(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記座面板を鉄系材料からなる部材として、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを締付ける際に測定された前記第1摩擦係数から前記第10摩擦係数の10点相加平均である第1平均摩擦係数、
前記座面板をブリネル硬さが120のアルミニウム系材料からなる部材として、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを締付ける際に測定された前記第1摩擦係数から前記第10摩擦係数の10点相加平均である第2平均摩擦係数、および
前記座面板を、ビッカース硬さが130の鉄系材料からなる部材上に厚さ20μmのカチオン電着塗装膜を備え当該カチオン電着塗装膜の面を座面とする部材として、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを締付ける際に測定された前記第1摩擦係数から前記第10摩擦係数の10点相加平均である第3平均摩擦係数の
最大値と最小値との差が、0.02以内である、請求項1に記載の摩擦が制御された部材。
前記第2平均摩擦係数を求めるために測定された前記第1摩擦係数と前記第2平均摩擦係数を求めるために測定された前記第10摩擦係数との差の絶対値が0.03以下であり、
前記第3平均摩擦係数を求めるために測定された前記第1摩擦係数と前記第3平均摩擦係数を求めるために測定された前記第10摩擦係数との差の絶対値が0.03以下である、請求項2に記載の摩擦が制御された部材。
少なくとも一方について前記摩擦が制御された部材からなるボルトおよびナットならびに鉄系材料からなる座面板を用いて、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを25Nmのトルクで締付け、得られたねじ締結体を150℃の環境下に3時間静置した後、25℃の環境下にて、締付けを解除する向きに10Nmのトルクを前記ねじ締結体の前記ボルトに直ちに付与しても、前記ねじ締結体の締付けが緩まない、請求項1から3のいずれか一項に記載の摩擦が制御された部材。
前記亜鉛含有皮膜は亜鉛系めっき皮膜であり、前記亜鉛系めっき皮膜と前記ケイ素含有有機無機複合皮膜との間に化成皮膜を有する、請求項6に記載の摩擦が制御された部材。
請求項1から8のいずれか一項に記載される摩擦が制御された部材が備える前記ケイ素含有有機無機複合皮膜を形成するための液状組成物であって、前記ケイ素含有物質を形成するためのケイ素含有成分および前記樹脂系材料を形成するための樹脂含有成分を含有する液状組成物。
前記ケイ酸含有物質が含むアルカリシリケートはリチウムシリケートであって、当該リチウムシリケートの、リチウム分のリチウム酸化物換算モル比に対するシリコン分のシリコン酸化物のモル比(SiO2/Li2O)が5以上10以下である、請求項11に記載の液状組成物。
前記ケイ素含有物質はアルカリシリケートを含有し、前記アルカリシリケートの含有量は、前記液状組成物全体に対して、10質量%以上60質量%以下である、請求項9から14のいずれか一項に記載の液状組成物。
前記ケイ素含有物質の含有量の前記樹脂系材料の含有量に対する質量比率(ケイ素含有物質/樹脂系材料)は、0.3から5の範囲内である、請求項9から16のいずれか一項に記載の液状組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、製造コストの低減や環境保護の観点から、ボルトおよびナットには繰り返し使用した際にも特性変化が少ないことが求められている。この点を具体的に説明すれば、ボルトおよびナットを用いて行われる被締結部品の締結作業は、目的に応じて締結具合を調整する場合もあり、さらに点検、整備時には、一度締付けたボルトおよびナットを緩めて、再度それらのボルトおよびナットを用いて締付け作業が行われる。このとき、ボルトの座面に対向する面およびボルトとナットとの締付けが行われた部分の面は、締付け作業が行われる前のそれぞれの面の状態とは異なっている場合がある。具体的には、ボルトやナットなどの締結部品に設けられた皮膜が摩耗している場合がある。このような状態であっても、再度締付けられたときには、被締結部品を適切に締結できることが求められている。
【0009】
本発明は、ボルト、ナットなどの締結部品が具体例として挙げられる、摩擦が制御された部材であって、それらの締付け作業および緩め作業が繰り返し行われるような場合であっても、被締結部品の締結状態が変動しにくい摩擦が制御された部材、および当該摩擦が制御された部材が備えるケイ素含有有機無機複合皮膜を形成するための液状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本発明者が検討したところ、締結部品のうちボルトおよびナットの少なくとも一方について、ケイ素含有有機無機複合皮膜を備える皮膜を備える摩擦が制御された部材からなるものとすることにより、ボルトとナットとの締結作業が繰り返し行われるような場合であっても、被締結部品の締結状態が変動しにくいとの知見を得た。また、締結部品が備える皮膜がケイ素含有有機無機複合皮膜を有することにより、耐熱緩み性、加熱後耐食性といった耐熱性が向上する場合もあるとの知見も得られた。
【0011】
かかる知見に基づき完成された本発明は次のとおりである。
(1)基材と基材上に設けられた皮膜とを備える摩擦が制御された部材であって、前記皮膜は、ケイ素含有物質および樹脂系材料を含有する液状組成物から形成されたケイ素含有有機無機複合皮膜を備え、少なくとも一方について前記摩擦が制御された部材からなるボルトおよびナットならびに鉄系材料からなる座面板を用いて、第1摩擦係数から第10摩擦係数を測定したときに、前記第10摩擦係数と前記第1摩擦係数との差の絶対値が0.03以下であることを特徴とする摩擦が制御された部材であって、前記第1摩擦係数は、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを締付ける際に測定される総合摩擦係数であり、前記第2摩擦係数は、前記第1摩擦係数を測定した後、前記ボルトと前記ナットとの締付けを緩め、再度、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを締付ける際に測定される総合摩擦係数であり、前記第3摩擦係数から第10摩擦係数のそれぞれは、前記第2摩擦係数を測定する際に行われた前記ボルトと前記ナットとの緩め作業および締付け作業の繰り返しを8回行って、それぞれの締付け作業の際に、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して測定される総合摩擦係数である、摩擦が制御された部材。
【0012】
(2)前記座面板を鉄系材料からなる部材として、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを締付ける際に測定された前記第1摩擦係数から前記第10摩擦係数の10点相加平均である第1平均摩擦係数、前記座面板をブリネル硬さが120のアルミニウム系材料からなる部材として、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを締付ける際に測定された前記第1摩擦係数から前記第10摩擦係数の10点相加平均である第2平均摩擦係数、および前記座面板を、ビッカース硬さが130の鉄系材料からなる部材上に厚さ20μmカチオン電着塗装膜を備え当該カチオン電着塗装膜の面を座面とする部材として、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを締付ける際に測定された前記第1摩擦係数から前記第10摩擦係数の10点相加平均である第3平均摩擦係数の最大値と最小値との差が、0.02以内である、上記(1)に記載の摩擦が制御された部材。
【0013】
(3)前記第2平均摩擦係数を求めるために測定された前記第1摩擦係数と前記第2平均摩擦係数を求めるために測定された前記第10摩擦係数との差の絶対値が0.03以下であり、前記第3平均摩擦係数を求めるために測定された前記第1摩擦係数と前記第3平均摩擦係数を求めるために測定された前記第10摩擦係数との差の絶対値が0.03以下である、上記(2)に記載の摩擦が制御された部材。
【0014】
(4)少なくとも一方について前記摩擦が制御された部材からなるボルトおよびナットならびに鉄系材料からなる座面板を用いて、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、前記ボルトを試験するように前記ボルトと前記ナットとを25Nmのトルクで締付け、得られたねじ締結体を150℃の環境下に3時間静置した後、25℃の環境下にて、締付けを解除する向きに10Nmのトルクを前記ねじ締結体の前記ボルトに直ちに付与しても、前記ねじ締結体の締付けが緩まない、上記(1)から(3)のいずれかに記載の摩擦が制御された部材。
【0015】
(5)前記ボルトおよび前記ナットの双方が、前記摩擦が制御された部材からなる、上記(1)から(4)のいずれかに記載の摩擦が制御された部材。
【0016】
(6)前記皮膜は、前記ケイ素含有有機無機複合皮膜よりも前記基材に近位な位置に、亜鉛を含む亜鉛含有皮膜を有し、前記摩擦が制御された部材を250℃の環境下に12時間静置した後、JIS Z2371:2000(ISO 9227:1990)に準拠して、中性塩水噴霧試験を実施したときに測定された赤錆発生時間の、前記摩擦が制御された部材を、JIS Z2371:2000(ISO 9227:1990)に準拠して、中性塩水噴霧試験を実施したときに測定された赤錆発生時間に対する比は、0.8以上である、上記(1)から(5)のいずれかに記載の摩擦が制御された部材。
【0017】
(7)前記亜鉛含有皮膜は亜鉛系めっき皮膜であり、前記亜鉛系めっき皮膜と前記ケイ素含有有機無機複合皮膜との間に化成皮膜を有する、上記(6)に記載の摩擦が制御された部材。
【0018】
(8)前記亜鉛含有皮膜は亜鉛を含む材料の粉末が分散された皮膜である、上記(6)に記載の摩擦が制御された部材。
【0019】
(9)上記(1)から(8)のいずれかに記載される摩擦が制御された部材が備える前記ケイ素含有有機無機複合皮膜を形成するための液状組成物であって、前記ケイ素含有物質を形成するためのケイ素含有成分および前記樹脂系材料を形成するための樹脂含有成分を含有する液状組成物。
【0020】
(10)前記ケイ素含有物質は、ケイ酸含有物質および有機ケイ素化合物の少なくとも一方を含む、上記(9)に記載の液状組成物。
【0021】
(11)前記ケイ酸含有物質はアルカリシリケートを含む、上記(10)に記載の液状組成物。
【0022】
(12)前記ケイ酸含有物質が含むアルカリシリケートはリチウムシリケートであって、当該リチウムシリケートの、リチウム分のリチウム酸化物換算モル比に対するシリコン分のシリコン酸化物のモル比(SiO
2/Li
2O)が5以上10以下である、上記(11)に記載の液状組成物。
【0023】
(13)前記樹脂系材料は架橋剤を含有する、上記(9)から(12)のいずれかに記載の液状組成物。
【0024】
(14)前記ケイ素含有物質の含有量は、前記液状組成物全体に対して、1質量%以上80質量%以下である、上記(9)から(13)のいずれかに記載の液状組成物。
【0025】
(15)前記ケイ素含有物質はアルカリシリケートを含有し、前記アルカリシリケートの含有量は、前記液状組成物全体に対して、10質量%以上60質量%以下である、上記(9)から(14)のいずれかに記載の液状組成物。
【0026】
(16)前記樹脂系材料の含有量は10質量%以上70質量%以下である、上記(9)から(15)のいずれかに記載の液状組成物。
【0027】
(17)前記ケイ素含有物質の含有量の前記樹脂系材料の含有量に対する質量比率(ケイ素含有物質/樹脂系材料)は、0.3から5の範囲内である、上記(9)から(16)のいずれかに記載の液状組成物。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る摩擦が制御された部材からなる締結部品は、それらを用いて締結作業が繰り返し行われるような場合であっても、被締結部品の締結状態が変動しにくいことを実現可能である。また、本発明によれば、かかる摩擦が制御された部材が備えるケイ素含有有機無機複合皮膜を形成するための液状組成物も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
1.摩擦が制御された部材
本発明の一実施形態に係る摩擦が制御された部材(本明細書において「FC部材」ともいう。)は、基材と、基材上に設けられた皮膜とを備える。
【0031】
本発明の一実施形態に係るFC部材が備える基材の材質は限定されない。鉄系材料、アルミニウム系材料、銅系材料などが例示される。本明細書において「鉄系材料」とは、鉄を主成分とする材料を意味する。鉄以外の材料(元素)は、鉄と合金を形成していてもよいし、鉄を含む材料内に分散していてもよい。「アルミニウム系材料」、「銅系材料」も同様に定義される。鉄系材料からなる基材の具体例として、冷間圧延鋼板、ステンレス鋼板などが挙げられる。アルミニウム系材料の具体例として、純アルミニウム;Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金等のアルミニウム合金などが挙げられる。銅系材料の具体例として、純銅;ベリリウム銅、リン青銅等の銅合金などが挙げられる。
【0032】
本発明の一実施形態に係るFC部材が備える皮膜は、ケイ素含有物質および樹脂系材料を含有する液状組成物から形成されたケイ素含有有機無機複合皮膜を備える。基材上に設けられた皮膜がケイ素含有有機無機複合皮膜を備えることにより、次に説明する摩擦特性を備えることができる。すなわち、少なくとも一方についてFC部材からなるボルトおよびナットならびに鉄系材料からなる座面板(具体例として、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に規定されるタイプHHの座面板が挙げられる。)を用いて、次のようにして、複数の総合摩擦係数を測定する。
【0033】
JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、ボルトを試験する(具体的には、JIS B1084:2007の
図1b)に示されるようにボルト、ナットおよび座面板を配置する。)ように、ボルトとナットとを締付け、この際に総合摩擦係数を測定する。本明細書においてこの総合摩擦係数を「第1摩擦係数」ともいう。
【0034】
第1摩擦係数を測定した後、ボルトとナットとの締付けを緩め、再度、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、ボルトを試験するようにボルトとナットとを締付け、この際に総合摩擦係数を測定する。本明細書においてこの総合摩擦係数を「第2摩擦係数」という。
【0035】
第2摩擦係数を測定する際に行われたボルトとナットとの緩め作業および締付け作業の繰り返しを8回行って、それぞれの締付け作業の際に、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して総合摩擦係数を測定する。本明細書においてこれらの総合摩擦係数を「第3摩擦係数」から「第10摩擦係数」という。
【0036】
本発明の一実施形態に係るFC部材は、上記のように鉄系材料からなる座面板を用いて測定された第10摩擦係数μ
10と第1摩擦係数μ
1との差の絶対値Δμ
1が、0.03以下である。
本発明の一実施形態に係るFC部材未満がこのような摩擦特性を有することにより、本発明の一実施形態に係るFC部材から少なくとも一方が構成されるボルトとナットとの締結作業が繰り返し行われるような場合であっても、被締結部品の締結状態を変動しにくくすることができる。
【0037】
締結作業を繰り返した場合における被締結部品の締結状態の変動をより安定的に抑制する観点から、Δμ
1は、0.02以下であることが好ましく、0.015以下であることがより好ましく、0.01以下であることが特に好ましい。
【0038】
本発明の一実施形態に係るFC部材が上記のように繰り返し締結作業を行っても摩擦係数の変動が少なく、被締結部品の締結状態が安定化する理由は定かでない。FC部材の皮膜が備えるケイ素含有有機無機複合皮膜は、無機系の材料を有しているため耐摩耗性に優れている可能性がある。FC部材の皮膜が備えるケイ素含有有機無機複合皮膜は、有機系の材料を有しているため摩擦係数が低くなっている可能性がある。FC部材の皮膜が備えるケイ素含有有機無機複合皮膜は、有機無機複合材料を有しているため繰り返し締結作業を行っても摩擦係数の変動が少ない可能性がある。
【0039】
本発明の一実施形態に係るFC部材は、座面板の材質が異なっていても、被締結部品の締結状態の変動を生じにくくすることができる場合がある。すなわち、上記の、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して行われる第1摩擦係数から第10摩擦係数の測定を、座面板をアルミニウム系材料(具体例として、ブリネル硬さが120のアルミニウム材料が挙げられる。)からなる部材とした場合についても行って、これらの10の摩擦係数の10点相加平均として第2平均摩擦係数を求め、さらに、ビッカース硬さ130が鉄系材料からなる部材上に厚さ20μmのカチオン電着塗装膜を備え当該カチオン電着塗装膜の面を座面とする部材からなる座面板とした場合についても行って同様に第3平均摩擦係数を求めたときに、第1平均摩擦係数から第3平均摩擦係数の最大値と最小値との差を0.02以内とすることができる場合がある。上記の最大値と最小値との差は、0.015以内であることが好ましく、0.01以内であることがより好ましい。
【0040】
上記の第2平均摩擦係数を求めるために測定された第1摩擦係数と第10摩擦係数との差の絶対値Δμ
2は、0.03以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましく、0.01以下であることが特に好ましい。
【0041】
上記の第3平均摩擦係数を求めるために測定された第1摩擦係数と第10摩擦係数との差の絶対値Δμ
3は、0.03以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましく、0.01以下であることが特に好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態に係るFC部材は、次に説明する耐熱緩み性に優れていることが好ましい。すなわち、まず、少なくとも一方が本発明の一実施形態に係るFC部材からなるM10のボルトおよびナットならびに鉄系材料からなる座面板を用いて、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、ボルトを試験するようにボルトとナットとを25Nmのトルクで締付けて、ねじ締結体を得る。こうして得られたねじ締結体を150℃の環境下に3時間静置する。その後、25℃の環境下にて、締付けを解除する向きの10Nmのトルクをねじ締結体のボルトに直ちに付与する。その結果、ねじ締結体の締付けが緩まない場合には、耐熱緩み性に優れると判定することができる。本発明の一実施形態に係るFC部材は、耐熱緩み性に優れることをより安定的に実現する観点から、上記の締め付けを解除する向きのトルクが、11Nmであってもねじ締結体の締付けが緩まないことが好ましく、12Nmであってもねじ締結体の締付けが緩まないことがより好ましい。
【0043】
締結作業を繰り返した場合における締結状態の変動をより安定的に抑制する観点、耐熱緩み性に優れることをより安定的に実現させる観点から、上記のJIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠した総合摩擦係数(第1摩擦係数から第10摩擦係数)の測定に使用されるボルトおよびナットはいずれもFC部材であることが好ましい。また、第1摩擦係数の制御しやすさの観点、生産性を高める観点などから、ケイ素含有有機無機複合皮膜は、FC部材が備える皮膜の最表面に位置することが好ましい。
【0044】
本発明の一実施形態に係るFC部材は、次に説明する加熱後耐食性を有していることが好ましい。すなわち、まず、FC部材が備える皮膜を、ケイ素含有有機無機複合皮膜よりも基材に近位な位置に、亜鉛を含む皮膜である亜鉛含有皮膜を有するものとする。この亜鉛含有皮膜は亜鉛を含有する限りその組成や構造は限定されない。亜鉛含有皮膜として、亜鉛系めっき皮膜、亜鉛を含む材料の粉末などが分散された皮膜が例示される。
【0045】
亜鉛含有皮膜の例示における前者の皮膜(亜鉛系めっき皮膜)の具体例として、亜鉛めっき皮膜、亜鉛合金めっき皮膜が挙げられる。亜鉛系めっき皮膜を備える場合には、亜鉛系めっき皮膜上に化成皮膜が形成されていることが好ましい。この場合における化成皮膜の種類は限定されない。環境負荷が低い化成皮膜の例として、6価クロムを含有しない3価クロム含有化成皮膜、クロムを含有しないいわゆるクロムフリー化成皮膜などが挙げられる。
【0046】
亜鉛含有皮膜の例示における後者の皮膜(亜鉛を含む材料の粉末などが分散された皮膜)はジンクリッチペイントと称される場合がある。当該皮膜が含有する亜鉛を含む材料の粉末は亜鉛粉末であってもよいし、亜鉛合金粉末であってもよい。アルミニウムを含有する材料の粉末がさらに含まれていてもよい。
【0047】
かかる亜鉛含有皮膜を含む皮膜を備えるFC部材に対して、JIS Z2371:2000(ISO 9227:1990)に準拠した中性塩水噴霧試験を実施して、赤錆が発生するまでの時間(以下、「加熱前赤錆発生時間」ともいう。)を測定する。次に、別途、亜鉛含有皮膜を含む皮膜を備えるFC部材を250℃の環境下に12時間静置した後、JIS Z2371:2000(ISO 9227:1990)に準拠して、中性塩水噴霧試験を実施して赤錆が発生するまでの時間(以下、「加熱後赤錆発生時間」ともいう。)を測定する。加熱前赤錆発生時間および加熱後赤錆発生時間は、具体的には、上記の中性塩水噴霧試験を実施して、FC部材の表面を目視で観察し、赤錆が発生したことが初めて認められた時間として定義される。そして、加熱後赤錆発生時間の加熱前赤錆発生時間に対する比(本明細書において「耐熱比」ともいう。)を求める。本明細書において、この耐熱比が0.8以上であるときに、FC部材は加熱後耐食性に優れるという。本発明の一実施形態に係るFC部材は加熱後耐食性に優れることが好ましい。また、本発明の一実施形態に係るFC部材は、加熱後耐食性に優れることをより安定的に実現させる観点から、その耐熱比が、0.85以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましい。
【0048】
ケイ素含有有機無機複合皮膜は、PTFE、ワックスなどの潤滑成分、アルミニウムなどの金属系材料の粉末、アルミナなどの無機系材料の粉末、カーボンブラック、顔料、染料などの着色材料などを含有していてもよい。ケイ素含有有機無機複合皮膜が潤滑成分を含有することにより、摩擦係数の値を調整することが容易となる場合もある。このほか、ケイ素含有有機無機複合皮膜を形成するための液状組成物の安定性や被処理物との接触作業性を高める観点から含有させた成分が残留していてもよい。そのような成分として、消泡剤、分散剤、溶媒などが例示される。
【0049】
本発明の一実施形態に係るケイ素含有有機無機複合皮膜の厚さは限定されない。通常、0.01μm程度から10μm程度であり、0.05μm程度から5μm程度であることが好ましい場合もある。
【0050】
2.液状組成物
本発明の一実施形態に係る液状組成物は、摩擦が制御された部材が備えるケイ素含有有機無機複合皮膜を形成するための液状組成物であって、前述のケイ素含有物質および樹脂系材料を含有する。
【0051】
ケイ素含有物質は、そのままで、または脱水縮合などの反応を伴って、ケイ素含有有機無機複合皮膜におけるケイ素を含有する成分となる。ケイ素含有物質は、1種類の物質から構成されていてもよいし、複数種類の物質から構成されていてもよい。ケイ素含有物質として、ケイ酸含有物質および有機ケイ素化合物が例示される。が例示され、ケイ素含有物質は、ケイ酸含有物質および有機ケイ素化合物の双方を含むことが好ましい。このとき、有機ケイ素化合物はシランカップリング剤であってもよい。
【0052】
上記のケイ酸含有物質として、アルカリシリケート、有機ケイ素化合物、コロイダルシリカなどが例示される。アルカリシリケートの具体例として、リチウムシリケート、ナトリウムシリケート、カリウムシリケートなどが例示される。ケイ酸含有物質がアルカリシリケートとしてリチウムシリケートを含む場合において、リチウムシリケートの、リチウム分のリチウム酸化物換算モル比に対するシリコン分のシリコン酸化物のモル比(SiO
2/Li
2O)は5以上10以下であることが好ましい場合もある。そのような場合の例として、亜鉛含有皮膜が亜鉛系めっき皮膜である場合が挙げられる。
【0053】
有機ケイ素化合物シランカップリング剤およびアルコキシシラン化合物が例示される。シランカップリング剤として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどが例示される。アルコキシシラン化合物として、エチルシリケート、エチルポリシリケート等アルコキシシリケート、そのオリゴマーなどが例示される。
【0054】
本発明の一実施形態に係る液状組成物におけるケイ素含有物質の含有量は限定されない。液状組成物から形成されるケイ素含有有機無機複合皮膜を備えるFC部材の耐摩耗性を高める観点から、液状組成物全体に対して、ケイ素含有物質の含有量は1質量%以上80質量%以下であることが好ましい場合があり、3質量%以上70質量%以下であることがより好ましい場合があり、25質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい場合があり、35質量%以上45質量%以下であることが特に好ましい場合がある。
【0055】
本発明の一実施形態に係る液状組成物におけるケイ素含有物質がアルカリシリケートを含有する場合において、液状組成物におけるアルカリシリケートの含有量は限定されない。アルカリシリケートの含有量は、液状組成物全体に対して、当該含有量は10質量%以上60質量%以下であることが好ましい場合があり、15質量%以上55質量%以下であることがより好ましい場合があり、20質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい場合があり、25質量%以上45質量%以下であることが特に好ましい場合がある。
【0056】
本発明の一実施形態に係る液状組成物におけるケイ素含有物質がシランカップリング剤を含有する場合において、液状組成物におけるシランカップリング剤の含有量は限定されない。シランカップリング剤の含有量は、液状組成物全体に対して、当該含有量は1質量%以上20質量%以下であることが好ましい場合があり、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましい場合があり、3質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい場合があり、4質量%以上7質量%以下であることが特に好ましい場合がある。
【0057】
樹脂系材料は、そのままで、または架橋などの反応を伴って、ケイ素含有有機無機複合皮膜における樹脂を含む成分となる。樹脂系材料の種類は限定されず、1種類の物質から構成されていてもよいし、複数種類の物質から構成されていてもよい。
【0058】
樹脂系材料に含まれる樹脂として、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂などが例示される。取扱いのしやすさ、ケイ素含有有機無機複合皮膜の物性制御のしやすさから、これらの樹脂の中でもアクリル系樹脂やエポキシ系樹脂が好ましい場合がある。こうした樹脂は、液状組成物の溶媒が水である場合には、水溶性、水分散性といった水系樹脂であることが好ましい。樹脂系材料に含まれる樹脂が水系樹脂である場合には、アルカリシリケートのように水を溶媒とするケイ酸含有物質と混和しやすく、取扱いが容易である。
【0059】
本発明の一実施形態に係る液状組成物における樹脂系材料の含有量は限定されない。液状組成物から形成されるケイ素含有有機無機複合皮膜を備えるFC部材の摩擦係数を低減させる観点から、液状組成物全体に対して、当該含有量は1質量%以上70質量%以下であることが好ましい場合があり、3質量%以上60質量%以下であることがより好ましい場合があり、5質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい場合があり、20質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい場合がある。
【0060】
優れた特性を有するケイ素含有有機無機複合皮膜を形成することをより安定的に可能とする観点から、液状組成物おけるケイ酸含有物質の含有量の樹脂系材料の含有量に対する質量比率(ケイ酸含有物質/樹脂系材料)は、0.3から5の範囲内であることが好ましい場合があり、0.5から3の範囲内であることがより好ましい場合があり、0.8から2の範囲内であることがさらに好ましい場合があり、1から1.5の範囲内であることが特に好ましい場合がある。
【0061】
本発明の一実施形態に係る液状組成物がケイ素含有物質および樹脂系材料以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。その他の成分として、PTFE、ワックス等の潤滑成分、アルミニウム等の金属系材料の粉末、アルミナ等の無機系材料の粉末、カーボンブラック、顔料、染料等の着色材料、消泡剤、分散剤、溶媒などが挙げられる。溶媒として、水、有機溶剤などが例示される。その他の成分のそれぞれは、1種類の材料から構成されていてもよいし、複数種類の材料から構成されていてもよい。
【0062】
ケイ素含有有機無機複合皮膜が架橋物を含有する場合には、この架橋物を形成するための高分子材料(この高分子材料は、前述の樹脂系材料の一部または全部と位置付けられる。)および架橋剤を、液状組成物が含有していてもよい。そして、液状組成物からケイ素含有有機無機複合皮膜を形成する工程において、および/またはその後加熱などの処理が行われることにより、高分子材料と架橋剤との間で架橋反応が進行して、ケイ素含有有機無機複合皮膜内に架橋物が形成されてもよい。
【0063】
また、ケイ素含有有機無機複合皮膜が架橋物を含有する場合には、ケイ素含有有機無機複合皮膜が含有する有機系の材料に基づいてケイ素含有有機無機複合皮膜を備えるFC部材の耐摩耗性が向上することがある。このとき、液状組成物におけるケイ素含有物質の含有量を低減させてもよい。具体的には、液状組成物におけるケイ素含有物質の含有量を、液状組成物全体に対して、0.1質量%以上10質量%以下としてもよいし、0.5質量%以上5質量%以下としてもよいし、1質量%以上2質量%以下としてもよい。
【0064】
本発明の一実施形態に係る液状組成物の調製方法は限定されない。ケイ素含有物質および樹脂系材料(これらの原料となる材料を含む。)をはじめ、ケイ素含有有機無機複合皮膜に含有されるべき成分や、分散剤など液状組成物の安定性を高めるための成分などを、溶媒に溶解・分散させればよい。この際、液状組成物の安定性を高める観点などから、加熱したり、冷却したりしてもよい。
【0065】
本発明の一実施形態に係る液状組成物からケイ素含有有機無機複合皮膜を製造する方法は限定されない。一例を挙げれば、まず、液状組成物を、被処理物(基材であってもよいし、基材上にめっき層および化成皮膜が形成されたものでもよい。)と接触させる。接触方法は限定されない。被処理物を液状組成物中に浸漬してもよいし、被処理物上に液状組成物を塗布したり噴霧したりしてもよい。その後、被処理物上の液状組成物に含有される溶媒を揮発させることにより、ケイ素含有有機無機複合皮膜を被処理物上に得ることができる。溶媒を揮発させるために加熱等を行う場合には、その加熱等によって液状組成物に含有される成分が化学反応してもよい。
【0066】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0068】
(組成物の調製)
ケイ素含有有機無機複合皮膜を形成するための液状組成物として、表1および2に示される組成を有する組成物を調製した(組成物1〜24)。液状組成物に含有されるケイ素含有物質の樹脂系材料に対する質量比率(表中では「比率1」と示した。)
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
各組成物の調製において、使用した成分の詳細は次のとおりであった。
(1)ケイ素含有物質
アルカリシリケート:日産化学工業社製「リチウムシリケート75」
シランカップリング剤:TORAY・ダウコーニング社製「Z 6040」
(2)樹脂系材料
アクリル樹脂:楠本化成社製「NeoCryl A‐2091」
エポキシ樹脂:ADEKA社製「アデカレジンEM‐0434AN」
(3)潤滑成分
ポリエチレンワックス:BASFジャパン社製「ポリゲンWE6」
PTFE:ダイキン工業社製「ポリフロンD‐210C」
(4)架橋剤:旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラネートWB40‐100」
(5)消泡剤:ビックケミー・ジャパン社製「BYK‐1711」
(6)顔料:大日精化工業社製「MF‐5533 ブラック」
【0072】
なお、リチウムシリケートからなるアルカリシリケートおよびシランカップリング剤がケイ素含有物質に該当し、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂が樹脂系材料に該当する。リチウムシリケートにおける、リチウム分のリチウム酸化物換算モル比に対するシリコン分のシリコン酸化物のモル比(SiO
2/Li
2O)は7.5であった。
【0073】
(実施例1から14、16および18から23)
鉄系材料からなり硬度10.9のM10ボルトからなる基材(ボルト基材)および同材料からなるM10ナット(ナット基材)からなる基材上に、下記のようにして皮膜を形成した。
【0074】
ボルト基材上に、ユケン工業社製「メタスYC−B11」を用いて金属含有皮膜を形成し、次に、表3に示されるように、組成物1から14、15および17から22のいずれかに浸漬・乾燥(100℃、10分間)することにより、上記の金属含有皮膜上にケイ素含有有機無機複合皮膜を形成した。ナット基材上に、ユケン工業社製「メタスYC−B11」を用いて金属含有皮膜を形成し、次に、表1に示されるように、組成物1から14、15および17から22のいずれかに浸漬・乾燥(100℃、10分間)することにより、上記の金属含有皮膜上にケイ素含有有機無機複合皮膜を形成した。
【0075】
(実施例15)
ボルト基材上に、まず電気めっきにより亜鉛めっき皮膜を8μm形成し、次に、三価クロムを含有する六価クロムフリー化成処理により化成皮膜を形成し、さらに、表3に示されるように、組成物14に浸漬・乾燥(100℃、10分間)することにより、ケイ素含有有機無機複合皮膜を形成した。ナット基材上に、まず電気めっきにより亜鉛めっき皮膜を形成し、次に、三価クロムを含有する六価クロムフリー化成処理により化成皮膜を形成した。
【0076】
(実施例17)
ボルト基材上に、まず電気めっきにより亜鉛−鉄合金めっき皮膜を形成し、次に、三価クロムを含有する六価クロムフリー化成処理により化成皮膜を形成し、さらに、表3に示されるように、組成物16に浸漬・乾燥(100℃、10分間)することにより、黒色のケイ素含有有機無機複合皮膜を形成した。ナット基材上に、まず電気めっきにより亜鉛−鉄合金めっき皮膜を形成し、次に、三価クロムを含有する六価クロムフリー化成処理により化成皮膜を形成した。
【0077】
(比較例1および2)
ボルト基材上に、ユケン工業社製「メタスYC−B11」を用いて金属含有皮膜を形成し、次に、表1に示されるように、組成物23または24に浸漬・乾燥(100℃、10分間)することにより、上記の金属含有皮膜上にケイ素含有有機無機複合皮膜を形成した。ナット基材上に、ユケン工業社製「メタスYC−B11」を用いて金属含有皮膜を形成し、次に、表1に示されるように、組成物23または24に浸漬・乾燥(100℃、10分間)することにより、上記の金属含有皮膜上にケイ素含有有機無機複合皮膜を形成した。
【0078】
【表3】
【0079】
(試験例1)
実施例および比較例により製造したボルトおよびナットを、鉄系材料からなる部材からなる座面板(JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に規定されるタイプHHの座面板、表4から8において「座面板1」と記す。)、アルミニウム系材料(ブリネル硬さ:120)からなる部材からなる座面板(表4から8において「座面板2」と記す。)、およびビッカース硬さが130の鉄系材料からなる部材上に厚さ20μmのカチオン電着塗装膜を備え当該カチオン電着塗装膜の面を座面とする部材からなる座面板(表4から8において「座面板3」と記す。)のいずれかを用いて、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、総合摩擦係数としての第1摩擦係数から第10摩擦係数までを連続して測定した。これらの総合摩擦係数の測定は、SCHATZ社製摩擦係数測定機「SCHATZ ANALYZE」を用いた。上記の摩擦係数測定機は、あらかじめ設定されたプログラムに基づいて、任意のボルトの締め作業および緩め作業を行うことが可能な締結制御装置を備えるものであった。
【0080】
JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に示されるように、総合摩擦力係数μ
tot(単位:無次元)は、締付けトルクT(単位:Nm)と締付け力F(単位:Nm)との比から、次の近似式によって求めた。
μ
tot = {(T/F)−(P/2π)}/(0.577d
2+0.5D
b)
【0081】
ここで、Pはねじのピッチ(単位:mm)、d
2はねじの有効径の基準寸法(単位:mm)、D
bはボルト頭部座面の外径D
0(単位:mm)および試験用座面板のボルト穴径d
h(単位:mm)から次式により求められるものである。
D
b = (D
0+d
h)/2
【0082】
こうして得られた締付けられたボルトとナットとを、上記の摩擦係数測定装置の締結制御装置を用いて、ボルトとナットとの緩め作業を行い、続いて、再び締め作業を行って、ボルトとナットとを締付けた。この締付け作業の際に総合摩擦係数としての第2摩擦係数を測定した。
【0083】
上記の緩め作業と締付け作業との繰り返しを8回行って、それぞれの締付け作業の際に、総合摩擦係数としての第3摩擦係数から第10摩擦係数を測定した。
【0084】
こうして得られた各座面板を用いた場合の第10摩擦係数から第1摩擦係数を用いて、第1平均摩擦係数から第3平均摩擦係数を求めた。これらの結果を、表4から8では「平均摩擦係数」の行に示した。各座面板を用いた場合の第10摩擦係数から第1摩擦係数を用いて、第10摩擦係数と第1摩擦係数との差の絶対値を求めた。これらの結果を、表4から8では「摩擦係数変動」の行に示した。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】
【0090】
以上の結果に基づき、各実施例について、座面板1、座面板2、座面板3における第1摩擦係数から第10摩擦係数の平均値を求め、その結果を、表4から8の「平均摩擦係数」の行に示した。また、第1摩擦係数と第10摩擦係数との差の絶対値を求め、その結果を、表4から8に「摩擦係数変動」の行に示した。
第1摩擦係数と第10摩擦係数との差の絶対値が0.03以下である場合には、良好と判断し、0.03超である場合には不良と判断した。判断結果を表9の「評価1」の列に示す。座面板1から3の平均摩擦係数の最大値と最小値との差が0.02以下である場合には良好と判断した。判断結果を表9の「評価2」の列に示す。
【0091】
【表9】
【0092】
(試験例2)
実施例および比較例により製造したM10のボルトおよびナットと、鉄系材料からなる座面板とを用いて、JIS B1084:2007(ISO 16047:2005)に準拠して、ボルトを試験するようにボルトとナットとを25Nmのトルクで締付けて、ねじ締結体を得た。こうして得られたねじ締結体を150℃の環境下に3時間静置した。その後、25℃の環境下にて、締付けを解除する向きに10Nmのトルクをねじ締結体のボルトに直ちに付与した。このトルク付与の結果、ねじ締結体の締付けが緩むか否かを確認して、締付けが緩まなかった場合に、耐熱緩み性に優れると判定した。確認結果を表9に示した。
【0093】
(試験例3)
実施例および比較例により製造したM10のボルトおよびナットに対して、JIS Z2371:2000(ISO 9227:1990)に準拠した中性塩水噴霧試験を実施して、ボルトおよびナットを目視で観察することにより、加熱前赤錆発生時間を測定した。次に、別途、実施例および比較例により製造したM10のボルトおよびナットを、250℃の環境下に12時間静置した後、JIS Z2371:2000(ISO 9227:1990)に準拠して、中性塩水噴霧試験を実施して、ボルトおよびナットを目視で観察することにより、加熱後赤錆発生時間を測定した。こうして求めた加熱後赤錆発生時間および加熱前赤錆発生時間から耐熱比を求めた。求めた耐熱比に基づき、次の基準で加熱後耐食性を評価した。
耐熱比が0.9以上:加熱後耐食性に特に優れる
耐熱比が0.8以上:加熱後耐食性に優れる
耐熱比が0.8未満:加熱後耐食性に優れるとはいえない
加熱前赤錆発生時間および加熱後赤錆発生時間の測定結果ならびに耐熱比の算出結果を表9に示した。
【課題】ボルトとナットとの締付け作業および緩め作業が繰り返し行われるような場合であっても、被締結部品の締結状態が変動しにくい摩擦が制御された部材、および当該摩擦が制御された部材が備えるケイ素含有有機無機複合皮膜を形成するための液状組成物を提供する。
【解決手段】基材と、基材上に設けられた皮膜とを備える、摩擦が制御された部材であって、皮膜は、ケイ素含有物質および樹脂系材料を含有する液状組成物から形成されたケイ素含有有機無機複合皮膜を備え、ケイ素含有物質は、ケイ酸含有物質およびシランカップリング剤の少なくとも一方を含み、少なくとも一方について摩擦が制御された部材からなるボルトおよびナットならびに鉄系材料からなる座面板を用いて、ボルトを試験するようにボルトとナットとを締付ける際に測定された総合摩擦係数である第1摩擦係数、および上記ボルトおよびナットの緩めおよび締付けを9回繰り返し行った場合における9回目の締付けの際に測定された総合摩擦係数である第10摩擦係数との差の絶対値が0.03以下である、摩擦が制御された部材。