特許第5730139号(P5730139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730139
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】鋼材の突合わせ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20150514BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20150514BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20150514BHJP
   B23K 9/235 20060101ALI20150514BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20150514BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20150514BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20150514BHJP
   B23K 33/00 20060101ALI20150514BHJP
   B65D 88/06 20060101ALI20150514BHJP
   G21F 5/00 20060101ALI20150514BHJP
   G21F 9/36 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   B23K9/23 J
   B23K9/04 G
   B23K9/04 L
   B23K9/04 N
   B23K9/167 B
   B23K9/235 A
   B23K9/00 501K
   B23K26/21 P
   B23K26/21 F
   B23K31/00 B
   B23K33/00 Z
   B23K9/00 501S
   B65D88/06 B
   G21F5/00 K
   G21F9/36 501Z
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-131051(P2011-131051)
(22)【出願日】2011年6月13日
(65)【公開番号】特開2013-751(P2013-751A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2013年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】根本 健樹
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 直広
(72)【発明者】
【氏名】多羅沢 湘
(72)【発明者】
【氏名】安田 修
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−039734(JP,A)
【文献】 特開平07−024577(JP,A)
【文献】 特開平05−185236(JP,A)
【文献】 特開平04−274878(JP,A)
【文献】 特開2008−284588(JP,A)
【文献】 特開2004−205224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/00
B23K 9/04
B23K 9/167
B23K 9/235
B23K 26/21
B23K 31/00
B23K 33/00
B65D 88/06
G21F 5/00
G21F 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材からなる一対の母材を炭素鋼または低合金鋼から構成し、前記母材の溶接面を開先加工して突合わせ溶接する鋼材の突合わせ溶接方法において、
前記炭素鋼または低合金鋼からなる母材に開先面を形成するステップと、
前記炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金をアーク溶接により肉盛溶接して肉盛溶接部を形成するステップと、
前記炭素鋼または低合金鋼からなる母材の前記肉盛溶接部を開先加工するステップと、
前記一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップ
とを有し、前記炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金をアーク溶接により肉盛溶接して形成した肉盛溶接部の高さを、母材の熱影響部に硬化部が形成されない所定高さ以上としたことを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法。
【請求項2】
請求項に記載の鋼材の突合わせ溶接方法において、前記肉盛溶接部の高さを4mm以上としたことを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法
【請求項3】
請求項1に記載の鋼材の突合わせ溶接方法において、前記炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金を肉盛溶接するステップに続いて、前記肉盛溶接されたステンレス鋼又はニッケル基合金に対し溶接後熱処理を行うことを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法。
【請求項4】
請求項1に記載の鋼材の突合わせ溶接方法において、前記炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金を肉盛溶接するステップの前に、100度以上の予熱を行うステップを有することを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の鋼材の突合わせ溶接方法において、前記炭素鋼または低合金鋼からなる母材の肉盛溶接部を開先加工するステップにおける開先角度を30度以下の狭開先加工としたことを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の鋼材の突合わせ溶接方法において、前記一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップは、アーク溶接を用いることを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の鋼材の突合わせ溶接方法において、前記一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップは、ホットワイヤTIG溶接を用いることを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の鋼材の突合わせ溶接方法において、前記一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップは、レーザ溶接を用いることを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の鋼材の突合わせ溶接方法において、前記一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップは、レーザ溶接を行った後にホットワイヤTIG溶接を行うことを特徴とする鋼材の突合わせ溶接方法。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の鋼材の突合わせ溶接方法によって製造されたことを特徴とする放射性物質の収納容器。
【請求項11】
請求項10の放射性物質の収納容器において、中性子遮へい材を挟んだ上蓋と閉止蓋の間および中性子遮へい材を有する下部蓋と密閉収納容器本体の間を、請求項1乃至のいずれか1項に記載の鋼材の突合わせ溶接方法によって溶接したことを特徴とする放射性物質の収納容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接後に生じた硬化部の除去、および残留応力除去のための特別な熱処理を不要とする、鋼材の突合わせ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚板の炭素鋼同士または低合金鋼同士の溶接、または、炭素鋼または低合金鋼とステンレス鋼との溶接において、一般には溶接終了後に溶接残留応力を改善するために、溶接部を再加熱する溶接後熱処理が行われている。しかし、構造上の理由により溶接後熱処理が困難な溶接継手を溶接したり、又は製造工期短縮やコストダウンを図るためには、良好な継手品質を確保しつつ溶接後熱処理を省略する溶接方法が必要とされている。
【0003】
特許文献1には、炭素鋼材等における肉盛溶接方法において、母材の被肉盛凹部に周縁からはみ出した複数の溶接ビードを平行かつ隣接して形成し被肉盛凹部全体を覆うオーバーラップ金属層を形成し、後から形成されるオーバーラップ金属層の熱によって前のオーバーラップ金属層による母材組織中の硬化部の軟化除去を行う肉盛溶接方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、炭素鋼管母材とオーステナイト系ステンレス鋼管母材を溶接する際に、炭素鋼管側開先部内面のみに炭素鋼母材と同質の低炭素溶接材料を少なくとも2層以上肉盛した後、オーステナイト系ステンレス鋼溶接材料で全開先面を炭素鋼母材の成分希釈の影響がなくなるまで積層した後、オーステナイト系ステンレス鋼同士の継手溶接をする継手溶接方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、外層を炭素鋼又は低合金鋼、内層をステンレス鋼又は高合金鋼から形成したクラッド管を敷設現場で突合せ溶接する際、溶接後の焼戻し処理を不要にするため、敷設現場における突合せ溶接前に、ステンレス鋼又は高合金鋼の溶接棒を用いて外層の端面に肉盛部を形成し、溶接による熱影響を受けて硬化した母材外層部に焼戻し処理を行ない、敷設現場でステンレス鋼又は高合金鋼の肉盛部どうしを突き合せて溶接を行なう溶接方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、直立した第1筒状体上部に第2筒状体を直立させ、YAGレーザのレーザビームを出射する溶接トーチを筒状体の周方向へ水平に回動させつつ、筒状体の対向部に形成された開先に向けて溶接トーチから略水平に前記レーザビームを出射し、第1、第2の筒状体を周溶接する溶接方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献5には、製鉄用圧延ロール軸の溶接補修、あるいは高炉、転炉などの製錬炉の炉体鉄皮の部分補修などのような拘束度の高い溶接継手に関して、炭素鋼及び低合金高張力鋼の少なくとも一つからなる鋼材間を溶接によって接合する拘束度が5000(N/(mm・mm))以上の溶接継手において、溶接材料として炭素含有量が0.1mass未満の低炭素オーステナイト系ステンレスを使用する溶接継手が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−323473号公報
【特許文献2】特開昭61−266188号公報
【特許文献3】特開平7−24577号公報
【特許文献4】特開2000−176663号公報
【特許文献5】特許4304892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来技術において、特許文献1の肉盛溶接方法は、母材の凹部に肉盛を行う溶接工法であり本発明の突合せ溶接工法と異なる。また、溶接熱影響部の組織中の硬化部を軟化できるが、多層溶接熱及び凝固収縮を受けるため溶接後母材の引張残留応力が大きくなる可能性があり、また溶接後熱処理の省略については記載されていない。
【0010】
特許文献2の溶接方法は、狭開先形状や溶接後残留応力、および溶接後熱処理については記載されていない。
【0011】
特許文献3の突合せ溶接方法は、肉盛溶接後に硬化部の焼戻し処理を行うため敷設現場での焼き戻し処理は不要となる。しかし、クラッド鋼以外についての記載はなく、肉盛溶接後に焼戻し処理を行うことを前提としており、また狭開先形状については記載されていない。
【0012】
特許文献4の溶接方法は、筒状体への入熱が少ないため、残留応力除去、材料の脆化に伴う遅れ割れ防止等のための溶接後熱処理を簡略化できる可能性がある。しかしレーザ溶接による厚板の炭素鋼または低合金鋼の溶接熱影響部は、冷却速度が速いためマルテンサイト組織となりやすい可能性がある。
【0013】
特許文献5の溶接方法は、炭素鋼及び低合金高張力鋼をオーステナイト系ステンレス溶接材料で直接的に溶接を行うものである。
【0014】
厚板の炭素鋼同士や低合金鋼同士の溶接継手、あるいは炭素鋼とステンレス鋼の異材溶接継手や低合金鋼とステンレス鋼の異材溶接継手は残留応力低減のため溶接後熱処理が必要となる場合がある。しかし、製品の特性上溶接後熱処理ができない溶接構造を有する場合、又は製造工期短縮、コストダウンを図るために溶接後熱処理を省略する場合には、溶接後の母材および溶接部の健全性の確保が課題となる。
【0015】
本発明は、上記の問題点に着目し、溶接部を良好な継手品質にすることによって溶接後熱処理を省略する新規な溶接方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、鋼材からなる一対の母材を炭素鋼または低合金鋼から構成し、母材の溶接面を開先加工して突合わせ溶接する鋼材の突合わせ溶接方法において、炭素鋼または低合金鋼からなる母材に開先面を形成するステップと、炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金をアーク溶接により肉盛溶接して肉盛溶接部を形成するステップと、炭素鋼または低合金鋼からなる母材の肉盛溶接部を開先加工するステップと、一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップ
とを有することを特徴とする。
【0017】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金をアーク溶接により肉盛溶接して形成した肉盛溶接部の高さを、母材の熱影響部に硬化部が形成されない所定高さ以上としたことを特徴とする。
【0018】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、肉盛溶接部の高さを4mm以上としたことを特徴とする。
【0019】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金を肉盛溶接するステップに続いて、肉盛溶接されたステンレス鋼又はニッケル基合金に対し溶接後熱処理を行うことを特徴とする。
【0020】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金を肉盛溶接するステップの前に、100度以上の予熱を行うステップを有することを特徴とする。
【0021】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、炭素鋼または低合金鋼からなる母材の肉盛溶接部を開先加工するステップにおける開先角度を30度以下の狭開先加工としたことを特徴とする。
【0022】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップは、アーク溶接を用いることを特徴とする。
【0023】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップは、ホットワイヤTIG溶接を用いることを特徴とする。
【0024】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップは、レーザ溶接を用いることを特徴とする。
【0025】
また、鋼材の突合わせ溶接方法において、一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップは、レーザ溶接を行った後にホットワイヤTIG溶接を行うことを特徴とする。
【0026】
さらに、上記鋼材の突合わせ溶接方法によって製造された放射性物質の収納容器を特徴とする。収納容器は、中性子遮へい材を挟んだ上蓋と閉止蓋の間、および中性子遮へい材を有する下部蓋と密閉収納容器本体の間を、上記鋼材の突合わせ溶接方法によって溶接する。
【0027】
本発明は、特に厚板の炭素鋼や低合金鋼の開先面にステンレス鋼またはニッケル基合金を肉盛溶接し、その後ステンレス鋼またはニッケル基合金で突合わせ溶接することで溶接後熱処理を行わなくても健全な溶接部が得られる溶接方法を提供する。
【0028】
肉盛溶接は前述の溶接材料を用い、炭素鋼や低合金鋼の希釈率が少なく一定厚さの肉盛積層を持つアーク溶接による肉盛溶接方法を採用する。溶接ビードは一定厚さ以上となると、後溶接ビードが前溶接ビードの組織を改善する積層溶接の入熱による熱処理効果が起こり、炭素鋼や低合金鋼の溶接熱影響部に硬化層が形成されない。また、後工程の突合せ溶接時の入熱が肉盛溶融境界線近傍の炭素鋼や低合金鋼の組織に悪影響を及ぼさないようにするためにも、一定厚さ以上の肉盛積層が必要となる。
【0029】
さらに、肉盛溶接金属には後工程の突合せ溶接に起因する引張残留応力が発生する。本発明では、溶融境界線近傍の炭素鋼や低合金高張力鋼には小さい引張残留応力、あるいは、圧縮残留応力が発生し、溶接後熱処理は不要となる。本発明の溶接方法で採用する突合せ溶接時の開先形状は、狭開先形状にすることで溶接後の残留応力をより低減することができる。
【0030】
本発明では、溶接残留応力の引張領域はステンレス鋼の溶接金属に負荷され、炭素鋼や低合金鋼に小さい引張残留応力、または、圧縮残留応力が生成され、溶接後熱処理が不要となる。さらに、狭開先溶接を行うことで継手の拘束度に制限されずに残留応力を低減できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、鋼材からなる一対の母材を炭素鋼または低合金鋼から構成し、母材の溶接面を開先加工して突合わせ溶接する鋼材の突合わせ溶接方法において、炭素鋼または低合金鋼からなる母材に開先面を形成するステップと、炭素鋼または低合金鋼からなる母材の開先面にステンレス鋼又はニッケル基合金をアーク溶接により肉盛溶接して肉盛溶接部を形成するステップと、炭素鋼または低合金鋼からなる母材の肉盛溶接部を開先加工するステップと、一対の母材をステンレス鋼又はニッケル基合金を溶接金属として突合わせ溶接するステップとを有することにより、製品の特性上溶接後熱処理ができない溶接構造を有する場合、又は製造工期短縮、コストダウンを図るために溶接後熱処理を省略する場合においても、溶接部を良好な継手品質にする溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施例1における突合せ溶接部を示す模式図。
図2】本発明の実施例1における突合せ溶接方法を示すフローチャート。
図3】本発明の実施例1におけるホットワイヤTIG溶接機を示す模式図。
図4】母材、肉盛溶接部、突合せ溶接部の残留応力を示す模式図。
図5】突合せ溶接部の残留応力分布を示すグラフ。
図6】本発明の実施例2における突合せ溶接方法を示すフローチャート。
図7】本発明の実施例3における突合せ溶接部を示す模式図。
図8】本発明の実施例3における突合せ溶接部の変形例を示す模式図。
図9】本発明の実施例3における突合せ溶接部の第2の変形例を示す模式図。
図10】本発明の実施例4における突合せ溶接部を示す模式図。
図11図10におけるA部拡大図。
図12図10におけるB部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について、実施例と図を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0034】
はじめに、実施例1において、母材にステンレス鋼を肉盛溶接して突合せ溶接を行う溶接方法について説明する。図1は、両側に設けた一対の母材1にステンレス鋼からなる肉盛溶接部2を形成し、ステンレス鋼の溶接金属を用いて突合せ溶接によって突合せ溶接部3を形成する。母材1は炭素鋼または低合金鋼からなり、先端に肉盛開先面を形成している。肉盛開先面の上にステンレス鋼を肉盛溶接して肉盛溶接部2を形成し、その表面に開先加工を行って狭開先面を形成する。Gは肉盛溶融境界線である。母材1は炭素鋼同士または低合金鋼同士でもよく、両者の組合せでも良い。
【0035】
次に、実施例1の溶接方法の実施手順を図2のフロ−チャートを用いて説明する。まず、ステップS1において、母材1の肉盛開先部にステンレス鋼を肉盛溶接する。このとき、肉盛溶接には、溶接ビードによる一定厚さの肉盛積層があり炭素鋼や低合金鋼の希釈率が少ないアーク溶接を使用する。積層厚さを一定厚さ以上とする理由は、
(1)一定厚さ以上の溶接ビードとすることで積層溶接の入熱による熱処理効果が起こ
り、母材の熱影響部に硬化層が形成されないこと
(2)後工程の突合せ溶接時の入熱が肉盛溶融境界線近傍の母材の組織に悪影響を及
ぼさないようにするために一定厚さ以上の肉盛積層が必要になること
の2点である。
【0036】
図2のS1において、溶接中に100℃以上の予熱を行うことで炭素鋼側に良好な溶接組織が得られるため、肉盛溶接後熱処理を省略できる。予熱を行わなくても炭素鋼側に良好な溶接組織が得られれば、予熱を省略できる。
【0037】
次に、S2で加工機械Mで突合せ部の開先加工を行う。ここでは良好な溶接品質を得るために、狭開先を正確な角度で加工する。
【0038】
最後に、S3でステンレス鋼の溶接金属を使用して突合せ溶接を行う。S3の狭開先形状の突合せ溶接は、一定厚さの肉盛溶接部2があるため、肉盛溶融境界線G近傍の母材1の組織に悪い影響を及ぼさない。また、S3の突合せ溶接部3に起因する引張残留応力がステンレス鋼の肉盛溶接部2に負荷されるため、肉盛溶融境界線G近傍の炭素鋼や低合金高張力鋼には小さい引張残留応力または圧縮残留応力が発生するだけであり、溶接後熱処理は不要となる。
【0039】
実施例1では、ステップS1とS2の間には溶接後熱処理は行わない。またS3の後で溶接後熱処理は行わない。
【0040】
本発明の溶接方法としては、炭素鋼や低合金鋼の希釈率が少ないアーク溶接が用いられ、特に高い施工効率を持つアーク溶接としてホットワイヤTIG自動溶接を肉盛溶接及び突合せ溶接に使用する。これらは希釈率が少ないため、溶接金属部に及ぼす母材の影響を少なくして溶接金属部の品質が向上し、または突合せ溶接部の積層数の低減による溶接金属の収縮量を低減でき、引張残留応力を抑制することができる。
【0041】
図3に、ホットワイヤTIG自動溶接機の構造を示す。ワイヤ送給装置14により送給されるワイヤ9は給電チップ15を通り、給電チップ15に接続されたワイヤ加熱電源13により加熱される。溶接トーチ10は溶接電源11からの電力により被溶接材料を溶かして溶融プールを形成する。このとき、給電チップ15はワイヤ9が溶融プールに入る位置で、溶接トーチ10とともに固定されている。溶接台車12は、給電チップ15と溶接トーチ10が規定の軌跡を辿るように誘導する。
【0042】
図4に示すように、肉盛溶接部同士の突合せ溶接部において、通常突合せ溶接線近傍に発生する引張残留応力はステンレス鋼の肉盛溶接部2に負荷され、肉盛溶融境界線G近傍の炭素鋼に発生する引張残留応力または圧縮残留応力は小さくなる。さらに、本発明における突合せ開先は狭開先形状であるため、これらの残留応力をさらに低減させることができる。
【0043】
図5にステンレス鋼同士を被覆アーク溶接、狭開先TIG溶接及びレーザ溶接で溶接した場合の残留応力分布のグラフを示す。開先角度はそれぞれ被覆アーク溶接で60°、狭開先TIG溶接で20°、レーザ溶接で5°である。
【0044】
被覆アーク溶接と比較して、狭開先TIG溶接及びレーザ溶接の引張残留応力の値は小さく、溶接金属中心線近傍の引張領域の幅も狭いことが明らかである。
【0045】
肉盛溶接部2の積層高さは、10mm以上あれば炭素鋼側の残留応力は低い値を示す。レーザ溶接の場合には、図6に示す様に最も低い最大引張残留応力が示されていることから、肉盛溶接2の積層高さをさらに小さくすることができる。例えば実施例1では、母材が突合せ溶接の熱の影響を受けない温度域(炭素鋼のAC1変態点727℃以下)になるよう、肉盛溶接部2の積層高さを4mm以上とする。また、実際の施工作業を考慮して、開先角度を30°以下とする。
【実施例2】
【0046】
次に、実施例2において、母材1の肉盛開先面にステンレス鋼の肉盛溶接部2を形成した後、母材の希釈率、入熱の大きさ、積層高さ、予熱等の溶接条件に制限されない溶接方法の実施手順を、図6のフローチャートに示す。
【0047】
図6において、ステップS10で一定厚さの肉盛溶接加工を行った後、S20で肉盛溶接後熱処理を行うことによって、炭素鋼側に良好な溶接組織が得られる。次に、S30で突合せ部の開先加工を行う。
【0048】
最後に、S40で突合せ溶接を行う。一定厚さの肉盛溶接部2があるため、S40の狭開先形状の突合せ溶接は肉盛溶融境界線G近傍の母材1の組織に悪影響を及ぼさない。また、S40の突合せ溶接に起因する引張残留応力がステンレス鋼の肉盛溶接部2に負荷されるため、溶融境界線近傍の炭素鋼や低合金高張力鋼には小さい引張残留応力または圧縮残留応力のみが発生し、溶接後熱処理は不要となる。
【実施例3】
【0049】
次に、実施例3において、図7に突合せ溶接方法としてレーザ溶接を用いた場合について示す。また、レーザ溶接とホットワイヤTIG溶接を組み合わせた場合の変形例を図8に示す。さらに、ホットワイヤTIG溶接を用いた場合の他の変形例を図9に示す。
【0050】
図7に示すレーザ溶接のみを用いる溶接方法では、母材に対してステンレス鋼の肉盛溶接部2を形成した後、開先をレーザ溶接のための狭開先形状に加工し、レーザ溶接にてレーザ溶接部17を形成する。
【0051】
また、図8に示す、製品構造上の必要性により突合せ溶接をレーザ溶接とアーク溶接の組合せとする溶接方法では、1層以上かつ所定の層までレーザ溶接によりレーザ溶接部17を形成した後、残層をホットワイヤTIG溶接によりホットワイヤTIG溶接部16を形成する。
【0052】
また、図9に示す突合せ溶接方法のように、母材1に対してステンレス鋼の肉盛溶接部2を形成した後、開先をホットワイヤTIG接のための狭開先形状とし、ホットワイヤTIG溶接にて1層1パスでの突合せ溶接部16を形成することもできる。いずれの溶接方法でも、突合せ溶接を行った後の溶接後熱処理は不要となる。
【0053】
実施例3の溶接材料はステンレス鋼を使用しているが、同様の考え方でニッケル基合金の溶接材料を使用してもよい。
【実施例4】
【0054】
図10に、本発明の実施例4について説明する。実施例4は、本発明の溶接方法を放射性物質の収納容器に使用される溶接部構造に適用した例を示す。放射性物質収納容器21はほぼ円筒形をなし、上蓋18及び閉止蓋20の間、および下部蓋22には中性子吸収材19が取り付けられており、中性子吸収性能を保持するためには一般的に150℃以下で入熱管理をする必要がある。
【0055】
上蓋18と閉止蓋20の突合せ溶接部、及び放射性物質収納容器21と下部蓋22の突合せ溶接部は、両者とも中性子吸収材19を取り付けた後で突合せ溶接をするため、突合せ溶接時に予熱及び溶接後熱処理ができない。そこで、突合せ部の母材にステンレス鋼を肉盛溶接し、その後実施例1〜3で説明した突合せ溶接を行うことにより予熱及び溶接後熱処理を不要とする。アーク溶接の開先形状として、開先角度を30度以下とする。
【0056】
図11図10のA部拡大図である。上蓋18及び閉止蓋20の間に、実施例1〜3で説明した溶接方法による肉盛溶接部2と突合せ溶接部3を形成する。
【0057】
図12図10のB部拡大図である。放射性物質収納容器21と下部蓋22の突合せ溶接部に、実施例1〜3で説明した溶接方法による肉盛溶接部2と突合せ溶接部3を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の溶接方法は、構成部材に入熱制限がある場合の解決策となり、幅広い溶接構造物の分野に適用可能であるため利用頻度が高い。また、工程短縮にも大きく貢献するため、本発明の効果は非常に大きい。特に、放射性物質を収納する容器では中性子吸収材の使用により入熱制限がある場合が多く、製品の製造に関して有効な手段である。
【符号の説明】
【0059】
1…母材
2…肉盛溶接部
3…突合せ溶接部
16…ホットワイヤTIG溶接部
17…レーザ溶接部
18…上蓋
19…中性子遮へい材
20…閉止蓋
21…放射性物質収納容器
22…下部蓋
G…肉盛溶融境界線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12