特許第5729527号(P5729527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NOK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5729527-シリコーンゴム−フッ素樹脂積層体 図000002
  • 特許5729527-シリコーンゴム−フッ素樹脂積層体 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5729527
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】シリコーンゴム−フッ素樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/08 20060101AFI20150514BHJP
   B32B 25/20 20060101ALI20150514BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   B32B25/08
   B32B25/20
   G03G15/20
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-504428(P2015-504428)
(86)(22)【出願日】2014年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2014073201
【審査請求日】2015年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-182287(P2013-182287)
(32)【優先日】2013年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】吉武 勲
(72)【発明者】
【氏名】東良 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 克己
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−91024(JP,A)
【文献】 特開平2−247674(JP,A)
【文献】 特開昭61−250668(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/126915(WO,A1)
【文献】 特開2004−59796(JP,A)
【文献】 特開平10−142988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G03G 15/20
C09J163/00−163/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に加硫シリコーンゴム層およびフッ素樹脂層を順次形成させたシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体において、加硫シリコーンゴム層上にエポキシ樹脂30〜80重量%およびシランカップリング剤70〜20重量%を含有するエポキシ樹脂含有シラン系プライマー層とフッ素樹脂系プライマー層とを順次形成させた後、フッ素樹脂層を形成せしめてなるシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体。
【請求項2】
シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシランまたはこれらの混合物である請求項1記載のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体。
【請求項3】
フッ素樹脂系プライマー層が、フッ素樹脂の水性分散液または有機溶媒分散液であって、その固形分濃度が10〜20重量%の分散液から形成された請求項1記載のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体。
【請求項4】
フッ素樹脂層が、エポキシ樹脂含有シラン系プライマー層およびフッ素樹脂系プライマー層を順次形成させた基材をフッ素樹脂製チューブに挿入した後、260〜350℃に加熱してチューブを収縮させることにより形成されたものである請求項1記載のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体。
【請求項5】
複写機のトナー定着部材として用いられる請求項1乃至4のいずれかの請求項に記載のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体。
【請求項6】
請求項5記載のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体よりなる複写機のトナー定着部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム-フッ素樹脂積層体に関する。さらに詳しくは、複写機のトナー定着部材などに用いられるシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複写機などに用いられる定着ロール、定着ベルトなどのトナー定着部材1は、図2に示されるように環状基材2上にゴムなどの弾性体よりなる層3を形成し、さらに弾性層3上に、接着剤層7を介して、表層としてテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂〔PFA〕やポリテトラフルオロエチレン樹脂〔PTFE〕などのフッ素樹脂層6を形成せしめたものが用いられる。
【0003】
このような定着ロール、定着ベルトなどのトナー定着部材としては、種々のものが提案されている。例えば、特許文献1には、環状基材の表面にゴム層用接着剤を介してシリコーン系ゴムなどのゴム層を接着したものに、さらにシリコーン系、イミド系などの接着剤を用いてチューブ状のPFAを接着することにより形成させた(シリコーン)ゴム-フッ素樹脂積層体が提案されている。
【0004】
このようなトナー定着部材は、トナー定着性の観点から、フッ素樹脂層の薄膜化が求められているが、薄膜化したチューブ状のフッ素樹脂は内面加工が難しく、弾性層との接着が悪いという問題があった。
【0005】
かかる問題点に対して、弾性体層とフッ素樹脂層との間に下塗り剤層および/またはプライマー層を設けたものも含めて、特許文献2〜5では種々のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体が提案されている。
【0006】
特許文献2には基材上に、順次弾性層および表層を形成した定着ローラ、定着ベルトなどであって、表層がPFAチューブを熱収縮させることにより形成した層であり、表層と弾性層とが、PFAを20〜30重量%含有する接着剤材料を介して接着している定着ローラ、定着ベルトが提案されている。かかる定着ローラ、定着ベルトは、PFAチューブが内面処理されていないものであるため低コストであり、またプライマー層が薄いといった特徴を有し、表面粗さが小さく、初期接着性にもすぐれているが、後記比較例5に示される如く、熱間接着力および長期加熱試験後の接着性の点ではやはり満足のいくものではない。
【0007】
特許文献3には、円筒形状または円柱形状基材上に形成された弾性層上にエポキシ系プライマーなどのプライマー処理を施し、さらにフッ素樹脂層を形成したうえで、加熱収縮させた熱収縮性チューブで完全に覆った後、加熱焼成して成膜した定着用部材が提案されている。かかる定着用部材は、表面粗さRzが5μm以下というように表面が平滑ではあるものの、初期接着性、熱間接着力、長期加熱試験後の接着性の点で満足のされるものではない。
【0008】
特許文献4には、基材、基材上に形成されたプライマー層および該プライマー層上に形成された成形体層からなる含フッ素積層体であって、基材を形成する耐熱性ゴムとしてシリコーンゴムを選択した場合に、プライマー層はアルコキシシランモノマー重合体(および有機チタネート化合物)を含む官能基含有含フッ素エチレン性重合体からなり、成形体層に熱収縮PFAチューブを用いた含フッ素樹脂成形体から形成された含フッ素積層体が開示されている。かかる含フッ素積層体も表面粗さが小さく、初期接着性にもすぐれているが、熱間接着力および長期加熱試験後の接着性の点ではやはり満足のいくものではない。
【0009】
特許文献5には、金属製の中空芯金上にシリコーンゴム被覆層を設けるとともに、最外層にPFAからなる薄膜を形成してなる加熱ローラにおいて、シリコーンゴム被覆層とPFA薄膜との間に、下層がシリコーン樹脂とシランカップリング剤とを主成分とする混合物からなり、上層がアルコキシ変性フッ素樹脂を主成分とする混合物からなる二層構造のプライマー層を介挿してなる加熱ローラが提案されている。かかる加熱ローラは均一な膜厚を有し、初期接着性にすぐれるとともに表面粗さ、熱間接着力もそれなりの値を示すが、長期加熱試験後の接着性が満足されるものではない。
【0010】
接着性については、金属酸化物(例えばべんがらFe2O3)は活性度が高く、官能基も多くあるため、プライマーに添加すると接着性が向上することが知られているが、複写機用の定着部材の接着要求レベルによっては満足できない場合がある。
【0011】
このように従来提案されているものは、いずれも熱間接着力、長期加熱試験後の接着性を十分に満足し得るものではない。これはシリコーンゴムとフッ素樹脂とは構造が違うため相溶性が良くなく、特に加硫したシリコーンゴム側に反応性官能基が乏しいため、シリコーンゴム側の接着性が弱いといった傾向があることによる。
【0012】
従って、プライマーをフッ素系としても、加熱溶融することによりフッ素樹脂とプライマーは接着するものの、逆にシリコーンゴムとの接着力は弱くなってしまう。その結果、初期的にはフッ素樹脂はシリコーンゴムと接着しているように見えるものの、熱間状態あるいは長期加熱などの加熱環境によっては、接着性が低下してしまう場合がある。また、加硫したシリコーンゴムは表面が不活性な状態であり、ゴム表面に接着性を阻害する低分子成分が存在し、プライマーとゴムとの接着を悪化させる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−276290号公報
【特許文献2】WO2008/126915
【特許文献3】特開平10−142988号公報
【特許文献4】WO2004/18201
【特許文献5】特開昭61−250668号公報
【特許文献6】特開平6−248116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、初期接着性のみならず、熱間状態あるいは長期加熱などの加熱環境下においても、加硫したシリコーンゴムとフッ素樹脂との接着性を低下させないシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる本発明の目的は、基材上に加硫シリコーンゴム層およびフッ素樹脂層を順次形成させたシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体において、加硫シリコーンゴム層上にエポキシ樹脂30〜80重量%およびシランカップリング剤70〜20重量%を含有するエポキシ樹脂含有シラン系プライマー層とフッ素樹脂系プライマー層とを順次形成させた後、フッ素樹脂層を形成せしめたシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体によって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体は、シリコーンゴム上に一定割合のエポキシ樹脂およびシランカップリング剤を含有したエポキシ樹脂含有シラン系プライマー層を形成することで、エポキシ樹脂含有シラン系プライマー層が加硫したシリコーンゴムと反応し、さらにシランカップリング剤がフッ素樹脂プライマーと反応することとなり、またエポキシ樹脂が添加されていることによって、シリコーンゴムとフッ素樹脂との熱間状態での接着性を向上できるといったすぐれた効果を奏する。
【0017】
また、フッ素樹脂系プライマーは、PFAチューブの加熱による熱溶融により、融着してフッ素樹脂に接着することから、加硫シリコーンゴムの仕様による接着強度のバラツキが無くなり、接着強度の安定した製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体よりなる定着ロールの断面図の一例を示す図である
図2】従来のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体よりなる定着ロールの断面図の一例を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0019】
基材としては、ステンレス鋼、鉄、アルミニウムなどの金属製のものや、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂製のものが、好ましくは定着ロールの場合にはステンレス鋼、鉄、アルミニウムなどが、また定着ベルトの場合には電気鋳造法により製造された金属ベルト、ニッケル電鋳、ポリイミド樹脂などが用いられ、その厚みは一般には約10〜100μmものが用いられる。また、その形状は、定着ロールとして用いられる場合には円筒形状のものが、また定着ベルトとして用いられる場合にはエンドレスベルト形状のものが用いられる。ここで定着部材とは、複写機などのトナー定着部に使用される定着ロール、定着ベルトを指している。
【0020】
シリコーンゴムとしては、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、ビニルシリコーンゴム等が用いられ、これは一般にはその厚さを約50μm〜1mm、好ましくは約100〜500μmとして基材上にシリコーンゴム層を形成させる。加熱などの手段で加硫されたシリコーンゴムは、トナーなどの定着温度での連続使用に耐え得る程度の耐熱性を有する。
【0021】
シリコーンゴム層上には、まずエポキシ樹脂30〜80重量%およびシランカップリング剤70〜20重量%を含有するエポキシ樹脂含有シラン系プライマー層が形成される。
【0022】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF、ノボラック樹脂等とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物、またはこれらの化合物から得られる各種誘導体、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型含ブロモエポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、DPPノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の少くとも一種、好ましくはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂またはビスフェノールA型エポキシ樹脂とフェノールノボラック型エポキシ樹脂との混合物が用いられる。これらのエポキシ樹脂は水性分散液であるエマルジョンタイプとして、あるいはアセトン、メチルエチルケトン等の有機溶媒溶液または分散液として用いられ、これは市販品であるDIC製エピクロンN-665、N-670、N-673、N-695、840、850、860、1055、2050、N-730A、N-740、N-865、N-775、N-665-EXP-S、850-LCなどをそのまま用いることができる。
【0023】
シランカップリング剤としては、ビニル基含有、エポキシ基含有、メタクリロキシ含有、アミノ基含有、クロロ基含有、メルカプト基含有などのシランカップリング剤、例えばビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシ-エトキシ)シラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシルエチル)トリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕テトラスルフィド、特許文献6などに記載されているγ-トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、γ-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィドなどのテトラスルフィド類などの少くとも一種が、好ましくは下記式〔I〕または〔II〕で表されるシラン化合物が用いられる。
XnSi(OR)4-n 〔I〕
R:炭素数1〜3のアルキル基
X:3-アミノプロピル基、N-β-(アミノエチル)-γ-
アミノプロピル基、N-フェニル-3-アミノプロピル
基、3-メタクリロキシプロピル基、3-グリシドキシ
プロピル基、3-メルカプトプロピル基、ビニル基な

n:1〜3の整数
R1m(R2)n-Si-R34-m-n 〔II〕
m,n:0〜4の整数
R1:炭素数10以下のアルキル基
R2:炭素数10以下のアルコキシ基
R3:炭素数10以下のメタクリロキシアルキル基
【0024】
エポキシ樹脂およびシランカップリング剤は、これらの各成分からなるエポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分の固形分重量として、エポキシ樹脂が30〜80重量%、好ましくは40〜70重量%、シランカップリング剤が70〜20重量%、好ましくは60〜30重量%の割合で用いられる。エポキシ樹脂の配合割合がこれより少ないと熱間接着性、長期加熱試験後の接着性、定着性などが劣るようになり、一方シランカップリング剤の配合割合がこれより少ないと長期加熱試験後の接着性、定着性などが劣るようになる。
【0025】
エポキシ樹脂含有シラン系プライマーのシリコーンゴム上への塗装方法は特に限定されないが、例えばディッピング法、スプレー法、ロールコート法、ドクターブレード法、フローコート法等によって行われ、塗布後の乾燥条件についても適宜設定し得ることができるが、例えば室温乃至約150℃で約5〜30分間の条件下で行われ、厚さ約1〜10μm、好ましくは約1〜5μmのプライマー層を形成させる。
【0026】
シランカップリング剤はエポキシ樹脂用硬化剤としても作用するが、この他にもエポキシ樹脂用硬化剤として、イミダゾール類、速硬化性のメルカプタン類を用いることもできる。イミダゾール類としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-〔2-メチルイミダゾリン-(1)〕-エチル-s-トリアジンなどが挙げられる。
【0027】
フッ素樹脂系プライマーとしては、一般にフッ素樹脂の水性分散液が用いられるが、この他フッ素樹脂にリン酸およびクロム酸の混合物を添加したものや、トリフルオロビニルエーテル基含有リン酸エステル化合物、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、有機チタネートなどを添加したフッ素樹脂あるいは反応性官能基含有フッ素樹脂も用いられる。ここで有機チタネートとしては、Ti(IV)またはTi(III)とアルコール性水酸基、フェノール性水酸基もしくはカルボキシル基を有する化合物とによって形成されるTi-O-C結合を含むアルコキシチタン、チタンアシレートまたはチタンキレートなどが挙げられる。かかるフッ素樹脂系プライマーを用いることによりエポキシ樹脂含有シラン系プライマーとPFAとの接着性が向上するようになる。このようなプライマーとしては、市販品、例えば三井デュポンポリケミカル製品PL-992CL、PL-990CLなどが用いられる。
【0028】
ここで、エポキシ樹脂含有シラン系プライマー層との接着性を高めるために、プライマー層に使用されるフッ素樹脂としては、好ましくはその少くとも一部として、カルボン酸基またはその誘導基、水酸基、ニトリル基、シアネート基、カルバモイルオキシ基、ホスホノオキシ基、ハロホスホノオキシ基、スルホン基またはその誘導基およびスルホハライド基等の官能基を含有するものが用いられる。ここで官能基の具体例としては、-COOH、-CH2COOH、-COOCH3、-CONH2、-OH、-CH2OH、-CN、-CH2O(CO)NH2、-CH2OCN、-CH2OP(O)(OH)2、-CH2P(O)Cl2、-SO2F等が挙げられる。
【0029】
かかる官能基を有するフッ素樹脂は、熱溶融性フッ素樹脂の性質を大きく損なわない範囲で官能基を含有するものであって、熱溶融性フッ素樹脂の合成後に官能基を付加あるいは置換することによって導入するか、あるいは熱溶融性フッ素樹脂の合成時に官能基を有するモノマーを共重合させることにより、好ましくは熱溶融性フッ素樹脂の合成時に官能基を有するモノマーを共重合させることによって得ることできる。
【0030】
フッ素樹脂系プライマーは、その水性分散液、有機溶媒分散液などとして調製され、これらはディッピング法、スプレー法、ロールコート法、ドクターブレード法、フローコート法など任意の塗装方法を用いて、約1〜20μm、好ましくは約1〜10μmの厚みでエポキシ樹脂含有シラン系プライマー層上に塗布される。塗布厚みがこれより厚い場合には表面に凹凸が発生し、熱伝導性が悪くなってしまう。一方、これより塗布厚みが薄い場合には、エポキシ樹脂含有シラン系プライマー層が露出してしまったり、PFAチューブとの熱融着が難しくなり、ひいては接着性が悪化するため好ましくない。
【0031】
フッ素樹脂系プライマーが水性分散液として用いられる場合には、そのフッ素樹脂濃度は約10〜20重量%が好ましく、これより低い濃度で用いられると塗布ムラが大きくなってしまい、一方これより高いと乾燥後の皮膜の凹凸が大きくなってしまうようになる。塗布後の乾燥条件についても適宜設定し得ることができるが、例えば室温乃至約150℃で約5〜30分間の条件下で行われる。
【0032】
フッ素樹脂系プライマー層上には、熱溶融性のフッ素樹脂が積層され、かかるフッ素樹脂の融点以上の温度、例えば約260〜350℃、好ましくは約270〜330℃で、約10〜80分間、好ましくは約20〜60分間の条件下で焼成が行われる。焼成温度がフッ素樹脂の融点よりも低い場合には、フッ素樹脂系プライマーと一般にチューブ状で用いられるフッ素樹脂とが熱融着せず接着不良となり、一方温度がこれより高い場合には、シリコーンゴムが熱劣化するようになる。また焼成時間がこれより短い場合には、PFAチューブの溶融不足によりフッ素樹脂系プライマー層との接着不良となる場合があり、一方これより長い場合には、シリコーンゴムが熱劣化する場合がある。
【0033】
かかる熱溶融性フッ素樹脂としては、例えばテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデンおよびフッ化ビニル等の重合体または共重合体、あるいはこれらモノマーとエチレンの共重合体などを挙げることができる。これらのモノマーは単独で使用することもできるし、2種以上の混合物として使用することもできる。
【0034】
具体的には、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体〔PFA〕、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体などあるいはこれらの2種以上の組合せが挙げられ、好ましくは弾性体の熱劣化温度および成膜性といった観点よりテトラフルオロエチレンの共重合体であり、PTFEより低融点のPFA、FEPが、例えば厚さ約5〜20μmの熱収縮性PFAチューブとして用いられる。
【0035】
以上の構成よりなるシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体は平面状の積層体はもちろん、図1に示されるように環状の基材2上にシリコーンゴム層3、エポキシ樹脂含有シラン系プライマー層4、フッ素樹脂系プライマー層5およびフッ素樹脂層6を順次形成せしめてチューブ状積層体の定着部材1とすることもできる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0037】
実施例1
基材として、内径40mm、肉厚30μm、長さ410mmの環状ニッケルベルト上に、弾性層用シラン系接着剤(東レ・ダウコーニング社製品DY39-042)を塗布し、さらにその上にシリコーンゴム(信越シリコーン社製品X34-2008)をディスペンサを用いて塗布して厚さ100μmのシリコーンゴム層を形成し、シリコーンゴム層を加熱処理によって加硫成形した。
【0038】
シリコーンゴム層上に下記エポキシ樹脂含有シラン系プライマーをスプレーを用いて塗装し、常温下で数分間放置して溶媒を揮発させ、厚さ2μmのエポキシ樹脂含有シラン系プライマー層を形成した。
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂 2.91重量部(46.9重量%)
(DIC製品N-695)
3-アミノプロピルトリエトキシシラン 3.00 〃 (48.3重量%)
ビニルトリエトキシシラン 0.30 〃 ( 4.8重量%)
メチルエチルケトン 3.09 〃
トルエン 30.00 〃
酢酸ブチル 20.00 〃
【0039】
次いでエポキシ樹脂含有シラン系プライマー層上に、フッ素樹脂(PFAの25重量%水溶液;三井デュポンポリケミカル製品PL-992CL)66重量部および水34重量部から調製されたフッ素樹脂系プライマー(固形分濃度16.5重量%)をスプレーを用いて塗装し、室温条件下で乾燥させて厚さ2μmのフッ素樹脂系プライマー層を形成させた後、厚さ10μmの内面処理されていない熱収縮性PFAチューブ(グンゼ製品)を330℃で60分間溶融被覆し、環状のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体を得た。
【0040】
実施例2
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が4.37重量部(55.2重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が3.3重量部(41.7重量%)、ビニルトリエトキシシラン量が0.25重量部(3.2重量%)、メチルエチルケトン量が4.64重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0041】
実施例3
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が5.34重量部(66.8重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が2.5重量部(31.3重量%)、ビニルトリエトキシシラン量が0.15重量部(1.9重量%)、メチルエチルケトン量が5.67重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0042】
実施例4
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が4.37重量部(53.5重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が3.3重量部(40.4重量%)、ビニルトリエトキシシラン量が0.5重量部(6.1重量%)、メチルエチルケトン量が4.64重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0043】
実施例5
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が4.37重量部(40.2重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が5.5重量部(50.6重量%)、ビニルトリエトキシシラン量が1.0重量部(9.2重量%)、メチルエチルケトン量が4.64重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0044】
実施例6
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が4.37重量部(57.0重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が3.3重量部(43.0重量%)、メチルエチルケトン量が4.64重量部にそれぞれ変更されて用いられ、ビニルトリエトキシシランが用いられなかった。
【0045】
比較例1
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が1.0重量部(20.0重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が3.5重量部(70.0重量%)、ビニルトリエトキシシラン量が0.5重量部(10.0重量%)、メチルエチルケトン量が1.0重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0046】
比較例2
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が7.3重量部(81.1重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が1.4重量部(15.6重量%)、ビニルトリエトキシシラン量が0.3重量部(3.3重量%)、メチルエチルケトン量が7.7重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0047】
比較例3
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が2.4重量部(18.8重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が10重量部(78.1重量%)、ビニルトリエトキシシラン量が0.4重量部(3.1重量%)、メチルエチルケトン量が2.6重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0048】
比較例4
実施例1において、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマー成分中、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂量が4.3重量部(81.1重量%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン量が0.9重量部(17.0重量%)、ビニルトリエトキシシラン量が0.1重量部(1.9重量%)、メチルエチルケトン量が3.7重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0049】
比較例5
実施例1において、上層フッ素樹脂系プライマー層のみが設けられ、下層エポキシ樹脂含有シラン系プライマーが設けられなかった。
【0050】
以上の各実施例および比較例で得られた環状のシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体を用い、初期接着性、表面粗さ、熱間接着性、長期加熱試験後の接着性、定着性についての測定を行った。
初期接着性:ISO DIS2411に対応するJIS K6404-5ゴム引布・プラスチック
引布試験方法−第5部接着試験に準じて剥離試験を行い、破
断面を観察して接着性を下記の基準に従い評価
◎:ゴムが破断したもの
○:薄層ゴムが破断したもの
△:部分的に剥がれたもの
×:全面が剥がれたもの
表面粗さ:ISO 3274に対応するJIS B0651-1976準拠、東洋精密製サーフコ
ム1400Aを使ってRaを測定
Raが0.2以下のものを○、Raが0.2以上のものを×として評価
熱間接着性:170℃における接着性を、初期接着性と同様の試験方法を行 い評価
長期加熱試験後の接着性:230℃、1000時間後における接着性を、初期接
着性と同様の試験方法を行い評価
定着性:定着ベルトを用いて定着装置に画像を形成し、定着させた部分を
擦り定着性を下記の基準に従い評価
○:印字画像が良好かつ定着性が良好なもの
×:印字画像不良または定着性不良のもの
【0051】
得られた結果は、次の表に示される。

実施例 比較例
測定項目
初期接着性 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ◎
表面粗さ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × × × ○
熱間接着性 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ △ ○ △ ○ ×
長期加熱試験後の接着性 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ △ △ △ △ △
定着性 ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × × × ○
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体は、熱間状態あるいは長期加熱などの加熱環境下においても、加硫したシリコーンゴムとフッ素樹脂との接着性が低下しないことから、環状の構成とすることで、複写機などの定着ロール、定着ベルトなどのトナー定着部材として有効に用いられる。
【符号の説明】
【0053】
1 定着部材
2 基材
3 シリコーンゴム層
4 エポキシ樹脂含有シラン系プライマー層
5 フッ素樹脂系プライマー層
6 フッ素樹脂層
7 接着剤層
【要約】
基材上に加硫シリコーンゴム層およびフッ素樹脂層を順次形成させシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体において、加硫シリコーンゴム層上にエポキシ樹脂30〜80重量%およびシランカップリング剤70〜20重量%を含有するエポキシ樹脂含有シラン系プライマー層、フッ素樹脂系プライマー層を順次形成させた後、フッ素樹脂層を形成せしめてなるシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体。このシリコーンゴム-フッ素樹脂積層体は、初期接着性のみならず、熱間状態あるいは長期加熱などの加熱環境下においても、加硫したシリコーンゴムとフッ素樹脂との接着性を低下させない。
図1
図2