(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化合物半導体薄膜を光吸収層に用いた太陽電池の工業的な製造では、化合物半導体薄膜の形成工程において、ピンホールや、副生成物からなる低抵抗部位等の欠陥が化合物半導体薄膜に形成される。これらの欠陥は太陽電池の不良の原因となり、太陽電池の歩留を低下させる。しかし、従来、太陽電池の製造中に化合物半導体薄膜を形成した時点で欠陥の有無を短時間で検査することは困難であった。
【0005】
実験室レベルでの化合物半導体薄膜の評価方法としては、電解液中で光を点滅させながら光吸収層の光応答特性を電気化学的に測定する方法がある。しかし、このような評価方法を例えば10cm角の比較的大きな光吸収層に適用する場合、光吸収層の表面全体に一様な光を当て難く、また光吸収層全体を収容できる大きな電解液槽が必要となることが問題であった。そのため、実験室レベルの評価方法を、太陽電池の工業的な製造の途中で実施することは困難であった。また、実験室レベルの評価方法では、光吸収層の全面に光を照射するため、光吸収層全体の平均的な情報しか得られない。また、電解液槽を用いる評価方法では、光吸収層において光を当てる場所だけを移動させて光吸収層の全領域を網羅しようとしても、光吸収層全体が電解液に浸かっているので、暗電流の局所的な評価を行えない。そのため、短絡不良が発見された場合であっても、その原因である欠陥の箇所を特定することが困難であった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、化合物半導体薄膜の部分的な欠陥の検出と化合物半導体薄膜全体の検査が可能となる化合物半導体薄膜の評価装置及び評価方法、並びに、太陽電池の製造の途中で、化合物半導体薄膜の部分的な欠陥の検出と化合物半導体薄膜全体の検査が可能となる太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る化合物半導体薄膜の評価装置は、開口部が形成された遮光性の外装体と、開口部の内側に位置し、開口部を塞ぐ、透光性の高分子ゲル電解質層と、高分子ゲル電解質層に浸潤した電解液と、外装体の内側に位置し、外装体の内側を向く高分子ゲル電解質層の表面へ光を照射する光源と、外装体の内側を向く高分子ゲル電解質層の表面の一部に接触する対極と、外装体の内側を向く高分子ゲル電解質層の表面の一部に接触する参照極と、対極及び参照極が電気的に接続されたポテンショスタットと、を備える。
【0008】
本発明に係る化合物半導体薄膜の評価方法では、作用極である導電層上に形成された化合物半導体薄膜の表面の一部のみを、電解液が浸潤した透光性の高分子ゲル電解質層で覆って、化合物半導体薄膜と高分子ゲル電解質層とを密着させ、化合物半導体薄膜と反対側を向く高分子ゲル電解質層の表面の一部に、対極及び参照極を接触させ、対極及び参照極を接触させた高分子ゲル電解質層を、遮光性の外装体の内側に閉じ込め、外装体の内側に配置した光源を発光させながら、作用極と対極との間に電圧を加えた時に、参照極を基準とする作用極の電位と、作用極と対極との間の電流と、を測定し、光源を発光させずに、作用極と対極との間に電圧を加えた時に、参照極を基準とする作用極の電位と、作用極と対極との間の電流と、を測定する、部分検査工程を備え、部分検査工程を繰り返して化合物半導体薄膜全体を検査する。
【0009】
上記本発明に係る化合物半導体薄膜の評価装置によれば、上記本発明に係る半導体薄膜の評価方法を容易に実施することが可能である。
【0010】
上記本発明に係る化合物半導体薄膜の評価方法によれば、電気化学的な測定によって、化合物半導体薄膜の部分的な欠陥を検出できると共に、化合物半導体薄膜全体を検査することが可能である。
【0011】
上記本発明に係る化合物半導体薄膜の評価装置及び評価方法では、電解液がユーロピウム塩の水溶液であることが好ましい。化合物半導体薄膜がCIGSを含む場合、ユーロピウム塩の水溶液は電解液として好適である。
【0012】
本発明に係る太陽電池の製造方法では、導電層上に化合物半導体薄膜を形成する工程と、化合物半導体薄膜に対して、上記本発明に係る化合物半導体薄膜の評価方法を実施した後、化合物半導体薄膜の表面に別の薄膜を形成する工程と、を備える。
【0013】
上基本発明に係る太陽電池の製造方法によれば、太陽電池の製造の途中で、化合物半導体薄膜の部分的な欠陥を検出し、化合物半導体薄膜全体の検査することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、化合物半導体薄膜の部分的な欠陥の検出と化合物半導体薄膜全体の検査が可能となる化合物半導体薄膜の評価装置及び評価方法、並びに、太陽電池の製造の途中で化合物半導体薄膜の部分的な欠陥の検出と化合物半導体薄膜全体の検査が可能となる太陽電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。また、上下左右の位置関係は図面に示す通りである。また、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0017】
(化合物半導体薄膜の評価装置)
図1〜4に示すように、本実施形態に係る化合物半導体薄膜の評価装置2は、遮光性の外装体4、透明な高分子ゲル電解質層6、電解液保持層12、対極8、参照極10、透明隔離板14、ピン20、光フィルタ16、光源18、及びポテンショスタット60を備える。
【0018】
遮光性の外装体4は、中空の箱状の構造を有する。外装体4の底には開口部が形成されている。
【0019】
平板状の高分子ゲル電解質層6は、外装体4の開口部の内側に位置し、開口部を塞いでいる。すなわち、高分子ゲル電解質層6は、評価装置2の平坦な底面を構成する。高分子ゲル電解質層6には、電解液が浸潤している。
【0020】
高分子ゲル電解質層6は、それに浸潤した電解液に溶解した電解質に由来するイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されない。
【0021】
具体的な高分子ゲル電解質層6としては、例えば、水を吸収して膨潤する性質を有する高吸水性高分子をホストとし、電解液を含浸させてゲル化したものを用いればよい。高吸水性高分子としては、セルロースアセテート、ポリビニルアルコール、ポリNビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、シアノエチルセルロース、セルロースサルフェート、ヘパリン、ペクチン、アルギン酸、ヒドロキシメチルセルロース、イソプロピルセルロース、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)等の高分子を、熱処理や架橋によって水に対して不溶化したものが挙げられる。また、上記の水溶性高分子のうち2種以上の高分子を架橋して得られた共重合体を用いてもよい。例えば、水溶性高分子がポリビニルアルコールの場合、架橋剤としてほう酸を添加することにより、ポリビニルアルコール同士が2次架橋して擬固体化状態となり、高分子ゲル電解質層の強度が高まる。
【0022】
水によって殆ど膨潤しない非水溶性高分子であっても、水溶性高分子と適当な分率で共重合させ、水中での膨潤度を向上させることにより、高分子ゲル電解質層6として用いることができる。非水溶性高分子としては、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0023】
光架橋性のモノマーを溶解させた水溶性高分子溶液を製膜後、膜に光を照射して架橋構造を形成して、高吸水性高分子を得ることができる。このような高吸水性高分子を高分子ゲル電解質層6として用いてもよい。このような高分子としては、光架橋性ポリビニルアルコールや光架橋性ポリエチレンオキシド、光架橋性ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0024】
イオン性高分子でコーティングされた水溶性高分子を、高分子ゲル電解質層6として用いてもよい。水溶性高分子をイオン性高分子でコーティングすることにより、水溶性高分子のイオン伝導性が向上し、化合物半導体薄膜の欠陥の検出精度が向上する。イオン性高分子としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸及びナフィオン等が挙げられる。
【0025】
透光性の電解液からなる電解液保持層12は、外装体4の内側を向く高分子ゲル電解質層6の表面に配置されている。評価装置2が電解液保持層12を備える場合、電解液保持層12がない場合に比べて、作用極上に形成された化合物半導体薄膜と対極8との間に、多量の電解質が存在するので、作用極と対極との間に大きな電流を流したり、長時間電流を発生させたり、電流が流れ易くなって欠陥の検出精度が向上したりする。なお、電解液保持層12がない場合であっても、高分子ゲル電解質層6に電解液が浸潤していれば、本発明の効果は達成されるので、電解液保持層12は必須ではない。
【0026】
電解液はユーロピウム塩の水溶液であることが好ましい。化合物半導体薄膜がCIGS薄膜である場合、ユーロピウム塩の水溶液は電解液として好適である。Eu
2+/Eu
3+の酸化還元電位は暗時におけるCIGSの伝導帯エッジに近く、CIGS/CdSの固体状態のpnジャンクションに対応させることができる。ユーロピウム塩以外の電解質として、バナジウム塩を用いてもよい。すなわち、V
2+/V
3+の酸化還元電位を利用して、本発明に係る化合物半導体薄膜の評価方法を実施することもできる。
【0027】
対極8は、外装体4の内側を向く高分子ゲル電解質層6の表面の一部接触している。
図3に示すように、対極8は、四角形状の高分子ゲル電解質層6の四辺に沿った枠状の構造を有する。対極8は例えば、Pt等の金属から構成される。
【0028】
参照極10は、外装体の内側を向く高分子ゲル電解質層6の表面の一部に接触している。
図3に示すように、参照極10は、四角形状の高分子ゲル電解質層6の4つの角にそれぞれ位置する。参照極10は、例えば、Ag/AgClから構成される。参照極10は、それに接続されたピン20によって外装体4固定されている。ピン20は、参照極10とポテンショスタット60とを電気的に接続する配線の機能を有していてもよい。なお、ピン20は、本発明において必須ではない。
【0029】
対極8は参照極10と離間している。また、対極8及び参照極10は高分子ゲル電解質層6の全面を被覆せず、その一部だけを被覆する。換言すれば、光源18からの光が対極8及び参照極10によって完全に遮断されてはならない。これらの条件を満たす限りにおいて、対極8及び参照極10の位置及び形状は、特に限定されない。
【0030】
透明隔離板14によって、高分子ゲル電解質層6、電解液保持層12、対極8及び参照極10と、光フィルタ16及び光源18とを隔離する。
【0031】
光フィルタ16は、例えば、光源18が発する光のうち、化合物半導体薄膜の価電子帯の電子を伝導帯へ励起させる所定の波長領域の光だけ(例えば、単色光)を透過させる機能を有する。遮光する光の波長領域に応じて光フィルタ16を交換してもよい。光フィルタ16の交換によって、所定の波長領域に対する化合物半導体薄膜の応答特性を調べることができる。また、光源18が発する光の一部又は全てを遮断する機能を有するシャッターを光フィルタ16と置き換えてもよい。光フィルタ16に隣接する位置に、シャッターを併設してもよい。なお、所定の波長領域の光だけを発光する光源18を選択した場合、評価装置2が光フィルタ16やシャッターを備えなくても、本発明の効果を達成できる。よって、光フィルタ16やシャッターは、本発明において必須ではない。
【0032】
光源18は、外装体4の内側の上面に設置されている。光源18は、外装体4の内側を向く高分子ゲル電解質層6の表面に向けて光を照射する。光源18は、化合物半導体薄膜の価電子帯の電子を伝導帯へ励起させる所定の波長領域の光を発する。この限りにおいて、光源18は特に限定されない。例えば、光源18として、LEDや平板状の有機ELを用いてもよい。
【0033】
対極8は、配線8Lを介してポテンショスタット60に電気的に接続される。参照極10は、配線10Lを介してポテンショスタット60に電気的に接続される。
【0034】
(化合物半導体薄膜の評価方法)
以下では、本実施形態に係る化合物半導体薄膜の評価方法として、上述の評価装置2を用いた化合物半導体薄膜の評価方法を説明する。
【0035】
図4Bに示すように、基板44の表面に、作用極42である導電層が形成されている。作用極42の表面には、化合物半導体薄膜40が形成されている。作用極42は、配線42Lを介して、ポテンショスタット60に電気的に接続されている。なお、基板44は、化合物半導体薄膜40の評価方法において必須ではない。
【0036】
[部分検査工程]
部分検査工程では、
図4Cに示すように、評価装置2の底面に位置する高分子ゲル電解質層6を化合物半導体薄膜40の表面に密着させる。高分子ゲル電解質層6を化合物半導体薄膜40に密着させると、高分子ゲル電解質層6に浸潤した過剰な電解液が、化合物半導体薄膜40と高分子ゲル電解質層6との界面46に染み出す。なお、高分子ゲル電解質層6の面積は、評価対象である化合物半導体薄膜40の面積より小さい。したがって、高分子ゲル電解質層6は、化合物半導体薄膜40の表面の一部のみを被覆する。
【0037】
図4Cに示すように、高分子ゲル電解質層6は、遮光性の外装体4の内側に閉じ込められている。したがって、外装体4の内側に配置した光源18を発光させると、高分子ゲル電解質層6で被覆された化合物半導体薄膜40に、光源18からの光だけが照射される。つまり、化合物半導体薄膜40に対して、外装体4の外側からの光が遮断される。光源18からの光が化合物半導体薄膜40に照射されると、化合物半導体薄膜40の価電子帯の電子が伝導体へ励起する。そして光源18の発光時に、作用極42と対極8との間に電圧を加え、参照極10に対する作用極
42の電位を負の値に調整すると、対極8から化合物半導体薄膜40へ電解液中のイオンが移動し、化合物半導体薄膜40の表面で還元される。その結果、作用極42と対極8との間に電流(光電流)が流れる。例えば、電解液がEu塩の水溶液である場合、対極8から化合物半導体薄膜40へ移動したEu
3+が、化合物半導体薄膜40の表面で還元され、Eu
2+が生成する。
【0038】
部分検査工程では、上述の方法により、参照極10に対する作用極
42の電位と、その電位に対応する光電流を測定する。より具体的な光電流の測定方法としては、参照極10に対する作用極
42の電位を変化させる電位走査法、または参照極10に対する作用極
42の電位を一定値に維持する定電位法等が挙げられる。光電流の測定中は、通常の電気化学的測定法のように、光源18を点滅させてもよい。
【0039】
部分検査工程では、高分子ゲル電解質層6を化合物半導体薄膜40に密着させた状態で、光源を発光させずに作用極42と対極8との間に電圧を加えた時に、参照極10に対する作用極42の電位と、作用極42と対極8との間の電流(暗電流)を測定する。
【0040】
化合物半導体薄膜40に対する評価装置2の位置を変えながら、以上の部分検査工程を繰り返すことにより、化合物半導体薄膜40の表面の全領域を検査できる。化合物半導体薄膜40に形成されたピンホールは、光電流や暗電流を低下させる。化合物半導体薄膜40に形成された低抵抗部位は、光電流や暗電流を増加させる。低抵抗部位の比表面積が大きい場合、低抵抗部位が二重層容量として暗電流を増加させることがある。つまり、ピンホールや低抵抗部位が存在する領域では、他の領域とは値の異なる光電流や暗電流が測定される。しがって、各部分検査工程において測定した光電流や暗電流を互いに比較することにより、化合物半導体薄膜40において、ピンホールや低抵抗部位等の欠陥が形成された部分を特定できる。
【0041】
(太陽電池の製造方法)
以下では、p型の化合物半導体薄膜の一種であるCIGS薄膜を光吸収層として備える太陽電池の製造方法について説明する。
【0042】
図4B、5に示すように、基板であるソーダライムガラス44上に、導電層(作用極)である裏面電極層42を形成する。裏面電極層42は、通常、Moから構成される金属層である。裏面電極層42の形成方法としては、例えばMoターゲットのスパッタリング等が挙げられる。
【0043】
ソーダライムガラス44上に裏面電極層42を形成した後、CIGS薄膜40を裏面電極層42上に形成する。CIGS薄膜40の形成方法としては、電解析出法、一段階同時蒸着法(ワンステップ法)、三段階同時蒸着法(NREL法)、固相セレン化法又は気相セレン化法等が挙げられる。CIGS薄膜40の形成工程では、CIGS薄膜40中にピンホールや金属質の低抵抗部位等の欠陥が形成される場合がある。
【0044】
CIGS薄膜40を裏面電極層42上に形成した後、上述した本実施形態に係る化合物半導体薄膜の評価方法を用いて、CIGS薄膜40を検査する。これによりCIGS薄膜40の形成工程においてCIGS薄膜40中に形成された欠陥の箇所を特定できると共に、CIGS薄膜40全体を検査することが可能となる。
【0045】
CIGS薄膜40を検査した後、CIGS薄膜40上に、別の薄膜(n型化合物半導体薄膜61)を形成し、n型化合物半導体薄膜上に半絶縁層63を形成し、半絶縁層63上に窓層65を形成し、窓層65上に上部電極67を形成する。これにより、太陽電池102が得られる。なお、窓層65上にMgF
2から構成される反射防止層を形成してもよい。
【0046】
n型化合物半導体薄膜61としては、CdS薄膜、ZnO(S
,Se)薄膜
、n型のCIGS薄膜等が挙げられる。CdS薄膜又はZnO(S
,Se)薄膜は、化学溶液成長法、スパッタ法、蒸着法等によって形成することができる。n型のCIGS薄膜は、上述したp型のCIGS薄膜40と同様の方法で形成することができる。半絶縁層63としては、例えばi−ZnO層等が挙げられる。窓層65としては、例えばZnO:B又はZnO:Al等が挙げられる。上部電極67は例えばAl又はNi等の金属から構成される。半絶縁層63、窓層65及び上部電極67は、例えばスパッタリング又はMOCVD等によって形成することができる。
【0047】
本実施形態では、上述のように、太陽電池の製造中に化合物半導体薄膜40を形成した時点で欠陥の有無を検査することが可能となる。つまり、本実施形態では、太陽電池の非破壊検査が可能となる。更に換言すれば、本実施形態では、化合物半導体薄膜40を評価するために、完成した太陽電池102を破壊して化合物半導体薄膜40を露出させる必要がない。また、本実施形態では、化合物半導体薄膜40より面積が小さい高分子ゲル電解質層6に覆われた領域に対する部分評価工程を複数回実施して、化合物半導体薄膜全体を検査できる。そのため、本実施形態では、従来の評価方法のように、化合物半導体薄膜全体を収容する大きな電解液槽を必要としない。そのため、本実施形態の評価方法は、太陽電池の工業的な製造の途中で容易に実施することができる。
【0048】
本実施形態では、比較的大きな化合物半導体薄膜40を評価する場合であっても、化合物半導体薄膜40の一部を評価対象として評価装置2の外装体4に閉じ込めることにより、評価対象となる領域全体に光を均一に当てることができる。また、本実施形態では、電気化学的な測定により、化合物半導体薄膜全体の平均的な光応答特性のみならず、化合物半導体薄膜の局所的な光応答特性を測定することが可能であるため、化合物半導体薄膜の局所的な欠陥を検出することができる。
【0049】
以上、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、本発明に係る化合物半導体薄膜の評価方法、及び太陽電池の製造方法は、化合物半導体薄膜がCIGS薄膜ではない場合にも適用することができる。例えば、化合物半導体薄膜がGaAs系半導体薄膜、SiGe系半導体薄膜、CIS系半導体薄膜、Cu
2ZnSnS
4系半導体薄膜、CdTe系半導体薄膜、CdS系半導体薄膜、InP系半導体薄膜、ZnO系半導体薄膜、又はCuAlO
2系半導体薄膜等である場合にも、上述した本実施形態と同様の効果を達成することができる。
【0051】
また、非親水性の高分子ゲル電解質層及び非水電解液を用いても良い。この場合も、上述した実施形態と同様の効果を達成できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
図4A及び4Bに示すように、ソーダライムガラス44上に、作用極としてMo裏面電極層42を形成した。Mo裏面電極層42の形成にはスパッタリングを用いた。Mo裏面電極層42上に、化合物半導体薄膜としてCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40を形成した。Cu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40の形成には、電解析出法を用いた。Mo裏面電極層42の表面積は10cm×10cmとした。Cu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40の表面積は、Mo裏面電極層42とほぼ同等とした。このように、ソーダライムガラス基板44、Mo裏面電極層42及びCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40を備える3つのサンプル1〜3を作製した。
【0054】
図1〜3に示す評価装置2を用いて、
図4A、4B及び4Cに示すように、サンプル1〜3それぞれのCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40に対して、上述した部分検査工程を実施した。また、それぞれのCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40の表面全域を網羅するように評価装置2を移動させ、部分検査工程を複数回行った。
【0055】
高分子ゲル電解質層6としては、ポリビニルアルコール(PVA)からなる層を用いた。高分子ゲル電解質層6の寸法は、1cm×1cmとした。高分子ゲル電解質層6には、電解液として、0.2MのEu(NO
3)
3水溶液を浸潤させた。また、電解質保持層12として、0.2MのEu(NO
3)
3水溶液を用いた。枠状の対極8として、0.6cm×0.6cmのPt電極を用いた。参照極10としては、Ag/AgCl極を用いた。光源18としては、LEDを用いた。
【0056】
部分検査工程では、定電位法により、Mo裏面電極層42とPt極8との間の光電流密度と、暗電流密度を測定した。定電位法では、光源18を20Hzの周波数で点滅させ、Ag/AgCl極10に対してMo裏面電極層42の電位を−0.3Vに固定し、0.5秒間通電した。
【0057】
サンプル1及び2のCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40では、全領域にわたって良好で一様な光電流密度と低いレベルの暗電流が測定された。サンプル3のCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40では、ある領域での部分検査工程において、光応答不良(他の領域に比べて小さい光電流)が確認された。この光応答不良は、Cu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40に形成されたピンホールに起因するものと考えられる。また別の領域では、他の領域に比べて大きな暗電流密度が認められた。この大きな暗電流密度は、Cu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40の表面に形成された低抵抗部位と高分子ゲル電解質層6との界面に発生した電気二重層によって、界面における電気容量が増大したことに起因する、と考えられる。このように、実施例1では、Cu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40の表面全体の光応答特性のみならず、光応答特性の不良箇所とその要因が特定できた。
【0058】
(比較例1)
比較例1では、実施例1で用いたサンプル1〜3のCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40を、
図6に示す評価装置で個別に評価した。なお、
図6に示す評価装置の全体は、室温のもとで暗箱の中に設置されたものである。
【0059】
比較例1の評価装置として、10mLの電解液54が満たされた電解質槽52(ビーカー)と、電解質槽52中に配置され、ポテンショガルバノスタット60に電気的に接続された参照極56及び対極58と、を備える装置を用いた。電解液54としては、0.2MのEu(NO
3)
3水溶液を用いた。参照極56としては、通常のAg/AgCl電極を用いた。対極58としては、Ptスパイラル電極を用いた。
【0060】
比較例1では、電解液54中に配置させたサンプルが備えるMo裏面電極層42をポテンショスタット60に電気的に接続した。電解液54中に配置させたサンプルが備えるCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40を光源50に対向させた。光源50としては、LEDを用いた。
【0061】
比較例1では、暗箱の内部において、定電位法により、Mo裏面電極層42とPt極8との間の光電流密度と、暗電流密度を測定した。定電位法では、光源50を20Hzの周波数で点滅させ、Cu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40の表面全体に光を照射した。また定電位法では、Ag/AgCl極56に対してMo裏面電極層42の電位を−0.3Vに固定し、0.5秒間通電した。
【0062】
比較例1では、サンプル1〜3の光応答特性に有意な差異を確認することができなかった。比較例1では、サンプル1〜3の局所的な光応答特性を評価することができなかった。そのため、比較例1では、サンプル3のCu
0.75In
0.7Ga
0.30Se
2薄膜40における光応答特性の異常を検出することができなかった。