特許第5728750号(P5728750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5728750活性エネルギー線硬化型平版オフセットインキおよびその印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5728750
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型平版オフセットインキおよびその印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20150514BHJP
【FI】
   C09D11/101
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-108240(P2014-108240)
(22)【出願日】2014年5月26日
【審査請求日】2014年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-30937(P2014-30937)
(32)【優先日】2014年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口聖爾
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷進典
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/008226(WO,A1)
【文献】 特開2010−132780(JP,A)
【文献】 特開2012−214782(JP,A)
【文献】 特開2011−080054(JP,A)
【文献】 特開2007−191606(JP,A)
【文献】 特表2008−545859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00− 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート化合物(A)と、
光重合開始剤(B)と、
顔料(C)とを含有し、
下記(1)〜(8)を特徴とする活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物。
(1)活性エネルギー線硬化性インキ組成物が、光増感剤を含有しない。
(2)光重合開始剤(B)が、アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)と、α-アミノアルキルフェノン(b2)と、α-ヒドロキシアルキルフェノン(b3)とを含有する。
(3)α-アミノアルキルフェノン(b2)のモル吸光係数は、350〜400nmの光波長領域内で5000(l/mol・cm)以上、且つ300〜350nmの光波長領域内で40000(l/mol・cm)以上であり、α-ヒドロキシアルキルフェノン(b3)のモル吸光係数は、250〜300nmの光波長領域内で40000(l/mol・cm)以上である。
(4)光重合開始剤(B)が、重量平均分子量300〜2000の化合物のみで構成される。
(5)活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物全量中、アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)を5重量%以下含有する。
(6)(メタ)アクリレート化合物(A)が、1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上、かつ重量平均分子量400〜2000の化合物のみで構成される。
(7)(メタ)アクリレート化合物(A)が、
ジトリメチロールプロパンテトラ(トリ)アクリレート、
エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(トリ)アクリレート、
プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(トリ)アクリレート、
エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、
プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、
およびプロピレンオキサイド変性グリセリントリアクリレート、
からなる群より選択される1以上の化合物を含有する。
(8)(メタ)アクリレート化合物(A)が、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよび/またはジペンタエリスリトールペンタアクリレートを含有する。
【請求項2】
活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物全量中、
(メタ)アクリレート化合物(A)を10〜70重量%、
光重合開始剤(B)を0.1〜30重量%、
顔料(C)を1〜60重量%含有することを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物。
【請求項3】
アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(b1−1)を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の活性エネルギー線硬化オフセットインキ組成物。
【請求項4】
活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物全量中、
光重合開始剤(B)が
α-アミノアルキルフェノン(b2)を5重量%以下、
およびα-ヒドロキシアルキルフェノン(b3)を5重量%以下、
含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の活性エネルギー線硬化オフセットインキ組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリレート化合物(A)全量中、
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよび/またはジペンタエリスリトールペンタアクリレートを0重量%超、50重量%以下含有することを特徴とする請求項記載の活性エネルギー線硬化オフセットインキ組成物
【請求項6】
下記基材(D)いずれか100cm2上に、0.0002g/cm2にて印刷された活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物に対し、メタルハライドランプ照射装置を使用し、照射出力160W/cm、照射距離10mm、コンベア速度80m/分の条件にて紫外線照射を行い、同面積のPPフィルム厚み0.2mm)を重ねて0.02kg/cm2の荷重付加にて25℃・50%環境条件下、10日間の放置を経てPPフィルムをエタノール100ml中へ60℃・50%環境条件下、10日間浸漬した後、そのエタノール中に存在する(メタ)アクリレート化合物(A)と光重合開始剤(B)とがそれぞれ100ppb未満の濃度であることを特徴とする請求項1〜いずれか記載の活性エネルギー線硬化オフセットインキ組成物。
基材(D):それぞれ厚み2.0mm以下である商業用印刷用紙(アート紙、コート紙、上質紙、マットコート紙)、厚紙(ボール紙、ミルクカートン紙、ケント紙、段ボール紙)、アルミ蒸着紙、合成紙(ユポ紙)
【請求項7】
基材(D)に、請求項1〜いずれか記載の活性エネルギー線硬化オフセットインキ組成物を積層してなるオフセットインキ積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型インキ組成物及び該組成物を印刷してなる印刷物に関する。本発明は、主要インキ含有成分である(メタ)アクリレートモノマーと光重合開始剤の両者において、印刷物からの外部移行抑制を達成する食品・医薬包装資材用活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関するものであり、特に高硬化性(高生産性)に寄与する反面で外部移行性が大きい光増感剤を使用せずに、高硬化性と外部移行抑制を両立し、さらに基材密着性が良好である活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カルトン紙、各種書籍印刷物、フォーム用印刷物等の各種包装用印刷物、各種プラスチック印刷物、シール・ラベル用印刷物、金属印刷物など種々の印刷物を得るため、平版(湿し水を使用する通常の平版および湿し水を使用しない水無し平版)、凸版、凹版、孔版印刷など種々の印刷方式が採用されており、これら印刷には各々の印刷方式に適したインキが使用されている。そのようなインキの一つとして活性エネルギー線硬化型インキが知られている。
【0003】
活性エネルギー線硬化型インキはアクリルエステル化合物のような活性エネルギー線硬化性を有する不飽和化合物を構成成分をして含有しており、活性エネルギー線照射とともに瞬時に硬化し、上記不飽和化合物の3次元架橋反応による強靭な皮膜を形成する。それに加えて、その硬化性から印刷直後での後加工が可能で従来までの酸化重合型のインキと比べ生産性が向上している。また、意匠保護のため耐摩擦性が求められる包装用パッケージ印刷の分野における使用が多い傾向にある。さらに、その際は高生産性と低コストに加え、印刷品質の点で優位性のある平版印刷が用いられることも多い。
【0004】
また、包装用パッケージ印刷において食品包装用分野の占める割合が多い。当分野ではパッケージの意匠性に関する印刷品質の向上に加え、昨今の安全志向の高まりから食品内容物に対する被覆組成原料の移行について議論の対象となる傾向が増加している。それら被覆組成原料の移行が議論対象となる傾向は、一般に安全対応意識が高いレベルにある欧米市場において当然高い傾向にあるが、昨今ではスイス連邦において世界初となる食品包装用印刷インキに関する法規制「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」が施行され、欧州全体だけでなく日本を含めた他の先進国をはじめ、新興国などにもその影響が広く波及している。
本法規制の内容としては、インキ原料について一定の毒性や環境ホルモンの疑いが報告されている物質を使用禁止とした上で、さらに使用される個々原料についても食品内容物への移行制限量を厳しく制限するものである。その移行制限量はppbオーダーと非常に微量でありインキ設計上では大変厳しいものである。さらに、世界市場全体における大手食品メーカーあるいは食品パッケージメーカーはそれぞれ自社規制として「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」と同水準の規制を設定し運用を始めている傾向にあり、本レベルの低移行性が食品包装用インキ全般に求められるようになってきている。
【0005】
低移行性、低臭性あるいは低滲み出し性を目的としては、特許文献1、2、3をはじめ種々の観点から研究が行われている。すなわち特許文献1では光重合開始剤または増感剤とポリエステル樹脂とを化学結合させることにより、移行性の高い光重合開始剤または増感剤の使用量を減量し、硬化反応後の光重合開始剤または増感剤の移行や溶出、揮発を低減させている。また特許文献2については活性エネルギー線硬化型インキ中の光重合開始剤の選定により臭気、移行性の低減を狙っている。さらに特許文献3については、増感剤として用いられるチオキサントン骨格をベースとした新規な光重合開始剤を用いることで高硬化性と低滲み出し性の両立を達成している。
【0006】
しかしながら特許文献1〜3の、その低移行、低臭、低滲み出し性評価における試験条件を見てみると、特許文献1は印刷物上にフィルム基材を乗せ、温度70℃、圧力100kgf/cm2で5時間プレスし、フィルムに移行した未反応開始剤および増感剤の量を紫外可視吸光光度計で測定するものであり、特許文献2は同様に印刷物上にフィルム基材を乗せ、温度60℃、圧力100kg/cm2で24時間放置した後、フィルムを蒸留水へ浸漬(温度25℃、24時間)して未反応開始剤および増感剤あるいは未反応モノマー、オリゴマーの量を紫外可視吸光光度計で測定している。また特許文献3は印刷物上に未印刷の白紙を乗せ、温度60℃、圧力15g/cm2で24時間放置した後、開始剤および増感剤の量を測定している。
特許文献1、3はフィルム上での紫外吸収スペクトルの測定でありppbオーダーの定量測定は困難であるうえに、特許文献3に関しては加圧条件と放置時間が軽微である。さらに特許文献2は印刷物からインキ原料が移行していると想定されるフィルムを、蒸留水にて抽出しているが、「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」をはじめとした規制レベルの内容では実際の食品包装内容物を想定し高濃度のアルコール水溶液を用いるのが適当であり、また温度と放置時間についても市場要求レベルを満たしているとはいえない。加えて、一般に活性エネルギー線硬化型インキに用いるラジカル重合性モノマーあるいはオリゴマーの多くは光吸収波長を有しておらず特許文献2のような紫外可視吸光光度計での検出は困難である。
特許文献1、3に関しては主に光重合開始剤または増感剤の移行低減に関するものであり、架橋反応に関係するもう一方の主成分であるラジカル重合性モノマーあるいはオリゴマーの移行低減については触れていない。
【0007】
また、光重合開始剤または増感剤の低移行、低臭、低滲み出しを抑制する施策として特許文献1、3のように光重合開始剤または増感剤を高分子量化する方法も多く行なわれているが、単位分子量あたりの反応活性基数が減少してしまうため、硬化性劣化の課題を解決するには至っていない。
【0008】
一般に活性エネルギー線硬化型インキは含有する有機・無機顔料の光遮断影響によるその硬化性劣化を防止するため、光重合開始剤と増感剤を併用することが多い。特許文献1、2に関しても増感剤は必須成分として含有されているが、代表例であるチオキサントン化合物や、特許文献2記載のアミノ化合物はその硬化性向上効果の反面、外部移行性が大きく食品包装用インキ組成原料として用いた場合、食品内容物へ移行する可能性は高い。特許文献3に関しても新規光重合開始剤の基本骨格がチオキサントンであるため、未反応物質などの残存リスクが内在する。
【0009】
このように、世界全体に広がる食品・医薬包装材への安全性意識の高まりを受け、「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」をはじめとした規制水準を満たす活性エネルギー線硬化型インキ組成物が求められているが、実際の製品がおかれる製造・保管状況を全体的に包括可能な試験条件の設定確立には至っていない。また増感剤を使用することなく高硬化性(高生産性)を維持することのできる活性エネルギー線硬化型インキ組成物が必要となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−154748号公報
【特許文献2】特開2007−204543号公報
【特許文献3】特許第5286859号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高硬化性(高生産性)に寄与する反面で外部移行性が大きい光増感剤を使用せずに高硬化性を維持することで、主要インキ含有成分である(メタ)アクリレートモノマーと光重合開始剤が印刷物から外部移行することを抑制しつつ、さらに基材密着性が良好である、食品・医薬包装資材用活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、アクリルエステル化合物のような活性エネルギー線硬化性を有する不飽和化合物および光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセットインキにおいて、(メタ)アクリレートモノマーを1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上、かつ重量平均分子量400〜2000の条件を満たす化合物へ限定し、さらに光重合開始剤の重量平均分子量を300〜2000かつ活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物全量中の5重量%以下の範囲内とすることで、増感剤を含有せずに波長200〜420nmの紫外線照射により優れた硬化性が得られ、かつ良好な外部移行抑制を達成することを見出した。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、高硬化性(高生産性)に寄与する反面で外部移行性が大きい光増感剤を使用せずに高硬化性を維持することで、オフセット印刷によるパッケージ印刷物製造の高生産性を高い水準に保ったままで、主要インキ含有成分である(メタ)アクリレートモノマーと光重合開始剤が、印刷物から外部移行を抑制した活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
さらに、世界市場全体へ波及が続いている食品・医薬包装材への安全性意識の高まりを鑑み、世界初となる食品包装用印刷インキに関する法規制「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」と同等以上水準の安全性を有する活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物とその積層体印刷物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、3種の光重合開始剤(B)の紫外線吸収スペクトル測定結果と、高圧水銀ランプとメタルハライドランプが特に効率よく放射する光波長領域(254nm、303nm、313nm)を記載したものである。詳細は後述する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、
(メタ)アクリレート化合物(A)と、
光重合開始剤(B)と、
顔料(C)とを含有し、
下記(1)〜(5)を特徴とする活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物に関する。
(1)活性エネルギー線硬化性インキ組成物が、光増感剤を含有しない。
(2)光重合開始剤(B)が、アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)を含有する。
(3)光重合開始剤(B)が、重量平均分子量300〜2000の化合物のみで構成される。
(4)活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物全量中、アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)を5重量%以下含有する。
(5)(メタ)アクリレート化合物(A)が、1分子あたりのアクリレート官能基数が3 以上、かつ重量平均分子量400〜2000の化合物のみで構成される。
【0016】
本発明の活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物は、印刷後、200〜420nmの紫外線を発生する高圧水銀ランプおよび/またはメタルハライドランプの紫外線照射に対し、光増感剤の含有無しでも効率的な硬化が得られるように設計されている。
【0017】
なお、本発明における活性エネルギーとは、硬化反応の出発物質が基底状態から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーのことを表し、本発明における活性エネルギー線とは、紫外線や電子線をさす。
【0018】
本発明において、モル吸光係数の単位(l/mol・cm)中「l」は、体積の単位であるリットルを表している。
【0019】
活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物の光硬化方法には、LED光源を用いた硬化方法を除き、一般的には高圧水銀ランプあるいはメタルハライドランプのような紫外線を発光する光源が用いられている。水銀ランプあるいはメタルハライドランプのような紫外線を発光する光源は、発光波長が広いため、使用する光重合開始剤も、効率的に紫外領域の200〜420nmの範囲の波長を反応に利用する必要があり、活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物の多くが、光重合開始剤と増感剤を併用することが多い。外部移行性が大きい増感剤を使用せずに効率的な光重合反応を維持する場合、広域に渡り一定レベル以上のモル吸光係数を有し、且つ内部硬化性に優位に働くフォトブリーチング効果を有する化合物によって硬化性の劣化を補う必要ある。本発明に関連する主な光重合開始剤(B)のモル吸光係数を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明において、光重合開始剤(B)としては、アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)、α-アミノアルキルフェノン(b2)、α-ヒドロキシアルキルフェノン(b3)等が挙げられる。
【0022】
アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)は、光開裂型開始剤であり、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドまたは2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルエトキシホスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは単独あるいは併用されてもよい。
【0023】
本発明においては、アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)は硬化性の観点から必須である。
一方、移行性抑制の観点から、活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物全量中、アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)を5重量%以下含有することが必要である。
【0024】
アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)としてさらに好ましくは、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(b1−1)を含有することが好ましい。
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(b1−1)は、上記の2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドまたは2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルエトキシホスフィンオキサイドと対比して、光励起によりラジカル生成を伴う開裂部位を2倍数有することを特徴としており、それによってより良好な硬化性を得ることができる。
【0025】
本発明において、α-アミノアルキルフェノン(b2)は、光開裂型開始剤であり、2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)- 2-ベンジル-1-ブタノンまたは2(ジメチルアミノ)2(4メチルベンジル)1(4モルホリノフェニル)ブタン1オン等が挙げられる。これらは単独あるいは併用されてもよい。
【0026】
本発明において、α-ヒドロキシアルキルフェノン(b3)は、光開裂型開始剤であり、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オンまたはオリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]等が挙げられる。これらは単独あるいは併用されてもよい。
【0027】
本発明において、光重合開始剤(B)は、移行性の観点から重量平均分子量300以上であり、且つ硬化性の観点から重量平均分子量2000以下である必要がある。
ただし、重量平均分子量300未満又は2000を超える光重合開始剤が、後述する移行試験において、検出されない程度に微量含まれる場合を排除するものではない。
【0028】
さらに、本発明において「光増感剤を含有しない」とは、
下記光増感剤が、後述する移行試験において、検出されない程度に微量含まれる場合を排除するものではない。
【0029】
本発明において光増感剤とは、チオキサントン化合物およびアミノ化合物である。具体的にチオキサントン化合物としては、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−ジイソプロピルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2−クロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9Hチオキサントン−2−イロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミン塩酸塩などが挙げられる。また、アミノ化合物としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、4−(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、トリエチルアミンおよびN,N−ジメチルヘキシルアミン等が挙げられる。
【0030】
本発明において、活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物の硬化には、高圧水銀ランプあるいはメタルハライドランプのような紫外線を発光する光源が用いられるが、ここで高圧水銀ランプとは石英ガラス製の発光管の中に高純度の水銀と少量の希ガスが封入されたもので、365nmを主波長とし、254nm、303nm、313nm、紫外線を特に効率よく放射する。また、メタルハライドランプとは発光管の中に水銀に加えて金属をハロゲン化物の形で封入したもので、水銀ランプと比べ200nm〜450nmまで広範囲に渡り紫外線スペクトルを放射するが、特に313nmと360nm以上長波長領域の紫外線を特に効率よく放射する。
【0031】
図1に、以下3種の光重合開始剤(B)の紫外線吸収スペクトル測定結果を示す。
(1)アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)として、ビス(2,4,6-トリメ チルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(b1−1)
(2)α-アミノアルキルフェノン(b2)として、2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モル ホリノフェニル)- 2-ベンジル-1-ブタノン
(3)α-ヒドロキシアルキルフェノン(b3)として、オリゴ[2-ヒドロキシ-2- メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]
【0032】
吸収スペクトル測定は、各光重合開始剤をアセトニトリル溶液へ0.001重量%にて溶解させて(株)島津製作所製、紫外可視近赤外分光光度計(UV−3600)にてスキャン波長範囲220〜400nm、スリット幅5nmの条件にて測定した。
また、本測定にてα-アミノアルキルフェノン(b2)として、2(ジメチルアミノ)2(4メチルベンジル)1(4モルホリノフェニル)ブタン1オン、またはα-ヒドロキシアルキルフェノン(b3)として、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オンを用いた場合でもその化学的類似構造により図1と同様の結果を得ることができる。
【0033】
さらに図1には、高圧水銀ランプとメタルハライドランプが特に効率よく放射する光波長領域(254nm、303nm、313nm)を記載した。254nmの紫外線をα-ヒドロキシアルキルフェノン(b3)が、また303nm、313nmの紫外線をα-アミノアルキルフェノン(b2)が効率よく反応し、加えてアシルフォスフィンオキサイド化合物(b1)が広範囲の波長吸収領域とともに、内部硬化性に優位に働くフォトブリーチング効果を有することで、光増感剤を使用すること無く同水準の高硬化性を得ることができる。
【0034】
本発明において、(メタ)アクリレートモノマーは、外部移行抑制の観点から、1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上、かつ重量平均分子量400〜2000である必要がある。
【0035】
(メタ)アクリレート化合物(A)として、具体的には、1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上のものとして、トリメチロールプロパントリカプロラクトネートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールブタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールオクタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、等が例示されるがこれに限るものではない。この中で硬化性と市場汎用性を考慮するとジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの選択が好ましい。
【0036】
さらに本発明の(メタ)アクリレート化合物(A)としては、脂肪族アルコール化合物のアルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートがある。脂肪族アルコール化合物のアルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートモノマーとして脂肪族アルコール化合物のモノまたはポリ(1〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体(アルキレンオキサイドとして例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ペンチレンオキサイド、ヘキシレンオキサイド他、以下同様)モノまたはポリ(1〜10)(メタ)アクリレートがある。
【0037】
アルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートのうち、1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上のものとして、
グリセリンポリ(2〜20)アルキレン(C3〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールエタンポリ(2〜20)アルキレン(C3〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールヘキサンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールオクタンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
【0038】
ペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、

ペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールプロパンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
【0039】
ジトリメチロールエタンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールブタンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールヘキサンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールオクタンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
【0040】
ジペンタエリスリトールポリ(5〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体ペンタ(メタ)アクリレート、
ジペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体ヘキサ(メタ)アクリレート、
【0041】
トリペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2 〜C20)オキサイド付加体ヘキサ(メタ)アクリレート、
トリペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2 〜C20)オキサイド付加体ヘプタ(メタ)アクリレート、
トリペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2 〜C20)オキサイド付加体オクタ(メタ)アクリレート等が例示されるがこれに限るものではない。
【0042】
アルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートのうち、硬化性と市場汎用性を考慮すると、エチレンオキサイド付加体(2〜6)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロピレンオキサイド付加体(2〜6)トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキサイド付加体(3〜8)ペンタエリスリトールテトラ(トリ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加体(3〜8)ペンタエリスリトールテトラ(トリ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加体(2〜6)グリセリントリアクリレートの選択が好ましい。
【0043】
本発明においては印刷適性などの点から、樹脂や顔料を併用することが出来る。
樹脂として具体的には、熱硬化性または熱可塑性樹脂であり、重量平均分子量としては、1000〜1000000がよく、10000〜100000がより好ましい。樹脂の例としては、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、石油(系)樹脂、セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース)、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ポリアマイド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアマイド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ブタジエン−アクリルニトリル共重合体のような合成ゴム等が挙げられる。これらの樹脂は、その中の1種または2種以上を用いることができる。さらに、本発明において使用される樹脂は、活性エネルギー線硬化型インキに含有されるエチレン性二重結合を有する化合物、特に分子量が100〜6000であるモノマーあるいはオリゴマーへの溶解性のある樹脂が好ましい。樹脂の溶解性とは、使用する樹脂およびジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを各々50g仕込み、100℃で熱溶解させた後、25℃に一日放置後、樹脂の析出あるいは濁り等が新たに生じないことを言う。
【0044】
顔料としては、無機顔料および有機顔料を示すことができる。無機顔料としては黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉、ベンガラなどが、有機顔料としては、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系、β−オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系、ピラゾロン系などの溶性アゾ顔料、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系モノアゾ、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ、ピラゾロン系などの不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(塩素または臭素化)銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、キナクリドン系、ジオキサジン系、スレン系(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ系、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系など)、イソインドリノン系、金属錯体系、キノフタロン系などの多環式顔料および複素環式顔料などの公知公用の各種顔料が使用可能である。さらに好ましくは、カーボンブラックあるいはフタロシアニン系顔料など紫外線透過率の劣る顔料で本発明の系がさらに有効となる。
【0045】
本発明の活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物において、着色剤である顔料を含有させず、透明な構成にすればOPニスになり、上記に示す顔料を含有させた場合には、黄・紅・藍・墨等のカラー印刷用インキとなり得る。
【0046】
さらに、該印刷インキには、必要に応じて以下に示すようなその他の添加剤を使用することが可能である。
【0047】
例えば、耐摩擦性、ブロッキング防止性、スベリ性、スリキズ防止性を付与する添加剤としては、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックス、フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、およびシリコーン化合物などの合成ワックス等を例示することができる。
【0048】
例えば、インキの保存安定性を付与する添加剤としては、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p −メトキシフェノール、t −ブチルカテコール、t −ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1−ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p −ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5−ジ−tert−ブチル−p −ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ−p −ニトロフェニルメチル、N−(3−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o−イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等の重合禁止剤が例示される。
【0049】
その他、要求性能に応じて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗菌剤等の添加剤を添加することができる。
【0050】
次に、本発明における印刷インキ組成物としての使用形態について説明する。活性エネルギー線硬化性オフセットインキ組成物全量中、顔料1〜60重量%、樹脂20〜50重量%、(メタ)アクリレート化合物(A)10〜70重量% 、ラジカル重合禁止剤0.01〜1重量%、活性エネルギー線用光重合開始剤0.1〜 30重量%、その他添加剤0〜10重量%からなるオフセットインキ組成物であることが好ましい。特に、硬化性の観点から、顔料、(メタ)アクリレート化合物(A)および活性エネルギー線用光重合開始剤の配合比は前述の範囲であることが好ましい。一方で移行性抑制の観点から、活性エネルギー線用光重合開始剤は0.3〜15重量%であることが好ましい。
【0051】
したがって、本発明の活性エネルギー線硬化インキの組成としては、インキ全量に対して
(1)アシルフォスフィンオキサイド化合物(b1) 0.1〜5重量%
(2)α-アミノアルキルフェノン(b2) 0.1〜5重量%
(3)α-ヒドロキシアルキルフェノン(b3) 0.1〜5重量%
(6)(メタ)アクリレート化合物(A) 1〜70重量%
(7)樹脂 20〜50重量%
(8)顔料 1〜60重量%
(9)その他添加剤 0〜10重量%
などが好ましい組成として挙げられる。
【0052】
印刷インキ組成物の製造は、従来の紫外線硬化型インキと同様の方法によって行えばよく、例えば、常温から100℃の間で、前記顔料、樹脂、アクリル系モノマーもしくはオリゴマー、重合禁止剤、光重合開始剤、その他添加剤などインキ組成物成分を、ニーダー、三本ロール、アトライター、サンドミル、ゲートミキサーなどの練肉、混合、調整機を用いて製造される。
【0053】
重量平均分子量は東ソー(株)製ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(HLC8020)で、溶媒をテトラヒドロフラン、ポリスチレンを検量線用標準サンプルとして測定した。
【実施例】
【0054】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中「部」、「%」はそれぞれ重量部、重量%を表す。
【0055】
<ワニスの作成>
活性エネルギー線硬化インキを製造するに先立ち、ワニスを製造した。ワニスは、ジアリルフタレート樹脂/ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート/ハイドロキノンを40/60/0.1の比率で仕込み、空気気流下、100℃で熱溶解させて製造した。
ジアリルフタレート樹脂:ダイソーダップA(ダイソー(株)製)ハイドロキノン:ハイドロキノン(精工化学(株)製)
【0056】
<実施インキ作成>
上記ワニスを40部、藍顔料としてリオノールブルーFG7330(フタロシアニン:トーヨーカラー(株))を20部、体質顔料としてハイ・フィラー#5000PJ(タルク:松村産業(株)製)、重合禁止剤としてハイドロキノン(精工化学(株)製)、さらに(メタ)アクリレート化合物としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートと、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(トリ)アクリレートと、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートと、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートと、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートと、プロピレンオキサイド変性グリセリントリアクリレート、さらに光重合開始剤として2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジル-1-ブタノンと、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]と、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド:BASF製)と、ダロキュアTPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドと、その他添加剤としてCERAFLOUR991(ポリエチレンワックス:BYK製)を、表2の組成(部)に従ってバタフライミキサーを用いて攪拌混合し、3本ロールにて最大粒径が7.5μm以下になるように分散して実施例1、2、7〜16、参考実施例3〜6、17の活性エネルギー線硬化インキ組成物を作成した。
【0057】
また同様に墨顔料として三菱カーボンMA−11(カーボンブラック:三菱化学(株)製)を用いて表3の組成(部)に従って実施例18、19、24〜33、参考実施例20〜23、34の活性エネルギー線硬化インキ組成物を作成した。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
<比較インキの作成>
上記ワニスを40部、藍顔料としてリオノールブルーFG7330(フタロシアニン:東洋カラー(株)製)を20部、体質顔料としてハイ・フィラー#5000PJ(タルク:松村産業(株)製)、重合禁止剤としてハイドロキノン(精工化学(株)製)、さらに(メタ)アクリレート化合物としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートと、トリメチロールプロパントリアクリレートと、エチレンオキサイド付加体ビスフェノールAジアクリレート、さらに光重合開始剤として2(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジル-1ブタノンと、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンと、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンと、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドと、2,4-ジエチルチオキサントンと、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチルと、その他添加剤としてCERAFLOUR991(ポリエチレンワックス:BYK製)を表4の組成(部)に従ってバタフライミキサーを用いて攪拌混合し、3本ロールにて最大粒径が7.5μm以下になるように分散して比較例1〜28の活性エネルギー線硬化インキ組成物を作成した。
【0061】
また同様に墨顔料として三菱カーボンMA−11(カーボンブラック:三菱化学(株)製)を用いて表5の組成(部)に従って比較例29〜56の活性エネルギー線硬化インキ組成物を作成した。
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
得られた実施例1、2、7〜16、18、19、24〜33、参考実施例3〜6、17、20〜23、34、比較例1〜56の活性エネルギー線硬化インキ組成物をミルクカートン紙すなわちPEコート紙(トーエーパックカートン:北越製紙(株)製)にRIテスターを用いて0.0002g/cm2展色し、「硬化性」、および「密着性」について評価した。その結果をあわせて表2〜5に示す。なお、RIテスターとは、紙やフィルムにインキを展色させる試験機であり、インキの転移量や印圧を調整することができる。
【0065】
<硬化性の評価>
メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)あるいは高圧水銀ランプ(アイグラフィックス(株)製)照射装置を使用し、照射出力160W/cm、照射距離10mm、コンベア速度80m/分の条件にて紫外線照射を行い、表面を綿布で擦って目視による綿布への着色の有無を「硬化性」として評価し、下記評価基準に基づいて評価を行った。上記の照射出力、照射距離条件下において、コンベア速度80m/分での照射光量は、高圧水銀ランプおよび/またはメタルハライドランプを複数本使用して印刷を行なうオフセット枚葉印刷機によるパッケージ印刷物の製造工程に対して、標準レベルを満たした照射光量といえる。
(評価基準)
○:着色なし、実用性あり。
△:微かに着色あり、実用性あり。
×:着色あり、実用性なし。
【0066】
<密着性の評価>
メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)あるいは高圧水銀ランプ(アイグラフィックス(株)製)照射装置を使用し、照射出力160W/cm、照射距離10mmで、表面を綿布で擦って目視による綿布への着色が確認されなくなるコンベア速度(m/分)条件にて紫外線照射を行い、24時間経過後セロハンテープ(ニチバン(株)製)を貼り付けて剥離角度90°にて剥離させた際のインキ皮膜の剥離の有無を評価した。評価基準はテープ接触面積あたりのインキ皮膜の剥離面積比率によって判断し(5:剥離なし、4:10%未満で剥離あり、3:20%未満で剥離あり、2:30%未満で剥離あり、1:30%以上剥離あり)、実用性により以下のように評価した。
(評価基準)
○:(5:剥離なし)、実用性あり。
△:(4:10%未満で剥離あり、3:20%未満で剥離あり、2:30%未満で剥離あり)、実用性あり。
×:(1:30%以上剥離あり)、実用性なし。
【0067】
<移行性の評価>
以下いずれかの基材100cm2へ実施例1〜34、比較例1〜56の活性エネルギー線硬化インキ組成物をRIテスターを用いて0.0002g/cm2展色し、メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)照射装置を使用し、照射出力160W/cm、照射距離10mm、コンベア速度80m/分の条件にて紫外線照射を行い、同面積のPPフィルム(シーダムアクア、厚み0.2mm:シーダム(株)製)を重ねて0.02kg/cm2の荷重付加にて25℃・50%環境条件下、10日間放置した。その後、PPフィルムをエタノール100ml中へ60℃・50%環境条件下、10日間浸漬し、得られたエタノールをWaters製LC-MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計)にて分析を行なった。エタノール中に存在する(メタ)アクリレート化合物と光重合開始剤がそれぞれ100ppb未満の濃度であれば低移行性良好(○)、100ppb以上の濃度で検出が確認された場合低移行性に欠ける(×)と評価した。
(評価基準)
○:検出量100ppb未満、移行性良好
×:検出量100ppb以上、低移行性不良
基材:それぞれ厚み2.0mm以下である商業用印刷用紙(アート紙、コート紙、上質紙、マットコート紙)、厚紙(ボール紙、ミルクカートン紙、ケント紙、段ボール紙)、アルミ蒸着紙、合成紙(ユポ紙)。
【0068】
表2〜5の結果より本発明の実施例によれば、
(メタ)アクリレートモノマーと光重合開始剤の両者において、印刷物からの外部移行抑制が得られており、食品・医薬包装用インキに対して市場環境が求める水準の安全性を達成することができる。
【要約】      (修正有)
【課題】高硬化性(高生産性)に寄与する反面で外部移行性が大きい光増感剤を使用せずに高硬化性を維持しつつ、モノマーと光重合開始剤の外部移行を抑制し、さらに基材密着性が良好である、食品・医薬包装資材用活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物を提供する。
【解決手段】不飽和化合物および光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセットインキにおいて、(1)光増感剤を含有せず、(2)光重合開始剤(B)が、アシルフォスフィンオキサイド化合物を含有し、(3)光重合開始剤(B)が、重量平均分子量300〜2000の化合物のみで構成され、(4)インキ組成物全量中、アシルフォスフィンオキサイド化合物は5重量%以下であり、(5)(メタ)アクリレート化合物が、1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上、かつ重量平均分子量400〜2000の化合物のみで構成される活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物。
【選択図】図1
図1