(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5729984
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】多気筒エンジンの排気構造
(51)【国際特許分類】
F02D 35/00 20060101AFI20150514BHJP
F01N 13/00 20100101ALI20150514BHJP
F01N 13/10 20100101ALI20150514BHJP
F02F 1/42 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
F02D35/00 368C
F01N13/00 A
F01N13/10
F02F1/42 G
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-264106(P2010-264106)
(22)【出願日】2010年11月26日
(65)【公開番号】特開2012-112356(P2012-112356A)
(43)【公開日】2012年6月14日
【審査請求日】2013年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 美也子
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3631859(JP,B2)
【文献】
実公昭62−33943(JP,Y2)
【文献】
特開平11−013468(JP,A)
【文献】
特開2010−248960(JP,A)
【文献】
特開2008−208738(JP,A)
【文献】
実公昭63−20808(JP,Y2)
【文献】
特開平11−173145(JP,A)
【文献】
特開2000−257466(JP,A)
【文献】
特開2011−17261(JP,A)
【文献】
特開2011−208586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 35/00
F01N 13/00−13/20
F02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッド内で排気ポートの集合部が形成され、前記シリンダヘッドの端面に形成された前記集合部の出口に触媒が近接配置された多気筒エンジンの排気構造において、
前記集合部の出口から前記シリンダヘッドから離れる方向へ伸びるパイプ状部分と、前記パイプ状部分が下方に向って配置された前記触媒と繋がる屈曲部分とからなる排気管と、
前記屈曲部分に、クランク軸の伸びる方向の何れか一方側の向きに偏って配置された排気センサを有し、
配列された前記排気ポートのうち両外側の排気ポートの中心位置に対して、前記集合部の出口が、前記排気センサの偏向配置と同じ側へオフセットして形成されている
ことを特徴とする多気筒エンジンの排気構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気マニホールドの下流側に空燃比制御用の排気センサ(O
2センサ、A/Fセンサ)を備えた多気筒エンジンの排気構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ガソリン車の排ガスを浄化するために三元触媒が多く採用されている。しかし、三元触媒は、少なくとも300℃前後にならなければ十分な浄化性能を発揮できない。したがって、エンジンの温度が十分に上昇していない暖機運転時においては、この三元触媒の還元効果は低い。
【0003】
一方で、排ガス規制が厳しくなっており、全体的に温度の低い暖機運転時においても高いレベルで浄化が行われることが求められている。このため、比較的低温(300℃以下)で機能する触媒を三元触媒と併用することが考えられるが、この場合、部品点数が増加してしまうのでコスト面で不利となる。そこで、触媒をエンジン又はエンジンの排気口に近付けて配置することにより、上流側の高温の排気ガス又はエンジンから得られる輻射熱を利用して、エンジン始動後早期に活性領域まで温度上昇させるという構成が考えられている。この極端な例としては、排気マニホールド部分がシリンダーヘッド内に構成され、シリンダーヘッドの端面付近で排気ポートの集合部が形成された排気構造が知られている。シリンダーヘッド内に排気マニホールドを構成することにより、その集合部の出口の直ぐ近くに触媒を配置することが可能となり、暖機運転時において、効率良く触媒を活性化可能な温度領域へと移行させることが可能となる。
【0004】
また、三元触媒は理論空燃比付近でないと十分な効果が得られない。したがって、空燃比を常に理論空燃比近くに保つため、燃料供給量を細かく調節する必要がある。このため、排気ガスの成分を検出する排気センサ(空燃比制御用センサ)が排気下流側に設けられる。そして、この排気センサによる検出値に基づいて空燃比が算出され、適量の燃料供給が行われる。この排気センサとしては、O
2センサやA/Fセンサが用いられる。
【0005】
ここで、これら空燃比制御用の排気センサについても、上述の触媒と同様、使用温度を一定以上に保つ必要がある。一般にO
2センサは300℃以上、また、A/Fセンサは700℃以上の環境が必要である。このため、これらセンサを早期に活性温度領域へ移行させるためにヒーターを備えたものが知られている。また、上述の触媒と同様に、エンジンの近くへ配置することによりエンジンの輻射熱および高温の排気ガスから得られる熱を利用する構成も採用されている。
【0006】
図3は、従来の多気筒エンジン100の排気構造を示した断面図であり、後者のエンジンの熱を利用して排気センサを活性温度領域へ移行させる構成を示している。この
図3に示される排気マニホールド103は、シリンダヘッド102の内部に設けられ、各気筒の排気バルブ105a、105b及び105cに繋がった排気ポート104a、104b及び104cは、シリンダヘッド102内で集合部106を構成している。そして、この集合部106の出口106aがシリンダヘッド102の端面102aに形成されている。触媒110は、比較的短い排気管108を介して多気筒エンジン100の近傍に配置されている。また、排気センサ112は、集合部106の出口106aと触媒110との間の排気管108に取り付けられている。
【0007】
ここで、上述のように、O
2センサやA/Fセンサなどの排気センサ112は、少なくとも300℃以上の環境が必要であるが、熱害等の部品劣化を考慮すると、これら排気セ
ンサ112に接続されるリード線114や、その先に設けられるカプラ(図示せず)等の付属部品を高温に晒すのは好ましくない。したがって、排気センサ112は、熱気の立ち昇る触媒110の直上を避けて、排気管108の側方に偏って配置されることが多いが、スペース等の関係上、斜め上方に配置される場合もある。
【0008】
このように、排気センサ112を多気筒エンジン100に近い排気管108に取り付けることにより、エンジン始動後、早期に活性状態となり得る温度環境が得られる。しかも、排気センサ112は、集合部106の下流側に取り付けられるので、各気筒の排気センサ112ごとにそれぞれ設ける必要はなく、部品点数の面からコスト的にも有利である。また、排気センサ112に繋がるリード線114やカプラへの熱害も側方配置により低減することが可能である。このような構成については、特許文献1に記載例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−257466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のような構成によれば、排気マニホールド103と排気センサ112との位置関係は非対称となる。すなわち、排気センサ112が排気管108の側方又は斜め上方等に偏って配置されているので、配列された排気ポート104a、104b及び104cのうち、両外側に配置された排気ポート104a、104c間では、排気バルブ105a、105cからそれぞれ集合部106の出口106aを通過して排気センサ112に到る排気経路に違いが生じる。
【0011】
図3には、両外側の排気ポート104a、104cからそれぞれ送られる排気ガスの流れが、排気流117及び排気流118として矢印で示されている。この図にて明らかなように、排気センサ112から遠い側に配置された排気ポート104aからの排気流117については、排気センサ112へ向かう流路途中に大きな障害となる構成はなく、乱れの少ない自然な流れが形成されている。これに対して、排気センサ112と同じ側に配置された排気ポート104cからの排気流118については異なっている。この排気ポート104cから送られる排気流118は、排気マニホールド103の集合部106の出口106aから排気管108内に導入され、排気管108の内壁へ当たった後、排気センサ112側へ到達する。このように、排気センサ112と同じ側の排気ポート104cから送られる排気ガスは、気流が乱れた状態で排気センサ112へ導かれる。
【0012】
すなわち、排気センサ112と同じ側に配置された外側の排気ポート104cから送られる排気流118については、常に一定濃度の排気ガスを排気センサ112へ導くことが困難となる。この結果、排気ガスの成分検出ばらつきが大きくなり、正確な燃料供給制御が困難となる。つまり、適切な量の燃料供給が行われず、不必要な燃料供給が行われる場合も生じ、燃費の悪化を招く原因となり得る。
【0013】
そこで、本発明では、排気センサの付属部材への熱害を防止するとともに、排気センサによる計測を安定させることにより燃費の向上を図ることができる多気筒エンジンの排気構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の多気筒エンジンの排気構造は、シリンダヘッド内で排気ポートの集合部が形成され、シリンダヘッドの端面に形成された集合部の出口に触媒が近接配置された多気筒エンジンの排気構造において、集合部の出口
から前記シリンダヘッドから離れる方向へ伸びるパイプ状部分と、前記パイプ状部分が下方に向って配置された触媒と
繋がる屈曲部分とからなる排気管
の前記屈曲部分に、クランク軸の伸びる方向の何れか一方側の向きに排気センサが偏って配置され、配列された排気ポートのうち両外側の排気ポートの中心位置に対して、集合部の出口
及び前記パイプ状部分が、排気センサの偏向配置と同じ側へオフセットして形成されていることを特徴とする。
【0015】
このように構成すると、両外側の排気ポートのうち、排気センサと同じ側に配置されている排気ポートの上流側から集合部の出口にかけて形成される排気経路と、集合部の出口から触媒へ繋がる排気管へ向かう排気経路との折れ曲がりが緩和される。
【0016】
これにより、排気センサ側の排気ポートから送られる排気流の、集合部の出口から触媒に繋がる排気管への入り口付近に生じる乱れが緩和されるので、排気センサにより検出される排気ガスの濃度が安定し、計測ばらつきを低減することが可能となる。
【0017】
これにより、排気センサ側の排気ポートから送られる排気流が排気管に導入された直後の、流れの角度は、排気管の伸びる方向へ近付くので、排気管の内壁等に対する排気流の干渉が緩和され、流れの乱れが低減される。したがって、排気センサへ到達する排気ガスの濃度ばらつきが抑えられ、正確な計測を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上に述べたように、本発明によれば、熱害を避けるためにクランク軸の伸びる方向に対して一方側へ偏って配置された排気センサと同じ側へ、排気ポートの集合部の出口がオフセットして形成されるので、排気センサと同じ側の外側に位置する排気ポートから集合部を通過して触媒側へ流れる排気経路の曲がりの程度が緩和される。これにより、集合部の出口から触媒にかけての排気経路、すなわち、排気センサの周辺の排気流の乱れが緩和されるので、排気センサを通過する排気ガスの濃度が安定し、ばらつきの少ない測定が可能となる。したがって、排気センサの検出値に基づいて制御される燃料供給が安定し、正確な制御を可能とするとともに、不要な燃料供給を抑えることができるので、燃費の向上にも繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の多気筒エンジンの排気構造を示す図である。
【
図2】
図1の排気構造における排気流を示した断面図である。
【
図3】従来の多気筒エンジンの排気構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の多気筒エンジンの排気構造について、図を用いて説明を行う。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態における多気筒エンジンについて、排気マニホールドの周辺の排気構造を示した図である。
【0022】
図1に示されるように、本実施の形態において示すエンジン1の排気マニホールド3は、シリンダヘッド2内に設けられている。排気ポート4a、4b及び4cはシリンダヘッド2内で集結され集合部6が形成されている。そして、シリンダヘッド2の端面2aに形成された集合部6の出口6aから比較的短い排気管8を介して触媒10(コンバーター)が接続されている。
【0023】
そして、この排気管8には排気ガスの成分を検出する排気センサ12が取り付けられている。この
図1に示した排気センサ12は、リード線14やカプラ(図示せず)への熱害を考慮して触媒10の直上を避けるとともに、配置スペース等を考慮して斜め上方に取り
付けられている。なお、クランク軸16は、説明の便宜のため一点鎖線で示されている。次に、この排気構造における排気流について
図2を用いて説明する。
【0024】
図2は、
図1の排気マニホールド3から集合部6を通過して触媒10へ流れる排気流について示した断面図である。なお、ここでは、排気マニホールド3及び端面2a以外のシリンダヘッド2の構成については図示を省略している。
【0025】
排気マニホールド3の中心、すなわち、両外側に配置された排気ポート4a及び4cの中心位置は、一点鎖線の中心線3aで示されている。また、排気マニホールド3の集合部6の出口6aの中心位置は、一点鎖線の中心線6bで示されている。この図に示されているように、本実施の形態における排気構造では、排気マニホールド3の中心線3aに対して、集合部6の出口6aの中心線6bは、排気センサ12の配置されている側へオフセットして形成されている。
【0026】
なお、この
図2では、排気マニホールドの中心と集合部の中心とが一致し、ほぼ左右対称な従来の構造の一部が2点鎖線で重ねて示されている。
【0027】
この2点鎖線で示された構成は、従来の排気管108の壁面と触媒110とからなる排気構造の一部である。また、この従来の排気構造中を流れる排気流のうち従来の排気センサ112が配置された側の最も外側の排気ポートから送られる排気ガスの流れは、排気流118として2点鎖線の矢印で示されている。
【0028】
このように、排気センサ12が斜め上方に偏って配置されているため、各排気ポート4a、4b及び4cから排気センサ12へ向かう流れはそれぞれ異なっている。このうち、クランク軸16の伸びる方向に対して、排気センサ12とは逆側に配置されている排気ポート4a及び中央寄りの排気ポート4bについては、比較的それぞれの延長線上に近い位置に排気センサ12が配置されている。これにより、それぞれの排気ポート4a、4bから送られる排気ガスは、大きく乱れることなく排気センサ12へと導かれる。これに対して、排気センサ12と同じ側に配置されている排気ポート4cの延長線上からは、排気センサ12の配置されている位置は大きく外れている。
【0029】
ここでは、この排気ポート4cから送られる排気流について、本実施の形態の排気構造における排気流18と、従来の2点鎖線で示した排気流118との違いについて述べる。
【0030】
図2にて明らかように、従来の排気管108のほぼ中間位置を流れる排気流118は、排気管108の伸びる方向に対して角度αの角をなしている。これに対して、本実施の形態における排気管8のほぼ中間位置を流れる排気流18は、排気管8の伸びる方向に対して角度αよりも小さい角度βの角をなしている。すなわち、排気センサ12と同じ側に配置された気筒の排気バルブ5cと触媒10(従来の場合は触媒110)とを結ぶ直線に対する排気管8(従来の場合は排気管108)の張り出しは、本実施の形態における排気構造の方が緩和されている。
【0031】
これにより、従来の排気流118は排気管108に対して大きな角度αで当たることにより気流を乱された後、排気センサ112へ到達していたのに比べ、本実施の形態における排気構造では、排気流18は排気管8に対して比較的小さい角度βで流れることができる。このため、排気管8の内壁に当たる気流の乱れも低減される。
【0032】
これにより、排気ガスの流れを安定させ、濃度ばらつきの少ない排気流18を排気センサ12へ導くことが可能となる。したがって、ばらつきの少ない検出値を得ることができるので、燃料供給制御を正確なものとすることが可能となり、延いては、不要な燃料供給
を防止することにより燃費の向上を図ることが可能である。
【0033】
なお、上記実施の形態における
図1及び
図2では、排気管8の斜め上方へ取り付けられた排気センサ12の構成を例として示したが、これに限らず、クランク軸16の伸びる方向に対して何れかの向きへ偏って配置されていれば、側方又は斜め下方へ取り付けられた構成であっても構わない。
【0034】
また、上記実施の形態では、多気筒エンジンの例として3気筒エンジンの構成を示したが、これに限らず、複数の気筒を有するエンジンに対して当てはまることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0035】
1 エンジン
2 シリンダヘッド
2a 端面
4a、4b、4c 排気ポート
6 集合部
6a 出口
8 排気管
10 触媒
12 排気センサ
16 クランク軸