特許第5729842号(P5729842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5729842
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】銅粉
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20150514BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   B22F1/00 L
   B22F9/24 B
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-172140(P2013-172140)
(22)【出願日】2013年8月22日
(62)【分割の表示】特願2007-246083(P2007-246083)の分割
【原出願日】2007年9月21日
(65)【公開番号】特開2014-29029(P2014-29029A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2013年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】青木 晃
(72)【発明者】
【氏名】中村 芳信
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴彦
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−169770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅塩水溶液にアルカリ溶液を添加して得られた銅塩化合物スラリーに、ヒドラジン系還元剤を添加して亜酸化銅スラリーとし、当該亜酸化銅スラリーを水洗し、再スラリー化した洗浄亜酸化銅スラリーに再びヒドラジン系還元剤を添加する過程における最終還元反応が終了するまでに、リンと銅のモル比がP/Cu=0.0001〜0.003となるように、リン化合物を反応スラリーに添加する銅粉の製造方法により得られる銅粉であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積平均粒径D50が0.1μm〜5.0μmであり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した粒度分布の標準偏差SD及び前記体積累積平均粒径D50を用いて表されるSD/D50の値が0.2〜0.5であり、且つ、
大気雰囲気中、400℃で30分熱処理後の炭素含有量が0.01質量%未満であることを特徴とする銅粉。
【請求項2】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積10%粒径D10及び体積累積90%粒径D90を用いて表されるD90/D10の値が3.8以下である請求項1に記載の銅粉。
【請求項3】
前記銅塩化合物スラリーの銅濃度を1mol/L〜3mol/Lとする請求項1または請求項2に記載の銅粉。
【請求項4】
前記アルカリ溶液がアンモニア水溶液である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の銅粉。
【請求項5】
前記銅塩化合物スラリーに、ヒドラジン系還元剤を添加し、還元反応を行う際のpHを3.5〜6.0に調整する請求項1〜請求項のいずれかに記載の銅粉。
【請求項6】
前記銅塩化合物スラリーに、ヒドラジン系還元剤を添加し、還元反応を行う際のpH調整をアンモニア水溶液で行う請求項に記載の銅粉。
【請求項7】
前記洗浄亜酸化銅スラリーに再びヒドラジン系還元剤添加前のスラリーのpHを4.1〜6.0に調整することを特徴とする請求項1〜請求項のいずれかに記載の銅粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式法による銅粉の製造方法、特に、銅塩水溶液を出発液として、二段還元により銅粉を得る製造方法により得られる銅粉に関する。
【背景技術】
【0002】
銅粉は、銅ペーストや銅インクの原料として広く用いられてきた。例えば、銅ペーストは、粒径数μmの微小な粒子からなる銅粉に樹脂成分を適宜配合してなるものであり、スクリーン印刷法を用いたプリント配線板の回路形成、各種電気的接点部等に応用され、焼成または固化させ導体膜として導電性を発揮するものである。
【0003】
プリント配線板等の小型化を受けて、当該銅ペーストにより形成された回路の導電性、信頼性等の点で、銅粉の更なる改良が市場において求められている。例えば、微細配線では、電気的特性に関する微少な変動が製品に影響を及ぼす場合があるので、導電性フィラーについても電気的安定性が高精度なレベルで求められている。また、微細配線のファインライン化のために、微粒な導電性フィラーが求められている。しかし、銅粉は微粒になる程表面エネルギーが高くなり、凝集しやすいので、粒度分布幅が広くなり、微粒均一な銅粉を得るのは難しい。そこで、微粒均一な銅粉が求められている。
【0004】
また、導体形成の際、銅粉粒子に含まれる炭素成分により、高温焼成時に炭酸ガスが発生し、導体が不均一となり安定した導体形成の妨げとなる点が課題となっている。具体的には、銅粉粒子内部に炭素を多く含有する銅粉を銅ペーストの材料に用いると、高温焼成時に、形成された焼結膜の内部において炭酸ガスが発生する。この炭酸ガスにより、焼結膜の表面にクラックが発生したり、導体の内部欠陥が発生しやすくなる。このように、炭素、その他の不純物を含む銅粉は、抵抗値等の電気的特性に品質変動が生じる。このため、不純物が極力少ない純度の高い銅粉が求められていた。
【0005】
銅粉の製造方法の例として特許文献1には、湿式還元法を用いて、良好な粒径に制御されたフレーク銅粉が開示されている。また、特許文献2には、リン含有量が0.01〜0.10質量%であり、且つ、酸素含有量が0.30質量%以下である銅粉末を用いる外部電極用銅ペースト組成物が開示されている。この特許文献2には、外部電極用銅ペースト組成物に用いられる球状の銅粉末として平均粒径を1〜4μmとしており、外部電極用銅ペースト組成物に適度な粘性及び塗布性を得るために、有機ビヒクルを使用している。なお、この特許文献2に開示の銅粉末の製造方法は、湿式還元法、乾式法等、特に限定しておらず、水アトマイズ法により得られるものが好適であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−314755号公報
【特許文献2】特開2005−222737号公報
【特許文献3】特開2005−314755号公報
【特許文献4】特許3570591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微粒均一且つ低不純物な銅粉へのニーズに対し、アトマイズ法により製造された微粒銅粉の場合、炭素量が低く、分散性の点でも優れた銅粉を製造することができるが、粗粒を含み、微細配線などには不向きであるとともに他の不純物を含む傾向がある。そして、粗粒を解消するために分級を強化すれば製造長期化や収率の低下により、製造コストが高くなるといった問題があった。
【0008】
一方、従来の湿式還元法による銅粉は、一次粒子自体は微粒で均一になる傾向があるものの、反応性の観点から有機系の還元剤を用いることが多かった(例えば、特許文献3)。この結果、銅粉における有機剤吸着量が多くなるため、炭素の含有量が多くなる傾向がある。
【0009】
また、無機還元剤を用いた湿式還元法の場合(例えば、特許文献4)、炭素含有量についての上記課題は解消されるものの、凝集が生じやすく、得られる銅粉の粒度は分布が広くブロードなものであった。
【0010】
本発明は上記課題を受けて、粒度分布幅が極めて狭く、且つ不純物の含有量が少なく、導電率を高め、均質で高品質な銅粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、上記課題を達成する銅粉を得るに到った。
【0012】
本発明に係る銅粉は、銅塩水溶液にアルカリ溶液を添加して得られた銅塩化合物スラリーに、ヒドラジン系還元剤を添加して亜酸化銅スラリーとし、当該亜酸化銅スラリーを水洗し、再スラリー化した洗浄亜酸化銅スラリーに再びヒドラジン系還元剤を添加する過程における最終還元反応が終了するまでに、リンと銅のモル比がP/Cu=0.0001〜0.003となるように、リン化合物を反応スラリーに添加する銅粉の製造方法により得られる銅粉であって、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積平均粒径D50が0.1μm〜5.0μmであり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した粒度分布の標準偏差SD及び前記体積累積平均粒径D50を用いて表されるSD/D50の値が0.2〜0.5であり、且つ、大気雰囲気中、400℃で30分熱処理後の炭素含有量が0.01質量%未満であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る銅粉は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積10%粒径D10及び体積累積90%粒径D90を用いて表されるD90/D10の値が3.8以下であることが好ましい。
【0014】
更に、本発明に係る銅粉は、前記銅塩化合物スラリーの銅濃度を1mol/L〜3mol/Lとすることが好ましい。
【0015】
本発明に係る銅粉は、前記アルカリ溶液がアンモニア水溶液であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る銅粉は、前記銅塩化合物スラリーに、ヒドラジン系還元剤を添加し、還元反応を行う際のpHを3.5〜6.0に調整することが好ましい。
【0017】
本発明に係る銅粉は、前記銅塩化合物スラリーに、ヒドラジン系還元剤を添加し、還元反応を行う際のpH調整をアンモニア水溶液で行うことが好ましい。
【0018】
本発明に係る銅粉は、前記洗浄亜酸化銅スラリーに再びヒドラジン系還元剤添加前のスラリーのpHを4.1〜6.0に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る銅粉は、不純物の含有を極力排除しながら、粒度分布幅が極めて狭い銅粉を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る銅粉を製造する際におけるリン化合物添加量と粒度分布幅との関係を示す図である。
図2】実施例1で得られた銅粉の粒度体積基準分布図である。
図3】実施例1で得られた銅粉のSEM像である。
図4】実施例2で得られた銅粉の粒度体積基準分布図である。
図5】実施例2で得られた銅粉のSEM像である。
図6】比較例2で得られた銅粉の粒度体積基準分布図である。
図7】比較例3で得られた銅粉の粒度体積基準分布図である。
図8】比較例3で得られた銅粉のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る銅粉の最良の実施の形態に関して説明する。
【0022】
銅粉の製造方法:まず、本発明に係る銅粉を製造する方法の前提となる工程の概略を説明する。最初に、銅塩水溶液にアルカリ溶液を添加して銅塩化合物スラリーにする。この銅塩化合物スラリーにヒドラジン系還元剤を添加して亜酸化銅スラリーとする(第1還元処理)。次に、亜酸化銅スラリーを水洗し再スラリー化して洗浄亜酸化銅スラリーとし、この洗浄亜酸化銅スラリーに再びヒドラジン系還元剤を添加する工程(第2還元処理)を経て銅粉を還元析出させて銅粉を得るのである。
【0023】
そして、本発明に係る銅粉を製造する際には、上記工程において、最終還元反応終了時までに、モル比でP/Cu=0.0001〜0.003となる量のリン化合物を反応スラリーに添加することが好ましい。即ち、上述した銅粉を製造する方法において、銅に対して極めて微量のリン成分を添加することより、析出粒子の成長過程での凝集を抑えて、粒度分布幅が極めて狭く且つ低不純物である高品質な銅粉を製造することができるのである。以下、銅粉の製造方法を詳述する。
【0024】
まず、銅塩水溶液にアルカリ溶液を添加することにより、銅塩と反応させて銅塩化合物が生成し、これを銅塩化合物スラリーとする。例えば、銅塩水溶液にアルカリ溶液を30分掛けて徐々に添加し、その後30分静置して熟成させることにより、銅塩と反応させて、二価の銅化合物を得る。
【0025】
ここで、銅塩水溶液は、水に水溶性銅塩を加え、部分溶解させたものである。水溶性銅塩は、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化銅等が考えられ、中でも硫酸銅、硝酸銅が好ましい。また、アルカリ溶液としては、アンモニア水溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。特に、アンモニア水溶液を用いると、不純物を排除し、純度の高い銅粉が得られる点で好ましい。
【0026】
銅塩化合物スラリーの銅濃度は、1mol/L〜3mol/Lとすることが好ましい。銅塩化合物スラリーの銅濃度が1mol/L未満であると、従来と比べ生産の効率化を図るという効果が得られない。一方、銅塩化合物スラリーの銅濃度が3mol/Lを上回ると、凝集が生じやすくなり、粒度分布の制御が難しく製造安定性が望めない。そして、より好ましい銅塩化合物スラリーの銅濃度は、1.5mol/L〜2.5mol/Lである。
【0027】
アルカリ溶液は、中和生成物としての銅塩化合物を得られる量であれば良く、後の工程におけるpHとの関係を考慮する。例えば、アルカリ溶液としてアンモニア水溶液を用いる場合、その添加量は、銅1molに対してアンモニア成分が1.0mol〜3.8molとなるように用いる。アンモニア成分がこの範囲を外れると、後の還元工程における適正なpH範囲へのコントロールが困難となる。
【0028】
本発明に係る銅粉を製造する際には、銅塩化合物スラリーの銅濃度を比較的高濃度となるように液量を調整するのが好ましい。従来の湿式還元法では、還元前の銅塩化合物スラリーの銅濃度を高くすると、析出粒子の凝集が生じやすく、粒度分布幅が狭い銅粉を効率良く製造することが出来なかった。しかし、本発明に係る銅粉を製造する際には、pH変動範囲の調整、使用物質の混合条件等を種々調整することで、還元反応前の銅塩化合物スラリーの銅濃度を上記範囲としても、粒度分布幅が極めて狭い銅粉を得ることができる。
【0029】
次に、前記銅塩化合物スラリーにヒドラジン系還元剤を添加して亜酸化銅スラリーとする(第1還元)。本発明に係る銅粉を製造する際には、銅塩化合物を亜酸化銅に還元する程度にヒドラジン系還元剤の添加量を調整して亜酸化銅スラリーとする。即ち、第1還元処理により、亜酸化銅スラリーを調製し、後の第2還元処理時の反応を安定化させ、還元析出させる粒子の均一化を図るのである。
【0030】
この第1還元処理時にヒドラジン系還元剤を用いると、亜酸化銅粒子の表面に対して還元剤成分が残留する可能性が低く、汚染物質となりにくい。
【0031】
ヒドラジン系還元剤としては、抱水ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、無水ヒドラジン等種々のものが考えられるが、抱水ヒドラジンが最も好ましい。これらのヒドラジン系還元剤は、単独または混合して用いることが可能である。そして、ヒドラジン系還元剤は、反応系の溶液に迅速に拡散し、均一な反応を得るために、溶液の状態で反応に用いることが好ましい。
【0032】
ヒドラジン系還元剤の添加量は、銅塩化合物スラリー中の銅1molに対して0.3mol〜0.5molとするのが好ましい。ヒドラジン系還元剤の添加量が、上記銅1molに対して0.3mol未満の場合には、未反応の銅塩化合物が多く残留するため好ましくない。一方、ヒドラジン系還元剤の添加量が上記銅1molに対して0.5molを超えるように添加すると、亜酸化銅の段階で還元反応を止めることができない。
【0033】
なお、銅塩化合物スラリーにヒドラジン系還元剤を添加し還元反応を行う際のpHを3.5〜6.0に調整する。この溶液pHが上記範囲を外れると、得られる亜酸化銅粒子の粒径のバラツキが大きくなり、最終的製品である銅粉粒子の粒度分布幅が広くなる。
【0034】
この銅塩化合物スラリーから亜酸化銅スラリーにする第1還元処理では、ヒドラジン系還元剤を添加しつつ、pH調整剤としてアンモニア水溶液を用いて、pH変動を制御しながら還元処理を行うのが好ましい。このように、pH調整剤としてアンモニア水溶液を用いるのは、銅塩化合物スラリーの生成時にアルカリ溶液としてアンモニアを用いて中和したことを考慮すると、使用物質を同一にして、異種成分の使用を可能な限り排除して、残留不純物を極力排除するためである。この結果、得られる銅粉の純度コントロールが容易となる。
【0035】
上述の第1還元処理においては、銅塩化合物スラリー中の銅1molに対し、添加終了時において、ヒドラジン系還元剤が0.3mol〜0.5molとし、アンモニア水溶液が(アンモニアとして)0.2mol〜0.4molの割合となるように連続添加することが好ましい。こうして添加された反応スラリーのpHは、還元剤及びpH調整剤の添加開始時の始点pHと添加終了時の終点pHとの差が3.0以下となるように調整すればよい。
【0036】
ここで、亜酸化銅スラリーは亜酸化銅を含有するスラリーを意味し、亜酸化銅以外の構成成分を含む場合もある。後述する洗浄亜酸化銅スラリーについても同様である。
【0037】
そして、得られた亜酸化銅スラリーのpHを3.5〜6.0の範囲にすると、以降の工程において反応スラリーのpH変動を好適な範囲に抑えられる。この結果、得られる銅粉の粒径の均一化を図ることができる。亜酸化銅スラリーをpH6.0よりアルカリ性側とすると、亜酸化銅スラリー中の銅成分が亜酸化銅に止まらずメタルを形成して凝集が生じる。一方、亜酸化銅スラリーをpH3.5より酸性側とすると、亜酸化銅の還元が不十分となり、製造効率が低下する。
【0038】
そして、第1還元処理時の反応スラリー温度は、40℃〜60℃の範囲を採用することが好ましい。40℃未満の温度では、還元反応速度が遅く工業的生産性を満足しない。一方、反応スラリーの温度が60℃を超えると、還元速度が速くなりすぎて不均一な還元反応が起こるため、得られる銅粉の粉体特性が劣化する。
【0039】
次に、亜酸化銅スラリーを水洗し、再スラリー化して洗浄亜酸化銅スラリーとする。まず、亜酸化銅スラリーを静置して亜酸化銅粒子を沈殿させる。亜酸化銅粒子の沈殿後、上澄液を除去して水を添加することにより亜酸化銅粒子を洗浄し、再スラリー化して洗浄亜酸化銅スラリーとする。洗浄亜酸化銅スラリーのpHが4.1〜6.0であると、以降の工程におけるpH変動を好適な範囲に抑えられ、得られる銅粉の粒径を精度良く揃えることができる。
【0040】
亜酸化銅粒子の洗浄方法に関しては、特段の限定はなく、公知の洗浄方法を採用することが可能である。しかし、以下に示すリパルプ洗浄を採用して、洗浄レベルを洗浄中の亜酸化銅スラリーのpH値で管理することが好ましい。リパルプ洗浄は、亜酸化銅を沈殿させて上澄みを廃棄し、洗浄水を注ぎ足すという操作を複数回行う。そして、リパルプ洗浄は、洗浄水を注ぎ足した洗浄亜酸化銅スラリーのpHが4.1〜6.0の範囲のいずれか一定のpH値になるまで繰り返し洗浄するのが好ましい。洗浄亜酸化銅スラリーのpHが4.1より酸性側にあると、還元効率が悪くなる。一方、洗浄亜酸化銅スラリーのpHが6.0よりアルカリ性側にあると、その後、銅粉を得るために還元剤を添加する際の反応のバラツキが大きく、分散性が劣る等粉体特性が悪くなる。
【0041】
そして、より好ましくは、洗浄亜酸化銅スラリーは、pH4.3〜4.7の範囲のいずれか一定のpHになるまで洗浄する。洗浄亜酸化銅スラリーのpHをこの範囲とすることにより、工程安定性に最も優れる。
【0042】
こうして調製された洗浄亜酸化銅スラリーにヒドラジン系還元剤を添加して銅粉を還元析出させる(第2還元処理)。そして、析出粒子を濾過、洗浄、乾燥させて銅粉を得る。添加するヒドラジン系還元剤の量は、添加終了時において、洗浄亜酸化銅スラリーに含まれる銅1molに対して0.3mol〜1.5molの割合で添加することが好ましい。そして、銅塩化合物スラリーに添加するヒドラジン系還元剤と、洗浄亜酸化銅スラリーに添加するヒドラジン系還元剤は、トータルで銅1molに対して0.6mol〜2.0molの割合にする。
【0043】
ヒドラジン系還元剤の添加により還元反応を行う直前のスラリーpHを4.1〜6.0の範囲に調整するのが好ましい。還元反応時のpHが4.1より酸性側であると、粗粒が増えて分散性が悪くなる。一方、還元反応時のpHが6.0よりアルカリ性側にあると、還元剤が多くなり微粒な析出粒子数が過剰に多くなる。
【0044】
なお、銅塩化合物スラリーにヒドラジン系還元剤を添加する(第1還元処理)と同様に、ヒドラジン系還元剤を添加する(第2還元処理)前の洗浄亜酸化銅スラリーの銅濃度を、1mol/L〜3mol/Lとなるように液量調整すると、粒度分布幅が狭い銅粉を得ることができる。なお、より好ましい銅濃度は、1.5mol/L〜2.5mol/Lである。
【0045】
添加するヒドラジン系還元剤の温度は40℃〜60℃の範囲の一定温度レベルに保つことが好ましい。ヒドラジン系還元剤の温度が40℃より低いと、還元反応が鈍くなり、工業上望ましい生産性を満たさない。一方、ヒドラジン系還元剤の温度が60℃より高いと、還元反応が早くなりすぎて粒径が不揃いとなりやすい。
【0046】
第1還元処理と第2還元処理で用いる還元剤は、同種のヒドラジン系還元剤を用いるので、還元剤としてのヒドラジン類の還元能が粉体特性の良好な銅粉を得るのに適している。加えて、銅粉の還元に用いる異種成分を可能な限り少なくし、銅粉の粒子表面への不純物質の混入を抑制することができる。
【0047】
なお、第2還元処理が終了した段階の反応スラリーの状態のまま、流体ミル法(ファインロールミル等)、層流混合法(T.K.フィルミックス等)を用いて、高速で遠心流動するスラリー内で、粒子同士を衝突させて解砕し、一次粒子に近付け、同時に粒子表面の平滑化を行う解粒処理を施し、粒子分散性を更に向上させることも好ましい。
【0048】
リン化合物の添加:本発明に係る銅粉を製造する際には、上述の製造過程において、最終還元反応が終了するまでに、リンと銅のモル比がP/Cu=0.0001〜0.003となるように、リン化合物を反応スラリーに添加する。リン化合物を添加することにより、リン化合物が立体障害として作用し、析出粒子の凝集成長を防ぎ、単分散化を図ることができる。その結果、得られた銅粉の粒度分布は飛躍的に狭くすることができる。
【0049】
リン化合物は、反応スラリー中のリンと銅のモル比がP/Cu=0.0001〜0.003と、極めて微量を添加する。不純物含有量を抑えて、高純度の銅粉を得るためには、製造工程における添加物質の量や種類を極力抑える必要がある。しかし、微粒化を図ると、凝集しやすくなるので、微粒且つ粒度分布幅の極めて狭い銅粉を得るためには、リン化合物の添加が有効である。本発明者等は、リン化合物の添加量を最小限とすべく検討した結果、上記割合でリン化合物を添加すると、最も効果的であることに想到したのである。
【0050】
ここで、図1に、リン化合物の添加割合と、粒度分布幅との相関を示す。図1のグラフでは、横軸にリン化合物の添加割合を示すP/Cuをとり、縦軸には銅粉の粒度分布幅の広さを示す値として、体積累積平均粒径D50及びレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した粒度分布の標準偏差SDを用いて表されるSD/D50の値をとった。
【0051】
ここでいう標準偏差SDとは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いて得られる全粒径データのバラツキを表す指標であり、この値が大きな程、バラツキが大きなものとなる。そして、標準偏差SDと、体積累積平均粒径D50との比であるSD/D50により粒度分布幅の程度を示す。この値が大きい程、粒度分布幅が広いと言える。
【0052】
図1を見ると、リンを添加しない場合(P/Cu=0)からP/Cu=0.0001より少ないリン添加量の場合は、SD/D50の値が0.55を上回る値となり、リンを添加することによる単分散化の効果が十分に得られない。これに対し、リン添加割合が、P/Cu=0.0001以上にすると、SD/D50の値が顕著に低下する。そして、本発明の上限であるP/Cu=0.003を上回る量のリンを添加しても、SD/D50の値に変化が見られない。そもそも、本発明は、不純物含有量を抑えた高純度の銅粉を得ることを目的としているので、リンの添加量は最小限に抑えたい。したがって、リンの添加量の上限をP/Cu=0.003とする。
【0053】
リン化合物の添加時期は、洗浄亜酸化銅スラリーにヒドラジン系還元剤を添加し、その還元反応が終了するまでのいずれかの段階でリン化合物を上記割合で添加すれば良い。特に、洗浄亜酸化銅スラリーを調製した後に添加すると、洗浄後になるので、リン化合物の添加量を少量に抑えることができるので、不純物含有量を抑える点で好ましい。
【0054】
リン化合物としては、反応スラリーにおいてリン成分を効率良く分散させるためには水溶性リン化合物が好ましい。水溶性リン化合物としては、リン酸ナトリウム、リン酸、次亜リン酸アンモニウムのいずれかを用いることが好ましい。特に、次亜リン酸アンモニウムを用いると、微粒且つ均一な粒径の粒子の析出に好適である。
【0055】
以上のようにして得た銅粉は、濾過、洗浄、乾燥等の一般的工程を経て、銅粉として製品化される。そして、この銅粉は、耐酸化性を向上させるため、有機表面処理を施すことが好ましい。表面処理剤としては、必要に応じて脂肪酸又はアミン類のいずれかを含むのが好ましく、具体的には、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸やオクタデシルアミン、オレイルアミン等のアミン類が好ましい。また、乾燥した銅粉の状態でも、必要に応じて分級装置、ハイブリタイザー、ターボクラシファイア等の粒子同士の衝突処理が可能な装置を用いて解粒処理を行い、粒子分散性を向上させることも可能である。
【0056】
本発明に係る銅粉:本発明に係る銅粉は、上述の銅粉を製造する方法により得られる銅粉である。そして、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積平均粒径D50が0.1μm〜5.0μmであり、粒度分布幅の広さを示す前記SD/D50の値が0.2〜0.5であることを特徴とするものである。言い換えると、上記銅粉の製造方法を用いると、D50=0.1μm〜5.0μmの大きさの銅粉を前記SD/D50の値が0.2〜0.5という粒度分布幅が狭い状態で製造可能となる。
【0057】
本発明に係る銅粉は、D50が0.1μm未満となると、微粒化に伴う凝集が生じる。その一方で、凝集を抑えるためにリン化合物の添加量を増やすと、微細配線の形成回路の導電不良を起こさないレベルの低不純物量にするという本発明の目的が達成できない。一方、D50が5.0μmを上回るレベルとなると、微細配線の形成には適さない。なお、より好ましい平均粒径D50は0.5〜3.5μmである。
【0058】
そして、一般に、微粒粉は凝集しやすいが、本発明に係る銅粉は、D50が0.1μm〜5.0μmという微粒な範囲の粒径でありながら、SD/D50=0.2〜0.5という粒度分布幅が極めて狭いシャープな銅粉である。上述の通り、SD/D50は、銅粉の粒度分布幅の程度を示す。そして、SD/D50の値が0.2〜0.5という範囲であると、凝集が少なく、0.5を上回ると、粒子のバラツキが多く、微細配線の形成に適さない。
【0059】
また、本発明に係る銅粉は、大気雰囲気中、400℃で30分熱処理した後の炭素含有量が0.01質量%未満であり、炭素含有量が極めて低い。ここで、本発明に係る銅粉は酸化防止のための有機表面処理を施しているが、この表面処理剤は、200℃〜300℃付近で銅粉の表面から消失する。したがって、400℃で30分焼成後の銅粉は、表面処理剤が除去された状態であり、この状態で測定した銅粉の炭素含有量は、焼成により導体膜が形成される温度下の銅粉の炭素含有量を推定できるのである。なお、本明細書における銅粉の炭素含有量は、炭素分析装置(堀場製作所社製 EMIA−320V)を用いて測定した。
【0060】
本発明に係る銅粉を銅ペースト等に用いた場合、銅ペーストの焼成時に、導体表面の焼結開始温度以前に表面処理剤は消失し、その後、銅体表面に焼結膜が形成された後は、導体内部に炭酸ガスが発生しないので、導体表面のクラックの発生を防止し、高品質な導体を形成することができる。
【0061】
以下、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例2における銅粉の製造条件が対比しやすいように、製造条件の概略を表1に掲載する。
【0062】
【表1】
【実施例1】
【0063】
まず、純水6.5Lに硫酸銅6000gを投入して撹拌し、その後、液温を50℃に保持しつつ、硫酸銅水溶液(銅塩水溶液)の液量が9Lとなるように、更に水を添加して、濃度を調整した。当該硫酸銅水溶液に、アンモニア水溶液(濃度25wt%)2537mlを30分で添加して中和し、銅塩化合物スラリーを得た。そして、銅塩化合物スラリーを30分静置して熟成させた。ここまでは銅塩化合物スラリーの液温を50℃に保持したが、熟成後は液温を45℃に調整した。
【0064】
次に、銅塩化合物スラリーの銅濃度が2.0mol/Lとなるように水を添加して液量を調整した。この銅塩化合物スラリーをpH6.3、液温50℃の条件に保ち、ここに、ヒドラジン1水和物(ヒドラジン系還元剤)450gとpH調整剤としてのアンモニア水溶液(濃度25wt%)591mlとを30分間かけて連続添加し、亜酸化銅スラリーとした(第1還元処理)。そして、還元反応を完全に行うため、更に30分間撹拌を続けた。
【0065】
その後、リパルプ洗浄のため、亜酸化銅スラリーに純水を加えて18Lに液量調整した後、静置して亜酸化銅粒子を沈殿させ、静置後の上澄液を14L抜く操作を、pHが4.7になるまで繰り返した。そして、温めた純水8Lを加えて全液量を12Lにし、液温を45℃に維持して、銅濃度を2.0mol/Lに調整し、これを洗浄亜酸化銅スラリーとした。
【0066】
銅濃度調整後の洗浄亜酸化銅スラリーに、次亜リン酸アンモニウム3.02gを添加し、5分間撹拌した(リン化合物添加工程)。
【0067】
再び、洗浄亜酸化銅スラリーの銅濃度が2.0mol/Lとなるように水を添加して液量を調整した。この洗浄亜酸化銅スラリーに、ヒドラジン1水和物(ヒドラジン系還元剤)1200gを30分間で添加した。次に、更に15分間撹拌を行い、還元反応を完全に行わせ銅粉を還元析出させた(第2還元処理)。
【0068】
析出した銅粒子を濾過して採取した。そして、洗浄後、当該銅粉に、オクタデシルアミン1.5gを溶解させたメタノール溶液5Lに入れ有機表面処理を施し、濾別分離後、70℃、5時間の加熱乾燥を行い、更に解砕処理を施して銅粉を得た。
【0069】
実施例1で得られた銅粉について、D10、D50、D90、BET比表面積、タップ充填密度、炭素含有量を測定した。また、得られた銅粉のBET比表面積に基づいて比表面積径DBETを算出した。また、実施例1で得られた有機表面処理後の銅粉を、大気雰囲気、400℃で30分焼成した後の炭素含有量を測定した。この結果を表2に示す。また、粒度体積基準分布図を図2に示し、走査型電子顕微鏡(SEM)像を図3に示す。以下、それぞれの測定方法について示す。
【0070】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積平均粒径D50:銅粉0.1gをSNディスパーサント5468の0.1%水溶液(サンノプコ社製)と混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製 US−300T)で5分間分散させた後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置 Micro Trac HRA 9320−X100型(Leeds+Northrup社製)を用いて、流量速度50cm/minで測定した。体積累積50%における粒径をD50とし、同様にして、体積累積10%ならびに90%の粒径D10、D90を測定した。
【0071】
タップ充填密度(TD):パウダースターPT−E(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて測定した。
【0072】
比表面積:試料2.00gを75℃で10分間の脱気処理を行った後、モノソーブ(カンタクロム社製)を用いてBET1点法で測定した。そして、比表面積径DBETは、得られた銅粉を真球と仮定し、BET1点法で測定した比表面積SSAと、銅の真比重8.92とを用いた式DBET=6/(8.92×SSA)を用いて算出した。
【0073】
炭素含有量:400℃で30分保持後の炭素含有量を炭素分析装置(堀場製作所社製 EMIA−320V)を用いて測定した。
【実施例2】
【0074】
実施例2は、実施例1と比べて、リン化合物の添加時期が異なる例である。
【0075】
即ち、洗浄亜酸化銅スラリーに次亜リン酸アンモニウムを添加する代わりに、硫酸銅水溶液の液温を50℃に保持しつつ、リン化合物としてリン酸三ナトリウム12水和物11.06gを添加する以外は実施例1と同様の方法で銅粉を得た。
【0076】
実施例2で得られた銅粉について、実施例1と同様のデータを測定、算出した。この結果を表2に示す。また、体積基準粒度分布図を図4に示し、走査型電子顕微鏡(SEM)像を図5に示す。
【比較例】
【0077】
[比較例1]
比較例1は、湿式還元法による銅粉の製造に際し、有機系還元剤を用いる例である。
【0078】
まず、60℃の純水3Lに硫酸銅5水和物400gを添加し、二価の銅イオンを含む銅塩水溶液を準備する。そして、温度60℃に保持した銅塩水溶液に、純水を加え、銅濃度を2mol/Lとした。
【0079】
次に、銅塩水溶液の液温を60℃に保ち、25%水酸化ナトリウム水溶液460mlとを順に添加し、銅塩化合物スラリーを得た。
【0080】
次に、銅塩化合物スラリーの液温を50℃に維持して、ヒドラジン1水和物100gを30分間で添加した。更に60分間撹拌を行い、還元反応を完全に行わせ銅粉を還元析出させた。
【0081】
このようにして得た銅粉を濾過して採取した。そして、当該銅粉に、オクタデシルアミン1.5gを溶解させたメタノール溶液5Lに入れ有機表面処理を施し、30分間撹拌し、80℃、5時間の加熱乾燥を行って粉体を得た。得られた銅粉の粉体特性について、実施例1と同様のデータを測定した。この結果、粒度分布はシャープであるものの、400℃で30分焼成後の炭素含有量が0.07wt%となった。
【0082】
[比較例2]
比較例2は、湿式還元法による銅粉の製造に際し、リン化合物を添加しない例である。即ち、リン化合物を全く添加しない点以外は、実施例1と同様の方法で銅粉を得た。得られた銅粉の粉体特性について、実施例1と同様のデータを測定、算出した。この結果を表2に示す。また、比較例2で得られた銅粉の体積基準粒度分布図を図6に示す。
【0083】
[比較例3]
比較例3は、特許文献4に開示の方法を用いて、銅含有溶液の濃度を実施例1の銅塩含有スラリーと同等の濃度とした例である。まず、硫酸銅五水和物395gと純水0.05Lとを混合し、更に、ピロリン酸ナトリウム40gを添加して銅含有溶液を作製した。次に、この銅含有溶液中に、濃アンモニア水(濃度28%)500gを加え、混合して銅アンモニア錯イオン溶液を作製した。この銅アンモニア錯イオン溶液中に純水を加えて全液量を0.79Lにし、実施例1と同じ銅濃度とした。この銅アンモニア錯イオン溶液に、還元剤として飽水ヒドラジン200gを30℃の温度下で添加して混合した後、液温を80℃まで上昇させて2時間維持することにより反応を十分に行わせた。その後、金属銅として得られた銅粉末を溶液中から回収し、洗浄した。
【0084】
なお、上述の通り、比較例3では、リン化合物であるピロリン酸ナトリウムを銅含有溶液作製時に添加し、その後、還元反応を行わせている。得られた銅粉の粉体特性について、実施例1と同様のデータを測定、算出した。この結果を表2に示す。また、比較例3で得られた銅粉の体積基準粒度分布図を図7に示し、走査型電子顕微鏡(SEM)像を図8に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
以下、実施例で得られた銅粉と比較例で得られた銅粉とを対比する。
【0087】
まず、実施例について、図2の粒度体積基準分布図を見ると、粒径1μmを頻度ピークとして、粒度分布幅が狭くシャープな分布を示している。それは、SD/D50、D90/D10の値が低いことからも明らかである。タップ充填密度(TD)は低い値を示した。更に、収率は96%と高い値を示している。大気雰囲気、400℃で30分焼成後の炭素含有量については、測定装置で検出可能な下限である0.01wt%に達する量とはならなかったので、0.01wt%未満とした。
【0088】
次に、実施例1及び実施例2と比較例1とを対比すると、実施例1及び実施例2の炭素含有量は0.01wt%未満であるのに対し、比較例1は0.07wt%であり、炭素含有量が多い。有機還元剤を使用した比較例1の銅粉は、本発明に係る銅粉の炭素含有量を大きく上回る値を示し、このような炭素含有量レベルの銅粉は、本発明の課題である微粒且つ、導体の安定した形成と導電性向上を図ることが難しい。
【0089】
次に、実施例2と比較例2とを対比すると、平均粒径ならびに炭素含有量は同等である。しかし、SD/D50、D90/D10は実施例が著しく低く、SD/D50に至っては、約3割程度の顕著な差が見られ、実施例の粒度分布幅が狭いことが明白である。
【0090】
比較例3で得られた銅粉は、図7に示す銅粉の走査型電子顕微鏡(SEM)像を見ると、凝集が多く発生していることが明らかである。また、図7に示す走査型電子顕微鏡像の画像解析により得られる一次粒子の平均径は2μm程度であるものの凝集が激しく、その結果、D50=34.68μm程度となっている。また、SD/D50は低いものの上記のとおり、凝集粒子の大きさは実施例に比べ、はるかに大きく、微粒銅粉としての粒度分布を呈したものとは言い難い。したがって、粗粒が多く含まれ微細配線の形成には不適である。また、収率も実施例に劣ることは明らかである。即ち、比較例3の方法では、粒度分布がシャープな微粒銅粉を高収率で製造することは難しいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る銅粉の製造方法は、粒子の均一化を図り、従来品より不純物が少ない銅粉を製造することができる。そして、得られた銅粉は、スクリーン印刷法による導体形成用の材料として用いると、微細配線の形成不良を防ぎ、且つ電気的安定性に優れた導体形成が可能となる。したがって、本発明に係る銅粉は、微細配線の形成材料に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8