(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5729917
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】振動減衰装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
F16F15/02 C
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-102454(P2010-102454)
(22)【出願日】2010年4月27日
(65)【公開番号】特開2011-231849(P2011-231849A)
(43)【公開日】2011年11月17日
【審査請求日】2013年3月5日
【審判番号】不服2014-10009(P2014-10009/J1)
【審判請求日】2014年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】高月 清昭
(72)【発明者】
【氏名】板屋 光彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 和光
【合議体】
【審判長】
冨岡 和人
【審判官】
森川 元嗣
【審判官】
島田 信一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−263411(JP,A)
【文献】
特開平6−101748(JP,A)
【文献】
特開平2−66339(JP,A)
【文献】
特開2000−213591(JP,A)
【文献】
特開平11−141600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 15/00 - 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに接続される管状部材を第1管状部材と第2管状部材とに分割し、前記第1管状部材の端面部と前記第2管状部材の端面部との間に中間部品を配置して前記2つの端面部に固定することによって、前記管状部材の途中に前記中間部品が取り付けられる前記管状部材の振動減衰装置であって、
板状のブラケット部を有し、密閉された閉空間を内部に区画するケースと、
前記ケースの閉空間に非圧縮状態で収容され、前記ケースの振動を受けて振動する粉粒体と、を備え、
前記ケースは、前記ブラケット部の一側の縁部を前記2つの端面部の一方に固定することによって前記管状部材に片持ち状に支持され、
前記閉空間に収容される粉粒体の量は、前記管状部材の振動の大きさに応じて設定される
ことを特徴とする振動減衰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体の振動エネルギを吸収する振動減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性を有するラバーを介してマスを振動体に固定し、ラバーによってマスを共振させることによって振動体の振動を吸収するダイナミックダンパが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−73491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のダイナミックダンパでは、所定の共振周波数において振動吸収効果を発揮するため、ラバーのバラツキや経時変化によって設計上の共振周波数と実際の共振周波数とが相違してしまうと、所望の振動吸収効果を得ることができない。
【0005】
また、樹脂製のラバーを振動体に近接又は接触させるので、車両の排気管のように高温状態になる振動体に対して使用することができない。
【0006】
さらに、車両の排気管の周辺のようにオゾンが発生する環境下で使用すると、ラバーが劣化して破断し易くなり、耐久性が不足する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであって、所望の振動吸収効果を確実に得ることができ、高温状態となる振動体に対しても使用することができ、且つオゾンが発生する環境下で使用した場合であっても十分な耐久性を得ることが可能な振動減衰装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、
エンジンに接続される管状部材を第1管状部材と第2管状部材とに分割し、第1管状部材の端面部と第2管状部材の端面部との間に中間部品を配置して上記2つの端面部に固定することによって、管状部材の途中に中間部品が取り付けられる管状部材の振動減衰装置であって、ケースと粉粒体とを備える。ケースは、
板状のブラケット部を有し、密閉された閉空間を内部に区画し、
ブラケット部の一側の縁部を上記2つの端面部の一方に固定することによって管状部材に片持ち状に支持される。粉粒体は、ケースの閉空間に非圧縮状態で収容され、ケースの振動を受けて振動する。
【0009】
ケース及び粉粒体の材質としては、金属が好適である。また、閉空間に収容する粉粒体
の量(総重量)は、振動体
(管状部材)の振動の大きさやケースの重さに応じて設定される。
【0010】
上記構成では、振動体からの振動を受けてケースが振動すると、閉空間内の粉粒体も振動しケースに衝突するという挙動を繰り返す。粉粒体は、このような挙動を繰り返すことによって、振動体の振動を吸収する。
【0011】
すなわち、上記振動減衰装置は、所定の共振周波数において振動吸収効果を発揮するものではなく、粉粒体の挙動によって振動体の振動を吸収するものであるため、比較的広い周波数の範囲で振動吸収効果を発揮する。従って、所望の振動吸収効果を確実に得ることができる。
【0012】
また、金属製のケース及び粉粒体を用いることにより、高温状態となる振動体に取り付けて使用することができ、且つオゾンが発生する環境下で使用した場合であっても十分な耐久性を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望の振動吸収効果を確実に得ることができ、高温状態となる振動体に対しても使用することができ、且つオゾンが発生する環境下で使用した場合であっても十分な耐久性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1の振動減衰装置のカバー部を外した状態を示す斜視図である。
【
図3】
図1の振動減衰装置を排気管に取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図4】
図1の振動減衰装置を使用した振動モデルを示す模式図である。
【
図5】
図1の振動減衰装置による振動低減効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1〜
図3に示すように、振動減衰装置(ダンパ)1は、ケース2と多数の粉粒体3(
図2参照)とを備え、車両の排気管(振動体
、管状部材)10に取り付けられる。ケース2と粉粒体3とは、ともに金属製である。
【0017】
ケース2は、L状に曲折形成された板状のブラケット部4と、ブラケット部4に固定された矩形箱状のケース本体5と、平板状のカバー部6とを有する。ケース本体5は、図中上方に開放面を有し、この開放面からケース本体5の内部に粉粒体3が流入される。粉粒体3を流入した後、カバー部6は、ケース本体5の開放面を閉止した状態でケース本体5に溶着される。これにより、ケース本体5の内部に密閉された矩形状の閉空間9が形成され、閉空間9内に粉粒体3が収容(封入)された状態となる。ブラケット部4には、排気管10の外周に沿った湾曲形状の切り欠き7と、2箇所の取付穴8とが形成されている。
【0018】
図3に示すように、排気管10は、その途中で上流側排気管
(第1管状部材)11と下流側排気管
(第2管状部材)12とに分割され、上流側排気管11と下流側排気管12との間には、排気ブレーキバルブ
(中間部品)13が配置される。上流側排気管11及び下流側排気管12の各端面部には、それぞれ排気管側フランジ部14が形成され、排気ブレーキバルブ13には、バルブ側フランジ部15が形成される。2つの排気管側フランジ部14の間に排気ブレーキバルブ13を配置した状態で、排気管側フランジ部14とバルブ側フランジ部15とをボルト16及びナット17により締結固定することによって、排気ブレーキバルブ13が排気管10の途中に取り付けられる。この取り付けに際し、ブラケット部4の2つの取付穴8にそれぞれボルト16を挿通させてからナット17を締め付けることにより、ブラケット部4(ケース2)が排気管側フランジ部14(排気管10)に固定される。
【0019】
粉粒体3は、例えば金属製の剛球であり、閉空間9に非圧縮状態で収容される。非圧縮状態とは、ケース2の上下方向の振動を受けて振動し、閉空間9内で移動してケース2に衝突するという挙動を起こし得る程度に、粉粒体3が移動可能な状態をいう。
【0020】
閉空間9に収容する粉粒体3の量(総重量)は、排気管10振動の大きさやケース2の重さに応じて設定される。
【0021】
次に、
図4を参照して本実施形態の原理を説明する。
図4は、エンジン20からの振動を受ける排気管10に振動減衰装置1を固定した状態を示す振動モデルの模式図である。
【0022】
本モデルでは、粉粒体3の全体を、反発係数がゼロである1つのマスのかたまりとして扱う。排気管10はエンジン20に接続されており、エンジン20によって排気管10が加振され、排気管10からの振動を受けてケース2が振動する。排気管10の振動が大きくなると、粉粒体3全体が閉空間9内で移動してケース2に衝突するという挙動を繰り返す。粉粒体3は、このような挙動を繰り返すことによって、排気管10の振動エネルギを吸収する。
【0023】
なお、
図4では上下方向に加振された場合を示しているが、加振方向を上下に限定するものではない。
【0024】
次に、振動減衰装置1による排気管10の振動低減効果を、
図5を参照して説明する。
【0025】
図5は、振動減衰装置1が有る場合(図中実線で示す)と無い場合(図中破線で示す)とのそれぞれにおいて、エンジン回転数を変化させながら排気管10の振動レベルを測定した結果である。
図5から明らかなように、エンジン回転数が1000rpm前後の比較的広い範囲において、振動減衰装置1が排気管10の振動レベルを顕著に低減させていることが判る。
【0026】
以上説明したように、振動減衰装置1は、所定の共振周波数において振動吸収効果を発揮するものではなく、粉粒体3の上下方向の挙動によって排気管10の振動を吸収するものであるため、比較的広い周波数の範囲で振動吸収効果を発揮する。従って、所望の振動吸収効果を確実に得ることができる。
【0027】
また、金属製のケース2及び粉粒体3を用いているので、高温状態となる排気管10に取り付けて使用することができ、且つオゾンが発生する環境下で使用した場合であっても十分な耐久性を得ることができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、排気管10に振動減衰装置1を固定する例を説明したが、振動減衰装置1の取り付け対象となる振動体は、排気管10に限定されず、様々な構造物に取り付けてその振動エネルギを吸収することができる。また、ケース本体5の形状は、矩形箱状に限定されるものではなく、例えば有底筒状など他の形状であってもよい。
【0029】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、振動体に固定される振動減衰装置として広く用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1:振動減衰装置
2:ケース
3:粉粒体
4:ブラケット部
5:ケース本体
6:カバー部
9:閉空間
10:排気管(振動体)