【実施例】
【0056】
(実施例1:新規レスベラトロール誘導体の生成方法)
トランス−レスベラトロール(東京化成工業(株)製)100mg、フェルラ酸(和光純薬工業(株)製)100mgをエタノール2mLに溶解し、(1)ミネラルウォーター(商品名「ゲロルシュタイナー」サッポロ飲料(株)製)2mL、(2)ミネラルプレミックス100mg、水2mL、(3)リン酸マグネシウム・3水和物(和光純薬工業(株)製、ミネラルプレミックスの主成分)100mg、水2mLをそれぞれ加えて、レスベラトロール、フェルラ酸含有溶液(pH:(1)4.8、(2)5.2、(3)5.4)を3種類調製した。このレスベラトロール、フェルラ酸含有溶液をオートクレーブ(三洋電機(株)製、「SANYO LABO AUTOCLAVE」)にて130℃、30分間加熱した。得られた3種類の反応溶液からぞれぞれ1mLを取り出して、メタノールにて50mLにメスアップし、このうちの10μLをHPLCにより分析した。
【0057】
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H
2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1mL/min
注入:10μL
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0058】
得られたクロマトグラムを
図1に示す。上から、反応前、(1)、(2)、(3)の反応溶液のクロマトグラムをそれぞれ示している。反応後には、レスベラトロールやフェルラ酸以外のピークが検出され、複数の化合物が生成されていることが確認された。
例えば、図中、Bのピークは、フェルラ酸の分解物であり、それ以外のピークで、反応前後で生成量に顕著な差があったのが、後述する新規レスベラトロール誘導体であるAのピークである。なお、(1)、(2)、(3)の反応溶液の間では、Aのピーク成分の生成量の差は殆どなかったことから、今回用いた金属塩の種類による新規レスベラトロール誘導体の生成量の差は小さかった。
【0059】
(実施例2:新規レスベラトロール誘導体の大量生成)
トランス−レスベラトロール1g、フェルラ酸1gをエタノール20mLに溶解し、ミネラルウォーター20mLを加えて、レスベラトロール、フェルラ酸含有溶液(pH=4.8)を得た。このレスベラトロール、フェルラ酸含有溶液をオートクレーブにて130℃、90分間加熱した。得られた反応溶液のうち1mLを取り出して、メタノールにて50mLにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析したところ、実施例1と同様のクロマトグラムが確認できた。
【0060】
(実施例3:新規レスベラトロール誘導体の単離・構造決定)
実施例2で得られた反応物のうち、
図1のAで示したピークに含まれる化合物を分取HPLCにより単離し、常法により乾燥したところ新規化合物(以下UHA1125)を58mg得た。単離精製したUHA1125は、褐色粉末状の物質であった。
【0061】
次いで、前記UHA1125の分子量を高分解能電子イオン化質量分析法(Electron Ionization−Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値は528.5930であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C32H32O7(M
+):528.5923
分子式C
32H
32O
7
【0062】
次に、前記UHA1125を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA1125が前記式(1)で表される構造を有することを確認した。式(1)で表される新規レスベラトロール誘導体は本発明の製造方法で効率的に生成できることが示された。
【0063】
NMR測定値について、UHA1125を
【0064】
【化3】
【0065】
として、その
1H核磁気共鳴スペクトル、
13C核磁気共鳴スペクトルを表1に示す。
値はδ、ppmで、溶媒はメタノール−d
3で測定した。
【0066】
【表1】
【0067】
また、UHA1125の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
褐色粉末
(溶解性)
水:難溶
メタノール:溶解
エタノール:溶解
DMSO:溶解
クロロホルム:溶解
酢酸エチル:溶解
【0068】
(実施例4:UHA1125の抗癌作用)
次に癌細胞に対する各化合物の効果を見るため、SCC−4細胞(ヒト口腔癌細胞細胞、ATCC)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0069】
SCC−4細胞の培養には、400ng/mLヒドロコルチソン(Hydrocortisone、シグマアルドリッチジャパン社製)、1%アンチバイオティック−アンチマイコティック(Antibiotic−Antimycotic、ギブコ(GIBCO)社製)、10%FBS(Foetal Bovine Serum、ATCC社製)を含むDMEM/F−12(1:1)培地(ギブコ社製)を使用した。試験には細胞培養用コラーゲンIコート96ウェルプレート(日本BD社製)を用い、5×10
5cells/mLとなるように細胞数を調整したSCC−4細胞を1ウェルあたり100μLずつ播種した。これを37℃、5%CO
2条件下で24時間培養し、80%コンフルエント以上の状態で試験に使用した。
【0070】
試料は、レスベラトロール、フェルラ酸、本発明品であるUHA1125、SCC−4細胞に対して抗癌作用の報告があるルテオリン(和光純薬社製)及びε―ビニフェリン(和光純薬社製)の5種類を用いた。試料調製は、各々の化合物をジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬社製)にて溶解し、0.63mM、1.25mM、2.5mM、5mM、10mMとなるように調製した。これをSCC−4細胞培養液中の最終濃度がそれぞれ6.3μM、12.5μM、25μM、50μM、及び100μMとなるように添加して試験を開始した。なお溶媒であるDMSOのみを同量添加したものをネガティブコントロールとした。
【0071】
生存細胞数の定量は「Cell counting kit−8」(商品名、ドージンドー・モレキュラー・テクノロジー社製)を用いたMTT法にて行った。試験開始より48時間後、各ウェルにCell counting kit−8溶液を10μL添加し、よく攪拌した。37℃、5%CO
2条件下で1時間の遮光反応後にプレートリーダー(「BIO−RAD Model 680」、バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した。細胞生存率とは、溶媒であるDMSOのみを添加した培養液の生存細胞数を100%とし、各化合物の濃度下における細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC
50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を算出した。これを表2に示した。
【0072】
これらの結果から、UHA1125のIC
50は最も低かったことから、強い癌細胞増殖抑制能が認められた。この効果は、レスベラトロール及びフェルラ酸には全く認められず、さらにルテオリン及びε―ビニフェリンよりも高い活性を示した。したがってレスベラトロールとフェルラ酸を新規レスベラトロール誘導体に変換する高い有意性が示された。
【0073】
【表2】
【0074】
(実施例5:UHA1125のアンジオテンシン変換酵素阻害作用)
つぎにアンジオテンシン変換酵素(ACE)に対するUHA1125の阻害作用を評価するために、測定キット「ACE Kit−WST」(同仁化学社製)を用いた阻害実験を行った。
【0075】
試料は、レスベラトロールと本発明品であるUHA1125の2種類を用いた。試料調製は、各々の化合物を0.1mM、0.5mM、1mM、5mM、及び10mMとなるようにDMSOにて調製し、これをさらに3μM、15μM、30μM、150μM、及び300μMとなるように超純水で希釈した。この試料希釈液を酵素反応液に添加し、最終濃度がそれぞれ1μM、5μM、10μM、50μM、及び100μMとなるように添加して試験を開始した。なおコントロールはDMSOのみとし、これを同様に調製した。
【0076】
方法はキットの使用方法に沿って行った。つまり、96ウェルマイクロプレート(アズワン社製)の各ウェルに超純水で調製したACEとアミノアシラーゼ混合液20μL、基質溶液(3−Hydroxybutyl−Gly−Gly−Gly、3HB−GGG)20μL、試料希釈液20μLを混合し、37℃で1時間反応させた。これに、3−ヒドロキシブチル酸デヒドロゲナーゼと補酵素の混合液200μLを添加して10分間室温で反応させた。反応後、プレートリーダー(「BIO−RAD Model 680」)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに阻害率を算出した。阻害率の算出にはキットの取り扱い説明書に記載の下記の式にて算出した。これを表3に示した。
阻害率=[(A
blank1−A
sample)/(A
blank1−A
blank2)]×100
blank1:ポジティブコントロール(ACE阻害なし)
blank2:試薬ブランク
【0077】
その結果、UHA1125にACE阻害作用が見出された。レスベラトロールには阻害活性が認められないことから、レスベラトロールとフェルラ酸を新規レスベラトロール誘導体に変換する高い有意性が示された。また、前記非特許文献6に記載のフラボノイド類のACE阻害活性が同じキットを用いた測定値として数百μMであることから、UHA1125にACE阻害作用は、公知の非ペプチド化合物に比べて顕著に強いものであることか明らかになった。
【0078】
【表3】
【0079】
(実施例6:UHA1125のα―グルコシダーゼ阻害活性)
つぎにα―グルコシダーゼに対するUHA1125の阻害作用を評価するために、「QuantichtomTM α―Glucosidase Assay Kit」(Bioassay Systems社製)を用いた阻害実験を行った。
【0080】
試料は、レスベラトロール、フェルラ酸、本発明品であるUHA1125の3種類を用いた。方法はキットの取扱説明書の方法を参考にして、最適化した方法を用いた。つまり、各々の化合物を1mM、5mM、及び10mMとなるようにDMSOにて調製し、これをさらに100μM、500μM、1000μMとなるように100mMリン酸ナトリウム(NaH
2PO
4、Na
2HPO
4、共に和光純薬社製)緩衝液(pH6.5)で希釈してサンプル溶液とした。つぎに酵母由来α―グルコシダーゼ(Sigma社製)をリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)で2.5U/mLに調製し、酵素溶液とした。またキット付随のアッセイバッファ100μLにα―NPG(p−nitrophenyl−α―D−glucopyranoside)を4μL添加して、これをワーキングバッファとした。サンプル溶液10μL、酵素溶液10μL、ワーキングバッファ80μLを96穴マイクロプレート(アズワン社製)上で混合した(サンプル終濃度10μL、50μL、100μL、酵素終濃度0.25U/mL)。なお、コントロールとしてはDMSOを同様に調製したものを使用した。この酵素反応溶液の測定波長415nmの吸光度測定を反応開始時(0分)と反応後(10分)で行い、ここで得られた数値から下記の式を用いて阻害率を算出した。
阻害率(%)=100−{(ST
0−ST
10)/(CT
0−CT
10)×100}
ST
0 :化合物 反応0分
ST
10:化合物 反応10分
CT
0 :DMSO 反応0分
CT
10:DMSO 反応10分
得られた各濃度での阻害率から50%阻害する濃度IC
50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を算出した。これを表4に示した。
【0081】
結果、UHA1125にα―グルコシダーゼ阻害活性が見出された。フェルラ酸には活性は認められず、UHA1125にα―グルコシダーゼ阻害活性がレスベラトロールよりも高い活性であることから、レスベラトロールとフェルラ酸を新規レスベラトロール誘導体に変換する高い有意性が示された。
【0082】
【表4】
【0083】
(実施例7:加熱温度によるUHA1125の生成量の違い)
レスベラトロール100mg、フェルラ酸100mg、エタノール2mL、ミネラルウォーター2mLの混合溶液(pH=4.8)を、オートクレーブにて70℃、90℃、110℃、130℃の各温度条件で20分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析した。
【0084】
その結果、110℃以上でUHA1125の生成は確認できた。レスベラトロール及びフェルラ酸の合計量からの生成比率(重量%)は、70℃、90℃が非生成、110℃が極微量、130℃が2.9%となり、130℃での加熱がもっとも多くUHA1125が生成していた。
【0085】
(実施例8:UHA1125含有エキスの調製)
ブドウ果皮抽出エキスパウダー(レスベラトロール含有素材)10g、フェルラ酸(食品添加物、築野ライスファインケミカル(株)製)1g、エタノール10mL、ミネラルウォーターを10mL加えて調製した混合溶液を、オートクレーブにて130℃、60分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、UHA1125含有エキスを12g得た。得られたUHA1125エキス12g中には、実施例3と同様の手法で確認したところUHA1125が0.033g含有されていた。必要に応じてこの作業を繰り返した。
【0086】
(実施例9:UHA1125を含有する食品)
実施例8で得たUHA1125含有エキス1gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これにパラチニット500g(パラチニット社製)、還元麦芽糖水飴(株式会社東和化成工業製、Bx70)714g(固形分500g)からなる糖液を真空釜で混合し、真空度―600mmHgの条件で155℃まで炊き上げた。これを冷却盤にあけ、約100℃で、クエン酸15g、レモン香料1.1mL、色素1mLを添加、混合後に固化してノンシュガーハードキャンディを得た。このノンシュガーハードキャンディは、菓子として食べ易いものであることはもちろん、定期的に摂取することで癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、健常者でも癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を期待した機能性食品としても利用できる。また、高血圧症の患者における血圧降下作用により、高血圧症や心血管病などの予防を期待した機能性食品として利用できる。さらに、糖尿病患者及び予備群における糖吸収抑制作用により、急激な血糖値上昇の予防を期待した機能性食品として利用できる。
【0087】
(実施例10:UHA1125を含有する医薬品)
実施例2,3と同様の方法で得たUHA1125をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに添加して吸着させた後に、減圧乾燥させた。この吸着物を用いて常法に従い、打錠品を得た。処方は、UHA1125を10重量部、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、癌、高血圧症などの心血管病、糖尿病の治癒を目的とする医薬品として有効に利用できる。
【0088】
(実施例11:UHA1125を含有する医薬部外品)
実施例2、3の方法で得たUHA1125 1.2gを10mLのエタノールに溶解し、これにタウリン20g、ビタミンB1硝酸塩0.12g、安息香酸ナトリウム0.6g、クエン酸4g及びポリビニルピロリドン10gを溶解した精製水を混合した後、精製水で1000mLにメスアップした。なお、pHは、希塩酸を用いて3.2に調整した。得られた溶液1000mLのうち50mLをガラス瓶に充填し、80℃で30分間加熱滅菌して、医薬部外品であるドリンク剤を完成させた。本ドリンク剤は、栄養補給の目的に加えて、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、高血圧症などの心血管病を予防したり、糖尿病患者やその予備群における急激な血糖値上昇を低減したりすることを目的とする医薬部外品として有効に利用できる。