【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 ソノケミストリー研究会(共催:日本化学会)、第18回ソノケミストリー討論会講演論文集、13〜14頁、2009年10月23日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素数が3個以上のアルコールが、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチルプロパノール、および2−メチル−2−プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
リチウム化合物が、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
リン酸化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法では、水溶液への超音波照射により水から生じたOHラジカルがH
2O
2となって酸化剤として作用し、Feの一部を2価から3価にしてしまう。その結果、目的とする物質中でそれらが不純物となり、電池特性を評価しても所望の結果は得られない。具体的には、放電容量が60〜70mAh/gと大きくなく、充放電を繰り返した時の容量低下、いわゆるサイクル特性も十分ではない。
【0008】
そこで、発明者らは、鋭意研究した結果、LiFePO
4を、超音波を用いて製造する方法において、原料溶液に水と相溶性のある極性溶媒を添加した後、超音波を照射しながら合成すると、LiFePO
4の容量やサイクル特性を顕著に改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決したLiイオン電池用正極活物質、およびその製造方法に関する。
(1)リチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物、および水と相溶性のある極性溶媒を含有する水溶液に、不活性雰囲気中または還元性雰囲気中で超音波を照射しながらLiFePO
4を合成することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質の製造方法。
(2)水と相溶性のある極性溶媒が、水酸基を有する、上記(1)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(3)水と相溶性のある極性溶媒が、炭素数が3個以上のアルコールである、上記(2)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(4)炭素数が3個以上のアルコールが、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチルプロパノール、および2−メチル−2−プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(3)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(5)超音波の周波数が、200kHz〜600kHzである上記(1)〜(4)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(6)リチウム化合物が、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(5)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(7)鉄化合物が、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、および金属鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(6)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(8)リン酸化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムおよびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(7)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(9)超音波を照射しながらLiFePO
4を合成した後、さらに不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空中、300〜800℃で加熱をする、上記(1)〜(8)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(10)球状LiFePO
4粉末とロッド状LiFePO
4粉末とを含むことを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質。
【発明の効果】
【0010】
本発明(1)によれば、容量が高く、サイクル特性のよいLiFePO
4を、水溶液中で簡便に製造することができる。この製造方法は、環境に低負荷であり、高価な装置を必要としない点においても優れている。したがって、放電容量、サイクル特性の優れたLiイオン電池を容易に提供することができる。
【0011】
本発明(10)によれば、容量が高く、サイクル特性のよいLiイオン電池を、容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量基準の%である。
【0014】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、リチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物、および水と相溶性のある極性溶媒を含有する水溶液に、不活性雰囲気中または還元性雰囲気中で超音波を照射しながらLiFePO
4を合成することを特徴とする。
【0015】
リチウム化合物は、LiFePO
4のリチウム源となり、水に溶解可能なものであればよく、このようなリチウム化合物としては、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウム等が挙げられ、リチウム化合物は、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、水酸化リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムであり、より好ましくは、水溶性の観点から水酸化リチウムである。詳細にはわかっていないが、水酸化リチウムを含有する水溶液はアルカリ性になる点も好ましいと思われる。純度は、試薬メーカーから特級として市販されているものが好ましい。
【0016】
鉄化合物は、LiFePO
4の鉄源となり、水に溶解可能なものであればよく、このような鉄化合物としては、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、および金属鉄等が挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、硫酸鉄、リン酸鉄である。硫酸鉄は、水に溶解しやすく、鉄イオンが溶出しやすい材料のためであり、また、その分離した硫酸イオンが電池材料の合成を阻害しない、もしくは電池材料に混合しないため、より好ましい。また、硫酸鉄は価格が安価であるので、より好ましい。
【0017】
リン酸化合物は、LiFePO
4のリン酸源となり、水に溶解可能なものであればよく、このようなリン酸化合物としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸等が挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムである。水に可溶で、常圧において、リチウムと反応する観点からである。なお、鉄化合物として、リン酸鉄を用いる場合には、当然に、リン酸鉄は、リン化合物としても作用し得る。
【0018】
水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水等が挙げられ、無機イオン不純物混入回避の観点から、イオン交換水、純水等が好ましい。
【0019】
水溶液中でのリチウム化合物の濃度は、0.1〜60g/dm
3が好ましい。0.1g/dm
3より低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、60g/dm
3より高いと鉄の酸化を引き起こす可能性が高くなる。ただし、上記は、超音波発生装置の出力が200Wのときの条件であり、出力を変更するときにはこの限りではない。
【0020】
水溶液中での鉄化合物の濃度は、1〜140g/dm
3が好ましい。1g/dm
3より低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、140g/dm
3より高いと目的とするLiFePO
4が合成され難くなる。また、水溶液中での鉄化合物の濃度は、リチウム化合物の濃度の0.1〜20倍が好ましい。0.1倍より低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、20倍より高いと目的とするLiFePO
4が合成され難くとなる。ただし、上記は、超音波発生装置の出力が200Wのときの条件であり、出力を変更するときにはこの限りではない。
【0021】
水溶液中でのリン酸化合物の濃度は、0.1〜70g/dm
3が好ましい。0.1g/dm
3より低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、70g/dm
3より高いと目的とするLiFePO
4が合成され難くなる。また、水溶液中でのリン酸化合物の濃度は、リチウム化合物の濃度の0.1〜10倍が好ましい。0.1倍より低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、10倍より高いと目的とするLiFePO
4が合成され難くなる。ただし、上記は、超音波発生装置の出力が200Wのときの条件であり、出力を変更するときにはこの限りではない。
【0022】
水と相溶性のある極性溶媒は、合成するLiイオン電池用正極活物質としてのLiFePO
4の容量やサイクル特性を増加させる。詳しくは後述する。ここで、「水と相溶性のある極性溶媒」とは、室温で、水溶液全体に対して2質量%より多く溶解可能な極性溶媒をいう。この水と相溶性のある極性溶媒としては、アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;アセトニトリル;アセトン;酢酸;ジメチルホルムアミド;N―メチルピロリドン;N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられ、水酸基を有するものが好ましく、炭素数が3個以上のアルコールが、より好ましく、炭素数が3個以上の直鎖状または分岐状のアルコールが、さらに好ましい。炭素数が3個以上のアルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチルプロパノール、および2−メチル−2−プロパノール等が、さらに好ましい。水との相溶性の観点から、炭素数が3個以上のアルコールは、炭素数が6個以下であることが、より好ましい。水と相溶性のある極性溶媒は、単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。
【0023】
水溶液中での水と相溶性のある極性溶媒の濃度は、水溶液全体の0.5〜50質量%であると好ましく、1〜20質量%であると、より好ましく、2〜10質量%であると、さらに好ましい。0.5質量%より少ないと添加の効果が現れず、50質量%より高いと原材料の溶解の妨げとなる。
【0024】
水溶液は、水中に、上記のリチウム化合物、鉄化合物およびリン酸化合物を添加後、撹拌しながら溶解し、さらに水と相溶性のある極性溶媒を添加し、撹拌することにより作製することができる。なお、上記は一般的な作製方法であり、各原料を添加する順序は限定されない。撹拌は、プロペラ撹拌等の常法によればよい。また、水溶液は、脱気または脱酸素をすると、合成中のFeの酸化を防ぐ観点から好ましい。
【0025】
超音波の周波数は、100〜1000kHzであると好ましく、200〜600kHzであると、より好ましい。100kHzより低いと、水溶液を撹拌する効果はあるものの、キャビテーションのサイズが大きいため化学反応作用が小さく、また微細粒子の核形成剤として期待できず、1000kHzより高いとキャビテーションが起こり難く、起こすためには高い出力を要することからエネルギー効率的に好ましくない。
【0026】
図1に、超音波を用いた製造装置の概略図の一例を示す。1は多周波超音波発生装置(本発明で使用した装置は、カイジョー製のTA−4021)、2は振動子、3はナス型フラスコ、4は撹拌機、5はガス注入口、6は水槽、7は水溶液、8はガス出口である。なお、本発明を実施するための装置としては、水溶液に超音波を照射することができるものであれば、特に限定されない。例えば、溶液に振動子を入れて照射してもかまわない。
【0027】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、以下の反応式により起こると考えられる。
3LiOH・H
2O+(NH
4)
2HPO
4+FeSO
4・7H
2O
→LiFePO
4+Li
2SO
4+2NH
3+13H
2O
上記の反応式では、Feは2価のままであるが、実際には副反応としてFeが2価から3価に酸化する反応がわずかに起きており、この酸化反応により、製造するLiFePO
4の容量が低下し、サイクル特性が劣化していると考えられる。以下の反応式に示すように、水に超音波を照射すると、水が分解し、水素ラジカルとヒドロキシルラジカルが生成する。還元剤である水素ラジカルは、水素となり、水溶液外に放出されるが、酸化剤であるヒドロキシルラジカルは過酸化酸素となって水溶液内に残留し、Feの一部を2価から3価に酸化する。
H
2O→H・ +OH・
2H・ →H
2
2OH・ →H
2O
2
2Fe(II)+H
2O
2→2Fe(III)+2OH
−
なお、上記中「・」は、ラジカルを示し、特記しない限り、以下の反応式においても同様である。
【0028】
ここで、水と相溶性のある極性溶媒は、超音波を照射すると、水溶液中や原料表面で起こるキャビティーの圧壊の際にHラジカルを発生させ、このHラジカルが酸化抑制剤となり、水から生じるOHラジカルからH
2O
2が発生することを抑制し、Feの2価から3価への酸化反応を抑制することができる。以下に、水と相溶性のある極性溶媒にアルコールを用いる場合の反応式を示す。
C
nH
2n+1OH→C
nH
2n+1O・ +H・
OH・+H・→H
2O
【0029】
詳細は明らかではないが、水と相溶性のある極性溶媒として、例えば2−プロパノール等を用いると、キャビティーの圧壊の際にHラジカルを発生させ、このHラジカルが酸化抑制剤となり、LiFePO
4の合成を促進させる、と考えられる。このように本発明の製造方法によれば、高価な還元剤であるアスコルビン酸ナトリウム等を用いることなく、安価で容易に、かつ環境に低負荷で、高容量で、サイクル特性が良好なLiFePO
4を得ることができる。他方、水と相溶性のある極性溶媒として、消泡剤としても用いられるエタノール等を使用すると、原料表面でのキャビティーの発生を抑制する傾向があるため消泡作用の小さい2−プロパノール等が好ましい。
【0030】
以上のように、本発明の製造方法においては、Feの酸化を防ぐことにより所望の効果を得ることができるので、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性雰囲気中、または水素、一酸化炭素等の還元性雰囲気中で超音波を照射する。
【0031】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法で製造されるLiFePO
4は、オリビン型であり、好ましい組成は、Li
xFePO
4(式中、x=0〜1を示す)である。ここで、Li、Fe、P、Oの定量分析は、ICP質量分析法で行う。なお、例えば、結晶構造におけるFeのサイトの一部を、Mn、Co、Ni、Al、Mg、Cu、Zn、Ge等の他の元素で置換してもよい。
【0032】
例えば、Mn、Mg、Ni、Co、Al、Cu、Zn、Geは、Feと略同等のイオン半径を有し、かつFeとは異なる電位で酸化還元するものである。そのため、Feサイトの一部を、これらの元素の1種以上で置換することにより、リチウム鉄複合酸化物の結晶構造の安定化を図ることができる。したがって、リチウム鉄複合酸化物は、Feのサイトの一部を他の元素Mで置換した、組成式LiFe
1−yM
yPO
4(ここで、Mは、Mn、Mg、Ni、Co、Al、Cu、Zn、Geから選ばれる少なくとも1種であり、y=0〜0.2である)で示されるものとすることが望ましい。特に、資源的にも豊富で安価であるという理由から、置換元素MはMnとすることが望ましい。
【0033】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法で製造されるLiFePO
4の形態は、粉末であり、上記粉末の平均粒径は、好ましくは0.01〜2μmであり、より好ましくは、0.1〜1μmである。ここで、平均粒径は、JEOL製走査電子顕微鏡(型番:JSM−5900)によるSEM写真の観察、あるいはX線回折測定より得られたデータから、シェラーの式を用いて算出する。また、LiFePO
4粉末の形状は、球状、ひし型状、ロット状等が挙げられ、好ましくは、球状、ロット状であり、より好ましくは、球状およびロット状の共存、すなわち、球状LiFePO
4粉末とロッド状LiFePO
4粉末とを含むものである。
図2、
図3は、実施例1で作製したLiFePO
4の走査電子顕微鏡写真であり、ここで、球状とは、
図3中の○で示されているにあるような断面が多角形状で角が丸い粒状をいい、ロッド状とは、
図3中の×で示されているにあるような、3〜10個の球状粉末が棒状につながっているものをいう。また、比表面積が大きければ反応面積が大きくなることからLiFePO
4粉末の比表面積は、3〜70m
2/gが好ましく、6〜40m
2/gが、より好ましい。
【0034】
また、超音波を照射しながらLiFePO
4を合成した後、さらに不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空中、300〜800℃で加熱をすると、LiFePO
4の高容量化、サイクル特性向上の観点から好ましく、500〜700℃が、より好ましい。300℃より低いと、結晶性の良い材料が得られず、800℃より高いと焼結が進行し粒径が大きくなってしまう。また、加熱時間は、30〜300分が好ましく、60〜180分が、より好ましい。
【0035】
本発明の方法で製造されたLiFePO
4を用いて、リチウムイオン電池用の正極を構成するには、例えば、LiFePO
4を、そのまま活物質として用い、その他については従来公知の正極と同様に、バインダーや、必要に応じて更に炭素材料などの導電助剤を含有する正極スラリーの成形体とすればよい。また、必要に応じて、これらの正極スラリーを、集電体となる導電性基体の片面または両面に、正極活物質層として形成すればよい。
【0036】
本発明の方法で製造されたLiFePO
4を用いたリチウムイオン電池用の正極を用いてリチウムイオン電池を構成する際には、負極、セパレーター、非水電解液、外装体などの各種構成については特に制限はなく、従来公知のリチウムイオン電池と同様の構成を採用することができる。
【0037】
本発明の方法で製造されたLiFePO
4は、電池電極、二次電池用電極の正極活物質として有効に使用される。特に、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムポリマー電池等の非水電解液二次電池用正極活物質として極めて有効であり、リチウム一次電池用正極活物質としても有効である。本発明の電極活物質を用いた非水電解液二次電池は、大きな充放電容量と高いエネルギー密度を持ち、優れたサイクル特性、安全性等を発現し、中・大型二次電池や車載用二次電池の正極活物質として有効に適用できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
LiFePO
4は、脱気したイオン交換水を57cm
3入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素二アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、水と相溶性のある極性溶媒として、2−プロパノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。
図1に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz、200W)を120分間照射して、LiFePO
4を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0040】
〔実施例2〕
LiFePO
4は、脱気したイオン交換水を57cm
3入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素二アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、水と相溶性のある極性溶媒として、1−ブタノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。
図1に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz、200W)を120分間照射して、LiFePO
4を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0041】
〔実施例3〕
LiFePO
4は、脱気したイオン交換水を57cm
3入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素二アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、水と相溶性のある極性溶媒として、2−プロパノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。
図1に示す装置を用い、窒素雰囲気下、超音波(200kHz、200W)を120分間照射して、LiFePO
4を合成した。その後、アルゴン+水素雰囲気中、700℃で加熱した。
【0042】
〔比較例1〕
LiFePO
4は、脱気したイオン交換水を57cm
3入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素二アンモニウム:0.4gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。
図1に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz、200W)を120分間照射して、LiFePO
4を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0043】
〔参考例1〕
LiFePO
4は、脱気したイオン交換水を57cm
3入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素二アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、エタノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。
図1に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz、200W)を120分間照射して、LiFePO
4を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。X線回折測定結果より、LiFePO
4以外にLi
3PO
4、Fe
2O
3が不純物として合成されたことがわかった。
【0044】
〔試験例1〕
実施例1で得られたLiFePO
4をJEOL製走査電子顕微鏡(型番:JSM−5900)で観察した。
図2、
図3に、その結果を示す。同様に、比較例1で得られたLiFePO
4を観察した。
図4、
図5に、その結果を示す。
【0045】
〔試験例2〕
実施例1で得られたLiFePO
4を、リガク製X線回折装置を用いて、2θ:10〜70°の範囲でX線回折測定を行った。その結果を
図6(a)に示す。同様に、比較例1で得られたLiFePO
4を測定した。
図6(b)に、その結果を示す。また、表1に、実施例1で得られたLiFePO
4のリードベルド解析による格子定数(単位:Å)、単位胞体積(単位:Å
3)を示す。このとき、Rwp=7.94、Rp=5.92、Rf=1.18、S=1.9883であった。なお、格子定数の数値の後の括弧は、最後の桁を単位とする標準偏差を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
〔試験例3〕
図7に、電池特性評価に用いた電気化学セルの構成図を示す。
図7では、10は作用極、11は正極および集電体、12は不織布、13はセパレーター、14は負極および集電体、15は対極、16は電解液を示す。電極面積は1cm
2とした。合成したLiFePO
4粉末、アセチレンブラック(導電助剤)、ポリテトラフルオロエチレン(結着剤)を、質量比70:25:5で混合したもの(総量:0.1g)を正極11とした。負極14には、金属リチウムを用い、電解液16には、ポリカーボネートとジメトキシエタンを体積比1:1で混合した溶液に電解質として1mol/dm
3のLiClO
4を溶解した有機溶媒を用いた。集電体11には、ニッケルメッシュ、セパレーター13には、ポリプロピレン製メッシュ、さらに三井石油化学工業製不織布12を用いた。
【0048】
充放電測定は、充放電測定装置(北斗電工(株)製 HJ−101 SM6)を用いて行った。測定条件は、20℃の温度条件下、2端子法で、充放電レート0.2C(理論容量分を充放電するのにかかる時間を5時間とするレート)、電圧範囲2.5〜4.0Vで、充電・放電を10回繰り返した。
図8に、実施例1で得られたLiFePO
4の結果を、
図9に、実施例3で得られたLiFePO
4の結果を、
図10に、比較例1で得られたLiFePO
4の結果を示す。また、表2に、初期放電容量、10サイクル後の放電容量、容量維持率を示す。ここで、容量維持率は、〔(10サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)〕である(単位は、「%」)。
【0049】
【表2】
【0050】
〔試験例4〕
脱気した14g/dm
3のFeSO
4・7H
2O水溶液を用いて、超音波照射(200kHz)による溶液の変化を観察した。超音波照射前の水溶液は、ほぼ無色透明であったが、アルゴン雰囲気下で2時間照射した後の水溶液は、黄褐色になった。これら溶液の吸光度を測定した。超音波照射の前後では、全く異なる吸光度となった。表3に、これらの溶液の500nmにおける吸光度を示す。
【0051】
〔試験例5〕
試験例4で用いた水溶液に、2gの2−プロパノールを加えた以外は、試験例4と同様にして、試験例5を行った。表3に、この溶液の500nmにおける吸光度を示す。
【0052】
〔試験例6〕
脱気した100g/dm
3のFeSO
4水溶液1dm
3に、0.1dm
3の過酸化水素水(濃度:30質量%)を加え、水溶液中のFe濃度が試験例3と同じになるように希釈して吸光度を測定した。表3に、この溶液の500nmにおける吸光度を示す。
【0053】
【表3】
【0054】
図2、
図3からわかるように、2−プロパノールを添加して合成した実施例1で得られたLiFePO
4は、球状粉末およびロッド状粉末であり、粒度分布計(マイクロトラック社製UPA−EX)測定の結果、粒径は500nm程度(詳しくは、100〜400nmの球状粉末と、短軸径:100〜200nmで長軸径:300〜700nmのロッド状粉末)と非常に小さかった。これに対して、
図4、
図5に示すように、2−プロパノールを添加せずに合成した比較例1で得られたLiFePO
4は、球状粉末であり、粒径も700nm程度(大部分が600〜800nm)であった。また、
図6に示すように、実施例1では、全てのピークがLiFePO
4のピークと一致した。この結果、2−プロパノールを添加による不純物の生成は確認できなかった。比較例1でも、同様に全てのピークがLiFePO
4のピークと一致した。また、表1に示すように、実施例1で得られたLiFePO
4の結晶格子が斜方晶系(オリビン構造)であることがわかった。
【0055】
表2からわかるように、実施例1〜3で得られたLiFePO
4は、初期放電容量が94〜120(mAh/g)と大きく、10サイクル後の容量維持率も82〜99%と高かった。特に、実施例3では、超音波照射を、アルゴンより比熱比が小さい窒素雰囲気で行ったので、ラジカル生成が抑制され、その結果、初期放電容量が著しく高くなった、と考えられる。これに対して、比較例1のLiFePO
4は、初期放電容量が60(mAh/g)と低かった。なお、比較例1では、10サイクル後の容量維持率が100%より高くなっているが、LiFePO
4の表面がアモルファスや不活性なもので覆われていたためである、と考えられる。また、
図8、
図9からわかるように、3.2V以上での放電容量が高く、実用上も好ましいことがわかる。
【0056】
また、表3から以下が示唆される。試験例6から、Feが酸化することにより、吸光度が高くなることがわかり、試験例4では、同様に吸光度が高くなったことから、超音波照射中にFeが酸化していることがわかる。一方、2−プロパノールを添加した試験例5では、吸光度は変化しておらず、Feの酸化が著しく抑制されていることがわかる。
【0057】
以上より、本発明のLiFePO
4は、粒径は500nm程度と小さく、球状LiFePO
4粉末とロッド状LiFePO
4粉末とを含み、本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法によれば、容量が高く、サイクル特性のよいLiFePO
4を、水溶液中で簡便に製造することができることがわかった。