【実施例】
【0011】
鉛蓄電池の製造
JIS D 5301に準拠した55B24形の鉛蓄電池(公称電圧12V、5時間率定格容量は36Ah)を製造した。正極格子は0.07mass%のCaと1.5mass%のSnと不可避不純物とを含み残余がPbの合金で、負極格子は0.09mass%のCaと0.35mass%のSnと不可避不純物とを含み残余がPbの合金である。各格子はエキスパンド格子であるが、鋳造格子でも良く、サイズは共に高さが115mm、幅が100mm、厚さは正極格子が1.3mm、負極格子が1mmである。
【0012】
正極活物質ペーストは、ボールミル法で作製した鉛粉を100mass%として0.1mass%のアクリル繊維を加え、水13mass%と比重1.40(20℃)の希硫酸6mass%とを混合して得た。負極活物質ペーストは、ボールミル法で作製した鉛粉100mass%に対して、リグニン0.2mass%、カーボンブラック0.3mass%、硫酸バリウム0.6mass%、アクリル繊維0.1mass%を加え、水11mass%と比重1.40(20℃)の希硫酸7mass%とを混合して得た。なお鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良い。バインダはアクリル繊維に限らず任意であり、またバインダを添加しなくても良い。正極及び負極の活物質ペーストの組成は任意である。
【0013】
正極格子1枚当たり55g、負極格子1枚当たり52gの活物質ペーストを充填し、各々50℃相対湿度50%で48時間熟成し、次いで50℃の乾燥雰囲気で24時間乾燥させ、未化成の正負極板を得た。セパレータとして、微孔性のポリエチレンシートを2つ折りにして両側端をメカニカルシールして袋状にしたものを作製した。シートのベース厚さは0.20mmで、セパレータは実施例ではポリエチレンのシートを用いたがこれに限定されない。負極板を包装できれば材質は特に限定しない。
【0014】
実施例として未化成負極板をセパレータに収納したものを作製し、比較例として未化成正極板をセパレータに収納したものを作製した。例えばセパレータに収納した未化成負極板8枚と未化成正極板7枚とを交互に積層し、同極性の極板の耳を互いに溶接して極板群とした。ここでセパレータリブ高さを変化させることによって正極板と負極板の間隔(平均値)を、1mm,0.8mm,0.65mm,0.5mm,0.4mm等に変化させた。実施例では、極板群当たり、負極板が8枚、正極板が7枚であるが、極板間隔を縮めると、負極板を9枚、正極板を8枚、あるいは負極板、正極板共に8枚などにでき、また極板の枚数を例えば負極板が8枚、正極板が7枚にし、極板1枚当たりの活物質の量を増すなどのことができる。
【0015】
得られた極板群6個をポリプロピレン製の電槽に収納して直列に接続し、比重が20℃で1.230の希硫酸に所定量の硫酸Alと硫酸Liとを添加した電解液を注入し、25℃の水槽内で電槽化成を行って、55B24形の鉛蓄電池とした。Alイオン源とLiイオン源は任意で、例えば硫酸アルミニウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、アルミン酸リチウムAlLiO
2、水酸化アルミニウムと水酸化リチウム、などの形態で添加しても良い。極板間隔を縮め、活物質の量を増すと、活物質の量当たりの電解液の量が減少するので、電解液の製造に用いる希硫酸の濃度を増し、活物質の重量と硫酸イオンの量との比をほぼ一定に保つことが好ましい。さらにAlイオンの濃度とLiイオンの濃度の好適範囲は、電解液中の硫酸濃度には依存しない。
【0016】
図1に、実施例の鉛蓄電池での極板群2を示し、4は正極板、6は負極板でセパレータ8の袋内に収容され、10は正極格子、12は負極格子で、格子10,12の孔に正極活物質14と負極活物質16とが充填されている。極板間隔g、極板の厚さTを
図1のように定め、極板間隔gはセパレータ8の厚さを含み、活物質が格子の表面から外側へはみ出している場合には、はみ出した活物質の厚さを極板の厚さTに含めるものとする。
【0017】
試験法と結果
各鉛蓄電池(試料数各3ヶ)に対し、
1) 重負荷寿命試験後(JIS D 5301:2006の9.5.5b))の短絡の有無;
2) 過放電放置後に充電した際の短絡の有無;
3) 低温HR放電性能(JIS D 5301:2006の9.5.3b));
4) SBA-IS試験(電池工業会規格SBA S 0101:2006の9.4.5)18,000サイクル後の負極活物質への硫酸鉛の蓄積量;を調べた。
重負荷寿命試験の規格では、所定のパターンで充放電を繰り返し、容量が5時間率容量の50%まで低下するまでのサイクル数を求める。実施例では、サイクル数ではなく、試験後(寿命が到来)に短絡が生じた電池の数を評価した。短絡した電池の個数を調べたのは、極板間隔を縮めることによって短絡が生じ易くなり、寿命が短縮されるかどうかを評価するためである。なお、AlイオンとLiイオンとを共に0.02〜0.2mol/L含有する場合、極板間隔を縮めても、短絡は生じやすくならなかったので、寿命が短縮されることはなかった。
【0018】
過放電放置試験では、満充電状態から5時間率電流で2.5時間放電し、SOC(充電状態)を50%にする。40℃で12V-10Wのランプを負荷として接続し、30日間放置する。次いで25℃で10時間率電流により20時間充電した後、電池を解体し、短絡の有無等を検査する。
低温HR放電試験では、-15℃で所定の電流値で放電し、端子電圧が6Vまで低下するまでの時間を測定する。
SBA-IS試験では、
・ 45Aで59秒の放電と,300Aで1秒の放電と、14Vで60秒の充電とから成るサイクルを繰り返し、
・ 途中3600サイクル毎に48時間放置し、
・ 放電終了時の電圧が7.2V未満に低下するまでのサイクル数を測定する。実施例では、18,000サイクル時に電池を解体し、負極活物質への硫酸鉛の蓄積量を測定した。なお一般に硫酸鉛の蓄積量が少ない程、SBA-IS試験で寿命に至るまでのサイクル数が多くなる。
【0019】
セパレータ内に正極板を収納した際の結果を表1に示す。Alイオン濃度及びLiイオン濃度によらず、セパレータに正極板を収納すると、重負荷寿命試験での短絡を防止できなかった。しかしAlイオンを添加すると、過放電放置後の充電に伴う短絡は防止できた。セパレータ内に負極板を収納した際の結果を表2及び
図2に示す。表1,2において、低温HR性能は、比較例A1(表1の場合),A7(表2の場合)との相対値で示す。また実用的見地からは、低温HR性能は100以上が好ましく、SBA-IS試験での硫酸鉛の蓄積量は80以下が必要である。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
負極板をセパレータ内に収納すると、重負荷寿命試験での短絡は発生しなかった。これは、重負荷寿命試験で正極板から脱落した活物質が電槽の底に溜まり、短絡の原因とならなかったためと考えられる。過放電放置後の充電に伴う短絡は、0.02mol/L以上の濃度のAlイオンが存在すると発生せず、SBA-IS試験での硫酸鉛の蓄積は、Alイオンの添加によって抑制できた。Alイオンを添加すると低温HR性能が低下するが、Liイオンと併用すると、低温HR性能がALイオンもLiイオンも無添加の場合より向上する領域が有る。Alイオンが0.02〜0.2mol/L、Liイオンも0.02〜0.2mol/Lがこの領域である。またAlイオン濃度を0.3mol/L(試料A16)、あるいはLiイオン濃度を0.3mol/L(試料A15)としても、それ以上の性能向上が得られなかったので、濃度の上限を共に0.2mol/Lとした。
【0023】
図2は、AlイオンとLiイオンの濃度を共に0.02mol/L、0.1mol/L、0.2mol/Lに変化させた際の低温HR性能を示す。低温HR性能は極板間隔を1mmから0.8〜0.5mmへ縮めるだけで増加するが、AlイオンとLiイオンの濃度が共に0.02〜0.2mol/Lの範囲で、さらに低温HR性能が向上する。加えて、極板間隔が1mmよりも0.8〜0.5mmの場合はその効果が顕著である。従って、極板間隔を減らして活物質量を増す以外の、予想外の効果が得られる。なお発明者は極板間隔を0.4mmとした電池を作製したが、Alイオンを0.2mol/Lとしても、過放電放置後の充電に伴う短絡が高い頻度で生じた。
【0024】
電解液は硫酸イオンと、Alイオンの他に、Kイオンを0.01mol/L以下、リグニンに由来するNaイオンを0.015mol/L以下含んでいても良く、これ以外の不純物を含んでいても良い。またLiイオンの有無は任意である。