(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728804
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】熱硬化性接着組成物、熱硬化性接着シート、その製造方法及び補強フレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20150514BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20150514BHJP
C09J 7/02 20060101ALI20150514BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20150514BHJP
C08L 33/18 20060101ALI20150514BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20150514BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
C09J7/02 Z
C09J133/06
C08L33/18
C08L63/00 A
C08G59/50
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2009-233278(P2009-233278)
(22)【出願日】2009年10月7日
(65)【公開番号】特開2011-79959(P2011-79959A)
(43)【公開日】2011年4月21日
【審査請求日】2012年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名取 稔城
【審査官】
磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−113476(JP,A)
【文献】
特開2009−147361(JP,A)
【文献】
特開2008−308682(JP,A)
【文献】
特開2005−281553(JP,A)
【文献】
特開2004−238634(JP,A)
【文献】
特開平09−316171(JP,A)
【文献】
特開平09−137131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系共重合体(A)、エポキシ樹脂(B)及びエポキシ樹脂用硬化剤(C)を含有する熱硬化性接着組成物であって、
該アクリル系共重合体(A)が、400000〜700000の重量平均分子量を有し、水酸基及び遊離カルボキシル基を含有しないエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)65〜75質量%と、アクリロニトリルモノマー(b)20〜35質量%と、水酸基及び遊離カルボキシル基を含有しないエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c)1〜10質量%とを共重合させたものであり、
該エポキシ樹脂用硬化剤が、平均粒子径1〜5μmの有機酸ジヒドラジド粒子であり、
アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、エポキシ樹脂(B)を5〜30質量部、アクリル系共重合体(A)及びエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対し、エポキシ樹脂用硬化剤を4〜20質量部含有する熱硬化性接着組成物。
【請求項2】
有機酸ジヒドラジドが、アジピン酸ジヒドラジドまたは7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジドである請求項1記載の熱硬化性接着組成物。
【請求項3】
基材フィルム上に、請求項1又は2記載の熱硬化性接着組成物からなる熱硬化性接着層が形成されてなる熱硬化性接着シート。
【請求項4】
請求項3記載の熱硬化性接着シートの製造方法であって、
請求項1又は2記載の熱硬化性接着組成物を有機溶剤に投入し、エポキシ樹脂用硬化剤(C)を有機溶媒中に分散させ、他方アクリル共重合体(A)及びエポキシ樹脂(B)を有機溶剤中に溶解させることにより熱硬化性接着層形成用塗料を調製する工程、及び
熱硬化性接着層形成用塗料を、基材フィルム上に塗布し、乾燥することにより熱硬化性接着層を形成する工程
を含んでなる製造方法。
【請求項5】
フレキシブルプリント配線板の端子部が補強用樹脂シートで裏打ちされている補強フレキシブルプリント配線板であって、該端子部と該補強用樹脂シートとが、請求項3記載の熱硬化性接着シートの基材フィルムを除いた熱硬化性接着層の熱硬化物で接着固定されてなる補強フレキシブルプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系共重合体、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂用硬化剤を含有する熱硬化性接着組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムからなるフレキシブルプリント配線板の端子部等をポリイミドフィルムやガラスエポキシ板、金属板で裏打ちし、その強度を高めることが行われている。このような場合、補強板とフレキシブルプリント配線板のポリイミドとの間の接着は、それらで挟持した熱硬化性接着剤層を硬化させて接着することが一般的である。このような熱硬化性接着剤層としては、フレキシブルプリント配線板分野においては主として液状エポキシ樹脂と固形エポキシ樹脂とそれらの硬化剤とからなるエポキシ樹脂系接着剤が広く使用されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、このようなエポキシ樹脂系接着剤は、エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合が多いため、常温保管中に徐々に硬化反応が進行してしまうという問題があり、常温保管特性に問題があった。そこで、常温保管特性を向上させるために、エポキシ樹脂の配合量を抑制し、反射的にアクリル系ポリマーを主要成分として使用したアクリル系熱硬化性接着組成物が提案されている(特許文献2、特に実施例2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−370996号公報
【特許文献2】特開平2007−9058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のアクリル系熱硬化性接着組成物の場合、特許文献1のような従来のエポキシ樹脂系接着剤に比べ、常温保存性は向上するものの、常温で数ヶ月という長期に亘り保管し、その後にフレキシブルプリント基板と樹脂シート、金属補強板あるいはガラスエポキシ板との接合に使用すると接着性(剥離強度)及びリフロー半田耐熱性が低下する場合があり、その改善が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、フレキシブルプリント基板等の分野における接着に使用するアクリル系熱硬化性接着組成物であって、ポリイミドフィルム等の樹脂基板と、ポリイミドフィルム、金属補強板あるいはガラスエポキシ基板との間を良好に接着し、数ヶ月という長期に亘って良好な常温保管特性を示すことができるアクリル系熱硬化性接着組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、エポキシ樹脂系接着剤の常温保管性を改善するためのエポキシ樹脂用硬化剤として、有機溶剤に溶解し難く常温では固体であるためエポキシ樹脂と反応せず、加熱によりエポキシ樹脂と溶融混合して反応が開始する有機酸ジヒドラジドに着目し、アクリル系共重合体にエポキシ樹脂、エポキシ樹脂用硬化剤として有機酸ジヒドラジドを配合することを研究した。一般に、フィルム状接着シートの製造方法として、上記配合物をメチルエチルケトン等の有機溶剤に溶解・分散し、塗布して製造する方法が採用されているが、有機酸ジヒドラジドの硬化剤粒子は有機溶剤に溶解し難いとはいえ、有機溶剤中では徐々に溶解し、溶解した硬化剤がエポキシ樹脂にも溶解してしまうために反応が進行してしまうという問題があった。このような知見の下、有機酸ジヒドラジドの平均粒径を特定の粒径範囲に制御することにより、常温保管時における有機酸ジヒドラジドの有機溶剤への溶解の抑制と、熱硬化反応の速やかな進行とをバランスよく実現でき、更に、アクリル系共重合体として、特定範囲量のエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとアクリロニトリルモノマーとエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとの共重合体を採用することにより、上述の目的を達成できることを見出し、本願発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、アクリル系共重合体(A)、エポキシ樹脂(B)及びエポキシ樹脂用硬化剤(C)を含有する熱硬化性接着組成物であって、
該アクリル系共重合体(A)が、エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)65〜75質量%、アクリロニトリルモノマー(b)20〜35質量%及びエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c)1〜10質量%を共重合させたものであり、
該エポキシ樹脂用硬化剤が、平均粒子径0.5〜15μmの有機酸ジヒドラジド粒子である熱硬化性接着組成物を提供する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」なる用語は、「メタクリル又はアクリル」という意味で用いている。
【0009】
また、本発明は、基材フィルム上に、この熱硬化性接着組成物からなる熱硬化性接着層が形成されてなる熱硬化性接着シートを提供する。
【0010】
更に、本発明は、この熱硬化性接着シートの製造方法であって、上述の本発明の熱硬化性接着組成物を有機溶剤に投入し、エポキシ樹脂用硬化剤(C)を有機溶媒中に分散させ、他方アクリル共重合体(A)及びエポキシ樹脂(B)を有機溶剤中に溶解させることにより熱硬化性接着層形成用塗料を調製する工程、及び
熱硬化性接着層形成用塗料を、基材フィルム上に塗布し、乾燥することにより熱硬化性接着層を形成する工程
を含んでなる製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱硬化性接着組成物は、ポリイミドフィルム等の樹脂基板と、ポリイミドフィルム、ガラスエポキシ、ステンレス等の金属板との間を良好に接着し(好ましくは15N/cm以上)、しかも数ヶ月という長期に亘って良好なフィルム常温保管特性を示す。また、260℃以上のリフロー処理後においても、吸湿のために膨れが生じないという特性も示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の熱硬化性接着組成物は、アクリル系共重合体(A)、エポキシ樹脂(B)及びエポキシ樹脂用硬化剤(C)を含有する。
【0013】
本発明において、アクリル系共重合体(A)は、フィルム成形時に成膜性をもたせ、硬化物に可撓製、強靭性をもたせるためのものであり、エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)、アクリロニトリルモノマー(b)及びエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c)を共重合させたものである。
【0014】
エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)としては、電子部品分野に適用されている従来のアクリル系熱硬化性接着剤で使用されているものから適宜選択して使用することができ、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、i−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、i−ノニルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、i−オクチルメタリレート、2−エチルヘキシルメタリレート、i−ノニルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、i−ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。中でもブチルアクリレート、エチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0015】
アクリル系共重合体(A)を調製する際に使用する全モノマーにおけるエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)の使用量は、少なすぎると基本特性が低下し、多すぎると耐熱性が低下する傾向があるので、好ましくは65〜75質量%、より好ましくは65〜70質量%である。
【0016】
アクリロニトリルモノマー(b)は、耐熱性を向上するために使用されている。
【0017】
アクリル系共重合体(A)を調製する際に使用する全モノマーにおけるアクリロニトリルモノマー(b)の使用量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると溶剤に溶解し難くなる傾向があるので、好ましくは20〜35質量%、より好ましくは25〜30質量%である。
【0018】
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c)は、エポキシ樹脂用硬化剤と反応し、熱硬化性接着組成物の硬化物に3次元架橋構造を形成するために使用されている。3次元架橋構造が形成されると硬化物の耐湿性及び耐熱性が向上し、例えば、熱硬化性接着組成物の硬化物でフレキシブルプリント配線板に接着固定された補強樹脂シートからなる補強フレキシブルプリント配線板を、2
60℃以上でのハンダ処理(例えばハンダリフロー処理)を行った場合でも、その接着固定部に、吸湿を原因とする膨れ現象が発生することを防止することが可能となる。このようなエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)としては、電子部品分野に適用されている従来のアクリル系熱硬化性接着剤で使用されているものから適宜選択して使用することができ、例えば、グリシジルアクリレート(
GA)、グリシジルメタクリレート(GMA)等が挙げられる。中でも、安全性、市場入手容易性の点からグルシジルメタクリレート(GMA)を使用することが好ましい。
【0019】
アクリル系共重合体(A)を調製する際に使用する全モノマーにおけるエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)の使用量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると剥離強度が低下する傾向があるので、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜7質量%である。
【0020】
以上説明したエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)、アクリロニトリルモノマー(b)及びエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c)からアクリル系共重合体の調製は、公知の共重合方法を適用して行うことができる。
【0021】
本発明において使用するアクリル系共重合体(A)は、その重量平均分子量が小さすぎると剥離強度並びに耐熱性が低下し、大きすぎると溶液粘度が上がり、塗布性が悪化する傾向があるので、好ましくは500000〜700000、より好ましくは550000〜650000の重量平均分子量を有することが好ましい。
【0022】
本発明の熱硬化性接着組成物を構成するエポキシ樹脂(B)は、3次元網目構造を形成し、耐熱性、接着性を良好にするために使用されるものである。
【0023】
エポキシ樹脂(B)としては、電子部品分野に適用されている従来のエポキシ樹脂系熱硬化性接着剤で使用されている液状あるいは固体状のエポキシ樹脂から適宜選択して使用することができ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンポリオール(ネオペンチルグリコールなど)ポリグリシジエーテル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等が挙げられる。
【0024】
本発明の熱硬化性接着組成物におけるエポキシ樹脂(B)の使用量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると接着性が低下する傾向があるので、アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、好ましくは5〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部である。
【0025】
本発明の熱硬化性接着組成物は、エポキシ樹脂(B)及びアクリル系共重合体(A)を調製する際に使用されたエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来するエポキシ基と反応するエポキシ樹脂硬化剤(C)として、平均粒子径0.5〜15μm、好ましくは1〜5μmの有機酸ジヒドラジド粒子を使用する。有機酸ジヒドラジドを使用する理由は、それが常温で固体であるため熱硬化性接着組成物の常温保管特性を向上させることができるためである。また、有機酸ジヒドラジド粒子の平均粒子径を0.5〜15μmとした理由は、0.5μm未満であると熱硬化性接着組成物の塗布のために有機溶剤を使用した場合に、有機酸ジヒドラジド粒子が溶解する可能性が高まり、常温保管特性が低下することが危惧されるからであり、逆に15μmより大きいと熱硬化性接着組成物の塗布性が低下し、また、粒度が大きい為にアクリルポリマーやエポキシ樹脂との溶融時に十分に混合できなくなることが懸念されるからである。
【0026】
このような有機酸ジヒドラジドとしては、従来よりエポキシ樹脂の硬化剤として使用されている有機酸ジヒドラジドの中から適宜選択して使用することができ、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、ヘキサデカンジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、アミキュアVDH、アミキュアUDH(商品名、味の素(株)製)、クエン酸トリヒドラジド等が挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせても使用することができる。これらの中でも比較的低融点であり、硬化性のバランスに優れ、入手が容易であるという点から、アジピン酸ジヒドラジドまたは7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジドを使用することが好ましい。
【0027】
本発明の熱硬化性接着組成物におけるエポキシ樹脂用硬化剤(C)の使用量は、少なすぎると未反応のエポキシ基が残り、架橋も十分でないため、耐熱性、接着性が低下し、多すぎると過剰の硬化剤が未反応のまま残るため、耐熱性、接着性が低下する傾向があるので、アクリル系共重合体(A)及びエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対し、好ましくは4〜20質量部、より好ましくは6〜15質量部である。
【0028】
本発明の熱硬化性接着組成物は、以上説明した成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じ、有機酸ジヒドラジドの溶解を促進させないような金属不活性剤、消泡剤、防錆剤、分散剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0029】
本発明の熱硬化性接着組成物は、アクリル系共重合体(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂用硬化剤(C)及びその他の添加剤を、常法により均一に混合することにより調製することができる。その形態としては、ペースト、フィルム、分散液状などとすることができる。中でも、保管性や使用時のハンドリング性などの観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等に必要に応じてシリコーン等で剥離処理した基材フィルム(剥離基材)に、本発明の熱硬化性接着組成物からなる熱硬化性接着層が10〜50μmの厚さで形成されてなる熱硬化性接着シートの態様として使用することが好ましい。
【0030】
このような熱硬化性接着シートの製造方法は、以下の熱硬化性接着層形成用塗料調製工程及び熱硬化性接着層形成工程を含む。
【0031】
<熱硬化性接着層形成用塗料調製工程>
まず、本発明の熱硬化性接着組成物をメチルエチルケトン、トルエン等の有機溶剤に塗布法に応じた粘度となるように投入し、エポキシ樹脂用硬化剤(C)を有機溶剤中に分散させ、他方アクリル共重合体(A)及びエポキシ樹脂(B)を有機溶剤中に溶解させることにより熱硬化性接着層形成用塗料を調製する。この場合、室温下で全有機酸ジヒドラジド粒子の70質量%が熱硬化性接着層形成用塗料中に固体粒子として分散していることが好ましい。熱硬化性接着シートの常温保管性を高めるためである。
【0032】
<熱硬化性接着層形成工程>
次に、熱硬化性接着層形成用塗料を、基材フィルム上にバーコーター、ロールコーターにより乾燥厚が10〜50μmとなるように塗布し、常法により乾燥することにより熱硬化性接着層を形成する。これにより熱硬化性接着シートを得ることができる。
【0033】
以上説明した熱硬化性接着組成物及び熱硬化性接着シートは、電子部品分野に好ましく適用できる。特に、上述の熱硬化性接着シートは、フレキシブルプリント配線板の端子部等と、その裏打ちするためのポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ガラスエポキシ、ステンレス、アルミニウム等の厚さ50μm〜2mmの補強用樹脂シートとを接着固定するために好ましく適用でき、その適用により、フレキシブルプリント配線板の端子部と補強用樹脂シートとが、本発明の熱硬化性接着シートの基材フィルムを除いた熱硬化性接着層の熱硬化物で接着固定されてなる補強フレキシブルプリント配線板が得られる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0035】
実施例1〜10,比較例1〜8
(1)アクリル系共重合体の調製
表1及び表2に示したモノマーからなるアクリル系共重合体を用意した。これらのアクリル系共重合体の重量平均分子量を表1及び表2に示した。
【0036】
(2)熱硬化接着層形成用塗料の調製
得られたアクリル系共重合体溶液に、表1及び表2の配合割合でエポキシ樹脂(B)及びエポキシ樹脂用硬化剤(C)として有機酸ジヒドラジドとを添加し、均一に混合することにより熱硬化性接着組成物として、熱硬化性接着層形成用塗料を調製した。得られた塗料の粘度をB型粘度計により測定し、表1及び表2に示した。
【0037】
(3)熱硬化性接着シートの作製
得られた熱硬化性接着層形成用塗料を、剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、50〜130℃の乾燥炉中で乾燥し、35μm厚の熱硬化性接着層を形成することにより、熱硬化性接着シートを作成した。
【0038】
(4)熱硬化性接着層形成用塗料の塗布性の評価
上述の熱硬化性接着シートの作製の際、熱硬化性接着層形成用塗料の塗布性について、以下の基準に従って評価した。得られた評価結果を表1及び表2に示す。
【0039】
AA:接着剤厚みが均一で塗布中に筋を引かず、外観においても硬化剤粒子が観察されない場合
A:塗布中に筋は引かないが、乾燥後のフィルムに硬化剤粒子が観察される場合
B:塗布筋があり、厚みも不均一である場合
C:溶液がゲル状となり、塗布が不可能な場合
【0040】
(5)剥離強度の評価
得られた直後の熱硬化性接着シートを所定の大きさの短冊(5cm×10cm)にカットし、その熱硬化性接着層を、175μm厚のポリイミドフィルム(175AH、カネカ(株)製)に80℃に設定したラミネーターで仮貼りした後、基材フィルムを取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、同じ大きさの50μm厚のポリイミドフィルム(200H、デュポン社)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中に60分間保持した。
【0041】
また、短冊(5cm×10cm)にカットした熱硬化性接着シートの熱硬化性接着層を、0.5mmのSUS304板または厚さ1mmのガラスエポキシ板に押し当てて仮貼りした後、基材フィルムを取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、短冊状の厚さ50μmのポリイミドフィルム(5cm×10cm)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中に60分間保持した。
【0042】
その後、ポリイミドフィルムに対し、剥離速度50mm/minで90度剥離試験を行い、引き剥がすに要した力を測定した。得られた結果を表1及び表2に示す。剥離強度は実用上10N/cmであることが望まれている。また、常温6ヶ月保管後の剥離強度と初期の剥離強度との差が−30%未満であることが望まれている。従って、差が2N/cm未満の場合を常温保管特性が良好とし、超えると不良とした。
【0043】
また、25℃で
6ヶ月間常温保管した熱硬化性接着シートについても、同様の剥離強度の評価を行った。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0044】
【表1】
*1:ブチルアクリレート、*2:エチルアクリレート、*3:アクリロニトリル
*4:グリシジルメタクリレート、*5:2−ヒドロキシエチルメタクリレート、*6:アクリル酸、
*7:アジピン酸ジヒドラジド、*8:7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド
*9:jER828、ジャパンエポキシレジン社、*10:jER154、ジャパンエポキシレジン社
【0045】
【表2】
*1〜*10は表1に同じ
【0046】
<表1及び表2の結果の考察>
実施例1〜7の熱硬化性接着シートは、アクリル系共重合体(A)が、エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)65〜75質量%、アクリロニトリルモノマー(b)20〜35質量%及びエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c)1〜10質量%を共重合させたものであり、エポキシ樹脂用硬化剤が、平均粒子径0.5〜15μmの有機酸ジヒドラジド粒子であるので、塗布性も初期剥離強度、常温保管特性も満足のいくものであった。
【0047】
なお、実施例8の熱硬化性接着シートは、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量が30万と実施例1〜7の熱硬化性接着シートに比べて低いため、常温保管特性は良好なものの、全体的に剥離強度及び耐熱性が低めであった。
【0048】
実施例9の熱硬化性接着シートは、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量が90万と実施例1〜7の熱硬化性接着シートに比べて高いため、
接着シートの表面には塗布筋があり、厚みも不均一であるが、常温保管特性は良好なものであった。
【0049】
実施例10の熱硬化性接着シートの場合、有機酸ジヒドラジドの平均粒径が実施例1〜7の熱硬化性接着シートに比べて大きいため、塗布性が若干低下し、また、常温保管特性は良好なものであったが、全体的に剥離強度が低めであった。また、ヒドラジド粒子が大きすぎるため反応性が低下し、剥離強度、耐熱性が十分でなかった。
【0050】
それに対し、比較例1の熱硬化性接着シートは、アクリル系共重合体における成分(a)が少なすぎ、成分(b)が多すぎるので、有機溶剤に十分に溶解せず、ゲル化してしまった。
【0051】
比較例2の熱硬化性接着シートは、アクリル系共重合体における成分(a)が多すぎ、成分(b)が少なすぎるので、常温保管特性は良好なものであったが、初期剥離強度が実用に適さない低いレベルであった。
【0052】
比較例3の熱硬化性接着シートは、アクリル系共重合体における成分(c)が少なすぎるので、常温保管特性は良好なものであったが、初期剥離強度が実用に適さない低いレベルであった。
【0053】
比較例4の熱硬化性接着シートは、アクリル系共重合体における成分(c)が多すぎるので、常温保管特性は良好なものであったが、初期剥離強度が実用に適さない低いレベルであった。
【0054】
比較例5の熱硬化性接着シートは、有機酸ジヒドラジドの平均粒径が大きすぎるので、初期剥離強度が実用に適さない低いレベルであった。
【0055】
比較例6〜8の熱硬化性接着シートは、アクリル系共重合体に水酸基またはカルボキシル基が存在するため、常温保管特性が不良であった。
【0056】
実施例11
実施例1〜10及び比較例2〜8の熱硬化性接着シートを使用して以下に説明するように補強フレキシブルプリント配線板を作製した。
【0057】
<吸湿リフロー半田耐熱性試験>
短冊(2cm×2cm)にカットした熱硬化性接着シートの熱硬化性接着層を、175μm厚のポリイミドフィルム(アピカル175AH、カネカ(株)製)に80℃に設定したラミネーターで仮張りした後、剥離基材を取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、同じ大きさの厚さ50μm厚のポリイミドフィルム(カプトン200H、デュポン社製)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140度のオーブン中で60分間保持した。その後、加熱硬化した試験片を40℃、90%RHの湿熱オーブン中で96時間放置した。
【0058】
湿熱処理直後の試験片をトップ温度260℃×30秒に設定したリフロー炉を通過させ、通過後の試験片に膨れ、剥がれ等の外観異常がないかを目視観察し、外観に全く異常がない場合を“A”と評価し、試験片に膨れがわずかに観察されるが実用上問題がない場合を“B”と評価し、試験片に発泡によるフクレが観察される場合を“C”と評価した。得られた結果を表3及び表4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
吸湿リフロー半田耐熱性試験の結果、実施例1〜10の熱硬化性接着シートを使用した補強フレキシブルプリント配線板は、外観に異常が全く観察されないか、または試験片に膨れがわずかに観察されたが実用上問題がなかった。特に、実施例1〜7の熱硬化性接着シートを使用した補強フレキシブルプリント配線板は、アクリル共重合体−エポキシ樹脂−ヒドラジド架橋構造のバランスがよく、未反応の原料が殆ど残存しないために、外観に異常が全く観察されなかった。
【0062】
他方、比較例2〜8の場合、比較例4を除き、25℃/6ヶ月後には、試験片に発泡によるフクレが観察された。なお比較例4の場合、良好な架橋構造のために吸湿リフロー半田耐熱性は良好ではあったが、前述したように、初期剥離強度が実用に適さない低いレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の熱硬化性接着組成物及び熱硬化性接着シートは、ポリイミドフィルム等の樹脂基板と、ポリイミドフィルム、ステンレス板あるいはガラスエポキシ基板との間を、良好に接着でき、しかも数ヶ月という長期に亘って良好な常温保管特性を示す。また、260℃リフロー処理しても、吸湿のために膨れが生じないようにできる。従って、ポリイミド材料を多用する電子部品分野における接着剤として有用である。