(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重合性ビニル単量体が、不飽和カルボン酸類又はその塩類、及び不飽和カルボン酸のエステル類からなる群より選択されるものである、請求項1に記載のコーティング用組成物。
セルロース系高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリビニルアルコール重合体又は共重合体を主成分とするコーティング組成物の有する優れた防湿性能を維持すると共に、コーティング処理速度を高め、生産性を高めることを可能にするコーティング用組成物を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、ポリビニルアルコール共重合体に加えて、セルロース系高分子を含有することにより、コーティング処理に要する時間を短縮させ、かつ、ポリビニルアルコール共重合体単独からなるコーティング剤と同等の防湿性能を有するコーティング用組成物が得られることを見出し、更に検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の事項に記載の組成物等を包含する。
項1.
(A)ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体、及び、
(B)セルロース系高分子
を含むことを特徴とするコーティング用組成物。
項2.
重合性ビニル単量体が、不飽和カルボン酸類又はその塩類、及び不飽和カルボン酸のエステル類からなる群より選択されるものである、項1に記載のコーティング用組成物。
項3.
重合性ビニル単量体が、下記一般式[1]
H
2C=C(R
1)−COOR
2 [1]
〔式中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される化合物又はその塩である、
項1に記載のコーティング用組成物。
項4.
(A)の重合体又は共重合体が、
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、
(I)アクリル酸、メタクリル酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及びアルキルアミン塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(II)メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、及びイソブチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体である、
項1に記載のコーティング用組成物。
項5.
(II)がメチルメタクリレートである、項5に記載のコーティング用組成物。
項6.
セルロース系高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする項1〜5のいずれかに記載のコーティング用組成物。
項7.
前記(A)と(B)の比率が、重量比で、(A):(B)=1:0.02〜2.5程度である項1〜6のいずれかに記載のコーティング用組成物。
項8.
項1〜7のいずれかに記載のコーティング用組成物を固形製剤にコーティングしたコーティング製剤。
項9−1.
項1〜7のいずれかに記載のコーティング用組成物を固形製剤に塗布する工程を含む、コーティング製剤を製造する方法。
項9−2.
項1〜7のいずれかに記載のコーティング用組成物を固形製剤に塗布することによりコーティング製剤を製造する方法。
項10−1.
項1〜7のいずれかに記載のコーティング用組成物を固形製剤に塗布する工程を含む、固形製剤をコーティングする方法。
項10−2.
項1〜7のいずれかに記載のコーティング用組成物を固形製剤に塗布することによりコーティングする方法。
項11.固形製剤コーティング用である、項1〜7のいずれかに記載のコーティング用組成物。
項12.スプレーコーティング用である、項1〜7及び11のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコーティング用組成物は、優れた防湿性能を有し、かつ、付着性を低減することでコーティング速度を高め、生産性を向上させるという利点を有する。本発明のコーティング用組成物を用いる場合には、コーティング時における装置への製剤の付着や製剤同士の凝集が抑制され、ポリビニルアルコール重合体からなるコーティング用組成物と比べて、コーティング速度を格段に向上させることが可能になる。
【0009】
更に、本発明のコーティング用組成物は、ポリビニルアルコール重合体からなるコーティング用組成物と同等の優れた防湿性能を有する。
また、臭いや苦みのマスキング効果、酸素透過防止効果も有する。
【0010】
本発明により、優れた機能を備えたコーティング製剤を、短時間で効率よく製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
【0013】
(1)ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体(以下、「ポリビニルアルコール重合体」ともいう)
本発明のコーティング組成物における成分の一つであるポリビニルアルコール重合体は、ポリビニルアルコールまたはその誘導体の存在下、少なくとも1種の重合性ビニル単量体を公知の重合方法で重合又は共重合させることにより製造することができる。公知の重合方法としては、例えばラジカル重合を挙げることができ、またその具体的な方法として、例えば溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法および塊状重合などを挙げることができる。
【0014】
重合反応は、通常、重合開始剤の存在下、必要に応じて還元剤、連鎖移動剤あるいは分散剤等の存在下、水、有機溶媒あるいはそれらの混合物中で実施される。
【0015】
還元剤としては、例えば、エリソルビン酸ナトリウム、メタ2重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸が挙げられる。
【0016】
連鎖移動剤としては、例えば2−メルカプトエタノール、α−メチルスチレンダイマー、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ラウリルメルカプタンが挙げられる。分散剤としては、例えばソルビタンエステル、ラウリルアルコールなどの界面活性剤が挙げられる。
【0017】
有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等の低級アルコール類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類が挙げられる。また、未反応の単量体の除去方法等も公知の方法に従って行うことができる。
【0018】
本発明のポリビニルアルコール重合体の原料となるポリビニルアルコールとしては、平均重合度約100〜2000、好ましくは約200〜1300、より好ましくは平均重合度約200〜900、さらに好ましくは平均重合度約200〜600、最も好ましくは平均重合度約300〜500程度のポリビニルアルコールが挙げられる。
【0019】
また、ポリビニルアルコールのけん化度は、通常約96モル%以下、好ましくは約78〜96モル%程度である。ここで、ポリビニルアルコールのけん化度とは、ポリ酢酸ビニルの酢酸基を水酸基に置換して、ポリビニルアルコールにする工程で置換された水酸基の割合をいう。このような部分けん化ポリビニルアルコールは、酢酸ビニルをラジカル重合し、得られたポリ酢酸ビニルを適宜、けん化することによって製造することができ、適宜、重合度、けん化度をそれ自体公知の方法で制御することによって、所望のポリビニルアルコールを製造することができる。なお、こうした部分けん化ポリビニルアルコールは、市販品を使用することも可能であり、例えば、ゴーセノール(登録商標)EG05(日本合成化学工業社製)、EG25(日本合成化学工業社製)、PVA203(クラレ社製)、PVA204(クラレ社製)、PVA205(クラレ社製)、JP−04(日本酢ビ・ポバール社製)、JP−05(日本酢ビ・ポバール社製)等を用いることができる。
【0020】
また、ポリビニルアルコールの誘導体としては、各種変性ポリビニルアルコール、例えばアミン変性ポリビニルアルコール、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール、チオール変性ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの変性ポリビニルアルコールは、市販品を使用してもよく、あるいは当該分野で公知の方法で製造したものを使用することもできる。
【0021】
ポリビニルアルコール重合体の原料となるポリビニルアルコール又はその誘導体は、1種単独であってもよく、2種以上のポリビニルアルコール又はその誘導体を併用したものであってもよい。併用する場合の比率は、適宜設定できる。例えば、平均重合度300のポリビニルアルコールと平均重合度1500のポリビニルアルコールとを適宜混合して、ポリビニルアルコール原料として使用することが可能である。
【0022】
ポリビニルアルコールと重合させる重合性ビニル単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類又はその塩類、不飽和カルボン酸のエステル類、不飽和ニトリル類、不飽和アミド類、芳香族ビニル類、脂肪族ビニル類、不飽和結合含有複素環類およびそれらの塩が挙げられる。
【0023】
不飽和カルボン酸類として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0024】
不飽和カルボン酸類の塩類としては、例えば、前記不飽和カルボン酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩が挙げられる。
【0025】
不飽和カルボン酸のエステル類としては、例えば、前記不飽和カルボン酸の置換又は非置換のアルキルエステル、環状アルキルエステル、ポリアルキレングリコールエステルが挙げられる。
【0026】
具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリルレート(ポリエチレングリコールとアクリル酸とのエステル)、ポリプロピレングリコールアクリルレート(ポリプロピレングリコールとアクリル酸とのエステル)などのアクリル酸エステル類が挙げられる。
【0027】
また、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリエチレングリコールメタアクリルレート(ポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル)などのメタクリル酸エステル類が挙げられる。
【0028】
不飽和ニトリル類としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0029】
不飽和アミド類としては、例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0030】
芳香族ビニル類としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0031】
脂肪族ビニル類としては、例えば、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0032】
不飽和結合含有複素環類としては、例えば、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリンなどが例示される。
【0033】
なかでも好ましい重合性ビニル単量体は
一般式[1]
H
2C=C(R
1)−COOR
2 [1]
〔式中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される化合物である。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、プロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、イソブチルアクリレートが挙げられる。アクリル酸及びメタクリル酸は、これらの塩を用いることもできる。例えば、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、又はアルキルアミン塩等を用いてもよい。
【0034】
これらの重合性ビニル単量体は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、不飽和カルボン酸類又はそれらの塩と不飽和カルボン酸のエステル類という2種のビニル単量体をポリビニルアルコールに共重合させることができる。特に、本発明においては、2種以上の重合性ビニル単量体をポリビニルアルコールに共重合させることが好ましい。
【0035】
2種以上の重合性ビニル単量体を併用する場合、(I)アクリル酸、メタクリル酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及びアルキルアミン塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに、(II)メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、及びイソブチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて使用するのが好ましく、(I)アクリル酸及び/又はメタクリル酸、並びに(II)メチルメタクリレートを組み合わせて使用するのがより好ましい。
【0036】
また、2種以上の重合性ビニル単量体を併用する場合、その割合は、特に制限されない。例えば(I)アクリル酸、メタクリル酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及びアルキルアミン塩からなる群より選択される少なくとも1種と(II)メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、及びイソブチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて使用する場合には、(I)と(II)の重量比は0.5:9.5〜5:5、好ましくは1:9〜4:6、より好ましくは1:9〜3:7である。
【0037】
さらに具体的には、例えば、重合性ビニル単量体合計量に対し、(I)の重量比は好ましくは5から50重量%、より好ましくは10から40重量%であり、(II)の重量比は好ましくは50から95重量%、より好ましくは60から90重量%である。
【0038】
なお、重合性ビニル単量体としてアクリル酸及びメチルメタクリレートを使用する場合、その重量比は好ましくは約3:7〜0.5:9.5、より好ましくは約1.25:8.75である。
【0039】
例えば、好ましいポリビニルアルコール共重合体としては、アクリル酸及びメタクリル酸エステルをポリビニルアルコールと共重合させて得られる共重合体が挙げられる。より具体的には、アクリル酸及びメチルメタクリレートをポリビニルアルコールと共重合させて得られる共重合体が挙げられる。
【0040】
用いるポリビニルアルコール及び重合性ビニル単量体の重量比(ポリビニルアルコール:重合性ビニル単量体)は、好ましくは約6:4〜9:1、より好ましくは約8:2である。
【0041】
具体的に、本発明のコーティング用組成物における好ましい(A)ポリビニルアルコール重合体としては、平均重合度約100〜2000のポリビニルアルコールに、メチルメタクリレートおよびアクリル酸を共重合させて得られるポリビニルアルコール重合体であって、共重合する際におけるポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸の重量比(ポリビニルアルコール:メチルメタクリレート:アクリル酸)が約(60〜90:7〜38:0.5〜12)、特に好ましくは約(80:17.5:2.5)であるポリビニルアルコール共重合体が挙げられる。
【0042】
なお、ポリビニルアルコール重合体中のポリビニルアルコール及び重合性ビニル単量体の重量比は、共重合させる際に用いるポリビニルアルコール及び重合性ビニル単量体の重量比と同じである。すると、重合体中のポリビニルアルコール及び重合性ビニル単量体の重合モル比はNMRにより測定可能であり、また、ポリビニルアルコール及び各重合性ビニル単量体の分子量も公知であるので、共重合時に用いた各物質の量が不明であっても、これらの情報を基に共重合体のポリビニルアルコール及び重合性ビニル単量体の重量比を算出できる。
【0043】
共重合の方法は、公知の方法を使用できる。例えば、水にポリビニルアルコール及び/又はその誘導体を添加し、加温して溶解し、次いで上記重合性ビニル単量体の少なくとも1種と重合開始剤とを添加し、共重合させて本発明のポリビニルアルコール重合体を得ることができる。例えば、イオン交換水へポリビニルアルコール及び/又はその誘導体を分散させ、90〜100℃で完全溶解させた後、上記重合性ビニル単量体の少なくとも1種を加えて窒素置換し、重合開始剤を加えて2〜5時間程度反応させればよい。水に添加するポリビニルアルコール及び/又はその誘導体、並びに重合性ビニル単量体の重量比によって、上述の(A)のポリビニルアルコール重合体におけるポリビニルアルコール及び/又はその誘導体、並びに重合性ビニル単量体の重量比が決定される。よって、水に添加する重量比は上述の(A)のポリビニルアルコール重合体におけるポリビニルアルコール及び/又はその誘導体並びに重合性ビニル単量体の重量比であることが好ましい。
【0044】
重合開始剤としては、当該分野で用いられているものを使用することができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物、過酢酸やtert-ブチルハイドロキシパーオキサイド等の有機過酸化物やアゾ化合物等が挙げられる。
【0045】
なお、本発明のポリビニルアルコール重合体として、市販品を使用することも可能であり、例えば、POVACOAT(登録商標)Type F(大同化成工業(株)製)等を用いることができる。
【0046】
(2)セルロース系高分子
セルロース系高分子としては、セルロースの水酸基をエステル化又はエーテル化した高分子が好ましく用いられる。
【0047】
具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(日本薬局方ではヒプロメロースとも称される。以下、「HPMC」ともいう)、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」ともいう)、メチルセルロース(以下、「MC」ともいう)、ヒドロキシエチルセルロース(以下、「HEC」ともいう)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0048】
特に、HPMC及びHPCは、付着性を低減する効果が高い点で好ましい。
【0049】
セルロース系高分子の重量平均分子量は、本発明の効果を奏する範囲内であれば特に限定されないが、通常、10000〜200000g/mol程度、好ましくは20000〜50000g/mol程度である。10000g/mol以上であると付着性低減効果や乾燥効率向上の点で好ましい。また、200000g/mol 以下であれば、コーティング溶液の粘度上昇による作業上の不都合が生じるおそれが少ない。なお、当該重量平均分子量はGPC法により測定される。
【0050】
また、セルロース系高分子のエステル化又はエーテル化の程度は、本願発明の効果を損なわない限り特に制限はされない。特にHPMCを用いる場合、導入されている置換基の割合が、セルロースの全水酸基を100%とした場合、メトキシ基19〜33%、ヒドロキシプロポキシ基が4〜12%であるものが好ましく、メトキシ基が28〜30%、ヒドロキシプロポキシ基が7〜12%であるものがより好ましい。
【0051】
なお、このようなセルロース系高分子は公知であるか公知の方法で容易に製造可能であり、市販品を購入して用いることもできる。例えば、信越化学工業株式会社や日本曹達株式会社等から購入することができる。
【0052】
セルロース系高分子を含むことにより、上記「ポリビニルアルコール重合体」からなるコーティング用組成物が備える防湿性能を維持しつつ、コーティング速度を高め、コーティング製剤の生産性を高めることができるという効果が奏される。
【0053】
(3)コーティング用組成物
本発明のコーティング用組成物は、上記(A)ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体(ポリビニルアルコール重合体)、及び、上記(B)セルロース系高分子、を含むことを特徴とする。
【0054】
(A)と(B)の比率は、本発明の効果が奏される範囲内であれば特に限定されないが、重量比で、(A):(B)=1: 0.02〜2.5、好ましくは1:0.05〜2.3、より好ましくは1:0.1〜0.7程度である。(B)の(A)に対する比率が、0.02以上であると、付着性が低減され生産性の改善の点で好ましい。また、2.5以下であれば防湿機能低下の恐れが少ない。特に、0.7以下であれば防湿機能低下の恐れがより少ない。
【0055】
また、本発明のコーティング用組成物における(A)ポリビニルアルコール重合体の量も、本発明の効果が奏される範囲内であれば特に限定されないが、組成物全量に対し、固形分換算で30〜98重量%、好ましくは60〜90重量%程度である。約98重量%以下であると、生産性の改善の点で好ましい。また、約30重量%以上であれば、防湿機能低下の恐れが少ない。
【0056】
また、本発明のコーティング用組成物における(B)セルロース系高分子の量も、本発明の効果が奏される範囲内であれば特に限定されないが、組成物全量に対し、固形分換算で2〜70重量%、好ましくは10〜40重量%程度である。約2重量%以上であると、生産性の改善の点で好ましい。また、約70重量%以下であれば、防湿機能低下の恐れが少ない。
【0057】
本発明の組成物の形態も特に限定されない。例えば、(A)及び(B)からなる組成物であってもよいし、(A)及び(B)を溶媒に添加して得られる組成物等であってもよい。つまり、(A)、(B)、及び溶媒を混合した組成物等であってもよい。溶媒としては、例えば、水、親水性有機溶媒、またはそれらの混合物が挙げられる。親水性有機溶媒としては、例えばエタノール等のアルコール、グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコール、等が例示できる。水と親水性有機溶媒の混合割合は特に制限されず、適宜設定できる。例えば水:親水性有機溶媒の重量比1:0.1〜10程度が例示できる。一般に医薬、動物薬、農薬、肥料、食品等への実際の適用にあたっては、コーティング組成物は、水性溶液、水性分散液、有機溶媒溶液あるいは有機溶媒分散液の形態で散布、噴霧等の手段によりコーティングに供されるのが好ましい。
【0058】
特に制限されないが、溶媒並びに(A)及び(B)の重量比は、(A)及び(B)の合計重量を1とした場合、溶媒は好ましくは5〜50程度、より好ましくは10〜40程度が例示できる。
【0059】
また、本発明のコーティング用組成物には、本発明の効果が奏される範囲で(A)及び(B)以外の他の成分を含むこともできる。
【0060】
他の成分としては、凝集防止剤、色素、可塑剤、滑沢剤、矯味剤、香料などが挙げられる。例えば二酸化チタン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、各種食用色素、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、ステビアなどの各種高甘味度甘味料、ミントフレーバー、各種フルーツフレーバー、チョコレートフレーバー、コーヒーフレーバー、紅茶フレーバー、バニラフレーバーなどの各種香料類、各種アミノ酸類、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、グリコン酸、酒石酸、酢酸、無水酢酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、アスコルビン酸、アルギン酸、グルコン酸、ニコチン酸などの各種有機酸やそれらの塩などが例示でき、これらを1種又は2種以上組合せて使用しても良い。
【0061】
本発明のコーティング用組成物のコーティングの手法としては、塗布が挙げられる。具体的には、例えばスプレー、浸積等により塗布することができる。中でも、スプレーにより塗布するのが好ましい。スプレー塗布は、公知の装置を用いた方法により行い得る。例えば、パンコーティング装置、ドラムタイプコーティング装置、流動コーティング装置による通常の方法のいずれでもよい。これらは通気式のコーティング装置であるのが好ましく、一般に汎用される流動層コーティング装置、転動流動コーティング装置、錠剤コーティング装置、全自動式コーティング装置などを、適用対象となる剤形によって適宜使い別けることができる。流動層コーティング装置としては、具体的には、噴流層コーティング装置が挙げられる。
【0062】
本発明のコーティング用組成物の適用対象も特に限定されないが、例えば、固形製剤、健康食品、食品等が挙げられる。中でも、本発明は固形製剤のコーティングに好適に用いることができる。
【0063】
固形製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等が挙げられる。
【0064】
例えば、本発明のコーティング用組成物は、錠剤のフィルムコーティングに用いることができる。
【0065】
本発明のコーティング用組成物は、コーティングの付着性を低減し、コーティング速度を高め、コーティング製剤の生産性を向上させることが可能である。更に本発明のコーティング用組成物は、ポリビニルアルコール共重合体からなるコーティング組成物が有する特性も備えており、特に防湿性能に優れる。
【0066】
またさらに、本発明のコ−テイング組成物は、医薬、動物薬、農薬、肥料、食品等の不快臭のマスキング効果を有している。そのような不快臭としては、例えば医薬(例えばL−システイン、塩酸チアミン、メチオニン、消化酵素製剤、各種生薬類)あるいは農薬由来の独特な不快臭あるいは刺激臭、さらには各種食品由来の不快臭(例えば、魚臭、レトルト臭、獣肉臭など)等が挙げられ、こうした臭いの抑制に効果的である。また、医薬、食品等の苦味のマスキング効果も有している。苦味を呈する医薬は特に制限されないが、例えば、アセトアミノフェン、塩酸ピリドキシン、無水カフェイン、クロルプロマジン、エリスロマイシン、フェノバルビタール、塩酸プロメタジン等が挙げられる。さらに、他剤との相互作用が懸念される不安定な医薬、例えば混合によって融点降下を生じるイソプロピルアンチピリンとアセトアミノフェンや、混合によって変色するフェニルプロパノールアミンとマレイン酸クロルフェニラミンなどに対して、本発明のコ−テイング組成物を適用することにより、そのような相互作用が防止できる。
さらにまた、本発明のコ−テイング組成物は、酸素透過防止効果をも有するので、酸化分解を受けやすい医薬(例えばアスコルビン酸、ビタミンA、ビタミンEなど)、動物薬、農薬、肥料、食品のコーティングに有用である。
【0067】
(4)コーティング製剤
本発明のコーティング製剤は、固形製剤等の表面に上記本発明のコーティング用組成物が被覆された製剤である。
【0068】
固形製剤としては、医薬、動物薬、農薬、肥料、食品等の固形製剤が挙げられ、好ましくは日本薬局方第15改正製剤総則記載の固形製剤、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等が例示できる。
【0069】
固形製剤は、製剤学上通常用いられる方法で製造することができる。例えば、錠剤の場合、直接粉末圧縮法、乾式顆粒圧縮法、半乾式顆粒圧縮法または湿式顆粒圧縮法等がある。
【0070】
固形製剤を本発明のコーティング用組成物で被覆する方法も特に限定されず、製剤学上通常用いられる方法で被覆することができる。例えば、パンコーティング法、流動層コーティング法、転動流動層コーティング法等がある。
【0071】
また、本発明のコーティング用組成物の被覆量は、製剤の大きさ等により適宜設定し得るが、コーティング前の製剤重量に対するコーティング用組成物の重量%で、通常1〜100%程度、特に2〜50%程度である。
【0072】
また、本発明の製剤中に充填される医薬品も、本発明の効果が奏される限り、特に限定されないが、例えば滋養強壮保健薬、解熱鎮痛消炎薬、向精神薬、抗不安薬、抗うつ薬、催眠鎮静薬、鎮痙薬、中枢神経作用薬、脳代謝改善剤、脳循環改善剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、胃腸薬、制酸剤、抗潰瘍剤、鎮咳去痰剤、鎮吐剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤、アレルギー用薬、歯科口腔用薬、抗ヒスタミン剤、強心剤、不整脈用剤、利尿薬、血圧降下剤、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、高脂血症用剤、利胆剤、抗生物質、化学療法剤、糖尿病用剤、骨粗しょう症用剤、抗リウマチ薬、骨格筋弛緩薬、鎮痙剤、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療薬、血液凝固阻止剤、抗悪性腫瘍剤などから選ばれる1種または2種以上の成分が挙げられる。
【0073】
また、本発明の製剤には、上記医薬品以外にも、固形製剤に用いられる公知の添加剤、例えば、凝集防止剤、色素、可塑剤、滑沢剤、矯味剤、香料等を添加することもできる。
【0074】
本発明のコーティング製剤は、生産性が向上していると共に、ポリビニルアルコール重合体からなるコーティング液によりコーティングされた製剤の特性も備えており、特に、防湿性能に優れている。また、上述したような効果も備えることができる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例および比較例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら制限されるものではない。
【0076】
1.コーティング用組成物
実施例A
冷却還流管、滴下ロート、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコにポリビニルアルコール(EG05、平均重合度500、けん化度88%、日本合成化学製)175.8g、イオン交換水582.3gを仕込み、常温で分散させた後95℃で完全溶解させた。次いでアクリル酸5.4g、メチルメタクリレート37.3gを添加し、窒素置換後50℃まで昇温した後、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド8.5g、エリソルビン酸ナトリウム8.5gを添加し4時間で反応を終了させた。これを乾燥・粉砕してポリビニルアルコール共重合体(粉末)を得た。以下、当該ポリビニルアルコール共重合体をPVA共重合体とも標記する。当該PVA共重合体は、(ポリビニルアルコール:メチルメタクリレート:アクリル酸)の重量比がおよそ(80:17.5:2.5)である。当該PVA共重合体4.75gとヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5R(登録商標)、信越化学工業(株)製、重量平均分子量35600g/mol)0.25gを62.5gの精製水に溶解させてコーティング液を作製した。なお、用いた当該ヒドロキシプロピルセルロースは、導入されている置換基の割合が、セルロースの全水酸基を100%とした場合、メトキシ基約29%、ヒドロキシプロポキシ基約10%である。
【0077】
実施例B
PVA共重合体の量を4.75gに代えて4.5gとし、HPMCの量を0.25gに代えて0.5gとする以外は、実施例Aと同様にしてコーティング液を作製した。
【0078】
実施例C
PVA共重合体の量を4.75gに代えて4.25gとし、HPMCの量を0.25gに代えて0.75gとする以外は、実施例Aと同様にしてコーティング液を作製した。
【0079】
実施例D
PVA共重合体の量を4.75gに代えて4.0gとし、HPMCの量を0.25gに代えて1.0gとする以外は、実施例Aと同様にしてコーティング液を作製した。
【0080】
実施例E
PVA共重合体の量を4.75gに代えて3.5gとし、HPMCの量を0.25gに代えて1.5gとする以外は、実施例Aと同様にしてコーティング液を作製した。
【0081】
実施例F
PVA共重合体の量を4.75gに代えて2.5gとし、HPMCの量を0.25gに代えて2.5gとする以外は、実施例Aと同様にしてコーティング液を作製した。
【0082】
実施例G
PVA共重合体の量を4.75gに代えて1.5gとし、HPMCの量を0.25gに代えて3.5gとする以外は、実施例Aと同様にしてコーティング液を作製した。
【0083】
実施例H
PVA共重合体4.0gとヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC−L(登録商標)、日本曹達(株)製)1.0gを62.5gの精製水に溶解させてコーティング液を作製した。
【0084】
比較例A
PVA共重合体5.0gを62.5gの精製水に溶解してコーティング液を作製した。
【0085】
比較例B
HPMC(TC−5R(登録商標)、信越化学工業(株)製、重量平均分子量35600g/mol)5.0gを62.5gの精製水に溶解して、コーティング液を作製した。
【0086】
2.コーティング方法
ドラフトチューブ付き噴流層コーティング装置(Grow Max 140 不二パウダル(株)製)を用いて、錠剤径Φ8.1mm、重量195mgの素錠50gにコーティングを行った。
【0087】
コーティング条件は以下のとおりである。
【0088】
給気温度60℃、給気風量0.96m
3/分、排気温度45℃、スプレー空気圧0.08MPa、ドラフトチューブ高さ140mm。
【0089】
3. コーティング速度の評価
実施例A〜Gおよび比較例Aのコーティング液を用いて、上記錠剤にコーティングする際の速度の比較検討を行った。結果を表1に示す。なお、コーティング液が無くなった時点でコーティング終了とした。
【0090】
結果は、下記評価基準に従って目視により判断した。尚、「凝集」とは、錠剤同士が付着し、2以上の錠剤からなる塊が形成された状態をいう。
【0091】
○:錠剤の付着が無く、スムーズなコーティングが可能。
【0092】
△:錠剤がドラフトチューブ内壁に時々付着し、わずかに凝集が起こるか、又は凝集率10%以下である。ここで、凝集率とは、全錠剤の重量のうち、錠剤が2個以上くっついているものの重量の割合を意味する。
【0093】
×:錠剤がドラフトチューブ内壁に次々に付着し、凝集が発生し錠剤が動かなくなるためコーティングが不可能。
【0094】
また、表1において、PVA共重合体:HPVC又はHPCとして記載した比率は、重量比による、PVA共重合体に対するHPMC又はHPCのおおよその比率を示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1の比較例Aに示されるように、セルロース系高分子を含まないコーティング用組成物を用いる場合には、コーティング速度を上げると、錠剤の凝集や装置内への付着が生じ、コーティング速度を上げることが困難であった。
【0097】
これに対し、PVA共重合体とセルロース系高分子を併用したコーティング液を用いた場合には、コーティング時の凝集が抑制され、コーティング速度を速めることができることがわかった。特に、実施例Dでは比較例Aの2倍以上、実施例Fでは比較例Aの3倍以上の速度とすることが可能であることがわかった。
【0098】
比較例Aでは、良好な外観のフィルムコーティング錠が得られるまでのコーティング時間は100分であった。つまり、比較例Aを用いて、錠剤の凝集や装置内への付着が生じないようコーティングを行うため(すなわち良好な外観のフィルムコーティング錠を得るため)には、スプレーするコーティング液速度を抑えなければならず、コーティング終了までに100分程度かかった。
【0099】
一方、実施例において、良好な外観のフィルムコーティング錠を得るまでのコーティング時間は、実施例Bは65分、実施例Dは45分、実施例Fでは30分程度であった。つまり、実施例を用いた場合、スプレーするコーティング液速度を上げても、錠剤の凝集や装置内への付着が生じないようコーティングを行うことが可能であり、比較例Aを用いた場合よりも早くコーティングを終了することが可能であった。なお、上記の各例製造方法の記載からわかるように、コーティングに用いた各例の液量はほぼ同量である。
【0100】
このように、PVA共重合体とセルロース系高分子を併用した本発明のコーティング用組成物を用いる場合には、コーティング錠の生産性を格段に向上させることができることが確認できた。
【0101】
4.コーティング錠の防湿機能の評価
上記実施例A〜H及び比較例A〜Bのコーティング液を用いてコーティングしたコーティング錠について、40℃の乾燥機で2日間乾燥させた後、25℃75%RH(相対湿度)の条件下で保存し、各時間経過後の錠剤の含水率の増加を重量変化より算出した。
【0102】
HPMCの配合量の違いによるコーティング錠の吸湿速度の違いを解析した結果を
図1に示す。また、コーティング錠に含まれる成分の違いによるコーティング錠の吸湿速度の違いを解析した結果を
図2に示す。なお、
図1及び
図2の「△水分量(%)」は、含水率の増加割合を表す。具体的には、乾燥直後の各コーティング錠の重量を100%としたときの重量増加割合を表す。
【0103】
図1に示されるように、本発明の実施例のコーティング液でコーティングされた錠剤は、PVA共重合体を単独で用いた比較例Aのコーティング液でコーティングした錠剤と同等に吸湿速度が遅いことがわかった。更に、
図2に示すように、HPMCに代えてHPCを用いた場合にも、同等に吸湿速度が遅いことがわかった。
【0104】
これから、セルロース系高分子を配合してもPVA共重合体からなるコーティング組成物の持つ優れた防湿機能は維持されることが確認できた。