(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の本実施形態に係る誘導電動機の制御装置の構成を示すブロック図である。
【0013】
図1で示す誘導電動機の制御装置10(以下、制御装置10)は、3相交流電源101及びモータ(IM)106に接続され、モータ106を制御する制御装置であり、ダイオード整流回路102、平滑回路103、インバータ回路104、PWMゲート信号生成器105、パルスジェネレータ(PG)センサ107、電流センサ108、3相/2相座標変換器109、2相/dq座標変換器110、磁束推定器111、速度推定器112、フィードバック速度切替器113、すべり演算器114、積分器115、磁束PI制御器116、磁束電流PI制御器117、トルク電流PI制御器119、dq/2相座標変換器120、2相/3相座標変換器121を備えている。また、制御装置10は、トルク指令値演算部18とトルク電流指令値演算部19と速度PI制御器20とトルクリミッタ21とトルク指令値切替器22を備えている。
【0014】
制御装置10は、磁束指令値φ
d*と、基本トルク指令値T
0*又は最大速度指令値ω
mmax*を目標に、インバータ回路104を用いてモータ106を駆動するものである。なお、インバータ回路104の機能は、パワースイッチング素子によって実現されるが、以下で述べる各機能は、CPU(Central Proccesing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成されたコンピュータと、ROM,RAM等に格納されたプログラムとによって実現される。
【0015】
制御装置10は、まず、磁束指令値φ
d*と磁束推定器111によって推定された磁束推定値φ
d^との偏差Δφ
dを偏差演算部122によって演算し、得られた偏差Δφ
dは磁束PI制御器116に入力される。磁束PI制御器116は、入力された偏差Δφ
dに基づいて磁束電流指令値I
d*を生成する。次に、磁束電流指令値I
d*と2相/dq座標変換器110から出力されるd軸の磁束電流i
dとの偏差ΔI
dを偏差演算部123によって演算し、得られた偏差ΔI
dは磁束電流PI制御器117に入力される。磁束電流PI制御器117は、入力された偏差ΔI
dに基づいてd軸電圧指令V
d*を生成する。
【0016】
一方、制御装置10は、トルク指令値演算部18において、基本トルク指令値T
0*と速度推定器112によって推定された速度推定値ω
m^または、パルスジェネレータセンサ107によって検出された速度ω
mとに基づいてトルク指令値T
m*を演算する。そして、回転速度Nが回転速度制限値N
maxより小さいときは、トルク指令値切替器22を介して、そのトルク指令値T
m*がトルク電流指令値演算部19に入力され、そのトルク指令値T
m*に基づいてトルク電流指令値演算部19は、トルク電流指令値I
q*を演算する。また、回転速度Nが回転速度制限値N
maxを超えたときは、回転速度制限値N
maxから得られる最大速度指令値ω
mmax*と速度推定器112によって推定された速度推定値ω
m^または、パルスジェネレータセンサ107によって検出された速度ω
mとの偏差Δω
mを偏差演算部124によって演算し、得られた偏差Δω
mは速度PI制御器20に入力される。その出力はトルクリミッタ21によって制限され、トルク指令値切替器22を介してトルク電流指令値演算部19に入力される。トルク電流指令値演算部19は、入力された信号に基づいてトルク電流指令値I
q*を生成する。次に、トルク電流指令値I
q*と2相/dq座標変換器110から出力されるq軸のトルク電流i
qとの偏差ΔI
qを偏差演算部125によって演算し、得られた偏差ΔI
qはトルク電流PI制御器119に入力される。トルク電流PI制御器119は、入力された偏差ΔI
qに基づいてq軸電圧指令V
q*を生成する。
【0017】
磁束電流PI制御器117から出力されるd軸電圧指令V
d*と、トルク電流PI制御器119から出力されるq軸電圧指令V
q*は、dq/2相座標変換器120に入力される。dq/2相座標変換器120は、d軸電圧指令V
d*とq軸電圧指令V
q*と積分器115から出力される位相角θに基づいてα軸、β軸の2相電圧指令V
α*、V
β*を出力する。2相電圧指令V
α*、V
β*は、2相/3相座標変換器121に入力される。2相/3相座標変換器121は、入力された2相電圧指令V
α*、V
β*に基づいてU相、V相、W相の3相電圧指令V
u*、V
v*、V
w*を生成する。生成された3相電圧指令V
u*、V
v*、V
w*は、PWM(Pulse Width Moduration)ゲート信号生成器105に入力される。PWMゲート信号生成器105は、PWM制御によりインバータ回路104の出力電圧を3相電圧指令V
u*、V
v*、V
w*に従い制御する。
【0018】
図1の構成図において、制御装置10には、3相のモータ106が接続されており、電流センサ108がモータ106のW相の電流i
wとU相の電流i
uを検出している。なお、この電流センサ108は、3相(U相,V相,W相)の内、2相(W相、U相)の電流i
w,i
uを検出しているが、3相電流の和はゼロであるから他の1相(V相)の電流i
vは一意に定められる。また、モータ106の速度ω
mは、パルスジェネレータセンサ107で検出している。
【0019】
電流センサ108によって検出された電流i
w,i
uは、3相/2相座標変換器109に入力される。3相/2相座標変換器109は、電流i
w,i
uに基づいて3相/2相座標変換を行ってα軸、β軸の2相電流i
α,i
βを生成し、2相/dq座標変換器110に出力する。2相/dq座標変換器110は、2相電流i
α,i
βと、積分器115から出力される位相角θに基づいてd軸の磁束電流i
dとq軸のトルク電流i
qを出力する。
【0020】
一方、磁束推定器111は、dq/2相座標変換器120から出力される2相電圧指令V
α*、V
β*と、3相/2相座標変換器109から出力される2相電流i
α,i
βに基づいてα軸、β軸の磁束推定値φ
α^、φ
β^を生成し、それらを速度推定器112に出力する。速度推定器112は、磁束推定値φ
α^、φ
β^に基づいて速度推定値ω
m^を生成する。フィードバック速度切替器113は、フィードバックに用いる速度信号として速度推定値ω
m^を用いるか、パルスジェネレータセンサ107によって検出された速度ω
mを用いるかを選択して切り替えることができるスイッチである。
【0021】
すべり演算器114は、磁束PI制御器116から出力される磁束電流指令値I
d*と、トルク電流指令値演算部19から出力されるトルク電流指令値I
q*とに基づいて、モータ106のすべり速度推定値ω
sを演算し、演算器126は、速度推定値ω
m^または、速度ω
mと、すべり速度推定値ω
sとを入力し、ω
e=ω
m^+ω
sまたはω
e=ω
m+ω
sを演算し、電源角周波数(インバータ出力角周波数)ω
eを出力する。このω
eは、積分器115によって位相角θに変換され、2相/dq座標変換器110と、dq/2相座標変換器120に入力される。
【0022】
上記のように、モータ106を制御する場合、磁束とトルクを個別に制御するベクトル制御が使用される。トルクはモータ106の速度をパルスジェネレータセンサ107で検出するか、又はモータパラメータ及び2相電圧指令V
α*、V
β*とモータ106の電流i
w,i
uから得られた2相電流i
α,i
βを用いて推定された磁束推定値φ
α^、φ
β^とともに速度推定値ω
m^を演算することにより、モータ106の速度信号(ω
m^またはω
m)と基本トルク指令値T
0*とに基づいてトルク指令値演算部18において、トルク指令値T
m*を演算する。そして、回転速度Nが回転速度制限値N
maxより小さいときは、トルク指令値切替器22を介して、そのトルク指令値T
m*がトルク電流指令値演算部19に入力され、そのトルク指令値T
m*に基づいてトルク電流指令値演算部19は、トルク電流指令値I
q*を演算する。また、回転速度Nが回転速度制限値Nmaxを超えたときは、回転速度制限値Nmaxから得られる最大速度指令値ω
mmax*と速度推定器112によって推定された速度推定値ω
m^または、パルスジェネレータセンサ107によって検出された速度ω
mとの偏差Δω
mを偏差演算部124によって演算し、得られた偏差Δω
mは速度PI制御器20に入力される。その出力はトルクリミッタ21によって制限され、トルク指令値切替器22を介してトルク電流指令値演算部19に入力される。トルク電流指令値演算部19は、入力された信号に基づいてトルク電流指令値I
q*を生成する。一方磁束は、モータ106の励磁電流から演算された磁束指令値φ
d*と磁束推定値φ
d^との偏差Δφ
dからPI制御することで磁束電流指令値I
d*を生成する。それぞれの電流指令値I
q*、I
d*とモータ106の電流i
w,i
uを座標変換して得られた回転座標(q軸、d軸)上の電流i
q,i
dとの偏差ΔI
q、ΔI
dからPI制御を行い、電圧指令値V
q*、V
d*を生成し、最終的に3相交流の電圧指令値V
u*、V
v*、V
w*に変換して、PWMゲート信号を生成してインバータ回路104のスイッチングを制御してモータ106を駆動する。
【0023】
次に、
図1及び
図2に基づき本発明の動作を説明する。
図2は、トルク指令値演算部18で行われる演算を説明するためのグラフである。
図1の制御ブロックは、ベクトル制御のブロック図となっているが、トルクモータと同等の回転速度−トルク特性を実現するに当たり、トルク指令値演算部18によってトルク指令値T
m*を基本トルク指令値T
0*及びモータ106の回転速度Nから演算する。また、トルク電流指令値演算部19は、トルク指令値T
m*に基づいてトルク電流指令値i
q*を演算する。さらに、トルク指令値切替器22は、回転速度Nが回転速度制限値N
max以下のときは、トルク指令値演算部18からの出力をトルク電流指令値演算部19に入力するように切り替え、回転速度Nが回転速度制限値N
max以上になったときはトルクリミッタ21からの出力をトルク電流指令値演算部19に入力するように切り替える。
【0024】
通常のトルク制御は、外部から任意のトルク指令値を受けて、そのトルク指令値に追従するトルクを出力する。本発明ではトルクモータのように回転速度に応じたトルク特性を得られるよう、モータ106の回転速度(回転角周波数ω
m又は推定回転角周波数ω
m^)をフィードバックして、
図2に示すようなトルク指令値を自動で生成するようにしている。
図2での横軸は、回転速度Nを表し、縦軸は、トルク指令値T
m*を表している。
図2では、縦軸のT
m*はトルク指令値T
0*に対する低減率(トルク低減率)で示している。
【0025】
図2に示すように、トルク指令値演算部18では、モータ106のトルク指令値T
m*を回転速度Nに対して定トルク指令値と低減トルク指令値の領域に分割する。領域を分割するモータ106の基準回転速度N
0は任意の値で設定可能である。回転速度Nが基準回転速度N
0より小さいときは、トルク指令値T
m*を100%出力する定トルク指令値であり、定トルク指令値については基本となる基本トルク指令値T
0*をそのまま出力するようにしておく。この基本トルク指令値T
0*は任意の値で設定可能である。回転速度Nが基準回転速度N
0以上のときは
図2の基本カーブで示す低減トルク指令値となる。低減トルク指令値については基本トルク指令値T
0*とモータ106の回転速度Nから(1)式で計算されたトルク指令値T
m*を出力する(
図2の曲線(基本カーブ))。
【0026】
T
m*=T
0*(N
0/N)・・・・(1)
【0027】
なお、低減トルク指令値の低減率を任意に設定できるようにするため、別途入力により低減率rを設定しておき、(2)式を用いることで自由にトルク特性を可変することが可能となる(
図2の曲線(ゲイン倍カーブ1,ゲイン倍カーブ2))。
【0028】
T
m*=T
0*(r・N
0/(N+N
0(r−1)))・・・・(2)
【0029】
図2でのゲイン倍カーブ1は(2)式でのrを1より小さくした場合であり、ゲイン倍カーブ2は(2)式でのrを1より大きくした場合である。
【0030】
また、回転速度制限値N
maxを設定しておき、回転速度Nが回転速度制限値N
maxを超えた場合は回転速度制限値N
maxによる速度制御に切り替えを行い、回転速度Nの上昇による危険を回避するようにする。すなわち、トルク指令値切替器22を、トルク指令値演算部18との接続からトルクリミッタ21との接続に切り替える。
【0031】
図3は、制御装置10のトルク指令値演算部18とトルク指令値切替器22で行われる動作を説明するフローチャートである。
ステップS11:トルク指令値演算部18にトルク指令値T
0*が入力される。
ステップS12:速度推定値ω
m^又は速度ω
mが入力される。
ステップS13:速度推定値ω
m^又は速度ω
mから回転速度Nが計算される。
ステップS14:回転速度Nが基準回転速度N
0より小さい(N<N
0)か否か判断する。YESのとき、ステップS15を実行し、NOのとき、ステップS16を実行する。
ステップS15:トルク指令値T
m*としてT
0*をそのまま出力する。
ステップS16:回転速度Nが回転速度制限値N
maxより小さい(N<N
max)か否か判断する。YESのとき、ステップS17を実行し、NOのとき、ステップS18を実行する。
ステップS17:トルク指令値T
m*としてT
0*(N
0/N)を出力する。
ステップS18:トルクリミッタ21からの出力をトルク電流指令値演算部19に入力するようにトルク指令値切替器(スイッチ)22を切り替える。
そして、リターンする。
【0032】
なお、上記のステップS17は、T
m*としてT
0*(r・N
0/(N+N
0(r−1)))を出力するようにすることができる。また、
図5で示したトルクモータの回転速度−トルク特性と同様に、出力されるトルク指令値Tm*を回転速度Nの増加で直線的に減少するような一次関数になるように設定することもできる。
【0033】
以上説明したように、モータの回転速度によりトルク指令値を自動で可変することで、トルクモータと同等の回転速度−トルク特性を得られる。また、基本トルクや低減トルクとなる回転速度やトルク低減率を任意に設定することで、自由に回転速度−トルク特性を設定することが可能となる。この結果、トルクモータを使用していた巻き取り装置に、モータ(汎用誘導電動機)を用いて安価でかつ安定した巻き取り装置を実現することが可能となる。
【0034】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。