも、第二成分として含有しないことが好ましい。
【0053】
(1)キレート剤
第二成分はキレート剤を含有してもよい。キレート剤の具体的な種類は特に限定されない。被洗浄部材の組成、被洗浄部材の表面に付着した除去対象成分の組成、被洗浄部材の洗浄後の状態において求められる品質(表面残留物質の許容程度など)、さらには洗浄剤組成物の組成などを考慮して適宜設定すればよい。
【0054】
キレート剤としては、例えば、アミノポリカルボン酸系キレート剤、芳香族または脂肪族カルボン酸系キレート剤、アミノ酸系キレート剤、エーテルカルボン酸系キレート剤、ホスホン酸系キレート剤、ヒドロキシカルボン酸系キレート剤、高分子電解質(オリゴマー電解質を含む)系キレート剤、ポリアルコール、ジメチルグリオキシム等の窒素含有キレート剤、チオグリコール酸等の硫黄含有キレート剤などが挙げられる。
【0055】
これらのキレート剤の形態は任意であり、例えば酸系キレート剤の場合には、フリーの酸型であっても、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の塩の形であってもよい。さらに、それらは、加水分解可能なそれらのエステル誘導体の形であってもよい。
【0056】
アミノポリカルボン酸系キレート剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、エチレンジアミンジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(DHEDDA)、ニトリロ酸酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、β−アラニンジ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、グルタミン酸ジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、イミノジコハク酸、セリンジ酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、ジヒドロキシエチルグリシン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸、ならびにこれらの塩類およびエステル類など誘導体が挙げられる。
【0057】
芳香族または脂肪族カルボン酸系キレート剤としては、例えば、グリオキシル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、イタコン酸、アコニット酸、ピルビン酸、グルコン酸、ピロメリット酸、ベンゾポリカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸(アントラニル酸を含む)、フタル酸、フマル酸、トリメリット酸、没食子酸、およびヘキサヒドロフタル酸、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0058】
アミノ酸系キレート剤としては、例えば、グリシン、セリン、アラニン、リジン、シスチン、システイン、エチオニン、チロシン、およびメチオニン、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0059】
エーテルカルボン酸塩としては、カルボキシメチルタルトロネート、カルボキシメチルオキシサクシネート、オキシジサクシネート、酒石酸モノサクシネート、および酒石酸ジサクシネート、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0060】
ホスホン酸系キレート剤としては、例えば、イミノジメチルホスホン酸、アルキルジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸およびフィチン酸、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0061】
ヒドロキシカルボン酸系キレート剤としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、ヘプトン酸、酒石酸、および乳酸、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0062】
高分子電解質(オリゴマー電解質を含む)系キレート剤としては、例えば、アクリル酸重合体、無水マレイン酸重合体、α−ヒドロキシアクリル酸重合体、イタコン酸重合体、これらの重合体の構成モノマー2種以上からなる共重合体およびエポキシコハク酸重合体が挙げられる。
【0063】
ポリアルコールとしては、エチレングリコール、ピロカテコール、ピロガロール、ビスフェノール、およびタンニン酸、ならびにこれらの誘導体が挙げられる。なお、洗浄組成物の低温安定性を高めるために使用されてきたポリエチレングリコールのようなポリオールポリアルコールは使用しないことが好ましい。
【0064】
第二成分として含有させるキレート剤は一種類の物質から構成されていてもよいし、二種類以上の物質から構成されていてもよい。
【0065】
第二成分として含有させるキレート剤が窒素含有物質およびリン含有物質の少なくとも一方を含有する場合に、洗浄性能が高まる場合が多い。上記の例示した中では、少なくともアミノポリカルボン酸系キレート剤、アミノ酸系キレート剤および窒素含有キレート剤が窒素含有物質に含まれ、少なくともホスホン酸系キレート剤がリン含有物質に含まれる。
【0066】
被洗浄部材の材料によっては、被洗浄部材が機械加工される際に、加工油にカルシウムなどのアルカリ土類金属を含有する成分が含まれている場合がある。そのような場合には、第二成分として含有させるキレート剤がアルカリ土類金属に対するキレート機能を有することにより、そのようなアルカリ土類金属を含有する成分からなる除去対象成分を効率的に被洗浄部材から除去することができる。
【0067】
第二成分として含有させるキレート剤の含有量はキレート剤の種類の場合と同様の因子を適宜考慮して設定されるべきものである。なお、この点については、後述する。
【0068】
(2)界面活性剤
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、第二成分として界面活性剤を含有してもよい。その種類は特に限定されない。また、界面活性剤は一種類の物質から構成されていてもよいし、複数種類の物質から構成されていてもよい。
【0069】
界面活性剤の具体例として、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、半極性界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0070】
アニオン系界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルキルまたはアルケニル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルまたはアルケニル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテルカルボン酸塩、αスルホ脂肪酸誘導体、αオレフィンスルホン酸塩、αスルホ脂肪酸アルキルエステル塩、スルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、天然脂肪酸石鹸、アルキルエトキシサルフェート、アミドエーテルカルボン酸、アミノ酸系アニオン活性剤等が例示される。
【0071】
ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ソルビタンエステル、ソルビトールエステル、蔗糖脂肪酸エステル、メチルグルコシドエステル、メチルマンノシドエステル、エチルグルコシドエステル、N−メチルグルカミド、環状N−メチルグルカミド、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアシルエステル、脂肪酸グリコシドエステル、脂肪酸メチルグリコシドエステル、アルキルメチルグルカミド等が例示される。
【0072】
両性界面活性剤としては、具体的には、カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩、アルキルスルホベタイン、ヒドロキシアルキルスルホベタイン、アルキルイミダゾリニウムベタイン、アルキルベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン等が例示される。
【0073】
半極性界面活性剤としては、具体的には、アルキルアミンオキシド、アルキルアミドアミンオキシド、アルキルヒドロキシアミンオキシド等が例示される。
【0074】
カチオン系界面活性剤の具体例として、ジ長鎖アルキルジメチル4級アンモニウムイオン、長鎖アルキルジメチル4級アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、第4級アンモニウムイオンが挙げられる。これらは、通常、塩酸塩などの形態で配合される。
【0075】
これらの界面活性剤の中で、アニオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤が好ましい。更に、好ましい界面活性剤の具体例として、アルキルエーテル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ヤシ脂肪酸アルカノールアミド、および脂肪酸アミドプロピルベタインが挙げられる。
【0076】
本実施形態に係る洗浄剤組成物が、キレート剤および界面活性剤を第二成分として含有する場合には、本実施形態に係る洗浄剤組成物における、界面活性剤の含有量に対するキレート剤の含有量の比率R
cを、被洗浄部材に付着する除去対象成分に応じて設定することが好ましい。例えば、除去対象成分の主成分が鉱物油であって、添加成分をほとんど含有しないような場合には、油性物質を洗浄する能力に優れる界面活性剤を多めに用いることが好ましい。したがって、このような場合には、洗浄剤組成物を製造する際に上記の比率R
cが低くなるようにすればよい。一方、被洗浄部材を機械加工により製造する際に加工性を改善するなどの目的で例えばカルシウム系の添加剤が加工油に添加され、それゆえ除去対象成分にそのような物質が多く含まれる場合には、そのような物質を洗浄する能力に優れるキレート剤を多めに用いることが好ましい。したがって、このような場合には、洗浄剤組成物を製造する際に上記の比率R
cが高くなるようにすればよい。
【0077】
(3)その他の成分
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、その低温安定性を著しく阻害しない限り、第二成分として、キレート剤や界面活性剤以外の成分を含有してもよい。そのような成分として、金属イオン封鎖剤、中性無機塩、酸化防止剤および消泡剤が例示される。これらの含有量は、適宜設定すればよい。濃度調整用に溶媒を第二成分として含有させてもよい。この際の溶媒としては、水以外にアルコールなどの極性溶媒を用いてもよいが、その種類および使用量は、本実施形態に係る洗浄剤組成物の低温安定性を著しく阻害しないようにするべきである。
【0078】
3.製造方法
本実施形態に係る洗浄剤組成物の製造方法は特に限定されない。洗浄剤組成物として含有すべき成分を与える原料物質、すなわちカリウムイオンを与えるカリウム源、ナトリウムイオンを与えるナトリウム源、水溶性無水ケイ酸化合物を与える無水ケイ酸源および水、さらに必要に応じてキレート剤や界面活性剤などの第二成分を、適宜混合し、溶液とすればよい。溶液とするにあたり、これらの成分の一部または全部からなる混合物を加熱してもよい。加熱する場合の加熱温度は任意である。溶解熱を発する成分の影響を緩和するために、上記の混合物を冷却してもよい。
【0079】
本実施形態に係る洗浄剤組成物の調製するために使用される水性組成物(以下、「第一の水性組成物」ともいう。)として、前述のケイ酸塩含有水溶液からなるものを用いると、この第一の水性組成物と第二成分とを混合するだけで本実施形態に係る洗浄剤組成物を製造することができるため、好ましい。また、その第一の水性組成物自体が優れた低温安定性を有しているため、−20℃に至るほどの低温環境下であっても、安定的に保管しておくことができる。
【0080】
この第一の水性組成物を用いて製造される本実施形態に係る洗浄剤組成物の具体例を示せば、第一の水性組成物とキレート剤とを混合する工程を備える製造方法を実施することにより、ケイ酸塩含有水溶液とキレート剤とを含有する本実施形態に係る洗浄剤組成物が得られる。第一の水性組成物と界面活性剤を混合する工程を備える製造方法を実施することにより、ケイ酸塩含有水溶液と界面活性剤とを含有する本実施形態に係る洗浄剤組成物が得られる。第一の水性組成物とキレート剤と界面活性剤とを混合する工程を備える製造方法を実施することにより、ケイ酸塩含有水溶液、キレート剤および界面活性剤を含有する本実施形態に係る洗浄剤組成物が得られる。
【0081】
本実施形態に係る洗浄剤組成物の調製するために使用される水性組成物の別の一つ(以下、「第二の水性組成物」ともいう。)として、前述のケイ酸塩含有水溶液と第二成分の一つであるキレート剤とからなるものを用いると、この第二の水性組成物と第二成分(キレート剤であってもよい。)とを混合するだけで本実施形態に係る洗浄剤組成物を製造することができるため、好ましい。また、第二の水性組成物に含有されるキレート剤の含有量が過度に高くない限り、第二の水性組成物自体が優れた低温安定性を有しているため、−20℃に至るほどの低温環境下であっても、安定的に保管しておくことができる。なお、第二の水性組成物に含有しうるキレート剤の含有量の上下限は、キレート剤の種類や、ケイ酸塩含有水溶液の組成などによって決定されるため、確定的に規定することはできないが、通常、ケイ酸塩含有水溶液に対して、0.5質量%以上30質量%以下とすることが好ましく、2.5質量%以上25質量%とすることがより好ましい。
【0082】
この第二の水性組成物を用いて製造される本実施形態に係る洗浄剤組成物の具体例を示せば、第二の水性組成物と界面活性剤とを混合する工程を備える製造方法を実施することにより、ケイ酸塩含有水溶液、キレート剤および界面活性剤とを含有する本実施形態に係る洗浄剤組成物が得られる。
【0083】
4.洗浄方法、保管方法、運搬方法
(1)洗浄方法
以上説明した本実施形態に係る洗浄剤組成物はそのままで、または水などの溶媒により適宜希釈することによって洗浄液を得ることができる。その希釈倍率は任意であり、被洗浄部材に付着する除去対象成分(油分など)の種類や量に応じて適宜設定される。
【0084】
得られた洗浄液を被洗浄部材に接触させることによって、被洗浄部材を洗浄することができる。被洗浄部材の材質は特に限定されないが、本実施形態に係る洗浄剤組成物が特段の第二成分を含有しない限り、洗浄液はアルカリ性であるから、アルカリによって冒されにくい材料によってその表面が構成されていることが好ましい。そのような被洗浄部材の一例として、鉄系材料などの金属系材料からなる表面を有する被洗浄部材が例示される。被洗浄部材の形状も任意であり、板材、棒材、線材といった一次加工品またはその加工途中のものでもよいし、ボルト、ナット、プレス品、曲げ加工品、鍛造品、鋳造品、といった二次加工品またはその加工途中のものでもよい。
【0085】
被洗浄部材と洗浄液との接触方法は任意であり、洗浄液内に被洗浄部材を浸漬させてもよいし、洗浄液を被洗浄部材にスプレーしてもよい。洗浄に際して被洗浄部材をブラシ、ウエス、スポンジなどでこすってもよい。また、被洗浄部材に超音波衝撃を加えながら洗浄してもよいし、洗浄液を加熱してもよい。その後、水洗・乾燥することにより、その上に付着していた除去対象物が除去された被洗浄部材を得ることができる。
【0086】
(2)保管方法、運搬方法
以上説明したように、本実施形態に係る洗浄剤組成物および水性組成物(第一の水性組成物、第二の水性組成物)は、優れた低温安定性を有するため、これらの洗浄剤組成物または水性組成物を−20℃以上−5℃未満の環境に保管しても、それらが保管中に流動不良などの問題を生じる可能性は十分に低減されている。また、これらの洗浄剤組成物または水性組成物を−20℃以上−5℃未満の環境にて運搬しても、それらが流動不良などの問題を生じる可能性も十分に低減されている。
【実施例】
【0087】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
カリウム源および水の供給源の一部としてのKOHの48%水溶液、ナトリウム源および水の供給源の一部としてのNa
2O・SiO
2の50%水溶液、ならびに必要に応じ水の供給源の一部として純水を、表1から3に示されるような量(単位はいずれも質量部)で混合して、試験番号1から27の試験液を、ケイ酸塩含有水溶液からなる洗浄剤組成物として作成した。具体的には、KOHの48%水溶液および/またはNa
2O・SiO
2の50%水溶液を混合したり、これらを純水に添加したりした。これらの成分の混合にあたり熱が発生したため、これらの混合量や添加量を調整することによって、特に加熱することなく、無色透明の試験液を得ることができた。
【0089】
得られた試験液のそれぞれについて、250mlのプラスチック(ポリプロピレン)製容器2つの中に、試験液125mlを入れ、容器の上部を透明シートで覆い、容器内を密封した。一方の試験液入り容器は−5℃の環境下に静置し、他方の試験液入り容器は−20℃の環境下に静置した。
【0090】
静置してから3週間後に各容器内の試験液を、−20℃の環境において目視で観察し、必要に応じて容器を揺動させて液性状を確認した。その結果、次の「A」から「F」に示される状態のいずれに属するかを判定することによって、各試験液の低温安定性を評価した。−20℃の環境に静置された容器内の試験液の状態が、「A」、「B」および「C」のいずれかである場合に、その試験液に係るケイ酸塩含有水溶液および洗浄剤組成物は低温安定性に優れると判定した。なお、流動性の評価を行うに際しては、JIS Z8809に準拠した粘度計校正用標準液(種別:JIS14000)の30℃における流動性(粘度として概ね4800mPa・sに相当する。)との対比で、評価対象の試験液が流動性を有するか否かを判定した。
【0091】
A:透明外観は維持され、製造当初と同等の流動性を有する
B:透明外観は維持され、流動性を有するが製造当初に比べるとやや粘度が高まっている
C:透明外観は維持され、製造当初に比べると粘度が高まっているが流動不良には至っていない
D:透明外観は維持されているものの、流動不良となっている
E:沈殿物が認められ透明外観は維持されておらず、流動不良となっている
F:凍結しており、透明外観は維持されていない
【0092】
評価結果を表1から3に示す。なお、試験番号1の液は、−20℃の環境下での静置時間が1300時間を経過したときに評価しても、やはりBと判定された。また、試験番号3,9および10の液は、−20℃の環境下での静置時間が1300時間を経過したときに評価しても、やはりAと判定された。試験番号11から14,17から21,23および24の液は、−20℃の環境下での静置時間が800時間を経過したときに評価しても、その結果は500時間経過時の評価結果と同じであった。試験番号25の液は、−20℃の環境下での静置時間が800時間を経過したときに評価したところ、Eと判定された。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】