【実施例】
【0040】
次に、本発明に係る保湿性粒
子の製造方法につき、好適な実施例を挙げて以下に説明する。実施例
および実験例1〜13は、以下の表1に示すように条件を変えて、カチオン交換容量、拘束水の融点、飽和吸水量、吸湿量および円形度について測定した。なお、参考例は、球形状の架橋ポリアクリル酸メチル粒子(積水化成品工業(株)製:商品名ARX−30,平均粒径30μm)である。
【0041】
【表1】
【0042】
(実
験例1)
実
験例1では、球形状の架橋ポリアクリル酸メチル粒子(積水化成品工業(株)製:商品名ARX−30,平均粒径30μm)を、3Mの水酸化カリウム(KOH)水溶液とアセトンとからなる反応溶媒(アセトン濃度:20.8wt%)に分散し、反応温度を60℃に設定して、16時間に亘ってかき混ぜつつ加水分解処理を行った。16時間経過後に、反応溶媒から生成物をろ取し、水、メタノールおよびジエチルエーテルで洗浄して乾燥することで、前記架橋ポリアクリル酸メチル粒子のカルボン酸アルキルエステルが一部加水分解された構造を有する実
験例1に係る保湿性粒子を得た。
【0043】
実
験例1の保湿性粒子の赤外吸収スペクトルをフーリエ変換型赤外分光装置で測定したところ、
図2に示すように、未加水分解処理の架橋ポリアクリル酸メチル粒子と比べて、1570cm
−1付近にカルボアニオンに由来するシャープな吸収が現れ、架橋ポリアクリル酸メチル粒子で加水分解が起こったことが明らかである。なお、赤外分光装置としては、日本分光株式会社社製の製品名FT/IR−700を用いた。
【0044】
(実
験例2)
実
験例2では、球形状の架橋ポリアクリル酸メチル粒子(積水化成品工業(株)製:商品名ARX−30,平均粒径30μm)を、3Mの水酸化カリウム(KOH)水溶液とアセトンとからなる反応溶媒(アセトン濃度:20.8wt%)に分散し、反応温度を60℃に設定して、24時間に亘ってかき混ぜつつ加水分解処理を行った。24時間経過後に、反応溶媒から生成物をろ取し、水、メタノールおよびジエチルエーテルで洗浄して乾燥することで、前記架橋ポリアクリル酸メチル粒子のカルボン酸アルキルエステルが一部加水分解された構造を有する実
験例2に係る保湿性粒子を得た。なお、実
験例2の保湿性粒子の赤外吸収スペクトルを実
験例1と同様に測定したところ、1570cm
−1付近にカルボアニオンに由来するシャープな吸収が現れることが分かった。
【0045】
(実施例
および実験例3〜13)
実施例および実
験例3〜
12では、球形状の架橋ポリアクリル酸メチル粒子(積水化成品工業(株)製:商品名ARX−30)を、3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を少なくとも含む反応溶媒に分散し、所定の反応温度でかき混ぜつつ加水分解処理を行った。実
験例
13では、球形状の架橋ポリアクリル酸メチル粒子(積水化成品工業(株)製:商品名ARX−30)を、3Mの水酸化カリウム(KOH)水溶液を少なくとも含む反応溶媒に分散し、所定の反応温度でかき混ぜつつ加水分解処理を行った。所定の反応時間経過後に、反応溶媒から生成物をろ取し、水、メタノールおよびジエチルエーテルで洗浄して乾燥することで、前記架橋ポリアクリル酸メチル粒子のカルボン酸アルキルエステルが一部加水分解された構造を有する実施例
および実験例3〜13に係る保湿性粒子を得た。なお、実施例
および実験例3〜13は、以下の条件の違いがある。
【0046】
・反応温度は、実施例
および実験例3〜10,12,13が60℃に設定され、実
験例
11が35℃に設定される。
・架橋ポリアクリル酸メチル粒子の平均粒径は、実施例
および実験例3〜5,
7〜13が30μmであり、実
験例
6が15μmである。
・反応時間は、
実施例および実
験例3,5
,6,11,12が16時間であり、実
験例4が12時間であり、実
験例
7および
13が6時間であり、実
験例
8が7.5時間であり、実
験例
9が2時間であり、実
験例
10が4時間に設定される。
・反応溶媒は、実
験例3〜5,
6〜
11が3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液とアセトンとを混合したものであり、実施
例が3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液とエタノール(エタノール濃度:20.8wt%)を混合したものである。実
験例
12の反応溶媒は、有機溶媒を加えずに3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液のみで構成されている。実
験例
13は、3Mの水酸化カリウム(KOH)水溶液とアセトンとを混合したものが反応溶媒として用いられる。
・アセトン濃度は、実
験例3,4,
6〜
11および
13が20.8wt%に設定され、実
験例5が10.4wt%に設定に設定される。
【0047】
実
験例
8の保湿性粒子について、表面部分および内部の夫々の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光装置(FT-IR)で測定したところ、
図3に示すように、表面部分では、アルキルエステル結合に由来する吸収が小さく、カルボアニオンに由来するシャープな吸収が現れている。また、実
験例
8の保湿性粒子の内部では、エステル結合に由来する吸収が大きく現れる一方、カルボアニオンに由来する吸収が見られない。すなわち、実
験例
8の保湿性粒子では、架橋ポリアクリル酸メチル粒子の表面部分で加水分解が起こり、内部において加水分解が起きていないことが確認された。
【0048】
実施例
および実験例3〜
13の保湿性粒子の赤外吸収スペクトルを実
験例1と同様に測定したところ、実施例
および実験例3〜
13では、実
験例1と同じように1570cm
−1付近にカルボアニオンに由来するシャープな吸収が現れることが分かった。しかし、実
験例
10〜
12では、1570cm
−1付近でのカルボアニオンに由来する吸収が小さかった。また、
図4に示すように、反応時間が長くなるにつれて、エステル結合に由来する吸収が小さくなる一方、カルボアニオンに由来する吸収が大きく現れることから、反応時間が長くになるとエステル結合の加水分解反応が進み、より多くのカルボキシル基が生成されることが分かった。
【0049】
実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子について、カチオン交換容量を調べた。実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子を0.1MのHClで酸処理後、水で洗浄し、凍結乾燥した。乾燥後の実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子
(100mg)の夫々とイオン交換水50mlを1時間攪拌した混合液を、0.05MのNaOHで滴定し、滴定曲線を作成し、pH7.0のときの滴定量からイオン交換容量を算出した。なお、測定装置は、東亜ディーケーケー(株)のTOAIONMETER IM−40Sであり、同社製GS−50HSの微小ガラス電極を用いて測定した。
図5に示すように、反応時間が長くなるにつれて、カチオン交換容量(
図5のカルボシキル基量)が大きくなることから、反応時間が長くなるとエステル結合の加水分解反応が進み、より多くのカルボキシル基が生成されることが分かった。
【0050】
実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子について、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株):DSC6200,接続ステーションEXTAR6000)を用い、各粒子10mgに水を5μL添加し、水の熱的挙動により各粒子の保湿性に直接関係する水を拘束する能力を調べた。冷却装置(HAAKE製EK−90 SII)を用いて、実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子を20℃から50℃に昇温した後に−50℃まで冷却した。そして、−50℃から50℃への昇温および50℃から−50℃への降温を4回繰り返して、4回目の昇温時における水の融点を拘束される水の融点として示差走査熱量計で測定した。その結果を表1に示す。
【0051】
実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子の飽和吸水量を、ティーバック法で調べた。実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子の夫々を、シルク製のティーバック(東レ株式会社製:寸法200mm×100mm)に0.2g(乾燥時の重量)入れ、300mLの純水中に3時間浸漬する。次に、ティーバックを引き上げて10分間水切りを行った後、膨潤した実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子を含むティーバックの重量を測定し、空のティーバックの重量を減じて、浸漬処理後の実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子の重量を算出する。そして、浸漬処理後の実施例
および実験例1〜13に係る保湿性粒子の重量から乾燥時の実施例
および実験例1〜13に係る保湿性粒子の重量を減じた値を乾燥時の実施例
および実験例1〜13に係る保湿性粒子の重量で除して、夫々の実施例
および実験例について飽和吸水量を算出する。その結果を反応時間と飽和吸水量との関係でまとめ、以下の表2に示す。なお、比較例1として、吸水樹脂として用いられるビーズ状のポリアクリル酸ソーダ(住友精化株式会社製、商品名:アクアキープNF)について、前述したティーパック法で飽和吸水量を算出した。なお、保湿性粒子の乾燥条件は、該保湿性粒子に含まれる水をメタノールで置換し、更にメタノールをエーテルで置換した後に、24時間減圧乾燥している。
【0052】
【表2】
【0053】
表1に示すように、加水分解処理を行っていない参考例と比べて、実施例
および実験例1〜13に係る保湿性粒子の飽和吸水量が向上することが確認できる。また、表2に示すように、比較例1の吸水樹脂の飽和吸水量に及ばないものの、化粧料等の皮膚に用いる用途として十分な飽和吸水量を示すことが分かった。また、有機溶媒としてエタノールを用いることで(実施
例参照)、アセトンを用いた場合と比較して飽和吸水量が向上することが判明した。更に、反応時間が長くなるにつれて、飽和吸水量も多くなり、反応時間を適宜に設定することで、吸水能力を簡単に調整できることが明らかである。
【0054】
次に、実施例
および実験例1〜13に係る保湿性粒子の吸湿量について調べた。実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子の夫々について、0.5g(乾燥時の重量)精秤し、温度40℃、湿度90%の条件に設定した空のプラスチック製サンプル瓶の中に放置する。サンプル瓶の中に放置してから所定時間経過した後に、吸湿処理後の実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子を取り出し、重量を測定する。吸湿量は、吸湿処理後の保湿性粒子の重量を乾燥時の保湿性粒子の重量で除して算出される。なお、表1および2に示す吸湿量は、吸湿処理を60時間に設定した値である。また、保湿性粒子の乾燥条件は、該保湿性粒子に含まれる水をメタノールで置換し、更にメタノールをエーテルで置換した後に、24時間減圧乾燥している。
【0055】
表1に示すように、加水分解処理を行っていない参考例と比べて、実施例
および実験例1〜13に係る保湿性粒子の飽和吸水量が向上することが確認できる。
図6は、参考例、実
験例3,4,
9,
13および前記比較例1について、吸湿処理の時間を変化させた場合の吸湿量をプロットしたグラフ図である。
図6に示すように、反応溶媒での反応時間が長くなるにつれて、吸湿量も多くなり、反応時間を適宜に設定することで、吸湿能力を簡単に調整できることが明らかである。また、反応時間が比較的長く設定された実
験例3および4は、比較例1の吸水樹脂よりも高い吸湿能力を示すことが確認された。
【0056】
図7は、参考例、実
験例3、比較例2および3について、吸湿処理の時間を変化させた場合の吸湿量をプロットしたグラフ図である。比較例2および3は何れも吸水性を有する高分子素材であって、比較例2は、コハク酸セルロール粒子(リバテープ製薬(株)製,商品名:モイスセルSUC−K)であり、比較例3は、ヒアルロン酸(MP−PE:株式会社資生堂製)である。比較例2および3についても、実施例
および実験例と同様の吸湿処理が行われる。
図7に示すように、実
験例3の保湿性粒子は、比較例2および3の高分子素材よりも高い吸湿能力を示すことが確認された。
【0057】
図6または
図7に示すように、実
験例の保湿性粒子は、比較例1〜3の高分子素材との比較において、吸水量は比較例1〜3の高分子素材の方が多いが、吸湿量は実
験例の保湿性粒子のほうが高い。実
験例の保湿性粒子では、加水分解が外側から起こっているため、カルボキシル基が表面に存在し、吸湿速度および吸湿量が高いことが示唆される。これに対して、逆相懸濁重合によって調製された比較例1〜3の吸水樹脂は、疎水基が表面に存在するため、水分子を吸着しにくいが分子鎖の中に多くの水を抱え込める構造になっている。
【0058】
表1および2に示す円形度は、シスメックス(株)製のフロー式粒子像分析装置FPIA−3000Sを用いて参考例
、実施例
および実験例1〜13の保湿性粒子を撮像して算出したものである。なお、円形度は、粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長を、粒子を撮像した画像の周囲長で除した値である。表1および2に示すように、円形度は、反応時間が長くなるにつれて向上することが確認された。
【0059】
図8は、実
験例1の保湿性粒子を走査型電子顕微鏡(商品名:S−4000;日立ハイテクノロジーズ(株)製)により倍率2500倍で撮像した写真を示し、
図9は、実
験例1の保湿性粒子を走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮像した写真を示す。
図10は、実
験例3の保湿性粒子を前記走査型電子顕微鏡により倍率2500倍で撮像した写真を示し、
図11は、実
験例3の保湿性粒子を走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮像した写真を示す。
図8〜
図11に示すように、実
験例1および3に係る保湿性粒子には、表面にひび割れの様なものが見られた。