(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図1は、回転機械の構成例であり、この例において、回転機械は過給機である。
この図において、回転体41は、コンプレッサ翼43、タービン翼45、および、両者を結合する回転軸47を有する。また、
図1において、ナット49が、回転体41の軸方向端部に螺合しており、ナット49を締めつけることで、コンプレッサ翼43を回転軸47に締結している。
【0003】
従来のアンバランス修正では、回転体41のアンバランスを計測し、アンバランスが存在する周方向位置(回転体の中心軸周りの方向に関する位置)において、アンバランスの大きさに相当する量だけ、回転体41における除去対象部(例えばナット49)を部分的に切削していた。
【0004】
なお、本願の先行技術文献として、下記の特許文献1、2がある。
特許文献1においては、回転軸の他端に、ロータディスクを固定し、このロータディスクを削ることで、回転体のアンバランスを修正している。
特許文献2には、アンバランスの計測方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1において、コンプレッサ翼43は、複数の翼部43aとこれを周方向に結合する翼結合部43bとからなる。翼結合部43bのうち、軸方向から見て翼部43aと重ならない領域を「水かき部」と呼ぶ。
【0007】
コンプレッサ翼43を部分的に切削除去してアンバランス量を修正する場合、コンプレッサ翼43の「水かき部」を除去対象部とすることができる。
しかし、水かき部は、翼部43aの間に位置するため、切削除去できる位置が限定される。また、水かき部の肉厚(軸方向の厚さ)は薄いため、1箇所について切削できる最大量(質量)が制限される。
【0008】
そのため、回転体のアンバランス計測の結果、修正すべきアンバランス量が、1箇所について切削できる最大量を超える場合に、アンバランス量の修正ができない問題点があった。
【0009】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、アンバランス量が1箇所について切削できる最大量を超えた場合であっても、アンバランス量の修正ができる回転体のアンバランス修正加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、回転体の除去対象部を部分的に切削除去してアンバランス量を低減する回転体のアンバランス修正加工方法であって、
(A)前記回転体の除去対象部に、周方向に一定の角度を隔てた複数の切削除去部を設定し、
(B)前記回転体のアンバランスの量と方位を示すアンバランスベクトルを計測し、
(C)前記アンバランスベクトルをその方位の両側に位置する1対の切削除去部における分割ベクトルに分割し、
(D)前記各分割ベクトルに相当するアンバランス量が対応する切削除去部について切削除去できる最大量を超える場合に、前記分割ベクトル
の全体をその方位の両側に位置する1対の切削除去部における分割ベクトルに再分割し、
(E)前記再分割を、各分割ベクトルに相当するアンバランス量
の全てが対応する切削除去部について切削除去できる最大量以下になるまで繰り返し、
(F)前記各分割ベクトルに相当する複数の切削除去部をそれぞれのアンバランス量で切削除去する、ことを特徴とする回転体
のアンバランス修正加工方法が提供される。
【0011】
本発明の実施形態によれば、前記再分割において、
前記各分割ベクトルの総和が
前記回転体の前記アンバランスベクトルと一致し、
前記各切削除去部における切削除去量の累積が1箇所について切削除去できる最大量以下であることを条件として、
前記各分割ベクトルに相当するアンバランス量の総和を最小にする最小化問題を、逐次2次計画法で解く。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明の方法によれば、回転体のアンバランスの量と方位を示すアンバランスベクトルをその方位の両側に位置する1対の切削除去部における分割ベクトルに分割するので、回転体のアンバランス量が1箇所について切削できる最大量を超えた場合であっても、その方位の両側に位置する1対の切削除去部をそれぞれのアンバランス量で切削除去することにより、回転体のアンバランス量の修正ができる。
【0013】
また、前記1対の分割ベクトルに相当するアンバランス量が対応する切削除去部について切削除去できる最大量を超える場合でも、その分割ベクトルをその方位の両側に位置する1対の切削除去部における分割ベクトルに再分割し、各分割ベクトルに相当するアンバランス量が対応する切削除去部について切削除去できる最大量以下になるまで再分割を繰り返すので、3箇所以上の切削除去部をそれぞれのアンバランス量で切削除去することにより、より大きなアンバランス量の修正が可能となる。
【0014】
また、各分割ベクトルに相当するアンバランス量は、対応する切削除去部について切削除去できる最大量以下になるように設定するので、アンバランス計測と切削除去を繰り返す場合でも、同一の切削除去部における切削量を前回の切削量を含めて演算するため、複数回の切削が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図2は、本発明の方法を適用するバランス修正装置の構成図である。
このバランス修正装置10は、回転機械3に設けられた回転体5の回転翼5aを部分的に除去(この例では切削)することで、回転体5に存在するアンバランスを修正する装置である。
【0018】
なお、以下において、回転体5の中心軸C周りの方向を単に周方向といい、当該中心軸Cに対する半径方向を単に半径方向といい、当該中心軸Cと平行な方向を単に軸方向という。
【0019】
回転翼5aは、周方向に間隔を置いて配置された複数の翼部7と、複数の翼部7を周方向に結合するように周方向に延びている翼結合部9とを有する。
回転翼5aは、軸方向に厚みを有する板形状を有し、軸方向から見た場合に円形である。また、回転翼5aを収容するハウジング(この例でコンプレッサハウジング)は取り外されている。
図1では、回転機械3は、過給機であり、回転翼5aは、コンプレッサ羽根車であり、翼部7は、コンプレッサ翼である。
【0020】
[過給機に関する構成]
過給機3の回転体5は、エンジンの排ガスにより回転駆動されるタービン翼13と、タービン翼13と一体的に回転することで圧縮空気をエンジンに供給するコンプレッサ翼(回転翼5a)と、一端部にタービン翼13が結合され他端部にコンプレッサ翼が結合される回転軸15とを有する。
【0021】
過給機3は、上述のコンプレッサハウジング(図示せず)、タービンハウジング14、および軸受ハウジング19を備える。
【0022】
タービンハウジング14は、タービン翼13を内部に収容する。タービンハウジング14には、タービン翼13を回転駆動する流体を流す流路(スクロール)が形成されている。タービンハウジング14は、この例では、支持体21の内部に取り付けられている。
【0023】
軸受ハウジング19の内部には、回転体5を回転可能に支持する軸受17が内部に組み込まれている。この例において、軸受ハウジング19は、支持体21に取り付けられている。これにより、支持体21は、軸受ハウジング19を介して回転体5を回転可能に支持する。
【0024】
[バランス修正装置の構成]
バランス修正装置10は、演算部23および加工装置25を備える。
【0025】
演算部23は、回転翼5aの翼結合部9を部分的に切削除去してバランスを修正するときに、回転翼5aの外周部において、回転体5に存在するアンバランスの周方向位置に翼部7が位置している場合には、そのアンバランスを、翼部7が位置していない複数の周方向位置におけるアンバランス成分に分解する。
【0026】
加工装置25は、複数の周方向位置の各々において、対応するアンバランス成分に相当する量だけ翼結合部9を部分的に切削除去する。
【0027】
加工装置25は、回転翼5aの翼結合部9を切削する加工具25a(例えば、エンドミル)と、加工具25aが取り付けられる可動部25bと、可動部25bを移動させる切削制御部25cとを有する。
【0028】
また、加工装置25は、位置決め装置25dを備える。位置決め装置25dは、回転体5の端部を把持し、この状態で、回転体5を回転させ、回転角センサ29による検出回転角が設定値(例えばゼロ度)になるように回転体5を位置決めする。図の例では、位置決め装置25dは、回転翼5aと反対側の端部を、支持体21に形成された排気穴21aを通して把持する。
【0029】
バランス修正装置10は、回転体5において翼部7が存在する周方向位置の範囲を求めるために、回転角センサ29およびデータ処理部32を有する。
【0030】
回転角センサ29は、初期状態から回転体5が回転した量を示す回転角(0度〜360度の回転角)を検出する。回転角センサ29は、例えば、着磁されたコンプレッサ翼7側の軸方向端部による磁場を検出する磁気センサであってよい。この場合、当該磁場は、回転体5の回転に応じて変化するので、磁気センサ29は、この変化に基づいて回転体5の回転角を検出できる。
【0031】
データ処理部32は、回転角センサ29による検出データに基づいて、後述のステップS1のように、回転体5において翼部7が存在する周方向位置の範囲を求める。
【0032】
図3は、本発明によるアンバランス修正加工方法の全体フロー図であり、
図4は、本発明によるアンバランス修正加工方法の模式図である。
【0033】
図3に示すように本発明の方法は、S1〜S8の各行程(ステップ)からなる。
【0034】
本発明の方法では、初めに、回転体5の除去対象部(翼結合部9)に、
図4(A)に示すように、周方向に一定の角度を隔てた複数(この例では12箇所)の切削除去部1を設定する(S1)。
回転体5の周方向基準位置(図示せず)からの各切削除去部1の周方向角度を、θ1〜θn(nは整数、この例では12)とする。
【0035】
次に、S2において、回転体5のアンバランスの量Mと方位θを示すアンバランスベクトルU(
図4(B)参照)を計測する。この場合、アンバランスベクトルUは以下の式(1)で表すことができる。
U=Me
iθ・・・(1)
【0036】
次いで、S3において、計測されたアンバランスベクトルUをその方位θの両側に位置する1対の切削除去部1における分割ベクトルu
k、u
k+1に分割する。
この場合、アンバランスベクトルUは以下の式(2)で表すことができる。ここで、θ
k、θ
k+1は、方位θの両側に位置する切削除去部1の角度、m
K、m
K+1は、方位θ
k、θ
k+1に位置する切削除去部1のアンバランス量である。
U=u
K+u
K+1=m
Ke
iθK+m
K+1e
iθK+1・・・(2)
【0037】
上記(1)(2)から、方位θ
k、θ
k+1のアンバランス量m
K、m
K+1を求めることができる。
【0038】
次いで、求めたアンバランス量m
K、m
K+1が対応する切削除去部1について切削除去できる最大量M
max以下である場合(S4でYES)、S6において、各分割ベクトルu
k、u
k+1に相当する複数の切削除去部1をそれぞれのアンバランス量m
K、m
K+1で切削除去する。
ここで、対応する切削除去部1について切削除去できる最大量M
maxは、既に同一の切削除去部1について切削除去が1回以上実施されている場合には、各切削除去部1における切削除去量の累積が1箇所について切削除去できる最大量以下であるように設定する。
【0039】
S4において、求めたアンバランス量m
K、m
K+1が対応する切削除去部1について切削除去できる最大量M
maxを超える場合(S4でNO)、S5において、分割ベクトルu
k、u
k+1をその方位の両側に位置する1対の切削除去部1における分割ベクトルに再分割する(
図4(C)参照)。
すなわち、アンバランス量m
Kが最大量M
maxを超える場合、分割ベクトルu
kをその方位の両側に位置する1対の切削除去部1における分割ベクトルu
k−1、u
k+1に再分割し、方位θ
k−1、θ
k、θ
k+1のアンバランス量m
K−1、m
K、m
K+1を求める。
同様に、アンバランス量m
K+1が最大量M
maxを超える場合、分割ベクトルu
k+1をその方位の両側に位置する1対の切削除去部1における分割ベクトルu
k、u
k+2に再分割し、方位θ
k、θ
k+1、θ
k+2のアンバランス量m
K、m
K+1、m
K+2を求める。
なお、アンバランス量m
K、m
K+1の両方が超える場合も同様である。また、再分割によるアンバランス量は、対応する方位のアンバランス量に加算する。
【0040】
次いで、S4に戻り、求めたアンバランス量m
K−1、m
K、m
K+1、m
K+2と、それぞれが対応する切削除去部1について切削除去できる最大量M
maxとを比較する。
すべてのアンバランス量m
K−1、m
K、m
K+1、m
K+2が最大量M
max以下である場合(S4でYES)、上述したS6を実施する。
【0041】
また、いずれかのアンバランス量m
K−1、m
K、m
K+1、m
K+2が最大量M
maxを超える場合(S4でNO)、上述したS5の再分割を、各分割ベクトルに相当するアンバランス量が対応する切削除去部について切削除去できる最大量以下になるまで繰り返す。
【0042】
S5における再分割は、計測されたアンバランスベクトルUの方位θに対して、分割ベクトルの方位θ
lが、θ+90°<θl<θ−90°の範囲で実施する。この範囲を超えると、アンバランス修正ができないからである。
【0043】
また、再分割(S5)を繰り返すと、複数のアンバランス量m
i(i=1,2,…)の計算が困難になる。その場合には、以下の(1)(2)を条件として、各分割ベクトルu
i(i=1,2,…)に相当するアンバランス量m
i(i=1,2,…)の総和Σmiを最小にする最小化問題を、逐次2次計画法で解くことができる。
(1)各分割ベクトルu
i(i=1,2,…)の総和Σu
iが回転体5のアンバランスベクトルUと一致する。
(2)各切削除去部1における切削除去量の累積が1箇所について切削除去できる最大量M
max以下である。
【0044】
S6において、各分割ベクトルu
i(i=1,2,…)に相当する複数の切削除去部1をそれぞれのアンバランス量m
i(i=1,2,…)で切削除去する。この切削除去により、回転体5のアンバランスは修正された状態となる。
【0045】
次いで、この例では、修正結果を確認するため、アンバランスベクトルUを再計測し(S7)、アンバランスMが所定の許容値α以上の場合の場合(S12でNO)、上述したS3〜S6を再実施し、アンバランスMが所定の許容値α未満の場合(S12でYES)、修正を終了する。
【0046】
上述した本発明の方法によれば、回転体5のアンバランスの量と方位を示すアンバランスベクトルUをその方位の両側に位置する1対の切削除去部1における分割ベクトルu
k、u
k+1に分割するので、回転体5のアンバランス量が1箇所について切削できる最大量M
maxを超えた場合であっても、その方位の両側に位置する1対の切削除去部1をそれぞれのアンバランス量m
K、m
K+1で切削除去することにより、回転体5のアンバランス量の修正ができる。
【0047】
また、前記1対の分割ベクトルu
k、u
k+1に相当するアンバランス量m
K、m
K+1が対応する切削除去部1について切削除去できる最大量M
maxを超える場合でも、その分割ベクトルu
k、u
k+1をその方位の両側に位置する1対の切削除去部1における分割ベクトルu
k−1〜u
k+2に再分割し、各分割ベクトルに相当するアンバランス量m
K−1〜m
K+2が対応する切削除去部1について切削除去できる最大量M
max以下になるまで再分割を繰り返すので、3箇所以上の切削除去部1をそれぞれのアンバランス量で切削除去することにより、より大きなアンバランス量の修正が可能となる。
【0048】
また、各分割ベクトルに相当するアンバランス量は、対応する切削除去部について切削除去できる最大量M
max以下になるように設定するので、アンバランス計測と切削除去を繰り返す場合でも、同一の切削除去部1における切削量を前回の切削量を含めて演算するため、複数回の切削が可能である。
【0049】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。