(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5729566
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】コンクリート平版のせん断補強の形成方法と、道路床版及びフラットスラブ
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20150514BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20150514BHJP
E04C 5/18 20060101ALI20150514BHJP
E04C 5/06 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
E01D19/12
E04B5/43 C
E04C5/18 105
E04C5/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-67036(P2012-67036)
(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公開番号】特開2013-199740(P2013-199740A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年10月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】313017001
【氏名又は名称】日本カイザー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 繁之
(72)【発明者】
【氏名】今野 久志
(72)【発明者】
【氏名】三田村 浩
(72)【発明者】
【氏名】飛嶋 康文
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−189123(JP,A)
【文献】
特開昭61−134465(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3024924(JP,U)
【文献】
特開2008−280808(JP,A)
【文献】
特開平10−001914(JP,A)
【文献】
実開昭60−090314(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E04B 5/43
E04C 5/06
E04C 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦・横に格子状にして配筋され平版の中で上位置に配設される上端筋と、縦・横に格子状にして配筋され平版の中で下位置に配設される下端筋とを型枠内に配設し、
前記上端筋に波形のせん断補強筋を一方向に上方向から載置して並設させて、
又は、上端筋に波形のせん断補強筋を互いに直交する方向に上方向から載置して並設させて、
少なくとも橋軸方向に波形のせん断補強筋を並設させて前記せん断補強筋を前記上端筋に固定手段で固定した後、型枠内にコンクリートを打設して形成した道路床板において、
前記橋軸方向の波形のせん断補強筋は、少なくとも自動車の走行タイヤの走行範囲をカバーする補強範囲に配設されること、
を特徴とする道路床版。
【請求項2】
縦・横に格子状にして配筋され平版の中で上位置に配設される上端筋と、縦・横に格子状にして配筋され平版の中で下位置に配設される下端筋とを型枠内に配設し、該型枠内にコンクリートを打設して形成されるコンクリート平版の形成方法において、
波形のピッチを前記上端筋のピッチに合わせるとともに前記波形の高さを前記ピッチの半分にして形成した波形のせん断補強筋を一方向に上方向から建設現場で前記上端筋に載置して並設させて、
又は、波形のピッチを前記上端筋のピッチに合わせるとともに前記波形の高さを前記ピッチの半分にして形成した波形のせん断補強筋を互いに直交する方向に上方向から建設現場で前記上端筋に載置して並設させて、
前記せん断補強筋を前記上端筋に固定手段で固定した後、前記型枠内にコンクリートを打設して形成すること、
を特徴とするコンクリート平版のせん断補強の形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載のコンクリート平版のせん断補強の形成方法によって、建設現場において少なくとも柱との接合部に、波形のピッチを上端筋のピッチに合わせるとともに前記波形の高さを前記ピッチの半分にして形成した波形のせん断補強筋を、一方向に上方向から前記上端筋に載置して並設させ、せん断補強を施したコンクリート平版を形成してなること、
を特徴とするフラットスラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート平版のせん断補強の形成方法と、その方法による道路床版若しくはフラットスラブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁等における床版(現場打ちのものとプレキャスト床版を含む)は、増大する移動荷重によりひび割れなどが進行してコンクリートが部分的に抜け落ちる場合があり、その補強対策として、主鉄筋や配力筋にラチストラス筋によるせん断補強筋を備えて鉄筋コンクリート版としているものが知られている(特許文献1参照)。また、柱と該柱の曲げやせん断力を梁を用いないで直接伝達させるフラットスラブ構造においては、前記柱とフラットスラブとの接合部に生じやすいパンチング破壊に対するせん断補強対策として、特許文献2に記載されているように、フラットスラブの上端筋と下端筋との間に、鉄筋とスパイラル筋とからなるせん断補強筋を略水平に配設して、スラブ厚を増やすことなくせん断耐力を向上させようとするものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−101044号公報
【特許文献2】特開2004−044222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の道路床版等のコンクリート版におけるせん断補強対策では、せん断補強筋の材料コスト、その施工に掛かる手間や工期の長期化が負担となる。本発明に係るコンクリート平版の形成方法と道路床版及びフラットスラブへの適用による形成方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る道路床版の要旨は、縦・横に格子状にして配筋され平版の中で上位置に配設される上端筋と、縦・横に格子状にして配筋され平版の中で下位置に配設される下端筋とを型枠内に配設し、前記上端筋に波形のせん断補強筋を一方向に上方向から載置して並設させて、又は、上端筋に波形のせん断補強筋を互いに直交する方向に上方向から載置して並設させて、
少なくとも橋軸方向に波形のせん断補強筋を並設させて前記せん断補強筋を前記上端筋に固定手段で固定した後、型枠内にコンクリートを打設して形成した道路床板において、前記橋軸方向の波形のせん断補強筋は、少なくとも自動車の走行タイヤの走行範囲をカバーする補強範囲に配設されることである。
【0006】
本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法の要旨は、縦・横に格子状にして配筋され平版の中で上位置に配設される上端筋と、縦・横に格子状にして配筋され平版の中で下位置に配設される下端筋とを型枠内に配設し、該型枠内にコンクリートを打設して形成されるコンクリート平版の形成方法において、
波形のピッチを前記上端筋のピッチに合わせるとともに前記波形の高さを前記ピッチの半分にして形成した波形のせん断補強筋を一方向に上方向から
建設現場で前記上端筋に載置して並設させて、又は、
波形のピッチを前記上端筋のピッチに合わせるとともに前記波形の高さを前記ピッチの半分にして形成した波形のせん断補強筋を互いに直交する方向に上方向から
建設現場で前記上端筋に載置して並設させて、前記せん断補強筋を前記上端筋に固定手段で固定した後、前記型枠内にコンクリートを打設して形成することである。
【0008】
本発明に係るフラットスラブの要旨は,上記コンクリート平版のせん断補強の形成方法によって、
建設現場において少なくとも柱との接合部(柱の水平断面辺長の2倍程度を柱の4辺に考える)に、波形のピッチを上端筋のピッチに合わせるとともに前記波形の高さを前記ピッチの半分にして形成した波形のせん断補強筋を、一方向に上方向から前記上端筋に載置して並設させ、せん断補強を施したコンクリート平版を形成してなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート平版のせん断補強の形成方法と、それによる道路床版及びフラットスラブによれば、上端筋と下端筋との間に、せん断力に対する抵抗筋となるせん断補強筋を追加して、道路床版を形成する場合に、若しくは、フラットスラブ等のコンクリート平版の柱との接続部を補強する場合に、直線状の鉄筋を波形に曲げて形成し、それを接続部とその周囲において前記上端筋に載置して位置固定させ、コンクリートを型枠に打設するだけで良いので、せん断補強筋の製作コストが低コストで済むとともに、型枠への配筋作業も簡単で手間が掛からず、配筋工期を短縮できて、効率的なせん断補強対策となる。
【0010】
前記せん断補強筋は、波形の谷部の位置が、下端筋の位置よりも上位置にあるので、配筋作業の際には、単に上端筋に繋着させ載置して、更に、番線などで位置固定するだけでよく、工期が飛躍的に短縮されコスト低減となる。そして、本発明の形成方法によって道路床版とすれば、移動荷重に対して優れたせん断補強対策となる。自動車の走行タイヤの範囲に本発明の形成方法を適用した床版として、せん断耐力を向上させるのでライフサイクルのコスト低減に繋がる。また、同様に、柱との接続部に前記コンクリート平版を有するフラットスラブとすれば、スラブ厚を増大させること無く、せん断力に対して強く抵抗して、パンチング破壊対策に適したフラットスラブとなる。但し、フラットスラブの場合は、波形鉄筋の波高は、高い方がより効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法の第1実施例を、平版の一部を透視して配筋状態を示す斜視図(A)と、せん断補強筋の側面図(B)とである。
【
図2】同本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法の第1実施例を示す一部の側面図(A)と、正面図(B)とである。
【
図3】本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法の第2実施例を示す斜視図(A)と、一部の側面図(B)と、正面図(C)とである。
【
図4】同本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法の第3実施例に係る斜視図である。
【
図5】同本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法の第3実施に係る側面図(A)と、一部の正面図(B)とである。
【
図6】同本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法の第4実施に係る斜視図(A)と、一部の側面図(B)と、正面図(C)とである。
【
図7】本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法によるコンクリート平版を接続部に有するフラットスラブ6の斜視図(A)と側断面図(B)とである。
【
図8】同本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法によるコンクリート平版を接続部に有するフラットスラブの平面図(A)と側断面図(B)とである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法は、
図1(A),(B)に示すように、コンクリート平版1を工場若しくはフラットスラブの建築現場で形成する際に、平版用型枠内の上位置に配筋された上端筋2にせん断補強筋3を載置して形成するものである。
【実施例1】
【0013】
本発明の第1実施例は、
図1(A),(B)乃至
図2(A),(B)に示すように、縦筋(例えば、主筋)2a,4a・横筋(例えば、配力筋)2b,4bを格子状にして配筋される平版の中で、上位置に配設される上端筋2と、下位置に配設される下端筋4とを型枠(図示せず)内に配設し、該型枠内にコンクリートを打設して形成されるコンクリート平版の形成方法において、前記上端筋2(縦筋2a,横筋2bのいずれか)に、波形に形成したせん断補強筋3を一方向に並設させて上方向から載置する。
【0014】
前記せん断補強筋3は、
図1(B)に示すように、ピッチPを上端筋2における縦筋2aのピッチに合わせて、上下方向において波形にする。また、その高さHは、前記ピッチPの半分とすることで、せん断補強筋3の角度θが約45度となる。これにより、せん断力が斜め45度に最大で作用するときに、前記せん断補強筋3がそのせん断方向に添って配筋されているので、効率的に抵抗する。このようなせん断補強筋3を予め工場などで形成して所要数用意しておく。
【0015】
そして、前記せん断補強筋3を前記上端筋(縦筋2a)に番線などの固定手段で固定し、動かないようにした後、型枠内にコンクリートを打設して形成する。このようにして形成したコンクリート平版1は、例えば、新設の道路床版あるいは既設の道路床版の打ち替え補修として、現場打ちで形成する場合でも、工場で予め形成するプレキャストコンクリート版としてでも適用できる。このせん断補強筋3を橋軸方向に適宜間隔で並設するものである。自動車等の移動荷重によってせん断力が作用し、斜め45度に最大応力が生じても、せん断補強筋3がそれに沿って効いてくるので、有効な補強となるものである。
【実施例2】
【0016】
本発明の第2実施例に係るコンクリートの平版1aは、
図3に示すように、前記せん断補強筋3の並設の数を増やして間隔のピッチを狭くしたものである。これにより、更に、補強が増すものである。
【実施例3】
【0017】
本発明の第3実施例に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法は、
図4乃至
図5に示すように、上端筋2(縦筋2a)に波形のせん断補強筋3を一方向に並設させて上方向から載置した後、更に、前記一方向に直交する他方向にも前記上端筋2(横筋2b)に波形のせん断補強筋3を並設させて上方向から載置して、該両方向のせん断補強筋3,3を前記上端筋2(縦筋2a,横筋2b)に固定手段で固定することである。
【0018】
このように、せん断補強筋3,3を配筋することで、コンクリート平版1bの長手方向と短手方向とにおいても、せん断力に抵抗するようになり、特に、フラットスラブの接続部に設けるコンクリート平版1bが、正方形かそれに近い形のときに効果を発揮するものである。
【実施例4】
【0019】
図6(A)〜(C)に示すように、本発明の第4実施例に係るコンクリート平版1cのせん断補強の形成方法は、前記せん断補強筋3,3のピッチを狭くして、補強鉄筋の量を増やしたものである。前記コンクリート平版1bと前記コンクリート平版1cとにおいて、前記せん断補強筋3のピッチの寸法や高さはそれぞれ設計事項である。また、せん断補強筋3の太さは適宜であり、その形状・材質などは、例えば丸棒、異形棒などの鋼材であるが特に限定するものではない。
【実施例5】
【0020】
前記各実施例におけるせん断補強筋3は、
図2(A)に示すように、実施状態において波形の谷部3aの位置が、下端筋4(横筋4b)の位置よりも上位置にある。よって、このせん断補強筋3は、平版用型枠において、格子状の上端筋2及び下端筋4を配筋した後に、それらの上方から上端筋2に置いて簡単に載置できるものである。よって、溶接作業が不要であって、仮置き用のスペーサなども不要であり、配筋作業が簡易で工期が短縮される。
【実施例6】
【0021】
本発明に係る道路床版は、前述したように、少なくとも橋梁における橋軸方向に波形のせん断補強筋を並設させて前記コンクリート平版を形成するものであるが、更に、前記橋軸方向の波形のせん断補強筋を、自動車の走行タイヤの走行範囲に対応させて少なくとも当該走行範囲をカバーする(若干広くして)補強範囲に配設することで、工期短縮となるとともに、使用鉄筋量も少なくなってコスト低減となる。
【実施例7】
【0022】
また、本発明に係るフラットスラブ6は、
図7乃至
図8に示すように、上記のコンクリート平版の形成方法によって形成されるコンクリート平版1b,1cを、フラットスラブ6として、柱5との接合部に適用し、型枠を組んでコンクリートを現場打ちして架設するものである。前記接合部の領域としては、柱の水平断面辺長の2倍程度を柱の4辺に考える。これにより、前記接合部におけるパンチング破壊に対して、せん断力に強いフラットスラブ6が手間をかけずに低コストで製作できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係るコンクリート平版のせん断補強の形成方法は、フラットスラブに適用するものとして説明したが、これに限らず、ハーフPC版などによる合成版にも応用できるものである。また、衝撃に強いコンクリート平版として床版,壁,基版などに適用できるプレキャストコンクリート版とすることもできる。
【符号の説明】
【0024】
1,1a,1b,1c コンクリート平版、
2 上端筋、 2a 縦筋(主筋)、
2b 横筋(配力筋)、
3 せん断補強筋、
4 下端筋、 4a 縦筋(主筋)、
4b 横筋(配力筋)、
5 柱、
6 フラットスラブ。