(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5729710
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】びわ種甘露煮の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 1/212 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
A23L1/212 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-171454(P2014-171454)
(22)【出願日】2014年8月26日
【審査請求日】2014年9月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名 「日刊人吉新聞」(2014年7月2日付)第7ページに発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598094713
【氏名又は名称】株式会社王樹製薬
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中竹 隆博
(72)【発明者】
【氏名】島田 修
【審査官】
濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−103642(JP,A)
【文献】
枇杷の種の甘露煮 ,YAHOO!ブログ,2009年 6月18日,[on line] 2014/11/19検索,URL,http://blogs.yahoo.co.jp/sen1000ta/27773998.html
【文献】
ビワの種の甘露煮!,Amebaブログ,2012年 7月 5日,[on line] 2014/11/19検索,URL,http://ameblo.jp/ke-pan/entry-11295058119.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/212
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮付きびわ種を冷凍し、冷凍された前記びわ種を熱湯中に投入して沸騰するまで加熱して解凍した後に、この解凍されたびわ種を、熱湯とともに圧力釜に投入して高圧下で100℃以上に加熱することにより、指でつぶれる程度まで柔らかくする工程と、
柔らかくした前記びわ種を水洗する工程と、
前記びわ種を別の鍋に移し換え、糖液中に浸漬して加熱するとともに、糖分の量を前記糖液が所定の糖度になるように調整する工程とを、前記の順に含むことを特徴とするびわ種甘露煮の製造方法。
【請求項2】
前記糖液の糖度が45〜50度である請求項1記載のびわ種甘露煮の製造方法。
【請求項3】
前記糖液が加工黒糖および甜菜糖の水溶液である請求項1記載のびわ種甘露煮の製造方法。
【請求項4】
前記びわ種を別の鍋に移し換え、糖液中に浸漬して加熱するとともに、糖分の量を前記糖液が所定の糖度になるように調整する工程は、
前記びわ種を別の鍋に移し換えた後、前記びわ種を糖液中に浸漬して加熱して糖液中に浸漬した状態で一晩おく作業を複数回繰り返すものである請求項1記載のびわ種甘露煮の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔らかくて糖液が十分に浸み込み、常温で長期間保存可能なびわ種甘露煮の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビワの種は栄養があり、特に種および種の皮にはポリフェノールが果実より多く含まれている。ポリフェノールは炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなどに続く栄養素として注目されており、主な作用は抗酸化作用である。体が酸化して生活習慣病になったり老化したりするのを防ぐ。
【0003】
しかし、びわ種は硬くてそのままで食することができない。したがって、例えば特許文献1には、表皮を取り除いたびわの種と梅干しとを所定期間一緒に漬けて、梅干しの成分をびわの種に浸透させるとともに、浸透した梅干しの成分によってびわの種に含まれるアミグダリンの分解を促進し、この漬けた後のびわの種を粉砕および乾燥して粉末状にした健康食品の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、パパイヤの果肉を乾燥したのち、粉砕して得られた粉末と、びわ種を乾燥したのち、粉砕して得られた粉末とを混合した健康食品が開示されている。
【0005】
上記した従来技術の他、びわ種をびわの葉とともに粉末にし、煎じてびわ葉・種茶として飲用にしたり、あるいは果実酒と同じようにホワイトリカーに漬け込んでビワ種酒にして飲用したりすることが一般に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−109881号公報
【特許文献2】特開2000−83619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、硬いびわ種を柔らかく煮込んで黒豆や栗の甘露煮のような感覚で食することができ、日常的に食べやすく加工して一般に広く普及できるびわ種甘露煮の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明に係るびわ種甘露煮の製造方法は、表皮付きびわ種を冷凍
し、冷凍された前記びわ種
を熱湯中に投入して沸騰するまで加熱して解凍した
後に、この解凍されたびわ種を、熱湯とともに圧力釜に投入して高圧下で100℃以上に加熱
することにより、指でつぶれる程度まで柔らかくする工程と、柔らかくした前記びわ種を水洗する工程と、前記びわ種を別の鍋に移し換え、糖液中に浸漬して加熱するとともに、糖分の量を前記糖液が所定の糖度になるように調整する工程とを、前記の順に含むことを特徴としている。
【0009】
このようにすれば、硬いびわ種を用いて、柔らかくてえぐみや苦みがなく日常的に食べやすい味や食感を持つ甘露煮を得ることができる。具体的には、表皮付きびわ種を一旦冷凍した後に沸騰する熱湯中で加熱することにより、硬いびわ種の芯内部に含まれている水分が凍結して膨張するとともに固形化したのち
、熱湯中で解凍された前記水分が一旦収縮し加熱されて再び膨張することにより芯表面から熱湯中に水分の一部が噴出する。これにより、びわ種の芯の組織が緩むとともに、びわ種の表面(表皮を含む)に亀裂孔や微細孔など芯内部との連通路が無数に形成される。
【0010】
続いて、びわ種は高圧(例えば2気圧)下で100℃以上の高温(例えば120℃)の熱湯中において加熱されることにより、高圧下の熱湯が亀裂孔や微細孔などの無数の連通路からびわ種の芯内部に浸透し、びわ種の芯内部が加熱されて組織(細胞壁)が壊れるから、硬いびわ種は柔らかくなる。柔らかくする度合いは、指でつまんだ際につぶれる程度にするのが好ましい。なお、柔らかさの度合いは好みによって違うことがあるので、加熱釜での加熱時間により調整する。そして、圧力釜による加熱を終了したら、脱圧して常圧に戻す。
【0011】
柔らかくした前記びわ種を水を複数回換えながら水洗して表皮表面の汚れやぬめりを取る。割れたり、つぶれたり、変色したりしたびわ種の不良品を取り除く。なお、表皮の一部が剥がれて芯の一部がむき出しになったびわ種は不良品として取り扱わない。そして、水中にびわ種を一晩放置した後、びわ種の水気を切る。
【0012】
びわ種を煮炊き用の鍋に移し換え、糖液中に浸漬して加熱する。水に糖を加えた水溶液を糖液とするとともに、糖の量を前記糖液の最終の糖度が所定の糖度になるように段階的に上げて調整する。つまり、最初はびわ種を糖度の低い糖液に入れて加熱し、一晩放置する。
【0013】
続いて、びわ種を漬け込んだ糖液にさらに糖を加えて糖液の糖度を上げながら加熱し、一晩放置する。これらを複数回繰り返し、びわ種を漬け込んで煮込んで仕上げる糖液の糖度を最終的に所定の糖度にする。
【0014】
以上のようにして、柔らかくしたびわ種に糖液を十分に浸透させることによりびわ種の甘露煮を完成する。さらに、甘露煮したびわ種(例えば100gずつ)を所定の糖度に調整した糖液とともに瓶詰し、瓶全体を加熱殺菌してびわ種の甘露煮瓶詰を商品化することができる。
【0015】
ところで、本発明に係るびわ種甘露煮の製造方法では、前記湯がく工程
を冷凍したびわ種を沸騰させた熱湯中に投入して加熱する
ようにしたから、冷凍されて芯の内部の水分が膨張・固形化して芯内部の組織を緩めた後、冷凍されて膨張した芯内部の水分(氷結部)が沸騰した熱湯中で急激に加熱され、収縮した後に沸騰水となって膨張し、再び芯内部の組織を緩めると同時に沸騰水の一部が熱湯中に噴出するから、冷凍したびわ種を水に投入してその水を加熱して沸騰させるのに比べて、びわ種の芯内部の組織が効率的に緩みかつ加熱され同時間が大幅に短縮される。
【0016】
好ましくは、このびわ種甘露煮の製造方法では、前記糖液の糖度が45〜50度である。
【0017】
好ましくは、このびわ種甘露煮の製造方法では、前記糖液が加工黒糖および甜菜糖からなる自然の甘味を用いた水溶液である。
【0018】
好ましくは、このびわ種甘露煮の製造方法は、前記びわ種を別の鍋に移し換え、糖液中に浸漬して加熱するとともに、糖分の量を前記糖液が所定の糖度になるように段階的に増やして調整する工程が、前記びわ種を別の鍋に移し換えた後、前記びわ種を糖液中に浸して加熱し糖液中に浸漬した状態で一晩おく作業を複数回繰り返す
ものである。これにより、びわ種の内部に糖液が無数の連通路から浸透して、びわ種の苦味やえぐみを取り除くことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るびわ種甘露煮の製造方法によれば、表皮付きびわ種を冷凍
し、冷凍された前記びわ種
を熱湯中に投入して沸騰するまで加熱して解凍したすることによって
後に、この解凍されたびわ種を、熱湯とともに圧力釜に投入して高圧下で100℃以上に加熱
することにより、指でつぶれる程度まで柔らかくする工
程を含んでいるので、硬いびわ種の芯内部に含まれる水分が凍結して膨張し固形化したのち、沸騰する熱湯中で解凍された前記水分が縮小し加熱されることで再び膨張して芯表面から熱湯中に水分(加熱水)の一部が噴出することにより、びわ種の芯の組織が緩むとともに、びわ種の表面(表皮を含む)に無数の内部連通路が形成される。この状態で、びわ種は100℃以上の熱湯によって高圧下で加熱されることにより、熱湯の一部がびわ種表面の無数の内部連通路から芯内部に浸透し、びわ種の組織(細胞壁)が壊れるから、硬いびわ種は柔らかくなる。また、この柔らかさの程度は加熱釜による加熱時間を変更することによって調整できる。
【0020】
さらに、柔らかくしたびわ種を水洗して表面の汚れやぬめりを取り、この段階で割れたり変色したりした、いわゆる不良品を除去し、残った良好なびわ種の水気を切ってから、びわ種を煮炊き用の鍋に移し換え、糖液中に浸漬して加熱するので、作業に無駄がなく、効率よくびわ種の甘露煮を製造できる。また、びわ種を浸漬する糖液の糖度を最終的に45〜50度にし、糖液に漬け込んで保存するので、保存料を使用せずに常温で長期間保存可能である。さらに、びわ種の芯よりも栄養素が多く含まれる表皮を付けたままにしたので、健康増進に優れ、外観や食感が黒豆に似て食べやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】びわ種甘露煮の製造工程を示すフローチャートである。
【
図2】
図2(a)は果肉や皮が除去され、冷蔵された多数の生のびわ種を示す斜視図、
図2(b)は一個のびわ種を拡大して示す中央部の断面図である。
【
図3】甘露煮した複数個のびわ種を皿に入れた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.びわ種の製造工程
以下、本発明のびわ種甘露煮の製造方法について実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、びわ種の甘露煮の製造工程を示すフローチャートである。
1)
図2(a)に示す冷蔵で搬送されてきた生の表皮2a付きびわ種1を冷凍庫内に搬入し、−20℃以下に冷凍する(工程A)。
2)冷凍されたびわ種を沸騰させた熱湯中に投入し、さらに加熱することにより、びわ種を湯がくとともに殺菌する(工程B)。
3)湯がいたびわ種を、熱湯とともに圧力釜に投入して高圧(例えば2気圧)下で100℃以上に加熱し、指でつぶれる程度まで柔らかくする(工程C)。圧力釜では通常、1時間40分程度加熱するが、指でつぶれる程度に柔らかくなっていない時には、さらに30分程度加熱時間を延長する(工程D)。
4)圧力釜による加熱を中止し、20分間放置し、圧力釜を開放して脱圧する(工程E)。
5)柔らかくしたびわ種を水洗する。水を4〜5回換えながら、表皮2a表面の汚れやぬめりを洗い流す(工程F)。
6)びわ種を水中に浸漬した状態で、一晩放置する(工程G)。
7)割れたり、つぶれたり、変色したり、腐敗したりしたびわ種の不良品を取り除く(工程H)。
8)びわ種を水切りをした後、甘露煮用鍋の糖液中に投入する(工程I)。加工黒糖および甜菜糖を水に溶かして加熱し、糖液とする。加工黒糖および甜菜糖の量は最初は少なくして焦げ付かないように加熱する。そして、びわ種を甘露煮用鍋の糖液中に浸漬した状態で一晩おく(工程J)。
9)加工黒糖および甜菜糖の量を増やしてびわ種を焦げ付かないように加熱し、びわ種を糖液中に浸漬した状態で一晩おくという作業(工程I・工程J)を複数回(例えば3〜5回)繰り返し、段階的に糖の量を増やしながら最終的に糖液の糖度が45〜50度になるように調整する(工程K)。
10)煮沸殺菌した瓶に、
図3に示す甘露煮したびわ種1(例えば100gずつ)を糖度45〜50度に調整した糖液とともに詰め込む(工程L)。
11)煮沸殺菌した瓶に蓋を載せた後、瓶全体をスチーマーで煮沸殺菌する(工程M)。
12)蓋をしっかりと閉め、瓶を上下反転させて放置する(工程N)。
13)瓶の荒熱が取れたら、瓶の洗浄、吹き上げ、乾燥を経て、キャップシールをすれば、びわ種甘露煮の瓶詰の商品化が完成する(工程O)。
【0023】
なお、糖液を構成する糖は加工黒糖および甜菜糖に限定するものではなく、例えば砂糖や蜂蜜などを加えても良い。糖液の糖度も45〜50度に限定するものでなく、好みや用途などに応じて適宜変更できる。
2.本実施形態の効果
本実施形態のびわ種甘露煮の製造方法によれば、表皮付きびわ種を−20℃以下で一旦冷凍した後に、沸騰させた熱湯中に投入してさらに加熱することにより、硬いびわ種の芯2b内部に含まれている水分が凍結して膨張するとともに固形化し、沸騰する熱湯中で解凍された前記水分が一旦収縮したのち加熱されて再び膨張し、この水分(熱湯)が芯2b内部を加熱すると同時に芯2b表面から熱湯中に一部が噴出する。これにより、びわ種1の芯2bの細胞組織が壊れるとともに、びわ種の表面に亀裂孔や微細孔などの内部連通路が無数に形成される。
【0024】
びわ種の表面に無数の亀裂孔もしくは微細孔が形成されることで、びわ種を高圧下で100℃以上の高温の熱湯により加熱する次の工程において、熱湯が無数の内部連通路からびわ種の芯2b内部(空洞部)に浸透し、びわ種の芯2bの細胞壁(組織)が壊れるから、硬いびわ種を柔らかくすることができる。
【0025】
また、びわ種を、糖液中に浸漬して加熱し、糖液中に浸漬した状態で一晩おくという作業を糖液の糖度を段階的に上げながら複数回繰り返すことで、無数の連通路を通って糖液がびわ種の内部に十分に浸透するから、びわ種の苦味やえぐみを取り除くことができる。
【0026】
また、糖液に加工黒糖および甜菜糖を用いることで、
図2に示すようにびわ種の甘露煮が黒豆の甘露煮のような外観で、自然の甘味を呈する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
硬いために乾燥して粉末化し飲用に供する程度で余り普及されていなかったが、栄養価が高く健康に良好なびわ種を、柔らかく、まろやかな味の食べやすい甘露煮に加工することによって一般に広く普及させて、産業上の利用を図るものである。
【要約】
【課題】 硬いびわ種を柔らかく煮込んで栗の甘露煮のような感覚で食することができ、食べやすく加工して広く普及できるびわ種甘露煮の製造方法を提供する。
【解決手段】 表皮付きびわ種を冷凍する工程Aと、前記びわ種を水または熱湯中に投入して沸騰するまで加熱して湯がく工程Bと、湯がいた前記びわ種を、熱湯とともに圧力釜に投入して高圧下で100℃以上に加熱し、指でつぶれる程度まで柔らかくする工程Cと、柔らかくした前記びわ種を水洗する工程Fと、前記びわ種を別の鍋に移し換え、糖液中に浸漬して加熱するとともに、糖分の量を前記糖液が所定の糖度になるように調整する工程I〜Kとを、前記の順に含む。
【選択図】
図1