特許第5729713号(P5729713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 協和工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5729713-空中浮遊物捕集装置 図000002
  • 特許5729713-空中浮遊物捕集装置 図000003
  • 特許5729713-空中浮遊物捕集装置 図000004
  • 特許5729713-空中浮遊物捕集装置 図000005
  • 特許5729713-空中浮遊物捕集装置 図000006
  • 特許5729713-空中浮遊物捕集装置 図000007
  • 特許5729713-空中浮遊物捕集装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5729713
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】空中浮遊物捕集装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20150514BHJP
   G01N 1/02 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   C12M1/26
   G01N1/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2008-300251(P2008-300251)
(22)【出願日】2008年11月25日
(65)【公開番号】特開2010-124711(P2010-124711A)
(43)【公開日】2010年6月10日
【審査請求日】2011年11月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599101472
【氏名又は名称】協和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【弁理士】
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】板 谷 直 正
(72)【発明者】
【氏名】須 山 裕 之
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−506901(JP,A)
【文献】 特開2001−169770(JP,A)
【文献】 特開2006−345704(JP,A)
【文献】 特開2004−329029(JP,A)
【文献】 特開2000−125843(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0112550(US,A1)
【文献】 米国特許第06786105(US,B1)
【文献】 特表平4−505655(JP,A)
【文献】 特開2008−22765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
G01N 1/02−1/26
G01N 15/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の施設や空間において空中浮遊菌測定および空中浮遊微粒子測定の少なくとも何れかの測定においてサンプルを採取する為に使用される空中浮遊物捕集装置であって、
上方に向かって水平方向に展開して鉛直上向きに開口する気体取込口と、当該気体取込口から気体を吸引するファンと、当該気体取込口から吸引された気体を放射方向に排出する水平方向に開口する気体排出口とを具備し、
さらに、動作開始後に吸引している空気の温度を検知するか、又は動作開始時における空気の吸引時間または吸引量の設定と前後して吸引する気体の温度を検知し、前記気体を吸引するファンの回転速度および稼働時間の少なくとも何れかを制御することにより、吸引する気体の体積量を調整する温度制御機構と、
作業者が退出した後に気体の吸引を開始する動作開始までの時間を設定するタイマーを具備し、タイマーで設定した時間が経過した後に、温度制御機構が調整した体積量の気体を吸引し、
前記気体取込口を水平横断するように、吸引された気体流が衝突する培地を収納するシャーレ、または微粒子を捕捉可能なフィルターを有するフィルター部材を着脱自在に保持する保持部を具備することを特徴とする、空中浮遊物捕集装置。
【請求項2】
更に、当該空中浮遊物捕集装置の動作を制御する制御盤を具備し、
前記温度制御機構による吸引する気体の体積量の調整は、
当該制御盤におけるプログラムに検知した気体の温度を渡し、基準となる温度との差を算出すると共に、この温度差から空気の吸引時間または空気の吸引量の補正値を算出して、この補正値に基づいて、予め設定した吸引時間または吸引量を書き換え乃至は補正して、前記気体を吸引するファンの回転速度および稼働時間の少なくとも何れかを制御する、請求項1に記載の空中浮遊物捕集装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中浮遊菌測定、または空中浮遊微粒子測定に使用する空中浮遊物捕集装置に関し、特に持ち運びが自在であって、任意の場所における空気その他の気体のサンプリングを行う事のできる携帯式の空中浮遊物捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の住環境ではサッシの普及などにより住居の気密性が高まってきており、その結果、外部からの塵埃が入り込みにくくなったものの、その反面で室内環境におけるカビ、ダニやハウスダストの増加が危惧されている。また、このようなカビ、ダニやハウスダストに起因して居住者におけるアレルギー症状の発症率も増加していることから、原因となるアレルゲンの存在を確認する必要がある。
【0003】
そこで従来は、このような空気中の浮遊微生物を補足し、これを測定する装置も提案されている。
【0004】
例えば特許文献1(特開2008−161143号公報)には、耐熱性を有するメンブレンフィルターを介して空気を吸引することにより空気中に浮遊する微生物を該メンブレンフィルター上に捕捉する微生物捕捉装置であって、コンプレッサーからの圧縮空気を利用して誘因流路から周囲空気を吸引するエゼクターと、該エゼクターの誘因流路に接続されて前記メンブレンフィルターを支持するホルダーと、を有することを特徴とする微生物捕捉装置が提案されている。そしてこの微生物捕捉装置におけるサンプリング気体の吸引量についてじは、「0019」欄に、「レギュレーター3の制御により一定流量で吸引した場合、吸引量(リットル)と吸引時間とは比例関係にあることが実験的に確認されており、所望の吸引量を得るには、吸引時間を測定すれば良い。」と記載されている。
【0005】
また、特許文献2(特開2001−149064号公報)には、複数のノズル孔を有するノズル板と、該ノズル板を保持するノズル保持部材と、前記ノズル板の下流側に位置し培地を収納するシャーレを支持するシャーレ支持部と、空気流を生成するファンとを有するポータブル型空中浮遊菌サンプラが提案されており、特に、直管部と該直管部の上流側に円錐状のテーパ部とを有するノズル孔を、複数の直交する縦横2方向の等間隔の平行線の交点位置に配置したポータブル型空中浮遊菌サンプラが開示されている。
【0006】
更に、特許文献3(特開2000−304663号公報)には、モータを駆動させて高静圧ファンを回転すると、空気はノズル板の孔から流入して、ノズル板と培地の間隔を通過して流れるポータブル型空中浮遊菌サンプラが提案されており、培地領域を通過した空気流は排気用のフィルタを通って塵埃粒子が除去された後に、排出口から外部へ排気されるものとして構成されている。
【特許文献1】特開2008−161143号公報
【特許文献2】特開2001−149064号公報
【特許文献3】特開2000−304663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空中浮遊物がウィルスや細菌、或いは微生物である場合には、その粒径が1μm以下となり、これらは単体で浮遊している可能性が高い。そしてこのような粒径が1μm以下の微生物粒子は、バイオロジカル クリーンルームを始め、薬事関連施設、HACCP関連施設、公衆衛生等において特に厳密に管理・徹底される必要があることから、任意の施設や空間でエアサンプルを行う事ができ、しかも高い微生物捕集性能を有するハンディタイプ(携帯式)のエアーサンプラーの開発が望まれる。
【0008】
よって本発明では、第一に、任意の場所に移動することができる携帯性を有し、更に空気などの気体中に存在する空中浮遊菌等の微生物や塵埃の捕集機能が高い空中浮遊物捕集装置を提供することを第一の課題とするものである。
【0009】
また、前記特許文献1〜3で開示されている微生物捕捉装置もそうであるが、従前においてサンプリング対象となる気体を吸引する際に、吸引時間や吸引の為のノズルの流速については考慮されているものの、温度については一切考慮されていないのが実情である。
【0010】
そこで本発明は、サンプリング対象である、吸引する気体の温度、即ち温度による気体の体積変化を考慮し、気体の温度に起因した体積変化による測定誤差が生じないようにした空中浮遊物捕集装置を提供することを第二の課題とするものである。
【0011】
更に、前記特許文献1〜3で開示されている微生物捕捉装置もそうであるが、空中における微生物を捕集するように構成されたサンプラーは、何れも空中の微粒子を捕集する目的では使用できなかった。この為、空中の微生物と微粒子のそれぞれを測定する場合には、異なる2種類のサンプラーを準備する必要があった。
【0012】
よって本発明は、空中浮遊菌の測定にも、空中浮遊微粒子の測定にも使用できる空中浮遊物捕集装置を提供することを第三の課題とするものである。
【0013】
更に本発明は、製薬、食品製造あるいは病院、介護施設、学校等に於いて空気中の浮遊菌等の微生物、及び塵埃等の浮遊微粒子を採集し、それぞれの環境衛生管理に必要なデーターを取得することができるように、空中のカビやアレルギー原因の物質を捕集することができる空中浮遊物捕集装置を提供することを第四の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題の少なくとも何れかを解決するべく、空中浮遊菌測定および空中浮遊微粒子測定の少なくとも何れかの測定においてサンプルを採取する為に使用される空中浮遊物捕集装置であって、上方に向かって水平方向に展開して開口する気体取込口と、当該気体取込口から気体を吸引するファンと、当該気体取込口から吸引された気体を排出する気体排出口とを具備し、さらに、吸引する気体の体積量を、当該気体の温度によって調整する温度制御機構を具備する空中浮遊物捕集装置を提供する。
【0015】
かかる空中浮遊物捕集装置では、吸引する気体の温度によって、当該吸引する気体の体積量を調整している事から、環境温度に依存することなく、微生物や微粒子を正確に採取することができる。即ち、気体の場合には、一定圧力であれば、その体積は温度が1℃上がるごとに、0℃のときの体積の1/273.15ずつ増加することになる(シャルルの法則)。そこで、このような温度差による体積変化をなくし、基準の温度における気体の吸入量に換算して測定時の温度における気体を吸入できるように、吸引する気体の体積量を調整するものである。よって、かかる空中浮遊物捕集装置では、吸引する気体の温度を検知する温度センサーを備える必要があり、またこの温度センサーの測定結果に基づいて、気体の吸入量を調整する演算回路を具備する必要がある。
【0016】
前記気体の吸引は、モーターでファンを回転させることにより行う事ができ、この場合には、当該気体の吸引量はモーターの回転数と時間により設定することができる。また、吸引する気体の量は、気体の環境程度により予めプログラムされた量から選択できるようにすることが望ましい。例えば、気体の吸引量を設定するセレクターを設け、選定された吸入量になるように、プログラムでファンの回転速度、回転時間、回転量などを制御することができる。
【0017】
そして温度制御機構による気体の吸引量の調整は、気体を吸引するファンの回転速度および稼働時間の少なくとも何れかを制御することによって行う事ができる。
【0018】
更に本発明では、前記課題の少なくとも何れかを解決する為に、前記気体取込口を水平横断するように、吸引された気体流が衝突する培地を収納するシャーレ、または微粒子を捕捉可能なフィルターを有するフィルター部材を着脱自在に保持する保持部を具備する空中浮遊物捕集装置を提供する。
【0019】
かかる空中浮遊物捕集装置によれば、空中浮遊菌等の微生物を採取する場合には培地を収納するシャーレを使用し、一方で微粒子を捕捉する場合には、当該微粒子を捕捉可能なフィルターを有するフィルター部材を使用することができる。そしてこれらは何れも保持部によって着脱自在に保持できる事から、使用する用途に応じてシャーレまたはフィルター部材を使い分ければ良い。これにより、空中浮遊菌等の微生物、および塵埃などの微粒子の双方の採取に使用できる空中浮遊物捕集装置が実現する。
【0020】
特に、微生物を捕集する場合には、シャーレの上方に、微細な孔(ノズル)を有する多孔部材を配置し、当該孔を通過した気体流を培地(シャーレ内の培地)に均一に衝突させて該培地に気体中の浮遊微生物を捕捉する。よって、空中浮遊菌等の微生物を捕集する場合には、当該多孔部材が必要になる。また、塵埃等の微粒子については、気体とともにフィルターを通して採集することができる。なお、このフィルターは空中浮遊物を捕集することを目的として通常市販されているものを使用することができる。特に、このフィルターは布帛を用いて形成されているのが一般的であることから、その縁部分を補強し、かつフィルターを広げて保持し、前記した保持部に固定する為のアダプター乃至はフレーム等を用いる事が望ましい。
【0021】
また、本発明の空中浮遊物捕集装置では、フィルター部材と培地を設けたシャーレとを同時に使用することも考えられる。即ち、フィルター部材で気体中の微粒子を捕捉し、当該フィルター部材を通過した気体について、前記多孔部材を通過させてシャーレ内の培地に衝突させ、当該培地で浮遊微生物を捕捉する様に構成することができる。このように形成した場合には、気体の流通方向の順に、フィルター部材、多孔部材、および培地を設けたシャーレが配置される。また、このように形成すれば、空気などの気体中における塵埃等の微粒子による汚染状況と、微生物による汚染状況を同時にサンプリングする事も可能になる。
【0022】
更に本発明に係る空中浮遊物捕集装置において、前記気体取込口は鉛直な上向きに開口し、前記気体排出口は水平方向に開口している事が望ましい。気体排出口を水平方向に開口させる事で、吸引した気体を放射方向に放出することができる。これは、例えば当該空中浮遊物捕集装置をテーブルや床などに直接乗せて使用した場合、当該机上または床上の塵埃を舞い上がらせて浮遊させてしまうおそれがなくなり、正確に空中浮遊物(即ち浮遊微生物や浮遊微粒子)を採取することができる。この点、仮に吸引した気体を鉛直方向の下向きに排出した場合には、机上または床上の塵埃を舞い上がらせてしまう恐れがあり、その結果、正確な空中浮遊物の採取が困難に成ってしまうことも考えられる。
【0023】
なお、上記本発明における気体とは、空気は勿論の事、その他のガスも含む意味であり、気体が存在する環境下であれば、その中の微生物や塵埃等の微粒子を捕集するために使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
上記本発明に係る空中浮遊物捕集装置によれば、任意の場所に移動することができる携帯性を有し、更に空気中などの気体中に存在する微生物や塵埃の捕集機能が高い空中浮遊物捕集装置が提供される。
【0025】
また、本発明に係る空中浮遊物捕集装置は、吸引する気体の体積量を、当該吸引する気体の温度によって調整する温度制御機構を具備することから、サンプリング対象である、吸引する気体の温度、即ち温度による気体の体積変化を考慮し、気体の温度に起因する体積変化による測定誤差が生じないようにした空中浮遊物捕集装置が提供される。
【0026】
また、本発明に係る空中浮遊物捕集装置が、前記気体取込口を水平横断するように、吸引された気体流が衝突する培地を収納するシャーレ、または微粒子を捕捉可能なフィルターを有するフィルター部材を着脱自在に保持する保持部を具備することにより、塵埃などのように、比較的大きな微粒子(数μm以上)は、フィルターなどで捕捉することができ、一方粒径が1μm以下の微生物粒子については、空気流を寒天等の培地に衝突させて該培地に浮遊微生物を捕捉することができる。これにより、空中浮遊菌の測定にも、空中浮遊微粒子の測定にも使用できる空中浮遊物捕集装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明に係る空中浮遊物捕集装置50の具体的な1つの実施の形態を説明する。
【0028】
図1は本実施の形態に係る空中浮遊物捕集装置50を、空中浮遊菌測定に使用するため、すなわち微生物を捕集する様に構成した例を示す鉛直方向断面略図であり、図2は本実施の形態に係る空中浮遊物捕集装置50の要部上面図であり、図3はシャーレを配置する状態を示す要部分解図である。また図4は本実施の形態に係る空中浮遊物捕集装置50を、空中浮遊微粒子測定に使用するための微粒子を捕集する様に構成した例を示す要部鉛直方向断面略図であり、図5はフィルター部材を配置する状態を示す要部分解図である。そして図6および7は、本実施の形態における空中浮遊物捕集装置50での温度による空気の吸引量または吸引時間の補正手順を示すフローチャートである。
【0029】
先ず、図1〜3を参照しながら、本実施の形態に係る空中浮遊物捕集装置50と、これを浮遊微生物を捕捉する為に使用する場合の実施態様を説明する。図1において、この空中浮遊物捕集装置50は、下側の筐体となる電池フレーム15内に、電源としての電池10を電池ケース11で保持して固定し、更に当該電池10に対して充電を行う為の充電プラグ13を設けている。電源は電池方式としていることから、測定場所を選ばず、コンセントのない場所でも気体のサンプリングを行うことができる。また、充電することにより繰返し使用することも可能である。
【0030】
電池フレーム15の側面には、当該空中浮遊物捕集装置50の動作を制御する為の設定を行い、且つ当該空中浮遊物捕集装置50の動作を制御する制御盤12が設けられている。この制御盤12において、後述の温度による空気の吸引量または吸引時間の調整(温度補正)を行うことができる。
【0031】
上記電池フレーム15の上方は先細り状に形成されており、外側は漏斗状に外側に傾斜して形成されている。また、この先細り状に形成された電池フレーム15の先端部には、前記の電池10から電力が供給されて動作するモーター7が固定されている。このモーター7の回転軸には空気を吸引するためのファン5が取り付けられており、ファン5の回転によって生じた空気流は、当該電池フレーム15の上方の先細り状に形成された部分における外側の漏斗状の傾斜面に案内されて、排気フレーム9で形成された空気排気口16から水平方向に排出される。
【0032】
排気フレーム9は電池フレーム15の上方に固定されており、当該排気フレーム9の上方にはモーターフレーム6が固定されている。このモーターフレーム6は、モータ7によって回転されるファン5の回転空間を確保すると共に、当該ファン5の回転による空気の流通空間を形成している。
【0033】
このモーターフレーム6の上方には培地受け4が設けられる。この培地受け4は、図2に示すように、水平方向に十字状に交差する支持フレーム部30と、その周縁寄りから立ち上がって突起した爪部31とを備えて構成されいる。この支持フレーム部30には、この図1の態様では、更に図3に示すように培地が設けられるシャーレ3が載せ置かれ、前記爪部31はこのシャーレ3を保持することになる。
【0034】
そしてこの培地受け4の上方には、多孔部材2が設けられる。この多孔部材2は、平面図において複数の貫通孔が形成されている面32を具備する。そして当該多孔部材における貫通孔が形成されている面32は、前記シャーレ内の培地に接近して設けられる。更に、この多孔部材2は、その貫通孔が形成されている面32を閉じるように蓋部材1が設けられている。当該蓋部材1は、使用に際して取り外される事になる。
【0035】
以上のように構成された空中浮遊物捕集装置50においては、モーター7の動作によりファン5が回転すると、モーターフレーム6において空気が吸引される。この空気の吸引により、サンプリング対象となる空気は多孔部材2の貫通孔を通過し、これがシャーレ3内の培地に衝突する。空気流が培地に衝突することにより、当該空気中の空中浮遊菌等の微生物菌が培地に捕捉される。一方、吸引されている空気はシャーレ3の側面および支持フレーム部30の間を通ってモーター7で回転しているファン5に到達する。よって支持フレーム部30は、シャーレ3と気体取込口14との間において、吸引した空気を流通させる為の間隙を形成するものとしても機能している。
【0036】
ファン5に到達した空気流は、電池フレーム15における上方の漏斗状の傾斜面に案内され、排気フレーム9から水平方向に排出される。
【0037】
次に、図4および5を参照しながら、本実施の形態に係る空中浮遊物捕集装置50を、空中浮遊微粒子測定に使用するため、すなわち微粒子を捕集する様に構成した実施態様を説明する。
【0038】
図4に示す空中浮遊物捕集装置50の基本的な構成は前記図1に示した空中浮遊物捕集装置とほぼ同じであるが、培地受け4の上に、培地を有するシャーレ3ではなく、フィルターFを広げて保持したフィルター部材20を配置している点、および多孔部材2ではなくフィルターカバー18を配置している点が相違する。
【0039】
このフィルター部材20は、フィルターFの周縁部分を保持して当該フィルターFを広げた状態に固定しており、これは培地受け4の周縁寄りから立ち上がって突起した爪部31によって保持されている。またフィルターカバー18は平面略リング状に形成されており、その内周面は、ファン5によって吸引される空気が、全て当該フィルターFを通過するように、フィルター部材の周縁部分に密着して設けられる。なお、フィルターカバー18とフィルター部材20との間には気密性を向上させる為にパッキン19を設けることもできる。
【0040】
このように構成された空中浮遊物捕集装置50では、モーター7の作動によりファン5が回転すると、サンプリング対象となる空気はフィルター部材20のフィルター面に向かって吸引されることになる。そしてこの空気流はフィルターを通過し、その際に空気中の塵埃などがフィルターに捕捉される。そしてフィルターFを通過した空気流はファンを通過し、前述のように電池フレーム15における傾斜面に案内され、排気フレーム9から水平方向に排出される。
【0041】
特に、図4を参照しながら、この実施の形態に係る空中浮遊物捕集装置50における制御盤12の構成を具体的に示す。先ず、この空中浮遊物捕集装置50の制御項目としては、この制御盤12の操作パネル21に示されているように、電源のオンオフを行う「POWER」ボタン、作動開始時間(タイマー)を設定するする「START」ボタン、培地またはフィルターの2つのモードを選択する「MODE」ボタン、および吸引する空気量を選択する「CAPA」ボタンが設けられており、これらの項目について任意に設定することが可能になっている。特にこの実施の形態では、「POWER」ボタンを押す事によりPOWERのLEDが点灯し、「MODE」ボタンを押すことによりモード1またはモード2を選択することができる。例えば「MODE」ボタンを1回押すとBIO(空中浮遊菌等の微生物の意味)のLEDが点灯し、2回押すとDUST(塵埃等の空中浮遊微粒子の意味)のLEDが点灯するように構成することができる。また「VOLUME」のボタンを押すことにより、環境に合った吸気量を選択することができる。例えば「VOLUME」のボタンを一回押すと500L、2回押すと200L、3回押すと100L、4回押すと50LのLEDが点灯し、この点灯で示される量の空気を吸引するように構成することができる。そして測定しようとするTOTAL BOLUMEを選択すれば、後述するような処理により自動的に温度補正をし、設定された吸気量になった時に自動的に停止することになる。また「START」ボタンをおして、スタートするまでの時間を選択する。「START」ボタンを1回押すと1分後、2回押すと10分後、3回押すと20分後、4回押すと30分後、5回押すと60分後のLEDが点灯し、この点灯した値が示す時間が経過した後に吸引を開始する。よって、このボタン操作により希望のスタート時間を簡易に設定することができる。「START」ボタンを押してタイマーを設定すると、設定された時間になる迄LEDが点滅し、設定時間になるとLEDが点燈し自動的にスタートすることになる。また、途中で電池の残量が少ない等の理由により停止したい時は、STOPボタンを長押しするように構成することができる。この場合、設定された項目がすべてキャンセルされるとともに吸引処理が停止することとなる。制御盤12の操作パネル21には、このような簡易な選択ボタンとし、選定した項目をLEDで表示していることから、複雑な操作を不要とし、簡易に操作可能になっている。
【0042】
また、上記操作パネル21において作動開始時刻を設定するのは、サンプリングを行う室内に作業者が滞在乃至は移動した場合には空気流が生じてしまい、正確なサンプリングが困難に成る事から、作業者が退室し、空気の流れが落ち着いた段階で動作するようにする為である。
【0043】
また、この制御盤12には、電池の残量を示すチェックランプが設けられており、残量が少ない場合には赤色に点灯する等により、使用者に注意を喚起することができる。また捕集作業の途中で電池がなくなり停止した場合にも、作業の完了時点においてチェックランプが赤色に点灯している事で、清浄に捕集作業が行われていなかった事を確認することができるようになっている。
【0044】
次に、図6および7に示すフローチャートを参照しながら、本実施の形態における空中浮遊物捕集装置50での温度による空気の吸引量または吸引時間の補正処理手順を説明する。
【0045】
先ず、このような温度補正を行う手順として、図6に示すように、動作開始後に吸引している空気の温度を検知して補正する事ができる。即ち、この空中浮遊物捕集装置50の使用に際して、吸引時間または吸引量を設定し(S10)、吸引を開始する時間になったら空気の吸引を開始する(S11)。この空気の吸引に際して吸引している空気の温度を検知し(S12)、その結果を制御盤におけるプログラムが取得する(S13)。そして取得した温度と、基準となる温度(例えば25℃)との差を算出し、この温度差から空気の吸引時間または空気の吸引量の補正値を算出する(S14)。そしてこの補正値に基づいて、作業の開始に際して設定した吸引時間または吸引量を書き換え乃至は補正し(S15)、その内容従って動作させる事で吸引を終了させる(S16)。
【0046】
またこのような温度補正を行う手順として、図7に示すように、動作開始時における空気の吸引時間または吸引量の設定時に、吸引する空気の温度を検知して温度補正を行い、この補正後の値に基づいて吸引を開始させる事ができる。即ち、動作開始時における空気の吸引時間または吸引量の設定(S20)と前後して、温度センサーは吸引する空気の温度を検知する(S21)。この結果は制御盤におけるプログラムに渡され(S22)、測定した温度と、基準となる温度(例えば25℃)との差を算出し、この温度差から空気の吸引時間または空気の吸引量の補正値を算出する(S23)。そしてこの補正値に基づいて、設定した吸引時間または吸引量を書き換え乃至は補正し(S24)、その内容従って吸引を開始し(S25)、書き換え乃至は補正した通りに吸引時間または吸引量が到達した段階で空気の吸引を終了する(S25)。
【0047】
以上のように構成することにより、サンプリングの対象となる空気温度が異なる場合であっても、空中浮遊物捕集装置50が自ら空気の吸引量を補正することができるので、測定結果をそのまま使用することができる。
【0048】
なお、微生物を吸着させた培地は、他の先行文献で開示されているのと同じ方法により培養され、コロニー数により空中浮遊菌測定が行われる。具体的には、サンプリングした培地(シャーレ内の培地)は、培養してコロニー数を計測して、空気1m3あたりの細菌数が算出される。一方、フィルターFで捕集した微粒子は顕微鏡で確認することで、空中浮遊微粒子測定を行う事ができる。
【0049】
またこの実施の形態に係る空中浮遊物捕集装置50は、各フレームをABS樹脂やその他のプラスチックを用いて形成することにより軽量とすることができ、かつ加工性も向上させる事ができる。更に、図4に示すように携帯性を向上させる為の取手を設けることも望ましい。更に、図示しないが、空中浮遊物捕集装置50の下面には、三脚取付用のナットを設け、床面より高いところの捕集を行う際に、三脚が取り付けられるよう構成することも望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る空中浮遊物捕集装置は、バイオクリーンルーム、食品工業の生産ラインなどのクリーン度が要求される場所や、病院などの微生物汚染状態の注意管理を要求される場所で、汚染状態の管理や調査のためにそれらの空間内部において使用することができる。
【0051】
特に本発明にかかる空中浮遊物捕集装置は、気体中の浮遊微生物のみならず、浮遊微粒子(塵埃など)をも捕集することができる為、例えば排気ガスによる空気の汚染状況などを調査する目的でも使用することができる。
【0052】
更に、本発明に係る空中浮遊物捕集装置は、空気のみならず、メタンガス、プロパンガスなどの燃料ガス、あるいは窒素など、空気以外の各種ガス雰囲気における汚染状態の管理や調査のために使用することもできる。

【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】空中浮遊菌測定に使用するための微生物を捕集する様に構成した例を示す鉛直方向断面略図
図2】空中浮遊物捕集装置の要部上面図
図3】シャーレを配置する状態を示す要部分解図
図4】空中浮遊微粒子測定に使用するための微粒子を捕集する様に構成した例を示す要部鉛直方向断面略図
図5】フィルター部材を配置する状態を示す要部分解図
図6】空中浮遊物捕集装置での温度による空気の吸引量または吸引時間の補正手順を示すフローチャート
図7】空中浮遊物捕集装置での温度による空気の吸引量または吸引時間の補正手順を示すフローチャート
【符号の説明】
【0054】
1 蓋部材
2 多孔部材
3 シャーレ
5 ファン
6 モーターフレーム
7 モーター
9 排気フレーム
10 電池
11 電池ケース
12 制御盤
13 充電プラグ
14 気体取込口
15 電池フレーム
16 空気排気口
18 フィルターカバー
19 パッキン
20 フィルター部材
21 操作パネル
30 支持フレーム部
31 爪部
50 空中浮遊物捕集装置
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図1